第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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フィリア達と別れ、街の外へと向かう私達だったが、そこに現れた人物に私は目を丸くし、近付いた。
「大変なことになってるじゃねーか。」
「店主。」
カイル達はその人物を見て、誰?とスノウを見た。ジューダスも訝しげな顔で店主を見遣り、腕を組んだ。
それに一度クスリと笑い、彼を紹介する。
「昔から世話になってる武器屋の店主だ。」
「ふん。まぁ、そんな物もやっている。」
そう言うと店主は私に武器を渡してくれた。
そう、それは見覚えのある武器…。
「!」
「これ…。もう出来たんだ…」
「言っただろうが。明日また来い、と。俺は出来ねぇ仕事は端からしねぇ主義だ。」
ぶっきらぼうにそう言って、武器を押し付けてきた店主にお礼を伝えようとしたが、その店主はすぐに背中を向けると手を挙げ自分の店へと向かっていった。
「どうせまた危ねぇ事に首突っ込んでんだろ?使い慣れた武器じゃねぇと死ぬぞ。」
歩きながらそう話す店主に目を丸くした私だったが、その有り難い忠告に笑顔でお礼を言った。
「ありがとう」
「……」
聞こえたのか聞こえなかったのか、店主の足は止まらなかった。
だけど、少しだけ店主の笑い声がした気がした。
「その武器って、確か初めの方で持ってたやつだよね!?壊れたと思ってたけど…」
カイルが興味津々とばかりに武器にキラキラとした目を向ける。
それに頷き、見えやすいように少しだけ傾けてあげると余計にキラキラとした目でその武器を見ていた。
純粋な彼の事だ。
きっとこの武器に純粋に興味を持ってくれたのだろう。
しかしジューダスがそれを見て甥を叱咤する。
「時間が無いから早くしろ!」
「う、うん!」
慌ててジューダスの後を追ったカイルを見ながら、もう一度私は武器に目をやった。
以前よりも鋭くなった剣先、前と同じ銃機構…、どれをとっても良い仕事が為されている。
それどころか持ち手が以前よりも持ちやすく改造されており、いやに手馴染みが良い。
流石はあの店主…。
仕事はキッチリするとは言っていたが、まさかこれほど良い仕事をしてくれるとは…。
「……今度お礼しに行かなくちゃ行けなくなったね…」
「おい、そこ!遅れるな!」
「ふふ、分かってるよ。」
怪訝な顔で見遣っているジューダスの元へ駆け出し、横に並ぶ。
そして私達は急いでイクシフォスラーの所へと向かった。
しかし途中で話が途切れるタイプでもないカイルが素直に気になることを口にする。
「ねえ!イクシフォスラーって何?!」
カイルが興味津々といった具合で、ジューダスへと話し掛けていた。
それにジューダスが嫌がることなく直ぐに答える。
「かのハロルド・ベルセリオス博士が作った飛行機械だ。現在はウッドロウ王の監視の元、地上軍拠点跡地に格納されている。その性能は飛行竜と同等か、それ以上だ。」
「んなやべーもんの所に今から行くのかよ…!!」
「乗り心地は悪くないと思うよ?……運転手次第だけどね?」
「待て待て待て…!!誰がそんなやべーもんの運転なんかすんだよ?!」
「それなら私がやろう。こう見えても以前操作した事があるんだ。それにイクシフォスラーには自動運転システムもあるから安心してくれていい。」
「僕も操作くらい出来る。安心しろ。」
「全然、安心出来ねえんだが…。」
ゲッソリした顔で歩くロニをナナリーがいつもの様に声を張り上げ、一喝し、彼の背中を叩く。
「ゴタゴタ言ってないで、早いとこ行くよ!」
「このオトコ女にはそんな繊細さが分かんねえんだ…。未知な物に乗る怖さってやつが…。」
「なんか言った?」
「いいえ!!滅相もございません!!」
すぐにピンと姿勢を正し、歩き始めたロニにナナリーがフンと鼻を鳴らし口をへの字にした。
それを見ていた私はクスリと笑い、ジューダスはお前らは相変わらずだなと鼻で笑っていた。
「……おい、お前ら。もう着いたぞ。」
「「「え?!」」」
ジューダスが勅命状を兵士に渡す様にカイルへと伝え、緊張した面持ちでカイルが兵士へとその勅命状を渡すと驚いた顔をされ、紙面とカイルの顔を見比べられる。
「こ、これは…!!?」
「え?」
「どうぞ!お通り下さい!!」
そして兵士は私を見ると姿勢良く敬礼をしたので、昔の様に笑いながら手を挙げてそれに応えた。
「……その紙面…何が書いてあるんだろうね?」
「さぁな。まぁ、勅命状だからそういった類いだとは思うが…、兵士のあの反応を見る限り、お前のことも書かれているのかもな。」
「……困ったものだね?」
「ふん。人気者は辛いな?」
涙ぐんでいる兵士の横を苦笑いで通り過ぎながら、私はジューダスの手を取った。
両者冷たい手をしているが、どちらかと言えば私の手の方が冷たくなっていた。
それにジューダスが途端に顔を顰め、しっかりと手を握り直した事に嬉しさが滲む。
「相変わらず、お前の手も冷たいな。」
「雪国だからね。寒さのせいで仕方ないといえば仕方ないけど…。でも、君の手も中々に冷たいと思うけど?」
「僕の手は直ぐにでも温かくなるからどうとでもなる。…だが、お前は違うだろう?自分の意思とは関係なく否応なく冷えていくって言ってたのは何処のどいつだ。」
少しだけ眉間に皺を寄せたジューダスがこっちを見て、僅かに目を細め、握っている手に力を込めたのが分かった。
君のその不器用な行動で、手も温かくなってきたけど、それ以上に私の心まで温かくなる。
本当…いつも感謝しても、し足りないな。
「ふふ。私が冷たくなったら君が温めてくれるんだろう?甘えちゃダメなら直ぐにでも離すけど?」
そんな意地悪な事を言ってみれば「離す気なんかない癖に」なんて言われてしまい、肩を竦めざるを得なくなってしまう。
君には全てお見通しのようだ。
「…ふふ、ありがとう。」
「…ふん」
鼻で笑われても、彼の顔を見れば嬉しそうに口元が弧を描いている。
それにこちらも笑顔で応えれば、ようやくイクシフォスラーがある格納庫へと辿り着いた。
ジューダスが格納庫を開ける操作盤を操作している間、私はカイル達と話をする。
「中にあるイクシフォスラーでアイグレッテへ行く…。皆、覚悟は出来たかい?」
「ほ、本当に大丈夫なんだよな…?途中で堕ちたりしないよな…?」
「ここまで来といて今更ビビるんじゃないよ。男を見せな!」
「私、初めて乗るから緊張しちゃうけど……、スノウが運転してくれるなら安心だわ。」
「オレもオレも!初めてだから楽しみで仕方ないんだけど!!」
「能天気だなぁ…お前らは。…だけど、行くなら覚悟決めねえとな…。」
何回か深呼吸するロニの横で格納庫のハッチが音を立てて開く。
この格納庫にとって、久しぶりに開くからか、それとも経年劣化の為か、ギシギシやらミシミシと、とにかく金属特有の嫌な音を立てて開かれていった。
それに全員が耳を塞ぎ、顔を顰めた。
……流石にハロルド博士はこの格納庫の事までは手を回してはくれなかった様だ。
原作ではこんな事無かったが故に、私は苦笑いでそれを耐えていた。
これから原作には無い所へと行き、そして原作には無いイベントをこなしに行くのに、不思議と緊張は無かった。
これも、皆が居てくれるお陰なのかもしれない。
そう思える事が、とても“素敵”なんだ。
「よし、乗り込むぞ。」
「ロニ、そろそろ覚悟決めてよね?」
「わ、分かってるって!!カイルにそう言われちゃあ覚悟を決めるしかねえ…!!………よし!行くぜ!!」
我先にと飛び出し、イクシフォスラーの入り口から中へと入っていったロニを見てカイルとリアラが笑いながらそれに追随する。
ナナリーも呆れながらそれに乗り込んでいき、残ったのは私とジューダスだけ。
先に乗り込んだ彼は段差がある為か、紳士らしくこちらに手を伸ばしてくれて、それに私も手を伸ばせばしっかりと握られ簡単に引き上げられる。
…やっぱり彼は見た目はレディでも、男の人だなと思わされる瞬間である。
内心で思ってた事に苦笑いをして、彼へとお礼を言うとなんだとばかりに彼の眉間の皺が寄るので、これまた苦笑いで何でもないよと答えてあげた。
「レディ。私が運転するから今のうちに休んでおくといい。これから何が起こるか分からないからね。」
「ふん…。その言葉、そのままそっくりお前に返してやる。お前こそ今のうちに休んでいろ。…途中で倒れられても困るぞ。」
『そうですよ!坊ちゃんの言う通りです!何があるか分からないからこそ、スノウは休んでて下さい!あれなら僕もイクシフォスラーの操作くらいなら教えられると思いますし、こちらは大丈夫ですから休んでて下さい!』
「…ふむ。」
お言葉に甘えさせてもらおうか。
折角の行為を無碍にするのも彼に悪い気がして、結局私は彼の言葉に頷く事にした。
操作をする彼を見ながらカイル達が座っている座席へと身を滑らせると、ロニの顔が真っ青だということが分かる。
「…ふふ。」
「スノウ…、笑うんじゃねえ…。」
「もしかしてだけど、高い所が苦手なのかな?以前、ハーメンツヴァレーでも下を見て足踏み状態だっただろう?」
「え、そうなの?ロニ。」
「へえ?意外だねぇ?」
「大丈夫かしら…。これから高い所を飛行するのよね?」
「結構な高さを飛行すると思うから怖いなら目を閉じていた方がいい。…そうだな……、ナナリー、ちょっといいかい?」
「ん?なんだい?スノウ」
ナナリーが席を移動してくれたので、ロニの隣にナナリーを座らせ、手を握らせる。
するとお互い驚いた顔をしたと思ったら私を見て、そしてお互いの握られた手を見て顔を赤らめさせる。
「(…ふふ、それが可愛いって言うんだよ。2人とも。)」
「な、何でこいつと手を繋がないといけねえんだよ…。」
「そ、それはこっちのセリフだよ…!」
「緊張を以て、恐怖心というのはようやく薄らぐからね。申し訳ないけど、これで暫くロニの手を握っててくれないか?ナナリー。」
「わ、分かったよ…。そういう事なら…」
「……」
緊張感がこちらにも伝わってくる程、2人は身体を強ばらせていた。
何だか可哀想な気もするけど、これでロニの恐怖心はかなり良くなると思うから止めさせてあげられないのだ。
ベルトを全員が着用したのを確認し、運転席にいるジューダスへと頷く事で合図を送る。
彼もそれを見て操作盤を操作し、レバーに手をかけた。
「言っておくが、揺れるからな。」
「え?」
ロニが呆然と声を上げた瞬間、勢いよく発進するイクシフォスラーに私はつい声に出して笑ってしまう。
ナナリーと手を握っているとはいえ、ロニの顔はもう魂が抜けた状態でいる。
最年長がこうではカイル達はどうかと振り返って見てみたが、2人はロニとは正反対にイクシフォスラーの圧巻的なスピードを楽しんでいるではないか。
でもその二人の間にはロニ達を真似したのか、ちゃんと手が握られていてとても微笑ましい。
クスリと笑うとナナリーは呆れた様に呟いた。
「こいつはダメだね。」
「ふふ。そう思ってたとしても、ちゃんと握ってるじゃないか。ナナリーは優しいね?」
「こ、これは…!あんたがちゃんと握っててって言うから…!!」
「はは、そういう事にしておくよ。」
イクシフォスラーの視界が早く、直ぐに建物や景色が過ぎ去っていく。
運転に集中しているのか静かに片手はレバーを持ち、もう片方の手でパネルを操作しているジューダス。
「(…器用な事だ。私ならもう自動運転にしてしまうけどね?)」
恐らく彼は、自動運転では最速が出ないのを知っていて手動にしているのだろう。
急いでアイグレッテへと行かなければ、エルレインが何をしているか分からないから。
だから彼は忙しなく両手を動かしているのだ。
何か手伝えないかと彼の隣へと歩み寄れば、最初は訝しげな顔をされたがすぐにその視線はパネルへと戻っていく。
……ふむ、イクシフォスラーの最高速度を出すために高さや機体の調整をパネルでしているのか。
「ジューダス。それなら私がこっちで操作しよう。」
「…休んでいろとあれほど言ったはずだが?」
「手分けした方が楽かと思ってね?」
「全く…。息が合わなかったらすぐに言うからな。」
「私と君、息が合わなかった時なんてあったかな?」
「……」
若干彼が眉間に皺を寄せたのは、運転に集中していて返事が返せなかったからだろう。
彼の手元を見つつ、彼と同じタイミングで隣にある同じ効果のパネルを操作する。
それを見て彼がすぐにパネルから手を離し、両手にレバーを持った。
その瞬間、機体が安定し飛行速度が安定していくのが分かる。
忙しなくパネルを動かしながら私は笑みを浮かべた。
ほらね?大丈夫だっただろう?
そう体現していると彼の口元がほくそ笑んだのが分かる。
やはり彼は分かってて言っていたに違いない。
今まで任務やら戦闘という経験を一緒に積んできた私達の息が合わないことなんて、無いに等しいのだから。
『さっすがお2人です!!息がピッタリでしたね!!』
「ふん。これくらい出来て貰わなければ困る。」
「お褒めに与かり光栄ですよ。レディ?」
「……。」
途端に眉間に皺を寄せた彼にクスリと笑えば、面白くないと唇を尖らせていた。
彼の背後ではシャルティエが溜息を吐き、『スノウってば…』なんて言葉を吐いている。
「………?」
頭を手で押さえ、何かに気付いたスノウのパネルを操作する手が急に止まり、ジューダスはその瞬間、目を見張った。
その瞬間、言わずもがな機体が大きく揺れて全員が悲鳴を上げる。
そして隣からは彼の怒号が飛んできた。
「急に手を止めるなっ!馬鹿者!!」
「…」
『……スノウ?どうしたんですか?具合が悪くなりましたか?』
「それならそうと早く言え──」
彼が言い終わる前に、私は銃杖を構え詠唱を唱える。
……後ろから来ている。
それも特大の…〈ホロウ〉が…!!
「連なれ氷柱…、フリーズランサー!!」
「「「『「っ!?」』」」」
全員が息を呑む中、私は〈サーチ〉を使い敵の位置を把握しながら必死に後ろから来ている〈ホロウ〉に対抗していた。
まさか、こんな時にラプラス級の〈ホロウ〉に会うなんて…!!
「…出でよ清廉の剣、フリジットコフィン!!」
「え?え? スノウ、どうしたの?!」
「一体、何と戦っているんだい?!」
「シャル!一体何が起きている?!」
『……!!坊ちゃん!後ろから魔物が坊ちゃん達を追ってきています!!それもかなり特大サイズの魔物が!!スノウはそれを必死に食い止めてくれているんです!!』
「っ、そういう事か…!!」
再びパネルを操作しながらレバーを持ち、機体の安定を図るジューダス。
その一方、不安げな表情をしていたカイル達だったが、後方を見て魔物だと分かった瞬間ベルトを外していた。
そしてスノウの援護に回るように気絶しているロニと運転しているジューダス以外の全員が武器を手にし、詠唱を開始する。
「行くよ!バーンストライク!」
「行きますっ!バーンストライク!!」
「これでも食らえ!スラストファング!!」
しかし、そんなカイル達の晶術は見事に全部すり抜けてしまっており、それに全員が再び息を呑んだ。
その時、3人はあの敵が、スノウでしか攻撃出来ない相手……〈ホロウ〉だったことに気付いたのだ。
急いでナナリーが運転に集中しているジューダスへと声を掛ける。
「ジューダスっ!後ろのあいつは〈ホロウ〉だ!!」
「何だとっ…!?」
『じゃあ、このままあの魔物に追い付かれたら…スノウは…!!』
「チッ!そうはさせるか…!!」
スノウが必死に隣で呪文を唱える中、ジューダスは〈ホロウ〉に追いつかれないようにと運転に集中する。
もうすぐ…!
もうすぐでアイグレッテへ着くが、着いたところで奴に追いつかれてしまったら意味が無い!
「スノウっ!あいつに対する勝算はどれくらいだ?!」
「…炎弾、バーンストライク!! …っ、相手はラプラス級の〈ロストウイルス〉だ…!移動していることも加味して勝算は正直に言うとかなり低いっ!」
「「「っ!!」」」
再び詠唱に入り次々と魔法を繰り出すスノウに仲間達が顔を見合わせる。
このままだと、スノウの魔力切れが先か…あの〈ホロウ〉に追い付かれるのが先か…、になってしまう。
「くそっ!!何か…、何か方法は無いのか…?!」
『魔物がスノウを諦めてくれたら一番なんですけど…。』
「こんなにも奴が後ろから追ってきてるのに、素直に諦めると思うか?!」
「魔物が…」
「諦める…?」
「それなら魔物の気を逸らせるか……、それともスノウがあの魔物に触れなければいいのよね…?」
「リアラ、何か方法があるのか?!」
口元に手を当て、考え込むリアラ。
しかし、その不安げな顔をスノウへと向けた。
もし失敗すれば仲間の命は無い。
それがとても怖いのだ…。
「…。」
リアラの視線を受けたスノウは、不敵な笑みを浮かべる。
そしてスノウはそのままリアラを力強く見据え、言葉を紡ぐ。
「どうせ、このままでは私は〈ロストウイルス〉によって生き長らえる事は出来ない。なら私は、リアラのその作戦に全てを賭けるよ。例えどんな難しい事でも大丈夫。だって以前、皆が居れば大丈夫なんだ、って言っていた私にリアラも頷いてくれたからね。」
「!!」
スノウのひとつひとつの言葉が暖かみを帯びてリアラの心に染み渡る。
胸に手を当てたリアラが一度目を閉じ、大きく深呼吸した。
そして──
「とってもリスキーな事になると思う…。それでも…私を信じてくれる?」
「勿論だよ。こんな可愛い女の子の言う事を聞かなかったら、明日の私が悔やんで仕方がないだろうしね?」
「…お前、こういう時くらい自重しろ…。」
「はははっ!でも、スノウらしいや!」
ジューダスは呆れていたが、カイルも笑顔でそれを頷く。
皆がみんな、リスクを背負っている。
ならば、皆が力を合わせればこの難解な問題を解決出来るはずだ。
カイルは無意識にそう思ったからこそ、力強く頷いたのだ。
「リアラ!教えて!どうやるの?!」
「カイル…皆…、ありがとう。──そうね。まずは…スノウが以前見せてくれた、相手が気絶する技があったわよね?」
「気絶弾の事だね。」
「…だが、あの距離と今の不安定な機体で成功するとは思えん。それにその術を撃つためにこいつ自身を外へと曝け出す必要がある…。」
「まぁ、幾ら威力が上げられる銃杖とはいえ、距離が遠ければ遠いほど気絶弾の威力は落ちてしまうからね…。あれくらいの大きさならかなり銃杖に魔力を装填しないといけないだろうし、それに発動までに時間がかかりすぎる…。距離のことも考えて近距離で撃ちたい所だけど…触れれば私は……。」
「うん。だから私の力でスノウを地上へと一瞬で運ぶから、スノウにはなるべくその技が成功出来るようにして欲しいの。」
「「!!」」
なるほど。それなら理にかなっている。
近くで且つ脳へ直接撃てば、そしてあの大きさの敵でもかなり時間を掛けて魔力を装填出来れば、気絶させられる魔法弾を撃ち込むことが出来る。
ただその問題の時間だが…。
「スノウ。装填するのに時間はどれくらい掛かる?」
「かなり集中力がいるから…あの大きさだと正直なところ、簡単に見積もって15分くらいは欲しいね…。」
「じゃあジューダスが頑張って15分間はこれで逃げ続ければいいんじゃない?」
「……僕にとってもかなりリスキーということか…。」
「そういう事だね。運転の技術も、敵に近付いたり逃げ回ったりとかなり高度なものになりそうだ。…ふふ、信じてるよ?ジューダス。」
「ふん。それくらいなら造作もない。お前こそ、間違っても落ちて奴に触れるなよ?」
15分間逃げ続けるということ、そして充填を終えたスノウに合わせて敵に近付くというハイリスクな運転技術。
もし一個でも間違えればスノウはおろか、中にいるカイル達も危険に晒される。
それを承知で2人は頷いたのだ。
『……私達も手伝う…』
『主人よ、ここは俺たちも手伝おう。主人の危機に何もしない訳には行くまい。』
『任せてよ!風であいつを煽ってやるよ!!』
『ぼ、ぼくも…!微力ながらお手伝いします…!!!』
『私も手伝うわ。任せなさい?』
「皆…!ありがとう…!」
指輪達が光り輝き、そう言ってくれる。
それをジューダス達に伝えると、皆の目にも決意が漲る。
「オレ、スノウが落ちないように支えてるね!」
「じゃあ、アタシもそうさせてもらおうかな?1人より2人だろ?」
「ありがとう、2人とも。あと一つ…、ナナリーにはお願いがあるんだ。」
「ん?なんだい?アタシに出来ることなら何でもするよ!」
「弓使いのナナリーには銃杖の先の照準合わせを手伝って欲しい。勿論、ジューダスほどの運転技術があればかなり敵に近付けるから大丈夫だと思うけど、一緒に銃杖を支えて欲しいんだ。……魔力の装填に全集中力を使いたくって、ね?」
ジューダスへと挑発とも言えるアイコンタクトをし、ニヤリと笑うスノウ。
それに操作盤を操作しながらハッと嘲笑うように返事をしたジューダス。
だがその口元は笑顔であったのを、スノウは見ずとも分かっていたのだ。
「私はスノウが気絶弾を敵に打った瞬間に、力を使ってすぐ地上へ送り届けるわね?」
「ありがとう、リアラ。こんな危ない橋を一緒に渡ってくれて感謝してるよ。」
「ううん。むしろ、こんな作戦しか思い付けなくてごめんなさい。1番危ないのはスノウなのに…」
「大丈夫さ。私を信じて、…そして自分やカイル達をどうか信じてあげて?」
「…うん!」
そうと決まれば早い段階で準備するに越したことはない。
銃杖を持ち、イクシフォスラーの出入口へと向かうスノウの後をカイルとナナリーが付いていく。
出入口付近で片膝を着き、外へと銃杖を向けスノウは目を閉じた。
隣で落ちないようにと支えてくれるカイルと、銃杖を支えてくれているナナリーを感じる。
出入口の扉をジューダスが開けたのか、途端に煽られるほどの風が入り込んでくる。
だが集中力を乱す訳にはいかない。
「……行くよ。」
まずは敵を翻弄して来てくれるという風の精霊グリムシルフィを召喚し敵に向かって行ったのを確認した後、目を閉じ全集中力を銃杖へと注ぐ。
グリムシルフィのおかげで、多少はジューダスも逃げやすくなると思う。
「うわぁ…!キレイだ!」
カイルが驚いたのはスノウとナナリーが持っている銃杖の先が光り輝き出したからだ。
それでもまだ微々たるものだが、それにカイルは反応したのだ。
どんどん光が強くなっていき、銃杖に魔力が充填されていく。
時折魔物に追いつかれそうになりながらもジューダスは必死にイクシフォスラーを動かし、不安定な機体から落ちないようにカイルがスノウを支え、ナナリーは照準を魔物へと合わせる。
その後ろではペンダント前で両手を組み、祈るようにそれを見つめるリアラが居た。
……後は、全てスノウ待ちである。
「……充填まで、残り10分……」
「幾らでも時間は稼いでやるから、ちゃんと装填しろよ?」
「ふふ、了解だ。」
目は閉じながらもそう返事するスノウ。
…大丈夫。
皆が居てくれる。
充填を手伝ってくれている精霊達も私の中に居る。
頼りになる友も頑張ってくれている。
だから、大丈夫だ。
〝──If it can be imagined, it can be created.〟
「……充填完了…」
「「「ジューダスっ!!」」」
「振り落とされるなよ!!」
イクシフォスラーが旋回し、機体が否応なく揺れる。
カイル達が支えてくれているから落ちずに済んでいるスノウは目を開き、ナナリーと共に目の前にいる〈ホロウ〉の頭へと照準を合わせる。
「気絶しなよ!!!」
そのあまりにも強い力のせいで発射した途端、術の余波と撃った反動で3人が後ろへと飛んでいきそうになる。
カイルとナナリーが慌てて支え直し、吹き飛びそうになるのを何とか堪えた。
最後まで装填した弾を出し切った瞬間、リアラが力を使いスノウを地上へと送り届け、同時にジューダスが〈ホロウ〉から上手く離れたおかけで衝突は避けられた。
後は〈ホロウ〉の様子を見るだけだが……?
「魔物は?!」
「ジューダス、どうなってんだい?!」
「今、調べ中だ。」
パネル操作しながら、機体を安定させるとジューダスがホッと息を吐いたのが分かった。
それで何となく察したリアラとナナリーがお互いに抱き着く。
しかしそこは空気の読めないカイル。
2人のその様子を見ても「どうなったの?!」と叫んでいる。
3人はジューダスの近くに寄り、〈ホロウ〉の状態を見ようと外を伺う。
それにジューダスはイクシフォスラーを操り、見やすいように方向転換させた。
「あれ?魔物は?」
「……ありゃあ、なんだい…?」
「…何か…白と黒の気持ち悪いものが魔物から出て来てるわ…。」
「スノウには常にあれが見えているらしい。〈ホロウ〉……というより、あれ自体が〈ロストウイルス〉なんだそうだ。僕達は倒した時にしかお目にかかれない代物、ということだな…。」
魔物から白と黒のテクスチャのような物が消失と出現を繰り返しており、魔物の周辺を漂っている。
遂には魔物は大きな咆哮をあげ、その白と黒のテクスチャに混じり合いながら…、または呑み込まれるように消えていった。
……それはそれはとても苦しそうに…。
「……あれが、スノウの敵なのね…。」
「触れれば死ぬ、か…。冗談じゃない気持ち悪さだね…。それに、あの魔物自体もかなり苦しそうだったし…。」
「……。」
スノウの敵を再認識した3人は暫く〈ホロウ〉が居た場所を見つめていた。
そこへ相棒の声が響き渡る。
『坊ちゃん達…、お疲れ様と言いたいですが……何か忘れてませんか?』
「フッ、忘れてなどいないさ。」
レバーを操作し、地上へ向かったジューダス。
そこには大きく手を振り、笑顔で皆に手を振っているスノウが居た。
それにカイル達が嬉しそうに声を上げ、同じく手を振り始めた。
地上へ到着した途端、カイル達は居ても立ってもいられないとばかりに開きっぱなしの出入口から飛び出て無事を確かめるようにスノウに抱き着いた。
着陸して安全を確保したジューダスも出入口から出て友の無事を確認し、安堵の息を吐き出した。
『かっこよかったですよ…!坊ちゃん達!!』
「ふん。はしゃぎ過ぎだ、馬鹿。」
それでも言葉とは裏腹に笑顔で皆を見遣るジューダス。
…ただ、今はゆっくりしていられないのは分かっている。
だが、今回の事は全員の中でもとてつもなく疲労が大きかっただろうし、暫しの休息も大事だろうとジューダスはゆっくりと歩き出す。
その足は、無事を確かめ合ってる仲間達の元へと向けられていた。
「本当に良かった…」
『ええ…!!本当に良かったです!!』
既に涙声のシャルティエに、ジューダスは可笑しくて鼻で笑ったのだった。