第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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海中から声が聞こえたこと。それが気になっていた。
恐らく水の精霊で間違いないのだが、海中にあるのは何か分からないでいた私に、ジューダスが一度休もうと提案してくれたことでゆっくり休んで朝を迎えることが出来た。
朝食を食べ、食後のコーヒーを飲みながら今日の予定を考えていると食堂へやってくる見知った顔。
「おはよう、レディ?」
「お前…、はぁ、もういい。」
睨まれたがまだ眠たかったのか、欠伸をひとつする彼に目を瞬かせる。
いつもならそんな場面をあまり見せないのに。
眠りが浅かったのか、それとも昨日の夜中の件で眠たくなくなってしまったか…。
どちらにせよ私が悪そうなのは明白だったので、素直に謝っておく。
……彼の目の下にある隈が少し酷いのが、心苦しい。
「すまない。レディ…。昨日素直に君を帰していれば…。」
「馬鹿か。監視だと言っただろう。それに、僕が居なかったらずっとくだらない事で悩んでいたんじゃないのか?」
監視と言いつつもそうやって優しい所、…本当に好きだ。
自分の最推しが、こうして悩みを聞いてくれて、解決までしてくれる。
これがどれほど凄いことやら。
こうしていると彼のファンに後ろから刺されそうな気がしなくも…。
一瞬背中に悪寒がした気がして振り返る。
当然だがそこには誰も居ないし、何も無いので肩を竦め顔を元に戻す。
「?? 何かいるのか?」
「……いや、少し悪寒がしただけさ。大丈夫だよ。」
「悪寒…?」
そう言うと彼は私の後ろを確認するが何も無いと分かると訝しげな顔をこちらに見せる。
「ふふ、だから言っただろう?大丈夫だって。」
「お前の大丈夫は信用に値せん。」
『本当、そうですよね。スノウはすーぐ無理をするから。』
「信用のないことで。」
「自業自得だ。阿呆。」
今から朝食なのか彼が私の前の席に座る。
食後のコーヒーを飲みながらもクスリと笑う。
何だかんだ一緒にいてくれるのが心強いのだ。
カバンからノートを出し、ペンを走らせる。
昨夜海底のことを考えていたから、それのまとめだ。
考古学者らしくちゃんとこうしてノートは持ち歩いているし、気付いた点があれば書き加えるようにしている。
目の前に来た朝食を食べつつ、私のノートを悪びれもなく見遣る彼に気付いたが見ても分からないだろうからそのままにしておく。
「……相変わらず奇妙な文字を使う。」
『この時代…、スノウとして最初に会った時もこんな字を書いてましたよね?これって本当にスノウが考えた文字なんですか?』
「これは私が昔居た世界での文字なんだ。だから君達が読めないのは想定済みだよ。」
「それなら、こっちでの文字で書け。なんと書いてあるか分からない。」
「ははっ!君達が読めない様に書いてるのにこっちでの文字を書いたら意味ないじゃないか!」
『何で読めなくするんですか!!いいじゃないですか!もう隠し事はないでしょう?!』
「まぁ、さっきのは冗談だ、冗談。」
「ふん、本当に冗談ならいいがな。」
「まぁ、君達には言っておくんだけど…。私はこっちの世界の文字が書けないし読めないんだ。」
「?? 読めてたじゃないか。」
『図書館にいましたよね?本も読んでいた気がするんですけど…』
「なんて言うかな…。勝手に変換されるんだ。私達の居た場所の言葉に。だからこっちの文字にも興味はあるんだが……何分、勉強する時間がなくてね?未だに読めないと思う。」
「変換、か…。不思議なものだな。」
『やはりオーラが関係してくるんでしょうか?』
「そうなんじゃないかなって勝手に思ってるけど……科学的に証明された訳じゃないから何とも言えないね?」
一度ペンを置き、大きく伸びをした。
机に頬杖をつき、ノートを改めて見返してみる。
昨日必死に考えた事はこうだ。
海底にはラディスロウが堕ちている可能性も否めない。
だが、他の天上都市が落ちている可能性もあるから一概には言えないが、何かしらの物が海底にあると思う。
今日は深く海底に潜り込んで見ようかな。
しかしそうなると、問題は……無論、彼だな。
恐らく付いてくるだろうけど…、海底に行くには彼は無理なんじゃないかな…?
深海に行けば行くほど酸素は薄くなる。
一応、魔法で潜り込もうと思っていたが水中での耳抜きとかは必要になってくるだろうし、素人が行けるとは思えないし、何より危険だ。
水難事故は水中なだけあって高めではあるし、陸と水中は勝手が違う。特殊な環境とだけは分かって欲しいものだが…。
前前世、インドア派だった私が唯一取ろうと思った資格……ダイビング系資格。
アニメやゲームの影響で海の中の世界を見てみたいと思って講習を受けたことがある。
……まぁ、志半ばで死んだ訳だが。
「……何を考えている。」
『なーんか、良からぬことを企んでいそうな予感がしますね…』
「……ふふ、内緒。」
その場で誤魔化し、変わらずノートを見る。
そのノートにふと影が差し、その影の主を見遣る。
「修羅。」
「……なーるほどな?」
私のノートを一頻り見たあと、勝手に納得する修羅。
その後ろからは眠たそうに海琉が起きてきていた。
「……おはよう」
「おはよう、海琉。」
「おいおい、俺には挨拶なしか?」
「君は挨拶もなければ勝手にノートを覗いてくるじゃないか。そんな人に挨拶はしません。」
「クスクス…!あーあ、怒らせてしまったな?クスクス」
その言葉の裏腹、全く悪そうな顔じゃないので困ったものだ。
「海琉。こんな大人になったらいけないよ?」
「??」
「クスクス!」
可笑しそうに笑い、平然と隣に座る修羅。
海琉はジューダスの横に座り、大きな欠伸をしていた。
まぁ分かってるだろうけど、ジューダスの顔といったら………、ねぇ?
「……何をしに来た。」
「あんたと同じく、朝食だよ。見れば分かるだろ?」
『当然のようにスノウの隣に座らないでください!そこは坊ちゃんの席ぎゃああああああ!!!』
器用に後ろ手で制裁を加え、取り敢えず今日の日課を終わらせたジューダスを不思議そうに見遣る修羅。
そうか、彼は制裁場面を直接見た事がないし、シャルティエの声も聞こえないんだったか…。
しかしそれを気にした風もなく、修羅は私に話しかけてきた。
「で?今日はどうするんだ?スノウ」
「はぁ。君に聞かれるとはね。」
「まぁ、大体ここに書いてあるので分かったけどな。…………(ボソッ)大丈夫なのか…?」
急に小声で心配してくれる修羅に笑顔で答えておいた。
「こう見えてCカード(※)取得直前までやってたんだ。一応出来るよ。」 ※Cカードはダイビング資格に必須なものです。ダイビングライセンスの名称だと思ってくだされば。
「へぇ…?それは意外な特技だな。」
「……。」
面白くなさそうにジューダスの顔が歪んで行く。
しかし2人はそれに気付かない。
海琉とシャルティエだけそれに気付いたのみだった。
「で?俺はどうすればいい?」
「(話が早いな…。流石といったところか。)……別に何もしなくてもいい。君は君のやりたいことをすればいいさ。今日は精霊探しはお休みだ。少し……昨日で疲れたんだ。」
ノートにサラサラと文字を書いていく。
“ジューダスを引き留めておいて欲しい。せめて、私が海底から戻ってくるまで”
チラリとノートを盗み見した修羅はニヤリと笑った。
「そんなに昨日の〈ホロウ〉で疲れたのか?そんなんじゃ、あんたの今後が心配だな?」
「色々あったんだ。だから少し休ませてくれ。その証拠にカイルは……まだ寝てるけど…、ロニやリアラは外に出て行ったよ?行き詰まった時は休みも必要だ、って言って去っていったよ。」
「ふーん……、まぁ、カイルは想像通りだが。」
「??」
海琉が不思議そうに首を傾げ、修羅が首を横に振る。
ほら、同じ名前で混同してるじゃないか。
そう思い、じとりとした視線を向けると彼はニヤリとした顔を変えずにクスクスと笑った。
「じゃあ聞くが、お前さんは何をするんだ?」
「……何故貴様に言わなければならない?」
『そうだそうだ!!お前は引っ込んでろ!!』
「いや、そろそろお前さんを抹殺してもいい頃合いだな、と思ってな。」
「……ふん、上等だ。今日こそケリをつけてやる。」
ジューダスは一瞬こちらを見たが、修羅の言葉に鼻を鳴らすとその喧嘩を当然のように買い、剣に手をかけた。
それに修羅も瞳孔を開きながら面白そうに顔を歪め剣に手をかける。
「……君達、またやるのか?」
「あんたは休んでな。ここで決着をつけてやる。こいつを倒した暁にはスノウ、あんたには〈赤眼の蜘蛛〉に入ってもらうからな?」
「ほざけ。倒れるのは貴様の方だ…!こいつは渡さん。」
いつぞやと同じく、同じ歩幅で出ていく2人を海琉と私は見送った。
海琉は未だに美味しそうに朝食を食べている。
「……ありがとう、修羅。この恩はまたどこかで…」
修羅が気を使ってくれたのでジューダスを別の所に誘うことが出来た。
後は早く海底に辿り着いて水の精霊を捜し出すだけだ。
「?? 何処にいくの?」
「少し外の空気を吸ってくるから、海琉はそのまま食べてていいからね。」
「分かった……。」
モグモグを再開したのを見届け、私はノートをカバンにしまい海岸へ向かうのだった。
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水中の中で呼吸が出来るように自身に魔法をかける。
賑やかな観光客のいる中、初日と同じく水着姿になった私は覚悟を決め海の中を潜った。
水深何mあるのかは分からないが、何か見つけるまではと注意深く見ていく。
前前世と違い、ダイビング用の機械なくとも簡単に深くまで潜っていけるのには少し驚いた。
まぁ、そういうことをあまり気にしても仕方ないので異世界特典ということにしておこう。
「(何か…ないか…?)」
深海は光がない、閉ざされた世界だ。にも関わらずその深海からは僅かな光が見える。
もしかしたら何かの手掛かりになるかもしれない、と更に深く潜っていく。
「(……罠じゃなければいいが…)」
不安が無いわけじゃない。
隣に空気を分けてくれるバディがいる訳でもない、この海の中で……、怖くならない方がおかしい。
でもやるしかないんだ。
「(“想像すれば、創造出来る”…!)」
深海特有の水温…、冷たくなる身体…。
でも、これが終わればきっと、彼が温めてくれるから。
「(もう少し…!)」
その光に辿り着けば、何やら遺跡のような物が沈んでいた。
昔栄えていた都市が沈んだりした……所謂、海底遺跡なんだろう。
でも、こんな所に海底遺跡があるなんて思っても見なかった。
ラディスロウやら、何かしらがあると思っていただけにこれは大発見だ。
入り口を見つけた私はそのまま中に入っていくのだが…、何故か遺跡の中は空気が留まっている。
魔法を解き息を吸ってみると、問題は無いようで息をしても苦しいとか、溺れる、とかそういった感覚はない。
陸と同じような感覚で拍子抜けした私はそのまま遺跡の中を探索する。
「意外と中は広いんだな…」
『しっかし、あんなに深く人間が潜れるなんてね!』
グリムシルフィの声がこの空間に響き渡る。
指輪を通してかと思っていたが、どうやら勝手に表出していたようである。
「褒めてくれているのか、貶してくれているのか…」
『え?褒め言葉だけど?』
「ふふ、ありがとう、グリムシルフィ?」
『普通さ、人間があそこまで深く潜ったら死ぬと思うんだよね!なのにスノウが簡単にやってのけるから驚いてるんだ!』
「……そうなのか?簡単に潜れたが…」
『主人が変わってるだけだろう。異世界の人間ということもだが…、あれは潜水に慣れさえ感じさせたな。』
『……かっこよかった、スノウ』
「ははっ、ありがとう2人とも。」
『ご、ご主人様、ここにシアンディームがいます…!』
「やはり、か…。こんな所にいたら分からないよ、普通…」
そう呟くとどこからともなく女性の笑い声がする。
あぁ、この声…。
昨日聞いた声と同じだ。
『貴方が召喚士ね。スノウ・ナイトメア……。いえ、スノウ・エルピスと言った方がいいかしら?』
「やっぱり、精霊というのは何処からでも見えてるんだね。」
水の精霊、シアンディームが私の目の前に姿を表わす。
優しいイメージのシアンディームだったが、皆がイメージが違うと言っていただけに、私の知っているシアンディームとは違う。
目の前にいるシアンディームは、強気な……それこそ不敵な笑みを零している。
『貴女を待っていたわ。でも……貴女一人しか辿り着けなかったのかしら?』
「皆には遠慮して貰ったんだ。水中は危険が沢山あるからね。」
『そう……。なら出直してきなさい。』
「え、」
そう言うとシアンディームは水を出し、私を遺跡の外へと押し流した。
慌てて水中呼吸の魔法を使ったが…、少しズレていたら危なかった…!
胃の中に水を入れたら人はパニックに陥る。
そんな状態で魔法なんて、もしかしたら掛けられてなかったかもしれない。
そう思うとゾッとした。
『取り敢えず、陸に戻ったら?』
指輪からグリムシルフィの声が響く。
言う通りに上へ、上へと戻り海面から顔を出す。
久し振りの眩さに目を細め、少しだけ唸る。
プカプカと海面から顔を出しただけだが、ここは沖に近い場所だ。
離岸流で流されたらたまったものじゃない、と海岸方面へと泳ぐ。
海岸へ着いたらその場で座り込み、暫く呼吸を整え体を休めた。
「はぁ、はぁ…。これを他の仲間と一緒に来い、と…?」
『だから変わっていると言っただろう?主人よ。』
『か、彼女は…、変わり者、で、ですから…!』
『まぁ、シアンディームは何考えてるか分かんないよね。』
『……私は苦手……』
「ふむ…。どうしたものか…。皆を危険に晒す訳にもいかないしな……」
その呟きは誰にも聞かれることなく、空中で霧散していく。
ただ、その言葉は精霊達には聞こえているはずなのに返事がないことが妙に思えた。
いつもなら何かしらの返事があるのに、だ。
どうしたんだろう、と声をかけるより前にセルシウスが声を掛けてきた。
『……どうするの?…このまま、諦める?』
「……迷ってるんだ。あの感じ…、みんなと一緒に来いと言われてるようでね。でもあんな深いところ皆が行けるとは到底思えないし…、かと言って一人で行ってもさっきのように返り討ちに遭うだけだ。……どうしようかな…。」
『『『『……。』』』』
まただ。
また沈黙している。
もしかしたら彼らは何かを知っているんじゃないか?
「もしかして、皆は何か知ってるのかな?」
『なんでそう思うの?』
グリムシルフィが普段通りの声音で聞き返してくる。
それに苦笑いを零す。
「言えないなら言えないで良いんだ。ただ、皆がだんまりするから気になってね。」
『え、えっと……ご主人様……その……』
『ふむ。主人は勘が鋭い。…が、とある方面に関しては弱い。そこをどう乗り切るかだな。俺から言えるのはそれだけだ。』
『……私も何も言えない……。ごめんなさい……』
「いや、大丈夫。ありがとう、皆。」
とある方面に関しては弱い、か……。
それは一体なんだろう?
「ともかく、ジューダスの所に行こう。本当に怪我してたら洒落にならないからね。」
そう言って私は〈サーチ〉を使い、二人が居るであろう場所まで歩き出した。