カノジョ。
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知ってほしい、僕のこと。
笑ってほしい、僕だけに。
いつだってそんなことで頭いっぱいなんだ。
<body background="http://id11.fm-p.jp/data/357/meltk1ss/pri/5.gif">カノジョ。
「ねえ、春ー?」
「……ん?」
聞こえた彼女の名前に、危うく足が止まりそうになった。
「ほら、今月の運勢1位だって!」
「わ、ほんとだー!」
追い抜かしていく、小さな肩。
ふわりと髪が靡いた。
目で追う、もう何度見たかもわからない後ろ姿にほんの少し胸が熱くなる。
「―――沖田先輩っ」
けれどすぐに違う声に名前を呼ばれ、一瞬でお決まりの作り笑いを顔に貼り付けた。
振り向けば二年生の女子が嬉々として集まっていた。
「先輩、おはようございます!」
「ん、おはよう」
先輩という肩書きだからなのか何なのか、彼女たちは姦しく沖田を囲んで頬を上気させる。
中には二年生の女子で一番可愛いと噂される子もいた。
だが、意識はずっと先に向いている。
あの子が振り返ってくれないだろうか、ただそれだけを気にしてしまう。
――――――――――――――――――――
「ねえ、春ちゃん」
「わっ!?」
いちばん廊下側の後ろの席の彼女は、声を掛けるなり相変わらず新鮮なリアクションをした。
「ちょっと、そんな驚くことないでしょ」
「沖田せんぱい…」
頬に赤い線がついている。
生真面目な顔を作っても、居眠りをしていたことがバレバレだ。
「……なんの用ですか?」
ふいと顔を背けながら、春は訊いた。
「あ。なんかヤな反応。やっぱりやめようかな」
「なっ…そんなことないですから!何の御用ですか?」
慌てて取り繕う姿にぷっと吹き出して、沖田は水色のノートを差し出した。
「これ。」
表紙に書かれた『古典』、『春』、という文字。
彼女と知り合ったのは、こんな些細なことがきっかけだった。
選択科目の教室の席に忘れた教科書。
恐る恐る三年の教室を覗いて届けてくれたのが彼女で、すぐに惹かれた。
根が真面目なのか、それ以来わざと机の中に忘れ物をしては怒りながらも届けてくれる。
反面、少し抜けているのか、今日のように彼女が忘れ物をすることもあり。
「あ、ありがとうございます!」
「いーよ、お互い様だしね」
そんなときは唯一話すきっかけができた。
「……あ、それと」
「はい?」
「これ、あげる。春ちゃんにそっくりじゃない?」
沖田は眠たそうな顔をした猫のストラップを春の前にぶら下げた。
両手でそれを受け取ってからまじまじと眺めて、彼女は赤くなる。
「そっ……そっくりじゃありません!!」
「えー?似てると思うんだけど。……あ、じゃあまたね」
「ちょ、沖田先輩っ!」
ただこんな毎日が幸せで、もう少しだけ距離が縮まったらと願って。
願っていた。
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