第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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しゃくしゃく…と新雪を踏む音がする。
「ぶえっっっくしょいっ!!!うぅ…!何で僕がこんな目に…!!」
腕を擦りながら鼻水を垂らし、それでも仕方ないと雪の中を歩く男がいた。
名をピエール・ド・シャルティエ少佐。
その男は近くの軍事基地からの派遣で、辺りの魔物の調査に駆り出されていた。
最近巷で噂になっている、攻撃が通らないという謎の魔物の調査に、だ。
「うぅ…!ツイてない…。僕じゃなくて大佐とかが行けばいいのに…。」
「さあさあ、行きましょう。少佐!」
シャルティエ少佐の後ろには彼の部隊が整列している。
鼻水を垂らしただらしないシャルティエ少佐の後ろにつく形で隊形を取っているのだ。
「君、前に行ってもいいよ…?」
「いえ!私は少佐の後についていきます!」
「あ、そう…。」
上司に忠実な部下のお陰で前を歩く事になったシャルティエ少佐は、その場で盛大な溜息を吐くと前を見据え歩き出す。
しかしその足は何かを確認した後、すぐに止まってしまう。
「どうしましたか?少佐。」
「…あれ!人が倒れてる!!」
必死に降り積もった雪を掻き分け走り出した少佐に慌てて部下達も追いかける。
その少佐の前方には、確かに見慣れぬ服装で雪の中に埋もれ、倒れている人がいた。
全員が顔を真っ青にし、近寄ればそれはあどけなさの残る少女のようでもあり、格好からして男の人にも見えた。
何といっても全員の目を引くのが、その素晴らしいまでの蒼い髪色であった。
「君っ!!大丈夫?!!」
シャルティエ少佐が慌ててその人物を抱き起こすと、体が異様に冷たい事に気付く。
死んでいるかもしれない、と少佐が緊張を滲ませ顔を口元に近付ければ、微かに頬へ風が当たる。
「…!!まだ生きてる!誰か、大佐に通達に行って!“救助者あり!一時帰還する!”、と。」
「分かりました!」
一人の部下が走っていくのを見てシャルティエ少佐は、カバンの中から予備の防寒着を取り出す。
それに倒れていた人物を包み込み、なるべく肌を密着させる。
すると僅かに少女の瞼が震えた。
「……?」
「…!」
シャルティエ少佐は体を強ばらせ、その少女の瞳に目を奪われる。
左目は鮮やかな赤なのに、右目は綺麗な海のような海色だ。
少佐はその二つの違う色に魅入られるような感覚に陥っていた。
「……。(なんて、綺麗なんだろう…。それに何でだろ…?この子を助けなくちゃいけない…、守らないといけない……そんな気がする…。)」
「しゃ…る…」
「っ!!」
僕は名乗ってないのに、何故この人は僕の名前を…?
僕は慌てて声を掛けるがその人は低体温症だからか、今にも気を失いそうだ。こんな寒いところで寝られたら堪ったものじゃない…!
彼女を背負い、部下たちと帰還しようとしたその時だった。
僕達の背後に敵が忍び寄ってきていたんだ。
部下たちが道を切り開こうと武器を手に戦ってくれたが…。
「ダメですっ!当たりません!!」
「何で攻撃が当たらないんだ?!」
「…! これが、例の魔物か…!!」
なんて運が悪いんだろう。
重傷者を抱えながら戦うのは得策じゃない。
それに空を見れば、今にも酷くなりそうな吹雪だ。
目の前が見えなくなる可能性も考えられる。そんな場所で戦うのは命取りだ。
「全員退避!!今すぐ戻ろう!!」
部下たちが警戒しながら魔物の横を通り過ぎる。
しかしその魔物達はまるでこの子に吸い寄せられるようにこちらに向かってきていた。
だって魔物の視線はこの子に注がれていたからだ。
「…こんな所で死なせる訳にはいかない…!!」
僅かに震えているこの子を早く温かいところに連れていかなければ手遅れになる。
僕が意気込んでいると、この子の手が僅かに動く。
「___がすてぃー…ねいる…」
僅かに零れた言葉は聞きなれない言葉だった。
しかしその言葉を言い終えた途端、目の前の魔物が漆黒の風で切り刻まれていく。
攻撃が通らない魔物のはずなのに、何故この子の攻撃は効くんだ…?
それに生身で晶術が使えるなんて…?
この子は一体、何者なんだ…?
尽きない疑問に慌てて首を横に振った僕は、今が好機だとばかりに走り出す。
もう既に行ってしまった部下たちの背中を追いかける様に走っていく僕だったが、途中でこの子にかけていた防寒具が落ちてしまったのに気付いて慌てて戻る。
それを拾おうとした瞬間、ずり落ちるようにこの子を落としてしまい思わず謝ってしまった。
「……。」
僅かに開かれているこの子の瞳は相変わらず赤と碧に染まっていて、その瞳が僕の瞳を捉える。
しかしそんな悠長なことを言う暇も与えてくれなさそうだ。
周りにまた同じ魔物が寄ってきていたからだ。
囲まれてしまったのを確認してしまい、咄嗟にこの子を庇うように抱き締めた後に気付いた。
「(なんで僕、こんなに必死になって…?)」
守るように抱き締めたこの子が身動ぎをして僕から抜け出していく。
まるで最後の力を振り絞る様に武器を手に魔物へ向かっていった。
慌てて止めようと手を伸ばしたが、その子は武器を魔物に振り下ろし転びながらも次の魔物へと武器を翳す。
次々と倒される魔物を信じられない気持ちで見ながら、僕はせめて何か出来ないかと武器を手に攻撃してみるが、魔物の体をすり抜けてしまい、終いには転んでしまう。
「…!」
酷く緩慢な動きで最後の魔物を倒した少女は膝を着いて呆然と足元の雪を見ていた。
僕は慌ててその子を抱きしめて温めようとする。
ガクガクと震えるその子はとても弱々しくて見ていられないくらい弱っているはずなのに、さっき頑張って魔物を倒してくれた。
だからこの子は悪い子じゃないし、きっと敵でもないとそんな事を漠然と僕は思ったんだ。
「ほら、僕の背中に乗って!早く温かいところに行こう!」
せめて僕がこの子に出来るのはそれくらいだ。
凍傷気味の手を温めて、そして優しく声を掛ける。
しかしこの子は何故か苦しそうに唸り始めた。
「うぅ…。」
「あ、痛いよね…?!そうだよね…こんな凍傷しそうな手で戦ったんだから…。」
「うっ、うぅ…!」
左目を押さえ苦しそうにする少女を大丈夫だと背中を摩ってあげる。
こうすれば少しは温まるだろうから。
しかしそれよりも早く、この子を暖炉の前に連れていかないと…!
僕が手を差し出しこの子の手を取ろうとした時、少女は僕の手を振り払って嫌がる素振りを見せた。
「たの、む……、はなれて、くれ…!」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!!今君は、低体温だし凍傷になりかけてる!このままだと死んじゃうんだよ!?」
変わらず左目を押さえ、僕に対して嫌がる素振りを見せる少女を無理にでも連れていこうとするなんて、正直今までの僕なら無かったと思う。
でも、何故か強く思ったんだ。
___この子を助けなくちゃ、って。
武器を手にした少女が苦しそうに白い息を吐き出しながら僕を見る。
その辛そうな顔を見て僕は一気に距離を詰めてその子の手を取った。
「嫌かもしれないけど、ここよりもっと安全なところで休もう?!その方がいいから!ね!」
「うぅ、う…!」
「ほら、だから一緒に行こう?歩ける?ダメそうなら僕が──」
「……君は、……いつの時代でも…たすけて、くれ…るんだね…。」
「……え、」
どういうこと?
僕、この子に会ったことあったっけ?
「────!!」
僕がそうやって思い出している最中、その子が急に暴れ出す。
何かに怯える様に身体を震わせ、恐怖の顔をしていた。
「頼むから…!私から、はなれてくれ…!!!」
途切れ途切れで放たれた言葉は拒絶の言葉。
それでも僕が食い下がらないと分かったからか、その子は手に持っていた武器をガタガタ言わせながら僕へと向けた。
その瞬間、その子は愕然として泣きそうな顔をしていた。
「いや、だ…!!」
まるで何かに耐える様にギュッと目を閉じる少女。
僕は手を広げ、敵ではないことを伝えようとするが、少女は頑なに受け入れてはくれない。
それどころか、少女は錯乱したように僕に武器を翳してきた。
慌てて僕は持ち前の武器で防御の姿勢を取る。
鍔迫り合いになるかと思われたが、それよりも先に少女の武器がガタガタと言わせて離れていく。
「うっ!あぁっ!!!」
左眼を押さえ、そして次に武器を持った右腕を左手で押さえていた。
それは僕へ攻撃しないようにしている行動にも見えた。
かと言って、それを震える手で押さえているので頼れるはずもない。
少女は僕へ再び武器を振り下ろした。
「くっ…!?」
そんな時、背後から聞き慣れた声がして思わず体を強ばらせてしまった。
「シャルティエ!その子から離れなさい!!!」
「!!」
ハロルドの声だ。
僕は咄嗟にその命令に従い、少女から離れた。
すると僕の横に並ぶように見知らぬ人物……、それも複数人を連れ立ったハロルドが並んだ。
「は、ハロルド?!」
「説明はあとよ!!あの子をどうにかするんでしょ!?早くしなさいよ!」
ハロルドがほかの人たちを見てそう怒鳴りつけている。
そして最初に少女の前に躍り出たのは、仮面をつけた怪しい男だった。
「スノウっ…!!」
「うぅっ、あ、うぐ…!!」
「まずい。もうあそこまで進行してるのか…!!」
そう言うと仮面の男は腰に下げていた武器を取り出し構えを取る。
それを見た僕はあの子と仮面の男の間に立ち、両手を広げた。
「…!! 何してんのよ、バカ!!」
「待ってくれ!この子は何もしちゃいない!!」
「あんた!さっき襲われてたじゃない!!」
「そう、だけど…。でも、この子の意思じゃない気がするんだ!!」
ハロルドが口を尖らせながら僕を見る。
しかし僕も引けない。
引いたらこの子はもしかしたら殺されてしまうかもしれない。
この妙な集団と、ハロルド博士によって。
「…………く、るし、い……」
「!」
後ろから少女の苦しむ声がして振り返る。
そして僕はゆっくりと少女に歩み寄った。
「大丈夫だよ?この人たちは味方だから…ね?」
「うぅっ……、ちか、よる…な…!」
「早くしないと君が死んでしまう。その手はもう凍傷の域に達してるだろう?早くしないと危ないんだよ。」
そんな僕に少女は苦しそうにガタガタ震わせながら武器を向けた。
吹雪の中でも分かる、その子の震える剣先を見てから僕は更に少女に歩み寄ろうとしたが、仮面の男によって遮られてしまう。
その男は少女の前に立つと真剣な表情で鈴のついた剣を握っていた。
「……今、楽にしてやる。待ってろ、スノウ。」
少女がその仮面の男を見た瞬間、少女の瞳は一瞬にして両目とも赤目に変化し、敵意を剥き出しにした。
僕は息を呑んでその光景を見ていた。
急に目の色が変わるなんて……どうなっているんだ?
それにこの男、今楽にしてやるって…。
「うぁあっ!!!」
転びそうになりながらも少女が男に武器を振りかざし、斬り掛かる。
しかしそんな非力で単調な少女の攻撃など、男からしたら微々たるものだったのだろう。
それを軽く往なしては、男はまた構えを取る。
対して、少女の方は往なされた反動で簡単に雪の上を転んでしまって、見ていてとても痛々しい姿だ。
ガタガタ震わせながら立ち上がる姿に僕は見ていられなくて、咄嗟に手を伸ばしかけると横からその手をハロルド博士が掴んだ。
「ハロルド…!」
「まぁ、見てなさいって。この子達、案外信用出来るわよ?」
そんな会話の合間にも少女は何故か必死に男に斬りかかっていて、何度もこの仮面の男に挑んではいたが、突如、男の持っていた剣から鈴の音が聞こえる。
男が攻撃を往なす度にその鈴の音が辺りに鳴り響いて、まるでこの場の空気を変えていくようだった。
すると少女が苦しみ出して左目を押さえていたんだ。
「うっ?!…きも、ちわるい…!!」
シャンシャンと鳴る鈴に警戒したようで、少女は慌ててこの場から逃げようとする。
それを長身の色黒男と、耳に髑髏らしきピアスをした男が少女を両脇から抑えて必死に少女に声を掛けていた。
「はな、せっ!!」
「正気に戻れ!!スノウ!」
「体が冷たい…!おい、早く終わらせろ!」
「分かってる!」
その鈴が光を増し、音が変わった瞬間ピタリと少女の動きが止まった。
一瞬だけ右目が海色に戻り、苦痛の顔を浮かべたスノウと呼ばれた少女はその場で辛そうに悲鳴をあげる。
暴れようとした少女を男二人で必死に抑え、僕の後ろにいたらしい女性陣の声援が飛び交う。
「スノウっ!辛いかもしれないけど頑張って!!」
「いいかい!?ちゃんと元に戻って元気な姿を見せておくれよ!!」
「うぅ、うぅ、」
シャンシャンと鈴の音が鳴り、何度かその行程を繰り返した後、突然少女の瞳が両眼ともに海色へと戻る。
その綺麗な色の瞳に、僕もハロルド博士も思わず息を呑んだ。
「……あり、がと……」
そう言って少女は悲しそうな顔をして意識を失った。
そこからは長身の男がすぐに少女を背負い、急いで皆と軍事施設へと戻ったあと、アトワイトが少女の治療を施した。
凍傷の傷もこれなら治るだろう、と言った時の全員の顔を僕は忘れないと思う。
本当に嬉しそうにホッとした顔で皆顔を見合せていたから、この人達もきっと敵じゃないんだなって思ったな。
でもその後が大変だった。
あの少女……スノウって言うらしいんだけど、スノウさんが僕に牙を剥いたって事で軍事会議に掛けられて、そのまま牢屋行きになってしまったんだ。
いつまた暴れ出すような人を放置しては置けない、とディムロスが言ってたなぁ。
良くても悪くても牢屋行きだなとは微かに思ってたけどまさか、謹慎処分で牢屋とは…。
僕は反対だったけど上の命令だから仕方ない。
僕が意見したところで通らないんだもん……あの人たち。
でも、悪い事ばかりじゃない。
ちゃんとアトワイトによって治療を施されたスノウさんはみるみる回復していって、牢屋を介してではあるけど皆と再会した時の笑顔は本当に素敵だった。
その後、僕も何度も何度も牢屋に通ってはスノウさんとお話をした。
そしたら、とても気さくな人ですぐに仲良くなったんだ。
「───そうなんですよ!分かりますか?!ディムロス中将ってば僕に無理難題を吹っ掛けてくるんです!!」
「ははっ。でも君は一度だってその任務を断らないだろう?彼もきっとそれが分かって期待してるんだと思うよ?」
愚痴を聞いてもらったり、時には世間話に花を咲かせたり、僕はスノウさんと話すこの時間が唯一癒される時間になっていた。
きっと、僕に妹がいたらこんな感じなのかな…。
「……。」
「? シャルティエ少佐?」
「…1つ、聞いておきたいことがあるんです。」
「どうぞ?」
「スノウさんが倒れていた時、僕を見て名前を呼びましたよね…?それって、何で僕の名前を知ってたのかなって思ってしまって…。」
「……。」
首を傾げるスノウさんに慌てて僕は説明を入れた。
「スノウさんが僕と初めて出会ったのって、外だったんですよ。雪の中に埋もれてたスノウさんを見つけて助けようとしたんです。その時に僕を見て“シャル”って言ってたので何処かで会ったことあったかな、って思いまして。」
「……。」
目を見開き、暫し考え込んだスノウさんを見てまずいこと聞いたかな、と慌てて訂正しようとしたらスノウさんは笑顔で僕の方を見た。
「だって君は、有名人だから。」
「…え?」
「君は少佐だろう?少なくとも、部隊の上に立つ者だ。それを知らない人は居ないと思うよ。」
「え、そうなのかな?」
少し照れてしまい、頭を掻くとスノウさんは僕を笑顔だけど眩しそうに見ていた。
牢屋の隙間から手を伸ばそうとしたスノウさんの手を反射的に握ろうとして腕を動かした瞬間、声がした。
「スノウ。」
「あ、ジューダスだ。どうしたんだい?」
すぐに視線をジューダスさんに向けて、手を引っ込めさせたスノウさんに少しだけ残念な気持ちになった。
近付いてきた彼に場所を譲れば、ジッとジューダスさんに顔を見られた。
しかしすぐに顔を背けられ、それでもお礼を言われたので「どういたしまして」と言って僕も仕事に戻った。
あー、愚痴を聞いてもらってスッキリした!!
「───シャルティエ。」
そんなご機嫌な僕に、アトワイト大佐が話しかけてきたので首を傾げつつ返事をする。
「どうしたんですか?そんな深刻そうな顔をして。」
「あの子…、スノウさんなんだけど…。」
「?」
なんだろう?
これ以上罪が重くなることもないはずだし、特に何も無いはずなんだけどな。
「…食事を全然食べてくれないのよ。あんなに言っているのに…。シャルティエは何か気付いたこととか気になる事とかないかしら?」
「え?!そうなんですか?初めて聞きましたよ。」
「そう…。なら、シャルティエ少佐からも強く言っておいて欲しいわ。ちゃんと食べなさいって。」
「わかりました。次回会った時に伝えておきますね。」
「ありがとう。どうも貴方とスノウさん、仲が良い様だから。それで貴方に相談したのよ。」
「うーん、考えられる原因はやっぱり環境じゃないですか?幾ら設備が整ってるからって牢屋の中だと食べにくいんじゃないですかね?」
「そうよね。やっぱり上に進言してみようかしら?今のところ、スノウさんが暴れるとか見たことがないもの。」
「はい!それがいいと思います。」
そう言ってちゃんとお礼を言ってから去るアトワイト大佐にお辞儀してからスノウさんがいた牢屋の方を振り返った。
「…今度ちゃんと言っておかないと。」
次の話題が出来たことに意気揚々としながら僕は仕事に戻った。