第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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あの店で働き始めて5日が経とうとしていた。
流石に全員で働いた事によりお金は着々と溜まっていき、旅に余裕が出来るほどまでには溜まったと思われた。
その間、宿屋の一室を借りていた私達。
そんな時だった。
「…駄目だ!容認しかねる!」
『そうですよ!危険すぎます!そんな……一人で〈赤眼の蜘蛛〉に乗り込むなんて…!』
こうして口論……まではいかないが、ジューダスを説得するのにスノウは時間をかけていた。
ここまでイベントを進めるチャンスは何度もあった筈だ。
だが、それが一向に起きる気配がしない。
もしかしたら〈赤眼の蜘蛛〉の仕業かもしれないし、それに彼らを巻き込むのもどうかとスノウは思っていたのだった。
彼らに正体をばらして、仲良くなって、真の意味でも仲間だと言える存在になって……、それでも、いやそれだからこそ彼らの旅が進まないのがスノウには頂けなかった。
確かに何も起きないというのは幸せな時間だ。
だが、それではいけないのだ。
精霊達との約束もあるし、何より本当にカイル達が幸せな時代になっているとは現状言い難いのだから、それをスノウは危惧していたのだ。
「分かってくれないか、レディ…」
「分かる訳ないだろう?!お前は時々そんな事ばかり口にする!何故僕達を遠ざける?!」
「遠ざけている訳では無いんだ。少し様子を見に行くだけだ。……以前君達と再会したあの場所……、ハーメンツヴァレーの空洞。あそこに何かあるかもしれない。もしかしたら奴等の足掛かりになるかもしれないんだ。許してくれないか?」
無理矢理彼らと離れる様な事はしない。
それではこの間仲間だと言ってくれた彼らに申し訳ないし、顔向け出来ないから。
だからこうして説得して……
「だったら僕達も行けばいいだろう?!何故それが分からない!!?」
『一人で探すより、複数人で探した方が効率は上がります!だから一人で行くなんて、そんな寂しいこと言わないで下さいよ!』
……まぁ、説得はかなり難航しているが。
私が苦笑を滲ませると同時に扉から恐る恐るといった感じで皆が様子を見ていた。
恐らくジューダスがここまで激昂しているから様子を見に来たのだろう。
ここまで怒る彼も中々見られないからね。
一度クスリと笑い、手招きをした。
するとジューダスはそこでようやく彼らの存在に気付いたのか、バツが悪そうな顔で視線を逸らせた。
「一体どうしたのさ?ジューダス。向こうまで声が聞こえてきたよ?」
「スノウと喧嘩してるの?」
「へぇ?アンタ達って一応喧嘩するんだね。」
「バッカ、お前は少し黙ってろ…!」
ナナリーは不思議そうにロニを見ていたが、ロニは呆れた様に首を振るだけだった。
「…丁度いい。スノウ、こいつらにも聞いてみろ。こいつらが良いと言うならば僕も止めはしない。こいつらが“良い”と言えばだがな。」
「「「???」」」
「ははっ、違いない。説得する人が増えたら私には勝ち目はないじゃないか、ジューダス?」
「ふん。だからそう言っているだろう?」
腕を組み勝ち誇った顔で私を見るジューダスに再び苦笑を滲ませ、肩を竦めさせた。
皆は訳が分からないとでも言うように顔を見合わせている。
「皆、よく聞いてくれ。今から少しだけ一人で行かないといけない場所があるんだ。今日中には戻るつもりだけど、もしかしたら明日になるかもしれなくてね?カイル、許可を貰えないだろうか?」
「え?どこに行くの、スノウ。」
「ジューダスがあんなに怒ってたんだもの……そこは危険な場所じゃないの?」
「え?!だ、ダメだよ!!そんな所に一人でだなんて!」
「この間、アタシ達は仲間だって言ったばかりだろ?アンタも、少しは仲間を信じてみなよ?」
「水くせえな!スノウ!俺達に黙っていくつもりだったのかよ!」
「ほらな。」
『さっすが、皆です!これでスノウ、分かりましたよね?一人なんて絶対行かせませんよ!!』
「……」
彼らの言葉の最中、ずっと苦笑いで困ってしまう。
彼らは優しい。
だからこそ、危険な場所へは行かせないと思っていたが……、それも彼らには通用しない。
それらが、今は、私の杞憂だと思えてしまうのが不思議なんだ。
「こいつは以前、僕たちが捕まっていたあのハーメンツヴァレーの空洞に行きたいと言っているんだ。」
「「「「え?!!」」」」
「そこまで言っちゃうかい?」
「当然だ。」
「一人でなんて危ないよ!うん、オレ達も行くよ!」
「そうよ!あそこ、何だか不気味だもの!スノウ一人では心配だわ……。」
カイルとリアラが私の手を取り、うんうんとお互いに頷いている。
「(これは……流石に説得は難しそうだな…。) 分かったよ。皆で行こう。」
「よしっ!そうと決まればなんか食べないと!」
「お前は……そればっかじゃねぇか!」
「腹がすくのは元気な証拠じゃないか。よし、アタシがなんか作るよ!」
「やった!ナナリー、今日はなに!?」
ナナリーとカイルが楽しそうに厨房へ向かい、その後をリアラも追いかけていく。
ロニだけはこちらを見て、こちらに見せつけるがごとく大きなため息を吐いた。
「お前なぁ、もう少し仲間なんだから頼れよ。稽古だけじゃねぇ。他の事も頼れるようになれ。じゃねぇと、あいつらが黙ってないぞ?」
それだけ言うとロニは私の返事も聞かずに皆の後を追っていってしまった。
私はこのこそばゆい気持ちをどうにも出来なくて、頬を掻くとジューダスが鼻を鳴らした。
「ふん。僕の勝ちだな。」
ジューダスも言うだけ言って彼らの後を追っていってしまった。
私はその場でやれやれと首を振ると指輪達が光り出した。
『じ、ジューダスさんは…その……皆さんを信頼しているんですね。』
『ま、あの感じ、分かってたんだろうね。皆がどういう反応するか。』
『……でも、皆がああやって言ってくれたのは良かった。……どうしたって、一人では出来ないことだってある……。スノウにはそれをわかって欲しい……』
『主人は気負いすぎな所がある。今後の課題はそれを仲間にどう分配出来るかだな。』
「ふふ、皆までそういうのかい?私の味方だと思ってたんだけど?」
『今回ばかりはあいつらの味方かなー?』
最後にグリムシルフィが間延びした声でそう話し締めくくる。
それを聞いて私はクスリと笑った。
すると、向こうから複数の声がこちらに聞こえるくらいの声量で私を呼んでいた。
「「「「スノウ!!」」」」
『ほら、主人よ。皆が呼んでいる。』
『……一人になると心配されるから早く行った方がいい……』
「そうだね…。」
少しだけ嬉しそうに目を細め、スノウは皆の方へと歩き出した。
ご飯を前に私を待っていたようで、皆がこちらを今か今かと見ていた。
空いている席に座るとカイルが手を合わせ、「いただきます」と合掌した。
それに倣い、他の人も食べ始めたのを見て私も食べ始める。
この後、何があるか分からないから腹ごしらえはしておかないとね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご飯を食べ終わった私達はアイグレッテを離れ、ハーメンツヴァレーへとやってきていた。
皆は恐々と下を覗いており、誰も先に降りようとしない。
「お、おい……、これをまた降りるのか?」
「ロニ、1回降りてるじゃん!大丈夫だって!」
「お、おおおお前なぁ!それとこれとは話が違う……って、スノウ?!」
どうもロニが怖がっているようなので、いつぞやみたいに軽々と下へと降りていき途中で皆を見上げ、笑う。
「ふふ、お先だね!」
「おい!スノウ、待て!」
『一人では危ないですって!!』
ジューダスも軽々と降りていくのを見て流石のロニも覚悟を決めたようで少しずつ降りていった。
カイルはリアラの手を握りながらゆっくり降りていき、ナナリーは恐る恐る降りていくロニを茶化しながら自身も降りていく。
初めに下へ到達したスノウは、例の空洞を前にして目を閉じ頭に手を置いた。
「サーチ」
スノウは皆が来るまでの所で空洞内の安全を確認するために探知をしていた。
そのまま暫くサーチしていたが、中に誰も居ないと分かりスノウは安堵の溜息を吐いた。
丁度そこへジューダスが華麗に地面へ着地し、こちらへやってくる。
「はぁ、お前と言うやつは……」
『スノウ。さっき、探知してましたよね?何か分かりましたか?』
「中に人が居ないか確認しただけさ。それこそ以前、〈赤眼の蜘蛛〉の拠点のひとつだと彼らは言っていたからね。敵が中にいるのは勘弁だ。」
「で、どうだったんだ?」
「安心していいと思う。ひと一人居なかったよ。」
〈赤眼の蜘蛛〉拠点の跡地となってしまったのか、そこには誰も居ないみたいで探知で拾えるはずの反応も無かった。
…というよりも、この拠点は恐らく棄てられたのだろう。
先日、私が気絶したあとの事は皆からそれとなく聞いていた。
皆が一丸となってアーサーに攻撃を仕掛けたり、気絶した私を連れて行こうとする黒づくめから守ってくれていたらしい。
〈赤眼の蜘蛛〉が去っていった後私を連れて、ハーメンツヴァレー近くにあったアイグレッテへと向かったのだとか。
「(そう思うと皆には沢山迷惑をかけたなぁ…)」
「人が居ないのは分かった。物は探知できないのか?」
「ん?んー、そうだね…。物はその物自体を知ってないと上手くいかないことが多いから、基本、人が居るかの探知しか行わないね。」
「そうか。」
腕を組み、空洞内を睨みつけるジューダス。
そこへ息を切らし、ようやく皆が到達したので拍手を送っておいた。
「ご苦労さま、皆。」
「2人とも早いよー!」
「慣れてるのね……」
「お前らどういう神経してんだよ!こんな高い所から岩を伝っていくなんて、奇人のする事だぞ?!」
「お前らが遅いだけだろう?」
「なんだと?!」
「まぁまぁ良いじゃないか!全員無事なんだしさ?」
ジューダスとロニが喧嘩になりそうになるのをナナリーが止めに入る。
……流石、メンバーのお母さんだ。
「で、ここにスノウの探し物があるの?」
カイルが不思議そうに空洞の中を見るも陽の光が丁度私たちの真上にある為に、中は一寸先は闇だった。
リアラも恐る恐る中を見ていたが、カイルが持ち前の好奇心旺盛でどんどんと中に入っていったのでリアラもそれに続いた。
私たちも行こう、と声をかけようとしたがジューダス達は未だに喧嘩が終わらなさそうだったのを見て私は肩を竦めた。
ロニ達はナナリーに任せ、私も彼らの後を追うことにした。
暗闇をずんずんと進んでいくと中から2人の明るい声が聞こえてくる。
彼らにとっては宝探しのようなものだろう。
〈赤眼の蜘蛛〉の拠点とだけあって、色々な物……彼らにとっては未知なものだろうが、それらが沢山置いてあったからだ。
私は道の端に乱雑に置かれている機械に触れて見る。
しかし電力が足りないのか、それとも既に壊されているのか機械が動く様子はない。
「こんな時、雷の精霊ヴォルトが居てくれたら…」
私がそう呟くと赤いルビーの指輪が僅かに光り輝く。
『なれば、主人が雷の魔法を使えばよい。それくらいならば、主人くらいのマナでお手の物ではないか?』
ブラドフランムが助言をくれたお陰で少し考える余裕が出来る。
確かに雷の魔法を使えさえすればこの機械は動かせそうだ。
しかしこの機械だけでなく、他の機械も沢山置いてあるこの場所で、私の雷の魔法では電力不足が否めない。
『試してみりゃいーじゃん?』
今度は緑色の宝石……エメラルドが光り輝き、グリムシルフィが声を発した。
確かに一理ある、か。
「それもそうだね。……大きな音がするけど、皆驚かないでくれ、よ…!」
機械に両手を付き、手のひらから機械へと雷の魔法を注いでいく。
その間もバチバチッ!と電気特有の音がこの空洞内にこだまとなって響き渡り、途端に辺りから悲鳴が聞こえてきた。
……恐らくあれはリアラとロニだ。
音を聞き付けた皆が私の様子をハラハラと見守る。
手のひらが若干痺れる感覚がするが、これくらいなら全然耐えれる痺れだ。
それよりも、この機械はどれほど電力を使うんだ。
先程から電気を与えているにも関わらず、うんともすんとも言わないではないか。
『ご、ご主人様…!もも、もう少しです…!』
「了、解っ!」
ノームが何となく察したのか、そう慌てて話すので更に雷の魔法を強くし機械へと注ぎ込んでいく。
お願いだから……、動いて……!
私のその願いはすぐに叶う事となる。
手をついていた機械が音を立てて光出したのだ。
パネルに出てきた文字を見て、ようやく私は魔法を止めた。
やはり手が若干痺れていた為その場で手を振っているとその手を優しく包む様に両手が塞がる。
両サイドを見てみれば右にはジューダス、左にはリアラが私の手を包んでいた。
「おやおや、両手に花だね。」
「馬鹿か。また無茶しおって。」
「手、痛いの?今治してあげるからね?」
リアラがヒールを唱え、もう片方の手からも暖かいものが流れ込んで来るのを感じる。
ジューダスが回復技を唱えてくれたらしいことが分かり、両サイドの花にお礼を伝えておいた。
「ねぇ、これなんて書いてあるの?」
「……見た事ねぇ文字だな…」
「アタシもこんな字見た事ないよ!」
3人の言葉に私たちも機械のパネルへと覗き込む。
すると、私には馴染み深い文字がそこには映し出されていた。
「(日本語、か。)…………我々……この地…を拠点とする。」
「「「「え?!」」」」
「読めるのか?」
『す、すごくないですか?!こんな複雑な文字、よく読めますね!』
「シャルがそう言うって事は、古代文字ではないのか。……待てよ、この文字…」
ジューダスが何か閃いたのか、しばらく黙り込む。
カイル達も解読に忙しいのか、私たちの話は聞いていなかったようである。
「えぇ……、オレこんな難しい文字読めないよー」
「俺もだ。」
「アタシもこればっかりはギブアップだね。ここは一番読めてるスノウに任せるよ。」
「任せてくれ。これなら私でも読めるからね。」
「なんて書いてあるの?」
「恐らく、日記や記録日誌といったものさ。でも、所々データが飛んでるみたいで読めなくなってるから期待は出来なさそうだね。」
『でも読めるならどうとでもなりますよ!スノウ、早く読んでください!』
「はは、分かったよ、シャルティエ。」
私は少しだけパネルに触れ、下へスクロールしながら文字を読んでいった。
「この拠点……〈アンダーグラウンド〉と名付けたり……。」
「あんだーぐらうんど?」
「…所謂、地下世界という意味だね。」
「へえ!やっぱ、学者さんなだけあって詳しいよね!スノウって!」
「ふふっ、ありがとう、カイル。じゃあ、続きを読むよ?……〈アンダーグラウンド〉は…………実験……、あー、もうここから読めなくなってる…」
「でも、いい言葉じゃないね。“実験”か……」
ナナリーの言葉に皆の顔が渋くなっていく。
地下で密やかにされる実験は誰が聞いてもどことなく悪いイメージが出てくるからだ。
皆が不安そうに顔を見合わせる中、私はパネルを未だ弄っていた。
何か、他の手がかりは……
「っ!!」
「……スノウ?」
『どうしたんですか?何か分かりましたか?』
「……ここでは、人体実験が複数行われていたんだ……。それも、かなり残酷な……」
「「「「っ!?」」」」
「……」
「これは……、記録である……。我々、〈赤眼の蜘蛛〉の…罪の……記録……。これを見ている誰か……、助けてくれ……。もう、耐えられないんだ……。記録者……【ロバート・ジェレマイア】……。……駄目だ、ここまでしか読めなくなってる…。」
「ロバート・ジェレマイア?」
「〈赤眼の蜘蛛〉?」
「訳わかんねぇ言葉だらけだな。」
「でも、ひとつ分かる事があるよ。あいつら……黒づくめのやつらは、悪いことをしてるって事がね。」
「はっ!違いねぇ!」
ロニが吐き捨てるようにそう大声で発する。
全員がそれを聞いて同意の頷きをしている最中、私はもう一度パネルに触れた。
まだなにか残されていないか、と期待したがどうやらめぼしい物は無さそうだ。
私が溜息を吐くと肩を叩かれる。
その叩き方からして、ジューダスなのだろうけど。
「お疲れ様だな。」
「あぁ、労いの言葉ありがとう。」
パネルから顔を上げると、皆と目が合い少しだけ元気が出た。
「……さて、他の機械も触ってみますかね。」
「うげぇ、まだやんのかよ…」
「嫌ならお前だけ外で待っていろ。」
「あん?!」
再び喧嘩に発展しそうな2人を放っておき(ついにナナリーも傍観を決め込むようだ。)私は近くにあった別の機械へと移動し雷の魔法を注いでいく。
途端に鳴り響く雷の音にやはり先程と同じ2人が堪らないとばかりに悲鳴を上げた。
お陰で喧嘩も止まったようだし、結果オーライだ。
しばらく雷の魔法を使っていた私だったが、機械のランプが点いたことによりその手を機械から離す。
手を振りかけたら、両手を再び優しく包み込まれ回復技をかけてくれる。
「2人とも、優しいね。」
「お前が無茶をしないか、ある意味お目付け役だからな。」
「ジューダスはああ言ってるけど、本当は心配してるのよ?あんな威力の晶術を間近で受けてるんだもの。手がダメージを受けてないはずがないわ!」
2人の言葉に笑顔で返し、パネルを見た。
今度は何が書かれているのやら……。
「……」
「何が書いてあるの?スノウ」
「(これは…〈ロストウイルス〉か?……だとしたら、ここで行われていた凄惨な実験は……〈ロストウイルス〉に関する事…?精霊たちが言っていた、〈赤眼の蜘蛛〉が〈ロストウイルス〉を作り出しているという話もいよいよ現実味を増してきたな……。)」
「はぁ…。こいつは1度考え出すと暫くこのままだぞ。」
「変なことでも書かれていたのかしら…?」
『うぅ、気になりますね…!』
「全く……。おい!スノウ!!」
「ん?」
肩を叩かれ、大きな声がしたことで現実に戻された感覚になり、思考の淵に嵌っていたことに気付かされた。
ハッと目を見張ると皆がまだかまだかと私の言葉を待っていた。
「えっと……、そうだな…。これには〈ロストウイルス〉について書かれているようだね。」
『え?!それはいい情報じゃないですか!!』
「あぁ。これで少しは奴らの事が分かるといいんだがな。」
「??? 〈ロストウイルス〉?」
「初めて聞く単語ばかりね。」
「そうだね…。順を追って話そうか。〈赤眼の蜘蛛〉の事……、それから〈ロストウイルス〉のことを。」
私は皆に包み隠さず掻い摘んで話していく。
〈赤眼の蜘蛛〉は異世界人……いわゆる、皆から見たら宇宙人なのだと。
また自分も宇宙人だと話した時の皆の反応はとても良く、でも、怖がるようなことは無かった。
「だって、スノウが宇宙人って言われてもピンと来ないしさ。」
……だ、そうだ。
カイルらしいっちゃ、カイルらしい考えだ。
それから〈ロストウイルス〉や〈ホロウ〉の事も伝えておいた。
私でないと倒せない魔物なのだと。
それにはロニやリアラもすぐに反応を示した。
「じゃあ、俺たちは何も出来ねぇって事かよ……」
「スノウ、大丈夫?」
「一度、戦ったことがあるんだ。その時はかなりの強敵だったから何とか追い返した感じだけど……、普通の魔物のようなものだから遅れをとるようなことは無いと思う。」
「そいつらの見分け方とかってないのかい?」
「……残念だけど、私にしか分からないみたいなんだ。だから見かけたら私から皆へ声を掛けるよ。」
「何も出来ないから心配だし、怖いけど……。でもスノウに回復や支援は出来るわ!私に任せて?」
「僕も出来る限りは支援する。だから諦めるなよ?」
「元より諦めるつもりは無いさ。でも、ありがとう」
皆には先程、宇宙人の話もしたから〈星詠み人〉の話もしておいた。
そして〈赤眼の蜘蛛〉の大半が私の同郷なのだと言うことも。
ただ流石に、未来が分かるとは伝えなかった。
それに縋ってもいけないだろうし、彼らには彼らの考えで動いてもらいたかった。
「同郷の者がすまないね。本当、申し訳ないよ」
「でもあいつら、スノウだって狙ってんだぜ?謝る必要はねぇだろ?」
「そうだよ!スノウはあいつらの仲間じゃないんだしさ!気にすることないよ!」
「わたしもそう思うわ?だから、私たちに変に遠慮しないでね?」
「アタシからも頼むよ。変に遠慮されると、こっちも困るからね。だから変に気負うんじゃないよ?」
「……うん、ありがとう。」
皆からの暖かい言葉を聞きながら私は笑顔を零した。
皆の優しさが今日も目に染みる。
「で?何が書かれていたんだ?」
「あ、そうだったね。ちょっと待ってくれ。全部を読んだ訳じゃないんだ。」
パネルに向き直り、所々データが飛んでいて穴抜けになっている文字たちを見つめる。
「〈ロストウイルス〉は、この世界を滅する役目を持つ者なり。」
「世界を……滅する……?」
「でもよ?スノウの話じゃ、〈星詠み人〉っつーもんにしか手が出せないんだろ?俺達にはなんの危害もないのにどうやって滅ぼすんだよ?」
「もし、〈ロストウイルス〉が自然を操る事が出来るとしたら……簡単にこの世界は滅びるだろうな。」
「そんな危ない物……なんでまた作ろうと思ったんだろうね?全く……アタシには理解出来ないよ。」
「…………」
「スノウ?」
「あぁ、いや。大丈夫だ。続きを読もう。…………の、過程において…出来た代物…………、効果は真逆で……我々に……仇なす者なり……」
『最初の何とかの過程って言うところは、かなり大事な気がしますね……』
「我々に仇なす者ってことは……、やっぱり〈星詠み人〉に仇なすってことだよな?」
「望んだ結果じゃないものが出来たって事かい?なんて身勝手な奴らなんだい。」
「……続きがあるようだね。……我々は、この生き物を〈ロストウイルス〉と名付けたり……。〈ロストウイルス〉はこの世界の魔物に寄生し、感染させる効力を持つ……。また、〈ロストウイルス〉はこの世界の人間には可視出来ず、我々〈星詠み人〉にはバグのような物として見える……。」
「ばぐ?」
「うーん……そうだなぁ…。こう……白と黒の四角い物が体から浮き出てくる感じ……かな?」
一度見たけど、あれは常人から見たらそこそこ不気味なものだ。
出来れば見たくないものだ、という言葉は心の中に仕舞いつつ、パネルの文字を読み上げる。
「〈ロストウイルス〉に触れれば、たちまち我々〈星詠み人〉は〈ロストウイルス〉に感染し……死に至る……。その死に様……無惨なり……」
「わざわざ死に際のことを書くって……、本当に凄いやつなんだろーな……」
「……」
「対抗する術は現状無いに等しく、何者もそれに触れる事叶わん。」
『え?でもスノウや修羅は武器を使って〈ロストウイルス〉を倒してましたよね?』
「……この記録自体かなり古いものだね。だからまだこの時は〈ロストウイルス〉の倒し方が確立していなかったんだろう。……まぁ、古いと言ってもこの18年の間だろうけど。」
ジューダスがシャルティエの言葉を反復しながら皆に説明しているのでとても有難い。
それを横目で見て、パネルへと視線を移す。
先程も言った通り、これは古い記録に過ぎない。倒し方や、〈ロストウイルス〉の作成の過程は書いてなさそうに見えた。
少しでも対抗出来る術になるヒントでもあればと思ったが見当違いだった様だ。
肩を落とす私を見てロニとナナリーが私の肩に手を置いた。
「アタシ達はその〈ロストウイルス〉には触れないし、見た目も変わんないから教えてあげられない。でもさ。アタシたちにだって出来ることはあるよ。」
「そうだぜ?そう、落ち込む事ぁないって!これから探して行こうぜ?」
「!! あぁ、そうだね。」
「このオトコ女と同じ意見なのが気に食わねえが……ってぎゃあああああ!!!」
まるでシャルティエの制裁場面に似た悲鳴に私は目を丸くしたあとすぐに声に出して笑った。
ロニは優しいから私が気を遣わないように、そうやって冗談を言ってくれたんだって私には分かるよ。
関節音が空洞内に響き渡り、皆が呆れた目でロニを見ていた。
だがナナリーも、やられている本人のロニでさえ笑顔だったので私は笑顔でいる事にした。
ありがとう、皆。