第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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私が目を開けるとそこはただの真っ白い空間だった。
……ってあれ、もしかして私遂に死んだのかな?
そんな物騒な事を思いながら自身の手を開いたり閉じたりして感覚を研ぎ澄ませてみる。
いや、まだ感覚がある。
という事はまだ死んでいないのではないか?
いや。だとしても、ここの説明がつかない、か…。
「起きましたか?」
「……すぅーーはぁーー…。やはり私は死んだのか……。」
目の前に見える男の人には見覚えがある。
海洋都市アマルフィの湖の奥底に落ちていたあの銅像の男の人であり、そして私をこの世界へと転生させてくれた唯一の“神”。
「貴女はまだ死んではいませんよ。安心してください。」
「なら何故…?」
「貴女は現在、死にそうにはなっていますけどね。」
「……力の使いすぎか。」
「全くもってその通りです。自覚があるのに何故ご自分を大事になさらないのか。甚だ疑問ではあります。」
「……えっと、すみません…。」
「分かればよろしいのです。分かれば。」
辛辣に言ってくるが、その顔は実に穏やかで腹の底がしれない相手だ。
まぁ、“神”だから仕方ないのだが…。
「何か私に忠告しに来た、とかかな?」
「お察しの通りです。」
「……もしかしてだけど…、〈赤眼の蜘蛛〉の事かな?」
「……。」
急に黙り込んだ“神”だが、私の言葉に緩慢に頷いた。
……やはり、そうか。
彼等は等しく“神”を憎んでいた。
だが、私の会った“神”はこんなにも穏やかで慈悲深く、憎む要素など何処にもないというのに彼等は口々にそう言葉を漏らしていたのを覚えている。
それに、転生させられた〈星詠み人〉は皆赤眼になると修羅が言っていたにも関わらず、私は元からこの色だった。
そこから導き出される答えは__
「〈赤眼の蜘蛛〉にも別の“神”が居るという事、だね?」
「その通りです。相変わらず勘が鋭い方ですね。」
「ははっ。漫画の見すぎだと言ってくれ。」
だが、“神”が違えど相手も“神”だ。
それで何か問題があるというのか。
「……どこから話したものか、迷いますね。」
「出来るだけ簡潔にお願いしたいね?」
兎角分かりやすいなら何でもいい。
そう伝えれば、“神”は暫く黙った後ぽつりぽつりと話し始めた。
「“神”には色んな“神”が居ます。それこそ人間が十人十色というように、“神”にもその言葉は通用するのです。」
「良い“神”あれば、悪い“神”あり、って事だね?」
「左様です。私が良い“神”であるなら……彼等の会った神は悪い“神”なのです。」
「……何だか、壮大な話になってきたな…。」
あれ、これってもしかしてかなり面倒事なのではないだろうか。
「……ええ、その面倒事ですよ。」
「“神”が心の声を読めるの忘れてた……。」
危ない、危ない。
変な事を考えないようにしなければ。
「……続き、良いですか?」
「ど、どうぞ……?」
「ごほん。…では、話しましょう。その悪い“神”はとある“システム”を考えました。そして、その“システム”を人に分け与え、そして知恵を授けた……。」
「……あー…。その言葉で何となく掴めたかな…?」
「相変わらずの察しの良さに、私はいつも驚嘆します。」
「ははっ、それはどうもだ。」
実は以前、修羅がジューダスとハイデルベルグでお互いに戦っていた時話していたのだが、その時スノウは居なかったので、覚えているはずもない。
だが、勘の鋭いスノウは“神”の言った言葉だけで理解したのだ。
「つまり、〈赤眼の蜘蛛〉が研究を行っている〈ロストウイルス〉……。あれはその“神”の仕業だと?」
「そういう事です。」
「……この件に“神”まで入ってくるか…。そりゃあ私達では手に負えない訳だ。」
「異世界人は貴重で、その世界にとって大事な資産になります。それなのに、その悪い“神”は異世界人を全滅させようと考えているのです。……まぁ、あのお方は少々古臭いお方ですから。」
「知り合いなのかい?」
「はい。私にとっては昔からの知り合いです。向こうは断じて認めませんが私はそうだと思っています。」
“神”の間にも友好関係があるなんて驚きだな。
でもそういう関係は、とても“素敵”だと私は知っている。
実際、リオンと友達になって、カイル達の仲間に入ってそう思えるようになったんだ。
「で、その悪い“神”は〈赤眼の蜘蛛〉を使って異世界人という異世界人を全滅させようとしていて…………これも勘なんだけど、それを私にどうにかして欲しい、という所なのかな?」
「はい、そうです。私の認めた異世界人である貴女ならば、可能だと思っていました。実質、貴女はあんな湖の奥にあった私を探し当てられたのですから。」
「……あれ、もしかして宝探しのつもりだったのかな?」
「はい。如何でしたか?」
「ははっ。それは“素敵”な贈り物だ。ありがとう。」
「楽しんで頂けたなら何よりです。そのお陰で貴女は私とこうして交信出来ていますし。」
あの像…やっぱり大事なアイテムだったのか……。
最初はそうは思わなくって、捨てた奴はなんて罰当たりなって思っていたものだけど……、拾っておいて良かった…。
後、ちゃんとあの像を毎朝磨いといた甲斐があったな…。
そんな事を思いつつ遠い目した私に、“神”がくすりと笑っていた。
その笑い方は何時だったか天から聞こえてきた笑い方だったような気もした。
まぁ、“神”はいつも見守っててくれているって事だね?
「〈ロストウイルス〉の件は分かったけど…、今回の旅で何とか出来るとは思えないんだ。」
「それならご安心を。貴女が今の旅を終えた暁には、また転生をさせたいと思っていますから。」
「……ははは…。本当にやってこい、って事か…。」
「それほど大事な事だという意識が湧きましたか?」
「あぁ、否応無く、ね…。」
“神”だから仕方ないと思うが、まぁ、やっぱりどこの“神”も身勝手というか…。
「勿論、貴女に全てを任せ難しい事をやって頂くのに、無防備に敵の前に差し出しませんから御安心を。」
「お?という事は何かアイテムをくれるのかい?」
「ええ、勿論です。」
「それならまだ…大丈夫そう、かな?」
しかしここでハッキリさせておきたいのが〈ロストウイルス〉や〈ホロウ〉……そして〈赤眼の蜘蛛〉の事だ。
「分かっていますよ。今からお教えしようと思っていました。まず……。〈赤眼の蜘蛛〉のアーサーという異世界人は、その悪い“神”によって遣わせられた異世界人でしょう。つまり貴女と同じ存在、という事になりますね。」
「……厄介だな…。」
という事は、アーサーは何かしら“神”から何か特殊な能力を享受されていると思っていても良いって事か…。
「そのアーサーという異世界人は、向こうの“神”によって〈ロストウイルス〉を授かり、悪用しようとしましたが、あえなく失敗したようです。ですが、どうやら別の手を考えているようです。」
「?? それはどういう?」
「あの世界の人間ごと巻き込めるウイルスへと変えようとしているのです。」
「!!」
それは……聞き逃せない情報だ。
それが本当なら尚更見過ごせない。
私がまた転生しようとも、私がやらなければならないちゃんとした理由が出来る。
また再会して幸せになったはずの彼ら……、カイルやリアラ達の幸せを脅かすなんて、冗談じゃない!!
「……やっと、やる気になってくださいましたね。」
「ははっ!すまないね?今回の旅できっと満足出来るとは思ってたけど……そういう理由なら幾らでも力を貸そう。」
「頼もしい限りです。」
あぁ、まさかそんな事になっていようとは…。
許せないな、〈赤眼の蜘蛛〉は…。
「アーサーという異世界人の目的は、あの世界の人間の消滅です。それは向こうの“神”も笑って承諾したのでしょう。」
「……狂気の沙汰だ。」
そんな事をして何の得がある?
異世界人の楽園でも目指すつもりか?
「そうです。その通りです。」
「?? どれに反応したんだ?」
「彼の最終的な目的は異世界人だけの楽園、という言葉に反応しました。正にその通りなのです。」
「……なるほどね。」
ありがちな思想だ。
だからといって、簡単に人を殺すなんていう思想を許そうとは思わない。
「向こうの“神”は、自分さえ面白ければ何でもいいのです。」
「それで傍観を決め込むって事か…。タチが悪いね?」
「ええ、趣味が悪いです。」
「随分とハッキリと言ったね?知り合いなんだろう?」
「私からすると、趣味が悪いですから。」
アーサーの思想に賛同は出来ない。
だが、〈赤眼の蜘蛛〉の人達は皆同じ事を理想としているのだろうか?
根本は一緒だと話していた修羅もまた……そう思っているのだろうか?
「〈ロストウイルス〉は何にでも感染するという潜在能力があります。人や魔物……それから自然のありとあらゆる物までも。」
「自然も?」
「異世界人の彼が気付いていないだけで、〈ロストウイルス〉には充分にその力があります。」
「……何か、対策とか無いのかい?」
「貴女ならよく分かっていると思いますが、要は“マナ”を当てることが大事なのです。」
「マナ…」
それは〈星詠み人〉の中に流れているという魔力の源。
それがあるから〈星詠み人〉が魔法や術技を使いこなす事が出来るのだが、それをどうやって当てるかが問題になるだろう。
〈星詠み人〉自体、まだマナの感覚を掴んでいないと思われるから。
「マナの感覚っていまいちハッキリしないというか……、曖昧なんだ。だから当てると言われてもどうやっていいか…。」
「〈ロストウイルス〉に直接マナを当てるというのはさほど難しい事ではありません。貴女の得意な銃…、それでマナを〈ホロウ〉へと打ち込めば良いのです。」
「マナを…撃ち込む……?」
うーん、まだ分からないな。
元々、マナを自在に扱えるという事を聞いた事がないしな。
「貴女は使いこなせているではありませんか。普段からマナを自在に操り、敵を倒していますよ。」
「……? そうか、そういう事でいいのか…。」
私の使う術技は全てマナを存分に含んでいるという事か。
確かに、セルシウスからもマナの話をされた時にそういった話があった気がする。
私の中にあるマナは無限大の力を秘めている、とか。
ブラドフランムだって、私のマナと交換で召喚に応じると言っていたし。
きっとそういう事だったんだ。
「……まぁ、でもやはり〈星詠み人〉でないと〈ロストウイルス〉は倒せないと言う事だね。」
「貴女が想像力を働かせれば、他でも可能になります。これからが楽しみです。」
「……教えてはくれないんだね。」
「貴女ならすぐに気付くと思います。えぇ、私はそれに期待しています。」
そう言われればやるしかないけど…。
やはり曖昧な部分が出来てしまった。
仕方ないので、今後現れるであろうハロルドを頼るとしようか…。
「貴女には迷惑をかけますが、よろしくお願いします。」
「こうやって転生させてもらって人生を謳歌させて貰ってるから、私からは感謝しかないんだけどね?」
「そうですか。相変わらず変わった人です。」
「それは貶してるのかな?それとも褒めてくれているのかな?」
「勿論、褒めています。」
「そうか。それはありがとう。」
「もう心残りはありませんか。」
「うーん…、貴方が私を遣わせてあの世界を守ってほしい、というのは分かるけど……何で私なんだい?」
あの世界に初めて行く時にも聞いた事だ。
何故私でなければならなかったのか。
私があの世界でリオンを救いたいと強く望んでいたのもあるかもしれないけど、それなら他の人だってきっと快くやってくれる人が居たはずだ。
テイルズシリーズのファンの人なんてそこら中に居るだろうし。
「貴女でなくてはいけなかったのです。無垢な心を持ち、歪みを持たない純真な心を持った貴女でなければ。」
「???」
えらく難しい言い回しだ。
私なんて邪心ばかりだし、子供のような無垢な心を持ち合わせてはいない。
なのに、何故“神”はそう言うのだろう。
「人には分からない領域ですから、分からないと思います。」
「?? そうか。」
なら仕方ない、諦めよう。
「……最後に一つ。」
「何でもどうぞ。」
「本当に……私の好きにしていいんだね?」
「……。」
ただ私のその言葉だけなら質問の意図が分かりかねるだろうに、“神”は私をひたと見て目を閉じ、ふと笑った。
「……彼女も言っていたはずです。“幸せになりたいのなら幸せになりなさい”と。」
「……もしかしてエニグマと貴方は繋がってたのかい?」
「さあ?どうでしょう。」
それは柔らかな笑顔でそう応える“神”に私は確信した。
……そうか…。
彼女もまた、そういう事なのか。
「ふふ、ありがとう。気持ちが大分楽になったよ。」
「それは良かったです。では、どうかあの世界をよろしくお願いします。」
「あぁ。任せてくれ。……ただこれからは、ただの人みたいにもっと我儘になるから、そこら辺宜しく。私の“神”さま?」
「……ふふ…」
その時、私は光に包まれていた。
そして暖かい何かと、必死そうな誰かの声が聞いた。
あぁ、早く行かないと…。
彼が心配している。