第一章 ドールショップ プティ・ロマラン

ウルフの告白からしばらく経ったある日の事。
ヌイ子はお気に入りのダンボール箱の中に入り、本を読んでいた。
そこに、突然窓ガラスがガタガタと激しく揺れる音が響いた。

「きゃっ……!」

窓の外には大きなカラスが二羽、羽を広げてしつこくガラスをつついている。
ヌイ子はカラスが大の苦手だった。黒い羽と鋭い目が、昔から彼女を怯えさせる。
思わず体を縮こめ、耳を倒して後ずさった。

その瞬間。

「グルルルル……!!」

低い、獰猛な唸り声が店内に響き渡った。
ウルフが素早くヌイ子の前に飛び出し、窓に向かって牙を剥き、毛を逆立てて威嚇した。

「ヨルナ……!クルナ……!!タチサレ……!!!」

その迫力に、カラスたちは一瞬ひるみ、慌てて羽ばたいて飛び去っていった。

屋根裏部屋が静かになる。

ウルフはまだ少し息を荒げながら、ゆっくりとヌイ子のほうを振り返った。

「ヌイ子……ブジ、ヨカッタ……オレ…ヌイ子……スキ!ズット……ソバデ……マモル……」

ヌイ子はしばらく黙ってウルフを見つめていた。
いつもはただのうるさい犬だと思っていた彼が、こんなに真剣に自分を守ってくれた。
尻尾はまだ少し震えていて、耳も恥ずかしそうに倒れている。
それでも、彼女の前に立ちはだかった姿は、頼もしく見えた。

「……ふん。少しだけ、見直したわ」

ヌイ子はそっと視線を逸らしながら、小さな声で呟いた。頰がほんのり桜色に染まっている。

「…………ありがと。」

更に小さな声で、一言。

ウルフの耳がピクッと動き、尻尾がぱたぱたと勢いよく動き始めた。

「ヌイ子……!」

ウルフが感極まって抱き着くのを、スッと回避するヌイ子。
だが、その口元には、ほんの少しだけ柔らかい笑みが浮かんでいた。

「あ、あのね……ウルフ、すっごくかっこよかった!まるで、この絵本に出てくる王子様みたい!」

一部始終を見守っていたルイベルが、絵本を持ちながらぱたぱたと尻尾を振ってウルフの元へ駆け寄る。

「ちゅう?何があったでちゅかー??」

ちゅー子はお絵描きに夢中になっていたせいか、よく分からなそうにポカンとしていた。

「……皆、騒がしいわね。あんたらには関係ない事よ。」

ヌイ子は顔を赤らめて誤魔化すように言う。

「皆ぁ〜〜、クッキーが焼きあがったわよ♪」

ローズマリーが屋根裏部屋のドアを開け、焼きたての良い香りが漂うクッキーを運んできた。
その後、皆でテーブルを囲み、ぬいぐるみ達の暖かなティータイムが始まった。

こうして、動くぬいぐるみ達が暮らすドールショップでは、不器用なウルフと、クールなヌイ子の絆が、ゆっくりと…けれど確かに深まっていった。
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