Dear my cake.
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まったく自分の身が恨めしい。
結局昨晩はチョコレートケーキを作って、今朝も同じ時間の電車に乗ってきてしまった。
ビターチョコレートで作ったケーキ。
きっと甘ったるいものは好きじゃないから、なんて、渡せもしないくせにそんなことを考えてしまった。
今日も会えますように。
今日は会いませんように。
裏腹な二つの願い事を心の中で反芻しながら玄関へ向かう。
「………おう」
そこに、煙草を咥えた彼は立っていた。
わたしは呆然と彼を見上げて、
そして慌てて頭を下げた。
「おっ…おはようございます…っ!」
無意識に小さな紙バッグを後ろ手にする。
「…ああ、今日も早えな」
わたしはマフラーに顔を埋めて、頷く。
「―――行くぞ」
渡すならきっと今しかない。
今しか、ないのに…
「……はい」
わたしはただ俯いて、その背中を追った。
ゆっくりと靴から足を引き抜く。
その瞬間―――
ドサドサドサッ
物凄い音が背後で鳴り響いた。
「なっ……!?」
急いで振り返ると、そこには―――
雪崩。
赤とピンクの箱の雪崩。
その真ん中に土方先生がいる。
「……うわぁ」
思わず溜め息が口を突いた。
漫画の中の世界かと見紛うような、典型的モテモテ先生の図に……
「………ふっ」
わたしは思わず吹き出してしまった。
少し胸が痛む。わたしのチョコなんか出る幕なしだ。
「土方先生、モテモテですね―――」
そう言ってわたしも靴箱を開けた、
そのとき。
「っわ!?」
いきなり飛び出してきたものを支える間もなく、ころんと床に落ちる、それ。
「……百瀬だってモテんじゃねーか」
あまりにびっくりして言葉も継げない。
土方先生ほどではないけれど、多すぎるプレゼントだった。
わたしは箱の一つに手を伸ばして、小さなカードを裏返した。
―――担任しているクラスの男子からだ。
これは、隣のクラスの男子。
これはわたしのクラスの女子。
「………すごい」
自分のチョコのことも忘れて、わたしはそれを抱き抱えた。
「逆チョコに友チョコ、かあ…うれしい……」
だが、そんなわたしに対して土方先生はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「喜んでどーする。面倒が増えるだけだ」
「…え?」
「毎年面倒なんだよ、いちいち片っ端から突っ返すのも。要らねえって言えば泣きやがるし駄々こねやがる」
きゅっと胸の奥が痛んだ。
「……それ、受け取らないんですか?」
「当たり前だ、チョコレートなんざ甘ったるくて食いたくもねえ。…ちょっと待ってろ、袋持ってきてやる」
土方先生は平然と職員室へ向かって歩いていく。
――――そう、か。
わたしは自分が作ったケーキの入ったバッグの紐を握り締める。
そして手に持った一つのメッセージカードをそっと見る。
『好きです』
自分には言えないあまい言葉が、書かれていた。
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