第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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スノウの魔力回復の為にと、エリクシールを集め終えた僕達は、修羅と共にスノウへ惜しむ事なくエリクシールを使っていた。
しかし、決して目を覚ます事のない彼女に僕は恐怖を抱いた。
それは奴も同じだったようで、目を見張り怪訝な顔をしていた。
「……おかしい。エリクシールを使って魔力が回復しないなんて、今まで無かったのに…?何故起きないんだ?」
「もしかして効いてないのかしら…。」
「まだエリクシールとやらはあるのかい?」
「いや…。さっきので最後だぜ?」
「……。」
『どうなってるんでしょうか…?回復すれば大体は起きると思うんですけど…。もしかして身体的疲労の方が回復してなかったりするんでしょうか?』
「(シャルの言うことの可能性はなくはない…。だが、ずっと回復ポットの中で休ませて、回復していないなんて有り得るのか…?)」
未だ回復ポットの中で眠り続けるスノウに仲間たちが困惑の表情を浮かべた。
もう打つ手はない。
後はスノウが起きるのを待つだけだ。
「……ともかく、こいつが目を覚まさないとどうにもならん。そのままにしておけ。」
「それもそうだな。カイルもそれでいいか?」
「うん…。」
心配そうに見つめる甥を横目に、天を仰いだ。
ドーム状のここはいつ見ても晴れで、太陽が燦々とドーム内へ降り注ぐ。
回復ポットのある建物の中とは言え、入口に近付けばその光景がすぐ見られる。
そしてその天には忌々しいダイクロフトとベルクラントがある。
……スノウがアレを見たらどう思うんだろうな。
でも未来を知ってた彼女ならあの光景を知っていて、どうも思わないかもしれない。
それとも、過去に思いを馳せてはまた何も映さない瞳を覗かせて自嘲するのだろうか。
何れにしても、それが分かるのは彼女が起きてからなのだ。
久しぶりに会うのに目を覚まさないなんて酷いじゃないか、と心の中で僕は愚痴る。
「じゃあ、オレ達も解散しよう。」
カイルの一言で解散することとなった僕達は各々好きな場所へと散っていった。
修羅も行かなければならない場所があると言って去っていったので底知らず安堵していた。
そして僕は飽きもせず、こいつの隣にいる。
幾ら待ってもうんともすんとも言わないし、身動ぎ一つもしない。
ただ、そこに在るだけ。
まるで生きてる人形のようだ、と僕は回復ポットの中で眠るスノウに触れる。
するりと撫でた頬は温かみがあって、確かに彼女が生きている証なのに、何故目を覚まさない?
サラサラ__
澄み渡る空のような、その髪色。
触れればサラサラと手触りよく、自分の指の間から擦り抜けていく。
それが気持ち良くて何度も何度も彼女の髪に触れ続ける。
思えば、モネの時より長くなった髪。
でも、それはそれでとても良いと個人的には思う。
何だか女性らしくて見ていて綺麗だと思うし、 その髪色と相まって本当に蒼空を見ているかのようだから……好きだ。
「……早く目を覚ませ、馬鹿。」
この声が、お前に届いているか?
届いているなら、早く目を覚ませ。
早くその綺麗な海色の瞳を見せてくれ。
「……。」
「……スノウ。」
「……。」
「スノウ。皆が待ってるぞ。勿論…、僕も…。」
返事が無いと分かっていて、声を掛ける僕はなんてずる賢いのだろう。
本人には直接そんな事恥ずかしくて言えないから、こうやって気絶してる間に話し掛けるのだ。
「もうお前は仲間の元に戻ってきてるんだ。だから、早く目を覚ませ。」
でも、早くその声が聞きたい。
凛とした、そしていつもしているように余裕そうな顔で自分の名前を呼んで欲しい。
そうすれば、不思議と心が落ち着くんだ。
そして同時に高揚するのだ。
「……スノウ…」
いつの間にか夜の帳が落ちてきている。
辺りが薄暗くなってきて、その証拠に彼女の顔も見えづらくなっていた。
流石に宿は別に取っている為、遅くなってカイル達を心配させる訳にもいかない。
僕はこの日は諦めて、宿へと戻ろうと出口へ向かった。
しかし、彼女から離れて2歩も歩かない時に後ろから誰かに抱き締められて、ハッと息を呑んだ。
だって、後ろには彼女しか居ないはずなのだから。
恐る恐る僕の胸に回された腕に触れれば、それは見覚えのある衣服を着ていて、力強く僕を抱き締めてくれている。
「……久しぶり。そして、ただいま……リオン?」
「!!」
そのまま固まり、目を見張る僕にスノウはくすりと笑っている。
けれど申し訳ないとも思っているのか、次の言葉は謝罪の言葉だった。
「ごめん、遅くなった。少し……色々あってね?」
「……。」
「ねぇ、リオン…。いや、ジューダス。そのままでいいから聞いてくれないかな?君に今から……とても残酷な話をするよ。」
悲しげに吐かれたその言葉に、僕は彼女の腕を取りしっかりと向き合った。
話をするのにそのままで居て、という方が残酷だと思うが。
そのまま僕は彼女の手を握り、話の続きを促した。
「……今から私が話すことは信じて貰えなくてもいい。ただの私の妄想だと笑ってくれて構わない。だけど、私は……君に話しておきたいんだ。」
「…いいから続けろ。」
「……ふふ、ありがとう。」
彼女は僕の言葉を聞いて困ったように笑う。
僕がお前の言葉を信じないと思っているのか?
確かに過去に何度か、あまりにも突拍子もない話に戸惑った事はあるが、最終的にはお前を信じていた。
だから、話してみろ。
どんな話だろうが、最終的には信じている自分がいるのだから。
「この旅の最後……、世界を救った暁には私達は消える。これは変わらない未来なんだ…。」
『(!!)』
「……それで?」
「前世であれだけ派手にやらかしたんだ。私達の身体が持つ訳が無い。それに私達はエルレインによって生き返らせられている状態だから、当然と言っちゃ当然なんだけど……………………、本当ごめん…。」
「……謝る理由がさっきの話の何処にも見当たらない。僕は何に対してお前を許せばいいんだ?」
「この旅の最期……君は確かに消滅する……。けれども、私はまた生きなくちゃいけなくなったんだ。」
『「!?」』
またこいつは…突拍子もない話を…。
「勿論、分かっているよ。私が君を殺した事も、全て…。そんな私が一人ノコノコと生き長らえるなんて、とも思っている。だけど……、やらなければならないことが出来たんだ。だから……死に行く君に申し訳なくて、謝りたいんだ…。……ごめんっ!」
思いっきり頭を下げてきたこいつに思わず溜息を吐く。
こいつは……また一人で何かを抱え込んでいるのか。
「もし、もし……私のやるべき事が終わって、死んだら……向こうでもまた…同じように仲良くしてくれるかい…?」
「……。」
恐る恐る顔を上げ、スノウは僕の表情を窺っていた。
大体、僕は死ぬ事に関しては薄々気付いていた。
この旅の最後、どうであろうと僕は消えるだろうと。
そして、同じくエルレインによって生き返らせられたスノウも同じく消滅するだろう事も。
だが、それの斜め上を行く彼女の言葉に「またか」と思う気持ちと、態々僕だけに話してくれた喜びと、そして……また何かを背負わされている彼女への悲しみと悔しさ。
何故、……何故彼女だけにそんなにも辛い事をさせる?
その“やらなければならない事”というのは何だ?
それは、彼女一人で出来るものなのか?
また苦しく辛い最期を迎えるものじゃないのか?
次々と疑問が浮かんでは消えていく。
そんな僕に悲しそうに笑った彼女は僕の手からするりと抜け出し、困った様に笑った。
「ありがとう、聞いてくれて。とてもスッキリしたよ。……ほら、笑って?何の冗談だ、ってさ?」
「……僕がいつお前の言葉を信じないと言った?少しは考える時間くらい与えろ、馬鹿。」
「え?あ、うん……ごめん。」
僕の言葉が彼女には意外だったのか、目を丸くし途端に静かになった。
しかしその表情の端には、時折心配そうにする顔や、悲しそうに自嘲する顔になって、とにかく忙しそうにしているので僕は溜息を吐いて彼女の頬を両手で包んだ。
「……そんな顔をするな、と言ったのを忘れたのか?お前は。」
「え?」
どうやら無自覚らしい。
この世界に来た当初は自嘲ばかりしていた彼女。
それをやめろと言ったのが昔のことのようだったが、またそれをここで見る事になろうとは。
「何を勝手に想像して悲観しているかは知らないが、僕はお前の言葉を信じると言っているだろう。勝手に沈むな。」
「……。」
「いいか?大体、お前が言う言葉は突拍子も無さすぎる!少しは考える時間くらいくれてもいいだろう?」
「ご、ごめん…」
「はぁ、それで?」
「???」
「何があった?何故お前がそんなことを言い出したのか、僕には皆目見当もつかないが?」
魔力切れで倒れていた彼女に誰かに会って話すという芸当なんて出来るはずもない。
なら、何故彼女はハッキリと断言してこれを言えたのか。
僕に会う前だとしても、それだったら修羅が知らないはずがない。
「そうだね…それも話しておかないといけないね?…………私には、私の“神”がいるんだ。」
「……ここでも“神”か…。」
何となく察したぞ…。
リアラと同じで“神”によって遣わされた存在…。それがスノウという事ではなかろうか。
「“神”に頼まれた事が、私がやりたい事と一致したんだ。いや……絶対に成し遂げなければならないんだ。」
「それは何だ?また昔の様に、今じゃ出来ないことなのか?」
前世で言っていた言葉。
今でも覚えているし、心に残っている。
〝___「うーん、ちょっと違うな?今は手の届かない人を助けたいんだ。」〟
〝___「さようならだ。私の大切な友達……、そして何に変えても助けたかった…命を賭してでも護りたかった、大事な人よ……」〟
〝___「……言っただろう?あの時……今は手の届かない大事な人だと……。」〟
あの時の言葉を今も僕は胸にしまっている。
あの時点で……というより端から僕を大事だと思ってくれていたモネ。
そして何に変えても助けたかった、と言っていたあいつは実際、命を賭して僕を救ってくれた。
それがまた起きないか……、僕は怖いんだ。
「……そうかもね?今は君達との旅で精一杯だからね。そっちの事は疎かになるかもしれない。だからこそ、4度目の生を受けるんだけどね?」
「……僕じゃ、手伝えない事なのか?」
「うーん、正直に言ってもいいかい?個人的には本当は君にも手伝って欲しいんだ。一人より二人……、それも息の合った親友じゃないと私独りじゃ暴走しちゃうからね?」
「なら!」
「君が次、生き返るという保証がない…。それに……まだ君に手伝って貰えそうにないんだ。 (〈ロストウイルス〉対策がまだ完璧とは言い難い今は……ね。)」
「……なるほどな。〈ロストウイルス〉関係か…。」
「察しがいいね?」
「ふん。それしか考えられないだろう?」
肩を竦めた彼女は、どこかおかしそうに笑った。
やはりそっち関係か……、
確かに今の状況では、僕は手伝えない。
それにこう思いたくは無いが、足でまといになる可能性もある。
ただ……〈ロストウイルス〉に対抗出来るならばそれも解消される。
「以前、海洋都市アマルフィでお前は言ってたな?〝今は無理だけど、もう少ししたら何だかいける気がするんだ。だから…もう少しだけ待っててくれないかな?〟と。……本当はあの時、思い付いたんじゃないのか?」
「あー…その事か。」
バツが悪そうにそう呟く彼女。
どうしたものか、という彼女にどうしたら口を開かせられるだろう、とこちらも躍起になる。
「それさえあれば、僕も手伝える。今世でも、お前の力になれるんだ。躊躇する理由は無いと思うが?」
「……うーん。(未来の事を話すしかないか…?さっきも話してしまったし……それに、ジューダスならば大丈夫だろうと信じたい。)……分かった。これは他言無用でお願いしたいんだ。……いいかな?」
「あぁ、分かった。善処しよう。」
彼女が諦めた様に話し始めるので、心の中で拳を作り高揚する。
「今から話すことは、君たちの旅の未来についてだ。」
『あー!だから話したくなかったんですね!』
「シャルティエ、居たのか。」
『居ましたよ!! 坊ちゃん達の邪魔をしないようにここまで静かにしてたんですからね?!』
「シャル、話の腰を折るな。これ以上喋るならへし折るぞ。」
『ちょ?!物騒な事言わないで下さいよ!!』
ギャーギャーと煩くなった相棒に制裁という名の爪攻撃を喰らわせれば、たちまち静かになった。
顎で話の続きを促すと、彼女は少しだけおかしそうに笑ってから話し始めた。
「君たちは旅の途中でハロルド・ベルセリオスに会うことになる。」
『えぇ?!!!!』
「ハロルド・ベルセリオスといえば稀代の天才発明家であり、天才科学者だな。」
イクシフォスラーやソーディアンを作ったと言われる大昔の偉人だ。
そんな人物に会う機会があるとは驚きだな。
『会いたくないんですけど……』
「そうか。お前はソーディアンだから会っているんだったな。だが、生みの親だろう?」
『だって!あの人、見境なく実験体にするんですよ?!サンプル採取〜とかなんとか言って!!』
「ふふ…!」
『スノウ!笑い事じゃありませんよ?!!これは由々しき事態ですっ!!』
そんなにも変な奴なのか、と2人の話を聞いて想像してみるが、何分大昔の偉人なだけあって現代に残っている情報はほとんど無いに等しい。
残っている情報と言えば、男性で、天才だということくらいである。
「で、そのハロルド博士がどうしたんだ。」
「ハロルドならば、〈ロストウイルス〉に太刀打ち出来る何かを作れるはずなんだ。私はそれに期待しているんだ。」
なるほど…、稀代の天才に頼るということか。
良い考えかもしれないが、もし会えなかった時を考えるといまいち決め手に欠ける。
「確かにかのハロルド博士なら思い付くだろうが…、万が一と言う事もある。会えなかった時の事を考えた方がいい。」
「……そうだね。」
『そ、そうですよ!!絶対に会うとはまだ分からないですからね!!…………坊ちゃん、もしあの人に会いそうなら僕を隠して下さいね…?』
「寧ろ差し出してやろうか?」
『やめてくださいっ!!!』
怯えたようにコアクリスタルを点滅させるシャルに鼻で笑う。
まぁ、天才と馬鹿は紙一重というし、天才と狂気は紙一重とも聞く。
シャルが嫌がる理由が果たして前者ならばまだ良いが…、後者なら考えものだな。
「……いや、やっぱり今は思い付かないね?」
「そうか。…僕もあれから考えてはいるが正直お手上げ状態だ。」
『というか、あの機械みたいなやつが他にもあれば良いんですが…。それこそ、自在にオーラを変えたり出来るとかそんな報告書みたいな物があれば救いなんですけど…。』
「ん? オーラを変える?」
「〈星詠み人〉のオーラであれば倒せると聞いたが…違うのか?」
「あぁ、なるほど…修羅か。それもあながち間違ってもないのかな?」
スノウが考え事をする仕草をした事で、また長くなりそうだと予感したが、どうやら当たりらしい。
スノウは思考に耽けたまま動かなくなったからだ。
全く、こうなると長いし反応もしなくなるから困りものだ。
『オーラの違いはどうしようもありませんからね…。未だにスノウの気配は読めませんし…。』
「同じオーラの持ち主でないと変えられないんだったか。」
『厄介ですよね。それに出生の違いと言っても僕達も、〈星詠み人〉も同じ人間です。そこまで違いはないと思いますけど。』
「まぁ、こればかりは致し方あるまい。」
こうやってシャルと話していてもそれに参加せず、自分の思考に忙しいらしいスノウに大溜息を吐いた後、声を掛ける。
「おい、戻ってこい。」
「……」
「おい!スノウ!!」
「……ん?」
思考の縁からようやく浮上したのか、浮かない返事をする。
ぼんやりとした顔でこちらを見る彼女に、腰に手を当て再び溜息を吐いた。
「何か思い付いたのか?」
「あ、いや…そっちじゃなくて。別のことを考えていたんだ。“神”が言うには〈ロストウイルス〉には〈星詠み人〉が扱えるマナを直接当てるといいって聞いたんだけど…、なにぶん、私もマナというものを感じ取れるほど普段から感覚を研ぎ澄ませている訳でもないからどうすればいいのか分からなくてね?」
『マナ?』
「〈星詠み人〉の魔力の元と聞いた事があるが…?」
「君達は晶術を完成させる際、それをレンズで補っているけど、私達の場合は自分達の体に流れるマナを使って魔法を使っているんだよ。不思議だろう?」
なるほど。それならばオーラの差というよりも魔力の違いと言う事だ。
だが、魔力自体は〈星詠み人〉特有のものだと聞いているし、僕らからするとオーラと対して変わらない。
「想像力を働かせれば直ぐに思いつく事…?……んー、駄目だ、これといってすぐ思い付かない。」
「まぁ。そんなに簡単に答えに辿り着けるとは思ってない。だが、スノウ。これだけは覚えておいてくれ。僕はいつでもお前の助けになる。」
「!!」
「お前を守ると誓った時から、……いや、それよりも前からお前を助けたいとずっと思っていた。だから変に遠慮なんかするな。それと、だ…。変な事ですぐに謝るな。こっちが身構えるだろう?」
「……うん、ありがとう。でも流石に最初、拒絶されてるかと思ったよ。」
「全く…変な所で想像力が豊かだな、お前は。」
お互いにくすりと笑い合い、手を握った。
彼女の手はやはり冷たかったが、僕の手の温かさで徐々に温まっていくのが分かる。
まだまだ、旅の途中なんだ。
これから幾らでも助けられる場面があるだろう。
今、遠い先の未来を考えなくとも良い。
まだまだ時間は沢山ある。
そう、信じている…。
「しっかし…、しばらく身体を動かしてないはずなのに、こんなにも身体が動くのが不思議だね?」
「それもそうだろうな。お前にエリクシールを何個使ったと思っている?」
「へ? エリクシール?」
驚いた表情で僕を見る彼女に、鼻で笑ってやる。
すると彼女は見るからに慌て始めたので、可笑しくて少し笑ってしまった。
「た、確かに…魔力がかなり回復しているし…、そういう事…?」
「奴の持ってきた分を合わせて、合計10個だな。」
「じゅ、10個?!!」
素直に個数を伝えてやれば、途端に顔を青くし頭を下げる。
「ごめん!まさか、そんなに使ってくれていたとは…!」
『中々スノウが目を覚まさないので全部使い切ったんです。そしたらそんな数になったんですよ。』
「うわ、申し訳ないね…?」
流石にエリクシールの貴重性を分かっている彼女はそれを聞いて慌てふためいている。
まぁ、魔物が落としたものもあるのでそこまでお金がかかった訳では無いが。
それでも面白くて僕か黙っていると、何度も何度も彼女は謝ってきた。
「この借りは、きっとどこかで返すよ!」
「ふっ、楽しみにしている。」
しばらく彼女は落ち込んでいたので、僕らはそれを見て笑っていた。
当初の目当ての宿へ戻った時にはカイル達が驚いた顔をして…それこそ、お化けを見るような顔つきであいつを見ていた。
だが、喜びの方が勝ったのかいつもの様にあいつに抱きついていたのを遠くから見守る。
こうなると分かっていたから遠くにいたのだ。
「〈赤眼の蜘蛛〉……、それに〈ロストウイルス〉か……。」
『“神”が絡んでくると碌な事がありませんね。大丈夫でしょうか、スノウ…。』
「……ともかく例のハロルド博士に会うまでは大人しくしておいてやるさ。」
『うぇ…。』
嫌そうな声を出すシャル。
相変わらずのそれに鼻で笑ってやり、未だに抱き着かれて困ったように笑っている彼女を見つめる。
彼女の役に立たなければ、僕がここに居る理由など無いに等しいのだから。