第一章・第2幕【改変現代~天地戦争時代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
修羅に聞いた話なんだが、さっきまで居たあの場所は〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の一つらしい。
そして、これもまた彼に聞いた話だが……〈赤眼の蜘蛛〉には幹部クラスが何人か居るらしく、修羅や海琉もその内の1人だということが分かり驚いている。
その上、〈赤眼の蜘蛛〉を立ち上げたのはあのアーサーらしい。
「……知らなかったな。」
「クスクス。そりゃあそうだ。この手の話は俺たちみたいな幹部クラスしか知らないからな。下っ端には知らされてない。」
「はぁ。君がすごい地位にいるって事が安心する様な、恐ろしいような気持ちだよ。」
「どういう意味なんだ、それは…。クスクス。」
「だって、君ほどの強さの幹部クラスが最高って事だろう?なら何とかなるかもしれないな、と思ってね?」
「酷いなぁ?スノウは。それじゃまるで、俺たちが弱いみたいじゃないか。」
「そういう意味じゃないんだ。ただ……未知な領域ってあるじゃないか。未知な強さの奴がいないと分かったということが安心する要因であって、君たちが弱いとは思ってないよ。」
「クスクス!もちろん、分かってる。」
道中、修羅とそんな話をする。
この際だから〈赤眼の蜘蛛〉について話し合っておこうかな。
例えば、構成員とか。
「〈赤眼の蜘蛛〉の幹部の構成員はどうなってるのかな?まだまだ居るのかい?」
「そうだな…。俺と【海琉】、それから【アーサー】に【花恋】に【玄】……後は、【ウィリアム】だな。」
「ん?……【ウィリアム】?」
「会ったことなかったか。ウィリアムは〈赤眼の蜘蛛〉の中でも奇才で、主に〈赤眼の蜘蛛〉の技術面や化学研究に携わってる爺さんだな。所謂マッドサイエンティストってやつで、俺は極力関わらないようにしている。あいつはアーサー側の人間だからな。自分の欲求に素直で、欲しいと思うものならどんな事をしても奪うやつだ。……あんたも気をつけた方がいい。あの爺さん、見境ないからな…。」
「忠告痛み入るよ。」
やはり、カイル達…仲間の数ほど幹部クラスがいるのか。
抹殺対象の内訳とくれば…、海琉がカイル…。
アーサーはロニだと話していたし、花恋はナナリーだと公言していた。
修羅はジューダスだと言っているし、リアラは確か玄だったはず。
という事は…
「そのウィリアムというお爺さんの抹殺対象はハロルド…?」
「流石、勘が鋭いな?その通りだ。」
「マッドサイエンティストVSマッドサイエンティストか…。考えただけで身の毛がよだつようだよ……。」
「……それな?」
2人して同時に身震いするので、可笑しくてお互い笑ってしまった。
しかし、妙な組み合わせだ。
マッドサイエンティストにマッドサイエンティストを宛てるなんて…、どうなってるんだ〈赤眼の蜘蛛〉は。
「自分の抹殺対象ってどうやって決めてるんだい?」
「アーサーが勝手に決めていたな。何でも…俺達の能力を較べてそれぞれに宛てているらしい。一応〈赤眼の蜘蛛〉のトップだからな、あいつは。」
「ふーん…?」
能力を較べて、か…。
確かにジューダスと修羅は何回もやり合っていたけど、勝敗がつかないくらい互角である。
だが…聖女にあのガタイの良い玄を宛てるのは…確実に殺しに来てるようなものだと思うが?
海琉も問題はなさそうだし、……アーサーはあまり戦い方が突飛しているようにも思えないからロニの敵では無さそうだが…、まだ隠し持っているということか。
ナナリーと花恋は…あまりにもナナリーに不利すぎる。
というよりも、花恋は中々に強い。
あの身のこなしもだが、拳闘士ならではの体術…そして魔物を操れる調教士というジョブも相まって彼女が何なら〈赤眼の蜘蛛〉では一番厄介な相手ではなかろうか。
まだ見た事のないウィリアムとハロルドについては……今は考えるのをやめておこう。
「クスクス。」
「ん?」
「あんたって、考え事をすると周りが見えなくなるんだな。」
「……それ、ジューダスにも何度注意されたことか…。直らないんだ、こればかりはね?」
「クスクス。幾らでも考えるといい。俺は止めないからな。」
「ありがとう、修羅。」
黙々と歩いているが、敵に会わない所を見るともしかして修羅が敵のいない場所を選んで歩いてくれているのかもしれない。
君には感謝しかないな。
「そういえば〈赤眼の蜘蛛〉の拠点をバラバラにしている理由はあるのかい?」
「あぁ。目眩しもだが…、各地に〈赤眼の蜘蛛〉のメンバーが散っていた方が情報が集めやすいからな。例えばあんた達が何処に行って何をしたか、何処までストーリーが進められているか、勧誘していない〈星詠み人〉がいないか……とかだな。」
「大変だね、〈赤眼の蜘蛛〉も。我々の動向は気にしなくてもいいんじゃないかな?」
「クスクス!それじゃあ意味ないだろ?これでも存外、俺達は今切羽詰まってるんだぞ? まさか、ここまで抹殺が上手くいかないとは、ってな?……どっかの誰かさんのせいで計画が全てパァになるしなー?」
「誰の事だろうね?」
「クスクス。自覚があるならいい。」
元々〈赤眼の蜘蛛〉……いや、〈星詠み人〉のオーラはこの世界とは違う。
だからこの世界で生まれたカイル達には私達〈星詠み人〉の気配を感じ取れない。
だから抹殺は簡単だと思っていたのだろう。
要は闇の中に身を潜めて暗殺すれば良いだけの話だから。
それが同じ〈星詠み人〉の私がいたことで計画が全て台無しになってしまった。
……なるほど、そういう訳だ。
「はぁ。本当、あの時カイル達に付いて行った自分を褒めたいよ。」
「クスクス!」
「……ちなみに聞いてもいいかい?」
「この際だから何でも聞いてくれ。俺とあんたの仲だろ?」
「ははっ!有難く聞かせてもらうよ。……〈ロストウイルス〉の件なんだが…、〈赤眼の蜘蛛〉が〈ロストウイルス〉を作り出してる…とは違うのかな?」
「!!」
目を見張り、こちらを見て驚いている修羅。
やはり彼は知っていたのか。
「……その情報を何処で?」
「ハーメンツヴァレーにあった〈赤眼の蜘蛛〉の拠点……確か〈アンダーグラウンド〉という拠点にあった機械を通電させて読ませてもらったよ。どうも、君の所の研究員が〈ロストウイルス〉を何かしらの理由で作っていたけど、効果が真逆のものが出来てしまい……今の〈ロストウイルス〉になった、ということくらいかな?」
「……驚いた。まさかあんたがそこまで情報を掴んでいるとはな…。」
暫く考え込んだ修羅だったが、頷くと話し始める。
「実は俺も先日、その事を知った。アーサーから聞いた話だけどな。どうも人体実験やら非合法的な活動を以前はしていたらしい。」
「……やはり、彼はそういった事に何も感じないのか。」
「……そうだな。もうあいつらの性格上、仕方ないことなんだろうが、同じ仲間として嫌な気持ちにさせられる。」
顔を歪め話している修羅にホッと息を吐いた。
これで修羅も同じ思考ならどうしようかと思っていた。
でも、この様子だと大丈夫そうだ。
「ハーメンツヴァレーに書かれていた研究員の名前が、【ロバート・ジェレマイア】だったんだが……何か知ってるかい?」
「……ジェレマイアだと?」
「お?当たりかな?」
「確か、さっき話していたマッドサイエンティスト……、ウィリアムのファミリーネームがジェレマイアなんだ。」
「え?」
思わぬ所で合致してしまった。
しかし、想像の斜め上の回答だったものだから思考が追いつかない。
ウィリアムは修羅が言うには爺さんということらしいし、かなりご年輩の方のはずだ。
だが、あのハーメンツヴァレーにあった記録はかなり前の記録だった。
そこから導き出される答えは……
「ロバート・ジェレマイアの子孫が、ウィリアム?」
「いや、逆だ。ウィリアムの子孫が、そのロバート・ジェレマイアだろうな。あの爺さんは転生して直接ここへ連れてこられている。そして〈赤眼の蜘蛛〉創設当時に既に居たはずだ。だからそのロバートと言うやつは子供だろうな。」
「……? それならおかしい…。私が見た記録はかなり昔の記録だったんだ。」
かなり昔といってもこの18年間の間の記録であるが…。
「……うーん。少し気になる記録だな…。」
「何なら今から見に行ってみるかい?その〈アンダーグラウンド〉という拠点に。」
「クスクス、あいつらはいいのか?」
「彼らなら大丈夫さ。きっとなんとかしているよ。それよりもこっちとしては〈ロストウイルス〉についてハッキリさせておきたい所だね。」
「違いないな。……ただ、今そこにそれがあるかどうかは賭けになるがな。」
「?? どういうことだ?」
「……? あぁ、そうか。あんたは気絶させられて連れてこられたんだったな。もうここはカイル達のいた現代じゃない。エルレインによって作り変えられた現代なんだ。」
「!! ……そうか…!ようやくストーリーが進んだのか…!」
修羅の話を聞いて思わず笑顔になってしまう。
あれ程イベントが起きなかったのでとても心配していたのだが、まさかここに来てようやく進んでいたとは感動する。
苦笑いの修羅には悪いが、本当……嬉しいんだ。
「という事は、カイル達は今頃、エルレインのいる光のほこらへ向かっているのか…。」
「……はー、流石だな。そこまで覚えているとはな…。」
「ストーリーは熟知しているからね。サブイベントは覚えてるかあやふやだけど……。」
「いや、そこまで覚えてるなら完璧だろう。……なるほどな。どうりで俺達が後手ばっかり回る訳だ。」
「そうでもないよ。実際、アーサーはトラッシュマウンテンの出来事でナナリーを村に留まらせようとしたのだからね…。あれには驚かされたよ。」
「へー?そんな事があったのか。」
修羅は知らなかったのか。
そういえば、修羅はアーサーとは仲が悪そうだし、そういった事は一々報告もされないのだろうな。
「君達の所って、本当に内部分裂しているのかい?」
「“本当に”、の意味は分からないが…、そうだな。〈赤眼の蜘蛛〉は何個かの派閥に別れてるって言っても過言ではないだろうな。」
「……大丈夫なのか?その組織は…。」
「人が沢山いれば思想や考えも違うもんさ。だが根本は結局のところ一緒なんだろうな。だから留まるのさ。」
「……難しいね。」
「クスクス。組織ってのはそんなもんだ。」
〈アンダーグラウンド〉に向かう途中、ふと目に付いた物に私は目を剥いた。
だって、野生で〈ホロウ〉を見かけてしまったのだから。
「……ちょっと待ってくれ。」
「? どうしたんだ、急に。」
「あそこに見えるのって……そういうことで合ってるのかな?」
指さした先に〈ホロウ〉が居るはずなのだが、修羅はそれを見て何故か普通の反応を返した。
「あぁ、〈ホロウ〉だな。」
「……君の危機管理は一体どうなってるんだい?」
「あぁ、そうか。この情報も知らなかったんだったな。今や〈ホロウ〉なんて珍しくない。特にミドル級やラージ級の〈ロストウイルス〉なんてな。理由としては魔物達が爆発的感染をしてるから、だな。地球での言い方をするとパンデミックってやつだ。」
「……。」
なんて事ないように言う修羅に言葉を失っていると、向こうは苦笑いをしてこっちを見ていた。
いつの間にそんな事が当たり前になったのだろう。
次から次へと新しい情報が入ってきて実に頭が痛い……。
「さて、気分転換にやるとするか。」
「……そうだね。」
「おー。疲れきってんな?」
「まぁね…。次々と新しい情報が入ってくるから驚いてるんだよ。」
「クスクス。少し休んでな?あれくらいなら俺で充分だ。」
武器を取り出し、〈ホロウ〉へ向かって駆けていく修羅を見送った私はその場で座り、観戦する事にした。
しかしものの数秒で彼は〈ホロウ〉を倒してしまったので僅かに目を開く。
「……早いな。」
「休憩にもならなかったか。悪いな。」
「いや、大丈夫。むしろ悪かったね?1人でやらせてしまって。」
「気にするな。どうせ暫くはこの2人だけなんだ。少しでも休んでなって。」
「有難くそうさせてもらうよ。」
座った私に手を差し伸べてくれた修羅にお礼を言いつつ、その手に自分の手を重ねる。
立ち上がらせてくれた修羅と共に目指すは〈アンダーグラウンド〉だ。
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*
___〈アンダーグラウンド〉内部
道中は他愛ない話で盛り上がっていた。
久しぶりに会うし、何だかんだ〈赤眼の蜘蛛〉の話だとか、他のメンバーの面白い話だとか、そういったモノの話を修羅自らしてくれるので聞いてて飽きない。
そこにはジューダスとはまた違う会話の楽しさがあった。
まぁ、2人の性格が違うからそうなるのだろうけど。
ジューダスとは一緒に居て居心地の良い、そしてお互いが分かりあってる会話。
対して修羅は話題を提供してくれるから、そこに疑問を持てば素直に答えてくれるし、何より敵の内部の情報というのもあり、とても聞いてて新鮮である。
「〈アンダーグラウンド〉といえばここだが……、ここにそんな記録媒体があったとはな。」
「ただ、一回一回通電しないといけないのがデメリットだけどね?」
「……もうここは〈赤眼の蜘蛛〉の中でも棄てられた拠点になっていたはずだから、通電はしてないと思うが?」
「私がやろう。以前来た時もこの機械に通電させたことがあるんだ。」
「ほう?お手並み拝見、だな。」
〈アンダーグラウンド〉の中の機械に触れ、一度深呼吸する。
雷の魔法を手に集中させ、けたたましい雷の音を立て機械へと送り込む。
その瞬間、修羅が微かに息を呑んだ音がしたのが分かった。
パネルに明かりがついたのを確認し、手を離すと慌てた様子で修羅が手を握り、そのまま手を見ている。
「馬鹿っ!あんなやり方があるか!!___キュアコンディション!」
「ありがとう。」
怒られながらも回復をしてくれる修羅にお礼を言えば、はあと呆れた溜息を貰ってしまった。
「!! 身体が…軽い…。もしかして、君がラプラス級の〈ホロウ〉に襲われていた時に回復してくれたのって…。」
「あぁ。そういえばそんなこともあったな。倒れたあんたを見て回復技を掛けたんだったか。あの時は驚いたな。あんたが助けに来てくれたこともだが、倒れた事も。」
「あの時は確か、グリムシルフィとノームの契約を同時にやったから魔力が底を尽きて倒れたんだよ。」
「……。あんた、いつか死ぬぞ?」
「あの時はいける、って思ったんだけどね?」
「はぁ…。全く、気を付けてくれ…。」
大溜息を吐かれた後、修羅はパネルを覗き込み読もうとする。
しかし経年劣化か、はたまた別の要因なのか所々読めなくなっていた。
「……確かに【ロバート・ジェレマイア】と書かれているな…。それも、この記録自体は10年以上前のものだな。」
「?? そんな事書かれていたのか?」
「〈赤眼の蜘蛛〉自体が設立したのは15年前。そしてそこから数年の間だけ、こういった非人道的実験を繰り返していたと聞いている。その時の記録だろうな、これは。」
「流石、〈赤眼の蜘蛛〉の幹部。」
「クスクス。お褒めに与り光栄です。」
記録を読みながら思考に耽ける修羅を横目に、私はもうひとつの機械も通電する事にした。
さっきよりは体が軽くなったし、通電にもさほど時間をかけなくて済む……かもしれない。
__バチバチバチバチッ!!
「っ!」
あまりの音に思考の淵から意識が浮上し、慌てて音の主を見遣るとまた無茶をしている彼女の姿。
顔を歪め、痛いのを必死に堪えている。
すぐに近くに寄って、通電中のスノウへと回復技をかけ続けてやる。
今回は意外にも早い通電だったが、スノウの顔には明らかな疲労感が見て取れた。
「……なぁ、もっと他の方法は無いのか?」
「雷の精霊ヴォルトでも居たら……違ったかもしれないね?」
「そういえば、そんな精霊いたな。あまり出てこない精霊だから忘れていた。」
その瞬間、奥の方からけたたましい音が鳴り響く。
まるで雷が帯電しているかのような激しい音だ。
思わず2人して耳を塞ぎ、音を遮断しようと試みるがあまりにも激しい音の為、2人は一旦外へと向かい避難することにした。
「くっ、一体なんだ?!」
ようやく耳を外した2人。
そこへ別の声が聞こえてきて、スノウはそのまま耳を澄ませた。
『主人!中に精霊がいるぞ!』
『よりにもよって、今、雷の精霊かー…。ボクは傍観しよっと。』
『ご、ご主人様…!ど、どどうなさいますか?』
『……契約するの…?』
「なるほどね…。だから電気の発生音がしたのか…。勿論、契約はするよ。」
「?? 誰と話している?」
「精霊達が教えてくれたんだ。中に雷の精霊がいるって。」
「ちょっと待て…!あんな音の中を行くつもりか?!無茶だろ!!やめておけって!」
「ふふ、ありがとう?でも、私は精霊と契約するって決めてるからね。……ただ、修羅はここに居てくれ。中はきっと危ないからね?」
「……。あんた一人行かせたら、この先ずっと俺は後悔し続ける…。なら、俺も行くさ。どうせ精霊の契約ってやつを一度は見てみたかったしな。」
「……いいのかい?結構危ないと思うけど…?」
「それはあんたも同じだろ?なら痛み分けだ。」
「…! ふふ、ありがとう修羅。君にはほんと、感謝してもし足りないよ。」
「クスクス。惚れてもいいんだぞ?」
「ふふ!それはどうかな?」
お互いの顔を見て頷く。
あれ程の音ならば、中はかなり広範囲に且つ高電圧の電気が放電しているに違いない。
離れないように、と言われて繋がれた手をしっかり握ってスノウと修羅は中へと入っていく。
それは怖いもの知らずのしっかりとした足取りだった。
「回復は任せておけ。あんたは契約のことだけ考えていればいい。」
「頼もしいね?じゃあ、そうさせてもらおうかな。」
「因みに、雷属性ってあまり聞かないが……弱点はなんだ?」
「うーん、シンフォニアとか、ハーツとかは雷属性があったんだけど…主な言及があった訳じゃない上に、シリーズ内でも弱点がバラバラすぎて私の情報では役に立たないだろうね。主に水氷、地、風が有利とされていたね。」
「バラバラすぎだろ…。精霊達は何か言ってないのか?」
「風属性のグリムシルフィが傍観を決め込むって言ってたから……相性は悪いんだろうね。後はノームか、シアンディーム、セルシウスだけど……?」
彼の手を離し、指輪を見ると一番輝いているのが、やはりその三属性。
どうも地属性も有利みたいでオレンジ色の宝石……トパーズと、シアンディームの指輪である青の宝石サファイア、そしてセルシウスのパライバトルマリンが光り輝いていた。
「三つ光ってるってことは、その属性が弱点ということか。」
「そうみたいだね?私の魔力も増えているし……誰かを召喚して一緒に戦って欲しいけど…」
その瞬間、トパーズの色が止み、他二つのサファイアとパライバトルマリンは更に光り輝く。
明らかな反応の違いに修羅も苦笑いをしていた。
ノームはきっと自信が無いのかもしれないね。
彼は強い属性持ちなのにな。
「じゃあ、2人にお願いしようかな?」
「……一気に2精霊を召喚して、あんたは大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だと思う。セルシウスに至っては初めからいて馴染んで来てるからか、そんなに魔力を使わないような気がするんだ。」
すると誇らしげにパライバトルマリンが輝いた。
それでもサファイアの輝きは失われず、そこに輝き続けている。
「さて、お出ましだぞ…!」
修羅の掛け声で前を向くと、以前ジューダス達が捕まっていた拓けた場所には雷の精霊ヴォルトがいた。
その周りには高電圧の電気が流れていて、ビリビリやバチバチという他にヴーーーンという低音の漏電しているような音も聞こえていた。
「……ここでグリムシルフィとノームと契約したのが懐かしいよ。」
『あの時は居なかったくせにさ!今になって現れるとか、臆病なんだから!!』
『も、ももしかしたら、あの時……ご主人様が機械に電気を流したのが原因かと……!』
「ん?私のせいなのかな?」
『……有り得なくはない…。……ヴォルト自身が、雷属性に引き寄せられてここに来た可能性もある……。』
「なるほどね?」
「話してる場合か?来るぞっ!」
修羅の声と同時に辺りには再び大きな雷の音が鳴り響く。
近寄れば雷による火傷や、焼死だろう。
ならば、遠くから攻撃するのみ…!!
スノウは銃杖を構え、詠唱を開始する。
「__彼の者を凍てつかせ我を助けよ、セルシウス!!」
「……任された!」
「__流るる水の奔流……、彼の者へ苦痛を与えよ、シアンディーム!!」
「……ふふ!!任されましたよ!!」
2人が召喚されると同時にヴォルトへと駆け出し、持ち前の攻撃で攻撃していく様に修羅と顔を合わせ頷き合う。
「___サイレンス!」
敵を“沈黙状態”というデバフを与える術技、〈サイレンス〉。
上手く行けば、敵は魔法を唱えられなくなる効果があり、精霊であるヴォルトには有効打だが……?
《────!!》
無言ではあるが、あまり効いてなさそうである。
それでも負けずに何度もサイレンスを掛け続ける修羅を見て、スノウも負けられないと銃杖を構える。
「(ここにジューダスとシャルティエが居たら完璧だったんだけどね…。)__グランドダッシャー!」
地属性を得意とする2人。
だからここに居れば百人力だっただろう。
居ないものを強請っても仕方ないので、とにかく攻撃に奔走する。
「__エアプレッシャー!」
「__サイレンス!」
修羅も頑張ってくれてるんだ。
私も頑張らなければ…!
「アースグレイブ!」
「これならどうだ?__セイクリッドペイン!」
敵1体の全防御属性を降下させる高位支援術技〈セイクリッドペイン〉。
中々テイルズシリーズで拝めない術技を使用する修羅に、隣でスノウが詠唱を唱えながら笑う。
それを感じ取ったのか、修羅も笑っていた。
今、精霊と戦ってそれ所では無いはずなのに。
「__アースクェイク!!」
大きな地震が洞窟内を揺るがす。
修羅もそれに耐えながら次の詠唱を開始していた。
「__ワイズ!」
味方1人の術攻撃力を上昇させる術技〈ワイズ〉。
それを詠唱中のスノウに向けて繰り出した修羅に、スノウは頷いてお礼を伝えた。
《───!!!!》
すると、上空から雷が2人へ向けて落ちてきて、その速さに2人はかわすことが出来ずその場で攻撃が2人へと直撃してしまい、膝を着いた。
「う、く……」
「ぐっ…!!__キュアコンディションっ!」
「!! ありがとう!」
修羅の機転ですぐさま回復したスノウは立ち上がり、攻撃を再開する。
早く倒して修羅も回復しなければ。
今はヴォルトを倒さなければ2人ともあの世行きだ…!!
「__アーステッパー!」
無数の小人(アーステッパー)が対象を踏みつぶしながら通過し、後を追うように巨大な水晶が連続で降り注ぐ地属性魔法。
苦手な属性を威力を上げ、受け止めているヴォルトにはかなり苦痛を与えられた様子で、辺りに漂う電気の量が目に見えて弱まっていた。
「っ!もう少しだ!スノウ!!」
「__破壊の力、グランヴァ二ッシュ!!」
最後の決め手として、地属性高位魔法を使うスノウ。
天空から光を降らせた後、大地の崩壊が起こり岩の衝撃がヴォルトを襲う。
《───!!》
ヴォルトへと攻撃していたセルシウスとシアンディームがスノウを振り返り、叫んだ。
「「今よ!!/……今!!」」
「お願いだ…!──我との契約に応じよ!ヴォルト!!」
《───、───!!》
途端に辺りの電流が収まり、スノウの右手が光り輝く。
目を閉じなければならないほどの光が止み、恐る恐る2人は目を開いた。
そしてスノウが右手を見れば、そこには紫色の宝石……タンザナイトがあった。
人差し指に着けられた新たな指輪に、修羅も喜んで笑顔になった。
「……お疲れ様だな、スノウ。」
「あぁ、ありがとう。修羅。__ディスペルキュア。」
お礼にと回復技を掛ければ、修羅も笑ってお礼を言ってくれた。
同時に右手のタンザナイトがキラリと光った。
それはまるで、お礼を言っているような……それか、修羅に謝っているようなそんな光だった。
「はぁ…。やっぱり精霊の契約ってのは大変だな。あんたはすごい……。平気でこんな事、やってのけるんだからな。」
「そんな事はないさ。皆の力のおかげだ。今回は修羅、君のおかげだ。」
「クスクス。頑張った甲斐があったな。」
流石に疲れたのかその場で倒れ込んだ修羅に驚けば、「大丈夫だ」と言われるので苦笑いをしつつ、もう一度彼に回復を掛けた。
「……さて、精霊との契約が終わったし…、さっきの機械を見てみますかね…。」
「……。流石に…、もう少し、休憩したらな…。」
目を閉じてしまった修羅の横へ移動し、頭を少し撫でる。
切れ長の睫毛が僅かに震えたが、その後は動く事はなかった。
どうやら修羅は寝てしまったようで、規則正しい寝息が聞こえてきた。
……ここは魔物が出ないし、暫く修羅にはここで休んでいてもらおう。
「……改めてよろしく、ヴォルト?」
『────?』
「ふふ、まだ君の言葉は分からないけど、いつか分かるといいな。」
『──!』
スノウのその言葉に喜んでいるような音を出すヴォルト。
それに笑顔を浮かべ、修羅の横から離れようとしたがスノウの頭に何かが落ちてきた。
パラパラ……
「……っ!?」
まずい、やりすぎたんだ。
そりゃあ、こんな洞窟内であんな激しい戦闘をしたらそうなる。
元々崖を切り開いて……というか中をくり抜いて作られた洞窟なのだ。脆くても仕方がない。
「修羅っ!!修羅、起きてくれ!!」
「……ん?」
パラパラ……ガコン!
「やっば…!」
『ちょ、ちょっと!!このままだと生き埋めになるよ?!』
『これはまずいわね。』
『シアンディーム、言ってる場合じゃない!!主人よ!早くここから出るんだ!!』
辺りに大きな岩が落ちてきたことで、余計に焦燥感に駆られる。
慌てて修羅を起こそうとしたが、かなり疲れていたのか中々動いてくれない。
「……どう、した…?」
「!! 修羅っ、ごめん!後で説教は幾らでも受けるから!!」
「…? …………はぁ?!」
ようやく体を起こし、目を擦って辺りを見渡した修羅はその惨状に目を剥いた。
修羅の肩に手を置き、必死に何かを唱えるスノウに嫌な予感がした修羅は、スノウの腕を掴もうとした。
「__テレポーテーション!!」
「待──」
『『『『馬鹿ーーー!!!?』』』』
精霊達の声が揃ってスノウを説教する。
何せ、スノウは修羅だけを外へと追いやったのだから。
「うーん…、やっぱり魔力が足りないか。」
『言ってる場合じゃないって!!馬鹿なの?!』
『主人よ、頭を打ったのか?!早く外に出るんだ!!』
「もう遅いかも。」
『『『『はぁ?!!!!』』』』
スノウの魔法で外に出された修羅は、崩落の音がして慌てて洞窟内を振り返る。
そこには崩落で入口が塞がった拠点跡地があって、修羅の顔はみるみるうちに血の気を失った。
だって、中にはまだスノウがいるのだから。
「スノウっ!!」
崩落の音が止んでしまったことで、中も既に崩落が終わったことを意味していた。
しかし隣に、スノウの姿はない。
それは、スノウがこの崩落に巻き込まれてしまったことも意味していた。
「……。」
自分が寝ていなければ、こんな事にはならなかったかもしれないのに。
そんな後悔が押し寄せて、修羅は呆然とその場に膝を着いた。
あぁ、やってしまった。
救うはずの相手を、目の前で失ってしまったのだと。
しかし、そんな絶望している修羅の耳に微かに笑い声が聞こえてくる。
それもこの瓦礫の中からだ。
急いで洞窟入口の岩に耳を当て、澄ませてみる。
「───!!」
「!!!」
まだ、まだ生きてる…!
だが、どうやってこの瓦礫の中から彼女を助け出す…?
自分は魔法の類は使えない…。元より才能がなかったからだ。
支援魔法くらいなら使いこなせていたが、属性魔法となれば話は別だ。
あれは元から才能が無ければ使いこなす事など出来やしないのだから。
だからこそ、困ってるのだ。
「─────、ははっ─」
「……スノウ、笑ってないか……?」
何が楽しいのか、笑い声が微かに聞こえてくる。
それとも諦めの笑いなのか…。
ともかく、まだ生きている事が分かれば充分だ。
だが、一人では無理だ…!
「……アーサー達に頼めばまたスノウはあそこに監禁される…。……チッ、あいつに頼むしかないか…!!」
ここは嫌だが、あいつに……ジューダスに頼むしかない。
地属性晶術が得意なやつの事だ。
何かしら策を立ててくれるに違いない。
「スノウ!!聞こえるか?!」
「───?」
「今、あいつを連れてくるから待ってろ!!」
「──?─────?」
何を言ってるかは不明だが、とにかく先にあいつを探さないと。
「サーチ」
頭に手を置き、頭の中に地図を思い浮かべる。
あいつらは今何処にいやがる…?!
引っかかった反応は……
「……チッ、あいつら……もう黄昏都市レアルタまで行ってるのか…!行動が早すぎだろ…!」
このままでは光のほこらに行かれて、スノウの救出どころではなくなってしまう。
そうなれば、このままスノウはどうなってしまうのか分からない。
瓦礫の下で酸素が無くて死ぬか、それとも改変された世界で何か起きるかの2択しかない。
あいつらがスノウを探してないとは思えないが…。
「頼むから、そのまま居ろよ…?!」
すぐにテレポーテーションで黄昏都市レアルタへと飛んだ修羅は中に入り、すぐさまカイル達を探す。
そして、その姿を視認する。
「っ!! お前らっ!!!」
駆け寄り、ジューダスの肩を掴む。
それに嫌そうな顔をしたジューダスはその手を振り払おうとしたが、修羅の慌てた顔に思い留まった。
「頼むっ!!スノウを助けてくれ!!」
「っ!?」
『え?え? どうなってるんですか?!』
「え?ど、どういうこと?!」
「おいおい……、敵であるあんたが何言ってんだよ…。罠じゃねえのか?」
「嘘じゃないっ!頼む、急いでくれ!!急がないとスノウが死ぬんだ!」
「!? 何処だ?!あいつはどこにいる!!?」
逆に修羅の肩を掴んだジューダス。
その顔は焦燥感に駆られた顔をしていて、必死だった。
修羅は僅かに嫌悪を出したが、スノウの為にそんな場合じゃないのだ。
「1人ずつしか運べねえからな!!」
まずは自分の肩を掴んでいるジューダスを例の洞窟前に一緒に飛ばす。
そして、説明に入る。
「スノウはこの瓦礫の下なんだ。」
「はぁ?! なんで彼奴はこんな所に…!!」
『ちょちょっと待ってくださいよ!瓦礫の下敷きって…!もう助からないと思いますよ?!!』
「……生きてる保証があるのか?」
「当たり前だろ?!!じゃなきゃ、あんたを連れて来ない!!悔しいが、俺は魔法は使えない…!!でも、地属性が得意なあんたならこれをどうにか出来ないか?!」
「っ、これを…?」
『いやぁ…流石に地属性が得意と言っても……これは……。』
修羅は再びレアルタへと飛び、仲間達を1人ずつこの場所へと運ぶ。
流石に何人も連れてくるのは至難の業で…、最後の一人を運んだ後、修羅は乱れた呼吸を整えながら…、汗を流しながらその場に膝を着いた。
だが、それでもその心は、この瓦礫の下敷きになってしまっている彼女に向けられていた。
「た、のむ…!!あいつを……、助けて、やってくれ…!!」
「「「「……」」」」
必死に頼み込む修羅を見て、カイル達はお互いを見て頷き合う。
その目には決意を秘めて。
「ヘヘッ!ここは任せてよ!」
「ハハッ!これで探す手間が省けたじゃねーか!」
「絶対に助けるわ…!スノウが苦しんでるかもしれないんだもの!!」
「アタシも絶対あの子を助けると誓うよ!」
「!! ……すま、ない……」
そのまま意識を失った修羅にリアラが回復を掛けていた。
さぁ、問題はこの瓦礫をどうするか、だ。