第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___黄昏都市レアルタ
スノウが拐われたあと、仲間達は呆然とお菓子の山を見ていた。
さっきまでそこにはスノウがいた場所だったのに、と。
“セルリアン”にやられた者は頭痛に苛まれ、動ける者もスノウを盾にされ身動きが取れず…玄への追随を許してしまった。
沈鬱な状態が続く中、ナナリーが拳を握る。
「アタシ……行ってくるよ。」
「はぁ?!場所、分かってんのかよ?!」
ロニが頭痛に顔を歪めながらもナナリーの肩を押さえる。
途端に視線を逸らしたナナリーにロニは更に言い連ねる。
「場所も分かってねぇのに行くなんて言うなよ。っつ、いっててて……」
頭を押えその場にしゃがみこんだロニを心配してナナリーもしゃがみこむ。
そんな中、膝を着いていた修羅がカイル達に話し掛ける。
「……研究所を囲う、工業と温泉の街〈レスターシティ〉。恐らくあいつらとスノウはそこにいる。」
「〈レスターシティ〉だと?」
『そんな場所ありましたっけ?』
「おい、ジューダス。そりゃどんな所なんだよ。」
「…僕も聞いた事がない街だ。」
「そりゃあそうだろうな…。だってそこは〈赤眼の蜘蛛〉の叡智を結集させた、〈赤眼の蜘蛛〉の為の街なんだからな……。」
「「「!!!」」」
「そんな所に一人、スノウは居るってこと…?」
「周りは敵だらけじゃん!助けに行かなきゃ…!」
「でもよ……。俺たち、スノウを偽物だなんて言って傷つけちまったんだぜ…?助けに行く資格なんてあんのかよ……。」
ロニがしゃがみこんだ状態で頭に手をやり、俯いてそう言い放った。
それにカイルとリアラが気まずそうに言葉を濁す。
こうなる事は想定済みだったナナリーとジューダスはその3人を見て、お互いに顔を合わせた。
「なんだい。そんな深刻そうな顔してさ!仲間が一大事だってのに助けにも行かないつもりなのかい?」
「でも…、オレ……」
戸惑うカイルにジューダスは真正面からひたとカイルを見据える。
「確かに偽物を見破れなかったのは事実だ。だが、それがどうした?」
ただ元気づける訳でもなく、ただ非難するだけでもない。
ジューダスはカイルを素直に正直に向き合っていた。
ジューダスの言葉に目を丸くするカイル達だったが、ナナリーがジューダスの後に継いで話した。
「スノウはアタシにこう言ってたんだよ?〝私は端から皆を怒っても居ないんだから、皆には堂々としてもらいたい。それでまた皆で旅がしたい〟ってさ?」
「「「…!!」」」
「ふっ…。あいつらしいな? これで分かったろう。スノウは初めからお前たちの事だけを気に掛けていたんだ。自分の事は顧みず、な。」
腕に手を当てたジューダスは伏し目がちに左腕を見る。
スノウはまだ左腕を怪我している。
先程銃杖を使っていたから、酷く心配になる。
左腕を壊していやしないか、と。
「スノウ。あの時…、偽物に左腕を撃たれた時にさ…。実は瀕死の状態にまでなってたんだよ…。出血多量ってやつで…。」
その話にカイル達だけではなく、修羅と海琉も息を呑んだ。
そりゃあそうだ。気に掛けていた相手がまさか知らぬ所で死にそうになっていたなんて洒落にならない。
「アタシ回復持ってないからさ…。とにかく街に行かなきゃって思って別の街でスノウを回復ポットに入れてさ…。でも……スノウの左腕はまだ治っちゃいないんだよ。無理すればもう使い物にならなくなるかも、って。」
仲間の誰かがゴクリと喉を鳴らした音がした。
それほどカイル達にとって、スノウは大事で、そして緊張感の高まる話題だった。
「そんな状態でも一人敵地に行こうとしたりなんかしてさ?皆があの偽物の近くにいるから危険じゃないか、大丈夫だろうか、ってずっと心配してたんだ…。ははっ、自分の左腕は治ってないのにだよ?全く、困ったもんだよ。でも、そんな奴なんだよ…スノウってやつはさ。…っていうか、アタシよりアンタ達の方が知ってるんじゃないのかい?スノウの事に関してはさ?随分と長い付き合いなんだろ?」
ナナリーが話してくれたその話に皆の心に希望が宿る。
そして助けたい、という気持ちがどんどんと高まってくる。
だって、自分たちにとってスノウは、
大事な仲間だから……!
「…行こう!皆!スノウを助けなくちゃ!!」
「そこまで言われちゃ、俺だってやってやるぜ!スノウが居ないと、朝の稽古サボっちまいそうだしな!!」
「お前はもっと力をつけろ。あいつがたまに出し惜しみしているのが分からないのか。」
「んにゃろ…。余計なこと言いやがって…!!」
「私もスノウに酷い事言っちゃった…。でも、助けたい!スノウが居ないとやっぱり嫌だもん…!!」
皆の決意を聞いてナナリーは嬉しそうに笑う。
これで後はスノウを取り返すだけだ。
ただ……
「アタシ、その〈レスターシティ〉には何回か行ったんだけどさ…。なんせ、スノウが魔法で飛んでいくからどこら辺にあるのかはサッパリなんだよ。」
「んだよ。使えーねぇなぁ?」
「なんか言ったかい?ロニ。」
「いえいえ!!滅相もありませんっ!!!!」
慌てて姿勢をただし、詫びるロニに場が和む。
徐々に仲間達の不調も治ってきており、全員が動ける状態になっていた。
皆が大きく頷くと、何も示し合わせてないのに全員が拳を前に突き出した。
「行くぞっ!〈レスターシティ〉へ!!」
「「「おー!!!」」」
「…お前ら、場所分かっているのか?」
「「「あ、」」」
呆れた声でそう言ったジューダスは肩を竦め、やれやれと首を振る。
そしてジューダスの視線は修羅へと向けられた。
「カルバレイス地方のどの辺にある?」
「……案内してやる。俺ももう〈赤眼の蜘蛛〉には居られないしな。あんた達の旅について行くのもそれはそれで楽しそうだ。それに……スノウを助けたい気持ちは俺だって同じだからな。」
『え?!付いてくるんですか?!』
「え?!本当?!仲間になってくれるの?!」
カイルはキラキラした目を修羅と海琉に向けた。
そんな視線を受け、修羅は真剣な表情で海琉を見ると頭を撫でる。
「海琉。お前は好きな所に行って好きな事をして生きろ。お前の人生はお前で決めろ。もうお前は十分大人になっただろ?俺の助けが要らないくらい、な。」
「!!」
そう言った修羅に悲しそうな顔を浮かべた海琉だったが、首を横に振り修羅の前に立つ。
「……まだ、教わってないことが沢山ある…。剣も生き方も料理も…まだまだおれの知らない世界がたくさんある……。だから、おれはおれの意思であんたの隣にいる……。」
「……はぁ。やっぱりこうなるよな……?」
頭を掻いた修羅は困った顔で海琉を見たが、それでも優しそうな顔で海琉を見ていた。
初めから分かっていたかのような修羅の言動に海琉が首を傾げたが、「何でもない」と頭を撫でられ聞けずに終わった。
「まだまだ青臭い餓鬼だしな…。……分かったよ、好きにしろ。」
「……! ……うん!」
「って訳で。俺とこいつもあんた達の仲間に入れてくれ。」
「おい、カイル。大丈夫なのかよ?こいつ、この間まで敵だったんだろ?」
「〈赤眼の蜘蛛〉を裏切ったんだ。もうあいつらとは仲間でも何でもねぇよ。」
ロニの言葉に修羅が被せるように言葉を紡ぐ。
それにうんと頷き、カイルは軽く承諾をしたのだった。
ロニは呆れ、リアラは新たな仲間に笑みを零し、ジューダスは……言うまでもなく眉間に皺を寄せ、ナナリーも大きく頷きカイルの決断に賛成した。
「じゃあ、行こう!その……〈レスラーリング〉へ!」
「「何処だよ。」」
ロニと修羅の言葉が被り、お互いに顔を歪める。
……まだまだ本当の仲間になるには時間が掛かりそうである。
「(ハイデルベルグで、スノウが言ってた言葉……。少し分かる気がする、なんて思っちまうって事は…俺も末期だよなぁ…。)」
スノウはハイデルベルグで修羅の誘いを断った際、修羅にこう言っていた。
〝___「分からないけど、一つだけ思ったことがあるんだ。“彼らと一緒なら何でも出来そうなんだ”って。」〟
あの言葉……、あの時はゲームのし過ぎだってスノウに言ったが、何となく……今なら何となく分かる。
スノウを助けようと一致団結しているこいつらを見て、ふとそう思ったんだ。
「……〈レスターシティ〉はカルバレイス地方の砂漠、〈無景の砂漠〉の奥地にある街だ。かなり歩く事になるからしっかり準備しておけよ。」
「「「了解!!」」」
「〈無景の砂漠〉って言ったら……10年後の世界に飛んだ時、皆でスノウを探し回ってたあの砂漠よね…?」
「あー!通りで聞いたことあると思ったぜ!」
「えぇ!またあそこに行くの?!」
「だから言っただろ?しっかり準備しろって。何も無い場所だから食料とか水が無くなったらそれこそ俺達の方が先に死ぬぞ。」
「「うぇぇぇ……」」
嫌そうに舌を出すロニとカイルだったが、仲間の為ならと意気込んで誰よりも早く準備を進めようとした。
それにリアラやナナリーも合わさり、ジューダスも彼らだけだと心配なのか準備に参加していた。
「……(スノウ。あんた、やっぱり凄いな…。こんなにもあいつらを簡単に奮い立たせるんだからな。)」
今は居ないスノウへ、修羅は心の中で尊敬の念を抱いた。
まだ準備が整っちゃいないが、それでも皆の心は一つだったから。
だから修羅にはその光景が眩しい、と思えたのだった。
♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚
___〈無景の砂漠〉
「あちぃ……」
「相変わらず……ここはあちぃな……」
カイルとロニがへばる中、仲間達は黙々と〈無景の砂漠〉を進んで行く。
何だか歩みを進める度に体力と身体の中の水分が消費されていく。
声を出すのも惜しいし、体力の無駄だ。
……そんな場所だった。
「おい、修羅さんよー…?景色が全く変わらないんだがーー?」
「当たり、前だろ…。ここは〈無景の砂漠〉……。景色なんざねえんだよ……。」
「どうやって……景色を見分け、てるの…?」
「〈サーチ〉っつう魔法で…探知してんだよ……。よく、スノウが、やってるだろ………?」
声に出すのも億劫なのに、仲間達が話し掛けてきて体力が根こそぎ奪われていく。
仲間になったの間違えたんじゃないかって位には、声に出すのが億劫だった。
隣に居る海琉でさえ元気な様子がなく、寧ろ心配になるくらい黙々と前を向いて歩いている。
子供は風の子元気の子、とはよく言ったもんだ……。
「……。……あー、マジか……。」
「今度は何だ…!」
「この反応、敵だわ…。」
「「「え?!!!」」」
その瞬間辺りには砂しかないはずなのに地響きが辺りに響き、砂の中から何かが砂煙を巻き上げて現れる。
それは巨大なミミズのような形で、頭部分らしき所には大きな口、そして鋭い歯が見え隠れしていた。
「っ!? サンドワームとバジリスクだ!!お前ら石化に気を──」
「「「「あ、」」」」
ジューダスが言葉を止めたのは何故か。
ここに居る全員が顔を青くし、お互いを見て、心をひとつにした。
「「「「『「(状態異常回復技……誰も使えねぇ……。スノウしか持ってねぇ……)」』」」」」
まさかここで、改めてスノウの偉大さに気付かされる事になろうとは。
すぐさまパナシーアボトルの確認を行った数人と、勇敢にもサンドワームとバジリスクに挑んでいく数人に分かれ、各々先頭に集中することにした。
「サンドワームの弱点は風属性だ!風属性中心で行け!!」
「___フィアフルストーム!!」
リアラが渾身の風属性晶術がサンドワームへと放たれる。
勢いある暴風がサンドワームを囲み、風圧で切り刻んでいくとサンドワームが堪らず砂の中へと身を隠してしまった。
「おい、ジューダス!バジリスクの弱点はなんだ?!」
「弱点属性は水だ!属性攻撃が無ければそのまま突っ込め!」
修羅がジューダスへと聞いたものの、ジューダスの回答は嫌にあっさりと、そして冷淡に響いて聞こえる。
暑さ故に、皆苛立ちを隠せていないようだ。
海琉と共に修羅がバジリスクへと突っ込みかけたが、その前にカイルの方がバジリスクに挑み、石化光線を受けていた。
「うっ!」
「カイル!!」
アイテム班がカイルへとパナシーアボトルを使い、事なきを得る。
「ありがとう!誰か!」
「とにかくカイル!ちゃんと前見ろ!」
ロニの助言にカイルは再びバジリスクへと突っ込んでいくが、今度は砂の中からサンドワームが襲いかかりカイルを半分食べる。
それにリアラが悲鳴を上げ、男性陣でカイルを助けに行く。
「お前はまた……突っ込む事しか出来ないのか!?」
修羅のツッコミも冴え渡り、カイルがスポンッと救出される。
その間にもジューダスやロニがサンドワームへと攻撃を仕掛けていき、バジリスクは遠距離の担当へと変更になった。
「扇氷閃っ!」
「行きますっ!__スプラッシュ!!」
広範囲に拡散する氷の矢がバジリスクを襲い、水の激流が別のバジリスクを襲う。
上手い連携でバジリスクを怯ませた2人は続いて攻撃を続け、上手くバジリスクを倒していた。
その一方サンドワームで苦戦している男性陣は徐々に体力の限界を感じていた。
「「「「『(あー、スノウマジで帰ってきてー……!!)』」」」」
それぞれ思う事といえば、遠距離も近距離もこなし味方の支援も存分にその力を振るう人物である。
彼女が居ないだけで、こんなにも戦闘が長引いているのだ。恋しくならないはずがない。
バジリスクを倒した女性陣がサンドワームの戦闘に参戦し、中距離と遠距離で援護していく。
それでも中々倒れないサンドワームに男性陣は嫌気が差していた。
「こんなにサンドワームって強かったっけ…?」
「オレ…お腹すいてきた…。」
「我慢しろカイル!ここで飯食ったら、飯が全部砂まみれになるぞ!!」
「それはやだ!!」
「お前ら…呑気すぎだろ…。」
「お前ら!!口じゃなくて手を動かせ!!」
「「あー!!スノウーー!!!」」
遂にカイルとロニが口にした名前に全員が苦笑いをした。
やはり皆思う事は一緒か、と思ったからだ。
心の中では皆同じ事を言っていたが、実際口にした2人で皆が同じ事を思っていたことが分かる。
ここに彼女を呼び寄せるためにも、早く彼女を助けなければ。
「スノウの為にも、あんたら早く手を動かせ!」
「そいつの言う通りだ!早いところ倒して先に進むぞ!!」
「「はーい!!」」
皆が一致団結したところで、仲間達は次々とサンドワームへと攻撃を仕掛ける。
絶え間なく入る攻撃の嵐に、流石のサンドワームも砂に隠れる事が出来ず、そのままダメージを食らい倒れてしまった。
ようやく倒れた敵に全員がその場で倒れ込み、暫しの休息を得る。
だが、ここで休んでいてはただ干からびるだけである。
仲間達は起き上がり、急いで〈無景の砂漠〉を越える事にしたのだった。
しかし、不運とは続くものである。
今度はサンドワームとバジリスク、更にタイニィワームと呼ばれるサンドワームの幼生が現れたのだ。
堪らない皆はそれを見て「勘弁して」と浮かべ、すぐに横を突っ切って行ったのだった。
……途中何度かのアクシデントに見舞われたが、カイル達はようやく〈無景の砂漠〉から出ようとしている所。
修羅が一番それにホッとした顔をしたのは気の所為ではなく、道案内も魔法を使いながらなので体力の消費をこれ以上に減らしたくなかったからだ。
「これで、〈無景の砂漠〉とは…おさらばだな…。出来ればもう二度と来たくない…。」
「流石にもう来ないだろ…。俺ももう嫌だぞ…。」
「じゃあ、もうスノウの居る街に着く?」
「あぁ、あと半日歩けばな。」
「「「半日?!」」」
「野宿だな…。」
『そう思うとスノウとナナリーはこのすごい距離を一日で往復してたんですね…。やっぱり凄いです…スノウ…。』
恐るべし、とシャルティエが感嘆するが歩いている皆からするとそれ所では無かった。
体力も気力も削がれた皆はそれを聞いて座り込んだり、後ろへと倒れ込んだりという行動に移した。
一気に進行不可となったカイル達を見て修羅やジューダス、海琉が呆れた表情を浮かべたのだった。
「…お前ら分かってると思うが、夜の砂漠は寒くなる。ちゃんと防寒していないと風邪引くぞ。」
「そうだった!」
「火番はどうする?」
「最初は僕がやる。後で誰か交代しろ。」
「「了解。」」
早めの夕食にした皆は寝る準備を始め、ちゃんと言われた通りに防寒対策も怠らずやる。
修羅も海琉と共に別で準備をしていたテントを準備し、そこで寝る準備を始めた。
火番の準備はクジで決め、ジューダス、カイル、ロニ、修羅と海琉の順番となった。
女性はゆっくりしてて良いということなので遠慮なく甘える事にした2人はテントの中でスノウについて話し合っていた。
カイルは早寝だったので、逆に起きるか心配ではあるがクジで決まったのだから仕方ないと半分諦めた気持ちでジューダスは焚き木の前に腰を落とした。
『…スノウ、大丈夫ですかね?』
「…奴らの目的が分からん以上は何とも言えんな。スノウが言っていた例の“セルリアン”とか言う奴も、僕達には何が何だかサッパリだからな。」
『お菓子を好んで食べてた位は分かりましたけど…。スノウと一緒に行動していたナナリーも、慌てて坊ちゃん達を助けに来たから聞きそびれたって言ってましたし…。何者か分からないところが不気味ですね。』
「…スノウを助けに行った時、カイル達の様に虚ろな目をしてなければ…いいがな…。」
空を見上げれば夜の闇に紛れてポツリポツリと星が輝いて見えた。
砂漠だからその星達はよく見える。
まるで星を近くで見ているかのような錯覚や、開放感さえある気がしてジューダスは人知れず溜息を吐いた。
星を見て黄昏つつ、辺りの警戒をしていると木の爆ぜる音が耳に残る。
焚き木が燃え尽きそうになる前に木を追加し、寒いこの時間の暖を取れば時間は否応なく過ぎていく。
…だが、隣には誰も居ない。
「(スノウ…。)」
こんなにもあいつが隣に居ない時間が長くなるなんて思いもしなかった。
居ない時間が長ければ長いほど、恋しくなり、そして喪失感も大きくなってくる気がして目を閉じて不快感をやり過ごす。
護ると誓ったのに、己の無力さに苛立ってくるようだ。
あの時、玄に捕まっているスノウを見て何も出来なかった自分が歯痒い。
『坊ちゃん、何を考えてますか?』
「…いや、何も考えていない。ただ辺りを警戒しているだけだ。」
『絶対嘘じゃないですか…。スノウの事、気にしてたんじゃないんですか?』
「分かってるなら聞いてくるな。」
『だって坊ちゃんが黙るから何か言わないと、と思って。』
その後少しの間沈黙したシャルティエだったが、すぐにまた話しかけてくる。
『…なんか、ここまで長かったですよね…。神の眼の騒乱も本当…大昔のようです。』
「そうだな。あの頃の僕は…本当未熟だったな。」
『そんなことありませんよ。剣の実力は将軍以上でしたし、スノウと一緒にやってた任務も卒なくこなしてました。普通15、6歳の男の子があんなにも苦労しませんって。』
「…。」
『スノウと一緒だから頑張ってこれたんですよね。分かってますって。だからこそ、今を大事にしてくださいよ?坊ちゃん。』
「はぁ…。そんな湿っぽい話をするために話しかけてきたんじゃないんだろう?」
『ははは…。バレちゃいました?』
から笑いで笑ったシャルティエに、ジューダスは一度剣を抜く。
その剣は昔からの相棒で、何度も死線を潜り抜けて来た大事な相方でもある剣。
コアクリスタルという珍しい機構をつけ、喋りかけてくる。
何度もその大事な機構部分に爪を立てたことがあったが、見る限りでは傷一つない。(何度かは本気で爪を立てたが…。)
そんな中、急にしんみりした様子でシャルティエが話し出す。
『この先…何があってもスノウを大事にするって約束してください。』
「急にどうした。」
『何ででしょうね?何故か言いたくなったんです…。……ほら、僕だってかなり昔の産物ですよ?いつ壊れたっておかしくはないですから。』
「かのハロルド博士が作った遺物がそうそう易々と壊れて堪るか。馬鹿なこと言ってないで探知でもしてろ。」
『(ブルッ!)坊ちゃん!!やめてください!!ハロルドの名前出さないでくださいよ!?あー、南無南無…。』
コアクリスタルが激しく明滅し、辺りを照らす。
どうやら本当にハロルド博士の事が苦手そうである。
それくらいコアクリスタルが激しく明滅を繰り返していた。
「ハロルド博士に会ったら…、少しはあいつの役に立てる。…僕としては早く会いたいものだがな。」
『うわ、怖いこと言わないでください。絶っ対に!僕は出さないでくださいよ?!』
「何度も聞いたぞ、その言葉。」
『改造されることになったらと思うと…!!あぁー!!やだ!!!』
とにもかくにも煩いので、例のコアクリスタルに爪を立てようとすると反射的になのか既に悲鳴を上げる。
…まだ何もしてないぞ。
「未来か…。」
『っていうか、未来の事なら修羅に聞いたらいいんじゃないですか?彼もスノウと同じ〈星詠み人〉なんですし…。』
「スノウがあんなに嫌がってたものを奴が素直に言うとは思えん。期待しない方がいいだろうな。」
「呼んだか?」
突如テントから修羅が現れる。
僕は一度だって奴の名前なんて呼んでないのに、テントから奴が出てきたと思ったら僕の反対側に座った。
火番はまだまだ後の癖にだ。
「悪いな。お前の一人言を聞いていた。まぁ、その剣と話していたんだろうけどな。」
「…ふん。」
僕が視線を逸らせると、修羅は上体を反らせて砂に手をつき星空を見ていた。
それは憂いているような顔だった。
「…そんなに未来のことが知りたいなら教えてやろうか?」
『「?!」』
一気に僕の視線は修羅に戻る。
まさか奴がそんな提案をしてくるとは思わなかったからだ。
……だがそれは、僕にとってかなり好都合だ。
未来を知っていれば何となくの対処だって見えてくるだろう。
その時に、あいつ……スノウの役に立てるかもしれない。
「…何故自分から話す気になった?」
「あ?そりゃあ、あんたがそういう顔をしてたのもあるが……、一番はあんたの事をスノウが嫌いになって、俺の都合のいい様にしたいからに決まってるだろ?」
『?? 何で未来を知る事がスノウに嫌われることになるんでしょう?』
「……。」
「で?どうするんだ?聞きたいのか、聞きたくないのか?……ま、あんたらにはおよそ見当つかない事だろうからな。あんたに話してそれを信じるかも分からないが…混乱はするだろうな。」
『どうします?坊ちゃん。』
何故、未来を聞けばあいつが僕の事を嫌いになるのかは想像つかない。
でも、嫌われたくはないが…未来を知りたいとは思う。
「おー、結構揺れ動いてんな。そんなにスノウに嫌われたくないか?」
「…。」
「ま、いいさ。俺はどっちだっていいからな。俺はスノウの味方をするだけだ。一人で未来について悩むのも苦労するだろうしな。特にこれから先は……な。」
「??」
「クスクス…。おー悩め悩め。青少年よ。」
「一々腹の立つ奴だな。」
「クスクス!」
それでも修羅は僕が聞くというまでは未来について話さないようで、再び星空を見ていた。
「ま、スノウの知識には及ばんところがあるだろうがな…。スノウが〈赤眼の蜘蛛〉に攫われた理由はそこもあるんだろう。〈赤眼の蜘蛛〉自体はこの世界の事を全て知って、知識を補完している訳じゃない…。それこそ、あんた達の物語を全て覚えていたなんて奴は今までに居なかった。…スノウが特殊なんだ。」
「…じゃあ、お前から聞いてもその未来が合ってるかどうかは分からないって事か。」
「大まかな物語なら、大体のところはあってるだろうが…細かいところは覚えちゃいねえ。重要になりそうな単語だけでも聞いておくか?今後の未来でその単語を聞いた時、お前がどういう行動をするのかも見ものだしな。」
「……いや、いい。」
「お?その心は?」
「あいつに…スノウに嫌われるようなことはしない。」
「…チッ。面倒な奴だ。」
やはりそっちが本心だったか。
今は何故未来を聞いただけで嫌われるのかは想像つかない。
でも、嫌われる可能性があるならば聞かない方がいい。
それくらい、僕はあいつに執心しているのだから…。
「…スノウが辿ろうとしている未来は残酷だ。」
『え、』
「…。」
「どう足掻いたって、無理なもんは無理なことがある。人の生死だとかは、特にな?その無理なもんをスノウがどうするかってのは…俺には想像つかない分があるからな…。」
星空を見たままポツリと呟かれた言葉。
奴が何を言わんとしてるかは分からない。
未来でもしかしたらそういう事が起きるって遠回しに教えてくれてるのだろうが…。
「…あいつが、無理しそうなことなのか…?」
「聞かないんじゃなかったのか?」
「そう言われて気にならない方がおかしいだろう?」
「クスクス…そうだな?だが、俺からは何とも言えないな。スノウが辿る未来がそれになるか分からないしな。まぁ無茶なことはするんだろうが、俺はスノウの意見を尊重する。危ない事なら流石に止めるかもしれないけどな。」
「…はぁ、全くあいつは…。」
「クスクス……。」
そういった修羅は何を考えているのか、同じ体勢のままじっと星空だけを見つめる。
だがそれは、とても優しそうな表情だった。
きっとスノウの事でも考えてるんだろう事は明白だった。
「あんたが何でハロルド博士の話をしてたかは知らない。だが…あんまり期待しない方がいい。」
「どういうことだ?スノウはハロルド博士なら〈ロストウイルス〉について力になってくれるだろうと話していたんだぞ。」
「あー、なるほどな?そういうことか…。かのハロルド博士も流石に〈ロストウイルス〉についてはお手上げだろうさ。ハロルド博士もまた、この世界の人間であり、〈ロストウイルス〉に触れられない人物でもあるんだからな。……だが、俄然興味が湧いてきた。何故、スノウがハロルド博士を頼る気になったのか、今度聞いてみるか…。」
そう言うと奴は立ち上がり、僕をじっと見てきた。
「さて。話ばっかりじゃ、体は温まらないだろ?どうだ?一勝負と行かないか。」
「…ふん、返り討ちにしてやる。」
「それはこっちのセリフだけどな?」
ニヤリと笑い余裕そうに武器を構える修羅に僕は無意識に眉間に皺を寄せ、立ち上がってシャルを構えた。
その後、交代時間を過ぎても奴と勝負していた事は、朝起きてきた他の奴らには秘密にしていた。
それほど、僕たちの間で白熱していたという事だ。
僕達は簡単に朝食を終えた後、ようやくスノウがいるはずの街…〈レスターシティ〉へと向かうのだった。