第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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__退院日、当日。
私はジューダスに付き添われめでたく退院し、皆の様子を見に行く為仕事先の店までやって来ていた。
忙しない店内に制服姿の皆を見て、物珍しそうに私はその光景を見ていた。
女性の制服姿なんてフリルが沢山ありとても見応えがある。(親父か)
折角なので注文を取りに来たリアラに話しかける。
「ごめんね?今日はスノウの退院日なのに迎えに行けなくて……」
「いや、大丈夫さ。寧ろ迷惑をかけたね。」
「全然そんなことないわ!今までよりももっと私達を頼っていいのよ?」
「ありがとう。リアラ。」
「ふふっ!どういたしまして!それで、注文はどうする?」
「それじゃあリアラのオススメでお願いしようかな?」
「はーい!任せて!」
笑顔を見せるリアラに手を振り、私は恍惚のため息を吐いた。
なんて可愛いんだろうか、このメンバー1の天使は。
ふりふりのフリルを揺らし厨房へと駆けていく天使を見つめていると、横からの視線を感じる。
私は頬杖をつき、その視線の元であるジューダスを見つめた。
「どうしたんだい?レディ」
「お前…、相変わらずの性格してるな。」
『女性にそうやって優しくしてばかりだと、前世のような言われようになりますよ?』
「それは困ったな?」
「全然困ってないように見えるが?」
頬杖をついたまま私が笑うと、彼も自然と笑顔を浮かべた。
するとロニが飲み物を手にやってきたため、彼の服も観察すると気崩しているが中々サマになっていた。
「さすが高身長は何でも似合うね?」
「だろー?やっぱりスノウは話が分かるな。」
「はいはい、アンタはさっさと別のところの注文に行きな!」
ナナリーがキッシュを手にこちらまでやってくると私とジューダスの前にキッシュを置く。
生き生きとしている彼女はとても活発的に仕事をしていて、周りの人に元気を与えていた。
なんなら、その素晴らしいプロポーションで男の人などの視線を奪っている。
「お前、厨房で調理してろって言っただろうがよ」
「アタシだってスノウのこと見に来たいんだから少しくらい良いじゃないか!」
口を尖らせ嫌そうな顔をしたロニ。
しかしナナリーはそれに微塵も気づくことがなく、ロニの手にしていた飲み物を奪い取ると私たちの前に置いた。
「ははっありがとう、ナナリー。(全く、可愛い嫉妬だな。ロニは。)」
「リアラのおすすめだからね。しっかりと食べて元気つけなよ?」
「あぁ。頂くよ。」
話し終わるとロニがナナリーの背中を押して早々に退場を促す。
何だかよく分かっていない様子のナナリーは私たちに慌てて手を振って厨房へと戻っていった。
それにジューダスは鼻を鳴らしていた。
どうやら彼もロニのあの様子の訳が分かっているみたいだ。
肩をすくめ目の前のキッシュを頂こうとすると、何処から女性の悲鳴が聞こえる。
ジューダスと顔を合わせ、その場所を一緒に覗き見る。
何とリアラが知らない男性に腕を掴まれ困っているではないか。
こんな時に一番居ないといけないカイルはどこに行ったんだ!
私は席を立ちその男の人に話しかける。なるべくスマートに、店に迷惑をかけないように…。
「お兄さん、ちょっと一緒に外行きませんか?」
「あぁ?」
「私でよければ話を聞きますよ?」
「スノウ…!?」
「あの馬鹿…!」
『坊ちゃん!早く行かないと!』
「分かってる…!」
男はスノウを上から下まで見るとにやりと笑った。
そしてリアラを掴んでいた手を放し、スノウと一緒に外に出た。
その後ろをジューダスがついていき、その気配を察知したスノウが若干肩を竦めていたのに男は気が付かなかった。
「で?俺に何をしてくれるって?」
「いえ、何もしませんよ。ただ、あまりにもお兄さんが可愛い店員さんに無礼な態度をとるもので見るに堪えなくて。」
「あん?!てめえ…、下手に出てりゃつけあがりやがって…!」
チンピラのようなセリフを吐いた男はスノウに向かって拳を向け殴りかかってきたが、それよりも早くジューダスがその男の拳を受け止め、男の首に剣を突き付けていた。
両手を上げ笑っていたスノウは何から何まで分かっていたかのようにそれを見ていた。
「流石だね。」
「全くお前は…!少しは自重しろ!」
「お、お前…何者だ!?」
「貴様こそ、自分の今の状態を確認した方がいいんじゃないのか?」
ジューダスがほんの少しだけ剣に力を入れると男が竦み上がり、私たちが予想出来ない程の素早さで逃げて行った。
あまりのチンピラ過ぎてジューダスが剣を仕舞いながら鼻を鳴らす。
私は笑いながら「もう来るなよー」と一言男に言っておいた。
「…はぁ。お前はいつになったら周りを頼るやら…」
「ふふ、ごめんって。でも君が助けてくれただろう?ありがとう。」
『もう、相手は男なんですから気を付けてくださいよ?スノウ!』
「あんな男に私が遅れを取るとは思えないけどね?」
「それでもだ。いつか身を滅ぼすぞ。」
「気を付けるよ。」
店から出てきたカイルから事情を聴かれ素直にありのままを答える。
無事でよかったという彼の言葉にお礼を言っておいた。
しかし彼は突如妙なことを口走ったので私は目を丸くせざるを無かった。
「スノウって、スタイルいいしウエイトレスの制服着たら絶対似あうよね!」
「そうかな?」
「うん!絶対にそうだよ!試しに着てみようよ!」
「いいよ。どうせしばらく金稼ぎでどこかで働こうかと思っていたし、折角なら皆と同じ職場で働くのもいいかもしれないね。」
「うんうん!!そうしようよ!ジューダスもさ!」
「僕はやらないぞ。」
「試しにウエイターの服を着てみてくれないか?折角なら見たいんだ。君のそういう姿。」
「………。……少しだけなら」
『流石スノウです……。』
「じゃあ、制服用意するね!二人とも奥の部屋に行ってて!」
言われた通り奥の部屋に入ると、意外にもカイルが早く戻ってきてその手には制服が何着もかけられていた。
私は躊躇なくカイルから制服を受け取り、更衣室へと入っていく。
後ろからジューダスとカイルの話す声が聞こえたが気にせず更衣室へと入った。
___数分後。
更衣室から出た私は目を丸くしたカイルと鉢合わせた。
何故彼がそんな顔をしたのか?
それは___
「え、スノウ。その服、男の人用だよ?」
「ふふ、似合わないかい?」
「ううん!そんなことないけど…、オレてっきりスノウは女性用のやつ着ると思ってたから驚いた!」
「私はあんなフリルのついた服よりも動きやすい…機能性を重視した服装が好みだからね。」
「そっか。うん!それも似合ってるよ!」
「ありがとう。それよりもレディ……じゃなくて、ジューダスは?」
「ジューダスも今着替えてもらってるよ!楽しみだなぁ。」
叔父にあたる人のウェイター姿なんて、カイルぐらいしか拝めないだろうからね。
私もレディのウェイター姿、楽しみだ。
ジューダスのそういう服装は大体ファンが書いたイラストか、外伝作品とかしか描かれないから余計に楽しみだ。
個人的なファンとして、一ファンとして!!
顔には出さないが緊張した面持ちで待っていると更衣室のカーテンが開けられる。
そこには仮面を外したウェイター姿のレディが居て、思わず凝視してしまった。
サマになっているし、なんだかいつもよりもカッコよく見える。
オタクフィルター抜きにしてもその破壊力は抜群で、私は目を覆い天を仰いだ。
「(神様、ありがとう…!!)」
心の中でそう叫ぶと、何だか天から神がクスリと笑った気がした。
「うわ!!すごい似合ってるよ!ジューダス!」
「……ふん。」
『やっぱりカッコイイですよね!!坊ちゃん、素地がいいから余計に映えますね!!ね!スノウ!』
「………」
「『???』」
カイルとシャルティエには悪いがしばらくレディを見れそうにない。
何なら少し泣きそうなんだ。
だって、今作でそんな要素無かったのにも関わらずこうして見れるんだから感動以外の何物でもない…!
あぁ、本当に私は今、この人生に思い残す事がない程に感動しているんだ…!
「スノウ…?」
『ど、どうしたんですか?スノウ。』
「ちょっと目にゴミが…」
『(絶対違うと思いますけど……)』
「はー…。相変わらず前世と同じでカッコイイね、君は。」
「ふん。天を仰いでないで先に言え、馬鹿。」
照れ隠しなのかそうぼやく彼に笑った所で、カイルがフロアに戻ってしまったので後はこのレディを引っ張って仕事に行くだけだ。
恐らく嫌がるだろうけど……、いや、絶対に嫌がるだろうけど。
「さて、じゃあ私達も行こうか、レディ?」
「お前だけ行け。僕はやらないぞ」
「可愛い甥っ子の食費の為にも頑張らなくちゃ駄目じゃないか。」
「……。」
嫌そうな顔だが、これならあと一歩で行けそうな気がする。
「あーあ、君の客を捌いている姿、見てみたかったんだけどなー?」
「……」
「いやでも、無理強いは良くないね?仕方ない…、私が君の分まで働いてくるよ。しっかり休んでてくれ、レディ。」
「……行けば良いんだろう。」
『(流石スノウです……)』
私が声高々に大袈裟に表現すれば、彼は渋々と歩き出す。
それにくすりと笑って彼の横に並んで歩いた。
歩きながら彼の顔を覗けば、鼻を鳴らされ視線を逸らされるが足取りは先程よりも軽く、彼自身、諦めの境地に入っているようだった。
それでも一緒に何かが出来るなんていうのが私には嬉しくて、お礼の言葉を口走っていた。
「…君と一緒に何か出来る幸せ……、今だけ噛み締めるよ。」
「……今だけじゃないだろう? “これからも”だ。」
小声で呟いたそれに返事が来るなんて思っていなかった私は彼の言葉に思わず足を止めた。
先を行ってた彼は立ち止まると、私の方へと振り返る。
その彼の瞳は真剣味を帯びていた。
だがその彼の目は一度閉じられ、次に開けられた瞳は優しさを帯びていた。
そして左手をこちらに伸ばしてきた彼は口元に微笑みを湛えながら言葉を紡いだ。
「嫌という程お前のそばにいてやる。だから“今だけ”なんて言葉を使うな。」
「…ジューダス」
「……僕はお前のように、未来がどうなるかなんて一切知らない。だが、お前の傍に居てやる事は出来る。お前がしたい事があれば何でもすればいい。それがなんであれ諦めるな。僕も少しくらいは手伝ってやる。」
「!!」
彼の言葉が胸に沁みて、暖かい波紋を広げていく。
体の中央から全身に行き渡る波紋のように。
「…私は、君と色んなことがしたい。前世……叶わなかった君との時間……、大切にしたいんだ。」
「ふっ、分かっている。前にも聞いた。だからほら、行くぞ。」
その言葉に私は駆け出し、差し出された彼の左手を握った。
彼の利き手は左手。無意識だとしても、その手が伸ばされた事が何となく嬉しい。
笑った私は彼を引き、フロアへ向かった。
仕事着の仲間達が私達を見て目を丸くしたあと、笑顔を向けてくれた。
そう、彼らとも沢山の時間を__沢山の出来事を、共有していくんだ。
「……苗字は変えないといけないかもしれないね。」
「なら、前世と同じエルピスでいいじゃないか。“希望”、という意味なんだろう?」
「スノウ・エルピスか。ふふっ、いいかもしれないね?」
「「「「スノウ!」」」」
皆が私を呼んでいる。
彼が私の隣に居て、手を握ってくれる。
その幸せをゆっくりと噛み締めて、私は一歩を踏み出した。
「さぁ、やろうか。」
この一歩が、
幸せな道への一歩となりますように。
柄にもなく、心からそう願った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「3番テーブル、コーヒーセットお願いします!」
「はいよ!」
「1番テーブルもだ。」
「はいはい!」
厨房係のナナリーが手際よく仕上げていき、その間にもフロア担当の人達はオーダーを捌いていく。
流石にナナリーだけに厨房を任せておけないのか、それともただ純粋に心配なだけなのか、いつの間にかロニも厨房へと回っていた。
「凄いわ、スノウ。さっきから見てて思ったんだけど、記憶力がいいのね!それに、その格好素敵だわ…!」
「ふふっ、女の子に褒められて悪い気はしないね?」
「もう、スノウったら!スノウも女の子でしょ?」
「それでもだよ。ありがとう、リアラ。」
嬉しそうにはにかむリアラにスノウがお礼を伝えると、何とも忙しいもので次々と注文の依頼が来てしまった為会話も一旦中断する。
……しかしこうして見ても私が髪色を戻したり、ジューダスが仮面を外したりしているものの誰も気付く様子がない。
杞憂過ぎたか、と少しだけ肩を竦めているとどこからともなく叱咤の声が流れてくる。
それは、言うまでもなく彼の声だ。
私は再び肩を竦め、働き始めることにした。
「お兄さん、今日仕事終わりにお茶でもしませんか?!」
「おやおや、こんな可愛いお嬢さんに言われてしまったら行かざるを得ない、と思ってしまうね?」
「「「きゃー!!」」」
「スノウ……すごい人気だね……」
「あいつは昔からああだったぞ。スノウである時は隠していたようだが、それも隠さなくて良くなった途端……これだ。」
「スノウって、モネ・エルピスさんだったんだよね?女性に大人気だったっていう。」
カイルとジューダスの話す声がこちらまで微かに聞こえてくる。
微かなので、何を話しているかは分からないが……まぁ、大丈夫だろう。
「あぁ。見ればわかるだろう?アレを。とにかく女たらしで、ああいった歯が浮くような台詞をいとも簡単に口にする。」
『本人は博愛主義と言ってますけどね……』
「へぇ。なんかスノウの時の敬語を見慣れてるから違和感あるや。でもオレはさ!ジューダスみたいにスノウとずっと一緒にいた訳じゃないけど、何だかスノウらしいよね!」
「ほう?どうしてそう思う。」
「だって、今のスノウの方がいきいきしてるもん!」
何だか視線を感じてその方向を向けば、ジューダスとカイルがこちらをじっと見ていたので一応笑顔で手を振っておく。
すると、一人は大きく手を振って元気よく返事をしてくれ、もう一人は腕を組んだもののその顔は笑顔を湛えていて、それはそれは綺麗な笑顔だった。
「(こんな時間が永遠と続けばいいのに…な……)」
自嘲ではない、心からの笑顔がスノウの顔に表れる。
それを見てジューダス達は一度目を丸くしたが、お互いの顔を見合わせるとスノウの元へと歩き出した。
閉店間際……、もうそろそろ客も少なくなってきた。
三人にリアラが加わり、更にロニとナナリーも加わって何事かと笑いあった。
__それは束の間の休息日。