第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___夜中、例の廃墟にて。
毎晩集まる事を誓った私達はその日から毎夜、こうして外で密談をするようになった。
偽物のその日の動向や言動、そして仲間達の様子をナナリーから伝えて貰う。
こちらも〈赤眼の蜘蛛〉の内部の様子をナナリーへと包み隠さず伝え、互いに意見を交わし合った。
だが見えてくるのは本当に“謎”の文字ばかり。
あの偽物が〈赤眼の蜘蛛〉の仕業というのはもう目に見えているし、そう考えるのが妥当だ。
だが、これという決め手に欠けるのだ。
「向こうさんが何をしたいか、全く見えてこないのが厄介だね……。」
口をへの字にしながら口元に手を当て考える仕草をするナナリーに月明かりが上から灯っている。
月明かりに照らされながら、少しだけ幻想的なこの空間。
黄昏都市レアルタから少し離れたここは、寂れたドーム状の建物で、レアルタやら他の街に比べれば本当に規模が小さく、何のために作られた物なのかは想像に難い。
寂れてしまって、天井が抜け落ちてしまっているから余計に月明かりが中に入ってきて、日中には太陽がここへ降り注ぐので僅かに植物があるのも素敵だった。
ここを密談場所へと決めた理由は、ただ単に私とナナリーがここを気に入ったからだ。
密やかな話にはこういった場所はうってつけだと思うし、何より密談場所は現在彼等のいるレアルタから離れてなければいけなかった。
偽物の動向が伺い知れない今、近場で話をする訳にもいかず、ナナリーには悪いが睡眠時間を削ってここに来てもらっている。
彼女は優しいからここに来る事を楽しみだ、と言ってくれるのがまだ私の心に余裕を持たせてくれていた。
「で?これからどうするんだい?」
「……かなり危険な行為だけど、〈赤眼の蜘蛛〉の研究施設に忍び込もうと思っている。」
「え?!そんな事して大丈夫なのかい?それに一人なんて…。」
「正直、勝算はかなり少ない。もしかするとアーサーや花恋みたいな幹部クラスとの戦闘も免れないかもしれないからね。」
「じゃあアタシも…!」
「危険だよ。ナナリーにそこまで危険な事はさせられない。今でさえ、ナナリーには危ない橋を渡ってもらってるのに…。」
「それはお互い様だろ?」
どういった訳か、カイル達には例の偽物が本物だと思っている節があり、ナナリーだけは私の唯一の理解者であった。
だからそんなところに一人だけ残しているナナリーにも危険が及ぶかもしれない。だが、それもお互い合意の上だった。
「もうここではあまりやる事も無くなったし、ここでアタシが暇を潰すよりもアンタの所を手伝った方が何倍もマシだよ!…正直、気味が悪くてさ…?だって、スノウ本人はここにいるのに、皆はあんな奴を本物だと信じ込んでる。見てられないよ…!」
「……ナナリー。」
「だからアタシはアンタが何と言おうと付いていくよ!……それに!アンタはアタシの命の恩人なんだから、少しくらい役に立たせてよ。それで良いだろ?」
「……ふふ。ありがとう…ナナリー?」
「さぁて!そうと決まったら──」
「ここで何をしている?」
「「っ!?」」
突如聞こえた見知った声に2人が驚き、声の主を確認する。
月明かりでも分かるその黒い洋装と白い仮面が反射してその存在を誇示していた。
「「……ジューダス!」」
「何をしていたか聞いている。質問に答えろ。」
「っ、」
その瞳は決して揺るがず、私を静かに射抜いていた。
それに自然と冷や汗が背中を伝う。
ジューダスもまた、例の偽物が本物だと思っているかもしれない今、下手な事は出来ない。
私は半歩下がり、ナナリーと並ぶと小声でナナリーへ声を掛ける。
「……ナナリー。私が今からジューダスに向けて〈赤眼の蜘蛛〉として君を攫うと宣言をする…。だから私がその宣言をした後、君はすぐに後ろに向かって逃げるように走るんだ。……いいね?」
「……スノウは?」
「彼と交戦する。適当な所で彼へ気絶弾を撃ち込むから安心していい…。」
「何を話している?」
私は相棒を手に持ち、ナナリーの前へと躍り出る。
いつだったかみたいに、狂気の笑みを浮かべて私はジューダスを見た。
「彼女は我々〈赤眼の蜘蛛〉が頂くよ?」
「…。」
顔を歪めたジューダスはそのまま視線を私からナナリーへと動かした。
本当ならここでナナリーが後ろに向かって走らなければならないのだが、背後の彼女が動いた気配はしない。
何故だ、と僅かに視線を向けようとしたが、それはあえなく失敗する。
何故ならば、私は後ろから彼女に抱き締められたからだ。
「っごめん…!やっぱり……アタシには出来ないよっ…!」
「っ!? ナナリー!!」
「だって!!!アンタは…本物のスノウじゃないか!!何でこんなにコソコソしなくちゃいけないんだい?!」
「っ、頼む、ナナリー……!私に合わせてくれ……!」
「嫌だ!アタシはもう引かないよ!」
ナナリーがジューダスを見据え、鋭い瞳を向けた。
私はそれを見て相棒を銃へと変形させ、すぐさまジューダスへ向けて気絶弾を撃った。
しかし彼も馬鹿ではない。
何度も受けたその技を軽く避けるとシャルティエを手にし、こちらへと突っ込んでくる。
咄嗟にナナリーを遠くへと押しやり、その攻撃を相棒で受け流した。
「ジューダスっ!聞いて!?それはアンタがよく知っているスノウなんだよ!!!アンタなら分かるだろ?!」
私が押した事で倒れたナナリーは慌ててジューダスへと声を掛ける。
しかし交戦しているジューダスにその声は届かない様だ。
…それに、ひとつ不可解なことがある。
ジューダスがこんなにも攻撃を繰り出しているのにも関わらず、相棒であるシャルティエが何も話さないのが……何処か不気味に感じる。
高い金属音を立てながら剣を打ち合い、お互いに予断を許さない状態…。
相手を知り尽くしている私達だからこそ、どちらかが先に僅かにでも隙を見せれば、敗北が目に見えている。
「っ、__グラビデ!!!」
重力を加え、ジューダスの動きを封じた私はナナリーの横に行き、詠唱を唱える。
早くこの場から逃げなければ、私達に命は無い。
しかしそんな私の魔法をジューダスは僅かに苦悶を見せたが耐え抜き、グラビデの魔法が発動中にも関わらずそれを掻い潜るとこちらへと剣を閃かせる。
慌てて詠唱を破棄し、相棒でその攻撃を受け止めた。
「くっ!?」
「……。」
彼の真剣な表情。
まさか、こんな時に見る事になろうとは思いもしなかったよ。
だけど、こっちにも譲れない事…、譲れない想いがあるんだ。
「っ!ごめん、ジューダス…!__我に仇なす者へ制裁を…!ヴォルト!!」
精霊を召喚し、ヴォルトの電気で気絶させたかったのだが、それさえ彼は掻い潜ってしまう。
精霊召喚後の硬直を計算に入れてなかった私は、遂に彼の攻撃を許してしまった。
喉元に当てられたシャルティエに私自身も息を呑んだが、一番顔を青くし信じられないと絶句したのは私達の戦闘を誰よりも間近で見ていたナナリーだった。
「やめなよ?!ジューダス!!!」
「……。」
ここで、終わるのか……?
私は……ここで、死ぬのか……?
彼の隣で、最期まで居るという願いは……叶わないのか?
カシャン
「っ!?スノウっ!!!?諦めたらダメだよ!!!」
相棒をそのまま床に落とした私にナナリーが震える声で必死になって叫ぶ。
ごめんナナリー…、もう、ダメなんだ……。
私にはもう、終わるという未来しか見えない……。
ならば、最期に彼に伝えたい。
「……君にまさか再び剣を向ける時が来るとは思わなかったよ。……でも、君に殺されるならば、それは私にとっては本望だ。……君の一思いに殺ってくれ。」
彼の耳に着けられた、澄み渡る空のような蒼色のピアスに触れ、そして彼の頬へと触れた私は最期とばかりに精一杯彼へ笑いかけた。
「────今までありがとう、友よ。」
「やめてーーーっ!!!!!!」
泣き叫ぶナナリーの声が遠く聞こえた気がした。
それよりも目の前の……シャルティエが床に落ちる音が何より私の耳に響いて聞こえた。
そして、私は彼に……ジューダスに強く抱き締められていた。
「……馬鹿者。……決着が着いていないのに剣を離す馬鹿が何処にいる……?」
「……え?」
……えっと、待ってくれ。
全く今の状況を理解出来ていないんだ。
流石のナナリーも涙が止まり、ポカンと口を開け、呆然とその様子を見ている。
私も同様に困惑した顔で辺りを見渡していた。
これは……本当にどういう事だ?
『ちょっと!スノウ!僕達のこと、完全に敵だと思ってたんじゃないんですか?!!酷いですよ!!!』
「え?あ、うん……。なんか、ごめん……?」
「えっと……?何が何だか……。」
「お前らが勝手に僕を敵側として仕立てていたに決まっているだろう?そんなお前らに味方だ、なんて言っても信じる訳がない。ならば、お前らの敵として途中まで演じきる。つまり、端から全て仕込んでいた、という訳だ。」
「な、なんだい……。」
頭を垂れ、がっかりした表情を浮かべたナナリー。
私も流石に苦笑いでそれを流した。
そうか、最初から彼は私達の味方だったのか。
一体、私達は何処から間違えていたのだろうね?ナナリー。
「なら!最初からそう言えばいいじゃないか!余計な心労かけさせないでおくれよ!!」
「お前らが勝手に疲労しているだけだろう?勘違いも程々にしろ。」
ようやく離された体だったが、あまりにも意外すぎて私はその場に座り込んでしまっていた。
「はは、は……。」
「だ、大丈夫かい?!」
ナナリーが慌てて私の近くに寄り、顔色を窺う。
それに大丈夫だ、と困った顔で笑えば何処からともなく回復技が飛んでくる。
『「__ヒール。」』
「……ありがとう、ジューダス。」
『もうっ!相変わらずスノウは死ぬと分かったら諦めが早いんですから!!!?治してください!!その癖!!』
「はははっ。そう言われてもなぁ?」
「……〝想像すれば、創造出来る〟なんだろう?……なら、端から諦めるな。抗え。」
「無茶言うね?君程の実力なら私なんてすぐに殺されるよ。ほんと、厄介な人が敵に回ったなって思ってただけに……これは拍子抜けだね……?」
あまりの疲労感に後ろへ倒れ込めば、再び彼は回復を掛けてくれる。
「……で?お前ら、随分と面白い話をしていたな?〈赤眼の蜘蛛〉の研究施設に1人乗り込むだとか。」
「……最初から聞いていたのかな?全く……君は油断も隙もないよ。というより、何処まで君は知ってるんだい?」
ジューダスの睨みがスノウへと向けられる。
また1人で危ないことをして、そっちこそ油断も隙もないとジューダスは思っていたからだ。
そんな中、ジューダスの代わりにシャルティエがスノウへ返答をしていた。
『ある程度は知っていますよ!ナナリーが戻ってきた最初の夜から、ナナリーが夜中に不審な動きをするので坊ちゃんに言って尾けていたんです。そしたら元気そうなスノウと笑いあって話すんですから、こっちだって嫉妬しちゃいますよ!!』
「心配掛けたね?シャルティエ。」
『全くです!!坊ちゃん、スノウがあいつに撃たれた時顔を真っ青にしていたんですからね!?』
「……。逆にあの件があったから僕はお前が本物だと気付いた……というより、本物だと確信した。」
ナナリーが訳分からないような顔をしているが、話は無情にも進んでいくためスノウがシャルティエの会話をナナリーに伝えることにした。
「何でジューダスはスノウが撃たれた時に気付いたのさ?」
「こいつは、昔から未知なことが起きると絶対に周囲を見渡して警戒するという、冷静な性格をしている。まぁ、例外もあるにはあるが…。だがそんなこいつが、あんな無闇にすぐ相手を傷付ける真似をする訳がない。」
「なるほどね……。流石、長年一緒にいるだけあるね!」
「……ふん。」
少しだけ照れくさそうな顔で視線を逸らせたジューダスだったが直ぐにその顔は歪められ、スノウの左腕へと注がれた。
「……やはり、左腕が痛むのか?先程のお前との戦闘…僅かに左を庇う節があった。」
「……。」
流石と言うべきか、洞察力に長けている人だ。
困った顔でジューダスを見遣れば、余計に眉間に皺を寄せさせてしまったので、再び苦笑いをしておいた。
「あの時…、あいつに撃たれてアタシが駆けつけた時には、スノウは……出血多量で瀕死状態だったんだ…。」
「っ!?」
『そんな…!?』
「あれがそれ程強い威力だとは思ってなかったけど…、逃げるスノウの腕から落ちた血痕が地面に延びていたからアタシはスノウの居場所が掴めたんだ。……ここで壁を背にして…、真っ青な顔で苦しそうにしていたスノウが……今でも忘れられないよ…。」
ナナリーが腕に爪を立てているのを見て、私は身体を起こしその手を止めさせる。
女の子の身体に傷をつけさせたくない。
ましてや、それが自分のことなら尚更だ。
「……ごめん、ナナリー…。嫌な思いをさせたね?」
「そういう事じゃないよ!!あの時…アタシが居なかったらアンタ、どうなってたか分からないじゃないか!!」
「……確かにあの時止血は試みたけど、痛みのせいで縛りが緩かったのは事実だ。結果、止血出来て無かったんだよね?ナナリーは駆けつけてくれた後縛り直してくれて、その上視界が霞んでいた私を抱えて遠いスペランツァまで行ってくれたんだよ。本当、ナナリーは命の恩人だね。」
「……。」
今度はジューダスまでも苦しそうに顔を歪ませ、拳を作っていたので優しく手を重ねる。
そして、2人の手を握って精一杯笑う。
こうして私は生きているんだから、そんな苦しそうな顔をしないでくれ。
「この武器はこの世界で唯一無二…。私以外が持っているはずがないんだ。それを……あの人は同じ武器を持って、更にそれを使いこなせていた…。だから、信じられない気持ちでいっぱいだったね、あの時は。」
「確かに…、スノウの武器って見た事ない武器だねぇ?アタシの村には無かったよ。」
「寧ろ他に類を見ない武器だ。だからこそ、スノウが驚いたんだろうが…。」
『あの偽物…。スノウの技が使えるならかなり厄介ですね…!スノウの強さは坊ちゃんと同じか、それ以上ですから油断なりません!』
「…そうだな。だが、どの生物も弱点は端から心臓だと決まっている。あいつが隙を見せた時に殺るしかないだろう。」
「……〈赤眼の蜘蛛〉の目的は、私たちの内部分裂なのか。それとも旅を続けさせない事なのか…。いまいちハッキリしないんだ。もう少し諜報してみるよ。後は……研究施設の話だが…。」
「『「却下。」』」
「ですよね…?」
声が揃った上、握っていた手が逆に強く握られる。
まるでそれは逃がさないと言われているようだった。
「それもだが…お前、今後その左腕をどうするつもりだ?」
「……それもだね…。」
『その左腕、まだ痛むんですか?』
「感覚としては、たまに古傷が痛むって感じなのかな。神経にまでいってたみたいで、以前より多少動きづらさはあるね。」
「アタシは覚えてないんだけど、スノウは戦闘で左手を使う事があったっけ?」
不思議そうに私を見るナナリーに少し考えてから頷いた。
「相棒ではたまに補助的に使うけど、銃杖は両手を使うからね。まだ試したことはないけど……ジューダスにそう言われるとなると、実践で使うのは少し怖いな。」
「やめておけ。更に腕を壊す気か。あの武器…、見た目に反して反動が大きいのだろう?」
「……よく見ていらっしゃることで。」
肩を竦めれば、ジューダスから冷たい視線を貰ったので視線だけを逸らせておいた。
確かに銃杖は弾を四方八方へと飛ばせる習性があり、その時の反動は自分が両腕で支えていて、地面に足をしっかりついている状態でも反動で後ろへズレてしまう。
たまに反動を上へと逃がす為に銃杖自体を上へ向けることもあるが、それをすると次の技への発動が若干遅くなることもあり、後ろへ流すことの方が多かった。
あれをすれば腕を壊す、か…。
困ったな…?
「……ひとつ、良い考えがある。」
「え?なんだい?それは。」
「ジューダスに言うと怒られそうだけど、この際なりふり構ってられないから言わせてもらうけど…左腕については修羅を頼ろうと思うんだ。」
「……あいつか。」
『何で奴なんですか?』
「彼の回復技、私には相性がいいみたいで、彼が回復技を掛けてくれると体が不思議と軽くなるんだ。だから、今回もちょっとやってもらおうかなっと思ってね?これでダメなら諦めた方が良さそうだ。」
「……。」
僅かに……いや、かなり拗ねている様子の彼に心の中で謝る。
本当、ごめん。でも治ったら戻ってくるから。
「2人は皆の所に帰るだろう?2人も気を付けて。」
「いやいや、何でアタシ達を除け者にしてんのさ!言っただろ?アンタがなんて言おうがアタシはアンタについて行くってさ!」
「……。」
ジューダスは思案するように黙り込んでしまった。
確かに、私の偽物ならジューダスが居ない事を不審に思うはずだ。
ナナリーは最初から私を気にしてくれていたし、偽物がナナリーに対してどう行動取るかは未知数だ。
だが、彼はそうはいかないと思う。
私の中でも大切だからこそ、彼の存在は大きい。
「ジューダスは帰った方がいいと思う。偽物であれ、あの人が君を見失って、黙っているはずがないと思うからね。私の偽物なら尚更、ね?」
「……。」
『(あれ?これってもしかして……告白じゃないですか…?)』
「(無意識だろうけど、告白って奴じゃないかい?これ。)」
ナナリーとシャルティエの思っている事は一致していた。
ボンヤリとそう思っていると、流石に黙っていたジューダスが恥ずかしかったのか後ろを向いてしまい、反対にスノウは不思議そうな顔をジューダスに向けた。
それに2人は思わず溜息を吐いた。
鈍すぎるスノウに、何度も告白を邪魔されているジューダス。
ヤレヤレとナナリーが肩を竦める中、スノウはどうしたんだろう、とナナリーへと視線を向けた。
「ま、アンタがそう言うって事は偽物のスノウもジューダスを大事に思ってるって事だろうし。アタシもジューダスが帰ることには賛成だよ。」
『ナナリー。何だかんだ言っちゃってますよ。』
「ナナリーは、本当に付いてきてくれるのかい?……結構危ないけど。」
「何言ってんだい!それなら尚更ついて行かなくちゃね!」
「僕は奴の動向を探ってみる。奴は夜になると外に出ているようだからな。」
「え?!そうなのか。」
「アタシ、アイツと鉢合わせした事ないけど?」
「向かう方向も違うし、何より奴の気配は希薄すぎる。シャルでも追えないくらいだからな。」
「……無理はしないでくれ、ジューダス。」
「それはお前らもだろう?」
ここで別れる事になるけど、絶対に帰ってくるという意味を込めて、拳を合わせる。
そして向こうも、ちゃんとその意図を分かってくれている様子で拳を合わせてくれる。
そんな時、ナナリーが声を上げたために視線は二つともそちらに向く。
「もう一つ、アンタに報告しなくちゃいけない事が起きたんだ。」
「?」
「あぁ、そうだったな。」
「カイルの奴がご飯を要らないって寝ちゃってね…。流石に怪しいと思うんだよ。ジューダスもそう思うだろ?」
「あぁ、あまりにも不自然すぎる。それに呼びかけたカイルの瞳は虚ろになっていた。あれが普通じゃないとあいつらならすぐに分かるはずなんだがな…。」
「(瞳が虚ろ…?今までそんなことなかったのに…。もしかしてあの人が遂に動き出したとかか?だとしても何のためにカイルだけを狙って…?)」
「…また、始まったか。」
「もうアタシたちの中ではお馴染みになりつつあるよね…。これも…。」
やれやれと肩を竦める二人だったが、息を合わせてスノウの名前を叫ぶ。
「「スノウ!!」」
「!!」
驚いたように目を瞬かせ、意識が現実に戻ったスノウは二人を見つめた。
そして自分がまたしても思考の淵に嵌まっていた事に気付く。
「あー、ごめん…。」
「全く…。で、なんか思い当たる節があるのか?」
「無い。でも、それがあの人と無関係だとは思えない。…だからこそ、気を付けてくれ、ジューダス。彼らの元に帰って、君までそうなったら…。」
「そうなったらもう手が付けられないよ…。」
「あぁ。気を付ける。あいつが動き出したと思っても良さそうだしな。お前たちの方も気を付けてかかれ。…足元をすくわれるなよ?」
「うん、気を付けるよ。ナナリーと無事に帰ってくる。だからそれまではどうか…」
「ふん、お前なら分かっているだろう?僕がそういった輩に何度挑んでいるか。」
「ははっ。分かってるよ。でも分かってるけど心配なんだ。……ふふ、心配位させてくれてもいいだろう?」
「…ふっ。」
そして、ジューダスの視線はスノウの耳に向けられ、そっとピアスのあった耳に触れる。
それに気付いたスノウは笑いながらそっと彼の手を取った。
「心配してくれるナナリーにお守りとして貸したんだ。だから今は無いけど、この事件が終わって皆と旅が出来る様になったら返してもらうつもりだよ。だから安心して?レディ。」
「……。」
それでも視線はそこから離れなかった。
それに私は一度苦笑いをして、そっと彼の手甲へと口づけを落とす。
「必ず無事で帰ってくると誓うよ。」
「…当たり前だ。約束出来ないなら端から行かせるつもりはない。」
「あぁ。そうだね。」
ようやく離れた二人。
名残惜しそうに…、寂しそうに…。
お互いの顔を見た私たちはどちらともなく笑っていた。
〝どうか無事で。〟
そんな言葉を残して私達は二手に分かれたのだった。
__「『(アタシたち/僕達の入る隙はなかったな…)』」
外野二人はこの時、密かにこう思っていたという…。