第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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地上へと飛ばされ、迎えに来てくれたイクシフォスラーへ戻る私達。
皆が私の無事を喜んでくれたのはとても嬉しかったんだ。
あの時…正直に言うとかなり危なかったからね…。
「私がスノウを地上へ送り届けたのは、結局意味があったのかしら…?もしかして要らなかった?」
「いや、本当にありがとうリアラ。あれが無かったら正直、私は死んでいたよ。」
「「え?!」」
「……どういう事だ?」
「私が気絶弾を確実に敵へ入れる為に、君は〈ホロウ〉の近くへ寄ってくれていただろう?あの瞬間だけ、僅かだけど〈ロストウイルス〉自体がイクシフォスラーの中にチラついていたんだ。あのままあの中に居たら私は確実に〈ロストウイルス〉に感染していたし、かと言ってあれより少しでも遠かったら〈ホロウ〉を倒せていなかったと思う。だから全てが丁度良かったんだ。……本当、改めて奇跡ってあるんだなって思ったよ。」
私は安堵の息を吐きながらそう零し、天を仰いだ。
まだまだ問題は山積みだと言うのに心底ホッとしたら、もう他はどうでも良くなりそうだ。
「それに奴を倒せていなくても……私は死んでいただろうしね。」
きっと〈ホロウ〉は〈星詠み人〉に反応する。
地上へ送り届けて貰った後、〈ホロウ〉が倒せていなかったらこっちに向かってきていたかと思うと寒気がする。
だから、あれでちょうど良かったのだ。
「ていうか、ロニまだ気絶してるの?」
私が話す横でカイルがロニを突っついていた。
しかし顔を青ざめさせ、起きる気配のない彼に全員が呆れた様に、または苦笑いでそれを見ていた。
あんなにも一騒動があったのに気絶しているとは…逆にすごいな。
「全く…。ま、こいつの事は後にしようよ。それよりさ?早いとこ、あそこに行かなくていいのかい?」
「カイル。いざとなったらそいつは置いていけ。」
「もう!ロニってば!!」
「カイル…、多分起きないと思うわよ?」
「ふふ。今は寝かせといてあげた方が賢明だと思うよ?」
皆の言葉に頷き、改めて元の席に戻るカイル。
その横にリアラが座り、ナナリーはロニの横へと座ったのを見て、私はジューダスの横へと身を置くことにした。
「……次から敵が来たなら来たと言え。」
「ふふ。それに関してはごめんだったね。急に背後から〈ホロウ〉が凄い勢いで追いかけて来てら慌てたんだ。次は無いと願うよ。」
「これ以上来られても敵わん。早い所行くぞ。」
「そうだね。」
パネルを触り、彼がレバーを持ったのを確認し本格的にパネルを操作する。
私達はようやくアイグレッテ上空にある黒い球体へと辿り着いたのだった。
「……近くで見ると不気味ね…」
リアラが呟くように言うその言葉に誰もが賛成し、頷いていた。
この黒い大きな球体の中へと世界各国からレンズが吸い込まれているのだ。
中は何かしら空間があると言っても良いだろう。
でなければ、レンズを収納出来ないのだから。
「ふむ…。決死覚悟で飛び込むか…、それともアイグレッテに降りて様子を見るかだけど…。」
「一度降りて散策してみるか。何か有益な情報が手に入れられるかもしれん。」
ジューダスがアイグレッテ近くに停めようとしたので、問題は最年長を誰が起こすかになっていた。
「ロニ!!行くよ!!」
「これ、起きるのかしら…?」
「放っておいていいんじゃないかい?」
「まぁ…起きないからね。後で追いかけてきてくれることを願いたい所だけど…。……難しいな…。」
『……正直仲間が欠けるのは宜しくない…』
『主人が知ってる未来を辿っていないのが何より不確定過ぎてな。こやつを置いておくのは俺も勧めはせんな。』
『ボクが起こしてあげよっか?』
『私が起こすわ。』
精霊達が話してる間、シアンディームが指輪の中から魔法を使う。
大量の水がロニを襲い、呼吸が出来なかったからかロニが大慌てで起き出した。
「へぶっ!!な、なんだ?!何が起こってるんだ?!」
「起きたね。流石はシアンディームだ。」
『あらあら。私は、ただ水をかけただけだわよ。』
「さっきの精霊の攻撃だったんだ…!ビックリしたよ!!」
カイル達も驚いた様に声を上げたが、ロニが起きて何よりだ。
ジューダスも遠慮なく出入口へと向かっていったので私も彼の後を追うことにした。
「さて、これからどうするかだが…。」
「……いや、態々向こうからやって来てくれたみたいだよ?」
出入口から出た所で待ち構えていたのは、魔物の軍勢だった。
街の中にまで魔物が蔓延っており、人ひとり見かけない。
「……あの街並みも、もう…」
「感傷に浸っている場合か。やってしまうぞ。」
『よーし!坊ちゃん、僕を使ってくださいよ?!』
「ふん。まぁ、もう彼奴らにはバレているからな。たまには使ってやる。」
『やりましたよ!!スノウ!!遂に僕の出番が来ましたよ!!!』
「はは!大歓喜だね?」
舞い上がっているシャルティエを持ち、もう片方に今までの武器を持って彼が駆け出したのを見計らい、自分も武器を手に取る。
──持ったのは、かつての相棒の方。
「……また宜しくだ。相棒?」
するりと刀身を撫でれば、何だか分からないが鈍く刀身が光った気がした。
まるでそれは任せろと言ってくれているかのようで、とても頼りになるなと私はその場で笑った。
「って、うわ!魔物が沢山だよ?!」
「早くジューダスを助けましょ!!」
声を聴いてカイル達も降りて来た事が分かり、私は敵に向かって駆け出した。
相棒を持っていると、かつてのリオンと共に任務に出た時を思い出す。
彼の援護に回ったり、援護されたりと……何だか懐かしいな。
「ふふ。」
「真面目にやれ。真面目に。」
「何だか懐かしくってね。君とこうして援護しあったな、と。」
「そんな暇があるなら早く魔物の一体や二体倒してこい!」
「……君は相変わらずストイックだね?」
近付いてくる敵を薙ぎ倒していき、一度彼を振り返る。
彼も久しぶりに自身の大事な相棒を持つ癖に、何事も無いように扱っていくのを見て肩を竦めた。
その横ではカイルやロニ、そして中距離からナナリーとリアラが援護してくれている。
そう、ただ昔と同じじゃないのだ。
今はこんなにも頼りになる仲間達がいるのだから。
「……でも、この魔物の数なら前衛でも良さそうだ。そうだろう?相棒。」
そう呟いて、相棒を持ち次々と敵を斬り倒していく。時折彼らの援護も忘れずに、ね?
「ある程度こいつを倒したらストレイライズ大神殿に行くんだろ?!」
「そうだね!それが賢明だ!」
「よっしゃ!身体が鈍ってるからな!やってやるぜ!!」
ロニが意気揚々と敵を薙ぎ倒して行くのを見てほう、と感心する。
やはり最年長は頼りになる。
……こういう時はね。
「おらおらおら!!」
「……彼奴はイノシシか何かか? 猪突猛進にも程があるだろう…。」
「さっき気絶してたから役に立つのが嬉しいんだよ、きっと。」
「ふん。最初から役に立って貰いたかったがな。」
ジューダスがロニを見て顔を顰めていた。
しかしこれで活路が見い出せた。
この敵の数なら、大神殿まで走り抜けてしまった方がいい。
「お前ら!行くぞ!!」
「分かった!!」
カイルがいち早く気付き、言葉を返す。
ナナリー達にも届いた様で武器を持ちながら走り抜けるのを見届け、途中で襲おうとする敵は私の魔法弾で気絶させてやる。
それにお礼を言われ、手を軽く降っておく。
するとその手を彼に捕まれ途端に走り出すので、問答無用に私まで走り出さなくてはいけなくなってしまった。
しかしその手はとても…暖かいんだ。
「……さて、鬼が出るか蛇が出るか…。」
「おい、物騒なことを言うな。……だが、それを見ると今はお前の知ってる未来ではないんだな。」
「全然違うから困ってるんだよ。精霊達もかなり緊張しているようだ。……本当に人っ子一人居ないのを見ると、大丈夫か心配になってくるよ…。」
「なら、早く行くぞ。」
大神殿に先に辿り着いていたはずのカイル達は、大きな扉前で立ち往生していた。
どうやら大神殿の大扉が開かないらしい。
「私がやろう。」
武器を銃杖に切り替え、狙いを扉に定めた私を見て慌てて皆が扉前から避難する。
そして魔力を装填し、扉を木っ端微塵にすると皆の顔が若干引き攣ったような顔になった。
「…スノウに出来ない事ってないよね。」
「ふふ!頼りになるわね? カイルもスノウみたいに頑張らなくちゃ!」
「うん!オレ、頑張るから!見てて、リアラ!」
そう言うと先陣をきって扉の中へと入っていくカイルの姿に、ロニとジューダスが叱咤しながら慌てて追いかけていった。
女性陣はその姿に苦笑し、呆れながら中へと入っていった。
「────!!」
「「「???」」」
私達が大神殿の扉を潜ると妙な声が聞こえてきた。それも甲高い女性の声だ。
2人は怪訝な顔をして中を見つめていたが、何だか嫌な予感がして即座に警戒を強め、武器を手にした。
そして──
「みーつけたっ!!」
「っ!?」
背の高い…それこそナイスバディな女性が私を見るなりパァと顔を明るくして抱き着いてきたのだ。
ほかの皆が周りに集まる中、状況が分からず困惑している私にジューダスだけは何故か私を蔑視の目で見てきた。
「……お前、また僕の知らない所で女を口説いてたのか?自業自得だな。」
『本当ですよ!!自業自得ですっ!!』
「ちょ、ちょっと待ってくれ…!誤解…」
「キャー!可愛いっ!!」
キャーキャーと黄色い悲鳴を上げながら、その豊満な胸に私を抱き寄せる女性に再び困惑した。
だって、こんな女性見たことも口説いた事もないのだから。
「あの…私達、確か初対面、ですよね?」
「ええ!そうよー!! うーんっ!可愛い!!」
「えっと、初めてなのにこんなにも歓迎されるなんて……その、スノウって凄いね!」
カイルが頭を掻きながら私達を見て、何とかフォローしようとしてくれる。
呆れた様に私を見ていたジューダスとロニは、2人して奥の方へ探索に行ってしまった。
ナナリーとリアラとカイルだけは残ってくれて事態の収束を図ろうとしてくれるが、なに分、この女性のインパクトが強すぎて近寄れないようだ。
スリスリと擦り寄ってくれる女性に諦めて、されるがままにしていると、女性は私の肩を掴み体をようやく離してくれた。
そして私の頬を包み、嬉しそうに声を上げる。
「うーん!本物はやっぱり可愛いわねー!!」
「?? 本物?」
「貴女が、【アーサー】の言っていた“お姫様”でしょ?! うーん、聞いてた話よりもっと可愛いっ!!」
「っ!」
アーサーといえば、〈赤眼の蜘蛛〉の組織員の一人だ。
という事は、この女性も〈赤眼の蜘蛛〉の組織員…?
「うーん、お姫様ではないんだけど…」
「あれー?!違うの?!」
割と大人っぽい見た目の女性だが、言動はギャルのような……そんな若そうな印象を受ける。
相変わらず私を離してくれない所を見ると、本当に喜んでくれているのは分かるのだが…。
〈赤眼の蜘蛛〉の人達は何故私をお姫様扱いするのやら…。
そんな時、ナナリーが疑問を私にぶつけた。
「アーサーって誰だい?」
「んー? あらあらあらあら!!貴女!私の抹殺対象じゃない!!こんな所で逢えるなんて奇遇ねー!!?」
「え?」
「っ、ナナリー!離れるんだ!!」
私の言葉を聞いて慌ててナナリーが離れたが、相変わらずこの女性は私にくっ付いていて離れる様子がない。
拍子抜けだったのか、3人が目を点にして私達を見てはどうするかとお互いの顔を見合わせている。
「そーいえば、自己紹介がまだよねー?私の名前は、花恋!ジョブは拳闘士と調教士!!」
「ジョブ、という別の言い方をするということは……、別のゲームをした事があるのかな?」
「んーや? 私、ゲームしたことないの!元カレがやってたくらいね!後はアーサーに教えてもらったのよ!! にしても、貴女は賢いのねー!私の言葉だけでそんな事まで分かるなんてすごいわー!!」
再びスリスリ攻撃が始まり、熱い抱擁が始まる。
花恋と名乗る女性は相変わらず私を可愛い、可愛いと言い続けている。
可愛いと言われ慣れていない私には、それが一番の困る原因だと彼女に分かって欲しいのだが…。
しかし、ジョブが拳闘士と調教士か…。
だからこの…抱き締める強さも加減を知らないように強いのか…。
それに調教士といえば…魔物を調教するジョブだったはず。
ならば、イクシフォスラーでこっちに向かおうとしていたあの時、〈ホロウ〉をけしかけてきたのは彼女なのか?
「調教士とは珍しいね?」
「うっふふ!分かるー?! 流石ねー!…そーいえばお名前聞いてないわねー?」
「スノウと名乗っているよ。」
「まぁ!綺麗な名前ねー!!スノウは調教士がどういったものか知ってるのね!」
「まぁね。…因みにさっき上空に居たやつは君の仕業かな?」
それを聞いて暫く考え込んで、そして唸り声を上げる花恋だったが、ようやく思い当たったのか、ポンと両手を叩く。
「違うのよー!!あの子の調教しようとしたら逃げ出しちゃって!! だから誰かが片付けてくれて助かっちゃった!」
「「「!!」」」
3人の目が丸くなっていく。
それもそうだろう。
さっき遥か上空にて、皆で戦っていたあの魔物の話をしているのだから。
「ねえ、スノウ!〈赤眼の蜘蛛〉に入りましょ!? ね? ね?!」
「それは勘弁願いたいかな?幾ら花恋のような綺麗な女性に言われようとも、それは変わらないよ。」
「えぇ?!何でよー!楽しいわよ?〈赤眼の蜘蛛〉は!! ……そーいえば、アーサーもお姫様に断られたって言ってたわねー?」
彼女からそっと離れようとすると拳闘士らしい力強い抱擁が私を襲う。
どうしても逃げさせてはくれないらしい。
「でも、私しつこいから何度だって聞くわ!!スノウ!〈赤眼の蜘蛛〉に入りましょー?」
「私も何度言われようとも、絶対に断らせて貰うよ?」
「むー…」
これで諦めてくれるかと思いきや、花恋は何を思ったのかカイル達を見て狂気の笑顔を零した。
その場に居た全員がそのあまりにも恐い…狂気の笑顔に反射的に身震いをする。
可愛い顔をして、何故そんな顔をするのだろうか?
「アハハははハハッ!!私、欲しい物ならどんな事をしても手に入れるタイプなのっ!! 分かったわ!スノウがこっちに来ないのは貴方達のせいなのよ!!そーよ!そうに違いないわ!!! だから──────殺してあげる。」
私から手を離すと直ぐにカイル達へと向かっていく花恋。
そのスピードたるや、目で追えるギリギリの速さである。
拳闘士らしく、手にはナックルダスターと呼ばれる金属の武器を着け、まずはカイルへと攻撃を仕掛けていた。
あまりにも早い到達スピードに、カイルが慌てて武器を構えたのと同時だった。
ギリギリで武器を構えられたカイルはそのまま花恋を押し退け、一度大きく後退する。
しかし標的を変え、次はナナリーへと向かっていく花恋に気付いた私は、慌てて銃杖で花恋へと気絶弾を仕込んだ。
「っ気絶しなよ!」
「!!!」
流石の花恋も飛び道具には反応が遅れたのか、私の攻撃をスレスレで避けて躱していた。
躱した事で直ぐにナナリーへと体勢を立て直した花恋は、ナックルでナナリーの鳩尾へと拳を入れた。
「かはっ…!」
「あっはは!! 抹殺対象簡単に殺っちゃったかも?! アハハははハハッ!!」
「「ナナリーっ!!」」
「っ、キュア!!」
すぐさまナナリーへと回復技を使ったが、花恋の攻撃がかなりの衝撃だったのか気絶した様にその場で倒れてしまった。
それにリアラが口元を押さえ、顔を青ざめさせた。
「あらあらあらあら?? スノウったら回復も使えるのー?イケナイ子ね!!」
指を鳴らした花恋に警戒していたが、カイル達が悲鳴を上げたのでそちらに気を取られてしまった。
「「スノウっ!!!」」
「??」
私の背後を見て顔を強ばらせた2人に、慌てて後ろを振り返ろうとしたが、それを許さない何かが私の体を持ち上げた。
いや、これは…触手?!
「うっ、くっ…!!」
みるみるうちに何かの触手が身体に絡みつき、私の身動きを取れなくした。
一体、何が起きてるんだ…?!
「ローちゃん!そのままスノウを捕まえておいてね!!後で私の部屋に運ぶから!」
「っ!?」
よく見ると巨大な魔物が私に触手を伸ばし、捕らえているではないか。
しかもこの魔物……花恋の言う事を聞く所を見ると、彼女が調教士というのは本当らしい事が分かる。
というより、このローパー……かなりデカい。
私の知ってるローパーはもっと小さくて動きがゆっくりしていたはず。
しかしだ。このローパーは体のなりが大きい上に触手も太く、動きが絶妙に早い。
何だか気持ち悪い魔物である。
「その子は〈赤眼の蜘蛛〉の化学の力でそこまで大きくなったのよ? ふふ!可愛いでしょー?!」
「う、」
触手の締め付けがキツくなってきて、そろそろ呼吸が苦しくなってくる。
マズイ…意識が遠のいていく…!!
このままではカイル達が危ないのに…!!
「スノウ!!!」
『ちょちょ、ちょっと!!何ですか?!この巨大なローパーは!!!スノウが捕まってます!!』
「ナナリーっ!!」
あぁ、探索に行ったはずの2人が来てくれたんだ。
そこで私は意識を手放してしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気絶してしまったのか、ガクリとスノウの頭が下がったのを見て僕とシャルは息を呑む。
というより、ここで一体何が起きているんだ?!
『ナナリーも気絶していますっ!!どうしてこんな事に…?!』
「分かる事といえば、あの女が全てやってるということ位だな!」
僕は標的を女に絞り、双剣ですぐさま攻撃するが、女は素早い動きで手に着けられたナックルで僕の攻撃をいとも簡単に凌いだ。
そしてこれまた早い動きで蹴撃を僕の横腹へと食らわせようと身体を捻ったのを見て、もう片方の剣でそれを咄嗟に防ぐ。
一度体勢を立て直す為か大きく後退した女は、狂気の笑みを浮かべ僕に攻撃を繰り出してきたではないか。
その一撃一撃は本当に女なのかと疑いたくなるほどとても重かった。
『拳闘士の類いでしょうか?!さっきから素早い動きで拳を奮ってくるので反撃の隙がありません!!』
「チッ!厄介な相手だな…!!」
「ジューダス!その人!〈赤眼の蜘蛛〉の人らしいの!!」
『「!?」』
リアラが叫んだ内容を聞いてひとつの仮定が生まれる。
もしかしてスノウが囚われているのは、強制的に連れていく為か…!?
だが魔物が人の言う事を聞くとは思えないが…?
「ローちゃん!!スノウを連れてって!後で私も行くから!!」
《しゅるるるる…》
『「っ!!?」』
「ま、魔物が…人間の言うことを聞いてるだと…!!?」
「この人、魔物を操る力もあるみたいなの!!気を付けないとこの魔物に攻撃されるわ!」
「あっははッ!! この世界では馴染みないわよねー!?スノウは知ってたみたいだけど、私、調教士だから!!これくらい出来て当たり前なの!!」
巨大なローパーが気絶したスノウを捕らえたまま、何処かへ移動を開始し始める。
それを横目でみた僕は女への攻撃を止め、先に巨大ローパーを倒そうとしたが、再びあの女の蹴撃が襲いかかる。
慌てて剣で受け止めるが、その横からカイルとロニが女へと攻撃を仕掛けた為、女がそれを避けようと僕から遠ざかった。
その隙に巨大ローパーへと向かう僕に女が甲高い声で喚くのが背後で聞こえてきた。
「ローちゃん!!その男、殺っちゃって!!」
太い触手が上から襲いかかってくるが、図体がデカいだけあって動きも遅いため、簡単に避けられる。
回避後すぐにスノウを捕らえている触手へと攻撃してみるが、思ったよりも触手が硬く、今持っている武器では歯がたちそうにない。
『坊ちゃん!僕を使ってください!!』
ソーディアンならば斬れると見込んでシャルはそう言ったのだろう。
僕はすぐさま武器を変え、シャルで攻撃を再開すると僕らの予想通り、生ものを斬るような感覚で触手が斬れていく。
魔物が痛みで触手をうねらせながら悲鳴を上げたので、下にいる女が再び喚き始めた。
「ローちゃん?!」
「スノウっ!!」
触手の波からスノウを掴み、強く引き上げてそのまま地面へと着地を試みる。
しかしローパーの触手の多さが仇となって、すぐにスノウを捕まえようと必死に伸ばしてくる。
『「__ネガティブゲイト!!」』
空中で詠唱し、触手を呑み込む闇の球体を作り出す。
そこへ上手いことハマりこんだ触手は抜け出せないのか、それ以上触手をスノウへと伸ばすことが出来ないようだ。
それにほくそ笑み、ようやく地面へと着地する。
「おい、スノウ!しっかりしろ!!」
「……」
『完全に気絶しています…!触手にかなり圧迫されていたようですから、もしかしたらそれで気絶したのかも知れません!』
「ともかく、ここには何も無かった。急いでイクシフォスラーへ戻るぞ!!」
奥に何かあるかと彼奴と探索したが、何も無かった。
…で、帰ってきてみればこれだ。
「っ!!」
「チッ!!」
そうはさせない、とでも言わんばかりに女が僕へと攻撃を仕掛けてくる。
一度スノウを離し攻撃を受止めたが、それが相手の思う壷だったのだ。
「スノウは返してもらうわよ…!!」
女の攻撃を受け止めた僕の傍らで、スノウが再び巨大ローパーの触手に捕まってしまう。
そこへロニが駆けつけ、スノウを掴んでいる触手へと攻撃したのを確認した僕はすぐに女への攻撃へ転じる。
確かにこの女は拳闘士としては強いが、明らかにスノウへ気を配りすぎて隙も多い。
そこを狙ってシャルを振るうと野生の勘か、それとも今までの経験からか、辛うじてそれを避けていた。
「くそっ…!数が多すぎだろ!!?」
「四の五の言ってないで早くスノウを助けてやれ!」
「分かってるって!!」
遠くからリアラがローパーに向けて晶術を繰り出し、カイルも女へと攻撃する。
多勢に無勢なのが分かったのか、女は怒りを顕にし、キッとこちらを睨みつけてきた。
「スノウは渡さないわ…!!!! あの子は私のよ!!!!」
そう言うと女は口笛を吹き、狂気の笑みで僕達を嘲笑う。
そこへ獣の唸る声が辺りから複数聞こえ、シャルが息を呑んだのが分かった。
『坊ちゃん!気を付けてください!魔物がこちらに集まってきています!!それもかなりの数ですっ!!』
「なんだと…?!」
「殺ってしまえっ!!!」
女が僕達を指さし、口笛を吹く。
すると、獣型の魔物らが僕達を囲んで攻撃のタイミングを見計らっていた。
囲まれた事でスノウと距離が離れてしまい、その間にローパーに捕まってしまったスノウは多くの触手で見えなくなってしまった。
そしてスノウを捕らえたローパーがまた動きだしたのだ。
「くそっ!!また連れていかれちまう!」
「でもこの魔物を倒さないと…!」
「アッハハッ!!そのまま皆殺られちゃえ!!」
女が高笑いをして、ローパーと共に消えようとする。
そうはさせない、とシャルと共に詠唱を開始する。
『「__エアプレッシャー!!」』
「っ!!」
女へと向けた攻撃は躱される事無く当たり、女の動きを止めるには十分だった。
ロニとカイルが目の前の獣型の魔物を攻撃してくれたおかげで、女への活路を見い出せた。
すぐにそこへ身を滑らせ、女へと攻撃をするがまたしても辛うじて避けられてしまう。
「くっ…!!しっつこいわね…!!!」
「あいつは渡さん!」
「何よっ! スノウは私のだって言ってるでしょ!!しつこい男は嫌われるわよ!?」
「ふん。貴様なんかに好かれたくはない。」
対峙している僕達の後ろではカイル達が獣型の魔物に健闘していた。
普段魔物との戦闘をしているから慣れているのだ。
恐らく彼奴らの敵ではないだろう。
「渡さない…!!絶対に渡さないわ!!!」
再び口笛を吹く女。
そこへ今度は機械型の魔物が現れ、僕らを敵と認識したようで武器を翳し、奮ってくる。
…こいつ、幾つ魔物の手持ちを持っている…?!
流石に鋭い武器相手に避けざるを得なかった僕はその場で回避に専念した。
「んっふふ!じゃあねー!」
女は嬉しそうにその場から走り出す。いつの間にかあの巨大なローパーの姿も無くなっていた事にようやく僕らは気付いた。
「っ!! くそっ!!」
『…ダメですっ!2人の気配を探知出来ませんっ!!』
「シャル!あの巨大な魔物の探知をしろ!」
『やってます!!やってるんですが…幾らやっても探知出来ないんです!!魔物なのに、気配がないんですよ!!』
「!! まさか、あの魔物もスノウと同じオーラだと言うのか?!」
どれだけ、〈赤眼の蜘蛛〉の技術力は発達しているというのか。
オーラを変える術があれば、スノウを〈ロストウイルス〉から直接護ってやれる。
それか、スノウ自身のオーラを変えて〈ロストウイルス〉の呪縛から解放してやれる。
だが、その技術力も何処から探ればいいのか分からない。
何故ならこの大神殿には、めぼしい物など何ひとつも無かったからだ。
「あの人、自分の部屋にスノウを連れていくって言ってたわ…!もしかしたらこの大神殿の何処かに部屋があるんじゃない?!」
「可能性はあるな…。だけどよ…こいつをこのままにしちゃおけねぇ…。俺はここに残るぜ…。スノウはお前らに託すからな?!」
確かに、気絶したナナリーを庇いながら奴と戦うのは得策ではない。
頷きかけたその瞬間、大神殿の外から大きな音がした。
皆で顔を見合せ、外へと出てみると飛行竜が空へ飛び立っているところだった。
「もしかして、スノウはあそこに乗せられてるんじゃない?!」
「…可能性はある。だが、あれが囮の可能性も否めないがな…。」
「とにかく行ってみようよ!もしハズレだったらここに戻ってこよう!!ジューダス、操縦頼める?!」
「あぁ。それについては任せておけ。」
『一か八か、ですね…!!』
シャルの言う通りだ。
最早、これは賭けに近い。
スノウがあれに乗ってなかったら無駄骨になってしまい、探せなかった時間分、余計にあいつを見つけるのが困難になってしまう。
捕まって、何をされるのか分からない以上、急いだ方がいいのは目に見えている。
だが同時に、拭いきれない不安感や焦燥感が降り掛かってくるのだ。
まるでそっちじゃないと言われているような、そんな感覚すら覚える。
『…坊ちゃん…。』
「…分かった。全員乗り込むんだ。…あの飛行竜を追いかける。」
拭いきれない焦燥感のまま僕達は飛行竜を追いかけ、乗り込むことに成功した。
しかし待ち受けていたのはあの女やスノウではなく、ガープというエルレインの手下だった。
飛行竜の動力を断ち切り、イクシフォスラーへと戻った僕達の前に今度は謎の光が襲いかかろうとし、リアラが咄嗟に聖女の力で僕達を安全な場所へと運んだのだった…。