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第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】

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「私の今世での名前です。」
「男装をしていた、前世での私の名前だ。」
「地球時代の時の名前だよ?……もう、捨てた名前ではあるけれども、ね…?」*未変換時は綴(つづり)です





ナナリーと一緒に迷子の子供【エマ】の母親を探している。
しかし、母親を探す手掛かりである情報がたったの三つしかなく、その情報も内容が薄いと来た。
中々探すのは骨が折れそうな作業で、しっかりと汗を流しながら私たちは特徴を思い出し捜索をしていた。


「しっかし……、観光客で盛んだね?ここは。」
「アタシもこんなところがあるなんて知らなかったよ!」
「海洋都市アマルフィか…。休暇にはうってつけの場所だね。人が活発に動いているのを見ると元気がもらえる。」
「……ねえ、スノウ。さっきの話なんだけど…」
「あ、ロニだ。」


何か話そうとしていたナナリーを遮ってしまい謝ったが、それよりも早くロニがこちらに駆けつけてくれる。


「お前らどこに居たんだよ!探したんだぞ!」
「?? どうしたんだい?」
「この麗しい美女がな…!子供とはぐれて困ってるんだ!!俺達で探してやろうぜ!」
「子供とはぐれた…?」
「茶髪に、高身長……グラマラス……。あの子の言ってた特徴と重なるじゃないか!」


ナナリーと2人で驚いていると、向こうさんは何事かと首を傾げている。


「貴女のお子さんが貴女を探しているんです。」
「まぁ…!」
「アタシ達も母親を探してたってこと!アンタたまにはやるじゃないかい!」


ナナリーが肘でロニを小突くとロニは訳が分からないながらも、鼻を伸ばして頭を掻いていた。


「ははっ。ロニ、鼻が伸びているよ。」
「俺だってやれば出来るからな!」
「たまには、だけどね。」


ナナリーが含みのある言い方をした為、機嫌が急降下するかと思われたが機嫌がすこぶる良いのか、そんなことは無いようだ。
今、彼を見ても依然と鼻が伸びている。


「じゃあ、ミセス。私が案内しますので、こちらへ。」
「まぁ。ありがとう。」


私の手を取り、ポッと顔を赤くしたエマちゃんのお母さん。
それにロニが悲鳴を上げていて、瞬時にナナリーの関節技が決まる。


「ちょっ!!?ギブギブギブギブギブ、ぐはぁ!!!?」


ロニの関節から小気味良い音がなった途端にナナリーが腕を外すものだからその場で倒れ、瀕死状態のロニ。
それをパンパンと手を叩きながら笑顔で見遣るナナリーに笑いそうになるのを堪え、急ぎエマちゃんの所へ向かう。
果たして、ジューダスは上手くやっているだろうか?






*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○








「……」
「まま……。うっ…ぐすっ」
「(……スノウはまだか……)」
『坊ちゃん。この子が泣いてますよ?あやしてあげてください。』
「……何で僕がこんな事を…」
『まぁまぁ。予行練習だと思って接してあげてくださいよ。』
「何の予行練習だ。」
『そりゃあ、坊ちゃんとスノウの間に出来た子供の…ぎゃああああああああああ???!!!!』


コアクリスタルへ手が伸ばされ遠慮なしに爪を立てるジューダスだったが、その顔は真っ赤になっていてしばらく引きそうに無い為、言わずもがな制裁の時間も必然的に長くなっていた。


「(僕と…あいつの…?って、何を想像している?!そうなると決まった訳では…!!)」
「うわぁぁぁん!ままーーー!!」
「!!」


急に泣き出す子供に驚いて爪を立てていたコアクリスタルから手を離し、動揺した。

こういう時、どうしたらいい…?
どうしたら泣き止む…?
……だから子供の相手など苦手なのだ。
何も出来ない癖に勝手に行動して、そして、泣いて……。


「……泣くな」
「うわぁぁぁん!」
「……」
『坊ちゃん……。』


不安そうにコアクリスタルが光を映し出す。
……分かっている。この子供に対して、何かしなければならないことは。
だけど、その“何か”が僕には分からない。

眉間に皺を寄せ考え込んでいると、ふと、スノウが初めて会った子供に対して頭を撫でてやっていた事を思い出した。
この子供に対してもやっていた様に思う。
僕は子供の頭に手を置き、わさわさと頭を撫でてやった。
するとどうだろう。
不思議な事に子供は泣き止んでこっちを見たのだ。
不安そうに揺らぐ大きな瞳、今にもまた泣き出しそうなへの字の口元。
それでも声に出して泣き出すことは無かった。


「母親ならあいつらが探している。だから泣くな。」
「ぐすっ…、うん…!!」
『(坊ちゃん…!ぶっきらぼうですが…成長しましたね…!!)』


やっと僅かに笑顔を零す子供に安堵していると遠くからこの子供の名前を呼ぶ女性の声がした。


「エマっ!!」
「!! ままーーーー!!!」


母親の元へ駆け出す子供をそのまま視線だけ動かし、事の行方を見守る。
恐らくスノウ達があの子供の母親を探し当てたのだろう。
……よく、あの拙い情報だけで探し出せたものだ。

しっかりと抱擁をして離れない親子に少しだけ僕は目を細めてそれを見ていた。
子供の頃、ああやって抱き締められた事は無かった。
強いて言えば、マリアンくらいだ。ああやって抱き締めてくれたのは。
だから僕は昔からマリアン一筋だった。
それなのに、いつの間にかその間に入り込むように“あいつ”が現れた。
前世では気付くのが遅くなったが、徐々にあいつに惹かれていったのだ、今も……昔も……。

親子が抱擁する姿を近くまで来たスノウが僕と同じく目を細めて見ていた。
その口元は笑顔で染められ、本当に嬉しそうに笑っていた。
しかし他の奴らの姿が見えない。
それに疑問を抱いた僕はスノウの近くへ行き、問い質す。


「他の奴らは?」
「ロニは瀕死状態で、」
「は?」
『一体、向こうで何があったんですか…?』
「ロニが母親と一緒に行動してたんだ。それで色々あってナナリーに関節技を決められていたよ。」
「あぁ……」


その説明だけで、俄然納得いった。
あのバカの事だ。ナナリーの前でナンパでもしたのだろう。
……あいつも素直では無いな。


「カイル達はまだこの子の母親を探しているかもしれないから、探してくるよ。」
「僕も行こう。もうここに用はあるまい?」


2人であの親子を見たが、未だに泣きそうになりながら抱きしめあっているのが目に見える。
鼻を鳴らしその光景を見ていたが、何やら隣から視線を感じその視線の元を見る。


「……羨ましいかい?」
「何を馬鹿な…………、っ!?」


すると急にスノウが僕を抱き締めてきた。
その事に動揺していると、いやに落ち着いている声音でこいつが話し掛けてくる。


「私は……君の母親でもなければ、君が好きなマリアンでもない。だけど、君の友としてならこうしてあげられる。……だからそんな寂しそうな顔をしないでくれ。」


そしてキュッと少しだけ腕に力を入れたスノウ
僕は…そんな顔をしていたか?


「せめて、君に良い人が出来るまではこうするよ。」
「……」
『(はぁ……スノウったら……坊ちゃんの気も知らず……。)』


別に今こうなりたいとか、そういう強い願望がある訳では無い。
だが、僕の気持ちを“鈍感”なこいつに分からせてやるなら今しかないと思われた。
僕はスノウの肩を持ち、体を離れさせた。
そして、僕は意を決して口にする。


スノウ。僕は……」
「おねぇちゃーん!!」


あの子供がこいつに抱き着いた事で話が中断し、思わず大きなため息が出る。
母親がこちらを見て申し訳なさそうに頭を下げていた。
……分かってるならこいつを引き留めておけ。
そんな事を心の中で愚痴りながら視線を逸らせた。


『(惜しかったのにーー!!!!)』


歯痒い思いをしていたのは何もジューダスだけではなかった。
その相棒であるシャルティエもかなりヤキモキして、憤慨していたのだ。
スノウは子供に視線を合わせるようにしゃがみこみ、笑顔を見せる。


「ふふっ、見つかってよかったね?」
「うん!!ありがとう!おねぇちゃん!それから、おにいちゃんも!!」
「!!」


子供がこっちに笑顔を向けてくる。
僅かに驚きはしたが、鼻を鳴らし視線を逸らした。
しかしスノウはそんな僕の顔を見てクスリと笑った。


「皆さんありがとうございました。さぁ、エマ。行きましょう。」
「うん!またね!おねえちゃん!お兄ちゃん!」


母親に連れられながらも大きくこちらに手を振る子供に対し、スノウは律儀にも笑顔で手を振り返していた。
それはそれは嬉しそうな笑顔で。


「……で?ジューダス、さっきの話は何だったんだ?」
「……何でもない。忘れろ。」
「??」


不思議そうな顔をするこいつの顔にデコピンしてやろうかと瞬時に思ったが、向こうからやってくるカイル達を見て止めておくことにする。


「ジューダス!スノウ!エマのお母さん!見つかったんだってー!!?」


遠くから大きな声で叫ぶ甥を見て、再び嘆息する。
……もう少し落ち着きを持てないものか、と。
それに気付いた様子もなく甥は僕達の前で立ち止まり開口する。


「あぁ。見つかって本当に良かったよ。」
「うんうん!これで事件解決だね!じゃあ、また遊びに行こう!」
「お前ら、ひとつ言っておくが…ここには遊びに来たんじゃないんだぞ。」
「でも、たまには息抜きも良いわよね?」
「そうそう!そんな硬っ苦しいこと言わないでさ!アタシ達も楽しもうじゃないか!」
「よし!俺は美人なお姉さんを引っ掛けて……って痛い痛い痛い!!!」
「はーい!アンタは向こうで一緒に昼食の準備をしましょうねー!!」
「分かった!分かったからぁぁぁああああ!!!」
「ふふ…」
「もー、ロニったらナナリーがいないとすぐ女の人に行くんだから!!」
「でも、今はナナリーがいるから安心よね?」


ロニの耳を掴んで荷物が置いてあるパラソルへと向かうナナリーは、カイルとリアラの2人から見て何処かカッコよかった。
僕はそれを見て呆れた表情をしたが、スノウはそれを見て嬉しそうに笑っていた。
リアラがカイルの手を引っ張ってナナリー達の元へ駆けていくのを見ていると、スノウが今度は僕の手を引く。


「さぁ、行こう!レディ!折角のバカンスなんだ!楽しもう!」


上機嫌で僕の手を引く彼女の手は少しだけ赤くなっていた。
日焼けをすると赤くなると言っていたが、どうやら本当らしい。
今降りかかる太陽のように眩しい笑顔を浮かべた彼女は、変わらず僕の手を引いてカイル達を追っていく。
アイグレッテで塞ぎ込んでいたのが嘘のような光景に、僕は人知れず笑顔を零した。
あぁ、いつもこの笑顔でいて欲しい。
昔の…モネのように、いや、それ以上に笑っていて欲しい。
僕は心の底からそう思った。


「(今までも、これからも……こうやって思うのはお前だからだ。馬鹿。)」


彼女の手に付けられた精霊との契約の指輪よりも、彼女の耳に着けられた僕の瞳と同じ色のピアスが一際輝いて見えたのは気の所為じゃないと思いたい。
モネの時よりも長くなっていた、この澄み渡る空のような蒼色の髪を、握られた反対の手で軽く掴み柄にもなく口付けを落とした。
願わくば、彼女の笑顔が曇らない事を祈って。

そして、こんな柄にも無い事をしてしまったのはこの場の空気に当てられて、だ。
絶対、そうに決まっている。
その時の僕はそんなことを思う事がないくらい、楽しめていたんだと思った。








♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.。*゚♪゚゚+.・.










僕たちが束の間のバカンスを楽しんでいると、突然事件が起こった。


「きゃああああああ?!!」
「「「「!!!?」」」」
「……何事?」
「放っておけ。どうせ珍事だろう。」
「誰かっ!あの子を助けてっ!!!」


腰を抜かしている女性が海の方へと指を差し、誰もが海を見る。
しかし何が起こっているのか分からない周りの奴らは目を凝らして何がいるのかと目を見張っていた。……ただ1人を除いて。


「サーチ」


頭に手を置き、目を閉じる彼女は探知を開始していた。
……またこいつは、厄介事に首を突っ込んで…。
知らず知らず溜息をついた僕を知る由もない彼女は、探知結果に頷きすぐに海を見た。


「……セルシウス、力を貸してくれないか。」


ここからでは精霊の声が聞こえないが、何か話している様子の2人。
僕はかなり嫌な予感がして、行かせまいとスノウの手を掴んだ。


「お前、一体何をする気だ。」


事後報告ではなく、ちゃんと事前報告をしてからやってくれと何度言えば分かるんだ。こいつは。


「子供が溺れている。私が助けに行く。だから君は_」
「僕が行く。お前はここにいろ。」
『でも、どうやって助けるんですか?!僕も探知して分かりましたが、かなり遠くの方まで流されてますよ!?』
「凪のように見えるけど、奥の方はもしかしたら潮の流れが変わっているのかもね…。だからセルシウスに手伝ってもらう。」


彼女の左手の薬指に着けられた契約指輪。その水色の宝石が輝く。


「君にも危険が及ぶかもしれない…。それでも、君を頼っていいかい?」
「ふん。お前なら端から僕の答えは分かりきっているだろう?それに前世であれだけお前と2人で任務をこなしてきたんだ。今更これくらいどうって事は無い。」
「!! 頼んだよ、リオン!」
「分かっている。お前は無理しない程度にやれ。」


事前に打ち合わせなどないが、何となく彼女のやる事が分かって、いつでも走れる準備をしておく。
彼女が銃杖を構えたのを見て、僕は彼女の隣に立つ。
同時にセルシウスが召喚され彼女の銃杖へと手を添えた。


「凍てつく氷で彼の者の道まで切り拓け…!セルシウス・ディマイズ!」


銃杖の先から氷の息吹が発射され、海が途端に直線上に凍り付いていく。
恐らくこの先に溺れた子供がいるのだろう。
よくこんな作戦を思いつけるな、と感心しながらその氷の道を走り出す。
周りの悲鳴やらはこの際、無視だ。


『坊ちゃん!100m先に子供がいます!かなり危険な状態かと!』
「分かった。」


氷の道は踏む感じではしっかりしているので割れることは無いだろう。
問題は___


「キシャアアア!!」
『左後方から魔物接近中です!』
「__翠風、エアスラスト!」


海岸で待っているスノウが海から現れた魔物にいち早く気付き、魔法で援護をしてくれる。
やることが分かれば自分達も援護するとカイルたちも頷き合い、各々武器を構え晶術の詠唱に入った。


「お前ら!間違っても火属性の晶術は使うな!氷が溶けるからな!」


念の為にそう叫ぶと1人だけ慌てた声で詠唱破棄する奴がいて、思わずほくそ笑んでしまう。
誰か、なんてすぐに分かったのが何とも言えないが。


「「「「了解!」」」」
『坊ちゃん!あと20m先です!』


最後の最後まで気を抜かず、敵はスノウ達に任せていればようやく溺れている子供をみつけ、僕はすぐさま海から引きずり出し、氷の上へと乗せた。


「げほっ!げほっ!」
「ジューダス!急ぐんだ!その海域は潮の流れがすぐ変わる!!そうなれば氷の道が途絶えてしまう!!」
スノウの言う通りです!早いところ戻りましょう!!』
「全く……僕達はいつからライフセーバーのような仕事を始めたんだ。」


溺れていた子供を抱え、元来た道を急いで戻っていく。
変わらず敵はスノウ達が魔法や晶術で倒してくれているので、残念ながらシャルの出番はなさそうだ。


海岸に戻るといち早く駆けつけたのは溺れていた子供の親だった。
子供を下ろすと親が子供を強く抱き締め、説教に入っていた。


「ジューダス!」
「大丈夫?!ジューダス!怪我とかしてない?!」


甥が心配そうに僕の体をジロジロ見てくるので大丈夫だと言っておく。
スノウも初めは心配そうにしていたが、僕に怪我がないと分かると安堵のため息を吐いていた。


「流石に何人も乗ったら氷が割れるってスノウに止められたんだ。だから出来ることをしようって皆でなって、それで詠唱を頑張ったんだ!」


一生懸命さが伝わってくるような、そんな顔をした甥は満足そうに笑っていた。
人の役に立つのが嬉しくて仕方ないのだろう。
僕としては面倒こうむりたいが。


「流石だね。迷いなく溺れていた子供を掴んでいて驚いたよ。」
「シャルが探知していたからな。場所はすぐに分かった。」
「あんな沖にもなると、やっぱ魔物が出るんだねえ?アタシは見ててヒヤヒヤしたよ!」
「お前も火属性の晶術使おうとしてたもんな。」
「仕方ないじゃないか。それしか覚えてないんだからさ!」


口をへの字にしたナナリーにロニが突っかかっていったので後の事はだいたい想像がついた皆はすぐに視線を逸らし、別の事を話し出す。


「でもさでもさ!海が凍るのも凄くない?!精霊の力って言ってもあんなに一気に凍らせられるのは凄いと思う!」
「そんな精霊に慕われているスノウはやっぱり凄いわ!」
「あはは。ありがとう、リアラ。」


セルシウスと話していたスノウはリアラの言葉にお礼を言っていた。
子供の親も僕たちにお礼を伝え、帰って行った。

……何だかんだ、今日だけで色んな事があった。
疲れた、とパラソルまで移動し腰を下ろせばスノウがやって来て飲み物を渡してくれる。
遠慮なくそれを貰って飲んでいるとスノウが僕の横に座った。


「色々な事があったけど……楽しかったね?」
「もう面倒事は勘弁だぞ。」
「ふふ。少し休むといい。君が一番疲れているからね。」
『いやぁ、本当に色々ありましたね!でも楽しかったです!』
「……お前は何もしてないだろう?」
『失礼な!ちゃんと探知してましたよ?!』


納得がいかないと怒り出すシャルだったが、僕はその声を聞きながら横になった。

……あぁ、疲れた。

横でクスクスと笑っているスノウへ睨みを効かせれば肩を竦める。
そんな僕たちを置いて、向こうではカイル達が楽しくやっている声が聞こえてきた。


「……楽しいな…」


ふと呟かれた声は本当に小さな小さな声だった。
耳を澄ましていなければ聞こえていなかったかもしれない程小さく、そして寂しそうな声音だ。
まるで、終わるのが寂しいと言わんばかりに。
少しでも休む為に目を閉じようとしたが、ちらりと横にいる彼女を盗み見る。
海の方を見ている彼女は僕の視線に気付くことなく、口元に微笑みを湛え、目を細めていた。
僕はわざとにそれを見なかったことにして目を閉じる。


「……そんなに気に入ったなら、また来ればいいだろう?」
「!!」


予想外の言葉だったのか、言葉を失う彼女。
僕の方を見ているのだろうが生憎閉眼している僕には彼女がどのような顔をしているかは分からない。
だが、その後に寂しそうな笑い声が耳に届いた。


「君は……。いや、なんでもない。…………そうだね。また来よう、皆で。」


やけに寂しげな彼女の声に、僕は目を開けジトリとした視線を送る。


「深く考えすぎだ。お前の悪い癖だぞ。」
『そうですよ!また皆で来ればいいじゃないですか!』
「皆で……また……」


恐らくだが、未来を知っているこいつの事だから、もうここには来れないと分かっているのだろう。
だから深く考えすぎだと言っているのだ。
来たいなら来ればいい。
そんな願い、あいつらなら絶対に何がなんでも叶えるだろう。
僕らを無理やりにでも連れて、またここに来るのだろう。
僕は溜息を一つ吐き、身体を起こした。
目を丸くし、僕を見る彼女の髪にそっと触れる。


「お前がそう願うならあいつらは何がなんでもお前をここに来させるだろうな。例え、僕が止めたって止まりやしない。お前なら分かってるんじゃないのか?」
「……ジューダス。」
「お前はこの世界の未来を知っている。だが、今のところお前の知っている未来を辿っていないのだろう?またいつかこうして脱線すること位、可能性として大いに有りうると僕は思うがな。」


サラサラの蒼色の髪から彼女の頭へと手をやり、撫でてやる。
静かにそれを受け入れていた彼女は、僕の言葉をようやく呑み込んだのか、笑顔でこちらを見た。


「君は……相変わらずかっこいいね。昔も、今も……君には叶わないよ。」
「ふん。今更なことを。」


撫でる手を止め、再び横になったが途端に辺りが賑やかになって僕は思わず眉間に皺を寄せた。


「……またか……」
「ふっ、ははっ!君、眉間のシワが凄いことになってるよ!」
スノウ!そんなことを言ってる場合じゃないですって!』
「分かってるって。レディ、君は休んでいるんだ。いいね?」


頭を撫でてくるスノウを一度無視し、ちらりと騒動の中心を見遣れば、魔物が一般人に襲いかかっているところだった。
すぐさまそれに反応し銃杖を構えた彼女を見て、僕は大きなため息を吐いた。

やはりこうなるのか……。

起きようとする僕を起こさないように片手で僕を押え、器用に詠唱を唱えた彼女は一瞬にして魔法を仕上げていた。
それを発動させ魔物を退治すると、にこりと笑って僕の方を見た。


「君はここで休んでるんだ。」


有無を言わさないその声音に引き攣った笑いになりそうになり、渋々と頷くと頭を撫でられた。
……僕は餓鬼じゃない。
しかし頷いてしまった手前、動くとろくな事にならないであろうことは火を見るよりも明らかだ。
ここはカイル達を信じて僕は無理やり目を閉じることにした。
しかしそんな僕の決意も、とある一言で崩れ落ちる事になる。


「え、ちょっと!スノウ!無茶しすぎだって!ジューダスに怒られるよ?!」
「……」
『これじゃあ、ゆっくり休んでもいられませんね……』


僕は今日何度目か分からない嘆息をして身体を起こす。
……どこだ、無茶をしているあの馬鹿は。


『あー……』


何やら分かった様子のシャルの声に、無言で睨みを効かせる。


スノウが魔物を一掃しましたね……。結構派手にやってるので、怪我をしてないと良いですけど……』
スノウのやつ……、後で覚えていろよ……」


帰ってきたら説教だ、と僕は再び体を横たわらせるのだった。

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