第一章 ドールショップ プティ・ロマラン
ドールショップの朝は、いつものように穏やかに始まった。ローズマリーが淹れる紅茶の香りが店内に漂い、ヌイ子とちゅー子がテーブルを囲む。そんな日常に、新たな「仲間」が加わろうとしていた。
「おはよう、ヌイ子、ちゅー子。今日は新しい子が来るわよぉ、ふふっ、楽しみねぇ!」
ローズマリーが目を輝かせて言うと、店の奥から何かがモゾモゾと動く音が聞こえてきた。現れたのは、大きな耳と長毛が特徴的なチワワのぬいぐるみ、ルイベルだった。だが、彼の頭には茶色の紙袋が被さっていて、その表面にはマジックで笑顔の絵が描かれている。
ルイベルは紙袋の中で少し震えながらも、陽気な声で挨拶した。
「やあ、ハッピースマイルーマンだよ☆ みんなに笑顔を届けるスーパーヒーローさっ!」
別人格を演じることで、彼は臆病な自分を隠して堂々と話せるのだ。
「何?その変なキャラと紙袋は」
ヌイ子はクールに眉を寄せ、紅茶を手に持ったままルイベルを一瞥する。だが、ちゅー子は目をキラキラさせて飛び跳ねた。
「わぁ、ハッピースマイルーマンかっこいいでちゅ!ちゅー子、友達になりたいでちゅ!」
「ふふっ、ルイベルったら可愛い子ねぇ!そのままでも十分素敵なのに!」
ローズマリーが頬を染めて近づくと、ルイベルは紙袋の中でさらに縮こまる。だが、その時、ちゅー子が無邪気に手を伸ばした。
「袋の中見たいでちゅー!」
ちゅー子に紙袋をパッと奪われ、ルイベルの中身が露わになる。大きな耳がピンと立ち、長毛がふわっと広がる可愛らしい姿——だが、彼は顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「う、うわぁ…!見ないで、見ないでよぉ…!」
ルイベルは両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。視線が一斉に自分に集中するのを感じ、胸が締め付けられる。みんなの視線が怖い。優しい声さえ、今は針のように刺さる。
彼は突然立ち上がり、紙袋を握りしめたまま屋根裏部屋の奥へと全力で駆け出した。
「ルイベル!?」
「待ってでちゅー!」
ローズマリーとちゅー子の声が背中に追いかけてくるが、ルイベルは振り返らずに逃げ続けた。木馬や積み木の隙間をくぐり抜け、本棚の隙間に入り込み、ついに部屋の隅の暗がりに身を隠した。
「やっぱり……僕みたいなのは、みんなの前に出ちゃダメだったんだ……」
小さな声で呟きながら、彼は膝を抱えて震えていた。
その晩、店が静まり返った頃。
ローズマリーはそっとルイベルの隠れている場所へ近づいた。手に持っているのは、色とりどりの布で作った小さなキッズテントだった。
「ルイベル……ごめんね、怖がらせちゃって。今日はもう大丈夫よ。ほら、これを使ってみない?」
テントを広げると、中は魔法のように輝いていた。
天井部分にはキラキラした星型のシールと小さなLEDライトが散りばめられ、まるで本物の星空のように瞬いている。柔らかなクッションが敷かれ、優しい色合いの絵本が何冊か積まれ、ふわふわの毛布まで用意されていた。
狭くて、温かくて、誰にも見られずにいられる——まさに箱入りの彼にぴったりの、安心の空間だった。
ルイベルは最初、テントの入り口でためらっていたが、ローズマリーが優しく背中を押すと、そろそろと中に入った。
星の光が彼の長い耳を照らす。クッションに顔を埋めると、ふわりとラベンダーの香りがした。
「……ここ、すごい……」
小さな声で呟くルイベルに、ローズマリーは微笑んだ。
「ゆっくり休んでね。明日になったら、またみんなで一緒に過ごしましょう。」
ローズマリーがテントの入り口を優しく閉めると、ルイベルは星空の下で初めて、ほっと息をついた。
涙が一粒、クッションに落ちた。でも、それは少しだけ温かい涙だった。
「ありがとう、ローズマリーママ」
次の日の午後。
いつもの紅茶の香りが屋根裏部屋に広がる中、ヌイ子とちゅー子がテーブルでお茶会を始めていた。
すると、キッズテントの入り口が小さく開き、ルイベルが顔を出した。
耳を少し倒し、毛をふわっとさせながら、けれどしっかりと自分の足で立っている。
あの紙袋はもう被っていなかった。
「えっと……あの……」
声が震える。それでも彼は一歩、また一歩とテーブルに近づいた。
「ルイベル!」
ちゅー子が目を輝かせる。
ヌイ子は無言で紅茶のカップを一つ、彼の席に置いた。
ルイベルは頰を赤らめながらも、勇気を出して椅子に座った。
「ぼ、僕……まだ怖いけど……みんなと、友達になりたい……。お、お茶会……混ぜてもらっても、いいかな……?」
その言葉に、ちゅー子が「やったでちゅー!大歓迎でちゅ!」と飛び跳ね、ローズマリーは優しく目を細め、ヌイ子も小さく頷いた。
星空のテントで過ごした一夜が、彼の小さな心に少しの勇気を与えてくれたのだ。
こうして、泣き虫天使ルイベルは、ゆっくりと……けれど確かに、箱入りドールの世界に溶け込んでいった。
「おはよう、ヌイ子、ちゅー子。今日は新しい子が来るわよぉ、ふふっ、楽しみねぇ!」
ローズマリーが目を輝かせて言うと、店の奥から何かがモゾモゾと動く音が聞こえてきた。現れたのは、大きな耳と長毛が特徴的なチワワのぬいぐるみ、ルイベルだった。だが、彼の頭には茶色の紙袋が被さっていて、その表面にはマジックで笑顔の絵が描かれている。
ルイベルは紙袋の中で少し震えながらも、陽気な声で挨拶した。
「やあ、ハッピースマイルーマンだよ☆ みんなに笑顔を届けるスーパーヒーローさっ!」
別人格を演じることで、彼は臆病な自分を隠して堂々と話せるのだ。
「何?その変なキャラと紙袋は」
ヌイ子はクールに眉を寄せ、紅茶を手に持ったままルイベルを一瞥する。だが、ちゅー子は目をキラキラさせて飛び跳ねた。
「わぁ、ハッピースマイルーマンかっこいいでちゅ!ちゅー子、友達になりたいでちゅ!」
「ふふっ、ルイベルったら可愛い子ねぇ!そのままでも十分素敵なのに!」
ローズマリーが頬を染めて近づくと、ルイベルは紙袋の中でさらに縮こまる。だが、その時、ちゅー子が無邪気に手を伸ばした。
「袋の中見たいでちゅー!」
ちゅー子に紙袋をパッと奪われ、ルイベルの中身が露わになる。大きな耳がピンと立ち、長毛がふわっと広がる可愛らしい姿——だが、彼は顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「う、うわぁ…!見ないで、見ないでよぉ…!」
ルイベルは両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。視線が一斉に自分に集中するのを感じ、胸が締め付けられる。みんなの視線が怖い。優しい声さえ、今は針のように刺さる。
彼は突然立ち上がり、紙袋を握りしめたまま屋根裏部屋の奥へと全力で駆け出した。
「ルイベル!?」
「待ってでちゅー!」
ローズマリーとちゅー子の声が背中に追いかけてくるが、ルイベルは振り返らずに逃げ続けた。木馬や積み木の隙間をくぐり抜け、本棚の隙間に入り込み、ついに部屋の隅の暗がりに身を隠した。
「やっぱり……僕みたいなのは、みんなの前に出ちゃダメだったんだ……」
小さな声で呟きながら、彼は膝を抱えて震えていた。
その晩、店が静まり返った頃。
ローズマリーはそっとルイベルの隠れている場所へ近づいた。手に持っているのは、色とりどりの布で作った小さなキッズテントだった。
「ルイベル……ごめんね、怖がらせちゃって。今日はもう大丈夫よ。ほら、これを使ってみない?」
テントを広げると、中は魔法のように輝いていた。
天井部分にはキラキラした星型のシールと小さなLEDライトが散りばめられ、まるで本物の星空のように瞬いている。柔らかなクッションが敷かれ、優しい色合いの絵本が何冊か積まれ、ふわふわの毛布まで用意されていた。
狭くて、温かくて、誰にも見られずにいられる——まさに箱入りの彼にぴったりの、安心の空間だった。
ルイベルは最初、テントの入り口でためらっていたが、ローズマリーが優しく背中を押すと、そろそろと中に入った。
星の光が彼の長い耳を照らす。クッションに顔を埋めると、ふわりとラベンダーの香りがした。
「……ここ、すごい……」
小さな声で呟くルイベルに、ローズマリーは微笑んだ。
「ゆっくり休んでね。明日になったら、またみんなで一緒に過ごしましょう。」
ローズマリーがテントの入り口を優しく閉めると、ルイベルは星空の下で初めて、ほっと息をついた。
涙が一粒、クッションに落ちた。でも、それは少しだけ温かい涙だった。
「ありがとう、ローズマリーママ」
次の日の午後。
いつもの紅茶の香りが屋根裏部屋に広がる中、ヌイ子とちゅー子がテーブルでお茶会を始めていた。
すると、キッズテントの入り口が小さく開き、ルイベルが顔を出した。
耳を少し倒し、毛をふわっとさせながら、けれどしっかりと自分の足で立っている。
あの紙袋はもう被っていなかった。
「えっと……あの……」
声が震える。それでも彼は一歩、また一歩とテーブルに近づいた。
「ルイベル!」
ちゅー子が目を輝かせる。
ヌイ子は無言で紅茶のカップを一つ、彼の席に置いた。
ルイベルは頰を赤らめながらも、勇気を出して椅子に座った。
「ぼ、僕……まだ怖いけど……みんなと、友達になりたい……。お、お茶会……混ぜてもらっても、いいかな……?」
その言葉に、ちゅー子が「やったでちゅー!大歓迎でちゅ!」と飛び跳ね、ローズマリーは優しく目を細め、ヌイ子も小さく頷いた。
星空のテントで過ごした一夜が、彼の小さな心に少しの勇気を与えてくれたのだ。
こうして、泣き虫天使ルイベルは、ゆっくりと……けれど確かに、箱入りドールの世界に溶け込んでいった。
