第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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「……ねぇ〜?アーサー?」
「どうかしましたか?花恋。」
ここは〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の一つ、〈パラダイム〉
そんな場所でアーサーと花恋はいつもの様に、アーサーの執務室で話していた。
アーサーは〈赤眼の蜘蛛〉関係の書類を仕上げていて、花蓮はそのアーサーの机に頬杖をつき退屈そうに話し掛けていた。
いつもの事なのでアーサーがそれを気にする事はない。
「私のスノウが逃げちゃったんだけど〜?」
「貴方がちゃんと拘束しておかないからでしょう?彼女は一筋縄じゃいきませんよ。このボクでさえ捕まえるのが難しいのですから。」
「え?嘘でしょ?! “あの”アーサーでも?」
「……それはどっちの事を言ってるんでしょうねぇ…?花恋?」
人聞きの悪い、と言わんばかりに顔を顰めるアーサー。
いつもニコニコとしていて、相手に隙を与えないイメージの彼だが、仲間内にはそんな表情も見せるようだ。
「だってアーサーってば、今まで欲しいものなら何でも手に入れてきたじゃん?そのアーサーが手に入れられない物があるなんて驚きなんだけど〜?」
「フフッ。だから欲しくなるのですよ。手に入れらないと分かれば分かるほど欲しくて欲しくて…。存外燃えるものですよ?」
「へぇ?でも、その感覚なら私にも分かるわ!!だって私もスノウが欲しくて欲しくて仕方がないんだもん!!」
狂気の笑顔を浮かべた花恋に、喉奥で笑うような声を出すアーサー。
その場に判子を押す音が響くと、アーサーは一度手を止め花恋を見た。
「……そろそろ物語は終盤に入っていますし、こちらも本格的に動かなくては、ねぇ…?クックックッ…!」
「どうするの?あの人たち、スノウに対してのガード硬いんだけど?」
「そうでもありませんよ。どういった物であれ、必ずそこには“穴”が存在します。……彼女の“穴”はどれでしょうねぇ…?クックック…!」
愉しそうに、それはそれは愉快そうに嗤うアーサーの目には狂気の光がゆらりと揺らめいていた。
「早い所事を運ばないと、ボクの“神”が赦しませんからね。」
「まーた言ってる!“神”、“神”って!!そんなに大事なの?その“神”って人。」
「えぇ…、とても大事な人ですよ。………人と言えばあの方は怒るでしょうが。」
呆れた顔で、その上大袈裟に手を上げるアーサー。
しかしその言葉は本音だろうと花恋はなんとなく気付いていた。
いつでも“神”を崇めるような言葉を選ぶアーサーを、今までずっと嫌という程見てきたからそう思えるのだ。
「ふーん…?私、会ったことないから知らなーい。」
「クックック…。会わない方が身のためですよ。」
「じゃあ、会わなーい!」
「賢明ですね。」
「で、これからどーすんの?」
「ウィリアムがそろそろ“アレ”を完成させている事でしょうし、行ってみましょうか。」
「え?なになに?何が出来てるの?」
「行ってからのお楽しみですよ。……クックック。」
愉快そうに嗤うアーサーを見て、花恋が笑顔になり勢いよく立ち上がる。
お出掛けならばおしゃれをしなければ、と花恋は急いで自室へと向かって行き、それを見たアーサーは花恋のその行動に慣れたように笑う。
「後はあの裏切り者をどうにか懲罰房へと閉じ込めないといけませんねぇ…?」
先程までとは違い、今度は真顔でそう呟いたアーサーは机に向き直ると机の引出しの裏に付けられた小さな機械を取り外す。
それはどうやら盗聴器の類いのようで、誰がこれを自分の机の裏に態々付けたかなんてアーサーには簡単に想像出来た。
「悪い子にはお仕置です。覚悟して待っていなさい、__修羅。」
そう言ってアーサーは、その機械をあっという間に潰して壊してしまった。
僅かに電気を発して抵抗した様に見えたそれも、今じゃ使い物にならない。
アーサーは無表情でゴミ箱へとそれを投げ捨てた。
そこへ丁度おしゃれをして帰ってきた花恋に、アーサーは再びいつもの飄々とした笑顔で出迎える。
「準備はバッチリですね。」
「うんっ!!バッチリ〜!!」
「では行きましょうか。あぁ、後それから…。」
「???」
「花恋。例のローパーの調子は如何ですか?」
「ローちゃん?ローちゃんなら絶好調よ!……スノウが居なくなってから、ちょっとだけ元気無くしちゃったけど…。」
「そうですか。なら、ローパーを修羅に遣わして下さい。」
「?? 良いけど…また何で?あんな奴にローちゃんは使いこなせないけど?」
「懲罰房行き、ですよ。ああ見えて彼は〈赤眼の蜘蛛〉を裏切っていますからね。ちょっとした拷問です。」
「……。」
驚いた様に目を丸くした花恋だったが、アーサーの言葉を聞いて理解した後、口元に手を当てニタァと妖しく嗤った。
「アッははァ…!! 殺っちゃう?殺っちゃう?」
「生かして懲罰房へ連れて行ってください。丁度聴きたいこともありますし。」
「アッはははハハッ!!りょーかいっ!! 任せてちょーだい!? 絶対に捕まえてあげるわ!あのバカッ!」
「フフッ…、楽しみにしていますよ花恋。裏切り者にはどういった末路を辿るか…、その身体に直に叩き込んで差し上げましょう。……クックックッ…!!!」
その場に2人分の妖しい嗤い声が聞こえる。
狂気に満ちたその場に、誰も入ることは許されない。
暫くその嗤い声が聞こえたかと思えば、それは急に止む。
そして2人は仲良く執務室を出て、目的地へと向かって行った。
その足はウィリアムの元へと向かっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……。」
ブチッと切られた音に修羅は顔を険しくした。
例の盗聴器を付けたあと、ずっと聞き耳を立てていた修羅だったが、アーサーの言葉に逡巡していた。
「……チッ。あいつ、相変わらず趣味が悪いな。俺が盗聴してるって分かってて聞かせていたのか…。」
ずっと気になっていた。
〈ロストウイルス〉についても先日知った事実に正直驚きを隠せなかったし、〈赤眼の蜘蛛〉は果たしてどこに向かっていくのか。
そして、何故スノウを奴らが狙っているのか。
アーサーの執務室に態々初め乗り込んだ時は、下っ端の格好をしたスノウが居たから逃がすのにそれ所では無かった。
だが、やっと盗聴器を付けられたと思ったらこれだ。
何がなんやら、と肩を竦めた修羅はその場で大きく溜息を吐いた。
「お仕置、ね…。勘弁願いたい所だが…奴らの情報を聞き出すには絶好の機会でもある、か…。」
今は隣に居ないスノウへ思い馳せた修羅。
後は恋敵でもある奴の事も思い出しては顔を顰めさせた。
「…スノウの為に一度捕まってやるか。何が何でも情報を聞き出してやる…。」
アーサーの奴がいつも言っている“神”という存在。
そしてウィリアムの研究成果……。
気になる物は沢山ある。
覚悟を決めた修羅は天を仰ぎ、そして歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
___ウィリアムの研究所
「おっ邪魔しまーすっ!!」
それはそれは爽やかに、そして悪びれもなく研究所の扉を破壊しながら入ってくる花恋に、中に居た研究員がビクリと身体を震わせた。
あんなどこにでも居そうな女性の何処にあの鋼鉄の扉を壊せると想像出来るだろうか。
研究員が怪訝な顔で花恋を見たが、すぐにそれが〈赤眼の蜘蛛〉の幹部の一人、花恋だと分かるとすぐに頭を下げた。
……顔を青くさせて。
「花恋。物を壊すのは頂けませんね。」
「だってー、一々邪魔なんだもん!」
その後ろからは〈赤眼の蜘蛛〉の創設者で、実質上トップのアーサーが来た事で研究員達は慌ててその場で膝を着き頭を地面に付ける。
青い顔をさらに真っ青な顔にさせ、研究員達はフルフルと身体を震わせ、怯えていた。
それほどまでにアーサーの影響力は強い。
そう捉えられる程、この場には明らかな上下関係が存在していた。
「ウィリアムはどこに居ますか?」
「あ…、あちらです…」
「ふむ、分かりました。花恋、行きますよ。」
「はーい!」
ルンルンと歩く花恋の隣をアーサーが歩き、床に伏せた研究員達には目もくれず2人は研究員達の横を通り過ぎていく。
その事に研究員達は心の底からホッとしていた。
立ち去ったのを確認した後研究員達は静かに立ち上がり、持ち場へと静かに戻って行った。
私語は慎まなければ。
でなければ、たちまち殺されてしまう。
明らかな上下関係などでは無い。
そこには、“支配”の2文字しか無かった。
「「「「…………。」」」」
今日もまたよく分からない物を作らされている。
もうそれにも慣れてしまった。
研究員達の目には諦めの色が滲んでいた。
「おっ邪魔しまーすっ!!」
「花恋。先程も言いましたが…」
「分かってるわよっ!壊すなってことでしょー?」
「はぁ…。分かってるなら実行に移して下さい。室内の気密性を保つ為に、あの扉ひとつでも高いのですから。」
「あっははっ!!あーんな古臭い扉を新品に変えられると思えば気持ちは楽になるんじゃない?」
「物は言いようですね。」
ヤレヤレと肩を竦めたアーサーは中に居る老人に話し掛ける。
「ウィリアム。来ましたよ。」
「お主らは静かに来るという事が出来んのか!全く…、扉を壊しおってからに……。」
「申し訳ありません。後で修理業者を呼びましょう。」
「で? 何が出来てるの?ねえねえ?」
アーサーとウィリアムの言葉が聞こえていないのか、花恋は物珍しそうに部屋の中を物色していた。
それに頭を抱えるウィリアムを見て、アーサーが可笑しそうに笑った。
「あの娘…、本当に落ち着きがない。物を壊しそうじゃ。」
「花恋に一応注意はしましたが、保証はありません。」
「……研究成果を壊されたら溜まったものじゃないぞ?」
「善処しますよ。クックック…。」
「全く。お主という奴はいっつも厄介な奴を連れて来おって…。」
「すみません。丁度“アレ”が出来た頃だと思って連れて来たのですよ。」
「千里眼の持ち主かと思うくらい、いつもいつもタイミングがいいの?アーサーよ。どうじゃ?今度血でも採らせてくれないか?」
「クックックッ…!! 貴方もお変わりなさそうで安心しましたよ。」
マッドサイエンティスト【ウィリアム】。
〈赤眼の蜘蛛〉の組織員ならば知らない者は居ないほど有名なマッドサイエンティストだ。
人体実験はお手の物で日常茶飯事、彼を見た者は誰もが震え上がる。
何故なら彼と目が合えば、次の瞬間には眠らされ、人体実験の材料にされてしまうからだ。
それ程までに彼は狂気を纏わせているのだ。
「よく仕上がっておる。わしの最高傑作じゃ。」
「ふむ。なら期待させて貰いましょう。」
3人の目の前には、巨大な黒い塊があった。
それは蜘蛛の形を取っており、僅かに蠢いているのを見る限り、何かしらの生物のようだ。
《……》
「まだこやつは学習していないからの。話し方もわからんじゃろうて。」
「ふむ。中々良いものを作り上げたものです。流石ですね。」
「ねえねえ。これなんなの?黒い塊じゃん。」
「娘よ、これはわしの最高傑作じゃぞ。黒い塊という名前である訳なかろう。」
「クックック…。なら、名前はあるのですか?」
「勿論じゃ。何者にも、そして何にも変えられる力を持つ生物、“セルリアン”じゃ。」
「?????」
花恋は首を傾げ、疑問を体で表す。
ウィリアム博士の言っている意味が、花恋にはいまいち分からないからだ。
そんな花恋を放っておいて話は進んでいく。
「では学習相手が要りますね。」
「相手と目が合えば勝手に学習するように仕込んである。…まぁ、学習相手は選んだ方がええぞぃ。まだ出来上がったばかりで試していないまっさらな状態じゃからどうなるかは分からん。“セルリアン”もじゃが、学習される相手も…の。」
「相手にも支障があるとはかなり慎重にならないといけませんねぇ…。」
「まぁの。手近な所でおらんのか。」
暫く考える素振りを見せたアーサーだったが、すぐに思い当たったのかニヤリとほくそ笑むとそのまま頷いた。
「クックック…!丁度いいのがいますよ。今はまだ捕まえてはいませんが、ねぇ?」
「ほう。なら人体実験といこうかの。そいつを生贄にして“セルリアン”に学習させよう。因みに相手が何も出来ぬ廃人になってもわしゃ責任取らんからな。」
「構いません。どうせ裏切り者なので、どうなろうが構いませんよ。」
「ほう?〈赤眼の蜘蛛〉にもまだそんな反組織員が居たとは驚きじゃの?」
「どうやら敵に絆されたようですけどね。まだ彼は若いので致し方ないと思っていますよ。」
「ゲヘヘ…。まぁ若いうちは色々やるのがいいじゃろて。」
そんな話の途中、花恋はそのよく分からない生物を見つめていた。
それに気付いたアーサーが花恋へと声を掛ける。
「花恋。“セルリアン”に近寄りすぎると危ないですよ?」
「うーん…。この子……私の調教士の力を以てしても、手なずけられなさそう…。ちょっと悔しい…!」
「なるほど。花恋がそう言うという事は、それほど強力な生物だ、という認識で良さそうですね。」
「“セルリアン”の趣味や嗜好は最初に学習させた奴に寄るじゃろう。」
「なるほど……。まぁ、それも良いでしょう。こちらとしては、言いなりになる駒でなければ困るのでね。」
見つめていた花恋を怖がっているかの様に、“セルリアン”が僅かに後退する。
それに花恋が反応しないはずもなく、もっと近寄ろうと“セルリアン”との距離を一気に縮めたが、“セルリアン”は更にジリジリと後退していく。
「……花恋。“セルリアン”が怖がってるではありませんか。離れてあげなさい。」
「ええ?嫌よー。なんでこんな面白そうな物を前にして離れないといけないのー?」
「まぁ、貴方はそういう方ですね。お好きになさい。」
「はーい!」
暫く2人の静かな攻防戦が繰り広げられる。
それを横目にアーサーとウィリアムは再び話し始める。
「使い方としては、やはり学習が先ですか。」
「そうじゃな。言うなれば、こやつはまだ何も知らぬ赤子と一緒。学習は必須じゃろうて。」
「ふむ…。彼の全てを学習をさせて反抗的にならなければ良いのですがねぇ?」
「それは安心せぃ。そんな事もあろうかと、ちゃんと言う事を聞くようにしておる。例え学習相手が敵じゃろうが魔物じゃろうが関係あるまい。」
「ほう。流石は〈赤眼の蜘蛛〉随一の科学者ですね。」
「それくらい猿でも出来る。」
「貴方だから出来るのですよ。クックック…。」
「で? こいつで何をさせる気じゃ。確かに“セルリアン”は何にでも変幻自在に変化する事は出来る。じゃが、真似なんてさせてなんの得がある? 本物に優るものはないじゃろて。」
「クックック…!! それは見てからのお楽しみですよ。」
「ほう。期待しておこうかの。因みにじゃが、人体実験する奴がおらんくなったから補充を頼むぞい。」
「またですか。補充にもかなり労力を使う事を忘れないで頂きたいものですがねぇ?」
「それがあるから“アレ”が作り出せたんじゃろ? 後はお主から託された〈ロストウイルス〉だけよ。アレを何とかせねばワシらに未来は無いからの。」
「フフッ。頼みましたよ? 補充の件はやっておきましょう。そこら辺から捕まえてきますよ。」
「何人かは〈星詠み人〉も頼むぞい。」
「えぇ、分かっていますよ。クックック…!そろそろ“神”が新たな〈星詠み人〉を連れてくるでしょうし、後は待つばかりです。」
「お主も心酔しておるの、“神”というやつに。」
「あぁ、そういえば……。貴方は会ったことが無かったのでしたね。」
「会いとぉもない。」
嫌そうな顔をしてアーサーを見るウィリアムは、次の実験に入りたいのか視線をすぐに逸らせた。
それに気付いたアーサーは喉奥で嗤うと花恋と“セルリアン”の方へと体を向け、手を叩いた。
「花恋、“セルリアン”を連れて戻りますよ。早い所裏切り者を捕獲しなければなりませんから。」
「はーい!この子は私が持つわ!!」
ギュッと抱きしめて持ち上げた花恋は勢いよく立ち上がり、アーサーの横へと戻っていく。
それを見たアーサーは頷き、一度ウィリアムの方を見たがもうこちらには目もくれない様子なので破壊された扉を潜ることにした。
「さて。裏切り者に粛正を…。」
「ふふっ!!派手にやっちゃいましょ!? 修羅を捕まえておくようにローちゃんに言っとくわね!」
「ええ、頼みましたよ。……クックック。“何も出来ぬ廃人”ねぇ…?楽しみになってきましたよ。」
「もう使い物にならないってこと?一応幹部なのに大丈夫なのー?」
「えぇ。“セルリアン”に学習させさえすれば、後の抜け殻などゴミに等しい。……まぁ、そのゴミも多少使い道がありますから取っておきますがね。」
「ゴミはゴミでしょ? 何に使うの?」
「彼女……、スノウを呼び出す餌にでもしましょうか。クックック、彼女と修羅は仲が良かったようですからねぇ? 〈パラダイム〉の防犯カメラにお二人の様子がバッチリ写っていましたし…。絶望した彼女の姿も拝めるかも知れませんねぇ…?クックックッ…!!愉しみですねぇ…!!」
酷く愉快そうに嗤うアーサーに、花恋もクスクスと妖しく嗤う。
___運命の歯車は狂い始める。
果たして、スノウ達の運命はどう変わるのだろう?