第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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「と言うより……お前捕まってないんだな。平然と歩けている様だが……。」
『本当ですよ!てっきり捕まって何かされてるのかと思ってこっちは大慌てだったんですよ!!』
「……まぁ、こっちも色々あってね?」
「色々?……まさか…。」
そこまで言って、シャルティエもジューダスの言うことが分かったかのように息を呑んだ。
『も、もしかして……、〈赤眼の蜘蛛〉に入った……とか言わないですよね?何か条件を出されてそれを呑んだとか…?!』
「はははっ…!想像力豊かだね…!」
「で、どうなんだ?向こうの条件を呑んだのか?」
「いや、そこは安心していい。ある意味条件を呑んでいるけど、〈赤眼の蜘蛛〉に入った訳じゃないよ。」
『その“ある意味”が怖いんじゃないんですか!!』
コアクリスタルが激しく明滅し、ぎゃあぎゃあとシャルティエが騒いでいるものの、それは私を心配してだと分かっているので微笑み返す。
それを見て、コアクリスタルが明滅を止める。
少しだけ安心したのか、ゆっくりと光を点滅させるだけになったのを見て、ジューダスも頷いた。
「その条件とやらは分からないが……ともかくお前が無事で何よりだ。」
「心配かけたね?後は彼が話してくれると思うけど…。」
『彼? 彼って誰の事ですか?』
私は一度二人から視線を外し、後ろを振り返った。
そこには黒いローブで全身を覆っているアーサーが立っていた。
急に現れたその黒いローブの人物にジューダスとシャルティエが息を呑み、ジューダスに至っては武器に手をかけた。
〈星詠み人〉でないと、〈星詠み人〉の気配は読み取れない。
だからジューダス達が驚いたのだ。
「酷い人ですねぇ…? 人が折角監視を兼ねて案内している最中でしたのに、お一人で先に行ってしまうなんて。」
「君は案内を放棄して笑っていた……、違うかい?」
「フッフッフ…!まぁ、そうですね。ボクが我慢出来ませんでした。それについては謝りましょう。申し訳ありません。」
アーサーの声が聞こえたからか、今まで喧嘩していた修羅と花恋がピタリと止まり、それぞれ武器を下ろした。
玄もアーサーの近くに寄り、腕を組んで言葉を待っているようだった。
そんな中、カイル達は武器に手を置き、アーサーに対して警戒をしていた。
それは海琉も同じだった。
武器を手にし、アーサーを親の仇の如く、鋭く睨んでいる。
「おや。貴女の方から説明して下さってると思ってましたが?」
「何処ぞの誰かさんが私を攫ったお陰で、今感動の再会を果たしていたところだよ。まだそこまで説明していない。……それに、こういうのは君から説明すべきなんじゃないのかな?」
「分かりました。そうであれば説明しましょう。」
誰もが固唾を飲む中、アーサーは例の言葉を言い放った。
「では、ここに居る全員で懇親会をしましょうか。」
「「「「「「『……はぁ?!』」」」」」」
「ほらね? 皆も私と全く同じ反応だろう?」
「フッフッフ。想定の範囲内ですよ。……玄、ウィリアム博士を呼んできてください。そろそろ始めますよ、と。」
「あい分かった。お主の言葉、確かに聞き届けた。」
そう言って玄が何処かへ消えていくのをカイル達は何が何だか分からないといった顔で見送った。
そして彼らの視線はアーサーとスノウへと向けられる。
「ここらでボク達と親睦を深めましょう、と言っているのですよ。」
「いやいや…。意味分かんねぇよ。なんでアンタらみたいな敵と仲良しこよししなくちゃいけねぇんだよ。」
「美味しい食事もありますよ。」
「え?!美味しい食事?!」
「「「……。」」」
目を輝かせカイルが一番に飛びついた。
想定内だったジューダスとスノウはそんなカイルの様子をやれやれと肩を竦めて見ていた。
「ロニ!食べ物が出るんだって!」
「バッカ…!こういうのは毒が入ってたりするかもしれねぇだろ?!お前ももっと慎重になれよ…!」
「でも、スノウは無事だよ?」
「まぁ、まだ毒の入った料理は堪能していないね?」
「これから入れる可能性もあんだろーが!」
話が平行線へ行こうとする中、アーサーはそれでも笑いを崩さずカイルたちを見ていた。
「美人なお姉さんもお呼びしましたよ。」
「よし、カイル行くぞ!」
「「……。」」
ジトリとした女性陣からの視線を浴びてもロニはカッコつけて髪を気にし始めていた。
それにはジューダスも頭を振り、否定をする。
「……お前らは揃いも揃って阿呆ばかりか。罠に決まってるだろう?」
「我々としては貴方達が持っている情報と我々が持っている情報……、どちらも交換しようと思っていましてねぇ…?親睦会とは言っていますが所謂情報交換の場、と考えて頂けたら。……貴方だって、色々気になる事があるのではないですか?例えば……我々〈星詠み人〉の事や、〈ロストウイルス〉の事…。」
『「…!!」』
「(こりゃあ……相手が優勢だなぁ…?流石、〈星詠み人〉を纏めるトップだね…。)」
遂にはジューダスまで考え込んでしまい、スノウは苦笑いを零して仲間達を見た。
それを見たリアラとナナリーは、スノウへと問いかける。
「さっき、スノウが条件を呑むとか話してたわよね?それってこれの事?」
「まぁ、そうだね。彼らは純粋にこちらの情報に興味があるようでね?こちらとしても向こうの情報があった方が対処はし易いかと思って了承したんだ。……まぁ、本当は時間稼ぎが目的な様だけど…それでもメリットは大きいと思う。でもそれは私だけのメリットであって、リアラ達にとって有益な情報が来るとは限らない。君達がそのまま旅を続けてくれるなら、私は彼らと情報交換をした後君たちを追いかけよう。だからこの誘いを受けるかどうかはみんなで決めていいよ?」
「って言ってもねぇ…?」
ナナリーが改めて仲間たちを見渡すが……、カイルは既に食べ物の事で頭がいっぱいだし、ロニも美人な女性ということで行く気満々である。
肝心のジューダスも情報が欲しいのか、その瞳は大きく揺れ動いている。
そんな三人を見てリアラは大きく頷き、スノウと向き合った。
「私はスノウとカイルを信じるわ?」
「そうだね。アタシもスノウを…、仲間たちを信じるよ。……それに、何かあったら全力で何とかすればいいだけさ!」
「なるほど。二人の意見は分かったよ。……ちなみに。折角の親睦会って事で、ここの温泉に入れてもらえるらしくてね?ナナリーと約束もしてたし、魅力的だから誘いに乗ったのもあるんだ。」
「「温泉…!」」
それを聞いてようやく楽しみが出来たのか、リアラもナナリーも先程よりも緊張を解いていた。
何よりスノウが大丈夫だと言っているので、それも安心の材料であるが、それをスノウが知るはずもなく話は着々と進んでいく。
「結局、親睦会をするってさ。」
「分かりました。では準備に移りますので、皆さんの案内を……花恋、お願いしますよ。」
「はいはーい!食堂よね?!」
「えぇ、そうです。ボクは先に準備をしていますから彼らをゆっくり案内してあげてください。」
そう言って瞬時に魔法で消えていったアーサーを見送り、花恋はスノウの腕に抱き着きながら腕を上げた。
「じゃあ行きましょー!!」
修羅と海琉も警戒しながら付いていく事にした様で、私たちは花恋の案内で食堂へと通されたのだった。
___レスターシティ、研究所内の食堂。
食堂は貸切にしているのか、スノウたち以外に姿は無かった。
それを気にした様子もなく、花恋はスノウの腕を引きながらテーブル席へと案内する。
「こっちよ!こっちー!」
「ちゃんと人数分は用意されてるね。」
ちゃんと修羅や海琉の分の席まで用意されている所を見ると事前に調査をしていたのか、それとも来ると端から分かっていたのか…。
それを不気味に思いながらスノウと花恋以外の全員が恐る恐る席へと着く。
「スノウってば、朝起きたら何処にも居ないんだもん。探してたらあの人達に会ったの!!」
「あぁ。気持ちよく寝てるのに起こすのも可哀想かと思ってね?それに、アーサーという彼がお目付け役で居てくれたからお陰でこの研究所内を案内してもらったよ。」
「えぇ!?私が案内したかったのに…。」
そうやって賑やかに着席したスノウ達。
そこへ白髪で眼鏡をかけたおじいさんが食堂へとやってきた。
「……なんじゃ、もう始まっとるのか。」
「あ!博士!こっちこっち!」
花恋がそのおじいさん───ウィリアム博士へと手招きをすると、花恋を視界に入れた瞬間、途端に博士は顔を顰めさせた。
そして辺りを見渡し、修羅や海琉を見て僅かに目を見開く。
「ほう?お主たちもおったか。」
「居たら悪いのか?ウィリアム博士。」
「いやいや、悪いことなどありはせぬよ。ゲヘヘ…。そういやぁ、噂に聞くと〈赤眼の蜘蛛〉を裏切っておったようじゃな?修羅よ。」
「……まぁ、あんたも幹部クラスだからな。知ってて当然か。」
「どうじゃった?わしの研究成果でもある“セルリアン”は?記憶を抜き取られる感覚は?体におかしな部分は無いのか?廃人となった感想は?」
そう言いながら手招きしていた花恋の方ではなく、修羅の方へと近寄り下卑た笑いを零している。
そして感想を聞きたいと修羅に詰め寄っていた。
「げ…。(このじいさん……研究の事となると人が変わるからな…。適当にあしらうか…?)」
「廃人になる前、どんな感覚じゃった?!“セルリアン”の瞳を見た瞬間、どんな現象が起こったのじゃ?!」
「分かった、分かったから離れてくれ…!」
ウィリアム博士の顔を手で押えながら離れさせようとしたが、あまりの剣幕に少したじろぐ。
……何なら少し目が血走っている。
「あーあ。博士があんな状態なら止められないわね!うふふっ!かわいそー!」
「……マッドサイエンティストの自我って、たまに壊れるね…。やっぱりどこでも一緒だなぁ…。」
「……ふん。」
ジューダスがリオンだった時代…そして、スノウがモネだった時代に数回会ったことがある研究員がいる。
あれも中々に性格が豹変する人だからこそ、二人はそれぞれ反応を示したのだった。
「皆さん集まりましたね。」
「うむ、待たせたな。」
アーサーと玄がやってきて、途端に緊迫した空気が流れた。
それはカイル達から流れているようだった。
「取って食ったりしませんから、まぁ、緩やかに行きましょう。」
「っつってもなぁ…?」
ロニが頭を掻きながら困った顔でスノウを見る。
それに反応したスノウは、苦笑いで応えたが大丈夫だと一つ頷いて見せた。
「まぁ、積もる話もあるでしょうからこちらを気にせず始めはゆったりとしてください。」
アーサーや玄が席に着くと同時に食事が運ばれてくる。
それに渋い顔をするのが大半なのだが、カイルやスノウだけは反応が違っていた。
カイルは豪華な食事に目を輝かせ、並ばれる料理をひたすら見ていた。
スノウはスノウで運ばれてくる食事に毒が入っていないとサーチで分かったので、涼しい顔をしていた。
「では、いただきましょうか。」
「いっただきまーす!」
アーサーの声にカイルが反応し直ぐに食べ始めようとするのを隣にいたロニが慌てて止めた。
「バッカ!早すぎるだろ!!せめて、毒かどうか確認してからにしろよ!」
「えぇ? だってスノウは普通に食べてるじゃん。」
「はぁ?!」
ロニが驚いたようにスノウを見れば、一口、また一口と食事を口にしていた。
「うん、毒は入ってないから安心していいよ。皆の料理にも毒は入ってないみたいだし。」
「おいおい、そんなのどうやって分かんだよ。」
「ふふっ。私が探知に長けているのを忘れたのかい?ロニ。」
「はぁー…なるほどなぁ?なら、俺も頂くとするか。」
「実はお腹すいてたんじゃないか。」
「うっせぇ!」
そうやってやり取りをしているロニとナナリーも料理を口にし始め、隣のリアラも恐る恐る食べ始めた。
既にジューダスはスノウが食べているのを見て食べ始めており、修羅もウィリアム博士の質問に適当に躱しながら食事に手をつけた。
「どうですか?少しは信用してくださいましたか?」
「うん!とっても美味しいよ!」
「はぁ…、お前って奴は……何で質問に対して別の返答すんだよ。」
「まぁ、でも確かにカイルの言う通り、ここに並んでる料理は皆美味しいね。見た事ない料理だけど何処の郷土料理なんだい?」
「この料理たちは私たち〈星詠み人〉の以前居た場所……地球って所で食べられていた料理だよ、ナナリー。興味があるなら教えるけど?」
「へぇ!そうなのかい!折角ならスノウにも食べてもらいたいし、教えてもらおうかね!」
「ふふっ。ナナリーの料理、楽しみにしてる。」
和やかに会話が進んでいく中、ようやく皆の緊張も解れたのか、要所要所で会話が広がっていく。
ある所では研究の話を持ち掛け、ある所では料理の美味しさやらおかわりがあるかの話を。
「緊張も段々解れてきたみたいですねぇ?」
「まぁ、美味しい料理の前では無礼講ってやつだよ。」
「堅苦しい話は抜きで、って事ですね。」
「まぁ、私としてはそんな中でも堅苦しい話をしてもいいよ?君達の情報が欲しくてここにいる訳だからね。」
「フッフッフ…、分かっていますよ。では、そちらから質問してもいいですよ?」
「……そうだね。」
正直、エルレインの動向を知りたいがカイル達の前でその話をする訳にもいかないか…。
この時間軸ならベルクラントから発射される光を見て彼らが動いてもいいはずなのに、一向にそれが見受けられない。だから気になったのだ。
「…今後の〈赤眼の蜘蛛〉の方針を聞いておきたい。修羅や海琉をああやって裏切り者扱いしている中、今後どうしていくのかを。」
「なるほど。最初の話題にしては的を得ていますね。ではお答えしましょうか。ただその代わり、貴女だけにしか出来ない質問をしますが……如何ですか?」
「……。(なるほど、そう来たか……。)」
『スノウ!負けないでください!情報を全部抜き取ってしまう気持ちで行きましょう!』
「!! シャルティエ…。」
「そうだな。こちらもリスクを負う覚悟をしないと良い情報は貰えないと思った方がいい。……それに僕もいる。何かあったら助言やら助け船くらいしてやるから大舟に乗ったつもりで行ってこい。」
「ジューダス…。うん、そうだね。結局どれもこれもリスキーなのは変わらない。なら、前へ進まないと。」
その言葉を聞いてアーサーもニコニコと笑顔を深めた。
さぁ、腹の探り合いの始まりだ。
「では覚悟が出来た、という事でお話しましょうか。我々の方針は変わりません。〈星詠み人〉の楽園を作る…。それだけです。ただし、あなた方がされている事関しては、こちらとしては不都合なのです。……そう、殺されては堪らないのですよ。その先貴女たちが出会うであろう、とある“神”をね?」
「……。」
「もうすぐ出来る夢の籠……とでも言いましょうか?貴女なら分かっていると思いますが、我々の仲間となった聖女はこれからある事を成し遂げます。この世界にいる全ての人間に……幸せの夢の籠を与えることでしょう。……あぁ、なんて慈悲深いのでしょうねぇ…?クックック…!!」
「やはり、エルレインは諦めてなかったのか。」
「流石にこちらから先手を打たせていただきますよ?スノウ。」
夢の籠…。
恐らくこの後シナリオ通りに行くなら、エルレインによって人々は幸せな夢を見させられる。
それも、“強制的”に。
そしてリアラがカイル達の夢の中に入り、仲間たちを目覚めさせる。
現実の世界へと呼び戻すのだ。
「逆に、それなら私としては好都合だ。シナリオ通りに進んでいるのだからね。」
「果たして、そうでしょうか?」
「(やはり長い時間を掛けている分、何かしら仕込んでいる…という訳か。厄介だね。)」
「夢を見るのはこの星の元に生まれた原住民達。我々、〈星詠み人〉には関係の無い話ですよ。我々には、我々だけの楽園を築くという使命があるのですから。……ですが、それだけでは貴女に先手を打たれてしまう。ですから考えたのです。えぇ……それはもう色々と、ねぇ…?クックック…!」
口元に手を当て考え出すスノウを横目にジューダスがアーサーを睨む。
ジューダスにとって、先程の話の内容は分からないものだが、何かよからぬ事を考えているのは明らかだったからだ。
「……なるほどね。では、それさえ突破出来たら私の勝ちだ。」
「まぁ、こちらとしてはまた新たな策を講じるより楽園を創って行く方が先決となりますから。そうなりますかね。」
「それもいずれ、私が壊してあげよう。」
笑みを浮かべて一口食事を口にしたスノウへ、アーサーも不敵な笑みを浮かべる。
「壊されたら溜まったものじゃないですけどねぇ…?」
「ふふ。じゃあ、作らなければいいじゃないか。」
「〈赤眼の蜘蛛〉のトップとして、それは譲れませんよ。」
二人の間に譲れない思いが交差する。
笑みを浮かべ続ける二人に、隣にいた玄とジューダスは目を瞬かせつつ、緊張を孕んだ空気を出し、次の言葉を待っていた。
「まぁ、先程の質問の回答はこんなものですので今度はこちらから質問させていただきますよ。」
「どうぞ?」
「こちらとしても、貴女の今後の方針を聞いておきたいですね。我々の邪魔をするのは先程の質問で痛いくらい分かりました。……ですが、」
そう言って一度言葉を切ったアーサーは、ご丁寧に口元をナプキンで拭きニコリと笑ってスノウを見据える。
「“神”との対話をした貴女の言葉を聞きたいのです。聞いているのでしょう?ボクが“神”の御使いだということは。」
「……そう来たか。」
「クックック…。さぁ、どう出ますか?」
可笑しそうに喉奥で笑ったアーサーは、僅かに笑みを深くする。
「(__彼女は隠している。大事だと思っている仲間たちに対して、今後起こりうる未来も、全て。ただただ動きづらいだけなのに、何故彼らと共に行動したいのか。我々の邪魔をしたいだけならば別行動をして壊しに来ればいいものを、貴女はそれをしない。……さぁ、貴女の答えは?)」
口元に手を当てて考え込んでいたスノウだが、一度大きく頷くと笑顔で答えた。
「どうもこうもないよ。私は皆と旅をして、そして君達の思いどおりにさせない。それが私がここにいる意味だ。」
「ほう?いやに簡単に仰るのですね。そうまで至るのに困難ばかりあったでしょうに。」
「確かに、ここまで来るのも一筋縄じゃいかなかった。でも……」
そう話して、一度言葉を切ったスノウは食事をしながら楽しそうに話している仲間たちを見て笑みを零す。
そして、スノウはその笑顔のまま、アーサーの瞳をじっと見つめた。
「仲間が……。仲間たちが、私を信じてくれるから。そして、勇気をくれるから。だから私はここに居るんだ。」
「……。」
僅かに表情を崩したアーサーだが、スノウの答えに深く笑顔になると「フッフッフ…」と口から笑いを零した。
「まるで、何処かの誰かさんに貴女は毒されたようだ。」
そう言ってアーサーはカイルを見る。
その瞳の奥には最初にカイルと会った時のことを思い出していた。
“
「スノウが違うって言うなら、オレはスノウを信じる!!」
「……その真っ直ぐな目は父親譲りという訳ですか……」
「え?」
”
あの頃とはまた違った顔つきになった物だ、とアーサーがカイルを見ていると、スノウが不思議そうな顔で両者を見る。
でも、その意図が分かったのか「そうかもね?」なんて言葉を残す。
「単独行動の方が圧倒的に楽ですし、彼らを気にかけなくても良い…。なのに、それをしない理由は、ただ単純に“信じているから”とは…笑わせてくださいますね。」
「ちょっと前の私ならそんなこと言わなかっただろうね。それに彼らに黙って別行動もしていたはずだ。でもそれをしないのは、後から来る説教が怖いから、とでも言っておくよ。…あの子達は私が無茶しそうになるとすぐ注意してくるんだ。それに怒ってもくれる。…なんだかそれが今は心地よくてね?」
「完全に絆されているではありませんか。」
そう言ってスノウはジューダスを見て、可笑しそうに笑った。
それに対して、ジューダスもふんと鼻を鳴らすと食事を再開する。
腰にあるシャルティエも、感動したような声で何かを呟いていた。
それもマスターであるジューダスと彼の言葉を認識出来るスノウにしか聞こえないのだが。
「さて。今度はこちらから質問させてもらうよ?」
「まぁ、良いでしょう。他の質問をさせてもらうだけです。では、どうぞ?」
「君は…どれくらい自分の“神”に心酔しているんだい?交信、というか…、そもそも仲が良いのか純粋な疑問があってね?」
「なるほど。まぁ、それについては簡単にお話ししましょう。ボクはそれほど“神”と交信しません。たまにするくらいですが…、彼のお方もたまに話したと思えば、思想やら思考は前と話した時と違う物だったりしまして。毎回困らせられてますよ。」
やれやれと肩を竦めるアーサー。
「実際。ボクはあの“神”を心酔しているわけではありません───いや。ある意味心酔してはいるのかも知れませんね。」
「…煮え切らない答えだね?」
「まぁ、仕方ない事です。ボクたち人間風情が、至高である“神”の思考を読もうとするなんて出来る訳がないのですから。」
「…まぁ、それについては少し分かるよ。」
「貴女も別の神の御使いですからね。お互い、神には苦労しますね。」
「まぁ、私の場合、君たちが問題を起こさなかったら何の問題もなくこの生を楽しめるんだけどね?」
「フッフッフ…。人生には刺激を、ですよ。スノウ・ナイトメア?」
「あぁ、そう言えば言ってなかったね?名前を改変したんだ。今後はスノウ・エルピスと呼んでくれないかな?」
「分かりました。どういう風の吹き回しか分かりませんが、名前というのは大事ですからね。今後は、そう呼ばせてもらいますよ。スノウ・エルピス。」
「ふふ。ありがとう。」
玄もジューダスも二人の会話についていけず、玄については既に食事に集中し始めていた。
ジューダスは必死に何か考えている様で、食事は一向に進んでいない。
……お皿の端には、ニンジンが転がってはいるが。
「先程のボクの答えは貴女にとって、充分でしたか?」
「同情はするよ。お互い本人の知らない所で苦労するなぁってね?」
「クックック…!違いないですね。では、お次はこちらから。」
アーサーはそう言うと、一瞬だけジューダスを見てからスノウへと視線を戻す。
ジューダスはその視線に少し眉間に皺を寄せていたが、問いただすことはしなかった。
しかし、アーサーの次の言葉で声を掛けなかった事に激しく後悔することになってしまった。
「おふたりは付き合っておられるのですか?」
「っ?! ごほ、ごほっ!!!」
『うわぁ…。そう言う質問もあるんですね……。』
対して、スノウはその質問に首を傾げながらジューダスを見る。
顔を真っ赤にして、噎せている彼を見てスノウは再び首を傾げながらアーサーへ視線を戻した。
「2人って言うのは?」
「勿論、彼とですよ。」
アーサーの視線はジューダスの方へと向いたので、「あぁ。」と納得した様に頷く。
「彼とはそういう関係じゃないよ。私たちは親友だしね?」
「……。」
『うーん…。』
「おやおや、そうでしたか。」
アーサーは今の2人を見比べる。
スノウは顔色が変わらず、果たしてそれがポーカーフェイスなのか、それとも違う要因なのかはアーサーから見れば不明である。
だがしかし、隣の彼は全く違う様で、スノウの回答に対して苦虫を噛み潰したような顔をしている。
まさに、“そういう事”である。
「(なるほど…。これは面白い…。)」
『何でこんな質問したんですかね?気になる情報でしょうか?』
「さあ?聞いてくるということは、多少でも気になっているんじゃないかな?ま、そう見えるくらい私たちの仲が良いって事だから、私としては嬉しい限りだけどね?」
そう言ってニッコリとジューダスの方を見たスノウ。
ジューダスはその顔を見て、顔を赤くしながらも僅かに頷いて見せた。
「(クックック…。茶化しがいがありそうですね、彼の方は。……しかし、恐らく彼女は恋愛ごとに関しては天然の域に達しているのでしょう。あんなにも分かりやすい彼の反応があって分からないとは……。若いというか、なんといいますか…。)」
ニコニコと笑いが止まらないようで、2人の様子を見て変わらず笑顔でいるアーサー。
次の質問を軽く促せば、スノウはアーサーへと視線を戻した。
「次の質問、か。」
「この際だ。〈ロストウイルス〉について聞いてみたらどうだ?」
『確かに!それが良いですよ!』
「じゃあ、〈ロストウイルス〉について聞かせて欲しいね。君達が何処まで知ってるのかも気になるしね?」
「なるほど?では〈ロストウイルス〉について、纏めて言いましょうか。現在、我々〈赤眼の蜘蛛〉の調査により、〈ロストウイルス〉は4種類のクラス分けがなされています。弱い物から“ミドル”、“ラージ”、“ラプラス”、“ロスト”──この4つです。」
修羅から聞いたことをおさらいしていく事にしたスノウ達は、食事の手を止め静かに聞き入れた。
「ミドルやラージはそこら辺の魔物と対して変わりありませんから強いわけではありません。ですが、これがラプラス級やロスト級になると、そうは行きません。我々〈赤眼の蜘蛛〉の幹部でさえ手こずる相手です。」
「ラプラスやロスト級は例えばどんな魔物が感染したものなのかな?」
「ラプラス級は、簡単に言ってしまえば街や村……人々にとって、“災害級魔物”と認定されているクラスの魔物です。人では手に負えない。だが強者を集い、討伐に行けば何とか勝てる、程度の魔物がラプラス級となります。……この間、皆さんがラプラス級の〈ホロウ〉を倒したと報告が上がった時は驚きましたよ。」
「死ぬかと思ったけどね。」
「そんな魔物を野放しにしておく方がどうかと思うが?」
『そうだそうだ!坊ちゃんの言う通りだ!!』
外野が賑やかになってはいるが、その外野の声は残念ながらアーサーに届いていない。
そのままアーサーは質問に答え続ける。
「まぁ、野放しと言いますか。あれは部下の失態、と言いますか。ただ、あれを倒して頂けて大変助かりましたよ。こちらも持て余していたモノでしたから。」
「危機感を持って欲しいね。ほかの町に散らばってる〈星詠み人〉にも影響があっただろうに。」
「それに関しては通知はしましたから、安心されて大丈夫ですよ。……すぐ撤回しましたが、ねぇ?」
「やはり、君達が〈ロストウイルス〉を作っているのかな?」
「その答えに関してはYESともNOとも言えますので、曖昧に返事をさせていただきますよ。」
『YESともNOとも言える…?どういう意味でしょうか?』
ぼんやりとコアクリスタルに光を転写するシャルティエ。
今は腰にあるシャルティエがそうやって呟いた事で、スノウがジューダスの方へと顔を向ける。
ジューダスの方も考え込んではいるようだ。
「まぁ、まとめて質問して頂いて構いませんよ。話の腰を折るのはこちらとしても面倒なので。」
「じゃあ、遠慮なく。〈ロストウイルス〉に対して特効薬とかは作る気はないのかい?」
「特効薬は未だ研究中で、試作段階にも満たしません。それに、〈星詠み人〉に感染したが最後……すぐに死んでしまうので実験にもなりません。中々難しいものですよ。」
「一応作ってはいるんだね。」
「こちらも、死にたくはありませんから。早い段階で逆転の力を持つようになりたいものです。」
「逆転の力…?」
「我々〈星詠み人〉ではなく、この世界にいた者たち……云わば原住民どもに感染出来るよう、実験中です。今の〈ロストウイルス〉は完全に我々の事をバグと呼び、厄介者扱いしてきます。しかしながら、その力を逆転すれば?」
「……皆に危害が及ぶということか…。」
「これについてもまだ試作の段階に及びません。ですからどちらにせよ、ゆっくりやっていきますよ。」
「……。」
『スノウ…。』
苦しそうに顔を歪ませて黙り込んだスノウに代わり、ジューダスが質問を口にする。
「逆転の力、という発想に至れた理由は、やはりオーラの違いか?」
「ほう…? オーラの事を知っているのですね。」
「まぁな。僕達では知覚出来ない力、とも聞いている。」
「そこまで知っているのであれば、“マナ”についても知っていると思っても宜しいですか?」
「マナ、か。精霊からそれとなく聞いただけだ。あまり詳しくは知らん。」
「そうですか。では、その質問にお答えしましょう。先ずは、“マナ”についてです。」
アーサーが話し始めようとすると、そこへ見慣れぬ少女が食堂に入ってくる。
そして周りを見渡すと、スノウを見つけ笑顔になる。
たたた、と効果音が付きそうな歩き方でスノウの横に来たかと思えば、座っているスノウの膝の上に乗り、嬉しそうにスノウの胸元へ擦り寄った。
あまりに唐突だったことだったので、スノウも最初は目を丸くしていたが、笑顔を浮かべ、その少女の頭を優しく撫でた。
「可愛らしいお嬢さんだね?一体どうしたんだい?」
「好き。」
「……え?」
「クックック…!アッハッハッハ!!」
アーサーが、これは堪らないと笑いだし、ジューダスは困惑した顔でスノウと少女を見ていた。
『ちょっと、スノウ!もしかして、こんな小さな女の子にまでたらしこんだんですかー?!』
「えっと、誤解というか…。この子も初めて会うんだけど…。」
「私たち、会ってる……。」
「え、」
『ほら!そうじゃないですか!!!』
困った顔で頭を掻くスノウにシャルティエが憤慨する形でコアクリスタルを激しく点滅させた。
ジューダスも僅かにジトリとした瞳をスノウへ向ける。
「(こいつはまた…。)」
「セルリアン、邪魔をしないように。」
アーサーがそう言ったのに対して3人が驚く。
セルリアンと言えば、スノウの偽物として現れて仲間たちを混乱に陥れた張本人。
こんな可愛らしい少女では無かったはずだ。
「そうか。コピー能力…!」
「貴女には全てバレていますからね。そうです、そのコピー能力で現在セルリアンは別の少女の姿になっています。」
すりすりと胸元に擦り寄っている少女……もとい、セルリアンに驚きを見せながらも、スノウは頭を撫で続けるのはやめなかった。
「で、話を戻しますがよろしいですか?」
「あぁ、続けてくれ。」
「では。……マナについてですが、正直なところ我々も把握出来ていない部分が多いのです。分かるところで言うのであれば、マナは〈星詠み人〉の体内で生成し術や技の発動時に消費するものです。マナを消費──いわゆるマナを代償とすることで、この世界の人間ではない〈星詠み人〉もここでいう晶術紛いな事が出来る、という訳です。これについては貴女も理解しているのでは?」
「そうだね。私もその認識だ。」
未だに仲良くやっているスノウとセルリアンだが、話には参加するようでセルリアンの腰に手を置き、支えながらも答えた。
「どうやって体内で生成しているんだ?」
「うーん…。どうやって、と言われても…ね?」
「不思議なもので、それが分からないのですよ。マナというのは〈星詠み人〉の体内で勝手に生成しているのですから。貴方達からみればおかしな体かと思いますが、いわゆる血肉と一緒、と思っていただければ。」
「うん。その表現が正しいかもしれない。人間の体って、勝手に血とか出来てるだろう?そんな感覚だね。」
『じゃあ、本当に作ろうと思って作ってないんですね?』
「うん。以前、私が精霊と契約をして倒れていた時期があっただろう?あの時、マナを大量に消費していて体が疲弊していたんだ。でも、次の日とかには普通に動けるようになっていただろう?あれは、マナが自然に回復していたから動けるようになっていたんだ。」
『へえ!そう考えると、面白いですね!マナっていうのは。』
「〈星詠み人〉とマナは切っても切り離せないものです。逆に言えば、マナが無くなれば我々は死んでしまう。そう思ってもらってもいいですね。貴方の隣の方もその構造は同じですよ。」
「マナが無くなれば…死ぬ……。」
悲しそうに、そして苦しそうに俯いたジューダスを見て、スノウが困った顔で見遣る。
「私たちは逆にレンズが使えないからね。力を使うならマナという代償で支払い、術技を行使する。」
『レンズが使えない、ですか?あんなに簡単な代物なのにですか?』
「うーん、そうだね…?使い方がわからない、と言えばいいかな?だから私たちにはレンズの重要性というものがどうしても疎かになりがちかもね?」
『でも、火精霊の契約の時、スノウは僕を使って晶術を発動出来ていました。それはどうしてですか?』
「ん?あれは、晶術だったのか。私はてっきり、マナを使って発動していたと思っていたよ。」
『あれは紛れもなく晶術でしたよ!?』
「ふふ。そうか。私も遂に晶術が使えるようになったのか。」
スノウがシャルティエと話している時も、アーサーは静かに口を挟まずに待っててくれている。
それにお礼を言いつつ、話を戻すことに。
「では、マナとオーラの関係性についてお話を。」
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一度、切ります。
管理人・エア