Dear my cake.
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職員室に帰ると、もう皆帰り支度を始めていた。
「すみません、遅くなって…っ」
わたしは急いでデスクに向かう。
バッグを取り出したついでにチョコの入った大きな袋と、小さなバッグがデスクに乗る。
そう、宛先もメッセージもないチョコレート。
戸惑う、折、原田先生がわたしに声を掛けた。
「そういや、春ちゃんはチョコレート作ったか?」
びくっとして、わたしはあからさまに自分のチョコを隠した。
「………ええと」
どうしようか、ああ自分で食べるくらいならいっそ原田先生に渡しちゃったほうがいいかも知れない。
わたしは息を吸って、チョコを差し出そうとした―――
が。
「原田、百瀬に言い寄ってんじゃねえ」
わたしたちの間に割って入ったのは、土方先生だった。
「…くだらねえ」
不機嫌そうに、彼は言う。
わたしは―――
「………くだらなくなんか、ないです」
悲しかった。
「百瀬……?」
「好きな人を喜ばせたいのって、くだらないんですか…?」
好き、
それ以上に、
笑ってくれたら。
「……失礼します…っ」
わたしは土方先生の横をすり抜けて玄関へ走った。
―――朝会ったときは、頑張れるかと思ったのにね。
酷い様だと苦笑して、靴を引っ張り出す。
「春…っ!」
玄関を出たところで呼び止められて、それでも構わず走ったらぐいっと手が引かれた。
「待て……!」
薄着のわたしたち。
きっと今の顔と同じ、ケーキもぐちゃぐちゃだ。
「送る」
不意を突いた柔らかい言葉に、わたしは困惑した。
振りほどこうとする手は痛いくらいに掴まれていて離せない。
「………やだ」
―――ゴミ箱に捨てるような人だったら好きにならなかったに違いない。
だから、
「やだ……っ」
余計に苦しい。
「………いいから来い、その顔じゃ電車にも乗れねえだろ」
抱き締めるなんて卑怯だ、ちゃんと嫌いになってからにして。
たった一時彼の熱を感じながら、わたしは目蓋を閉じた。
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