第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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一通り空洞内を見終わった私は今一度、空洞内を見渡した。
あの後、他の物も調べてみたがめぼしい事が書いてある機械はなく皆が逆に落ち込んでいた。
でも私からすると、あれだけでも充分な収穫量だ。
だから皆には落ち込まないで、と伝えておいた。
「他の拠点か……」
『探すのは一苦労だな?主人。』
私の指にある指輪からブラドフランムが話し掛ける。
これも大分慣れてきたよ。
「そうなんだよね。他の拠点を探すとなると骨を折りそうだ。」
『……私たちもそれを探し当てるのは至難の業だから……』
「ううん。いいよ、セルシウス。その気持ちだけでも充分だ。」
アイグレッテへ戻った私たちはいつもの宿屋に部屋を借りて一夜を過していた。
今は朝食も終わり、アイグレッテ内を散歩中だ。
改めて両手の指輪を見つめると、4つの指輪がキラリと一瞬光り輝く。
精霊たちが反応してくれたのが嬉しくてその場で笑みを零した。
「あれから修羅にも会えていないし……。はてさて、どうしたものかね?」
『いっそ、別の精霊の契約にでも行ったらー?』
『そ、それがいいと思います……』
ノームとグリムシルフィがそう話すので頭の中で残りの精霊を思い浮かべてみる。
まずは四大元素である水の精霊シアンディーム。
それから雷の精霊ヴォルトに、元の精霊マクスウェル。
闇を司る精霊シャドウ、光を司る精霊アスカ、月を司る精霊ルナ……待てよ、キリがないな?
一瞬考えて両手を見遣る。
全部が全部、契約の指輪ではないだろうが……、契約の指輪をするならば私の指では足りないのではないだろうか?
『この世界には主人が知っている精霊が居ないこともある。例えば、心を司る精霊ヴェリウス。』
「あぁ、居たね。」
『……オーディンやヴァルキリーなんかもこの世界には存在していない……』
「ふむ。なるほど。あまり知られていない精霊は居ないのかな?」
でも、皆がルナやアスカなどの精霊は否定しない所を見るときっとこの世界にも存在するのだろう。
まぁ、ルナやアスカ、シャドウなんて高位な精霊拝めるだけアレなのだが……。
『ちち、ちなみに……ご主人様。次はどの精霊と契約したいんですか……?』
「うん?んー、そうだね……。やっぱり一番は四大元素である水の精霊シアンディームとは契約したいと思っているよ。」
『『えぇ……』』
2人の声が重なり、目を丸くする。
そういえばセルシウスも、ブラドフランムもいつぞやあまり乗り気では無かったことを思い出す。
それをグリムシルフィやノームが笑っている。
やはり相性が大事なのは分かる。
分かるからこそ、ブラドフランムの反応は分かるもののセルシウスのその反応には、目が点になる。
「セルシウスはシアンディームが苦手なのかい?」
『……苦手…』
「意外だなぁ。」
『ご、ご主人様の思っているシアンディームとは…別人だと思った方がいいかと……』
『ほんと、それ!ビックリすると思うよー?』
「??」
そう言われると益々会いたくなってきた。
一体どんな人だろう。……いや、どんな精霊だろう。
『あ!いたいた!!おーい、スノウー!』
シャルティエ単独の声がしたので思わず目を見張り、辺りを見渡す。
遠くの方からジューダスと共にシャルティエもやってくる。
……そういえば、もう隠す必要もなくなったから腰に提げていたのだったか。
「お前、気配が全くないんだから1人で勝手にどこかに行くな。探すこっちの身にもなれ。」
『そうですよー!僕の探知で拾えないんですから単独行動は慎んでください!』
「ははっ、悪かったよ。2人とも。」
太陽の光できらりと光る蒼色のピアス。
それに目を奪われ暫く見てしまう。
私の髪色と同じそのピアスは、ここアイグレッテで彼にプレゼントしたものだ。
デートは出来ていないのが心残りだったのだが、もしかして今日がチャンスなのでは?
「??」
ピアスをしばらく見ていたからか、彼が自身の蒼色のピアスにそっと触れた。
「あぁ、いや違うんだ。君のピアスが太陽に当てられて一層輝いていたから気になってね。レディの黒髪によく映える色だね?」
「……。そういうお前こそ、蒼色の髪にその色はとても映えていると思うぞ?」
私に着けられたピアスにそっと触れ、優しい笑を零したジューダスに目を見張る。
そして胸には暖かいものが溢れてくる。それは何だか擽ったい気持ちだ。
「ふふっ、何だか擽ったいよ。」
「…ふっ」
私の言葉に嬉しそうに目を細めた彼の手は名残惜しそうに離れていく。
その手を思わず掴んでしまった所でようやく今の事態に気付き、自分でも驚いていた。
「スノウ?」
「あぁ……いや、なんでもない。気にしないでくれ。」
どうしたことだろう。
今までもそういう事はあったが、無意識というのは怖いものだ。
私はゆっくりと彼の手を離した。
「因みに、カイルはもう起きてるのかい?」
「……起きてると思うか?」
「聞いた私が悪かったよ。」
違う話題を無理矢理捻り出した私だったが、意外にも良い話題を選んだものだと心の中で安堵していた。
「今日の予定とか、何か聞いてる?」
「皆はお前に従うと言っていた。他に行きたい所は無いのか?」
「私の、行きたい所……?」
確かに今は何をするでもないが、リアラはそれでいいのだろうか?
「リアラは何も言って無かったのか?」
「あぁ。今はただスノウが心配だと言っていたぞ。何か出来る事があるなら協力したいとも。」
「そうか。皆、頼もしいことだ。」
「……一人を除いて、な…。」
遠い目をしたジューダス。
きっと自分の甥のことを言っているのだろう。
未だ寝ているというし、彼のその顔も頷ける。
「今、精霊達と話していたんだが…、そろそろ新たな精霊と契約してもいいんじゃないかって。」
「……それはまた急な話だな?」
『次はどの属性なんですか?』
「目当ては水の精霊シアンディームなんだが、場所に検討がつかなくてね?他の精霊でも契約出来たら嬉しいのだが…」
「水、か…」
『大体精霊は自分達の属性値の多い場所を選ぶと言いますから、水の精霊なら水の多い場所なんじゃないですか?』
「水の多い地域……」
ひとつ思い浮かぶのは、アクアヴェイルだが……。
あそこは今でも鎖国しているのだろうか?
原作ではTOD2でアクアヴェイルは訪れた事が無かったはずだ。
だから今どんな状態になっているのか分からない。だが、見に行く価値はあるのでは無いだろうか?
「海洋都市アマルフィならどうだ?あそこなら水が多い場所だ。」
「……へ?」
待て待て待て…。
今、聞いたことの無い場所の名前が飛び出さなかったか?
いや、違うと思いたい……。
「ジューダス…?もう1回聞いてもいいかい?……何処だって?」
「何を言っている。海洋都市アマルフィだと言っているだろう。」
『確かにあそこなら水が多いですよね!それに観光地ですし、今の自由な時にいいかもしれません!』
「アマルフィ…?……観光地?」
私が居るのは、本当にTOD2の世界か?
いやだが…、目の前にいるのはジューダスであり、リオンだ。
私が彼を見間違えるはずが……。
「?? どうした?具合でも悪いのか?」
『悩んでることがあるなら話してくださいよ!』
「えっと、じゃあ聞くんだけど……、アマルフィってどこ?」
『へ?』 「は?」
この反応だ……。
もしかして私の記憶にないだけで、アマルフィはこの世界に実在していたのか?
あんなに熟知していたはずのデスティニーの世界で?
『……ふふ、スノウ混乱してる……』
『まぁ、無理もない。』
『ご、ご主人様……、海洋都市アマルフィはこの世界に実在します……。ただ、海洋都市アマルフィは18年前、神の眼の騒乱時に地殻変動で出来た大陸なんです……!で、ですから…ご主人様が知らないのも無理はないかと…!』
『だよねー?その時スノウは居なかったからねー?』
「地殻…変動……?まさか、そんな……」
私の知らない間にそんなことになってるなんて……思いもしなかった。
私がこの世界に来た時には既に、原作とかけ離れていたわけか。
「海洋都市アマルフィはアクアヴェイルの更に南に位置する、その名の通り海洋都市だ。」
『海が物凄く綺麗で、観光客が押し寄せるくらいなんですよ?きっとスノウも気に入りますって!』
「お前のその顔を見ると、知らなかったようだな。」
「あぁ…。私の知っている地図では海洋都市なるものは無かったから驚いているよ。でも、そうか。海が綺麗な観光地か…。これはもう行くしかないね?」
今のうちに楽しめるだけ楽しんでおこう。
だってこれから私達はまた、辛い旅路になるだろうから。
「そうと決まれば、早速カイルを起こしてくるよ!」
私は彼に手を振って先に宿へ向かっていく。
海洋都市で、観光地……。
少しだけ……いや、とても胸が高鳴る。
このメンバーで観光なんてとても素敵なことだと思う。
だったら、やることは一つ。
やるからには楽しまないと、ね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわぁ!!きれいだね!!」
「本当ね!私こんなきれいな海初めて見たわ!」
「こっちは湿っぽい暑さじゃないんだね!アタシのいたホープタウンとは大違いだよ!」
「よーし…美人なお姉さんをナンパするぞ…!!」
それぞれが感想を言い合う中、一人変なことを言うやつがいるため苦笑いをしておく。
しかしみんなが言う様に、ここは本当に綺麗な海だ。
エメラルドグリーンとはよく言ったもので、本当にその色に見えるし、何なら水が澄んでいるために深いところまで見える。
「ここの海はお前の瞳のような色だな。」
「意外だね。君がそういう事言うなんて。やっぱり観光地であるここが、君にそういう気持ちにさせるのかな?」
『確かにここに居ると楽しくなっちゃいますよね!見ていて分かりますよ!』
「お前ら…!」
俯き静かに拳を握る彼を見たので、こっそり逃げようとする。
分かっていたけどプライドの高い人に茶化すもんじゃないね。やっぱり。
…分かってたけど。
海を見続ける仲間達には悪いが、私は彼の目をかいくぐりこっそりと街中へと消えた。
__潮騒の音や町の喧騒、そして鼻につく潮の香り。
それらすべてが五感に届き、今だけはやらなければならない使命も忘れられる。
いい意味で、少しはリラックス出来ているようだ。
『ここは観光地だけあって賑やかだね~?』
『へ、平和な証拠です…!』
「うんうん。やっぱり平和が一番だね。どの世界も平和が一番さ。戦争や諍いなんていらない。ただただ日常を送れるのが一番だ。」
『経験したことがあるような年寄りの言い方だな。』
『……前世であれだけあったら、ね…』
「まぁ、あれは仕方ないよ。私は絶対に彼を助けたかったんだから。」
相変わらず指輪の中の精霊たちと話しているが、周りの誰もそれを気にする人はいない。
周りの喧騒が賑やかだからそういう芸当が出来るのだ。
街を見て回っていたが、急に後ろから誰かに腕を掴まれたため驚いて振り返る。
すると息を切らしたジューダスが私を逃がさないようにと腕を余計に強く掴んだ。
「はぁ、はぁ。探したぞ馬鹿。」
「おやおや。もう見つかるとはね。」
『もう一人でいなくならないでくださいよ!びっくりするじゃないですか!』
「いやレディが静かに拳を握ったのを見たから逃げないといけないかなって。」
「分かってるじゃないか。」
『スノウが逃げるから僕が制裁を受けたんですからね?!』
辺りを見渡してみたが他の皆は居なさそうだったので彼に直接聞いてみることにした。
「皆は?」
「あいつらなら僕たちのことを忘れて海に泳ぎに行った。」
『ここ、海洋都市アマルフィは観光地だけあって海岸があるんです!それこそ自由に泳げるような海岸が!あんな綺麗な海を泳げるなんて中々ない機会ですよ?!スノウも泳ぎに行きましょうよ!坊ちゃんも!』
「お前は泳げないだろうが。」
『はい!ですから坊ちゃんたちが楽しそうにキャッキャウフフしてるのをしっかり見てま…ぎゃああああああ!!!』
すぐに制裁を加えた彼の額には青筋が浮かび上がっている。
それを見て肩をすくめたが、私は彼の手を取り海岸へ向かって走り出した。
「お、おい!?」
「折角の休暇なんだ!シャルティエには悪いけど存分に楽しませてもらおう!」
私のその様子に一瞬目を丸くした彼だったが、意外にも彼の決意は早く、今度は私を追い越すと私の手を引っ張った。
私も負けじと走るが彼もまた追い越すという妙な図が出来上がっていた。
でもその二人の顔には笑顔が絶えなかったのをシャルティエはばっちり見届けていた。
コアクリスタルが嬉しそうに光を映し出していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
__アマルフィ海岸
そこは海洋都市アマルフィの中でも有数の観光地の一つ。
私たちはそこで水着に着替えバカンスを楽しんでいた。
お喋りな剣とお喋りな指輪たちは無情にも外され、ベンチの上でお互いに羨ましそうにその様子を見ていた。
『僕たちは海からくる潮のせいで錆びますもんねー。』
『折角ならスノウと遊びたいんだけど?!』
『ご、ご主人様と一緒に…砂のお城作りたい…』
『………暑い……』
『そういえば主人は暑さが苦手なのによく平気なものだ。…あぁ。セルシウスが涼しくしてやってるのか?』
『……うん…そう。』
『だからスノウ、あんなに元気そうなんですね。』
精霊たちと剣の話し声は、誰として聞こえることはない。
だから心置きなく話しているのだが、そんな平和そうな話の途中で近付く者が一人いた。
「ままー!ここに指輪と包丁があるー!」
『ちょ、包丁って何ですかぁぁあ!!!』
『子供から見たら剣なんて馴染みないんじゃない?』
そう。
小さな子供がシャルティエたちの近くに寄ってきたのだ。
物珍し気にその子供はしばらく見ていたが屈託ない笑顔でシャルティエと指輪を手に取るとその場から走り去っていった。
『ええ?!!!ぼ、坊ちゃん!!!スノウ!!助けてくださいぃーーーーー!!!!』
『え、ちょっとマジ?!スノウってば指から外すから!!』
『……聞こえてないと思う。』
『主人を待つ他ないな。』
『な、なんでそんな冷静なんですか…!!?』
『他に出来る事はあるまい?』
『坊ちゃーーーーーーん!!』
結局、その叫び声は彼らに届くことはなかった。
「……ん?」
「どうしたの?スノウ」
「誰かに呼ばれた気がしたんだけど…気のせいかな?」
「知り合いなんていないだろう?」
「そういえばロニは?さっきから見当たらないけど…」
「あいつなら馬鹿丸出しであそこに居るぞ。」
ジューダスが指さした先には手を頭にやり、格好つけようと声色を変え、女の人に言い寄っているロニの姿があった。
それを見た仲間たちの目が侮蔑の視線へと変わっていく。
スノウ一人だけが苦笑いで終わっているが、皆は見なかったことにしたのか視線を元に戻した。
「スノウったら露出少ないわね。」
「折角女の子なんだし、もうちょっと良い水着なかったのかい?」
「これで十分だよ。日焼けすると赤くなってしまう質なんだ。なるべく紫外線対策しておきたいしね?それに…、こんなに美しい女性たちを変な男のナンパから守る騎士がいるだろう?」
一見すると男と見間違えられる格好でもあるのをリアラとナナリーが不思議そうに見ていたのだ。
ちゃんと上着を着て胸のところの強調もないため、中性的な格好だった。
「ふふっ、もうスノウったら!」
「アタシはアンタの水着姿を期待したんだけどね?…それにさ、アタシたちをナンパしてくる奴なんてこうだよ!」
関節技を決める仕草をするナナリーに笑うとカイルも話に加わってくる。
「オレもリアラが変な人に声かけられてたら守るよ!」
「カイル…!」
「じゃあ、ナナリーとレディは私が守ってみせるよ。」
「…レディ?」
ジューダスを見るナナリーは彼の額に青筋が浮かんでいるのを見て苦笑いした。
ナナリーはジューダスの気持ちに気付いているからこそ、彼が不憫だと思うのだ。
それを露とも知らないスノウは彼が怒りに身を任せ、シャルティエを取ってしまう前に隠しておこうと考え、シャルティエの方向を見た。
「?!」
「どうしたの?スノウ。」
「レディ!君、シャルティエをどこに置いた?!」
「前から言っているが僕はレディじゃないと何度__「お小言なら後で聞く!!それよりもシャルティエがない!!」」
「!!」
スノウの言葉に誰もが息を呑み、自分たちの荷物が置いてある方向へと目を向ける。
そこにあったはずのシャルティエもなければ、スノウが着けていたはずの指輪もない。
自分たちの荷物置き場であるパラソルの近くに寄って、皆で確認をしたが何処にも見当たらない。
スノウはすぐさま頭に手を置き、得意の魔法で探知を開始した。
「サーチ」
脳内で浮かび上がる地図内で反応を探すと、一点だけゆっくり動いてはいるが反応が見つかる。
まだこのアマルフィ海岸に居ることが分かり、急いで反応のあった場所へと走り出す。
ジューダスもそれを追いかけていくのを仲間たちも慌てて追随する。
…一人だけ、ロニはまだナンパに勤しんでいた。
「スノウ!分かったのか?!」
「犯人はまだこのアマルフィ海岸にいる!だけど!何故かゆっくりとした動きで動いているんだ!」
「危機感がない敵か?!」
「分からない!とにかく手遅れになる前に急いでいこう!」
速度を上げたスノウにジューダスも速度を上げていく。
そして目当ての場所近くになり、スノウ達は一度立ち止まって辺りを注意深く見た。
「この辺りなんだな?」
「その筈なんだけど…。………?」
スノウが一点を見つめると同時にジューダスもそっちへと視線を動かし、目を丸くする。
だって、シャルティエを持っている犯人は可愛らしい小さな犯人だったからだ。
「うっ、うぅ!ままーーーー!!!」
『ママならすぐ見つかるからさ、泣き止んでよ…?』
『迷子じゃん。どうするのさ?』
『ふっ。ここは主人に任せよう。』
ブラドフランムがこちらに気付いたのか、そう話しているのを聞いてスノウが子供に近づいた。
「お母さんとはぐれたのかい?」
「うん…!」
「まさか、こんな子供に持っていかれていたとはな…。」
『坊ちゃん!!よかった!!このままどこかに持ち去られるところでしたよ!!』
後から仲間たちが息を切らしてやってきたのを子供が目を丸くして見ている。
私は子供の頭を優しく撫で、安心させるように笑顔で子供に母親の特徴を聞いた。
「えっと…、茶色の髪に…、えっと…」
「ゆっくりでいいよ。思い出せるだけ思い出してほしいんだ。私たちがお母さんを探してあげるからね。」
「迷子かい?」
「というか子供が持って行ってたのね…。気付かなかったわ…!」
「良かったね、二人とも!無事見つかって!」
「まぁ、別の厄介ごとが増えたがな。」
一生懸命考えている子供にその言葉が聞こえなかったのが救いだが、もし聞こえていたらどうするつもりだとジューダスを咎めるように口を尖らせ見遣ると、私のその様子に彼は僅かに後退した。
カイル達も協力してくれるとのことで、母親の特徴を少しずつ聞き出すとどうやらこの子の母親は”茶髪”、”グラマラス”、”高身長”のようだ。
あまりにも少ない情報だが、やるしかないと仲間たちと頷きあう。
「君の名前教えてくれるかい?お嬢ちゃん。」
「エマ…」
「エマちゃんか。じゃあ、エマちゃんはあのお兄さんと一緒にここで待っててくれるかな?」
「…おい、勝手に決めるな。」
「良いよね?”お・に・い・ちゃ・ん”?」
”お兄ちゃん”と強調させれば「うぐ」と口を噤んだ彼は渋々頷き女の子の近くに行ったのを私は満足そうに見遣る。
そしてカイル達を見て私は大きく頷いた。
「よし。彼女は彼に任せて私たちは母親を探そう。」
「確か、茶髪でグラマラスで…」
「高身長、よね?…こんな人の多いところで、それだけの情報で見つかるかしら…?」
「大丈夫だよ!皆で手分けしたらきっと見つかるよ!」
カイルの言葉に勇気づけられた二人は広い海岸を見渡し探し始めた。
二手に分かれることにした私たちはカイルとリアラ、私とナナリーで探すことに。
「さて、探すとしますかね。」
「こう言っちゃなんだけど…、ナナリーはロニのそばに居なくていいのか?」
「何でアタシがあんなやつの近くに居なくちゃいけないんだい。」
「ふふっ…。そうか。」
「じゃあ、反対に聞くけどさ?アンタ、ジューダスをレディって茶化してるけど、あいつのことどう思ってるんだい?」
「ん?レディのこと?」
どう思ってるって…。
そりゃあ、最推しだし…かっこいいし、きれいだし…可愛いし…。
茶化すと怒ったり拗ねたりする姿も素敵だ。
泣きそうな顔は見たくはないけど、それでも私は彼を泣かせてしまうのが得意なようで……。
だけど…私にとって彼は___
「スノウ…?」
「……大切な人だ。」
「え?」
「自分の命を懸けてもいいくらい……大事な人なんだ。前世、それこそ自分の身を挺して守ったくらいには。己が滅ぼうともやめられないんだ。こればっかりは。彼が幸せならなんでもいいんだよ……私は。それがどんなことでも、してあげたいと思うよ。」
「…アンタ……」
「願わくば、彼が笑顔でいられる世界に。それが私の願いであり…彼への気持ちだ。」
難しい顔になるナナリーの背中を押して笑ってやる。
そんなことは今はどうでもいいんだ。
早く女の子の母親を見つければならない。
「さ、話し込んでしまったね?行こうか。」
「あ、うん…」
何か腑に落ちないような顔だったが手を繋ぎはぐれないようしっかりと繋いだ。
しかし…、こう人が多いと探知もできないから困ってしまう。
不安そうな顔をするナナリーに気付かぬまま私は辺りを見渡していた。