お砂糖とS
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はあっ、と吐く息が白く烟る。
「―――もう二月か」
隣を歩く沖田がぽつりと漏らした言葉に春は頷こうとして、
そして。
「………なにしてるの春ちゃん」
金魚のように口をぱくぱくさせて固まった。
<body background="http://id11.fm-p.jp/data/357/meltk1ss/pri/5.gif">お砂糖とS
―――二月。
『こっち』に来てから早一年半……
去年は忙しさにかまけてすっかり忘れていたが、たった今の沖田の言葉で大変なことを思い出してしまった。
二月と言えば……
バレンタインだ。
「………春ちゃん、聞こえてる?突っ立ってるなら置いてくけど」
「あっ……はい!」
元いた世界、つまり未来に帰るための手がかりを探すという名目で巡察に同行させてもらっている真っ最中。
しかし思い出してしまったからには気もそぞろである。
バレンタイン。
好きな男の子にチョコを渡して気持ちを伝える日。
でも尊皇だとか攘夷だとか騒いでいるこの時代に、バレンタインなんてあるはずない。
ないけど……っていうか、チョコレート自体ない。
ないんだけど………
「ちょっと、春ちゃん。さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」
「…沖田さん、ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん、なに?」
「女の子が年に一度、茶色い甘いものをくれる日って、知ってます?」
異国の単語を口にしないように気をつけながら、春は大真面目で問う。
すると沖田はぷっと吹き出した。
「あはは、なにそれ。そんなのあったら恐いよ」
「……はあ……」
「君のいた『国』では、あったの?」
事情を知る幹部の面々は、春のいた時代を『国』という。
「はい…大切な日なんです」
やや表情を曇らせながら答えると、沖田は少しだけ目を細めて。
「………帰ったらまた、君のお伽噺聞かせてよ」
お伽噺、というのは、春のいた未来の話である。
意外にも沖田だけがそれを好んで聞きたがった。
といっても、なんのことはない、テレビや携帯電話なんかの話なのだが。
「…はい!」
それでも面白そうに聞いてくれるのが嬉しくて、寒空の下屯所への帰り道を急いだ。
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