第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
海岸から吹きつける風が暖かく、心地よい。
私は仲間の皆と一緒に日中のアマルフィ海岸へと来ていた。
そして決意みなぎる皆の手には、例の薬が握られていた。
__人が魚になれるという薬。
最初は私も半信半疑だったが、あの湖での出来事を経験したから信じざるを得なくなっていた。
体を沈めるのには問題ないらしく、あの後皆に頭を下げてお願いした私を見てカイルが意気揚々と買ってきたのだ。
「頭を下げる必要なんてない」、「ようやく言ってくれたね。」
そんな言葉を投げかけられてしまえば、流石の私も少し涙腺が緩む。
そして今に至るのだ。
何としてもここで水の精霊と契約しなければ、折角付いて来てくれた皆に申し訳が立たない。
「じゃあ、行こう。」
静かにそう言葉にすれば皆も頷き、海の方へと歩いていく。
…一人だけ、はしゃいで走っていったが。
自身に水中呼吸の魔法を使い、海の中へ入っていく。
魚になった皆を見て、私は下を指さし合図した。
海の奥底……、そこに水の精霊がいるのだから。
気を引き締め、一気に潜っていく。
ちゃんと皆の場所を気にかけながら、深海へと潜っていく。
最初に潜った時と同じ感覚。深海特有の水温…、冷たくなる身体…。
でも、諦めるつもりはないから。
私たちは特に問題もなく深海にある遺跡にたどり着いたのだった。
空気のある遺跡を不思議そうに見る仲間達。
もう魚になるという薬の効果時間は解けたようだった。
「…ここに水の精霊が居たんだが…。」
「でも海の中なのに空気あるって、なんかすごいね!」
「ええ…、とても不思議ね。」
「気をつけろよ、お前ら…。いつ海水がドーンと流れ込んでくるか分からないぞ…!!」
その言葉にジューダスがいち早く反応し、ロニを睨み付ける。
しかしロニはそれに気付かなかった。
スノウは苦笑いでジューダスの肩を叩く。
大丈夫だから、そう意味を込めて。
『待っていましたよ。〈星詠み人〉。』
「「「「!!」」」」
「……あれか。水の精霊というのは。」
ジューダスが武器に手をかけ警戒すると、スノウが前へと進み出た。
「…貴女の課題……、私には難しかったよ。」
『とても悩んでいましたね?…でも、貴女はその課題を見事クリアしました。』
「じゃあ…!スノウと契約するの?!」
『いいえ、まだ。』
以前と同じような不敵な笑みを零した水の精霊は、手に武器を出現させこちらに攻撃の構えを見せた。
『全員でかかってきなさい。私が契約するに相応しいと思える強さでないと契約をしないわ。〈星詠み人〉、貴女は分かっていたのでしょう?』
「なんとなく、だけどね?貴女はただ私が仲間を連れてくる…、それだけじゃ満足しないと思っていたよ。」
『よろしい。ならば、かかって来なさい!!』
その言葉通り、皆は武器を取りだし不敵な笑みを浮かべる水の精霊へと攻撃を仕掛ける。
彼女は好戦的で、女性としてもとても魅力的だが……
「皆は強いよ?」
『望むところ!』
襲いかかってくる凶器にシアンディームは自身の武器を振り、薙ぎ払っていく。
その見事な自信が裏付けされるほどに、彼女は勇ましかった。
「お前ら!地属性を重点的に置きながら戦え!!」
「分かった!」
「お前に言われるまでもねーよ!!」
カイルとロニが地属性の攻撃をしつつ、後衛組も地属性を詠唱する。
ジューダスも武器を持ち挑んで行ったが、それに不満を持つ者がいた。
『坊ちゃん!地属性なら僕を使って下さいよー!!?』
「……」
『坊ちゃん?!!』
悲愴なる叫声がジューダスとスノウの耳に届く。
他の皆はその叫声が聞こえていないから、誰も動きを止めることはない。
『スノウは使ってくれますよね?!前、使ってくれましたもんね?!』
「ふふ、どうしようかな?」
言葉はそう言いつつも銃杖を駆使して、シアンディームへとダメージを蓄積させていく。
またしても叫声が聞こえた気がしたが、あまりシャルティエにかまけている場合ではない。
遂に不貞腐れた声を面倒だと思ったのか、ジューダスが溜息をつき背中に手をやった。
そしてソーディアン・シャルティエを迷いなく抜いたのだ。
その歓喜の声にスノウが笑みを零した。
「牙連蒼破刃!」
「空破特攻弾!」
「シャル、言ったからには役に立て!」
『勿論ですよ!坊ちゃん!』
『「__グランドダッシャー!!」』
高威力の地属性晶術が地面から鋭く表出し、シアンディームを襲う。
しかし流石は精霊とも言うべきか。
苦手な属性でも物ともしない様子で武器を振りかざしてカイル達に攻撃をしている。
「__ヴァイト・ルインフォース!」
仲間全員の攻撃力を一時的に上昇させるヴァイト・ルインフォース。
身体の中から力が湧くのが分かったのか、全員が御礼をそれぞれで言ってくれる。
仲間のサポートは大事だからね…!
「岩斬滅砕陣!!」
カイルの地属性晶術が炸裂すると、シアンディームが顔を歪め、僅かに隙が出来る。
そこへ戦闘慣れしているジューダスが見逃すはずもなく、シャルティエとの晶術をすぐに発動させ連携を成功させる。
『「__プレス!!」』
確か…リオンが使うプレスは、デスティニー時代…。それこそ、あの海底洞窟内でしか使わなかった筈の技だ…!
それが生で見れた事に僅かに感動してしまい、攻撃や支援の手が止まる。
すると、勿論彼から叱責が飛び交う。
「スノウ!手を止めるな!」
「ふふ、これはこれは…、彼には誤魔化しが効かないね?」
『スノウ!弱点は地属性ですからね!!』
「分かってるよ。シャルティエ。」
すぐさま詠唱に入る。
彼に怒られてはサボる訳にはいかないし、皆が頑張ってくれているのに一人サボるつもりもない。
「__彼の者の地より這い出でて、その動きを止めよ!ノーム!」
『が、頑張りますっ…!!!』
召喚するとすぐに地面に潜りシアンディームへと攻撃するノーム。
精霊同士の攻撃なので威力は申し分ない。
明らかに嫌がっているシアンディームは、目標を私に変更して迫って来る。
すぐに私も詠唱を開始し、守りに入る。
「__フリントプロテクト!」
自身に防御力を上げる魔法を使い、シアンディームからの攻撃の威力を落とす。
そして至近距離からの銃杖での技を使用する。
「__百華!」
虹色の光線が幾重にも射出され、シアンディームに襲いかかる。
咄嗟に横に避けたシアンディームだが、その先にはそれを見越したかのようにジューダスが先回りし、シャルティエを構えていた。
「これで終わりだ!魔神剣・刹牙!」
シャルティエの力を解放し、闇の斬撃を繰り出し敵を斬り裂きながら舞い上がったあと、双剣でぶった切るというリオン固有の術技。
勿論その威力は秘奥義と同等で、申し分ない。それ故にシアンディームはその攻撃を受け、漸く膝を着いたのだ。
しかし彼女が膝を着いたとはいえ、その顔は悔しさよりも嬉しさの方が勝っているようであった。
『…流石は、ソーディアンの使い手…。完敗だわ。』
「…ふん。」
シャルティエを仕舞いながらジューダスは鼻で笑う。
でも、その顔は少しだけ嬉しそうだ。
シアンディームが立ち上がると私の方へと歩み寄り、立ち止まる。
『貴女と契約しましょう。召喚士よ。』
「ありがとう。シアンディーム。」
『よく、頑張りましたね。』
シアンディームに頭を撫でられ、少し擽ったい気持ちになる。
『仲間を想う、その気持ちも分かるけど、貴女が思うよりも仲間は強く、心強い。それをゆめゆめ忘れぬ様。』
「きっと…また迷う時が来る。でも、また皆に諭されて…こうして前を向ける。そう思うんだ。」
『…成長しましたね。』
自分のことの様に嬉々とした顔をするシアンディーム。
やはり思っていた水の精霊と同じかもしれないと、この時ばかりは思った。
『主人よ、騙されるなよ?こいつ…こう見えて戦闘の時と普段とで言葉遣いも、声色も変わるからな?』
『あらあら?どこの誰がそう言うのかしら?』
『……。』
ブラドフランムがシアンディームの圧を受け、黙り込んでしまった。
属性相性の悪い二人ではあるが、それ以外でも相性は悪そうだ。
『さて、契約しましょうか?召喚士よ。』
「まだかまだかと待っている人も居るみたいだし、そうしようか。」
カイルの顔が輝き満ちているのを横目で確認しながら笑う。
契約する所を見たいと言っていたから楽しみで仕方ないんだろう。
私はシアンディームと対面する形で向き合い、視線を合わせる。
『我、シアンディームは召喚士スノウ・エルピスと契約する。』
シアンディームが言い終わるのと同時に、スノウの左手の小指が光り輝く。
そこには深い青の宝石が輝く指輪がはめられていた。
その輝きが収まる頃、僅かな倦怠感の後、私は大きく息を吐く。
もう契約した後、倒れる事はない。
何故なら私の中のマナが精霊と契約する度に増えて、膨大になっているから契約時のマナを補えるのだ。
若干身構えていたジューダスも私が倒れないのを見て安堵の息を吐き、身体を楽にした。
そして一気に賑やかになる仲間達を見て、私は嬉しくて目を細めるのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
契約も終わり、海底遺跡から海岸まで仲間と共に運んでくれたシアンディームにお礼を言う。
契約の代償はあまり無かったものの、やはり終わったと思ったらどっと疲れが出て来る。
興奮冷めやらぬ仲間達は私を連れて祝い事をしたいと言っていたが、お断りさせて貰った。
折角の申し出だが、と謝ると疲れるのは仕方ないからとすかさずフォローしてくれる仲間達に甘え、今は一人、宿で休んでいる。
『後は気難しい精霊ばかり残ってますね。』
『光と闇は特に、な。』
『で、ででも…!ご主人様なら、行ける気がします!』
『まぁ、スノウなら大丈夫そうだから心配してないし?』
「はは、ありがとう。グリムシルフィ。ノーム。」
『……でも、問題はそこじゃない。……物語が一向に始まらない事……』
セルシウスが心配そうに呟く。
それを聞いて皆の思考はやはりその事になる。
エルレインは何をしているのか、全く世界を作り変える気配を感じさせない。
これではシナリオが進まず、精霊達との約束も守れやしない。
「敵状視察…かな?」
『あまりお勧めしませんけどね?』
シアンディームからの指摘を受けるが、他に良い方法はないものか…。
こればかりはカイル達に相談する訳にもいくまい。
「た、大変だよ!!!」
精霊達と話していたからか、カイル達が近付いている事に気付けなかった私は、少しだけ肩を揺らし驚く。
一体何事だ。
あのカイルがこんなに慌てるなんて。
「スノウ!まずいんだ!」
「??マズイ?何が?」
「ファンダリア地方の首都ハイデルベルグ…。どうも怪しい動きをしている。これはもしかしたら戦争になるかもしれないぞ。」
「…え?」
そんな、馬鹿な。
あそこはウッドロウ王が統治する、割と平和主義な国だ。
そんな場所が、戦争を仕掛けるなんて…。
もし、仮にそうだとして…相手は誰だ?
「アタシ達がこの世界に来た…、まぁアンタ達からしたら戻ったって事になるけど。その時にハイデルベルグの王様がレンズが無いって悔しそうに言ってたんだ。もしかしたらそれなんじゃないのかい?」
「…ということは、相手はアイグレッテ…?!」
これは本格的にまずくなった。
戦争なんて物騒な事して欲しくない。
ましてや、相手はあのエルレインで、後ろに居るのは〈赤眼の蜘蛛〉だ。命の補償など無いに等しい。
「カイル。」
「うん!分かってるよ、スノウ!ハイデルベルグに急ごう!」
「「「あぁ!/うん!」」」
お願い……。
まだ事を急がないで……!
ウッドロウ王……!