第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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「ただいま帰ったよ!」
「同じくただいま。」
黄昏都市レアルタに帰った私たちは集まってる仲間たちの元に歩みを進める。
沢山の食材を持って帰ったが、皆の方は上々だろうか。
「「「………。」」」
「…。」
沈黙を貫く皆に、私はナナリーと顔を見合わせる。
どうしたんだろうか。
皆に、いつもの元気がないように見える。
「アンタたち…一体どうしたんだい?」
「ナナリー…!危ないよ!!」
「「え?」」
カイルとリアラがナナリーの手を引き、仲間たちの元へ走っていく。
それを不思議そうに見つめれば、カイルやロニ、リアラまでもが私を鋭い視線で射貫いていた。
まさかそんな視線を貰う事になるとは思わず、私は慌ててジューダスを見たが彼もまた、困惑の色を滲ませ私を見ていた。
それに息を詰まらせると、カイル達の奥の方から何かが出てきて、そして皆の前に堂々と立った。
?「皆、気を付けて。あれが偽物だよ。」
「……え?」
私はその人物を見て息を呑んだ。
だって、
その姿は……
「わ、たし……?」
そう。
その姿は私に似た、瓜二つの”私”だったのだから。
状況が理解出来ないのは私だけではなかったらしい。
ナナリーもまたその人を見て、混乱したように声を上げていた。
「ま、待ってくれ!誰だい?!それ!!」
「誰って…スノウでしょ?ナナリー。」
カイルが何の疑問も持たない様にそう話すのを、私は何処か他人事みたいに聞いていた。
あれが誰かなんて勿論分からない。
だが、何のために仲間達を誑かしたのか分からない以上、放ってはおけない。
「……君は誰だい?」
?「何を言ってるのかな?私は”私”だよ。偽物さん?」
「……。」
どうして、私に成り代わったんだ?
それならば他の人でも出来たはずなのに。
私はともかく近くで見てみようと、一歩その人に近付いた瞬間…。
パァン!!
「っ!?」
「スノウ?!!」
ナナリーが慌てた様子でこちらに来ようとするのを仲間達が必死に止めている。
私は血が流れ、痛む左腕に手を当てたが、それよりも信じられない事が起きていたんだ。
「そ、んな…、うそ、だ…。…その、武器は…!!」
目を見張り、震える声で精一杯そう呟く。
だってその人が持っていたのは、私と同じ武器……、”相棒”がそこに居たのだから。
この武器は唯一無二で、何処にも出回ってはいない。
それは私が一番よく知っている。
なのに…。
ガチャリ
無情な音が響く。
私の頭に狙いを定め、銃の状態の相棒を持つ私に似た誰かは、無表情に私を見ていた。
先程と同じ威力の魔法弾を頭に打たれてしまったら、一溜まりもなく死んでしまうだろう。
私は慌てて外へ駆け出した。
戦う、なんて頭になかったのは左腕をかなり負傷しているからだ。
痛む左腕を押さえながら顔を歪ませ、私はもう日が暮れてしまった外を必死に走った。
何処に行くかなんて見当がついてる訳でもない。
でも、とにかく遠くに逃げなくては、と思ったんだ。
段々体が重くなってきて、身体を引きずる様に入った場所は廃墟だった。
壁を背にしてズルズルと座り込むと視界がブレてくる。
あぁ、まずい…。
早く、止血しな…ければ……。
私は左腕の服を何とか引きちぎり、口と右手を使って左腕の付け根部分を縛ろうとしたが、中々どうしてうまくいかない。
このままだと私は失血死してしまうのに…。
「はぁ、はぁ…。うっ…。」
信じられない事が起きすぎて…、その上痛みで体が動かせず…、出血多量で視界がブレて、体が冷えていく……。
あぁ…
「…さむ、い………」
「スノウっ!!!!」
壁を背にしてボーっとしていた私の耳に、ナナリーの声が聞こえる。
視界の端にナナリーの姿を捉えた気がして、緩慢な動作でその方向へ視線を向けた。
「ナ…なりー…」
「っ!? スノウ!しっかりするんだよ!!ちゃんと意識を保って!!!死ぬんじゃないよ?!!」
泣きそうな声で、震える声でそう話すナナリーに何だか安堵して、思わず笑った。
それを不吉だと捉えたのか、ナナリーが更に罵倒を浴びせてくる。
でもその罵倒は、優しい罵倒だった。
彼女だけは…
私を…本物だと……思ってくれた、のか……。
「あ、りがと…。ななりー…。」
「バカっ!!今、礼を言うんじゃないよっ!!?何で、何でアタシに回復が、使えないんだっ!!」
ギュッと左腕をきつく縛ってくれ、それと同時に痛みで呻き声をあげてしまう。
そしてその言葉も、今日…聞いていたな。
食材集めで山に行ったときにポロリと零していたナナリーの苦悩。
まさか、こんな時に聞くことになろうとは。
「絶対っ、絶対に助けるからっ!!だから、死ぬんじゃないよっ!スノウ!!」
「はは、は…。や、さしい…ね……ナナリーは……。」
「分かったからっ!喋るなっ!」
泣きながら必死に止血を試みてくれる彼女の声は、嗚咽でたまに声が裏返っている。
こんなにも心配してくれて、そして心配かけて…
「ごめ、ん…。」
「ダメっ!!お願いだよ、生きてっ!!スノウっ!!!」
私はそのまま俯いて意識を飛ばしていた。
。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○゚+.。o○+.。o○゚+.。o○+.。o○+.。o○
スノウが俯いてそのまま声を発しなくなった。
ナナリーは慌ててスノウの顔色を窺う。
真っ青な顔を通り越して、土気色の肌…。
もう危ないって一目で分かるくらい、スノウの状態は危険なものだった。
「スノウ?スノウっ!!!?」
必死に体を揺するが返事がない。
ナナリーは慌ててスノウを担ぎ、廃墟を出た。
「レアルタはダメだから…、その前の町なら…!」
黄昏都市レアルタはカイル達やあのスノウの偽物がいる。
だからスノウを連れて行けば今度こそ殺されてしまうかもしれない。
だったらその前の町に行って、回復ポットで回復させなければスノウに命はない。
「確か…紅蓮都市…スペランツァだったよね…。」
冷たくなっていく体に冷や冷やしながら、ナナリーは必死に走った。
仲間がこんな目に遭って、死にそうなのを目の当たりにして…。
ナナリーの心はぐちゃぐちゃに混乱していた。
__何故、皆はスノウを信じない。
__何故、あんな偽物が皆の所にいたのか。
__何故、誰も手を差し伸べてあげなかったのか。
酷く揺らぐ心と焦りで視界が涙で滲む。
絶対に助けたい。
この子は、私の命の恩人で、大切な仲間なんだから。
「スノウ…!!絶対に死ぬんじゃないよ…!死んだら、許さないからね…!!!」
必死に滑り込んだスペランツァは夜で寝静まっていた。
過去の記憶を頼りに、回復ポットまで走ったナナリーはすぐにポットへスノウを入れ機械を操作させた。
だが、スノウの顔色が良くなることは決してなかった。
「他に…何か…!」
一秒だって無駄に出来ない今の状態で、何かに縋りたくて、持っていたなけなしのライフボトルをスノウへと振りかける。
反応はしないが、少しでも効果があることをただ祈るしかなかった。
ナナリーは両手を合わせ、必死に祈った。
お願いだから、目を覚まして__と。
泣きながら待つ夜は長いもので、スノウの回復を祈りながら回復ポットの前でナナリーはずっと手を合わせていた。
ここに他の仲間が来ない事を祈って。
早くスノウの容態が良くなることを祈って。
とにかくひたすら祈った。
勿論神なんかじゃない。スノウ自身に、だ。
「…。」
長い、長い夜だった。
ようやくお日様が出てきた頃、ナナリーはそっとスノウの様子を窺った。
大分顔色が戻ってきているような気がして、ナナリーはホッと安堵の息を吐いた。
左腕をきつく縛りあげたスノウの服は既に血で滲んで黒ずんでいるし、左腕に流れていた血のせいでスノウの左腕は変わらず真っ黒だったけど、それでも生きているというその事だけがナナリーにはホッとできる瞬間だった。
このままだと可哀想だと、ナナリーは拭くものを持ってきて甲斐甲斐しくスノウの腕を拭いたり、身体を拭いてあげた。
拭いている最中、スノウの体が夜中よりもまだ暖かい事にナナリーは目を見張り、そして少しだけ笑顔になった。
どうやら一命は取り留めた様だ。
「…早く元気な顔を見せておくれ。スノウ…。」
そう願いながらナナリーはスノウの体や顔を拭き続けたのだった。
「……さらし?」
ちらりと見えた胸の部分にはさらしが巻かれていた。
どうやら胸を潰しているようで、それはきつく巻かれていた。
確かにいつも中性的な姿で胸の所も強調がなかったが、てっきりそういう…胸が小さな体格なのだと思っていた。
あの海洋都市アマルフィでも水着で胸の所の強調がなかったし、いつぞや見たウェイター姿も胸がなかったので本当に中性的で男か女か一見すると間違えられるように思う。
何故スノウは女性だということを隠しているのだろう。
でもそれはきっと本人の触れてはいけない部分だと思い、ナナリーは考えを散らす様に首を横に振った。
流石に外なので見えるところだけしか拭いていなかったが、ちらりと見えてしまったから気になってしまっただけだ。
そっと見なかったことにして、服を元に戻し、血の付いた布を洗うためにスノウから離れた。
その時だった。
「……うっ。」
「!!」
慌てて振り向けば、多少顔色が悪いが薄ら目を開けるスノウがそこにはいた。
彼女が目を覚ましたことに思わず涙ぐんでしまい、そのままナナリーはスノウへと抱き着いた。
そして、
「う、うわぁあぁぁああぁ…!」
「っ?!」
ナナリーの聞いたことのない泣き声を聞いて飛び起きたスノウだったが、貧血なのかフラフラと頭を押さえ、それでももう片方の手はナナリーの背に回していた。
「ナナリー…?どうしたんだい…?」
それでも堰を切ったように泣き続ける彼女に困った顔をしたスノウだったが、優しく頭を撫でた。
彼女の気が済むまで、ずっと撫で続けた。
__数分後。
ようやく落ち着いたナナリーは恥ずかしそうにスノウから離れていった。
それに微笑みながらスノウは最後に頭を撫でる。
「もう大丈夫かい?レディ?」
「う、うん…。ごめんよ…。アンタが生きてるんだって分かって…安心したっていうか…。」
「……あぁ、そうだった。ありがとう、ナナリー。」
「もう…平気なのかい?その腕…。」
「……。」
暫く腕を動かしていたスノウだが、顔を歪ませ痛そうな顔をしていた。
まだ完全ではないようで、ナナリーは少しだけ俯かせたがすぐに顔を上げ、スノウへ声を掛ける。
「ま、もう少し経ったら治るさ。」
「そうだね。そうなることを祈るよ。……というより、ここは…?」
「ここは紅蓮都市スペランツァ。流石にレアルタはあの偽物が居るから連れていけなかったよ。」
「……。ごめん、ナナリー。こんな遠いところまで…。重かっただろう?」
「でも、アンタくらいの身長にしては軽すぎると思ったけどね?やっぱり普段食べないから…」
「ははっ。またお母さんが炸裂しているよ?」
「あ、もう治んないわ。これ。」
「ふふ、はははっ…!」
可笑しそうに笑ったスノウに、ナナリーは心の底から安堵した。
仲間の命が救えた。
それが、どれほどナナリーにとって大事な事か。
「…ねえ、ナナリー。」
「ん?」
「一つ、聞いてもいいかい…?」
「何でも聞きなよ。…あのアンタの偽物以外でね?」
「ふふ、分かった。……ナナリーは…どうして私を本物だと信じてくれたんだい?」
「どうしてって…。だってアタシは、アンタと一緒にずっと食材を集めていただろ?あの時にすり替わったなんて言い訳、アタシには通用しないよ。」
「…。そっか…。」
「…あいつらは騙されてるだけさ。だから、アンタが気にすることじゃないよ。」
「うん。…そうだね。」
沈黙してしまった二人はそのまま言葉を発さずにいたが、突然スノウが呻き出したのでナナリーは慌ててスノウに駆け寄った。
「だ、大丈夫かい?!」
「あぁ……、血が…足りない……。」
「あぁ…。ま、そうだよね。…よし!エッグベアの肉もあることだし、アタシが血が漲る料理、作ってあげるよ!」
「はは、楽しみにしてるよ。ナナリー。」
「任せておきな!だから、アンタはまだその回復ポットに居るんだよ?まだ、…顔色が悪いからさ。」
「多分、血が足りないだけだと思うけど?」
「腕も、だろ?」
「…それもそうか。」
左腕をチラッと見たスノウは、諦めたようにそのまま回復ポットに背を預けた。
それを見届けてからナナリーは外に出て食事を作り始め、それらが出来上がったのは丁度お昼ごろの話だった。
スノウへ肩を貸しながら外へと来た二人は、その場に座り、食事をすることにした。
食事処とかはあのドームの中にはなく、作れる場所もなさそうだったのでナナリーは外で作ったのだ。
血が出来やすいと言われる鉄分を多く含んだ食事を見て、スノウが感嘆し、食事に手を付ける。
そのままゆっくりと食べ進めるスノウを見て、ナナリーもゆっくりと食べ始めた。
「……美味しい。」
「それは良かったよ。ちゃんと食べて栄養付けるんだよ?」
「…全部、なんて言わないよね?ナナリー?」
「何言ってんだい。全部だよ。」
「え、」
だって、この量は明らかに尋常じゃない量だ。
二人分…というよりいつも見ている量と変わりない気がして、呆然とナナリーを見るが、当の本人はそれはそれは良い笑顔でスノウを見ていた。
それに「ははは…」と乾いた笑いを零し、スノウは汁をすすった。
厳しいお母さんの指導の元、しっかりと料理を堪能したスノウはもう食べられない、とばかりに横になっていた。
「すぐ横になったら胃に悪いよ?」
「うぅ…。もう食べられない…。」
「情けないねぇ…?」
苦笑いを零したナナリーだったが、スノウの顔色を見て笑顔を零した。
明らかに以前より血色の良い顔色をしていたからだ。
だが、問題は…。
「スノウ。アンタ…、左腕はどうなんだい?」
「ん?あぁ、左腕は…まだかかりそうだ。」
スノウは僅かに腕を動かして見せたが、すぐ痛みに顔を歪め腕を動かすのをやめる。
それ程、魔法弾の威力は強いのだ。
気絶弾と違い、魔法弾は純粋に銃弾の能力を持ち、弾にマナを込めた技である。
あの威力の上がる銃杖でなくとも、スノウの左腕を再起不能にするくらい素晴らしい威力を誇る。
それはスノウ自身、一番分かっていることだった。
寧ろ、腕ごと吹き飛ばされなかっただけ、まだ……マシだ。
「……。」
「やっぱり痛むかい?」
「まぁね。もう少し回復ポットに入って、回復に専念することにするよ。…ナナリーは怪我はないのかい?私の方に来て、皆が何かしてこなかったのかい?」
「あぁ…あの時ね…。」
ナナリーは思い出す様にポツリと話し出した。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*+..:*○o。+
__パァン!!
左腕を撃たれたスノウは顔が真っ青だった。
だが、それ以上に信じられないという表情が際立っていた。
「そ、んな…、うそ、だ…。…その、武器は…!!」
スノウは左腕を押さえながら目を見張り、震える声で精一杯そう呟いていた。
ナナリーともう一人、誰かが息を呑んだ音がした。
偽物のスノウがもう一度武器を構えた瞬間、スノウの顔は絶望の色を滲ませ、そして走り去っていってしまった。
「スノウっ?!」
慌ててナナリーがスノウを追いかけようとするのをカイル達が止めに入る。
「だ、駄目だよ!ナナリー!危ないよ!」
「あのスノウは偽物なのよ?ナナリーがあっちにいったら危ないわ!」
「アンタ達!本当にそう思ってるのかい?!どう見ても、さっき撃たれた方がスノウ本人に決まってるだろ?!」
「何言ってんだよ、ナナリー。ここにスノウがいるだろ?…ちょっとは落ち着けよ。」
ロニまでもそう言ったことにナナリーは愕然と皆を見た。
そしてスノウと一番仲の良いはずのジューダスも見たが、彼は俯いたままで何を考えているのか分からなかった。
その瞬間、ナナリーは恐怖を覚えた。
何で、誰もおかしいと思わないのだろう、と。
「っ!!」
ナナリーは皆の静止を振り切り、外へと飛び出した。
そのまま走っていくと、地面に血の跡が一筋だけ伸びていて、すぐにそれはスノウ本人のものだと察しがついたナナリーは血の跡を頼りに走った。
そして例の廃墟へと辿りつき、壁を背にして倒れ込んでいるスノウを発見したのだ。
「____っとまぁ、こんな感じかね?」
「…。」
「…気味が悪くってね。あそこに居たら…。どうにかなっちまいそうだった。」
「ナナリー…。」
「スノウ。アタシはアンタを信じてる。誰が信じなくたって、アタシだけはアンタを信じる。だから、元気だしなよ。ね?」
元気づける様に肩を叩いたナナリーにスノウも笑顔で返す。
スノウには近くにこんなにも頼りになる仲間がいるのだ。
そんな人を悲しませたくはない、とスノウは笑顔を零し立ち上がった。
「さて、ね?これからどうしたものか…。」
「…それより、アンタさ。服変えた方がいいんじゃないのかい?」
スノウが改めて自身を見直すと、確かに左腕の所は止血のために服を引きちぎって無くなっているし、所々血の跡もついているので血が苦手な人からすると目も当てられない状態だ。
ふむ、と考え込んだスノウだったがすぐに頷いた。
「どうせ、もう変装する意味はないしね?ここらで服を買って気分でも変えようかな。」
「アンタ、変装してたんだ…。」
「一応考古学者として扮装してたつもりだけど、今となっては皆に正体もバレてるし、普通の格好でもいいな、って思ってね。」
「そうだったのか。じゃあ、服を選びに行こうじゃないか!」
そう言って、スノウの手を引っ張り中へと入る。
この世界の町…というかドーム状の町には服屋というおしゃれなものはなさそうだが、エルレインからの支給品の中には防具やら服やらが少しあったので見てみることに。
「うーん。これかな?」
「ねえ、一つ聞きたいんだけどさ?」
「うん?」
「さっき…体拭いてるときに見ちゃったんだけど…、その、さらしを巻いてる理由って何かあるのかい?」
「あぁ、これはただ胸が邪魔で潰してるだけだよ。胸があるのと無いのとでは雲泥の差があるからね?前線に出てた時に胸が邪魔で、それからこうして巻くようになったんだ。今じゃもう癖のようなものだよ。」
「なんだ、そっか…。少し言いづらい事でもあるのかと思ってさ。」
「?? 言いづらい事?例えば?」
「その、女性に見られることが嫌だとか…。」
「うーん、まぁ、どっちとも言い難いかな?別に女性だと知って欲しい訳でもないし、男性だと誇示したいわけでもない。だからそれは相手の判断に委ねているよ。私自身がスカートとかああいう女性ものを好まない事も相まって、男性に見られることが多いけどね?」
「確かに、今選んだ服も中性的な服装だね。スカートが嫌な理由は?」
「動きづらい。」
「はははっ!!そんな理由でかい?」
「結構大事だと思うよ?」
服選びでこんなに騒ぐなんて、本当に女性同士の買い物みたいだ。
お互いに笑いあうと、再び服談議で盛り上がってしまう。
ナナリーがこれも着てみて、あれも着てみて、というから着せ替え人形のようになったけれど束の間の楽しい時間を二人は過ごした。
そして、結局スノウが選んだのは最初に選んだ中性的な服装であった。
一見すると男性に見れなくもないが、女性に見えなくもないといった見た目になったスノウ。
長い髪はナナリーの推薦でおしゃれなリボンで後ろに一纏めにした。
その色はナナリーの髪色と同じ、赤いリボンだった。
「ふふっ、ナナリーの髪色と同じ色だね?このリボン。」
「なんか気に入っちまってね!スノウに着けて欲しかったんだよ。」
「ありがとう、ナナリー。」
優しくリボンに触れるスノウの顔は嬉しそうに微笑んでいた。
動きづらさがないか念入りにチェックしているスノウを見て、ナナリーも仲間の新たな装いに目を細め、嬉しそうにしていた。
本当、今まで学者の格好をしていただけにこの格好は新鮮である。
しかし、スノウはその上から〈赤眼の蜘蛛〉がいつも着ている黒づくめのフード付きのローブを被るのでナナリーは驚いて声を掛けた。
「ちょっと?!何でそんなの着てるんだい?というかその服何処にあったんだい?!」
「以前、〈赤眼の蜘蛛〉に囚われていた時に拝借したものなんだけど…、普通に売ってもいるようだね?」
「え?」
ナナリーも支給品を見てみると、確かに黒いローブのようなものが売れている。
何故こんなものが売れているかは不明だが、それよりも今スノウがこれを着なくてもいいのでは、という疑問の方が大きかった。
「相手が何処から現れるのか分からないからね…。念には念を入れておくに越したことは無いよ。」
「そんな…。」
確かに、あの偽物がまたスノウを殺しに来る可能性も…なくはない。
だが、それではいつまで経ってもその黒いローブは取れやしない。
やはり元凶をどうにかするしかない…。
「…今後、どうするつもりなんだい?」
「あの偽物の正体を暴く。その為に、一旦〈赤眼の蜘蛛〉の拠点に向かおうと思ってね。」
「その腕で…?!無茶だよ!!」
「勿論、腕が治ってからにするよ。今は、少しでも情報が欲しい。……本当ならあの偽物の傍にいて情報を掴みたい所だけど…、私が近付くと難しそうだからね…。困ったものだよ。」
「……。」
ナナリーはそれを聞いて少し考え込んだ後、決意を固めスノウを真剣な眼差しで見た。
「アタシがあの偽物の近くにいて、情報を掴むよ。」
「!!」
危険だ、と言おうとしたスノウだったが、あまりにも真剣にナナリーがスノウを見るものだから言い淀んだ。
それにアマルフィで、シアンディームに言われたことも思い出していた。
私は仲間に危険が及ぶことを遠ざける節がある。
だから本当ならもっと仲間を信じるべきなんだ、という事を学んだ。
そしてそれは、今回もきっとそうだ。
「…危険なことに変わりない…。それでも、やってくれるのかい…?」
「アンタのためだからね!それにちょうどいいよ。あの状態の皆をアタシも見ていられなかったしね!…スノウが出来ないっていうなら、アタシがやる。」
「…本当、ナナリーには敵わないな?」
「だろ?でもアンタも危険なことをするんだから、気をつけなよ?…捕まらない様に、さ。」
「肝に銘じておくよ。」
拳を合わせて検討を祈る。
だけど、それは明日からにしよう。
「ともかく今日は回復ポットに居る事にするよ。早く腕を直して行きたいところだしね。」
「そうしな?アンタ、気ぃ抜くとすぐに無茶するんだからさ!」
「ははっ、人の事言えるのかな?ナナリー。」
「アタシがいつ無茶したってんだい。」
「十分危険を冒してもらってるよ。私の事でね。」
「なら、それは無茶って言わないね。アタシの命の恩人なんだから大人しく受け取っておきな。」
「そうさせてもらうよ?ナナリー。」
それでもやはりお互い心配にもなる。
次、いつ会えるか分からないのだから。
そんな話をして二人は考える。
定期的に連絡を入れるにはどうすればいいか、を。
「夜中、こっそりナナリーが抜け出せるならそこで落ち合おう。場所は…」
「レアルタから近いところなら、アンタが隠れてたあの廃墟がいいんじゃないのかい?」
「…確かに…。それなら私も一度行っているし、瞬間移動が可能だ…。理想的な場所だが…ナナリーの睡眠時間を奪ってしまうね。」
「そんなのお安い御用さ。元気そうなアンタに会えるってんなら嬉しいもんさ。」
「じゃあ、そこにしよう。毎晩一応あの廃墟で会うって約束で。これでどうかな?」
「あぁ!それで行こう!あいつの正体、暴いてやろうじゃないか!」
「うん。絶対に…暴いて見せるよ。」
「…一番厄介なのが、アタシがヘマしないか、だね…。」
「いや…。一番厄介なのはジューダス、…彼だ…。」
もし彼が向こう側についているなら、これ以上に厄介なことは無い。
こちらの動向を窺ってくるだろうし、彼もまた”あの約束”があるから…。
「(私を何者からも守る…、か…。)」
偽物を私だと勘違いしているだけに、その言葉が胸に痛い。
きっと彼は、その偽物を守ろうと必死になってくれるはずだ。
それが…、何故か……苦しいと感じる。
「……。」
「スノウ…?大丈夫かい…?」
ナナリーが心配そうに顔を覗き込んでくる。
それに笑顔で応えるが、僅かに笑顔が堅かったか、ナナリーの顔も曇っていた。
「ジューダスの事…考えてるんだろ?」
「…そうだね。彼はきっとあの人の事を守ろうとするだろうから……。何だか、それを思うと……胸が苦しいんだ…。なんでだろうね?」
「!!」
目を見張るナナリーに私は不思議そうに見たが、答えは出なさそうで首を横に振って考えを消した。
「さて、じゃあ回復ポットに入ってくるよ。ナナリーはもう行くのかい?」
「え?あ、あぁ…。そうしようかね。早いに越したことはないだろ?」
「無理はしないでくれ。」
「大丈夫。アンタもちゃんと回復させとくんだよ?その腕。」
「あぁ、善処するよ。」
ナナリーは少し何か言いたげにしていたが、踵を返すと外へと向かっていく。
私はそれを見送り、その後ろ姿に声を掛けた。
「ナナリー!!」
「??」
「ありがとう!…それから、今夜行くから…!」
「うん!あの廃墟で待ってるからね!」
そう言って手を振った彼女は今度こそ外に出た。
そして私はナナリーとは反対の方へと歩き、また例の回復ポットに身を預けた。
__痛む左腕に気付かぬふりをして。