第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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カイル達から物騒な話を聞いた私達は海洋都市アマルフィから船に乗り、ファンダリア地方の玄関口であるスノーフリアを目指していた。
その物騒な話の詳細を聞いてみると、ファンダリア周辺の武器の出入りがここ最近で活発的になっているらしく、それでもしかしたら戦争を仕掛けるかもしれないとの事だった。
ウッドロウ王は何を考えているのか……?
それとも彼の知らない所でそういう事が起こっているというならば、彼も本望ではないだろう。
逸る気持ちを抑え、船上で海を眺め心を落ち着かせようとする。
「……させない…。戦争なんて……この時代には…必要無いものだ…。」
気持ちいい海風が髪や頬を撫でる。
大きく揺れた髪は後方へ流れていき、最初の頃より長くなった髪が際立つ。
髪を押さえる事もせず、真っ直ぐに海を見る私の顔は、今どんな顔をしているんだろう。
『スノウの髪、長くなりましたね!キレイですよ!』
「!」
右からシャルティエの声がしたという事は彼も一緒に来たのだろう。
彼は船酔いが酷い筈なのだが、体を動かしても大丈夫なのだろうか?
クスリと笑い、右へ向けて身体を動かすと案の定彼は真っ青な顔でこちらに近づいてくる。
腰にあるポシェットの中を探り、近付いた彼の手の中に常備していた薬を一つ落とす。
「先にそれを飲んでくると良い。……真っ青だよ?レディ?」
「レディっじゃ、ないとっ…何度い、えば…!うっ……!」
膝を着いて口を押さえる彼に近寄り、背中を擦る。
毎度毎度思うが、可哀想に……。
こんなに酔いが酷いと旅なんて楽しめないだろうに。
「__ディスペルキュア」
状態異常回復技を使ってみると案外酔いに効果があるようで、彼の顔色が一気に赤みさす。
しかし乗り物酔い特有の平衡感覚が失われるそれは継続しているようで、フラフラと覚束無く立ち上がる。
彼の手を肩に回し、手助けしてやると少しだけ私の方へと視線を向け、すぐにそっぽを向かれてしまった。
「ふふ、可愛いね。」
「……」
可愛いという言葉に反応した彼は、私の手助けを拒み、強引に身体を離した。
しかし途端に体をフラフラさせてしまうのだから、見ているこっちがハラハラする。
彼をベッドに横にしてあげないと本当、可哀想だ。
かと言って、彼が素直に横になるとは思えないし…。
こうなったら多少強引だが、移動してもらうことにしよう。
「うーん、やってみた事は無いんだけど…」
『?? 何の事ですか?』
シャルティエの言葉に返答せずに、その場で私は指をパチンと鳴らす。
その音が響くと同時に、目の前に居た彼とその相棒が消えたので、〈サーチ〉を使ってみる。
「……うん、成功だね。」
『器用な事をするわね。』
シアンディームがほぅ、と感嘆している。
自分自身には何度も瞬間移動を使ったことがあるが、他の人となるとどうやって使っていいか迷っていた。
だから具合の悪い彼をベッドへと運ぶついでに試した、という訳だ。
再び私は海の方へと身体を向け、気持ちいい海風を一身に受ける。
やはり長くなった髪は後方へ流れ、靡いていく。
「……気持ちいいな…」
『潮風は髪や肌にダメージ与えるわよ?それでもいいのかしら?』
「そう言われたら引っ込みたくなるけど、今は何も考えたくないからこのままで。」
『そう。』
左手の小指が青く光る。
シアンディームが話しているから光っているのだが、その光も少ししたら止んでしまった。
彼女なりに気を使ってくれたのだろう。
目を閉じ、船の欄干に手を置いた私は暫し海風を堪能した。
……それさえ考えていれば、他のことを考えなくても済むから。
バタバタバタバタ!!
そんな感傷に浸る時間も与えてくれないようで、激しい足音と共にこれまた激しく船の扉を開ける音がした。
目を閉じているにも関わらず、何となくそれが彼だと言うことが分かり、苦笑いを零した。
ベッドへの落とし方……荒すぎたかな?
「お前っ…!やるなら一言言ってからやれと何度言えば分かる?!!」
「おー、怒ってるね?そんなに激しいダイブだったのかな?」
『いや、全然…ダイブって程じゃないですけど、急に場所が変わったから驚きましたよ!いつそんな技を習得してたんですか?!』
「さっき初めてやったんだ。自分自身には何度もやったけど、他の人には君が初めてだよ。上手くいったようで何よりだ。」
「何が、何よりだ!!急に目の前の光景が変わったら誰でも驚くだろう?!」
「ふふ、許してくれ。これでも君を気遣って休ませようとしたんだから。」
そんな押し問答が暫く続くと、やっと彼も興奮冷めやらぬ状態から落ち着いたのか、はぁー、と大きく溜息を吐かれてしまった。
その顔色は先程よりも明らかに良くなっていて、私が渡した薬も飲んだのだろう、と検討つけ私は目を閉じ海風を感じるために再び欄干に手を置いた。
目を閉じているので確認は出来ないが、隣に彼が移動したのが分かる。
「……体を冷やすぞ。」
「その時は君が温めてくれるんだろう?」
「ああ言えばこう言う…。」
その後は暫く沈黙が続く。
彼も何を話そうかと珍しく迷っているようだ。
「海は好きなんだ。」
「……あぁ。」
「目の前に広がるのは深い青色……海色だけど…、遠くの水平線は太陽の光でキラキラと輝いて…まるで淡い色が重なり合う水彩画のようだ。」
「……随分と詩的なことを言い出すんだな。どんな心境の変化だ?」
「ふふ、茶化さないでくれ。これでも真面目な話なんだ。」
目を開けて隣に居る彼を見つめれば、彼は何だとばかりに眉間に皺を寄せる。
「私のいた世界では…、戦争は普通にあったんだ。まぁ、私のいた国ではないけれども。遠い国ではいつも戦争紛いな事をしていた。……私の国ではね?戦争は反対だというくらい平和な国なんだ。」
「……玄や修羅も言っていた。戦いなどない場所だったと。」
「そう…。だから戦争にはあまりいい思いはしない。勿論、戦争をしなければならない訳も分かっている。どちらも譲れないものがあるから。……だとしても、私は…」
「……ハイデルベルグで起こっている事か。」
「そうだね。」
私は一度言葉を切った。
そこにはこの世界のことも、この世界にいる人達の事も、とてつもなく大事だという気持ちを込めた。
だからこそ、私は__
「止めたいんだ。皆のことが…この世界が大好きだから。……だからこそ…、壊したくないんだ。」
何かを考えるようにジューダスは口を噤んだ。
シャルティエもいつもならすぐに口を挟もうとするのにそれをしないところを見ると、空気を読んでなのか、それとも自身の中で言葉を選んでいるのか。
カイルは私の言葉を瞬時に理解し、ハイデルベルグまで行こうと言ってくれた。
私が出来ることはただ国王から真実を聞き、戦争を止めるだけだ。
やる事が分かっているなら、それに集中すればいい。
その時の為に、今は体を休めておこうか。
「話していたら少し寒くなってきた。私は中に戻るよ。君は__」
君はどうする?
と聞き返そうしたのだが、彼は問答無用に私の手を握り、そして躊躇なく船の中へと入っていく。
どこへ連れていかれるのか分からないまま彼に引かれ、歩いていると船の食堂へと辿り着いた。
この船の食堂は誰でも使用可能で、カイルやロニが度々使っているのをこの旅で何度も見ていた。
そんな食堂に彼が何の用が…?
「座っていろ。」
言われるがまま食堂のテーブルに座らせられ、肝心の彼は何処かへ行ってしまう。
首を傾げつつ、彼の言う通りに待っていると数分後彼が戻ってくる。
その手にはコップが2つあり、暖かそうな湯気が立っていた。
この気温で湯気が立つということは雪国であるファンダリアに近付いてきたのだろう。
私が無意識に心を引き締めていたのか、テーブルにコップを置いた彼は急に私の額へとデコピンをかましてくる。
すぐに額を押さえた私だが、いつぞやの時よりも痛くはない。
「まだ気を張るな。」
『そうですよ!まだ船の中ですよ?船の中くらいゆっくりしましょうよ!』
「2人とも…。 そうだね、ありがとう。」
「これでも飲んで少しはその冷たい手をどうにかしろ。急に戦闘になっても僕は知らないからな。」
「ふふ…!リオン。それ、なんて言うか知ってるかい?それって、“フラグ”って言うんだよ?」
「訳の分からない事を言う前に飲め。阿呆。」
突然の前世呼びだったのに、驚きもせず持ってきた飲み物を一口飲む彼。
私もそれに倣い、彼が持ってきてくれた飲み物を口にした。
温かい飲み物に冷たくなっていた手先が徐々に温まっていく。
ホッとする時間が訪れた事でようやく身体の緊張が解れていき、心安らかな嘆息をすれば彼の口元も少しだけ緩んでいた。
「……スノウ。」
「ん?」
「お前は1人じゃない。僕も…あいつらもいる。だから、一人で思い悩むな。…今、ファンダリアがどうなってるかなんて、所詮誰しも想像でしかないし、実際は違う事が起こっているかもしれん。最悪の場面だけを想像するのはお前の悪い癖だ。だが、まぁ…危機管理がなっているとも言えるがな。」
そこで一度言葉を止めた彼。
でも、その言葉達も彼の顔も言葉を呑むほど真剣だと分かる。
私は口を引き結び、彼を見た。
「僕は……あまり話す方じゃない。それこそ、何を話していいか分からない事もある。お前なら分かっているだろうがな。」
「そうだね。口下手な君のこと、よく知ってるつもりだよ。」
「そんな僕がここまで言ったんだ。後は…察せ。」
そう言って黙ってしまった彼。
でも、それだけで私は彼の言いたい事が分かった。
つまり、彼は私を心配してくれているのだ。
口下手だけど、人一倍優しさも持ち合わせているリオン。
そんな彼がここまで言ってくれたんだ。
それにこうして温かい飲み物まで持ってきてくれて、行動にも示してくれている。
……それに私が応えない訳にもいかないな。
「ふふ、君は何がお望みなのかな?」
「察しろと言っているだろう?」
ぷいとそっぽを向く彼が可愛くて…、そしてとても好きだ。
そんな彼を見ながら私は暫く笑っていたのだった。
「(ありがとう、友よ。)」
_穏やかな時間が流れた、そんな船内での時間だった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。
スノーフリア到着を報せる警笛が鳴り響き、食堂に居た私達はどちらともなく立ち上がる。
カイル達が船の外で待っていたので、急ぎ足で外へと出れば待ってました、と言わんばかりにカイルが大きく頷いた。
「えっと、ウッドロウさんのいる所ってハイデルベルグでいいんだよね?」
「そうだね。今の所…物々しい雰囲気はないから大丈夫だと思うけど、用心するに越した事は無いね。」
ファンダリア地方唯一の貿易港だ。
武器のやり取りがあれば、物々しい雰囲気を醸し出していてもおかしくはない。
だが辺りを見渡す限りはそんな雰囲気は感じられないくらい穏やかな港町だ。
「お前ら、場所は覚えているな?」
「確か……ここから北だよなぁ?」
「そうだ。それと、一つ確認したいことがある。カイル、お前はウッドロウに会って何をしたい?」
「え?戦争を止めるんじゃないの?」
「どうやって?一国の王がファンダリアの民でもない奴の話を素直に聞くと思うのか?」
「あ、そっか…。オレ達、この国に住んでる訳じゃないから…。」
「それともう一つ…。スノウ、この国の出身であるお前はどうしたい?」
「……。」
リアラとロニが不安そうな顔をしている。
ロニとカイルは以前ジューダスに叱られた件もあるから、それが今になって効いているのだろう。
そのお陰か、カイルは真剣に答えを導き出そうとしている。
ナナリーは成り行きを見守るつもりの様で、黙ったままこちらの様子を伺っている。
私は一度目を伏せたが笑顔で…、決意のある目でジューダスを見た。
もう、私の中で答えは決まっている。
「事実を確認した上で、戦争をするのであれば止める。ただ、それだけさ。」
「何故?僕達には関係の無い事だろう?」
「そうだね。君達には関係がないことなのかもしれない。でも、私は違う。このファンダリアで育って、沢山のものをここで見てきた。故郷が戦争をすると聞いて止めたい、と思うのは自然だと思うけど?違うかい?」
「ふむ。妥当な理由だな。それで、カイル。お前は何故ウッドロウに会う?」
「彼は、私の仲間だ。仲間だから……付いてきてくれるんだろう?皆も、そうじゃないのかな?」
「……うん、そうだよ!スノウの言葉に乗っかるのもアレだけど、オレは仲間が困ってるなら助けたい!それに…オレ、確かにこの国で生まれた訳じゃないし、関係ないかもしれないけど……やっぱり止めたいんだ!争いなんていらない!それが知ってる人達ならなおさらだ!……それじゃ、ダメかな?」
頭を掻きながら途端に不安そうに話す彼はジューダスをじっと見つめた。
真実を見定めるようにジューダスがカイルをじっと見るので、少し助け舟を出す事にした。
「ふふっ、彼の熱意に応えてあげたらどうだい?」
「…ふん。やる事が決まったなら早く行くぞ。」
視線を逸らしジューダスがそう洩らし、ハイデルベルグへと歩き出した。その後をカイル達が慌てて追いかけていく。
彼は確認したかったのだ。カイルが同じ過ちを犯さないかどうかを。
一国の王が知り合いの子供とはいえ、気安く中に入れていたら他の者に示しがつかない。
だからこそ今一度、彼は確認したかったんだろう。
私に聞いてきたのは、私が覚悟を決めたかどうかの確認なのだろう。
全く、彼も意地悪なことだ。
知ってて聞いているのだからタチが悪い。
「スノウ。さっき、ジューダスが聞いて来るって分かってたの?」
「ははっ、何となく、ね?伊達に長年、彼と一緒にいるわけじゃないから。」
リアラが近付いて小声で話しかけて来たので、それを笑い同じく小声で答える。
後ろから見る彼は背筋がピンと伸びていたのに、カイルがさっきの質問の意味を聞いていて、それに面倒そうに逃げるのに必死なようにも見える。
ロニも意地悪だなと茶化しているので、彼は余計に逃げたくて仕方なさそうだ。
それに私は再びくすりと笑うと、リアラが嬉しそうに笑みをこぼす。
「ねぇ、どうしてジューダスはあんな事を聞いてきたの?もうスノーフリアに降り立って、後はファンダリアに向かうだけなのに…」
「彼は…、ああ見えて人一倍優しくて、…とても素敵な人だ。だからこそ、カイルが同じ間違いを犯さないか確認も込めてあの質問をしたんだろうね。後は、カイルが早とちりしないように先だって忠告も込めていたんだと思うよ?」
「早とちり?」
「今ファンダリアが戦争するかなんて、私達の想像の範疇でしかない。もしも、彼の国が戦争をしていないのだとして…カイルが早とちりで事を運ばないか、強行突破しないかという釘刺しでもあった、という事さ。」
「へぇ…!やっぱりスノウってジューダスの事よく見てるわよね?」
「まぁ、彼の行動は分かりやすいところもあるから、リアラもすぐに分かって来ると思うよ?」
「私は、スノウだから分かると思うな?」
「そうかな?」
ふふ、と笑い急に走り出すリアラ。
私もそれに合わせて彼らに追いつくように走り出した。
まだまだ彼らには、この雪国の歩き方は難しいようで簡単に追いつける。
まだまだジューダスに取り巻いている彼らを見てしまったので、ジューダスの堪忍袋の緒が切れる前に彼らを止めることにしよう。
しかし時既に遅く、ジューダスの雷が落ちていたので心の中で彼らに合掌しておいた。
ハイデルベルグまで、
あと少し。