第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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(※ スノウ視点)
私が目を覚ますとそこは牢屋の中だった。
「…???」
何故か体中が痛いし、怠いし、重く動かせない状態である。
更に頭にハテナを思い切り浮かべたところで私は状況が読めず、暫く呆然としていた。
確かアーサーに小さな銃を向けて…撃った所までは覚えている。
ということは、私は〈赤眼の蜘蛛〉に負けてしまい、ここに閉じ込められてしまったのだろうか?
何にせよ、まずは体を動かすところからだろうか。
「…いてててて……」
体の末梢が痛い。
え、確か…アーサーに腹部をやられたと思ったけど、そこより明らかに体の末梢の方が痛い。
「え、なんでそこ…?」
更にハテナを浮かべて思い出そうと頭を働かせるが……、思い出せないね。
はぁ、と溜息をついて諦めてしまえば急な眠気に襲われる。
さっきまで寝てたのにまた眠くなるなんて。
「ふぁぁぁ……」
私が欠伸をするとガチャッという南京錠の開く音がして、僅かに目を動かす。
そして聞き覚えのある女の人の声がしたんだ。
「起きられましたか?」
「(え、この声……アトワイト…?!という事は…ここは地上軍の軍事施設…!!1000年前に来てたのか!)」
視界の端に映る姿を見て確信を得た。
この姿といい、優しい声音……明らかに1000年前のアトワイトだ。
流石衛生班隊長……私みたいな病人にも優しい。
だけど、そんな病人であるはずの私が牢屋の中とは…一体どんな状況…?
「あぁ、良かった。目が覚めてたのですね。」
「すみません。知らない声がしたものですから声が出なくて…。」
取り敢えず敬語を使っておいて損は無いだろう。
体が動かせないことを詫びると途端に辛そうな顔をした彼女に、再び詫びを入れた。
すると静かに首を振り、笑顔になってくれた。
「そうですよね。急に知らない人の声がしたら驚きますよね。」
そう言って彼女は何故か大きな注射をどこからともなく取り出しては、私に対してとびっきりの笑顔を見せた。
え…、それ何…?
その手に持ってるもの…なに?
「では今からお注射しましょうか!」
「え、あの…。それを、ですか…?」
思わず敬語が取れそうになって、慌てて付け足したが……って、それどころじゃない!
そんな大きな注射、今まで生きてきた中で見たことないんですが?!
アニメや漫画の世界じゃないんだから!!
…いや、ゲームの世界ではあるけどさ…!
そんな事を思っている間にも、彼女は僅かに注射針の先から液体をピュッと出すと笑顔で再び私の方を見た。
そして私の左腕をこれでもかというくらい、注視していた。
「はい、行きますよー。」
「え?あ…、は?」
どこに打とうというのか、彼女は私の左腕目掛けて注射を振り下ろそうとしたので何とかそれを回避しないといけない。
動かない腕を必死に動かして僅かに横へとずらすと注射が思い切りベッドへ突き刺さる。
「あら、だめじゃない。ちゃんとお注射受けないと。」
「すみませんが……、なんの拷問でしょうか……?」
「拷問だなんて、そんな…。ただあなたの体を治そうと思って注射するだけよ?」
「そう思うならその手に持ってるデカい物、下げてくれないかな…?」
「ダ・メ・よ?」
「ハハハ……。」
こうなったら目を瞑って痛みに耐えた方が良さそうだ。
牢屋に入るとこういう扱いなのか…。そうなのか……?
私は諦めて目を固く瞑り、来るべき衝撃に耐える為体を固くした。
「何してるんですかっ!?アトワイト大佐!!」
ふと、聞き馴染みのある声がした。
しかもそれはいつもの彼よりも鮮明に聞こえてきて、咄嗟に1000年前のシャルティエだと判断できた。
ハッと目を見開くと牢屋の中に入ってきた人物がいて、それはやはり私の思った通りの人物だった。
「そんな大きな注射、この子が可哀想ですよ!!?」
「でも治すにはこれを受けてもらわないといけないわよ?」
「だとしても、もっと別の方法もあるでしょう?!それじゃなくたって……!」
シャルティエが説得している姿が意外で、私はその光景を目を瞬かせながら見ていた。
いや、だってこの時代のシャルティエって確か……“才能を発揮できずに苦い思いをしている”って書かれて居たような…?
だからこの時代は勝手に、皮肉屋でよく拗ねるタイプなのかと思ってたからこうやって人を説得するだとかそういう熱い人だとは知らなかったなぁ。
「これすれば早く治るわよ?」
「別の方法でお願いします!!」
「あら、残念。」
その顔は全く残念そうではない…、決して。
引き攣った笑みを浮かべれば、生身のシャルティエが私に近づいて笑顔を見せてくれた。
「スノウさん、だよね?」
「あ、はい。そうです。」
「はは。敬語はいいよ。何か君じゃないみたいだし、よそよそしいからいつものような話し方で話してくれたら嬉しいな。」
「?」
おかしなことを言うものだ。
私の今までの言葉遣いを知っているかのような言い方だ。
それでも私はその提案を受け入れることにした。
「分かったよ。」
「うん、それがいいよ。何だか安心する。」
「え、っと…。君は…」
間違っても初対面で名前を言うだなんて失態を犯さない為にも早いところ名前を聞いておこう。
私がそう疑問を口にすれば、シャルティエ……ここでは生身のシャルティエの事をシャルティエ少佐と呼ぼうか。
シャルティエ少佐はきょとんとした顔で私を見ていた。
そんな可愛い顔をされたら自分の中のオタクが心の中で暴走し始める。
「(可愛すぎか…!そんな可愛い顔をされたら頭を撫でたくなるだろう?!)」
「あー…、っと…。そうだよね、僕達初対面だもんね…?」
「?? 前に会った事あったっけ?」
「あ!ううん、こっちの話…。えへへ。」
頭を掻いて誤魔化した少佐に私は失神しそうになった。……あまりの可愛さに。
剣のシャルティエも面白さを兼ね備えてはいるが、生身だと破壊力抜群だな!
「僕はピエール・ド・シャルティエ。君の事はカイル君達から聞いたよ。大変だったね。」
「あ、カイル達もここに?」
「うん。でも、ここは関係者以外立ち入り禁止にしてるから君の容態はカイル君たちに知らせてないんだ。ものすごく心配されてたよ?何度もここに忍び込もうとしてその度にディムロス大佐に怒られてたなぁ。」
「そっか。」
そうか、皆この時代に居たんだ。
ちゃんと到着して重要人物たちに会ってるようで安心した。
まぁ、向こうには修羅が居るはずだからこの心配も杞憂かな。
「今日も何度ここに忍び込もうとされたことか…。君を一度別の施設に移送しようって話も持ち上がったくらいだよ。」
「と、いうより聞いていいかな?」
「うん?どうしたの?」
「私は何故、牢屋に…?」
一番の疑問だったが、何故私がここに収容されるに至ったか知りたかった。
だって、皆がいるのに何故私だけが牢屋なのだろうか?
「あ、えっと…その…。」
言いづらそうにしている少佐に目を丸くした私だったが視線を、横に居るお腹が真っ黒そうなアトワイトへと向ける。
その視線に気付いた彼女は天使のような笑顔を浮かべて応えてくれた。
「貴女はここにいるシャルティエ少佐に斬りかかったのよ。それで軍事会議にかけられてここに謹慎処分という訳ね。」
「アトワイト大佐…!」
「嘘をついてもきっとこの子なら察してしまうんじゃない?なら本当の事を教えてあげなくちゃ。」
「私、が……シャルティエ少佐を…?」
呆然と呟かれた言葉にシャルティエ少佐が慌てて私を宥めようと言葉を掛けてくれる。
「違うんだ!君は…その…なんていうかな…。カイル君たちから聞いた話では操られていたんだ!」
「え?操られて…?誰に…?」
初耳なんだが…?
それに気絶した後の事を覚えていないし、本当にそうなのかもしれない。
ゲームの中では温厚そうなアトワイトだが、今目の前にいるこのアトワイトが嘘を吐くとも思えない。
シャルティエ少佐は優しそうな感じがしたから、きっと私が傷つかない様に優しい嘘をついてくれるのだろうし…。
「えっと、赤のマナ?ってやつに操られてたらしいんだ。」
「…!!」
あぁ、なるほど…。やってしまったか…。
遂にこの時が来てしまった事を激しく後悔しながら、私はそのまま天を仰いだ。(まぁ、身体が動かせないから視線のみだけど…。)
「……すみませんでした。シャルティエ少佐…。私が…なんということを…。」
「仕方ないよ!君は操られていたんだから。それより僕の方こそごめん。」
「??」
「だって、僕が君を弁護していたら君はここに幽閉されなかった…。僕は何も言ってあげられなかったんだ。」
「それは仕方ないと思うよ。私が上に立つものだったとしても、そう言った人物は牢屋行きにしただろうしね。至極当然な判断だと思う。」
「「!!」」
そんな私の言葉を意外と受け取ったのか、二人は目を丸くしていた。
まぁ、こんな若造にそんなこと言われたら驚くか。
「でも、それでもごめんよ。」
「ふふ。だから大丈夫だって。寧ろ、こうやってアトワイトさんが診てくれてるんだから寛大な処置だと思うよ?いやむしろ贅沢すぎる処遇だね。」
「私が衛生隊の隊長だと知っていたの?」
「だって貴女は(規格外だけど)注射を手にしていたし、これをすれば治るとも言っていた。誰だって貴女が医療関係の人だと想像に難くないと思うけど?」
「…子供だと侮ってはダメね。」
「お褒めに与り光栄ですよ?ミス・アトワイト。」
思ったよりも軍人らしさのあるアトワイトだ。
原作にあったような優しそうなアトワイトもいいが、こちらも中々癖があって味がある。
諦めたように笑顔になるアトワイト大佐は何を思ったのか、その手に改めて大きな注射器を持つ。
そして容赦なく私に突き刺した。
「はいはい。じゃあ、色々話も終わった所で、ファーストエイド♪」
「ちょ?!アトワイト大佐!!」
ちゅー、と液体を注入された感じがしたあと私はすぐに気絶をしていた。
遠くでシャルティエ少佐の叫び声が聞こえた気がした。
その後目を覚ました後は体も動くようになり、自由に牢屋の中を歩き回れるほどまでに回復していたので流石衛生隊長だとも思った。……あの注射は、もう勘弁してほしいが。
そしてこの牢屋に来る人物は粗方決まっていた。
衛生隊長であるアトワイト大佐と、私が斬りかかってしまい怖がられてもおかしくはないはずなのに気さくに話してくれるシャルティエ少佐だ。
食事は決まってシャルティエ少佐が持ってきてくれ、片付けはちゃんと食べたか確認のためにアトワイト大佐が取りに来てくれた。一応罪人ではあるが栄養状況の確認はしたいらしい。
まだ体が痛むところもあるがほぼ完治したと言ってもいいだろう。
それについてはアトワイト大佐が未だに私が嘘をついてると思っていて、何度も痛みの確認だとか悪いところは無いか確認してくるが毎度「無い」と答えるこっちの身にもなって欲しい。
まぁ、それが彼女の優しさなのかもしれないが。
「…貴女、元々小食なの?」
「ん?そうですね。あまり食事は摂りません。というよりここの食事が豪華過ぎるんですよ。」
「そうかしら?ちゃんと栄養バランスが考えられた食事よ?それを残すのは感心しないわ。」
「でしたら、少なめて頂けたら嬉しいですね。その分他の軍の人たちに分けてあげてください。こんな罪人のためにあんなに豪華にする必要はありません。」
「…罪人扱いしてるつもりは無いのよ。ごめんなさい。一応謹慎処分という扱いだけど、部屋が足りないし、元々貴方達は外から来てるみたいだから場所がなくてね…。」
「ふふ。分かっていますよ。ミス・アトワイト。貴女はお優しい方だ。つい意地悪をしてしまいたくなってしまいましてね。」
「あら、最近の子供はませてるのね。」
「……貴女だけですよ。私を子ども扱いするのは。」
相棒も指輪も取り上げられていて心許ない上に、話し相手が居ないのでどうにも意地悪してしまうようだ。
それに、どうも子ども扱いしてくる彼女に私も意地悪したくなるようだ。
「痛むところは無いかしら?」
「無い、と言いたいところですが…毎回聞いてこられるので正直に言うと、まだ倦怠感が抜けきらない感じですかね。」
「やっぱりそうだと思った。あんなに簡単に治る人なんてなかなか居ないのよ。それを聞いたハロルドが貴女の所に押し掛けてきそうになって何度止めたことか。」
「はは、は…。」
あのマッドサイエンティストに目をつけられるなんて…不運以外の何物でもない。
から笑いになってしまった私にアトワイト大佐がくすくすと笑った。
あぁ、そうしていれば彼女も天使なのだが…。
「さあ、子供は寝る時間よ。次は薬を持ってくるからちゃんと飲むのよ。」
「ははは…。相変わらずですね。」
「それはそうよ。貴女と私、年が違い過ぎるもの。」
「…?」
そんなに彼女と年齢が違っただろうか。
公式は確か、彼女の年齢を公開していなかった。
だとしても私とそんなに年齢が違うような見た目には見えない。
しかし女性に年を聞こうものなら……痛い目に遭うのが関の山である。
私はすぐに口を噤み、大人しく彼女を見送った。
その後すぐにシャルティエ少佐がお目見えする。
彼は逆に気さくに話しかけてくれるが、やはりこの時代では苦労しているようで大体は愚痴が主だったが、それでも彼の話を聞くのは楽しかった。
こうやってゲームのキャラクターの話や行動を見ていると心に込み上げてくるものがある。
それはいちプレイヤーとしての性なのか、オタクだからなのか、やはり興味深いものなのだ。
「スノウさん、身体の方は大丈夫?」
「うん、概ね大丈夫だと思うよ?」
「そっか。それは良かった!」
自分の事の様に喜んでくれるシャルティエ少佐に私も笑顔で応えると、少佐はそわそわし始めた。
それに首を傾げると、指を口元に当てシーッと黙る様に言われたので大人しくすると彼は徐ろに口を開いた。
「…実は外に待たせている人たちがいるんです。一度きりの面会だけど、会いますか?体調が悪ければまた今度でも…」
「うーん、なんとなく想像がついたけど…。そうだね。うん、会うよ。皆に会いたかったんだ。」
「ほっ…。そうだよね!じゃあ、今から呼ぶけど…ごめんね?牢屋の中に彼らを入れてあげることは出来ないんだ。」
「それはそうだと思うよ。私は君達、軍の規則を守るよ。」
「うん、ありがとう…。」
少し落ち込んでしまったシャルティエ少佐に牢屋の中から手を出し頭を撫でる。
すると目を丸くする彼に笑顔を向けた。
「君が頑張って上に進言してくれたんだろう?ありがとう、シャルティエ少佐。」
「っ、」
泣きそうな顔で俯くものだから頬に手を当て上を向かせる。
「俯かないで。君はずっと前だけ見ていればいい。その綺麗な顔が俯いてしまっては見えないし、台無しだ。ほら、背筋を伸ばして。」
「う、うん!」
「君は素敵だ。だから今の状態に悲しむ必要はない。君のこれからは明るいのだから。」
「……スノウさんにそう言われるとなんだかそんな気がするんです。ありがとう、スノウさん。」
「うん。その意気だよ。」
そして彼は私に背を向けて外に居るはずの皆を呼びに行ってくれた。
なだれ込むように入ってきた皆に笑いを零しながら迎え入れると、全員泣きながら入ってくるものだから今度は困った顔になってしまった。
「元気そうだね。皆。」
「ごめ゛んな゛ざーい゛!!!」
「ここから出してやりたかったけど出せなくてすまねえぇぇ!!!」
「ふふ、あはは!相変わらずな君達を見て私も心が軽くなったよ。」
シャルティエ少佐は一応監視の命を受けているのか入り口で待機していた。
それでもその顔は優しさに満ち溢れて皆を見ていた。
「…スノウ。」
「ジューダスも元気そうで良かった。風邪を引いてないかい?」
「……それはこっちのセリフだ。」
その声は若干涙が混じっているような声で、俯いている彼の頬に手を当てた。
すると僅かに充血した目をしていて、クマも酷い事から連日寝れていないのだろう事が窺えた。
そのクマをそっと指の腹で撫でながら笑顔で彼を見る。
「………夜更かしは感心しないな?レディ?」
「……馬鹿。」
「…。」
苦笑いでそれを聞き届けて、そっと手を放そうとしたら逆に彼が私の手を掴む。
牢屋から伸ばされた手を逃がさない様に強く強く握りしめてくれた。
「……マナはどうだ?」
「逆に君の方が分かるんじゃないかな?ここに鏡がないから自分の眼の色が分からないんだ。」
「……両目とも綺麗だ。」
敢えて色を言わない彼だったけど、それだけで自分の両目は元に戻っているのだと分かった。
それで私はホッと安心した。
これで彼らを傷つけようものなら……。
「ごめん、皆。どうやら私はやらかしたみたいだね。」
「でも、誰も傷ついてないよ!」
「?? それはおかしい。だって私は、」
そう言って入り口の彼を見ると、彼は慌てて言葉を紡いだ。
「ご、ごめん。説明不足だったね!僕は怪我をしていないんだ。でも、君が僕に対して切り掛かってしまったということが問題になったんだ。」
「あぁ、なるほど。そういうことだったのか。」
「…やはり記憶が…」
「ごめん、全然記憶がないんだ。気付いたらここに居てね…?」
あはは、と笑うと全員が更に俯いてしまった。
失敗したな、と一度視線を逸らせた私だったが、すぐに皆を見る。
「ここでの生活は不自由ないよ。それにほら、見て?怪我も体調も良くなったんだ。これも皆が掛け合ってくれたんだろう?じゃなかったら、軍の施設でこんなに好待遇なことは無いからね。」
「どこまで覚えている?」
「そうだなぁ…。アーサーに銃を撃ち込んだところまでは覚えてるんだけど…?」
「あ、結構前なんだね。」
「まぁ、あんな攻撃を直接受けちゃあ、体が耐えられないよなぁ?」
そして私は事の次第を全て皆から教わる。
時間遡行してから私だけはぐれてしまった事、そして皆がこの軍事施設についた時にはシャルティエ少佐が外に任務に出ていて、私を見つけたという事。
それからシャルティエ少佐の指示で報告に戻った部下の人が会議中に現れ、私らしき人物の報告をしたことで皆が助けに行くと言ってくれたこと。
そして私が〈赤のマナ〉に侵蝕され所謂バーサーカー状態だったことや凍傷で死にかけていたことも聞いた。
「ごめんなさい、あの時移動するしか出来なかったの…。」
「リアラは正しいよ。じゃなかったらエルレイン…彼女が何をするか分からない。だったら過去に逃げてしまった方が安全だ。それに、皆が見つけ出してくれたからこうやって無事だっただろう?…ふふ、そう思うと私も幸運な人間だね?」
「でもよ…。牢屋の中って居心地悪くないか?」
「うーん?そうでもないよ?というか、前世でこういったところで寝るのは慣れているからね。寧ろその場所よりも設備が良くて喜んでいるよ。」
「オレ、絶対にそこから出してもらえるように話してみるから!それまでは…」
「ふふ。待ってるよ?」
カイルの頭を撫でると元気が出たのかようやく全員の顔が上がってくる。
そうするとシャルティエ少佐が恐る恐る話しかけてくる。
「あのー…。そろそろ面会時間が…。」
「「「「……。」」」」」
全員で静かにシャルティエ少佐を睨むものだから、彼が竦み上がってしまった。
もっと皆と話したいけど、カイルが言う様にまた会えるのを信じているから今回はシャルティエ少佐の味方をしようか。
「……。」
ただこの状態の皆を説得するのには骨が折れそうだ。
という事は少し強引だけど…貧血のせいにでもして倒れてみようか?
私は決行すべく、わざとに勢いよく膝を折り頭を押さえる。
それに気付いた皆が血相を変えて牢屋にしがみつき、状態に気付いたシャルティエ少佐が皆をかき分けて近づいてきたのを見て、彼だけに分かる様に舌を出し、ウインクをして合図を送る。
それを見たシャルティエ少佐が目を丸くして僅かに頷いた。
「皆、ごめんけど面会は終わり。あとアトワイト大佐を探し出してくれないかな?彼女を診せないと。」
「わ、分かった!!」
慌てて皆が外に出ていったのを見て、くすりと笑う。
そしてシャルティエ少佐が大きく息を吐いたのを見て余計にくすりと笑った。
「スノウさんってば、策士だね…。」
「君の顔を立たせるためにも、ああしないと帰ってくれないと思ってね。」
「それにしてもすごいよ。急にあんな作戦思いつくだなんて。」
「だって、皆を面会させてくれるのにかなり骨を折ったんじゃないのかい?いくら寛大な処遇とはいえ、私は罪人だ。そうやすやすと上の人たちが許可を出すとは思えなかったんだ。」
「うわぁ、お見通しってやつだ…。でも君は罪人じゃないよ。それだけは言わせて。」
「ありがとう、シャルティエ少佐。」
頬を掻き嬉しそうにするシャルティエ少佐の後ろから声が聞こえる。
「ふん、嘘が下手だな。」
「げ、」
思わず少佐が顔を歪ませ、後ろを振り返る。
そしてジューダスを確認すると慌てふためくようにおどおどし始めるものだから、私が代わりに話しかける。
「やっぱり君には騙せないね?」
「当り前だろう。あんな下手な芝居、餓鬼でも分かる。」
「皆は出ていったけど?」
「あいつらはサル以下だ。」
「ふふ、それはひどい。」
「えっと…なんでここに…?」
「居たらいけないのか?」
「ひっ。」
凄むようにジューダスがシャルティエ少佐を睨む。
目の下のクマが相まって、余計にその凄みが効いている。
「レディ。ここは引いてくれないかな?また会いたいから、余計にね?」
「……分かっている。」
今、余計な問題を起こせば皆とまた会わせてもらえなくなるだろう。
軍の規律は厳しい。それは彼も前世で良く分かっているはずだからこそ、言葉で説得する。
しかし悔しそうに拳を握った彼を見てしまえば、私も心を鬼にすることが出来なくなってしまう。
だから最後に、と彼を呼ぶ。
「レディ。」
「?」
恐る恐る近付いた彼の手を優しく包み込む。
「マナを戻してくれてありがとう、それからごめん。斬りかかって…。」
「……最後のは余計だ。あの状況なら仕方ないだろう。お前も傷つけたくてやった訳じゃないからな。」
「うん、ありがとう。あと、ちゃんと今日は寝るんだよ?レディ。」
「……ふん。」
そっぽを向いてしまった彼の手の甲へと口づけを落とすと、彼は目を丸くした後林檎の様に顔を真っ赤にして途端に手を引いてしまう。
それにくすくす笑えば、恥ずかしさが勝ったのか彼はここから出ていってしまった。
それを一部始終見ていたシャルティエ少佐が感心したように声を上げる。
「はー…。スノウさんってば本当にやり手ですねぇ…。」
「ふっ、お褒めに与り光栄だ。」
「僕も見習いますね。」
「ふふ。逆に楽しみだね。」
そう話していると慌てた様子のアトワイト大佐が入ってきて二人で顔を見合わせる。
そして二人でくすっと笑った後に一応診察をしてもらい、事の経緯を説明しお帰り頂いた。
またしばらくは皆に会えない生活だけど、また会えるって信じているから。
私はまた牢屋の中で一日一日を過ごすのだった。