第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
皆でアマルフィ海岸を堪能した翌日。
ジューダスの言葉で、今日は水の精霊シアンディームを探す事となった。
元々、ここに来た一番の理由はこれなのだが……折角あんなに綺麗な海岸があるなら遊びたくなるのも無理はないと思うもの。
しかしそこは流石にジューダスも寛容な心で許可してくれたものの、次の日は流石にそうはいかなかったようだ。
「また皆であそこに行こうね!」
「ええ!楽しかったものね!また行きたいわ!」
カイルとリアラがキャッキャと嬉しそうに話しているその後ろで、ロニは口から魂が抜け出ていそうな顔で呆然と立っていた。
ナナリーはそんなロニを嘲笑っている。
「ふふ、残念だったね?美人なお姉さんを引っ掛けられなくて。」
「くそぅ…!俺とした事が子守りばっかり付き合って肝心なナンパを忘れるなんて……!!!」
「ちょっとロニ!子守りって誰のこと?!」
「そりゃお前らに決まってるだろーがよ。」
呆れた声でカイルを見るロニ。
それを見たカイルが不貞腐れていつもの可愛らしい喧嘩が勃発していた。
そんな2人を止めたのはやはりジューダスだった。
しかし本題は水の精霊を探し出すことなのだ。
どこにいるか皆目見当もつかない今、私は頭を悩ませていた。
いつものように声が聞こえる訳でもないため、所謂お手上げ状態なのだ。
「ねぇ、スノウ。精霊がいる場所がどこか、検討ついてるの?」
「それが…全然なんだ。声も聞こえないし、気配も感じないから困っていてね…」
「取り敢えず、ここの有名な場所をしらみ潰しに探してみれば案外見つかるんじゃないかい?」
「それもそうね。場所の検討がついてないならそれがいいかもしれないわね。」
「そうしてみようかな。で、皆は今日どんな予定……って、どうしたんだい?そんな顔をして。」
私は精霊を探しに行こうと考えていたが、一応皆はどうするのか聞いてみたら皆が唖然とこちらを見ていた。
何故そんな顔をされているのか分からず首を傾げる。
「……お前一人で行かせるなんて、誰が言った?」
『そうですよ!単独行動はダメだって再三言ってるじゃないですか!!』
「スノウ!私、精霊見てみたいの!」
「アタシも一度は見てみたいし、着いていこうと思ってたんだけど?」
「そういうことか。なるほど、じゃあ行こうか。」
思いがけない仲間達の言葉に私は口元を緩ませた。
確かに精霊との契約はジューダス以外は見たことがなかったかもしれない。
だからこそ、皆は興味を持ってくれたのだろう。
「ここの近くなら、まずは街中から探したらどうだ。……まぁ、そんな所に精霊がいるとは思えないが、声くらいなら聞こえるかもしれん。行ってみる価値はあると思うぞ。」
「流石だね、ジューダス。」
「じゃあ道案内お願いね!ジューダス!」
「……まぁ、いいだろう。」
「君には知らないことなんて無いと思えてしまうね?」
「お前らが知らなさすぎるんだ。」
「ふふ、違いないね。」
歩を進めるジューダスを先頭に、カイル達が意気揚々と歩を進めていく。
『はぁ……』
珍しくセルシウスが溜息をついていて僅かに驚いたがすぐにその理由に思い当たる。
確かセルシウスは過去に、シアンディームが苦手だと言っていた。
だから会いたくなくて、憂鬱なのだろう。
「すまないね、セルシウス」
『……スノウが気にすることじゃない……』
『ブラドフランムも溜息ついてたよ。』
『……グリムシルフィ。そこは主人に通達しなくとも良かったのではないか?』
『でででも、気持ちはわ、分かります…!僕も苦手な属性は溜息が出ますから…!』
『それって、俺の事じゃないか?』
『す、すすすみません!』
『あっはは!ノームったら墓穴掘ってやんの!』
精霊たちが仲良く話しているのを聞きながら私もジューダス達の後を追うことにした。
しかしここで、ふとした疑問が浮かぶ。
セルシウスやブラドフランムは私の実力を条件に契約をした。
だがノームやグリムシルフィは本人達から契約してと頼まれて何もせずに契約を施したのだ。
果たしてシアンディームの条件は何だろうか、と。
「(またあいつは……。何か考えてるな……)」
「(実力が条件というのなら戦えばいいだけだが……他のもの…、例えば何かを差し出せと言われたらどうする?)」
『……スノウの実力なら大丈夫。そんなに心配しなくとも……』
「ん?声に出してたかな?」
『……いえ。……でも何となく分かった。』
セルシウスがそう言うということはかなり顔に出していたのだろう。
兎にも角にも、今考えても仕方ない訳だし、まずは探索の方に重きを置こう。
「着いたぞ。」
ジューダスの声で我に返ると、そこは有数の観光地だけあって沢山の露店や店が建ち並び、かなりの賑わいを見せていた。
何なら一つずつ店を見て回りたいくらいだ。
「わぁ!いっぱいお店があるのね!」
「ロニ!何かいい匂いがするよ?!」
「ホントだ……って、お前、いつも食い意地張ってんなぁ?」
「なんだよ!ロニだって頷いてたじゃん!」
いつもの喧嘩が始まるかと思われたがその横でジューダスが目を光らせて見張っているから大丈夫だろう。
私は神経を集中させて精霊の声が聞こえないか、耳を澄ませてみる。
しかし、残念なことにお目当ての声は全くと言っていいほど聞こえそうにない。
だが、精霊たちがああやって話していたんだ。きっとこの海洋都市アマルフィのどこかにいるに違いない。
そうやって深く考え込みすぎていたのか、私の周りにはいつの間にか誰もいなくなっていて、私は目を丸くしたあと苦笑いをしていた。
『置いていかれたな、主人?』
『立派な保護者もいたし、大丈夫でしょ。』
「ははっ、立派な保護者、ね…!言い得て妙だ。」
グリムシルフィの言葉にすぐ友の顔を思い浮かべ、少しだけ緊張を緩ませた私は、みんなを探すために歩き出した。
すると数メートル先に見知った顔と出会う。
「……ん?この気配…。」
「??」
あれは修羅と海琉だ。
久しぶりに見るコンビに目を瞬かせると、向こうの方から歩み寄ってくれる。
海琉の手には沢山の食べ物が握られていて、それだけでも二人がここへ観光に来ていることが見受けられる。
何なら口周りに食べ物が沢山ついている辺り、かなり食べ歩いていたのだろう。
「久しぶりだね、二人とも。息災だったか。」
「あんたもな。あれからは〈ホロウ〉にも会っていないし、俺らは無事だ。」
「ほへふひは(こんにちは)」
「ふふ、美味しいかい?海琉」
「へほ(うん)」
「食べ過ぎだ、海琉。」
呆れた声で言う修羅だが、その顔は笑っている。
……ちゃんと君がこの子の親代わりをしているようで安心したよ。
決してそんな事は口にしないが、2人の様子からもそんなことを伺える。
「あんたも観光か?」
「いや違うんだ。ここには水の精霊シアンディームと契約をしに来たんだ。」
「へぇ…、精霊とね…?」
その顔は面白そうだとばかりに口元を歪ませている。
「ごくり。…………一人?」
「実は皆とはぐれてしまってね。途方に暮れていたわけさ。」
「クスクス。なんだ、迷子か?」
「まぁ、否定は出来ないね。深ーい思考中に皆が居なくなっていたから。」
「クスクス…!あんたでもそんなことがあるんだな。じゃあ、俺たちと行くか?精霊と契約に。」
「私が彼らに怒られるよ?」
笑いながらそう返すも、向こうも引く気は無いみたいで何かと言葉で返してくる。
「精霊と契約なんて滅多に拝めないしな。俺達も行く。」
「(こくこく)」
「こいつに社会勉強をさせる良い機会だと思わないか?なぁ?“お・母・さ・ん”?」
「(激しく頷いている)」
「まだそれを言ってるのか。」
お母さんという言葉を強調させる修羅。
それに苦笑いをして返事をすれば、海琉が次の食べ物に手を伸ばしているのが見えた。
……よく食べるな。いや、食べる事はいい事だ。
「クスクス。で?俺達も着いていっていいのか?」
「別に私は構わないよ。カイル達が良いと言えばね。」
「……絶対あいつは反対するだろ。」
「ジューダスの事か?……まぁ、彼はね…。」
容易に嫌がる彼を思い浮かべてしまい、苦笑を零す。
さて、どうしたものか。
「あ!いた!」
また別の方向からはカイルの声がして、三人で目を丸くする。
恐らく私を探してくれていたのかもしれない。
人の波の合間でピンと映える金髪を目にし、大きく手を振っておいた。
するとカイルとリアラが人の波から顔を出し、ようやくこちらに辿り着く頃には息を切らしていた。
「もう!スノウ!どこに行ったかと思ったじゃん!」
「!! 待ってカイル!この人、この間スノウを攫っていった人だわ!!」
「え?!」
リアラが思い出した様に修羅を指差す。
思い当たる節がないのか、修羅は首を傾げた。
「君、私のことを何度も攫ってるからね。」
「そういえば、そうだな。一回目の時はシャルティエが居た時か。二回目は……あぁ、ホープタウンでか。」
ようやく思い出したようで修羅はポンと手を叩いた。
モグモグと隣では相変わらず食べ続けている海琉。
そんな2人を見て、慌ててカイル達が私を庇うように間に入り込んだ。
「もしかして、またスノウを攫う気じゃないだろうな!」
「これを見てもそう思うか?普通。」
修羅が海琉を指差して呆れた声で話す。
海琉の視線は未だ食べ物に釘付けで、自分の抹殺対象が近くにいることに気付いて居ない様子である。
「お前たち、精霊と契約しに行くんだろ?俺達も同行する。人数は多いに越したことはないと思うが?」
「そう言っておいて、スノウを攫うなんてことしないわよね?」
「しないさ。今回はな。俺達も観光で来てるんだ。無駄な争いはしない。」
「どの口が言ってるんだ。君、相当な戦闘狂じゃないか。隙あらば戦闘してる所しか見た事無いんだが?」
「クスクス!まぁまぁそう言うなって。よろしくやろうじゃないか。」
カイルとリアラが「どうする?」とばかりにこちらを見るものだから、私はすぐに返事をすることにした。
「カイル達がいいなら良いよ。連れて行ってあげよう。これでも彼にはお世話になってるんだ。」
「スノウが言うなら…、じゃあ行こう!」
すぐに手のひらを返す返事にやれやれと首を振る修羅。
「…ゲーム通りのお人好しだな。」
「ふふ、良い子だろ?」
「良い子すぎるだろ。ま、なんと言われようが着いていくつもりだったから、手間が省けたな。」
嬉しそうに話す修羅をじっと海琉が見つめる。
……食べる事は止めないようだ。
「……決まった?」
「ああ、俺達も行くぞ、海琉」
「え?オレ?」
「あの子もカイルって名前なのかしら?」
「リアラの言う通り、あの子も海琉って名前なんだ。(字は違うけどね。)」
「へえ!名前が同じなんて生まれて初めてだ!よろしく!海琉!」
「クスクス、因みにこいつの母親はスノウだ。」
「「え?!!」」
心底驚いた顔でこちらを見る二人。
その奥でニヤニヤと笑う修羅を見て、肩を竦めた。
「そんな事、ある訳ないだろう。」
『そうだそうだ!スノウがその子の母親なんて認めないぞ!!』
「あ!ジューダス!どこに行ってたんだよ!」
「お前らが勝手に行動してこうなったんだろうが、全く……。で?何がどうしてこうなっている。」
ジューダスが修羅を鋭く睨みつけると、反対に修羅も鋭い視線を交わらせ、今にも交戦しそうだ。
後ろから慌てて追いかけて来たであろうロニとナナリーも合流し、全員がようやく揃ったようだ。
そんな中、何も分かっていない様子の海琉が私の近くに寄り、その手に持っていたりんご飴を差し出してきた。
思わず受けとってしまったが、彼の食べ物なのに私が食べてもいいのだろうか?
「いいのかい?食べても。」
「この間のお礼……だから。」
そういえば先日アイグレッテで入院している時に彼がやってきて助けを求められたんだった。
結果、修羅が〈ホロウ〉と戦っていて手助けしたのだが、きっとこれはその時のお礼だろう。
「ありがとう。遠慮なく頂くよ。」
「うん。」
「それ美味しそうだね!どこで売ってた?!」
「……あっち。」
するとカイルは海琉の手を引くと、場所を教えて!とどこかへ行こうとする。
海琉が困った顔で引っ張られていくのをリアラと慌てて追いかけていく。
「え?!ちょ、お前らどこに行くんだよ?!!」
「またはぐれちまったね……。で、こっちはこっちで険悪な雰囲気だし…。一体どうなってんだい。」
「こっちが聞きてぇよ。」
ロニとナナリーは取り敢えずこの二人を宥めることから始めることにした。
向こうはスノウがいるし大丈夫だろうと信じて。
.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*
目当ての物が買えて嬉しいのか、ニコニコとりんご飴を店の前で頬張るカイル。
リアラも美味しいと微笑みを浮かべながら食べていたので、自然と私も笑顔になる。
かくいう私も貰ったりんご飴を完食していた。
「すまないね。海琉は人見知りなのに、彼らに付き合わせてしまって。」
「……ううん。たまには……いい…」
「そうか。」
海琉の顔が珍しく少しだけ笑っていたので、私も笑顔を零す。
これも周りを明るくするカイルの効果なのかもしれないな、と思いつつジューダス達の気配を魔法で探ろうとした。
しかしあまりにも人の往来が多く、脳内に出てくる地図が情報過多な為に途端に頭痛が起きてしまう。
「っ、」
「?? ……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。」
これはやめておいた方がよさそうだな。
余計に頭痛が酷くなるだろうし、それに今からシアンディームと会うことになれば今は体を休めておくに越したことはない。
私はその場で天を仰いで深く息を吐いた。
向こうから来てくれるのを待つしかないか。
「…………来る」
「え?」
海琉が全く違う場所を警戒するので思わず聞き返したその時、辺りに悲鳴が湧き上がった。
その悲鳴を受けてか、人が次々と難を逃れようと四方八方へ走り出す。
流石にこの人の多さで流れに逆らえないか、と顔を険しくしていると私の腕を引いてくれる人がいた。
「……危ない」
「海琉…!」
それは海琉の手で、子供ではあるがやはり男の人だけあってこの人波に反してしっかりと私の腕を掴んでいる。(まぁ、子供と言っても彼の身長は私と大して変わらないが。)
何が起こっているかだけでも見ようと目を凝らすと、人が掃けた事で静かになった場所には魔物がウロウロしていた。
しかし厄介なのはその魔物から黒と白のテクスチャが出ていて、見た目が明らかに異常な〈ホロウ〉だった事だ。
「!! 〈ホロウ〉?!」
「……また、ここでも……。」
魔物を見て彼の武器である双剣を構えた海琉だったが、私の言葉に少しだけ動揺を見せた。
カイル達は流されてしまったのか、この場所にいるのは私と海琉だけだった。
「海琉、お願いがあるんだ。」
「……あの人を連れてくる…!」
「頼んだよ?」
銃杖を構え、〈ホロウ〉へ対峙する私を見て海琉は大きく頷いた。
そしてその場からすぐに走り去る彼を見届け、私はすぐさま魔法の詠唱に入った。
〈ホロウ〉と言ってもミドルクラスだろうサイズの敵だ。
これなら修羅の応戦がなくとも難なく倒せるだろうが、戦力は多いに越したことはないし海琉に頼んでおいて良かっただろう。
『主人!来るぞ!』
「__水源招来、スプラッシュ!」
ブラドフランムの掛け声に詠唱を完成させ、すぐさま魔法を打ち出した。
まずは低級の魔法で様子を見ることにしたが、ミドルクラスの〈ホロウ〉はただ一般的な魔物に〈ロストウイルス〉が感染しているだけなので魔物自体は大したこと無い。修羅でもミドルクラスの〈ホロウ〉は倒せると言っていたのだから。
現に今、スプラッシュだけでも一体倒せている。
『……まだまだ増えてる…!』
『多勢に無勢、か?』
「それなら範囲の広い魔法で応戦しよう。」
精霊達が緊迫しているのが指輪から伝わってくる。
初めて〈ホロウ〉と対峙するわけではないが、何しろ数が多いし、触れるだけで死ぬというハイスペックを相手はお持ちなので触れる事も叶わない。
それもあってか精霊達の緊張感は今までよりも高かった。
「__ヴァーチュアスレイ!」
光の鋭い雨が直線上に攻撃していく魔法。
キラキラと直線上の〈ホロウ〉を残らず消していくがどこから湧くのか、次々と〈ホロウ〉が横から現れてくる。
〈ロストウイルス〉ならではの、白と黒のコントラストが見ていて少し飽きてくるようだ。
「流石にキリがないね。」
『ご、ごご主人様!後ろからも来てます!』
『どっから現れてるんだろ?こいつら。』
『主人よ、俺らで一気にやってしまった方が楽なのではないか?』
「うーん、それも考えたんだけど、この後のシアンディーム戦を考えると決めかねてるんだ。彼女がどんな条件出してくるか分からないしね。」
『あの人ならそんな無理難題してこなさそうだけど?』
『いや、奴は分からないぞ?案外無理難題を吹っ掛けてくるかもしれん。』
『……えぇ、あの人は分からない…』
ブラドフランムとセルシウスだけが無理難題を吹っ掛けてくるという票に賛成している。
やはりあの二人はシアンディームが相当苦手なんだろうな…。
精霊たちの会話中も魔法を発動させ、〈ホロウ〉を一掃したり牽制をする。
しかし無限に湧いてくる〈ホロウ〉達を倒していると本当にキリがない気がして、無意識に表情が曇ってくる。
その時、修羅という救世主が現れた事で私の表情は一変する。
「スノウ!!」
「!!来てくれたのか…!」
「クスクス。お姫様の危機に駆け付けるのが男だろ?」
「全く君は…」
「クスクス!行くぞ、スノウ!油断するなよ?」
「了解!」
武器を構え辺りの〈ホロウ〉を蹴散らしていく修羅を援護する形で魔法を使っていく。
「驟雨魔神剣!」
「__虹雨、プリズムフラッシャー!」
確実に二人で数を減らしていくと、視界の端にカイル達と海琉が立ち尽くしているのが見えた。
彼らには普通の魔物に見えても、その攻撃は擦り抜けてしまうのだ。
彼らは悔しいかもしれないが、立ち尽くす他ない。
「くそっ!オレの攻撃、なんで当たんないんだよ!スノウが、仲間が大変な目に合ってるのに!」
「……どう足掻いても、見てるしかない……」
「悔しいがそいつの言う通りだ。〈ロストウイルス〉に感染した魔物〈ホロウ〉は〈星詠み人〉にしか倒せないんだからな…。」
戦闘に夢中になっているスノウ達にはカイル達の言葉は聞こえていない。
しかしここにいる全員、何も出来ない自分達に歯痒い気持ちや悔しい気持ちでいっぱいだった。
「スノウ!一気に片付けるぞ!!」
「分かった!」
修羅の掛け声でクルリと銃杖を回し、構える。
修羅が言いたい事が何となく分かっていた為、私は詠唱を開始した。
「修羅!」
「遠慮はいらねぇ!胸を借りるつもりでこい!」
銃杖を回し炎の塊を上空へ打ち出すと同時に修羅が大きく地を蹴り、飛び上がる。
伸身を翻しながら、打ち上げられた炎の塊を剣で狙いを定め__
「灼熱の…!」
「バーンストライク!!」
〈ホロウ〉へと炎の塊を撃ち落とすと、元々の威力が更に上がり、更には炎が膨れ上がると爆発を起こす。
すると辺りの〈ホロウ〉が炎と爆発に巻き込まれ一掃された。
初めてやったにしては上手くいって、何だかこそばゆい。
地面に着地した修羅が手を向けてきたのでそれに手を合わせてハイタッチをする。
「初めてにしては上出来だったな。」
「本当、初めてやったとは思えない出来だよ。」
「俺らの相性がいいからな。」
「ふふ、そうだね。」
辺りに〈ホロウ〉が居ないのは気配で分かる。
だからこんなにものんびり出来ているのだ。
「……おつかれ」
「海琉か。こいつが〈ホロウ〉について知らせてくれていなかったら、今頃あんたはどうなっていたか…」
「流石に1人であれは厳しかったかな?いくら弱い魔物でも、あれほど数が居たら難しくもなる。」
海琉が褒められた事に笑顔になっていると、その横からカイルが心配そうにやってくる。
他のみんなも心配そうにやって来ていたが唯一、ジューダスだけは不機嫌そうだったので目を丸くして彼を見た。
『坊ちゃんはスノウが奴と協力技を成功させたのが気に入らないんだよ。』
「そうなのかい?」
「ふん…」
口を尖らせ視線を外す彼を見て目を瞬かせていたが、その事情が事情なだけに可愛らしく感じて思わず笑ってしまう。
そんな私を彼は馬鹿にしたと思ったのか睨まれてしまったのだが、それを苦笑いで返し、彼の耳元で囁く。
「……今度、君ともやってみたいな?」
「……ふん、タイミング遅れるなよ。」
「ふふ、分かってるって。」
今度協力技を成功させようと約束を取り付けた頃には彼の機嫌も少しは良くなっていた。
▷▶︎▷▶︎続きます