お砂糖とS
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「………沖田、さん」
火鉢に縁側、お決まりの場所。
「ん、なあに?」
忘れたわけでもありはしないのに、彼はそうやって白々しい仕種で全てを言わせようとする。
春は大きく息を吸って、後ろ手に隠した包みを取り出した。
朱染めの小さな包みに、自分の頬も赤く染まる。
「…くれるの?」
碧色の目に真っ直ぐ見つめられて、恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
そっ、と沖田の手が伸びた。
―――が、受け取る手前でその手は止まる。
「…そういえば」
どこまでも意地悪なひと。
「理由、教えてくれるんだよね?」
くすっと笑って覗き込まれ、それ以上目が離せなくなる。
「―――理由は」
もう一度、大きく息を吸った。
「あなたが、好きだから、です」
ふっ、と空気が流れた。
気がついたらもう何も見えなくて。
揺れる髪、愛おしくて仕方ない。
「あのっ…チョコレートじゃ、ないですけど…っ!」
「うん」
「わたし、沖田さんが好きだから…」
「……うん」
きゅっときつく抱いて、沖田はゆっくり身体を離す。
「君の気持ち、喜んで受け取るよ」
大きな手が器用に包みの紐を解いて現れた。
薄桃色の花を象った饅頭を、かぷり。
そのままくちびるに、こころも食べられてしまいそう。
「…ん、甘い」
惚けて見つめていると、悪戯っぽい視線と目が合う。
「君も味見してみる?」
こくり、頷く前に。
ちゅっ、と唇が重なった。
「……ん、んっ…」
夢中で貪る甘さ。
「………美味しい?」
「……あま、い……」
「君の方がずっと甘いけど、ね」
また一口、彼は頬張る。
ぴったりとくっついた身体が温かい。
「それじゃ未来の君は」
離れないで、ずっとそばにいて。
「ちょこれーと、毎年僕にくれてるかな」
―――そうやって、悲しい約束。
じわりと涙が込み上げてきて、春は慌てて俯いた。
「…冗談。僕が生きてるうちに、鉄のかたまりは飛びそうにないし」
笑おうとした口が中途半端にゆがむ。
「でも、そうだな、生まれ変わったら」
見えないふりで空を仰ぐ、
いつか言っていた。
空を見るのが好きだって。
「ぜんぶ僕に頂戴ね」
堪えきれなくなった涙が落ちた。
*end