第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
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「うーん、どうしようね?」
『『『……』』』
そんな気楽な様子の主人に、指輪の中の精霊達が呆れた顔で首を振っていた。
__事は少し前。
修羅と共に転送しようとしたスノウだったが、魔力が足りず、そして集中力の問題で思いの外魔法が失敗していた。
その為洞窟内で崩落に巻き込まれたのだが、そこにノームが力を貸してくれ、周りの瓦礫がスノウへと落ちないように岩で空間を作ってくれたのだ。
だからスノウは助かったのだ。
『危な…。』
『我が主人ながら、何とも悪運の強さだな…。』
『もう少しでペッチャンコだったわね。』
『……危なかった…、本当に…。』
『ま、間に合って良かったです…!!』
「ありがとう、ノーム。本当、さっき死ぬ覚悟を決めたよ。」
『無茶しすぎだぞ、主人よ。』
『そうね。まだ契約してそんなに経っていないのに、もう召喚士とお別れになるとか、勘弁してちょうだい。』
『………心配した…』
「あはは…!ごめんって、皆。」
笑う所ではないのだが、スノウは笑っていた。
主人のお気楽さに精霊達は呆れていたのだ。
でも、まだネガティブであるよりは良い。
そう思った精霊達はここから脱出する術を考える事にした。
『ここから脱出するには私達、精霊の力が必要そうね。』
『でも、スノウの魔力なんてもう底を尽きそうなんだけどー?』
『……確かに……。無理は禁物……。』
『で、ででも!ここから抜け出さないと空気が薄くなって……』
『お陀仏ね。』
『シアンディーム。そんなにハッキリと言うな。』
「うーん、どうしようね?」
『『『『……』』』』
そして、冒頭に至るわけだ。
「(爆発の力でこの瓦礫を取り除くか…?でも、そしたらまた崩落に巻き込まれるかもしれないしな…。)」
真剣に考えている中、この空間とは違う場所から声が聞こえてくる。
しかし、それは何を話しているのか分からない。
「?? もしかして、修羅なのかい?」
「────!!」
「うーん?聞こえないけど…なんて言ってるかな?」
「─────!」
その声を最後に聞こえなくなってしまったので、スノウは精霊達と再びどうするか考える事にした。
「爆発させたらどうかな?」
『それじゃ、主人の身体が持つまい。それに爆発を起こせるほどの魔力が残ってるとは思えないが、どうなんだ?主人よ。』
「……あー、確かに足りないかも…?」
『今はここを脱出するより、魔力の枯渇が一番の問題ね。』
『ほんと、それだよ!!魔力がないと何にもできないよ?』
『……ヴォルト戦でかなり使ってたから…。』
そこまで言うと精霊達はうーんと唸り出し、悩み出した。
絶体絶命のピンチだが、スノウに魔力がなければ具現化は出来ない。
どうしたものか。
「……。(残りの魔力は僅か…。私の持ちうる術技でもここを突破出来そうな術技は……)」
一つ一つ術技を思い浮かべているが、それでは日が暮れそうだ…。
そうなると、物理的に考えた方がいいのか?
「……穴でも掘る?」
『ええー?あのさぁ?どこにそんなに余裕があんのー?掘る道具もなければ、ノームを召喚出来るほどの魔力もないわけでしょー?』
「それもそうか…。」
『でも、いい考えだと思うわ。穴を開ける、ということがね。』
『そ、それさえ出来たら、ここの空間にも空気が入ってくるので暫くは持つと思います……!!』
「なるほど。案外間違いではなかったのか…。」
『でも、どうやって穴開けんの?』
『『『……』』』
「うーん…」
ただただ壊す事なら長けていると思うんだけどね?
銃杖で真っ直ぐ穴を開ける…。
しかしそれでは、周りの岩の崩落が考えられる。
「……こんな時、ジューダスが居たらどう言ってたのかな?」
ジューダスなら何かしらの方法を思いついてくれそうだが…。
そんな感傷に浸ってしまったが、次の作戦でも考えようと、目を閉じているとこの空間の外からまたしても声が聞こえてくる。
それも……複数だ。
「─────!」
「─!!」
「───?」
「??」
『……外から声が聞こえる……』
『もしかしたら、修羅というあの子が応援を呼んでくれたのかもしれないわね。』
『外でも主人を助けようとしてくれているのかも知れぬな?待つのもいいが、もう少し俺らも考えるとしよう。』
『で、でで、でも場所の特定が出来ない状態で向こうで何かされたら……!』
『……確かに……危ないかも……』
「……音…?」
何か向こうに、こちらの場所を特定出来るような……そんな大きな音を出せるものはないだろうか。
そうすれば応援に駆けつけた誰かがなにか作戦を立ててくれるかもしれない。
「……!!」
耳を塞ぐほどの音といえば、先程ヴォルトが洞窟内で響かせていたではないか。
それに、もしかしたら電気の力で電磁浮遊……つまり電気の力で瓦礫の岩が運良く浮かんでくれるかもしれない。
ただ……それも魔力の問題だな…。
だが、こうして居られないのも正直な所だ。
だから、一か八かの賭けに出るしかない。
「……ヴォルト、力を貸してくれないか?」
『───?』
『ちょ、ちょっと待ってよ?!何でここでヴォルト?!』
『……何か考えがあるのだな?主人よ。』
「うん。ここで魔力を使い切ってしまうことを計算に入れて、この作戦で行こうと思う。……だから、後は外にいる人達に任せるよ。」
『外には誰がいるかも分からないのに、そんな人に任せられるのかしら?』
「大丈夫だよ。だって、きっと外に居るのはジューダス達だろうから。」
『『『???』』』
何故そんな事が分かるんだ、とでも言いたげな皆に思わず笑顔を浮かべるスノウ。
勘と言えば聞こえは悪いが、スノウには外にジューダス達が居るという確信があった。
だって……
「─────!!」
「……ふふ。」
微かに聞こえてきたんだ。
彼の……ジューダスの声が。
彼の声だけは、自分が聞き間違えるはずなんて無いのだから。
「ヴォルト、いいかい?なるべく皆に伝わるように音を立てたい。そこで君の激しい雷の音で向こうに報せる。それから出来れば電磁浮遊をお願いしたいんだ。」
『───!』
『これ、大丈夫かなー…?』
『主人を信じる他あるまい? これで脱出出来たら見事なものよ。』
『……きっと大丈夫。……スノウにはあの言葉もあるから……』
『〝想像出来るなら、それは創造出来る〟ね?良い言葉だわ。無限大の可能性を感じる言葉ね。』
『ご、ご主人様のマナ自体も、む、無限大の可能性を秘めていますから……!今回もきっと…!!』
『ちぇ!絶対ボクだと思ったのにー!』
『グリムシルフィ?拗ねないの。』
ヴォルトに説明している間に、精霊達が何やら話していたのだが、スノウは説明に夢中で聞いていなかった。
その為に彼らの話している内容までは分からなかったが、何だかむず痒いことを言われたような気がしてスノウは擽ったそうに笑った。
そのスノウの行動に精霊達は何故か気持ちを楽にさせ、笑った。
〝きっとスノウならやってくれるから。〟
「……さあ、行くよっ!」
『───!!!』
「雷よ、我に希望の道を示せ…!ヴォルト!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方その頃、ジューダス達の方は話し合いが難航していた。
なんと言ったって、この瓦礫の撤去作業をしなければいけないからだ。
それをどうやってするか、人力では限界があるし、それまでにスノウが持たない可能性が大きい。
かと言って、晶術で一気に片そう物なら瓦礫の下敷きになっているスノウにどんな弊害が起こるか分からないからだ。
「こうさ!ジューダスが地属性で岩を出して、岩を退かすのは?!」
「……それだと岩を退かす際、緻密な晶術操作が必要になる。やるなら日が暮れてしまうぞ。」
「うーん…ダメかあ…。」
「ならよー?風の力で一気に片付けたらどうだ?」
「私の風属性晶術の力では、こんなにも圧迫されている岩達を退かせられないの…。少しでも隙間があれば風で押し上げられるのだけど…。」
「じゃあさ!!ヴォルテックヒートで爆発させて退かしたら……」
「それじゃあ、スノウが危ないじゃないか!」
結局振り出しに戻る面々の顔には徐々に焦りの表情が浮かんできていた。
時間が経てば経つほど瓦礫の下敷きになっているスノウの生存確率は下がっていく。
それを分かっているからそんな顔をするのだ。
一番その危険性が分かっているジューダスが、一番身に染みて、そして焦っているのだ。
『せめて、スノウの居場所さえ分かっていれば……作業が始められるんですが…。』
「……というより、何故こいつはスノウの生存を知ることが出来たんだ?」
ジューダスの視線の先には力を使い切って気絶している修羅の姿。
それに仲間達も不思議そうな顔になった。
カイルがそれを聞いて瓦礫に近付き、耳を当てた。
ロニが危ないぞ、と近寄りカイルを見守るがそのカイルが目を開き嬉しそうな顔をする。
「声が…!声が聞こえるよ?!」
「!!」
『え?苦しそうな声…とかじゃないですよね…?』
カイルの言葉に全員が岩に耳を当て、耳を澄ませる。
すると微かだが、スノウが誰かと話しているようなそんな声がした……気がした。
「……もしかして、スノウは瓦礫の下敷きになっていないのか…?」
『難を逃れたのかもしれませんっ!!これなら生存確率はぐっと上がります!』
「だとしてもよ…。どこにいるかなんて分からないぜ?」
ロニの言う通り、スノウの居場所までは声だけじゃ分からない。
それにあまりにも遠い声なので場所の把握なんて以ての外だ。
だが、元気そうなのは聞こえてきたのでそこは安心出来る要素だろう。
「スノウー!!!」
カイルが岩に向かって大声を出す。
それに皆が目を丸くしたが、その行動の意図がわかり、ナナリーやリアラ、ロニまでも大声でスノウの名前を呼び始めた。
「スノウ!!負けんじゃねーぞ!!」
「スノウっ!頑張って!!私たちがいま助けるからー!!」
「スノウ!!諦めるんじゃないよ!!」
『……スノウにはこんなにも大切に思ってくれる仲間がいる…。スノウが聞いたら喜びそうですね。坊ちゃんも何か叫びませんか?』
「……。」
一度目を伏せたジューダスは、そのまま顔を上げ岩に向かって、恐らく今までで1番大きな声で叫んだ。
「スノウ!!絶対にそこから助ける!!だから…絶対に諦めるなっ!!!」
『スノウー!!!僕からもお願いです!!!絶対に諦めないでくださいよーー?!!』
ジューダス達が叫び終わっても、仲間達はずっと岩に向かって声を掛け続けていた。
励ましの言葉を、ずっとずっと。
早く助けないといけないと分かっているのに、仲間達は声を掛け続けた。
そして───
ヴーーー!!!
バチバチバチバチッ!!
「「「「「っ?!!」」」」」
何かの音がハッキリと聞こえてきたのだ。
しかも、この岩の向こうからハッキリと。
低音の何かと高圧電流が流れる音だ…!!
だが、こんな場所に電気が流れる要素など無いはずなのに何故音が岩の向こうからするのだろうか。
「…この音…、スノウか!」
「「「「!!」」」」
『坊ちゃん達!離れた方が良いですって!!危ないですよ?!』
シャルの言葉にカイル達へ離れる様に伝える。
そして岩の隙間から紫色の電気が漏れ出ているのが分かった。
「岩の隙間から電気が流れるなんて…尋常じゃない電気だぜ?!」
「待って! …気の所為かもしれないけど、岩が少し動いてない?」
「え?」
リアラの言葉にカイルが目を凝らすと、僅かだが岩に隙間が出来ており、紫色の電気が岩と岩の隙間に入り込み浮かしているようにも見えた。
それはとても神秘的な光景でもあった。
全ての岩が紫色の電気で浮き始めたのだから。
そして、定期的に流れる雷のような電気のような音…。
「岩が…!!リアラ!!今のうちに風属性晶術でこの岩を退かせられないか?!」
「!! ええ!分かったわ!!」
リアラが唱えたのは風属性でも最高峰の晶術だった。
かなり離れたカイル達の方にも岩や石が飛んでくるほど荒れ狂う暴風をリアラが呼び出していた。
そのまま少しずつであるが、岩を取り除いた暴風に期待が膨らむカイル達。
「うわっ?!」
「ちょちょ、ちょっと待て!リアラさん…?!岩がこっちにまで飛んでくるんだが?!」
「文句言ってないで、それくらい躱しな!」
「んな、無茶な!」
…暴風の影響はやはりかなり大きかったらしい。
ロニとカイルは慌てふためき、岩や石から逃げている。
しかし、紫色の電気と暴風のお陰でどんどんと岩が削れていく様子にジューダスも詠唱を唱えた。
「『___ブラックホール!』」
全てを呑み込む闇の球体が現れ、荒れ狂う暴風の近くで浮かんでいった岩を次々と飲み込んで行った。
圧迫されていた岩石を飲み込めはしないが、リアラの言う通り、隙間さえ出来ればこちらも岩石など呑み込めるのだから。
多少岩石の飛んでくる量が少なくなり、カイル達も安堵の息をついていた。
__そして、その時は訪れる。
電流の音がかなり大きく聞こえ、耳を劈く程の電気音にカイル達が今度は顔を顰め、耳を塞ぐ。
その上、見えてくる電気の量も最初の倍以上である。
期待しない方が可笑しい、とジューダスが暴風の中を目を凝らしていると、ようやく念願の姿を捉えた。
全ての岩の撤去に成功したのだ。
「っ! リアラ、もういい!やめろ!」
「はいっ!」
すぐに晶術を止めたリアラにもその姿が見え、途端に顔を輝かせた。
そしてカイル達もまた慌てて、そして嬉しそうに駆け寄っていく。
大事な、仲間の元へ。
「…っ、」
杖を支えにして立っていたスノウは仲間達の姿が見えた瞬間、その場に倒れた。
慌てて駆け寄ったジューダスに抱き起こされたが、その顔は真っ青で、命の危機に晒されていると思っても過言ではなかった。
「おい!スノウっ!!しっかりしろ!」
『坊ちゃん、恐らくですが、スノウは力を使い果たしたのかと思います!ともかく休ませないと…!』
「「__ヒール!!」」
スノウへと回復技を使ったロニとリアラ。
多少は違うだろうと掛けてくれたのだ。
ジューダスがスノウを背負い、ロニが修羅を背負うと仲間達は先程までいた場所__黄昏都市レアルタを目指した。
2人をこの世界独特の回復アイテム…回復ポットへと入れ、2人が起きるのを待つ。
「2人とも大丈夫かしら…?」
「大丈夫だよ!この回復ポットってなんか凄いじゃん!入ったら疲れが取れるっていうかさ!」
「だからって、今の2人にこの回復ポットが合うか分からねえだろ?あまり期待しない方が良いと俺は思うがな。」
「なんだい、弱気になって。」
「…確かにそいつの言う通り、回復ポットは云わば体力を回復させる装置だ。スノウやこいつの場合、回復しないといけないのはまた違う領域になるからどうなるかは分からん。気休め程度だと思っておけ。」
『ま、修羅はどうでもいいですけど、スノウには早く元気になってもらいたいですね!』
ジューダスの解説にほう、と仲間達が聞き入れ頷いた。
詳しい事は分からないがとにかくスノウ達が起きないか、と仲間達は飽きもせず回復ポットを何度も見に来るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……っ」
修羅が目を覚ますと、何やら機械の中に入れられており、ボヤけた頭で必死に状況を飲み込もうとする。
何で俺はこんな所に入れられている?
もしかして、遂にあの爺さん…ウィリアムの実験台にでもされたか?
修羅が起きると簡単に外に出れた為、そのまま周りを見るとどうやらそれはこの世界特有の機械であり、回復ポットであると分かる。
そして修羅の隣の回復ポットでは、目を閉じているスノウの姿があり、目を見張る。
そうか、あいつらがスノウを救出してくれたのか、と安堵の息をついた。
「…起きたか。」
「っ!」
この憎い声…!
修羅は咄嗟に大きく後退し、ジューダスを睨みつける。
その動きに若干目を見張ったジューダスだったが、ハッと鼻で笑い修羅を見る。
『何ですか!それが命の恩人に対する態度なんですか!!失礼な奴ですね!?』
「ふん。もう体は大層動くようだな?」
「……。」
逡巡した修羅は少しだけ頭を振り、目を逸らす。
そして軽く頭を下げた。
「……すまない。助かった。」
「えらく素直だな。明日は槍でも降るのか?」
「言っとけ…。それより、スノウを助けてくれて助かった。感謝する。俺じゃ、どうしようも無かったんだ。」
「…その事についてだが、あんな場所で一体何があった?」
「…それについては、スノウから聞いてくれ。俺には言って良い部分の検討がつかない。」
『?? 妙な言い方をしますね? 何かスノウが隠したい事があるような言い方をしてますけど…。』
「……恐らくあいつはあまり話さない。お前から直接聞きたい。」
「………。」
一瞬回復ポットの方を見た修羅だが、やれやれと肩を竦める。
「事の発端は…、俺が〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の一つに、ある用事があって、そこへ出掛けた事だった。」
修羅は少しずつだが、話し始める。
スノウが捕まってた場所のこと、そこから脱出するのに手を貸したこと、そして〈ロストウイルス〉の事でハーメンツヴァレーへと向かった事。
「雷の精霊を俺達で倒し、スノウは奴と契約した。だが…あまりにも洞窟内で激しくやり合ったものだから崩落が始まった…。俺が逃げ遅れたせいでスノウが身代わりになって………。それからはあんたが知る通りだ。」
「……なるほどな。」
『やっぱり〈赤眼の蜘蛛〉に連れていかれてたんですね。スノウ。』
「リアラ達から聞いた話だと、あの女…〈赤眼の蜘蛛〉の組織員だと言っていたからな。そうだとは思っていた。」
全てを聞いたジューダスは目を伏せ、そして回復ポットで未だ目を覚まさないスノウを見遣った。
その瞳にはありありと心配が見て取れた。
優しすぎる性格が故に、スノウは修羅を庇ったのだろう。
「…これであんたがスノウと喧嘩して、スノウがあんた達から離れてくれるとこっちとしては好都合なんだがな?」
「…そんな事はしない……と言いたい所だが、起きたら間違いなく説教はするだろうな。」
「なら、そのまま喧嘩別れしてくれ。そしたら俺がスノウを慰められるからな。クスクス」
「……。」
修羅の笑いにジューダスの顔が歪む。
何が、“慰められるから”だ。
例え喧嘩したとしても、スノウなら帰ってきてくれる…と思う。
実際のところ、今までで一度も彼女と喧嘩したことがないような気がする。
何だかんだ僕が怒ったところで、彼女は苦笑いか困惑した顔で笑っては、自分に非がなくとも謝ってくるのだから。
「……ふむ。これはかなりまずそうだな。」
「スノウがどうした?」
「力を使い過ぎてるってことだ。これは回復までにはかなり時間がかかるだろうな。」
「そんな事が分かるのか。」
「まぁな。これでも同じ〈星詠み人〉で同じ魔力同士だからな。違いの分別くらい出来る。」
「……毎回毎回倒れられて困るんだが、どうにかならないのか?」
「難しい質問だな。〈星詠み人〉の魔力の源であるマナはそれぞれの肉体や精神に宿る。俺が出来ることと言えばマナを多少回復してやることくらいだ。___チャージ」
魔力を回復させる技〈チャージ〉。
スノウに向けられた回復は暖かな光を灯し、僅かにスノウの魔力を回復させていた。
しかしそれも微々たるもので、本当に多少良くなっただけだ。
元々〈チャージ〉自体、魔力の回復量は決して多くない。
気持ち程度回復してやれる程度なのだ。
修羅もその事を分かってはいたが、何もしないよりは、とスノウへ回復を掛けただけに過ぎない。
だから、スノウが起きる事に期待はしていなかった。
「……後はエリクシールか。俺のところにあったか…?」
「エリクシールは体力を回復させる道具のはずだが…。」
「あぁ、そうか。この世界じゃ魔力なんて概念元々無いからか。俺達〈星詠み人〉には、魔力回復アイテムとして重宝されていて、とても貴重なんだ。エリクシールさえあればスノウを回復させてやれるだろうな。……ただ、スノウ自体かなり特殊体質だから、エリクシールを使ったところで完全回復するかは疑問ではあるがな。」
『坊ちゃん。この際だからエリクシール集めしてみませんか?このまま待っているよりかは何倍もいいと思います。』
「あぁ。効率を考えるならそれを選ぶ方がいいだろうな。」
「……あんた、シャルティエに普通に話し掛けるんだな。この時のあんたはまだシャルティエの存在を隠していたはずだが…」
「僕はもうジューダスではなく、リオン・マグナスだとカイル達にバラしているからな。」
「なっ…!?」
修羅の視線はスノウに向けられた。
それならば、スノウがモネだったという事実もバレているのではないか、と危惧したからだ。
「…あんたは、モネ・エルピスを知っているだろう?」
「……あぁ。十二分に、な…。」
「あんたのせいで…!あんたのせいでスノウは…!!」
「!! お前…、遂にモネ・エルピスが何者か暴いたのか?」
「あぁ…!!そうだよ…!モネ・エルピスはスノウだった…!!!調べていて愕然としたよ…。まさか、あんたの肩代わりをしようとしてスノウが海底洞窟で死んでいたなんてなっ!!」
『っ!』
「……。」
「スノウに聞いた。何でリオン・マグナスの肩代わりをしたのかって。そしたら……自分のエゴだって言ってたんだ。ただ、それだけしか言わなかったんだぞ…!!」
「……。そうか…。」
肩を、体を震わせ怒りを顕にしている修羅。
対してジューダスはそんな修羅に視線を逸らす事無く正面から受け止めていた。
それは、僕の罪だ。
友の…大切な人の様子に気付けなかった僕の…過去の罪だ。
決してそれらが消えることはない。
だから、それを抱えて生きていかなければならない。
そして二度と大切な人を亡くさない為に、今こうして隣にいようと……護ろうと頑張っている。
「この旅の終わりには…あいつは…!!! だから俺は決めた。18年前……!神の眼の騒乱の時のモネを助けて歴史を改変させる…!!それが俺が出来る…スノウを助けられる、唯一の行動だ!!」
『「っ!!」』
歴史改変…。
確かにそれをすればスノウは……、モネは助けられる。
だが、ここレアルタに着いて色々情報を集め、仲間達と意見を交わした時……僕はリアラに言った。
〝人々の積み上げてきた歴史を否定して存在するこの世界を許せない〟__と。
それに…10年後の世界に飛ばされた時、スノウにも言われて、僕はその時スノウと約束をした。
___「二人とも…真剣に聞いてくれ。そして、私と約束してくれ……。もし未来で、昔の出来事を見るようなことがあっても絶対に歴史を改変しないと、誓ってくれないか?」
『?? 分かりました。』
「お前がそう言うって事は今後そういう事が起きるという事か。分かった、約束しよう。」
「…ありがとう。」
だから、僕は歴史改変をしない。
スノウとの約束を必ず守る。
その為に、僕はこいつを止めないといけない。
「〈星詠み人〉なら歴史改変がどれほどの影響を起こすか分かってるはずだが?」
「そんな事知るか。スノウが自分のエゴを貫き通したと言っていた。なら俺も、俺のエゴを貫き通す。俺は、あいつをこの手で救う…!!」
「スノウはそんな事をされても喜ばないぞ。」
「言っただろ。俺は俺のエゴを貫き通す、とな。誰に言われようが構いやしねぇよ。」
「そうか。なら僕はお前を止める。なんとしてもな。」
「……そんなにあいつを殺したいか。そんなにあいつを苦しめたいか!?」
「ふん。僕は僕であいつと約束をしたからな。だからお前を止めるんだ。」
__「前世で叶わなかった君との時間。大切にしたいんだ。」
__「“ごめんね。この先、君と私。一緒になれる未来なんて無いんだ”……。違う…、今度こそ君の隣で私は生きる!生きてみせる!だから、私に生きる道標をくれないか?」
スノウの言った全ての言葉が、今に繋がる。
僕は、今度こそあいつの隣で、今世を生きるんだ。
「……だから、俺はお前が嫌いだ。…憎い……、あいつに頼りにされるのが…俺じゃなく、あんただって事が気に食わない…!!あんたは、スノウを死に追い込んだ張本人なのに…!!何故…?!」
修羅の握っている拳から血が流れ出ているのが見える。
それほどまでに奴にとっては、僕が憎くて仕方がないらしい。
唇だって、強く噛んで血を流している。
僕はそれを見て、腰に手を当て大きく息を吐いた。
どう言われようと、あいつはもう過去の出来事を過去として処理し、そして前を向いて、今を生きている。
それを穢す奴を、僕は叩き切るだけだ。
「やはり貴様とは反りが合わないな。僕は、ただ僕の望みを叶える。そして、あいつの望みを護る。何者からも。」
「……。」
もう奴には僕の声は聞こえていないのかもしれない。
嫉妬に狂った顔、憎悪で歪んだ顔…。
それは僕に向けられている負の感情だ。
「スノウは渡さん。僕は、スノウを慕っている。……あいつの事がどうしようもなく好きなんだ。それは僕の嘘偽りない感情だ。」
「っ!!!!」
『(!!! 坊ちゃん…!!!遂に、遂に…!!)』
「同じ〈星詠み人〉だろうが、同郷のよしみだろうが……僕はあいつの事が好きだ。だから──」
その瞬間、修羅が武器を手にして襲いかかってきたのですぐさまシャルを手にし、攻撃を受け流す。
こんな所で武器を抜くとは、余程僕の先程の言葉が気に入らないらしい。
軽く受け流してみれば、次々と攻撃を繰り出される。
それをことごとく受け流し続けていけば、苛立ったように修羅が一瞬顔を歪めた。
しかし奴は一度体勢を立て直し後退すると、僅かに頭を振り、俯いた状態で大きく息を吐いた。
まるでそれは深呼吸して自身を落ち着かせているようにも見える。
「…頭に血が上りすぎたか。」
「……。」
「チッ。やはり寝起きは駄目だな。」
すぐに踵を返し、外へと出ようとする奴に声を掛けるがすぐに奴は嫌そうに顔を顰めさせた。
「……エリクシールを取りにいくに決まってるだろ。」
『急に切り替えるんですね…。』
「ならば、僕達も集めてこよう。」
「……。」
僕の言葉には何も言わず、奴はそのまま去っていった。
……全く、喜怒哀楽の激しい奴だ。
ハイデルベルグの時も急に冷静になっていたし……元の性格だろうな、あれは。
『よく分かりませんが……、ともかくスノウの為にエリクシールを集めに行きましょうか。』
「そうだな。」
修羅の去った後を一度視認し、溜息を吐いた。
……厄介な恋敵だな。
そして僕はカイル達を連れ、エリクシールを何個か交換しに行く事にした。
それでも足りないとカイルが言い張るので、魔物から落ちるのを待つ事にした僕達は、その非効率的な作業を昼夜通してやり続けるのだった。