第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を開ければそこは緑が覆い茂る遺跡の中だった。
恐らくここはラグナ遺跡と呼ばれる場所だ。
カイルとリアラが初めて会う場所…。
「……?人の気配…?」
急いで隠れると、見慣れた金髪と銀髪が私に気付くことなく通り過ぎていく。
賑やかな会話をしながら進んでいく彼らを見て口元は自然と弧を描いていた。
そうか、物語の初めの部分か。
ならば話は早い。
一度自分の格好を見直し、学者だと分かると眼鏡を掛け直し彼らの前に姿を現す。
「ん?お姉さん、誰?」
金髪の方の少年がこちらを振り返り首を傾げる。
同時に銀髪の青年は髪を整えているのを見て少しだけ笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。
「お嬢さん……こんな所で一人、危ないですよ?」
声を変え、紳士的な態度をする銀髪の青年にお礼を言う。
「ありがとうございます」
高めの声でそういえば、更に手を伸ばしてきて手を取られる。
それを見て金髪の少年が大きなため息を吐いた。
「まーた、ロニの癖が出ちゃったよ…」
「カイル?聞こえてるぞー?」
「皆さんはここには何をしに……?」
メガネを押し上げながら大人しめな性格を演じれば、銀髪の青年ロニがそれに答えてくれる。
「お嬢さんの助けを求める声が聞こえまして…!それでこちらに。」
「ちがうよ!ここには大きなレンズがあるって聞いてやって来たんだ!お姉さん聞いたことない?」
「カイルくーん?ちょっと黙っててくれないかなー?」
ロニがカイルを窘めていると、カイルが再びこちらを見て不思議そうな顔をする。
なにかおかしかっただろうか?
「お姉さんって、学者さん?じゃあ、ここのこと聞いたことない?!大きなレンズを持って帰りたいんだ!!」
「いえ……、ですが、奥にならもしかしたら……」
「奥だね?!ありがとう!お姉さん!!」
「ちょ、ちょっと待て!カイル!!お嬢さん……またいつか…!」
そう言って慌ただしく去っていく二人。
全く、原作通りだよ、君たちは…。
今度は彼らと共に……この世界を救っていく。
ここには居ないジューダスの代わりを私が務める……!!
私は決意を抱き、拳を握った。
まずは情報収集だ。
海底洞窟で亡くなった私はどのような史実を書かれているのか、それと、英雄となった彼らの軌跡を。
となると、ファンダリアの歴史博物館へ向かった方がいいと思うが……、何しろあそこは私の知り合いが多すぎる。
その知り合いを掻い潜りながら……なんて危険を冒したくはない。
どうしたものか、と一度思考を整理しようとしたがともかくここから離れる事が先決だ。
そうだな…、ジューダスは確か地下牢からアイグレッテで再会を遂げていた筈。
ならば目的地はアイグレッテでもいいだろう。
いや、地下牢の方が良いのか…?
確かあそこは強力なモンスターがいたはずだが……。
そこまで考え、目的地をダリルシェイドの地下牢へと変更した私はレンズ目当ての調査団の目を掻い潜り、ダリルシェイドの地下牢へと向けて歩き出した。
しかし、思ったよりも距離があるが……果たして間に合うか?
と一瞬危惧したが、まぁどうにかなるだろうと考え直し、前世での記憶を頼りに歩き出す。
やはり以前とは変わった地形になっているようで、記憶と照合させるには中々骨を折ってしまい結局辿り着いたのは夜の時間帯だった。
ダリルシェイド地下牢の近くまで来ていた私の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あ!お姉さん!!」
「!!……お嬢さん、こんな夜中にどうしたんですか?私が送りましょうか?」
「それより聞いてよ!お姉さん!!さっきすっごい強い人に出会って手伝ってもらってさ!ジューダスって言うんだ!!」
「っ!?」
どうして、彼が……?
助けたはずの彼がジューダスとして地下牢の近くにいるなど、あってはならないはずだ…!
「その方は、何をしにここへ……?」
「うーん、よく分かんないけど居たんだよ!すっごい強くてカッコイイんだ!!」
「あんなやつのどーこがカッコイイんだ!ただの胡散臭いやつじゃねぇか。」
「そんなことないよ!ロニは女の人なら美人に見えるだろうけどさ!」
「うっ……」
売り言葉に買い言葉。
ロニが胸を押えながら僅かに後退するのを苦笑で誤魔化す。
しかし、これはマズイ。
ジューダスがいるとなると最早私がいる意味が無くなってしまう……。
ならば、ここは遠巻きに見て援護をすべきだろうか。
「__ぇ、ねぇ、お姉さん!!」
「へ?!」
考え込みすぎていたのか、カイルに話し掛けられているのに気が付かなかったようで、彼からの問い掛けに素っ頓狂な声を上げてしまう。
「ど、どうしたのですか?」
「お姉さんの名前、教えてよ!いつまでもお姉さんだとなんかおかしいでしょ?」
「あ、あぁ…。私は……」
咄嗟に思いついたのがスノウという名前だった。
「スノウ……、スノウ・ナイトメア」
「スノウ?いい名前だね!」
「ああ…!貴女に似合う可憐な名前だ……!」
「まーた始まったよ……。」
やれやれと首を振り肩を下ろすカイル。
あぁ、やはり兄弟は素敵だな。
そんな漠然な事を思いながら見ていたのが悪かったのか、カイルが私の手を取り衝撃的な言葉を口走る。
「ねぇ!スノウ!一緒に旅をしようよ!見たところ、あれでしょ?学者さんだから色んな所言ってるんでしょ?」
「え、えぇ…、まぁ…。」
「なら決まりだね!」
「こーら、カイル!あまりスノウさんを困らせるんじゃない。…すみませんねぇ、騒がしいやつでして。」
「何だよ!ロニだって送る気満々だったじゃんか!」
「それとこれとは話が別だろ?!」
兄弟の仲睦まじい会話にふと笑ってしまうと目を瞬かせる二人。しかし次の瞬間二人とも笑顔になって私の両脇に並んだ。
「俺、カイル・デュナミス!」
「俺はロニ・デュナミス。こいつとは兄弟なんだ。よろしくな。」
「スノウ・ナイトメアです。何卒、よろしくお願いします。」
礼儀深く辞儀を入れ、取り敢えずクレスタの近くまで行って別れよう、と笑顔で言葉を返した。
それに2人も嬉しそうに返し、大手を振って帰る。
まぁ、この後無断で出てきた2人は母親であるルーティにより頬を叩かれるのだが…。
ルーティに会うのは非常にまずいので、クレスタの近くへ行ったら適当に理由をつけて二人とは別れるつもりだ。
「俺の母さんってさ、すっごい人なんだ!」
「そうなのですか?」
「なんてったって、こいつの母親はあの英雄ルーティ・カトレットその人なんだからよ。」
「そうですか…。良いご両親ですね?」
「うん!父さんは昔にあったっきりで旅に出ちゃったからあまり記憶にないけど、父さんもすごい人なんだ!!」
興奮するようにそう話すカイルは、本当にご両親の事が大好きなんだな、と身に染みる。
ゲームを通して分かってはいたものの、こうして生の言葉で聞けば感慨深いし、なんならそのご両親の敵として自分は現れたのだから申し訳ないとも思うが、自分のやった事に悔いはないもので、半々な気持ちでカイルを見やる。
未だに興奮しながらご両親の事を語る彼に僅かに微笑みが浮かぶ。
あぁ、あの両親にしてこの子供ありとはこの事か。
「本当にご両親の事がお好きなんですね。」
「うん!!」
頬を赤くし照れたように笑う彼は、私にはとても眩しかった。
光が強くなると影が強くなる様に、正に今その状態だ。
本当に彼が眩しくて仕方がない。
そうか、ジューダスはこんな気持ちでカイル達に向き合っていたのか…。
「…………やっぱりすごいなぁ……」
「ん?スノウ、何か言った?」
「いえ、なんでもありません。」
静かに首を振り、彼らに着いていくとようやく見える街の灯り。
ぼんやりと見えるそれに足が自然と立ち止まると、不思議そうに二人が止まってこちらを振り返った。
「お二人共、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました。」
「え、なんで?!俺ん家で泊まっていきなよ!」
「そうだぜ?スノウさんよ。こんな夜中に女性一人にしては行けないって。」
ようやくあの軟派な態度も直りつつあるロニに苦笑し、首をゆるゆると振った。
やはり困るのだ。今、この姿を見られればきっと彼女を泣かせてしまうだろうし、怒らせてもしまうだろうから。
「二人は早くお家に帰らないと怒られるのでは無いですか?」
「やっべ、母さん怒ってるかな…?!」
「そりゃそうだろ。なんで怒ってないって思ってんだよ!俺ァ、怖くて怖くて仕方がないぜ…!」
わざとにガタガタ震わせるロニを見てカイルが顔を真っ青にし、ロニを掴み街へと走り出す。
「ご、ごめん!スノウ!ちょっと母さんに訳を話してくるからゆっくり俺ん家に向かってて!!」
「いてててて!!ちょ、カイル?!!それは痛いってぇぇぇーーーーー!!!!」
引きずる形でロニを引っ張っていくカイルの顔は真剣そのもので物凄い勢いで街へと向かっていった。
それほどまでに母親のゲンコツは怖いのだろう、子供にとって。
クスクスと笑い、街とは反対の方へと向かう。
向かうはアイグレッテ、かな?
ともかく、当面はジューダスの手掛かりを掴みたい。
彼がどうして仮面を被る必要があったのか、それから地下牢にいた訳を知りに行かなければ。
「……」
自身の得物を持ち銃へと変えると、自身のこめかみに向けそれを発砲した。
割と大きめなその音共に首が銃弾の反動で僅かに傾いたが、すぐに元通りにする。
「_、___!」
これでいい。
これでいいのだ。
声を亡くせば、誰も自分の事など分かりはしない。
この髪も、この瞳の色も……知っていたとしても性別が違えば別人、そして声は顔より勘づかれやすい。
ならば、声を亡くしてしまえばいい。
フリップを簡単に用意し文字を書けば、相手には伝わるだろう。
そして考古学者として地味に生き、モネとしての存在をなるべく消すのだ。
彼らに勘づかれてはならない。
決して__