第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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灰色の球体に囚われているスノウが、痛みに体を震わせながら前を見る。
そこには剣を構えたジューダスが見えた。
「────ジュー…ダス……。」
「そこで待ってろ、スノウ。……いいか?僕がこいつを倒すまで絶対に倒れるなよ?」
「……でも、」
「でもじゃない。……帰るぞ、僕達がいた現実に。」
「……。」
苦しそうにしているスノウが、僅かに意識を失いそうになる。
早くしなければ危なそうだ、とジューダスは顔を顰めさせた。
しかしそんなジューダスをスノウが見て、そして体を震わせながらもジューダスをしかと見つめた。
「……がん、ばる…よ…」
「…!!」
その言葉にジューダスが口元に弧を描く。
「あぁ。あと少しの辛抱だ。」
ジューダスが両手に剣を持ち、構える。
そして黒い物体に向けて歩き出すと、容赦なくその剣を一閃させた。
「────夢幻一閃。」
煌めく刃が黒い物体を切り刻む。
何度も何度も、致命傷を与えて敵を攻撃していく。
そして、その魔物のおぞましい断末魔が轟き、黒い物体は薄紫の光へと変わっていった。
ぽわぽわと光が漂って霧散していくと、スノウを捕らえている灰色の球体にピシリとヒビが入る。
そして球体が割れると、中にいたスノウが重力に従い落ちてきてジューダスが難なくそれを受け止める。
「……ぅ、」
「帰るぞ。」
「……あ、はは…。今のきみ、…カッコよすぎるよ…。」
「ふん。……いつもの事だろう?」
「……ふふ…!そう、だね…?」
意識を失ったスノウを抱え、ジューダスは安堵の息を吐く。
そしてジューダスは現実へと戻るために、ゆっくりと瞬きをした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現実に戻ってきた感覚がして、ジューダスは目をゆっくりと開ける。
そこには倒れているスノウとその近くでスノウの様子を見ているエニグマがいた。
「……スノウは?」
「体力も気力も限界に近いと言っただろう。今は体を休めるために気絶しているだけだ。」
エニグマが優しくスノウの頭を撫でる。
そして、やはり軽々と持ち上げるとベッドの方に寝かせてあげていた。
それを見ていると、ジューダスは急に視界がブレてふらりと倒れそうになる。
「初めてにしては上出来だ。」
「……何だか、気持ちが悪い……。」
「当たり前だ。いくら私の〈御使い〉になったとはいえ、他人の夢に入り込んだんだ。後遺症があってもおかしくはない。」
「……狂気の神とやらは?」
「娘がこちらに戻る際に体から出て行った。そのまま機嫌良く〈赤眼の蜘蛛〉とやらに戻って行ったぞ?」
「……そうか。」
その場にしゃがみこみ、頭を押さえるジューダスをエニグマがハッと笑う。
ついでに「軟弱な……」という言葉が聞こえ、ジューダスは少しだけ額に青筋を浮かべた。
「……起きたら娘は生きる希望を見出しているだろう。よくやった。」
「……ふん。当然だ……。」
気休めかもしれないが、エニグマのその言葉で大分心にゆとりが出来る。
その場に座り込み、暫くボーッとしているとこれまでの事を思い出して徐々に感慨深くなってきた。
「……ようやく、終わったのか。」
「阿呆。まだ問題が山ずみだろう。」
「……?」
他に何か問題があっただろうか、と考えていると腰にある愛剣が喋り出す。
…そういえば久しぶりにこの声を聴いたな。
『坊ちゃん!!大丈夫でしたか?!』
「お前居たのか。」
『居たのか、じゃないですよ!!?ずっと居ましたって!!?』
腰にあるシャルティエを見れば、それに装着された鈴が見えて、「あぁ…。」と言葉を漏らした。
そういえばこの問題があったか…。
「……スノウのマナは?」
『坊ちゃん?!無視ですか?!』
「だから問題が山ずみだと言っただろう。娘の左腕も今後どうするのか決めないといけないではないか。」
「……本当に山ずみだったな…。」
天を仰いで腕を目にそっと当てる。
そのまま床に倒れ込めば、疲労感と共に瞼が自然と降りてきた。
…あぁ、眠い。体が…酷く怠い…。
「……少し、休ませてくれ。」
そう言って、ジューダスは気絶するように寝ていた。
次にジューダスが起きたのは、一日経ってからだった。
だが、その起き方も最悪なもので、何かに叩き起されたような感覚だった。
「……ぅ、何だ…?」
「寝惚けている場合か。いつまで寝ておる。」
どうやらエニグマがジューダスを叩き起したようだ。
重い身体をやっとのことで起こせば、腕を組みこちらを見下ろしているエニグマがいた。
「坊やが私の〈御使い〉となったからには、きちんと働いてもらうぞ。」
「……何だと?」
「文句があるなら、今すぐ〈御使い〉を解消してやろうか?」
「あぁ、解消してくれ。僕はお前の小間使いになりたくて〈御使い〉になった訳じゃないからな。」
「ほう?口先だけは達者だな。では今後、娘がどうなってもお前は素知らぬ顔をするという事で良いんだな?」
「……どういうことだ?何故スノウが出てくる?もう、あいつの夢の中にいた魔物は倒したはずだ。もうこれ以上…」
「勉強不足な坊やに良いことを教えてやろう。 」
顔を覆う布の下で、より細くなったその鋭い眼差しをジューダスも負けじと睨み返す。
「娘は“神”の〈御使い〉だ。しかも厄介な“神”のな。その神のせいで娘はマナというものに関しては他の者より敏感になっておる。……だが、娘は〈御使い〉としてはまだ中途覚醒過ぎる。その体に受けるマナはまだひとつしか受け付けん。今後、赤のマナや他のマナをその身に受けないとは限らん上に、一度夢の力を持つ魔物に襲われている。いつ娘に夢の力を持つ魔物がまた取り憑いてもおかしくは無い。」
「……は?」
冗談じゃない。また、あんな魔物に取り憑かれ、悪夢を見るスノウを見ることになるなんて。
そんなの…見たくない。
「私だって坊やを〈御使い〉とするのは納得がいかん。しかし、娘の事を考えれば坊やを〈御使い〉としてやらせていた方がこちらにとっても好都合だ。選択は坊やに任せる。さあ、どうする?」
「……。」
『坊ちゃん…。』
「………………何をすればいい?」
「素直でよろしい。」
嘲笑うかのように口角を上げたエニグマを睨みながら、一瞬シャルティエに手をかけるジューダス。
それを見て、ハッと笑ったエニグマはジューダスから離れると指を鳴らし、テーブル上に食事を用意した。
「まずは腹ごしらえでもしておけ。働いてもらうのはその後だ。」
「……。」
「坊やには〈御使い〉としての格を上げてもらうぞ。でなければ今の娘に対応することは出来ないと思え。」
「……分かった。」
「なら早くしろ。私は気が長くない。」
そう言ってエニグマは話は終わったとさっさと歩き出す。
その方向はスノウの方で、スノウの頭に手をやり何かをしているように見えた。
「そいつはいつ目が覚める?」
「……正直分からん。今は3つのマナが体の中で混在しているから、娘は起き上がれないのかもしれないな?」
「は?3つ?」
『赤と碧じゃないんですか?』
「阿呆。赤と碧はここに来た時点で元々あったものだ。今は夢の力である薄紫のマナが娘の中に入り込んでおるわ。」
「薄紫……のマナ?」
「とにかく、早く食べてしまえ。勉強はその後だ。」
ジューダスはエニグマの言葉に思い切り顔を歪め、渋々食事を食べ始めた。
時折、スノウの様子を窺いながらエニグマと話をする。
二人の相性はさほど良くなさそうだが、それでも利害が一致しているからか話は合うようだった。
その後はエニグマに言われ、何度も何度も他人の夢の中に行っては夢の力を持つ魔物と対峙し、倒していくという修行じみたことを強制的に繰り返させられた。
夢から現実へと帰ってきたらスノウの様子を見るのも忘れないジューダスに、エニグマがまた何か口にしてジューダスの額に青筋が浮かぶというのを何度も繰り返している内に、ジューダス自身も夢の神の〈御使い〉としての実力がついてきつつあった。
そんな何度目か分からなくなってきた修行の後だった。
「……スノウ?」
エニグマも居なければスノウの姿もない。
いつもベッドで寝ているスノウの横にエニグマが立っているのに、今回はそれが無かった。
『どこ行ったんでしょうか?二人とも…。』
「……。」
辺りを見渡しても二人が見つかることは無かった。
しかし一人だけ、闇の中からぬっと姿を現した人物がいた。……エニグマだ。
「おい、こいつはどこに行った?」
「あぁ、先程見送ってやった。」
「だから何処に──」
「あの世だ。」
「…………は?」
『え、嘘ですよね…?』
言葉を失ったジューダスだったが、すぐに我に返ると怒りに任せてエニグマの胸ぐらを掴み、怒鳴った。
「貴様っ…!!あいつを殺したのか?!!」
「言い方が悪かった。ある意味あの世ではあるが、娘は死んでおらん。安心しろ。」
「どういうことだ?!ちゃんと説明をしろ!!」
「分かったから離せ。」
エニグマがジューダスを押すと、不思議な力が働いたようにジューダスが後退した。
そして拳を握り、ジューダスはふいっと視線を外した。
「娘が起きて色々話をした。娘に起きた事象、事柄、その全てを。あの夢の中の出来事を断片的に覚えておった娘は坊やの事も聞いてきたからそれにも答えた。そしたら娘は自分も頑張らなくちゃいけなくなった、と言っていたからな。つい先程、彼奴の所まで見送ったという訳だ。」
「彼奴…?」
「娘が〈御使い〉となった原因の……厄介な“神”だ。いわゆる世界の“神”とも呼ばれているな。」
あの本に書いてあった“神”の名前だ。
確か碧のマナを持つ“神”で、スノウの“神”だったはずだ。
だからスノウは碧のマナを保有していて、それを自由自在に使いこなすことが出来る、と頭では理解しているが、実際目の前にするとようやく実感を伴うものだな、とジューダスは感嘆する。
「何故その“神”とやらの所に?」
「腕のこと然り、マナの事然り……。色々今の娘には問題が起きすぎている。その上、坊やや私では到底解決出来ない問題だ。だから私が“神”の元へ行くことを勧めてやった。」
「……そう、か…。」
「坊やが夢の力を持つ魔物を退治し、人間の夢を救うという役目を担う〈御使い〉なのだとしたら、娘はこの世界を救う役目を担う〈御使い〉だ。その上この世界のマナ関連も娘の手にかかっておる。だから言っただろう?厄介な“神”だと。」
「……その役目は、」
「阿呆。身を滅ぼす気か。適材適所と言っている。」
先手を打ってエニグマが答える。
どうせ自分もその役目を担うと言うに違いない、とそう察知して。
「娘がこの世界の行く末を知っている者だからこそ、丁度よい役目だと思っておったが……その事で余計に苦しませてしまうとはな。こればかりは彼奴も測りきれなかった、ということよ。」
はあ、と隠しもせず溜息をしたエニグマはスノウがいたベッドへと顔を向けた。
しかし次の瞬間、エニグマは嬉しそうに笑った。
「娘がはりきっておったぞ?坊やが〈御使い〉となったことで、娘もその役目をちゃんと知ろうと“神”の元へ向かった。そしてあのボロボロの体もちゃんと治してもらわないと、とな?」
「……ふっ。そうか。」
これにはジューダスも嬉しそうに笑いを零す。
それなら、自分が頑張って、苦労をして…ようやく〈御使い〉となった意味もある。
「〈御使い〉というのはお互いの役目に干渉は出来ん。娘が夢の力を持つ魔物に対抗出来ないように、坊やもまた、マナや世界を救うことに関して干渉は出来ん。」
「……それは…」
「だが、お互いを助け合えることは出来る。……少しではあるが、坊やの中にもマナが滞留出来ておる。」
「……!」
「ただし!私の〈御使い〉という証拠である〈薄紫のマナ〉がな。残念だったな?ぬか喜びさせてしまったわ。」
全く悪びれることなくエニグマがほくそ笑みながら言い放つ。
それにムッとさせたジューダスだが、それが面白いのかエニグマを余計に喜ばせる事態となり、顔を渋らせた。
「今の娘はひとつのマナしか滞留出来ん。だが、〈御使い〉としての格をあげれば或いは…。まぁ、坊やの中に芽生えたマナなど風前の灯みたいなものだ。気にする事はない。」
「一々気に触る言い方をするやつだな…。」
「ふっ、悪かったな?こういう性格なものでな。……あと、夢の“神”の〈御使い〉として坊やに教えておくが、〈薄紫のマナ〉は元々そんなに強い力では無い。」
「??」
「だから娘に影響はあまりない、ということだ。……これが“現実”での話ならばな?」
「夢の世界では影響を与えやすい、ということか。」
「そうだ。今の娘のマナは単色であるが故に、何色にも染まりやすい。何故か、娘は左目に影響を受けておるようだが…、まぁ、目や髪は体の中で唯一色を出しやすいものだからかもしれんが、その娘も夢の中では無力ということよ。……言いたいことは分かるな?」
「近くにいて守れ、ということだろう?」
「坊やが〈ロストウイルス〉やらマナに関して助力出来ない分、坊やが娘に降りかかる悪夢を祓うのだ。……これからが大変だからな。」
一度話を切ったエニグマだったが、すぐにジューダスへと顔を向けると、シッシッと無視を払う動作をする。
まるで、もう行けと言わんばかりに。
「こんなことをしている暇はないだろう?早く働いて〈御使い〉としての役目を全うして貰うぞ。」
「……大体、誰か分からない夢の中に送り込むのはいい加減止めろ。大概気持ち悪い夢ばかりで苦痛な上に、他人の夢などくだらん。」
「何を言っている。それが私の〈御使い〉としての役目だ。有難く拝命しろ。ただ娘だけ救えればいいと簡単に思うな。それに、だ。それほど、〈御使い〉の役目は重役なのだとそろそろ自覚したらどうだ。」
長い説教に嫌そうな顔をしたジューダスは、遂に舌打ちをした。
ただでさえ、スノウに会えなくてイラついているところに嫌な奴からの説教だから余計にイライラするのだ。
「……あいつはいつ帰ってくる?」
「さあな。まだ体が治っておらんところを見ると……かなり厄介な所まで来ているのかなんなのか…。」
「見えるのか?」
「覗いておるだけだ。……あぁ、あと坊や。娘と今後行動するならあのレスターシティ…とか言うところには連れていくな。あそこは狂気の“神”の領域だ。娘のマナがまた悪化するぞ。それにまた体を乗っ取られるやもしれん。そうならないようにあそこには踏み入れさせるな。いいな?」
「分かった。」
「……しかし、彼奴の領域は見づらくて適わん…。声も聞こえんし、面倒だ。」
「お前の領域とやらもあるのか?」
「ここだが?」
「……まぁ、そうだろうな。」
「“神”の領域というのは人間が踏み入れられる場所ではない。だが、狂気の“神”は自分が転生させた〈星詠み人〉と呼んでいる人間には踏み入れることを許しておる。……後は面白そうな人材があれば、か。」
「僕たちが入れたのは……」
「面白いと思ったからだろうな。」
そしてエニグマは話が終わったとでもいうように違う方向へ顔を向けると、「見えん」と文句を垂れ始めている。
どうやら例の神とやらの領域でもある、向こうの様子を見ながら話しているのだろう。
そうまでして、スノウの様子が気になる様だ。
ジューダスはそんなエニグマの様子を見ながら、ムッと顔を歪める。
…自分だけ見れて、ずるいったらない。
「僕にも見せろ。」
「阿呆か。私でさえ見づらいのにそんな事が出来るか。」
「少しでもいい。だから──」
「おぉ…。」
何かあったのか、エニグマが感心した声を上げるので余計に気になる。
エニグマの肩を掴み揺さぶるが、もう既にこちらに意識がないのか全く反応しない。
暫くそんな悶着があったが、あまりのジューダスのしつこさに遂に諦めたエニグマが何もない空間に向こうの様子を映し出した。
そこには神々しい場所に“神”のような人物と対峙している、ボロボロのスノウがいた。
立つことも出来ないのか、左腕を押さえ座り込んで“神”と何やら話しているようだ。
……肝心の音声が全くないが。
「……あれが、あいつの信じる“神”…。」
「世界の“神”だ。彼奴、面倒な性格をしておるし、時折天然なのか分からんが私たちには全く意味の分からん事を平気でしでかす。……関わりたくない“神”の指折りに入る奴だ。」
暫く話が平行しているのか、向こうの動きは無い。
というより声が聞こえれば何の問題もないのだが?
「……音」
「贅沢を言うな。不可侵条約だ。」
「そんなことを言ったら狂気の“神”は平気でここに入ってきていたが?」
「彼奴は娘の体に乗っ取って来ただろうが。……全く、不可侵条約を何だと…」
するとスノウの体が光り輝き、ボロボロの姿からいつもの姿に戻っていく。
スノウが自身の体を見ているのを、二人は黙って見ていた。
だが、それでも左目を押さえるスノウにエニグマが隠しもせずに舌打ちをした。
「チッ…。やはりやらかしたか。」
「どういうことだ。」
「何故か分からんが娘の左目は影響を受けやすいと話しただろう?だがそれを上回るほどに、あまりにも影響を受けすぎたのだ。」
「……治らない、ということか?」
「分からん。娘のマナに関しては私は役に立てん。彼奴の領域だからな。」
未だに左目を押さえるスノウ。
チラッとジューダスがシャルティエを見下ろし、そしてその先に着けられた鈴を見た。
マナを元に戻すにはこの鈴が有効だと聞いたが、今もそれは変わらないのだろうか?
「ん?」
エニグマの声で我に返り、慌ててスノウの方を見ると、“神”から何かを渡されている様子。
「……彼奴め…、また変なことしでかすのではないだろうな…?」
心配そうな声を上げるエニグマの横で、ジューダスも不安そうに映像を見る。
そして渡された物を自分に向け、スノウが何かをした瞬間、彼女の体が激しく後ろへと吹き飛び、力なく転がっていく。
流石に予想していなかったからか、エニグマがジューダスの隣で息を呑んだ。
無論、ジューダスも言葉を失い、その映像に顔を青ざめさせるほどである。
「彼奴…!!」
怒りの声音でエニグマが映像を見て、拳を握る。
ジューダスも言葉を失って、呆然とその光景を見続ける。
肝心のスノウは映像の中でピクリとも動きはしなかった。
「……少し行ってくる。留守を頼んだぞ。」
「なっ!?待て!僕も──」
エニグマがその場から瞬時に消えると、映像も消えてしまった。
それにジューダスが思い切り舌打ちをした。
『スノウ…。』
「……くそっ。」
こんな時に〈御使い〉の力とやらで何か出来ればいいのだが、そんな事出来はしないことにジューダスは悔しさから指に力を入れ、唇を噛んだ。
その後大分待たされるかと思いきや、思いのほかエニグマの帰りが早く、ジューダスが目を丸くした。
「どうなったんだ?」
「娘は生きておる。だが、まぁ……強引過ぎる、と言ったところか。彼奴に説教してやったわ。」
「……?」
エニグマがすぐに映像を映し出すと、床にちょこんと座ったスノウと困ったような“神”の様子が見て取れた。
恐らくかなり説教されたのだろうことが、“神”の様子からも分かる。
「……。」
「……。」
音のない映像を暫く見続ける。
結局、何が起こったのか分からないままジューダスはその映像をじっと見ていた。