第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___肌をチリチリ焼くような痛みがする。
それに伴い、閉じている瞼の裏からでも分かる赤みが僕には見えていた。
恐る恐る目を開ければ、そこは地獄と化した町の様子だった。
人々の怒号、嘲笑、悲鳴、助けを乞う声…。
耳について離れないくらい、その場所は地獄絵図となっていた。
「(ここは何処だ?何故、僕はこんな所にいる。)」
疑問を浮かべるには充分だった。
だって昨日は何だかんだして夜も遅くなり、部屋でゆっくり休んでいたはずなのだから。
「シャル?」
思えば腰にいるはずの愛剣がいない。
そして、近くに見知った仲間たちの姿もない。
見知らぬ場所で一人、ポツンと僕は佇んでいたのだ。
「殺せ!!殺せっ!!!」
町の人だろうか。
暗い夜の闇の中、松明を持ち他の人を掻き立てるような発言をしている。
それを聞いて他の奴らも感化されたのか、持っていた松明を高く掲げていたのを僕は静かに見ていた。
途端に金属が合わさる音が聞こえたかと思えば、再びこの場には混沌という名が相応しいほどの乱闘騒ぎへ陥っていた。
その中で一人、見た事のある人物がいる。
……いや、一人ではない。
〈赤眼の蜘蛛〉の幹部を名乗っている奴らが一通りいたかと思えば、その周りには赤眼の人達が町の人を相手に戦っている。
これは……どういうことだ。
「(遂にどっちかが火蓋を切ったか?)」
そんな僕の予想とは裏腹に町人が果敢にも〈赤眼の蜘蛛〉に挑んでいく。
その顔には鬼気迫るものがあり、奴らが何かして怒らせたのは明白だった。
「(……僕には関係の無いことだ。それよりシャルやスノウは──)」
「お前ら異人がいるといけないんだよ!異人はバグだ!!バグはあっちゃならねぇ!!!始末しなけりゃいけねえんだよ!!!!」
「「「「そうだそうだ!!!!」」」」
「バグは▲□×△■しろ!!」
「「「「▲□×△■だ!!▲□×△■!!」」」」
何故か、その言葉だけ聞き取れない。こんなに近くに居るのにも関わらず、だ。
しかし、嫌な予感がする。
異人というのは何も〈赤眼の蜘蛛〉の奴らだけでは無い。
自分の身近にもいるのだ。
__“大切な彼女が”。
「赤眼を殺せ!!赤眼はバグだ!!▲□×△■だ!!!」
「「「赤眼!!赤眼!!」」」
……彼女は赤眼じゃない。
正直、〈赤眼の蜘蛛〉がどうなろうと知った事じゃない。
僕は引き続き仲間たちを探そうとしていた時だった。
遂に始まった戦いの火蓋。
周りの喧騒がいやに耳について離れない。
まるで……洗脳されるかのように脳に刻まれて離れない。
“赤眼だけが悪”だ、とでも言うような群衆の叫び。
それを僕は首を振って頭の中に刻み付けられた思想を消そうとした。
そんな中、僕は見つけた。
愛してやまない海色の瞳を持つ彼女───
「………………は…?」
__おかしい。
___おかしい。
____絶対におかしい。
だって、
彼女の瞳は海の様に綺麗な、海色の瞳のはずなのに。
何故、
「……スノウ。お前…」
僕の声が届かなかったのか、彼女は自身の相棒を手に、必死に町人と対峙していた。
その顔には疲労や困惑、悲愴な表情が見て取れた。
そして、その瞳は…………赤だったのだ。
「違う…」
そうだ、違う。
彼女は赤眼なんかじゃない。
だからこの群衆の敵ではないし、彼女が敵に回っているのもおかしい光景のはず。
なのに、
「────!!」
何を叫んでいるのか分からないが、彼女が口を開いて何かを声に出したのは確実なのに、何故こっちに聞こえてこない?
彼女お得意の魔法で群衆を一掃するかと思いきや、魔法という手段を端から知らないかの如く、相棒を片手に接近戦しか行っていない。
僕は急いでシャルを持ち応戦に行こうとした。
だが、その肝心の愛剣がいないのだ。
周りを見て武器になりそうな物がないか見渡していると、僕の目の前で誰かが倒れ込んできた。
それは、修羅だった。
普通ならば、倒れ込んでもすぐ立ち上がるような奴なのに、そいつはもう動かなかった。
それを見て一気に僕の中で焦りが生まれる。
修羅の奴の強さは僕が一番嫌という程熟知している。
その修羅が動けなくなるほどの強さを持つ、何かと〈赤眼の蜘蛛〉は戦っているのだ。
その上、この群衆は赤眼であれば見境なく攻撃しているように見える。
そうなればとにかく、今赤眼である彼女の身が危ない!
「スノウっ!!」
修羅の奴の武器を手に取り、彼女の元へ向かおうとした。
だが……遅かった。
目の前で彼女が群衆の一人に斬られていた。
飛び散る血。
スローモーションで倒れゆく、彼女の体。
必死に僕は手を伸ばして彼女の名前を叫んだ。
護ると誓った、彼女の名前を。
無情にも彼女の体は倒れ、そして動かない。
僕が慌てて近寄れば、彼女は目を閉じて血の気のない顔で気絶している。
口元に手をやれば、呼吸していないことが分かる。
嘘だ、ウソだ。
彼女が死ぬはずない。
とめどない流血を止血しようと試みるが、検討虚しく血はみるみる流れゆく。
あぁ、あぁ、うそだ。
これは夢だ、現実じゃない。
「うぁぁああああああああ!!!!」
ガバリと起き上がると、そこには驚いた様に激しく明滅している相棒が近くに置かれている。
荒い呼吸を整えようとしながら僕は呆然とその光を見ていた。
『ぼ、坊ちゃん?どうしたんですか?叫びながら起きるなんて……』
「はぁ、はぁっ、はぁっ。……ここは…?」
『夢でも見てたんですか?ここはまだ奴らの本拠地でもあるレスターシティですよ?』
周りを見渡せば、ぐっすりと寝ている男ども。
三人くらいはいびきをかいて寝ており、僕の悲鳴じみた叫び声もこいつらにかき消されたのであろう事が分かる。
その三人は寝相も悪いせいで、布団からかけ離れた場所で寝ていたが…。
「……夢…?」
『?? 大丈夫ですか?坊ちゃん。最近、妙な夢を見て起きることが多いようですが…。スノウに相談してみますか?』
そうだ、スノウ…!
いつもの様に何故か彼女の安否が気になる。
悪夢を見てしまい、その内容を全く覚えていないが、それでもスノウの安否が気になって…。
それからまた外に出るのがいつもと同じ慣例だった。
だが、今回だけはそうもいかないようだ。
「アーサー!!!!」
花恋が血相を変えて男部屋に入ってくる。
そして、アーサーを見つけるとその体を大きく揺すり始める。
「アーサー!!!起きて!!起きてよ!!スノウが!スノウが死にそうなのよ!!!!」
その言葉に僕は息を呑んだ。
シャルもその言葉に息を呑んだようで、コアクリスタルには光が激しく明滅していた。
瞼を開けたアーサーと修羅まで体を起こす展開になり、全員が慌ただしく入ってきた花恋を見た。
「何事ですか…。こんな夜中に…。」
「そんなこと言ってる場合じゃないの!!!スノウがこのままだと死んじゃうのよ!!!!」
「はぁ?!」
その言葉に一気に覚醒したらしい修羅が顔色を変える。
アーサーも流石に覚醒したようで、訝し気な表情を浮かべ花恋を見た。
「詳しく。」
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ!!苦しんでるの…!!!早く助けて!!?」
「分かりました。花恋、貴女は医療班を呼んできてください。」
「わ、分かったわ…!」
そう言って慌てて部屋の外に出た彼女を見てアーサーが動き出す。
「一体、何が起きてるんですか…。」
「俺も行く。」
「ええ、どうぞ。人員は多いほど救出率が高くなりますから。貴方はどうしますか?言わなくとも…察しますが。」
「当然だ。僕も行く。」
「なら、すぐに向かいましょう。確か、女性部屋の方でしたね。」
男三人で走って女性部屋に行く。
するとベッド上で胸を押さえ、苦しそうにしているスノウがいた。
困惑しているナナリーとリアラが僕を見て安心したように顔を少し緩ませた。
「何があった。」
「分からないの…!スノウ、急に苦しみだして…!回復の術を掛けてるのに全然効かないの!!」
「うぅ、くっ…。」
『尋常じゃない痛みのようです…!!このままだとどうなるか分かりませんよ?!』
「他に何か原因となるものはありませんでしたか?」
「別に、何か食べたわけでもないし…。ただ話してただけだよ…。」
「回復かけても駄目だったんだよな?」
「うん…。何故か効かないの。」
「___キュアコンディション。」
修羅の奴が回復を掛ける。
しかし、
「く、うあああああああ?!!!」
「「「っ?!」」」
修羅の奴が回復を掛けた瞬間、スノウが余計に苦しみだし全員が驚いた表情を浮かべた。
「救急班と医療班、到着致しました!!」
「彼女を。」
アーサーが端的にそれだけ言うと、医療班にスノウが見えやすいように体をずらせる。部屋の中に何人もの医療班が入り込んでいく為、僕達は全員スノウを残し外に出た。
すると急に医療班の悲鳴が聞こえてきた。
「ぐあぁ!!!」
「ぎゃあああ?!!」
「「「「「っ?!」」」」」
「何が起こっているのですか!!」
「彼女が…!」
慌てて外に出てきた医療班を見て、僕達は中へと目を凝らせる。
すると、息を切らしながら自身の相棒を持ち、こちらを見ているスノウがいた。
「……赤眼…?」
そう、彼女の瞳が真っ赤だったのだ。
僕が間違うはずが無い、その色は海色だったはずだ。
なのに、何処かその赤い瞳の彼女を見たことがある気がしていた。
「うううっ!!!」
威嚇するように相棒を構えるスノウ。
それにリアラとナナリーが息を呑んだ。
「スノウ!落ち着け!!」
「はぁ、はぁ…!うぅ、うぅ、はぁ…!」
まるで錯乱しているかのような状態。
赤眼で僕をとらえると、スノウは僕に向かって一気に歩を進め、相棒を振り下ろした。
慌ててシャルを手にして、それを受け止めると修羅やアーサーが分かったように口を開いた。
「「……“発作”!?」」
「“発作”、だと…?!」
「おい、ジューダス!!こいつがこうなった時、薬はどうやって飲ませたんだ!?」
「なに、を、訳の分からない、ことを…!!」
修羅の言い分が分からず、今は彼女の剣を受け止めるのに精一杯だ。
下手したら彼女を傷付けてしまうかもしれない。
そんな事、勿論したくはない。
「まずいですねぇ…。かなり“発作”の重度化が進んでいます。一旦、大人しくしてもらうしか方法はありません。」
「……っ。仕方ないか…!」
修羅とアーサーが剣を構えた所で、慌ててリアラ達が止めに入る。
「ま、待って!?“発作”ってなんなの?!」
「〈星詠み人〉特有の病気ですよ。こればかりは完全に治しようがなく、薬を飲むしか一時的に治す方法はありません。」
「そんなの、今までスノウには無かったよ?!」
「そうなのですか? なら、何故急に…?」
「おい、考え事なら後にしてくれ!!来るぞ!!」
スノウはシャルを大きく薙ぐと、今度の標的は修羅に切り替わった。
「は、かい……!」
「よりにもよって、発作が“破壊衝動”だとは。厄介ですねぇ?」
「言ってる場合か!!」
修羅がスノウの剣を受止め、どうしようかと瞳が揺らがせた。
その隙にアーサーが魔法を完成させて、発動させる。
「捕らえよ___リストリクション」
スノウの下から茨が現れ、スノウを絡めとる。
暴れるスノウだったが、強く拘束されて抜け出せない。
ギリギリと縛り上げるその行為に痛みが来るのか、スノウが堪らず悲鳴を上げた。
「ああぁああぁぁぁぁ?!!!!」
「「「「スノウ?!」」」」
『やめてください!!スノウが可哀想です!!!』
「医療班、彼女に鎮静剤を打ちなさい。」
「「はっ!!」」
アーサーが詠唱そのままに医療班へと静かに命令を下す。
その医療班が近付こうとすると、スノウの標的は一気にその医療班へ。
「────」
スノウが何かを呟いた途端、拘束していた茨が燃え上がり、簡単に拘束を抜け出してしまう。
そして医療班を傷付けようとするスノウの剣をジューダスがシャルティエで受け止める。
「くそ、目を覚ませ!!スノウ!!!」
「今の彼女に何を言っても無駄です。全員、武器を持ちなさい。彼女と交戦し、無力化させます。」
「「っ!!」」
全員が恐る恐る武器を手に取る。
そしてアーサーが見本を見せるかのように先手を打った。
「凍りつきなさい___アイスロック。」
「────」
アーサーの魔法を打ち消すかのように、スノウが炎を召喚する。
凍りつくはずだったスノウは炎によって守られたのだ。
修羅は覚悟を決めた様子で、剣を持ちスノウへと攻撃を開始した。
「驟雨魔神剣!!」
「────!」
絶対障壁のようなバリアーを張り、修羅の攻撃を防いだスノウは詠唱の構えに入った。
まるでセルリアンがスノウに化けていた時にやっていたかのように。
今までのスノウならば、そんな構えをしなかったのに…!
「───!!」
短く詠唱したその魔法は修羅の足元から炎を巻き上げる。
そしてそれに勘づいた修羅もすぐにそれを避け、大事には至らなかった。
「くそっ…。スノウ相手だとやりづらいな…!!」
「その発作とやらをどうにか治せないのか?!」
「今の段階なら鎮静剤を打つか、薬を飲ませるか!どっちかしかねぇよ!」
「凍て付け、氷___フリージングドライブ」
アーサーは変わらずスノウへと攻撃をしており、しかしその攻撃たちは全てスノウの魔法で最初にかき消されてしまっていた。
そこに、ようやく騒ぎに気付いたのかセルリアンが起き上がり目を擦る。
「……?」
少女の姿をしたセルリアンは全員を見たあと、スノウを見て顔を顰めさせる。
「だから言った。……混在してるって。」
「セルリアン。彼女を無力化するのを手伝いなさい。」
アーサーの言葉にすぐ反応し、セルリアンは近くにあった剣を持つと、スノウへと攻撃の構えを見せた。
その瞳はスノウに固定されていたが、少しするとその瞳は何かを探すようにキョロキョロとし始める。
そして、
「よい、しょ…!!」
彼女の……スノウのカバンを持つとそれをスノウの体へとぶつけた。
突飛なセルリアンの攻撃にアーサーも目を瞬いていたが、何よりスノウもそれを躱しきれなかったようで、セルリアンの攻撃を直に受けていた。
しかしただそれだけではない。
そのスノウのカバンが光り出したかと思えば、その瞬間、スノウが眠るようにゆっくりと目を閉じ、その場に倒れてしまった。
急に起こった出来事に、僕も修羅の奴もスノウを心配して駆け寄った。
「「スノウ?!」」
「……大丈夫。少し寝てるだけ。」
「何をしたんだ?」
「今、スノウの中には2つのマナが混じりあってる。だから苦しそうにしてた。」
「「「「??」」」」
「スノウの中に流れてるマナは甘くて美味しい……。でも、皆に流れてるマナは苦くて苦しくなる味。」
「(そういえば、以前セルリアンはマナを味で例えていましたね…。)」
アーサーがセルリアンの言葉を聞き、ふと前のことを思い出していた。
それが今関係してくるとは。
「スノウ、ここの食事を食べちゃったから。それでマナが変な風に変換……っていうか、作り替えられて、スノウの甘くて美味しいマナと混じり合ったの。」
「「「???」」」
「まぁ、その辺はウィリアム博士に任せるとして…。彼女に鎮静剤を打ちます。修羅、手伝いなさい。」
「……分かったよ。」
そう言って修羅は倒れたスノウを押さえ込む。
医療班がそれを見て恐る恐る近付き、スノウの腕に注射を刺す。
中の液体がスノウの体に入っていくのをじっと見ていたが、セルリアンが徐ろに首を横に振った。
「ジューダス……だったっけ?」
「……なんだ。」
「あのままじゃあ、スノウは治せない。」
「は?」
「結局、悪いマナが身体中をぐるぐるしてるから…。だから悪いマナをなくさないといけない。私がマナを吸ったら悪いマナだけじゃなくて、良いマナも吸っちゃうから……。だから、スノウのマナを元に戻す方法を探して欲しい。」
「マナを、元に戻す……。」
『食事会の時にマナの話もしましたが……。何の解決にもならなかったはずです。それを元に戻す、だなんて…。』
「無理ならスノウは周りのものを破壊し続ける。そういう病気みたいなものなの……。自分の意志とは関係なく、ただただ……破壊の限りを尽くすの。」
「……。(それが本当ならスノウは、自我を取り戻した時にどう…思うんだろうな…。また、他人を寄せつけなくするんだろうか。それは僕でさえも……近付けなくなるのだろうか…。それは……嫌だ。)」
そこまで考えてしまい、ギュッと拳を作るジューダス。
そして、マナを元に戻す方法とやらを探すために、一度情報を整理し始めた。
確か、マナは〈星詠み人〉の中にあるもので僕達のようなここの世界で生まれた人間には無いものだと言っていたはずだ。
そして、マナは〈星詠み人〉にとって血肉のようなもの───つまり、体内で作られるものだと言っていた。
それが本当ならばセルリアンが言っていた、ここの食事を食べて今のスノウの状態……所謂“破壊衝動”という“発作”が起きた、とするならば。
〈星詠み人〉は体の中で出来る血肉の様に、食事によってマナが生成されると思っていい。
そのマナの生成段階でおかしな事が起きた。
そして、“ここの食事を食べて”という所も大事な気がする。
後は、二つのマナが混在していると言っていたセルリアンの話───それが本当なら、スノウの中にあるマナと奴ら〈赤眼の蜘蛛〉が保有しているマナは全く違うものになる。
それが混じり合い、スノウにおかしな事が起きた…。
だが、肝心のマナを戻す……というのは…。
『坊ちゃん、なにか思いつきそうですか?』
「……後、少し…。あと少し情報が足りない…。」
「マナの事なら何でも聞いて。スノウの美味しいマナが戻るなら何でもする。」
セルリアンが僕にそう話しかけてきたので、遠慮なく聞くことにした。
「スノウのマナと奴らのマナが違うのには何か理由があるのか?」
「それは……分からない。でも、明らかに違うもの。例えるなら、甘い砂糖水と泥水みたいに違う。」
「そんなに、か。」
「それがスノウの中で混じりあってしまって、取り除けないの。……無理に取り除こうものなら、全部マナを吸わないといけないから死んじゃう。」
「っ、」
確か、マナは〈星詠み人〉になくてはならないものだとも言っていた。
血液と一緒で、無くなれば失血死のように……死んでしまう、とも。
セルリアンの提案に僕は無意識に身震いをしていた。
どちらにせよ、治すためにスノウの中からマナを取れば死が待っていて、何もせず起きればまた僕たちを攻撃してくるのだろう…。
「……?」
セルリアンが不思議そうな顔をして、スノウのカバンを見つめる。
その間にも医療班がテキパキと治療を進めていて、スノウを救急室へと運びこもうという話にもなっていた。
それをアーサーと修羅が見届けようとしていた矢先、セルリアンがそれらを止める。
「……これ、あげる。」
セルリアンからカバンを受け取ると、少女はアーサー達に何かを話に言ってしまった。
そして、僕はそのカバンを一度見下ろすと、カバンの中で何かが光り輝いていた。
……これは、スノウが大事にしていた何かの像、か?
それをよく見ようと僕が像に触れると、不思議なことに頭の中に文字が浮かんでくる。
それを見て僕は慌てて修羅達を止めた。
「待ってくれ!!」
「「?」」
アーサーも修羅も僕の慌てた様子に首を傾げている。
そして僕は医療班に連れていかれそうになっていたスノウの近くへ寄り、二人を見据える。
「スノウを治しに行ってくる。」
「は?」
「……貴方がボク達にそう言ってくるということは、何かアテがあるのですね?」
「あぁ。だからこいつを連れていく。」
僕は彼女の両手を持ち、背中に背負う。
すると、近くにいたナナリーとリアラも頷いて僕の側へと寄ってきた。
「私達も行くわ!」
「カイル達を呼んでくるよ!」
ナナリーが走っていき、それを見て修羅も僕を見据えると小さく口走った。
「……治らなかったらただじゃおかないからな。」
「ふん。」
そう言って修羅もついていく、と海琉を起こしに行った。
それと入れ違いに花恋が合流して、心配そうにスノウを見る。
アーサーがそれを見て、首を横に振った。
「彼女は彼らに任せましょう。こちらとしては、丁度いい足止めになります。」
「うん…。心配だけど…待つ。」
「ウィリアム博士は?」
「起こしに行ったわよー?でも、起きなかったのよ。」
「……完全に飲みすぎですね。」
呆れた声でアーサーが花恋にそう言うと、花恋に少し笑顔が戻る。
そのアーサーの近くにセルリアンが寄っていった。
「……行きたい。」
「貴方もですか。」
「えぇ?!じゃあ、私も行きたい!!」
「貴女には別件をお願いしたいと思っていたので、行かせませんよ。」
「えぇーーーーー!?」
「セルリアン。勉強の為にも行ってきなさい。あと、彼らの行動を見張るのです。」
「分かった。」
セルリアンは大きく頷き、ジューダス達の元に駆け寄る。
少女の姿のセルリアンが寄っていくと同時に仲間たちもジューダスの元に集う。
『坊ちゃん、アテがあるんですか?』
「あぁ。こいつを治すには直接乗り込むしかないらしいからな。」
「「「「『??』」」」」
「行くぞ。願いの叶う店……いや、エニグマの所へ。」
そうジューダスが話すと、スノウのカバンから一筋の細い光がどこかへ向かって一直線に伸びていく。
それを全員で目を見張ると、ジューダスは分かっていたように頷いた。
そして、そのか細く白い光の案内の元、仲間たちは歩き始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
___カルバレイス地方、〈無景の砂漠〉地帯
容赦なく照り付ける太陽がジューダス達を襲っていた。
そんな強烈な太陽の光の元ですら見えるスノウのカバンから出ている白い光の筋。
それを頼りに仲間たちは暑い中、ただひたすら歩いていた。
「暑ぃー。」
「またここに戻ってくるなんて思わなかった、ぜ……。」
カイルとロニがそう零す。
流石にこのしつこい暑さから、誰からの口からも苦言が漏れる。
下からも上からも暑さがやってくるのだからたまったものじゃない。
「……。」
それでも、ジューダスは気力を振り絞りスノウを背中に背負いながら歩き続ける。
「代わってやろうか?」
「いや、いい。お前はお前で他に気を配っていろ。魔物の探知とかな。」
「へーへー。」
嫌そうに零す修羅だが、ちゃんと探知はしているようでたまに頭に手を置いているのをジューダスは知っていた。
それに、もしこの状態で〈ホロウ〉との戦闘になれば動けるのは修羅しかいない。
何がなんでも彼に背負わせたくないのもあるが、そういった理由からジューダスは彼の提案を拒んだのだ。
『スノウ、よく寝ていますね。』
「……鎮静剤の作用がまだ効いているんだろう。」
「一応、薬も打っておいたし暫くは“発作”が起きる事もねえよ。」
修羅がジューダスの言葉を聞いてそう訂正する。
修羅にはシャルティエの言葉は聞こえない。
だが、ジューダスの呟きには反応出来たのだ。
「でも、根本を治さないと発作は治らない。」
そのまた隣にいる少女からもそう零される。
そう言えば、こいつはいつまでついてくるんだ?
「お前、いつまでついてくるんだよ。」
「ずっと。」
「はあ?ウィリアム博士が心配するだろ?戻ってろよ。」
「アーサー様にはちゃんと言ってきた。」
「……あいつ、俺達に監視をつけたな…?」
「まぁ、いい。取り敢えずこいつを治すのが先決だ。」
「私、役に立つ。」
そう言って少女は頼りなさそうに拳を握り、修羅たちの前に見せつけてきた。
それを見て二人は思う。
___どこからどう見ても頼りない、と。
「……戦闘になったら役に立てよ?」
「分かった。任せてほしい。」
少女がそう頷きながら肯定すると、先頭組から慌てた声が聞こえる。
「うわ!!!大きい魔物だ!!!」
「カイル!こいつぁ、サンドワームだ!!」
ロニの言葉にジューダスと修羅が顔を顰めさせる。
その魔物はここら辺一帯の中でも、巨大で強い魔物だったからだ。
「お前ら!近くにいるタイニィワームに注意しろ!!」
「え?!どれ?!」
「サンドワームの幼体だ!無限に砂から湧き上がってくるから相手にするな!」
「つったってよー?!」
ロニとカイルが悪戦苦闘する中、海琉は既にサンドワームと戦闘しており、ナナリー達も加勢しに行っていた。
修羅が嫌そうに愚痴をこぼし、サンドワーム目掛けて走り出す。
「チッ…。こんな時にサンドワームかよ…!!」
「私も行ってくる。」
少女は瞬時にスノウの姿に変わると、武器を持ち走っていく。
その姿にジューダスが僅かに目を見張ったが、すぐに首を横に振る。
……あれは偽物だ。
「……ぅ、」
「!」
『え?!スノウ、起きちゃいますか?!』
「……ここで起きられるとまずいんだが、な。」
『逆にサンドワームを倒してくれませんかね?』
「その後は恐らくだが、僕達を標的にするだろうな?」
『やっぱ、起こすのやめておきましょう!?』
賢明だな、とジューダスが小声で零し息を潜める。
しかし、スノウが起きる気配は無さそうだ。
それに安堵の息を吐いていると、いつ間にか向こうでは戦闘が終わっていたようだ。
仲間たちがこちらに集まってくるのを歩きながらジューダスは見ていた。
「お腹空いたー…。」
「お前…、さっき出てきたばっかだろーが……」
そんなことを呟く甥にジューダスが呆れながら近寄る。
「それより、早く行くぞ。……スノウが起きそうだ。」
「「「!!」」」
チラッとスノウを見たジューダスに、仲間たちが静かに頷き移動を開始する。
この茹だる暑さに耐えながら再び一行は光の先へと進み続ける。