第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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とんだ騒動が起きたが無事犯人も見つかったという事で一行は迷いなく先に進んでいく。
一本道をしばらく歩けば、大がかりな機械の前に佇む一人の女性。
「…エルレイン。」
リアラがぽつりと零す。
その声が聞こえたのかエルレインがこちらに振り返り、悲しそうな顔をした。
「…やはり来たか。」
「世界がこんなふうに変わってしまったのは、お前の仕業なんだな…!?」
「世界を作り替えたのは確かに私だ。だが、それを望んだのは他ならぬお前たち人間だ。」
ふとスノウの視界の端に何かが映る。
原作上、ここにはエルレインただ一人のはずだったが、やはり彼らもいるということか。
修羅と海琉がその人物たちに気付き、臨戦態勢をとった。
「アーサー…!!」
「やはり、君達も…。」
「フッフッフ…。ご無事なようで安心しました。スノウ・エルピス。」
「やっほー!スノウ!!元気だった~?」
アーサーだけではない、花恋や玄、そしてウィリアム博士もそこに集っていた。
花恋はアーサーの後ろから大きく手を振っており、玄は今か今かと腕を組んで待っていた。
すると、今まで黙ってついてきていたセルリアンがウィリアム博士に近寄る。
「ゲヘヘ…。よくやったな、セルリアン。結果は上々だ。」
老人特有のしわがれた声で笑い、セルリアンの頭を撫でていた。
その間にもこちらの会話が聞こえていないのか、カイル達の方は着々と話が進んでいた。
「レンズなしでは生きられないこんな世界が幸福だと?!そんなバカな話があるか!!」
「今はまだ過渡期に過ぎない。神がより完全な形で降臨を果たした時…。完全な世界、完全な幸福が現出するのだ。」
「完全な形…?」
「本来ならばもっと早い段階で完全な降臨がなされるはずだった。神の御使いである私が奇跡を示し、人々の信仰を集める…。集まった信仰は神にさらに力を与え完全なる形となるはずだった……。だが…。」
エルレインが悲しそうに、そして少しだけ怒ったようにナナリーを見る。
「時が流れても尚、神を拒む者が存在し続け、降臨した神は十分な力を持ち得なかった…。」
「どうやら、アタシたちホープタウンの人間の事らしいね。」
「…。」
そして聖女の瞳は僅かにスノウに向けられる。
その表情は今にも泣きそうで、スノウが目を見開く。
しかしエルレインの視線はカイル達に戻って行く。
「このままでは完全なる神も、完全なる世界もままならない。そう考えた私はレンズを集め、神の力を高める事を思いついた。…しかしその計画もお前たちによって阻まれてしまった…。」
どうやら彼ら〈赤眼の蜘蛛〉もストーリーが過ぎるのを待つようで、エルレインの言葉に耳を傾けていた。
あの花恋でさえもじっとしているので、どうやら大事な事らしい。
「私に残された道は、さらなる過去にさかのぼって全ての民が神を崇める世界に変えること…。結果は見ての通りだ。神への信仰を宿したレンズもこうして大量に集める事が出来た。」
「その為に天地戦争を利用したわけか。バルバトスを送り込んで天地戦争の結果を逆転させ、地上を荒廃させる。そこに救世主が登場し、救いの手を差し伸べる。救世主は神の恩恵と称して人々の信仰を一身に集める…か。とんだ三文芝居だな。」
「折角生き返らせたというのに、まさか私に盾突く役者になり下がる者に何も言われたくはないな。」
「ふん、残念だったな。貴様の思い通りにならなくて。」
通常ならば沈黙するはずのジューダスが聖女に牙をむいているのを修羅が僅かに驚き、そしてスノウは笑顔でそれを見届けた。
スノウが前世を変えているから彼は通常ここに居るはずがない。
それが何の運命か、スノウを追いかけてエルレインに生き返らせられたのだ。
だから彼は原作にあった"脚本通りの役者"ではなくなってしまったのだ。
「こんなやり方は間違ってる!歴史を歪め、過去を変えてまで、人は幸せになろうとは思わない!」
「リアラ。お前はまだ分からないのか?どんなきれいごと口にしたところで消してしまいたいほど辛い過去が誰にでもある。例えばそう、そこに居るジューダスやスノウと呼ばれた者たち…。いや、リオンとモネのように、な。」
「「…!」」
その瞬間、〈赤眼の蜘蛛〉側がどよめく。
どういうことだ、と誰もがエルレインを見ていた。
俯いたスノウの周りをカイルやロニ、リアラやジューダスまでも取り囲って、そして…
「「「大丈夫。」」」
皆が肩に触れたり、手を握ってくれたりしてくれる。
俯いた顔はそのまま自信を持って、エルレインを見つめた。
「確かに私は、前世で罪を犯した。到底消せない罪…そして辛いトラウマもある。それでも消したくない過去がある。それに今は…こんなに大事な仲間達がいる。私は、過去を消してまで今を生きようとは思わない!」
「……それが、お前の気持ちか?」
「なさねばならないことがある!私は、ここで立ち止まっていられない…!だから皆といるんだ!」
「……愚か、な…。」
ふらりとエルレインが後ろに倒れそうになり、足を踏ん張らせる。
そして唇を噛み締めた聖女は、スノウを睨んだ。
「お前の…お前の決意など…」
「前世のモネだった時、確かに辛かったこともあった。でも、それ以上に幸せなことだってあった。それを…失くしたくないんだ。」
「……」
笑顔のスノウにエルレインの瞳が揺れ動く。
そこにある笑顔はまるで野原にただ一輪ある花の様に儚く、しかし強くあった。
「…私も、ここで引き下がるわけにはいかないのだ…!神よ!大いなる御霊をここに!!!」
エルレインが手を空に掲げれば、光が包み込みすべてを消し去るような光が辺りに充満した。
スノウが目を開ければそこには倒れたリアラと修羅、そして〈赤眼の蜘蛛〉やエルレインが居た。
「やはり…お前らには効かぬか。」
エルレインが〈赤眼の蜘蛛〉を見るとアーサーは笑って頷く。
「えぇ。私たちはあくまでここの世界の人間ではないので。それより…」
視線はスノウに向けられる。
その眼差しは興味津々といった色を湛えていた。
「どういうことでしょうかねぇ?モネ、とは誰の事ですか?」
「知らないのも無理は無いだろうね?原作にはそんな名前の人間いなかったんだから。」
「…まさか。」
「そうだ。私はこの世界に18年前よりもずっと前から居る。そして、神の眼の騒乱の時に彼を救おうとした、愚かな人間の一人だ。」
「「「…っ!!?」」」
そう言ってスノウはニヤリと笑うと相棒を手にした。
そして、相棒を構え彼らを見据える。
「ここで自己紹介と行こうか?私は前世のモネ・エルピスであり、今はスノウ・エルピスだ。よろしく頼むよ?」
「そんな…!あり得ないわ!!だって、この世界に〈星詠み人〉が降り立ったのはアーサー達が最初のはずなんだから!!!」
花恋が驚いたように声を上げる。
アーサーは神と交信でもしているのか、頭に手を置き何か考え込んでいるようだった。
「君達も知っている神の眼の騒乱…。この世界ではリオンは裏切り者なんかじゃない。英雄として存在している。そして彼らを裏切ったのは正真正銘、私だ。」
「…待て。そんなことが可能か?いくら何でも可笑しすぎるじゃろう。そんなに原作を変えておいてこの世界が無事なはずがない。」
「可能だから言っている。それに彼女も証明してくれただろう?」
エルレインを見れば、静かに頷いていた。
それを見て、向こう側に動揺が走る。
しかし、そんな中でも冷静にしている人物が居た。
「お主が前世で何であろうと、我には関係ない。ただお主と勝負をするのみ!!」
「…君ならそう言うと思っていたよ。さあ、決着をつけさせてもらおうか…!!」
玄が大斧を出現させ、肩に担ぐ。
そして、今までにない笑顔でスノウを見遣った。
「我は玄!お主を倒す男の名だ!!!」
「スノウ・エルピス。私は君を越えてその先に行く。なんとしてもやらなければならない事が出来てしまったから!!」
大斧を振りかざし、前に会った時よりも早い機動で玄がスノウの頭上から一心に武器を振り下ろす。
それを軽々と避けたスノウは懐から小さな銃を取り出す。
「___ブースト!!!」
迷いなくこめかみを撃ち抜いた銃は光を失い、代わりにスノウの体が光り輝く。
その様子に全員が目を剥いて見遣り、ウィリアム博士は目を光らせて前のめりに見ていた。
「スピリッツブラスター…じゃと!!!?」
「なにそれ~?」
「この世界におけるオーバーリミッツみたいなものじゃ…。〈星詠み人〉で出来るのは一人もおらん…!」
「え?!そうなの?きゃあ!スノウかっこいい~!!」
「言っとる場合か!!!あれが〈星詠み人〉でも出来れば今後の計画がさらに……ブツブツ…」
一人はスノウを応援し、一人は見逃すまいと紙を手にスノウを充血するくらい凝視していた。
眼帯を外さずに応戦しているスノウが無詠唱で術を行使させ、玄が面白いとばかりに憤慨させる。
「さっき覚えた技を食らってみなよ!!シャイニングスピア!!」
先程ダンタリオンが使っていた術をサラリと使うスノウ。
玄はそれを遠くに後退することで避け、一度体勢を立て直す。その後ろからは声援が飛び交っていた。
術で行くことにしたスノウは、相棒を仕舞い、術攻撃力の上がる銃杖を顕現させ手にした。
「耐えられるかな?ジャッジメント!!」
戦闘フィールド全体にランダムで裁きの光を降らせ攻撃する魔法。
広範囲且つ、高威力のそれに玄もガードしないといけなくなり、やむを得ず防御に徹した。
「うおおおおおおお!!!」
その攻撃を食らって、雄たけびのような声を上げる。
以前よりもさらに強くなったスノウに、玄自身が悦びを感じているのだ。
自分が倒すにふさわしい相手なのだと、この時玄は再認識していた。
そんな時、リアラと修羅が起きて辺りを見渡す。
「ようやく目覚めたな。どうだ、新しい世界の感想は?」
「エルレイン!あなた、一体何を…。」
「おいおい…。一体何が起こってんだよ…。」
修羅がジャッジメントの光を見て目を剥く。
そして戦っているスノウを見て、自分も手助けしないといけないと武器を手にしたが玄が怒鳴りつけてきた。
「修羅!!この戦いは加勢不要!!!我とスノウの一騎打ちだ!!」
「はあ?そんなの俺が聞いてやる義理はねえぜ?あんたと俺はもう敵同士なんだからな。」
「お痛しちゃダメなんだって~。」
花恋が代わりに修羅に攻撃を仕掛ける。
思わぬ応戦に修羅も武器で防御に徹するしかなく、目の前に来た花恋を睨みつけた。
「……丁度いい。以前からあんたをぶっ飛ばしたかったんだ。」
「あっはは!!面白いわ~!!………ぶち殺してあげる。」
その瞬間お互いに距離を取り、狂気の笑みを浮かべる。
そして戦闘がこちらでも行われることになり、リアラがハラハラと二人のその様子を窺っていた。
そんな中、リアラの元にとある人物が現れる。
「おい、行くぞ!」
「?!」
エルレインが信じられないとジューダスを見る。
ジューダスは心配そうにスノウを見ていたが、それでも自分のやるべきことが分かっているのか座り込んでいるリアラの腕を掴み立ち上がらせようとしていた。
「あいつらが夢の中に埋もれてしまっている。僕だけじゃあいつらを起こせん。」
「何故…。何故、貴様は夢に囚われぬ…?」
「ふん、残念だったな?お前に忠実な"役者"じゃなくてな!それに、僕はとある神の御使いとなった。夢の中に囚われる事はないと思え。」
「お前も…!」
「どういうことなの?ジューダスも御使いって…?」
「話はあとだ。早くあいつらを目覚めさせるぞ。そしてスノウに加勢してやらないといけないだろう?」
「…!! うん、そうよね!分かったわ!!」
「無駄だ。お前らの声など、もう届きはしない…。お前らの役目も終わったのだ。」
「終わってなんかない!!」
今までで一番の大声に、激しく戦っていたスノウと修羅の耳にも届く。
そしてそれぞれに笑顔になってそれを聞き届けた。
「カイルは必ず私の声に応えてくれるわ!!だから…」
「永遠の幸福を捨てられる人間などいない!!人は儚く、弱い…!!だからこそ彼らには神と神の救いが必要なのだ!!」
「いいえ。私は信じているわ。人間の強さを…。カイル達を…!!!」
「仮に目覚めさせたとしても待っているのは悲劇だけ…。それなのに何故お前らは自らを苦しめてまで進もうとする?」
「…。」
「貴女の作り出した世界を見た時思ったわ。もしこれが、人々の望む幸福なら私の役目は終わり、使命からも解放される。そうすればカイルといつまでも居られる、と…。でもそれは間違いだった。例えどんな結末が待っていようと歩んでいく過程にこそ、人の幸せはある。……あの人はそう言ったの。だから私も、カイルと共に歩むわ。…たとえ、どんな結末が待っていたとしても…。だって、私はカイルと一緒に居たいから…。カイルを愛しているから!!!」
その声に外野が茶々を入れる。
「リアラ!!最高!!頑張って皆を連れてきてくれ!!」
「待っててスノウ!!今、彼らを連れ戻しに来るから!!それまで耐えて!!」
「麗しのレディの頼みを私が断るわけないだろうっ?!そっちは頼んだよ!!ジューダスも!気を付けて!!」
「あぁ!待ってろ、今助けに行く!」
二人はそう言うと光に包まれ消えていった。
残された修羅とスノウはお互いを見ると大きく頷き、武器を構えた。
「「なんとしても生き残る!絶対に!!」」
「___愚かな。」
エルレインが寂しそうに声を震わせた。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
お互いの武器が噛みあう音がし、戦闘は徐々に激しさを増していた。
遂に眼帯を外したスノウは、玄と距離を取りながら戦っていた。
絶妙な間合いの取り方をロニから学んでいたスノウは玄の間合いの先を読み、距離を取っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、(このままじゃ、ただの消耗戦だ…。そうなったらこちらに分が悪い…。)」
「まだまだァァァ!!!!」
遠くから大斧を地面に振り下ろした玄だったが、地面が隆起しスノウを襲う。
それを見越してスノウが空中へと逃げる。
そして狙いを玄の頭にして、空中から魔法弾を放った。
「気絶しなよ!」
気絶弾を入れたが、威力の上がった銃杖の攻撃でも玄にはかすり傷程度なのか、それとも玄自身がパワーアップしたのか効果が薄く感じた。
既にブーストの効果が無くなり、魔法を使う事でマナを小さな銃へと装填させているが中々チャージが溜まらない。
「力を貸してくれ、セルシウス!」
『その言葉、待ってた…!』
セルシウスが召喚され、小さな銃が僅かに光り輝くとセルシウスはすぐさま玄へと攻撃しに行く。
それを見た玄の口角が更に嬉しそうに歪んでいく。
「もっと来い!!もっと我を愉しませろぉぉぉぉ!!!!」
狂気に近い笑みでセルシウスに向けて大斧を振りかざす玄だったが、素早いセルシウスの動きに攻撃を外してしまう。
ならば、と横に大斧を一閃させればセルシウスは難なく避け、大斧の上に乗っかると玄の腹部へと綺麗な蹴りを食らわせた。その瞬間、玄の腹部が凍り付いていく。
「うぐっ?!!」
『私たちに勝負を仕掛けたこと、後悔するといい……。』
「まだまだぁあぁぁぁ!!!」
ふんと鼻息荒くすると腹部の氷が一瞬で割れる。
それにセルシウスが嫌そうに顔を歪める。
『…人間がこんなに力が強いのが信じられない……。』
「我も鍛えておるからな!!!」
ぶんぶんと振り回される大斧を避けながらセルシウスがスノウをちらりと振り返る。
そこには次の精霊を喚ぼうと詠唱している主人の姿があった。
「__仇なす敵を押し流せ!シアンディーム!!」
『ふふっ!分かったわ。』
笑いながら武器を手に玄へと向かっていくシアンディーム。
それに玄が流石に分が悪いと感じたのか一旦大きく後退した。
「まだまだ隠し持っておるようだな!!」
「君こそ、まだ力を出し切っていないだろう?」
「はっはっは!!それも見抜かれているとはな!!大いに愉快だ!!」
「愉快なのはいいけど、いい加減にしてくれないかな?そろそろ勝負をつけさせてもらうよ…!!」
スノウが指を鳴らすとそれが合図の様に精霊たちが攻撃を仕掛けていく。
全く隙のない連携攻撃、そして各属性の強力な一撃たち…。
玄が笑顔になるには十分すぎる要因だった。
「岩漸滅砕陣!!」
大斧を地面に振り下ろした攻撃は地面を隆起させ、そしてその攻撃はスノウに向かっていく。
対して、スノウの方も準備は整っていた。
「__我を助け、仇為す敵には破壊を!ノーム!!」
『は、ははははいっ!!!』
ノームがスノウの前に降り立つとこちらに向かってくる地面をいとも簡単に往なし、攻撃を無効化させた。
そしてそのまま地面に潜り込んだノームは敵の足元に行くと、地面から岩を出現させ岩の間に玄を閉じ込めさせた。
「そのままプレス!!」
『りょ、了解ですっ!!!』
両手で押しつぶす仕草をしたスノウにノームが返事をする。
その岩は形を変えずに移動し、中に居る者を押しつぶそうと殺意を増して蠢く。
しかし膂力の高い玄は岩を掴むと粉砕させ、そこから簡単に抜け出してしまった。
『ひぃっ!!ににに、人間の御業ではありませんよ…?!』
「流石にあれくらいの岩なら簡単に押しのけるか…。」
そのまま玄はスノウ目掛けて大斧を振り下ろし、その攻撃を止めることをしなかった。
その事から、向こうもそろそろフィニッシュを掛けようとしているのかもしれないことが窺える。
「裂砕衝覇!!」
「フォースフィールド!」
絶対障壁を作ったスノウに大斧の重い一撃が加わる。
しかし割れる事のない障壁に玄は更に圧力をかけ、砕こうと笑みを浮かべては力を入れていく。
銃杖で詠唱を唱えたスノウがニヤリと笑い、玄へその笑顔を向けた。
途端にスノウの右手小指にあるエメラルドの指輪が光り輝いた。
「出番だよ!グリムシルフィ!!」
『待ってました!!』
スノウへ集中攻撃する玄へと無数の風が襲い掛かる。
しかし玄もスノウへの攻撃をやめずにその攻撃を受け止め、耐え続ける。
ピシリピシリと玄の体には無数の傷が体に出来ていったのにも関わらず、玄は目の前の敵の事しか頭にないかのように集中力を研ぎ澄ませていた。
「うおおおおおお!!!!!」
しかしそこは精霊の攻撃である。
高威力の風が玄の体全体に傷を入れた所で、まるで何かを振り払うかのように大声で叫び、更に力を入れた玄に勝機が僅かに見えた。
スノウを守る障壁にピシッとヒビが入ったからだ。
目を見開き最後に力を振りしぼろうとした矢先、玄の上からは水が、そして下からは凍てつく氷と尖った岩が玄を襲った。
同時に属性攻撃を受け、玄の攻撃は思わず弱まってしまう。
それをスノウが見逃さないはずがなかった。
「行けえええ!!!!!!」
障壁の中から相棒を手に玄の腹部へと深く、深く突き刺す。
その瞬間障壁が割れ、玄の大斧がスノウに襲い掛かったがそれを受け止めたのはノームの出してくれた岩だった。
頭上スレスレで攻撃を受けなかったスノウ。
息を切らしながらお互いに動けずにいると、先に倒れたのは彼の方だった。
「ぐ、あぁぁ…!!?」
白目を剥き、後ろへと倒れた玄にスノウが呼吸を整えながらそれを見届ける。
深くは刺したが、こんなことで死ぬような奴ではない事はスノウが一番身に沁みて分かっていた。
相棒を引き抜いた際に付着してしまった血を大きく振り払う事で落とせば、ようやく実感が湧いてくる。
動かない相手に目を閉じ、黙祷すれば呼吸も徐々に整ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ、…幸せに、眠れ…。これで、はぁ、君も、満足だろう…?」
「うぅ、」
「!!」
相棒を構えたが、すぐに豪快な寝息が聞こえ逆に拍子抜けする。
やはりこれ位では彼は死なないようだ。
どうしたものか、と大きく息を吐くと瞬時にスノウへ距離を詰めるものが居た。
それはスノウを押し倒し、馬乗りになるとにやりと狂気の笑みを浮かべる。
「捕まえましたよ?スノウ・エルピス。」
「なっ?!」
予想だにしなかった人物にスノウが慌てて目の前の人物……アーサーを退かそうとするがその前にアーサーはスノウの腹部に両手を合わせて置く。すると、
バチバチバチッ!!!
「うああああぁあぁあぁああ!!!!!」
「?! スノウ!!」
修羅がスノウの悲鳴に反応し、振り返ると赤黒い雷のようなものをスノウの腹部に打ち込んでいるアーサーの姿があった。
その顔は酷く歪んでいて、誰がどう見ても本気で狂気を浮かべた笑みをしていた。
「ボクの神が酷く貴女を気に入ってましてねぇ…?連れて帰れと煩いんですよ。」
「ああぁああぁああぁああ!!!」
「クックック…!!いいですねぇ…!その声…その表情…!!!嗚呼……愛おしいっ…!!!」
片手で顔を覆いながらももう片方の腕はその攻撃は止めることはせず、アーサーは目の前の苦しむスノウを見て恍惚の表情を浮かべた。
そしてスノウの瞳に変化が起こる。
真っ赤に染まった瞳は苦しそうに歪み、それでもアーサーを睨んでいた。
「あ、ぐ……」
「どうしました?まだ足りませんか?」
「うああああああああぁぁぁぁああ?!!」
更に威力を強めた攻撃に赤黒い雷が範囲を拡大して周りにも被害をもたらす。
修羅や花恋、ウィリアム博士でさえその攻撃から逃れるように壁に寄る。
それを直接受けているスノウの体は既に限界に近かった。
「(あんな、に…修行した、のに…。くそ、呑み、こまれる…!)…………たすけ、て…」
スノウが気絶しかけ、修羅とセルリアンがスノウに駆け寄ろうとしたその時。
そこに何物にも侵されない清廉なる鈴の音が響く。
すると急に赤黒い雷がピタリと止み、予想だにしなかった出来事にアーサーの顔が驚愕の顔へと変化する。
同時にスノウの右目が海色へと戻り、気絶する前だったスノウはすぐさま懐から例の小さな銃を取りだすとアーサーに向けて撃った。
その弾丸は真っ直ぐにアーサーの心臓を撃ち抜く。
「ぐっ?!うぁあああああああっ?!!!!!」
心臓を押さえ苦しみ出したアーサーを気力だけで押し倒し、スノウが荒く息を吐き出しながら左目を押さえる。
「あっ…!う、くっ…!!」
「「「スノウっ!!」」」
鈴の音が再び響き、その音が鳴るとスノウの体が一回一回鳴る度に軽くなっていく。
それでも強力な赤のマナを浴びたスノウが完全回復するにはまだ時間がかかりそうである。
その証拠にパワーアップした浄化の鈴が鳴ってもなお、左目は赤いままだったからだ。
苦しむアーサーの横で気絶したスノウに仲間達が駆け寄り、回復を掛け合う。
「「ヒール!」」
「ヒール!!」
「キュアコンディション!」
回復の光がスノウを包むが、起きる気配は無さそうだ。
そんな仲間達の前にエルレインが近寄る。
「分からない…。何故お前たちは苦しみを望む?夢に微睡んでいれば、幸せになれるというのに。」
「あんな物で幸せになれるなんざ、思ってねえよ!」
「そうだ!人は生きる力がある!だからオレたちはお前に奪われた歴史を取り返す!!そして本当にオレ達の幸せを取り戻す。絶対に!!」
「無駄な足掻きはよすがいい。お前たちがどう思おうと何一つ変えれはしない。」
ジューダスが気絶しているスノウへと近づき、強く抱きしめる。
「……夢は確かに何でも見られて、望むならば幸せになることも出来るだろう。だが、人の生きる過去を否定してまで幸せにはなりたくはないはずだ。」
「……裏切り者の烙印を押されたモネ・エルピスを、お前らはあくまでも庇うというのか?いつ、その者が裏切るか分からないというのに?」
「オレたちはスノウを信じる!!」
「そうよ、スノウはそんな事する人じゃない!!何か理由があったはずだわ!!」
「こいつは僕を守ろうとして命を落とした。だが、結果こいつは裏切り者の烙印など押されていない!!命を賭して、僕達を先に行かせた英雄として世に名を馳せた!!勝手に歴史を変えるんじゃない!!」
「……だとしても、お前の両親と戦ったことは変わらぬ。そうだろう?カイル・デュナミス?」
「……例えそうだとしても、オレはモネもスノウも信じる!それがオレがスノウに出来る事だから!」
エルレインの瞳にスノウが映る。
ジューダスに抱き締められ、守られているスノウを。
「ならば、率直に言おう。…スノウ・エルピスを置いていってもらおうか!!」
「「「!!」」」
怒りに任せた声音は仲間達の耳に届く。
今にも武器を取り出しそうな様子のエルレインを見て、リアラが両手を広げ立ちはだかった。
「スノウには沢山お世話になったの。人の思いや過去の過ちを辛く思う気持ち、それでも前を向くその姿勢…。そして大事な人達を守りたいというその強い思いを教えてもらった…!!だからスノウは私にとって大事な仲間よ!絶対にあなたに渡さないわ!!」
リアラの言葉に全員が大きく頷き、武器を持つ。
「今から時間移動をするわ!時代は……天地戦争のころ!!」
「歴史を元に戻そうって訳か!」
「やってやろうじゃないか!」
「リアラ、行こう!!オレたちの歴史を取り戻しに!!」
「……!!」
時間遡行に気付いたジューダスが慌ててリアラを止めようとする。
何故ならこの腕に抱き留めている人物がまだ完全に治っている訳ではないからだ。
マナも、体力も──
「待て!リア──」
光が包み込み、腕の中の感触が消えてしまう。
ジューダスは白く見えない光の中で彼女の名前を必死に叫んでいた。