お砂糖とS
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はあ……」
バレンタインまで、あと一週間。
チョコレートに代わるものを考え、春の口からは独りでに溜め息が出る。
「どうした春、疲れたのか」
今日の巡察は斎藤と一緒、彼は気遣わしげに振り返った。
「いえ、そうじゃないんですけど…ちょっと考え事を」
「…そうか」
彼は言葉少なに言うと、ふいと視線を逸らした。
その先には一軒の茶店がある。
「あんた、あの店の娘と仲が良かったな」
「はい…?」
「女同士ならば話も弾もう。俺は向こうを見回ってくる」
「あ…」
然り気無く気の利く斎藤に、春は心から感謝した。
「ありがとうございます!」
「日暮れ時には迎えに来る」
彼の背中に一礼して、春は茶店へ駆けた。
「おいでやす……って、あら、春はんやないの!」
暖簾をくぐった途端、明るい声が名を呼んだ。
この茶店の一人娘の百瀬だ。
人懐っこい娘で、春が女だと一発で見抜かれて以来仲良くしている。
彼女はすぐさまお茶と団子を二人分持って、春より先に椅子へ腰を下ろした。
「今日はどないしたん?またあの旦はんのことで悩んではるの?」
彼女は沖田への気持ちに目敏く気づいていて、よくガールズトークの相手になってくれる。
「うん、まあ………あのね、」
春はお団子を一つ頬張って話しはじめた。
在所で手作りのお菓子を好きな人に渡す習慣があること。その材料が京では手に入らないこと。
「ほう、なんぎやなぁ」
百瀬はくるくると表情を変える。
「やけどそないに悩むことあらしまへんえ」
ぱっと笑顔が咲いた。
「だいじなんは気持ちやろ?どないなお菓子でも、喜んでくれるとちゃうんかなぁ」
「そう…かな?」
「せやよ!せやさかい、うちが作り方教えたる」
「うん……って、え!!?」
―――かくして、十三日。
春はこっそりと百瀬の茶店に出入りすることになった。
</font>