第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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___苦しい。
息がしづらい。
ここは……何処なんだ?
僕は何時ぞやと同じくまた真っ暗な空間にいた。
確か昨日はカイルたちと夕食を食べて、それから各々の時間を過ごした後寝たはずだが…。
ということは、これは夢か。
そんな答えに辿り着いた僕だが、それでもこの夢から覚める事は無い。
「────」
声が出ない。
全く……どうなっているんだ。
近くにいるはずのシャルもいないし、息苦しく、ここに居るのはただただ辛い。
だから早く目が覚めるのを僕はただひたすら待つしかなかった。
しかし一向にその気配が訪れない。
何故か覚めない夢のような気がして、冷や汗が背中を伝う。
ここに居てはいけないと脳内で警鐘を鳴らしているのに、一向にここから出れるという想像が出来ない。
シャル、スノウ……。
皆は……何処だ?
「────」
声なき声がその場に響く。
いや、声が無いのなら響くと言う言葉もおかしなものだ。
「───」
何度も何度も声を出そうと頑張ってみるが、効果は無い。
何故、声が出ない?
何故、僕はここにいるんだ?
虚無なこの空間にいつまで居続ければいい?
「────」
誰でもいい。
ここから救い出してくれ。
「───ス」
あぁ、スノウの声だ。
恐らく僕の名前を呼んでいる。
だが、返事をしようにも声が出せない。
どうしたらあいつに僕の声が伝わる?
体を動かそうとするが、やはり以前と同じで体も動かせない。
……??
何故前回の夢の事を思い出せる?
あの時、僕は目覚めてから夢の内容を覚えていなかったのに。
「ジ───ス」
あぁ、やはり僕の名前を呼んでいる。
早く大丈夫だと伝えなければ……。
彼女はとても寂しがり屋で、何でも独りで抱え込んでしまう人だから。
早く隣に行かなければ。
「──」
どんどん声が遠ざかっていく。
何故、何故身体がこうも動かせないんだ。
早く彼女の隣に行きたいのに。
悪い夢なら早く覚めてくれ…!
「っ!」
僕はベッドから身体を起こし、荒い息を吐いていた。
悪い夢でも見ていたのか、冷や汗も流れており気分が悪い。
そんな僕を見ていたシャルが不思議そうな顔をして僕に声を掛けていた。
『?? 大丈夫ですか?坊ちゃん…。すごい汗ですけど…』
「はぁはぁ…、大丈夫、だ…。」
『前もこんな事がありましたよね?本当に大丈夫ですか?』
「……」
夢の内容を覚えていない…。
だけど、何故か思い出したくないと身体が訴えているかのようだ。
その上、またしてもスノウの安否が気になる。
……何故?
「……はあ。……少し外の空気を吸ってくる。」
『あ、はい…。坊ちゃん、僕を置いていかないでくださいね?』
「あぁ。」
僕はシャルを手にし、外へと出掛けた。
ドーム状の街から少し離れ、外の空気を一人静かに吸っていると運の悪いことに魔物に出会す。
先程の思い出せない夢の鬱憤を晴らそうとシャルを手にし攻撃してみれば、僕の攻撃は簡単にすり抜けていく。
……〈ホロウ〉か。
『この改変現代に入ってからよく見るようになりましたね…。スノウが心配です……。』
〈ホロウ〉は僕達みたいな、この世界の人間には目もくれず攻撃もしてこない上に僕たちが〈ホロウ〉に触れようが全く意味は無い。
攻撃はすり抜けるし、魔物自体に触ることも出来ない。
僕達からするとただ触れない気味が悪い魔物、という認識である。
それが、〈星詠み人〉には違う様に見えるというのだから驚きである。
「遂に〈ホロウ〉やら〈ロストウイルス〉も野生化してきたんだな。これじゃあアイツは生きにくいだろうに、な。」
『もうこの世界で何回見てきたことか…。最早、カイルが一生懸命攻撃していたのが懐かしいくらいですよ。』
この世界に来て初めの頃は攻撃が通らない魔物だ、と全員で困惑していた。
だが自分達には害がないと分かり、それが〈ホロウ〉であると判断ついた。
皆でスノウが居なくて良かったような、良くないようなと話していたものだ。
『?? 坊ちゃん、何か聞こえませんか?』
「は?こんな所にか?」
シャルの言葉を信じ、耳を傾けると何処か遠くで何かが爆ぜる音がしている。
何やらその物騒な音に無意識に怪訝な顔をしていると、シャルが近付いてみようと言い出すので渋々歩き出す。
しかし、それが正解だった。
『え?! スノウじゃないですかっ!!?何で1人でこんな所で戦っているんでしょう?!』
「……だが、あれはもしかして……」
『まさか、〈ロストウイルス〉とか言わないですよね…?』
「……そのまさかだろうな。あいつの動きが些か硬い。それに近接攻撃じゃなく、遠距離系の攻撃を選んでいるのを見てもそうだと考えられるが?」
『わわわ…。どうしましょうか?僕達では手も足も出ませんよ?!』
「見守るしかないんだろうな…。」
辺りにいた魔物が僕には目もくれず、そのままスノウへと向かっていくのを悔しい気持ちで見る。
今後、旅の道中でもこういう事があるだろうから……それを思うと辛い所だな。
『極っ力っ!会いたくはありませんが……早いところハロルド博士に会いたいですね。』
「あぁ。そうだな。」
魔法ばかりを使うスノウを見ながら腕に爪を立てた。
今後僕がスノウの隣に立つには、この課題をクリアしない事には彼女の隣に居ても意味は無い。
〈星詠み人〉のマナを纏わせる方法……、それさえ分かれば僕だって〈ロストウイルス〉に対抗出来るのだが…。
「__スーサイドエコー」
スノウが聞いた事もない技を繰り出すと、その場に居た〈ホロウ〉が皆苦しみながら倒れていき、そして消えていった。
流石というか、鮮やかな手並みに僕は拍手をした。
「…!」
戦闘後の荒い呼吸を整えながら、僕の拍手に驚いたように顔を上げるスノウ。
僕を見つけると困った顔で笑った後、駆け寄ってきてくれた。
「どうしたんだい?こんな時間に…」
「それはこっちのセリフだぞ。何でお前がここにいる。〈ホロウ〉が彷徨いているのに危ないだろうが。」
僕がそう言ってやれば、バツが悪そうに顔を逸らせ何を言うべきか迷っているようだった。
「…“神”が言ってたんだ。想像力を働かせたら〈星詠み人〉でなくとも〈ロストウイルス〉へ攻撃が出来るって。それが何だか分からなくて……戦ってみたら案外分かったりしないかなって、ちょっとそこまで……」
最後の方は尻すぼみになりながら視線を逸らせたスノウ。
なんだ、危ないってことは分かってるじゃないか。
「……はぁ。それで1人でこんな夜中に〈ホロウ〉相手に戦っていた、と?」
「あはは……。返す言葉も無い。」
『危ないですよ?!一人の時に何かあっても僕達はスノウの気配を読めないんですから!!』
「そうだね。でも……解いてみたかったんだ。その謎を。……絶対に何かあるはずなんだ。」
スノウは真剣な顔で銃杖を瞬時に消えさせ、そう呟いた。
彼女が話す“神”から聞いた話……、恐らく大事な事を言っていたはずだ。
ここらで話の共有をしてもいいのかもしれない。
「その“神”とやらはどんな話をしていた? どんな小さな事でもいい、話してくれ。」
『確かに少し気になりますね。スノウ1人だと違う解釈をしているかもしれませんし、どうです?僕達に話してみては?』
「…! それもそうだね。じゃあ、話そうかな。私と“神”の話を。」
スノウは思い出す様に天を仰ぎながら、出来るだけ事細かに“神”との話を伝えてくれた。
その中でも気になる点は何点かある。
まずは、アーサーが“神”によって遣わされた存在だとか、スノウも同じくそう言う存在だったとか。
後はなんだ?〈星詠み人〉の楽園を作って、その為にこの世界の人間を巻き込める〈ロストウイルス〉を作り出そうとしている、だとか。
……これだけでも頭が痛くなりそうだ。
『〈ロストウイルス〉が自然にも影響したら……この世界は破滅ですよ…?何を考えてるんですか!〈赤眼の蜘蛛〉は!』
「全くだな。本当にそんな話になっているとは思いもしなかったが…。」
「ジューダスは何となく気付いてたって事かな?」
「カイル達との話でそう話した事は覚えている。」
この改変現代に来てまだ間もない頃、スノウが居ない状態での話だったので彼女が知らないのも無理は無い。
いつの間にかこちらを向いていたスノウと目が合う。
海色の瞳がそっと優しげに僕を見つめていた。
同時に嬉しさを滲ませている様な、そんな瞳でもあった。
何故、今そんな瞳をしているのかは自分からは想像もつかないが、それでも嬉しそうなのは分かる。
それだけで自分の心は安らいだ。
「まぁ、今は思い付かなくとも何れ思いついて見せるさ。“神”にも期待されている事だしね?」
再びその瞳は天へと向かってしまい、名残惜しく感じる。
見たこともない“神”とやらに、少し嫉妬をしてしまうのは致し方ない。
それ程、自分はスノウに執心なのだから。
もう、ここ最近……いや昔からずっと自覚して、意識している事だ。
「……勝手に期待されて、苦しくないのか?」
「まさか。そんな事はないよ。だけど、少しだけ恨んではいるかな?」
『ま、そうですよね。勝手に色々言ってくるんですから、そりゃあ恨みたくもなりますよ。』
「ふふ、そういう事じゃなくて。もう少しヒントを分かりやすくしてくれないかなって思ってね?」
天を仰いでいたスノウはふと目を閉じていた。
まるで僕の知らない間に“神”とかいう得体の知れない奴と交信しているかの様に見え、そうと思うとあまり喜ばしいとは言えないとも思った。
何だか一人だけ置き去りにされている様で、それが喜ばしいはずが無い。
「……〈ロストウイルス〉…。それから〈ホロウ〉、か……。何だかんだ話のスケールが壮大になって来たな…。」
「ふん…。元より聖女とか神だとか、僕達が出会っている奴は碌な奴が居ないだろうに。」
『千年前。ミクトランも自身を神と呼んでいましたし、“神”と名乗る奴はろくでもないですよね。』
「そうだね。ミクトランは…そうだったね…。はは、懐かしいな?」
そうか。
全ての内容を知っている彼女だから、ミクトランの名前が出ても驚かないし、知らないとも言わないのか。
寧ろ彼女は何もかもを知りすぎてる、と言った方が良いんだろうな。
「……。」
何を考えているのか、黙り込んでしまった彼女を横目に僕は構うことなく溜息を吐いた。
__また始まった、と。
「…………。」
『これは、長そうですねー。』
「どうやらそのようだな。……コイツのこの癖、どうにかならないのか。」
『どうにかなってたらこんなにも苦労しませんって。』
「それもそうだな。聞いた僕が馬鹿だった。」
声を掛けるのも億劫で、そのまま自分も天を仰いで見れば、思ったよりも星空が広がっていた。
月明かりは無いが、それでも星の明かりだけでも十分に明るく感じる。
しかしそれでも気になるのがベルクラントである。
星を邪魔するかのようにそこにありありと存在し続ける。
それに僕は、無意識に眉間に皺を寄せていた。
あんなもの、無くても人は生きていけるのに……何故あれが今更出てくるのか不思議だ。
相当昔の歴史を弄ったのだろうが、それでもあれを打ち上げるなど悪趣味である。
「……。」
やはりまだこちらに気が付かない様子の彼女に、本日何度目かの溜息を吐けば、シャルが腰でくすくすと笑っていた。
まぁ、こうして考え事で黙ってしまったが、隣にいるだけ安心は安心なのだが。
コイツが居ないと分かった時の皆の落ち込みようといい、自分の焦燥感や絶望感と言い……コイツに何一つ伝わらないのが些か癪ではある。
ふと、彼女の耳にあるアメジストのピアスが目に入る。
元々は自分宛にくれたピアスだったが、僕の瞳が好きだと言ってくれた彼女の耳に着けたのが今や懐かしさすら感じる。
そして、自分の耳には彼女の髪と同じ色である澄み渡る空のような蒼色のピアスを着けている。
何だかそれがとても、面映ゆいのだ。
無意識に僕は彼女のピアスに触れていたようで、スノウがようやく我に返ったようにこちらを向いた。
「どうしたんだい?ジューダス。ピアスが何かおかしいかな?」
僕の手の上からピアスに触れる彼女は、目を瞬かせ何かあるだろうか、と何度も僕の手に触れた。
だから僕は思わずこう口にした。
「似合っている。」
すると、僕のその言葉を聞いてスノウは余計に目をぱちくりさせ、そして嬉しそうにはにかんだ。
あぁ、そうだ。
僕は今、その顔を見て安心したかったんだ。
その後、顔を見合せた僕らだったが同時にお互いの手を握り、帰路についた。
例の夢の内容なんて覚えていないし、その夢見が悪かった様だから気分が悪くなっていたが、今はスノウのその笑顔で僕は満足だった。
だが、それ以上にまた何か別のものも欲していたのも事実だった。
彼女の声を聞いていたい、とも思う。
……我ながら本当に我儘になったな、と思う半分、それはスノウだからだ、と何故か自身に言い聞かせていた。
「そういえばアマルフィで歌っていた、あの歌はもう歌わないのか?」
「え?…まぁ、人前では歌わないかな。上手くはないから恥ずかしいしね?」
地面を踏む音が続く中、スノウは少し思案した後そう答えた。
「上手だとは思うが…?」
素直な感想を伝えれば、スノウは目を丸くしたが困った顔で僕を見た。
事実、本当にそうだと思う。
僕は冗談など言わないタイプである事は彼女も知っている。
だからこそ、彼女はその様な顔をしたのだろうが、僕は僕でそれしか伝えきれなかった。
でも、叶うなら今ここで歌を聞きたい。
あの時もこんな夜に彼女の歌を聴いていたから恋しくなったのかもしれない。
「……♪白い羽を持つ鳥たちが───」
静かになった彼女は歩きながら歌い出す。
あぁ、その歌だ。
あの時聞いていた不思議な歌…。
でも心地好く辺りに響き、そして胸が締め付けられる。
「♪この手は愛する人の手を温めるためにあるのだからー♪」
そう、最後にはその歌詞が出てくるんだ。
だから余計に胸が締め付けられる。
一体それは……誰の事を言ってるんだ…?
そっと目を閉じた僕に、静かになった彼女はきっと困った顔をしているのだろう。
歌って欲しいと言って、黙ってしまっているのだから。
「……良い歌だな。」
「そうだね。私もこの歌詞や歌が、とても好きなんだ。」
目を開ければ少しだけ恥ずかしそうに笑っていて、それにふっと笑ってしまうと余計に恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……。」
「……。」
お互いに何も喋らずに帰路を歩く。
一人は恥ずかしそうに。
もう一人は満足そうに笑って。
こうして、二人だけの素敵な夜が明けていく。
「(やはり夢見が悪い後はスノウの歌に限る…。)」
一人はそんな事を思い、少しばかりの睡眠を堪能した。