第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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〈ホロウ〉と戦った翌日。
私は今までにない程自分の身体が軽いのを感じていた。
「……。」
ベッドから起き上がり、足を地に付けて軽く飛んでみたりするがなんの支障もない気がする。
気絶している間に何かあったんだろうか?
それとも結構な時間寝ていたのだろうか?
「ふむ。よく分からないけど身体が軽くなってて良かった。」
『……昨日、修羅が上位の回復術を施していたからそれでだと思う……』
「修羅が…?」
そういえば私が気絶したあの後どうなったんだろうか。
ジューダスと修羅は仲が悪いような良いような関係だから少し心配である。
『まぁ、二人は相変わらずと言ったところか。』
「そうか。まぁ、二人とも無事ならそれでいいさ。」
『あの後、セルシウスがここまで運んだんだよ!』
「そういえば誰かにおぶられた様な記憶がある…ような?でもありがとうセルシウス。重かったろうに」
『そんなことない…。貴女は軽い……』
「海琉にも言われたな。」
修羅の元へ向かう海琉を思い出す。
あんな小柄なのに私を軽々と持ち上げ走るんだから彼の体力やら筋力やら賞賛に値する程だ。
ベッドからしばらく起きていたのもあり、一度大きく伸びをしているとジューダスがやってきて私のその光景に目を丸くしていた。
「お前……身体はもういいのか?」
『おお!元気そうですね!!』
「そうなんだよ。今までよりも体が軽いくらいなんだ。どうも、修羅が高位回復術を使ったらしくてこの通りさ。」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてみれば一瞬嫌そうな顔をしたものの、私が飛び跳ねているのを見て嘆息していた。
恐らく修羅の名前が出たから嫌な顔をしたのだろうことが窺える。
シャルティエは逆に嬉しそうに声を上げていた。
「さて、私もこんな調子だし早く退院出来るといいんだけどね?」
「それくらい元気なら大丈夫そうだな。医者を呼んでこよう。お前は大人しく待ってろ」
扉を潜り、医者を呼びに行ったジューダスを見送る。
帰ってくるまでの間は精霊達が話してくれたので暇することなく診察に入ることが出来た。
「うーん、本当良さそうですね。これなら明日にでも退院でいいかと」
「今日じゃないのか……」
「まぁ、一応は経過を見ましょう。」
私がガクッと頭を垂れると、ジューダスが苦笑いでそれを見ていた。
診察が終わった医者はすぐに病室を出て行った。
残ったジューダスを見てふと疑問が浮かび上がる。
“カイル達は何しているんだろうか?”
その疑問を口にすれば彼は素直に教えてくれた。
「彼奴らなら今頃金を稼いでいるところだ。」
「もしかして、私の入院費……?」
「ふっ、いや違う。」
『聞いてくださいよー!スノウ!カイルが大変なことをしたんですよ!』
「?? 大変なこと?」
聞けば、私が入院している間にカイルがいつもと同じく食事をしたものだから食費がバカにならず、皆で出稼ぎに行っているという大した事ない事(彼らにとっては大した事)だった。
それを聞いてしばらく目を丸くしていた私だがすぐに声を出して笑ってしまった。
何だか彼ららしいと言えばそれまでだが、本当に愉快な人達だ。
いや、愉快な“仲間達”だ。
「っはー、可笑しい!退院したら私も頑張って働くとしよう。」
「無理だけはするな。僕との約束だ。」
「ふふっ、分かったよ、ジューダス。」
『本当、病み上がりなんだから気を付けてくださいよー?』
私が小指を出せば、一瞬戸惑った彼だったがすぐに指を絡ませてくれ、子供みたいに指切りげんまんをした。
「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたら針千本のーます、指切った!!」
「…お前、こういうことする質だったんだな。」
「ふふっ、たまにはいいだろう?」
笑いながらジューダスを見ると、彼の耳に着けた筈のピアスが無くなっているのが分かる。
彼の瞳と同じ、紫水晶のようなピアス。
思わずそこへ手を伸ばしてしまい、まじまじと見てしまうとジューダスが笑った。
今度は私が戸惑う番だった。
「……気に入らなかったのかい?レディ」
「レディじゃないと、何度言えば……。まあいい…。お前、自分の耳を触ってみろ。」
「??」
そういえば何時ぞや微睡みの中、誰かに耳を触られた気がする。
その時に触られた方へと触れてみると、そこにはピアスが着けられていた。
思わず洗面台についている鏡の所まで行き確認すると、彼に着けたはずのピアスを私がしているではないか。
余計にそれで頭を悩ませると、後ろから彼がやってきてピアスを着けている耳へとそっと触れた。
目を細め嬉しそうにする彼に、首を傾げたが一つ思い当たることがあった。
このピアスは私が大好きな色だ、と彼に言ったことがあるのでもしかしてそれで私に着けてくれたのかもしれない。
「……私が着けていていいのかい?」
「あぁ。寧ろ着けていてくれ。」
「?? よく分からないけど…分かった。君が言うんだ、何かあるんだろう?」
「そうだな。」
そうなると今度は彼の耳が寂しくなる。
口元に手を当て考えていた私はピーンと思い付き、ニヤリと笑った。
そんな私の顔を見て嫌な予感がしただろう彼が後退りをした……のを、私が肩を押さえ、止める。
「まぁまぁ、そんなに怖がることは無いよ、レディ?」
「ヒシヒシと嫌な予感しかしないが?」
「さて、ね?」
ニヤリと笑いながら彼の仮面へと手にかける私を見て本気で逃げ出そうとしたので、気絶弾を撃ち容赦なくその場に気絶させた。
当然だがシャルティエの悲鳴が部屋中に響き渡る。
『ぼ、坊ちゃん?!!スノウ、何するんですか?!』
「いやぁ、流石に病室には1人でも病人が“要る”だろう?」
『え、どういう事ですか?!』
「ということで、レディ?留守を頼むよ?」
仮面を外し、彼をベッドへと運び布団を頭から被せておく。
そして私は窓枠へと手に掛けるとようやく意図を理解したシャルティエが慌て出す。
『ちょ、スノウ!ダメですよ!!バレますって!!それに病み上がりなのにそんな無茶したら……!』
「シャルティエ。」
『な、何ですか…?』
「ジューダスを頼むよ?」
『ちょ…!そのお願いは聞けないって前に言いましたよねーー!!?スノウ!!戻ってきてくださーい!?』
遠のく声にほくそ笑むと、指輪達から呆れた笑いが聞こえてきた。
大丈夫、目当てのものを買ったらすぐに戻るさ。
『……前世での貴女を見てるみたい』
『本当に、悪い事ばかり考えるな?』
『でも、こっそり抜けるのってワクワクするね!』
『だ、大丈夫でしょうか……?』
「大丈夫だよ、ノーム。目当ての物を買ったらすぐに戻るさ。」
私は有言実行の為にすぐに防具屋へと向かい、物色を始める。
『で?主人は何を贈ろうとしているんだ?』
「彼は自分の瞳と同じ色のピアスを私に着けてくれた。なら私は彼に、私の瞳の色と似たピアスを贈るよ。」
私の瞳の色は海色だ。
それと同じものがないか探しているとふと思い出した光景がある。
__“少なくとも僕は前の髪色が好きだった”
この世界に来てまだ日が浅い時だった。
私が昔の髪色から今の雪色の髪の色に変えた時に彼がそう言ってくれた事があった。
「…………蒼色…」
そう呟くと、スノウは目当ての物を海色ではなく蒼色へと変えた。
澄み渡る空のような蒼色。
それが昔の私の髪色だった。
視線を彷徨わせていき、目当ての物を探していると丁度いい所に蒼色の宝石が付いているピアスを見つけた。
キラキラと光により輝いて見えるその宝石を見てすぐにピンと来た。
__“これがいい”
私は直ぐにそれを掴み、会計へ急いだ。
やっぱり袋は遠慮して、剥き出しのまま病室へと向かう。
颯爽と窓から戻った私にシャルティエの説教が始まったがそれを聞き流しつつ、私は気絶している友の耳に触れそっとピアスを着けた。
まだアイグレッテでデートはしていないが今のイベントの進行上、いつそういった事が来るか分からない状態でもある。だから今の内にプレゼントしておくことにするのだ。
窓から入る光で蒼色のピアスが一層輝いて見えて、目を細めて喜んだ。
彼が私の持ちうる色を身に着けてくれるのが、とても嬉しい。(なんなら尊い……)
そしてシャルティエの説教も一通り終わった頃を見計らい、鏡へと向かい自分の今の髪色を見た。
雪色で、それはファンダリア地方に降る雪のような色だ。
だが見る人によっては白色で、縁起が悪いという事なので私は鏡を前にして以前と同じく目を閉じた。
今ならきっと出来る。
少し疲れはするかもしれないけど、昔みたいに気絶する事は無いと思うから。
彼が好きだと言ってくれた、前の……昔の澄み渡る空のような蒼色の髪へ。
「……ん」
途中彼の声が聞こえた気がした。
でも、集中して……
「……」
「……スノウ…?」
身体中のマナが……とても研ぎ澄まされていく。
それを髪に集中させるんだ…。
思い描くのは、“澄み渡る空のような蒼色”。
「!! スノウ!!」
彼の声で目を開ければ鏡に立つ私の髪色は以前と同じ色へと変わっていた。
喜びと共に少しだけ目眩がしてその場に崩れ折れそうになったが、彼が支えてくれたことで事なきを得た。
「馬鹿っ!先に言ってからやれとあれ程…!」
『もう!また無茶をして!!』
二人の言葉を聞きながら鏡の中の私の髪と、ジューダスの耳にあるピアスを見比べる。
何一つ違わないそれらに微笑んでいると、彼からデコピンを貰う。
思わず額に手を当てた私だったが、喜びの方が勝ってずっと笑っていたからジューダスが変なものを見るかのような目で見てきた。
「ははっ…!」
「お前…遂に頭がイカれたか?」
『さっきまでの僕の説教聞いてなかったんですか?!もう!!スノウの馬鹿!!』
それぞれが違う感想を言い合うものの、共通しているのは誰もが笑っている事だった。
「なんて言うか…自分の色が君にあるというのが擽ったくて…、同時にとても嬉しいんだ。」
「?? 何の事だ?」
私は彼の背中を押し、鏡の前に立たせる。
訝しげな顔で鏡を見るジューダスだったが、次第にその顔は驚きに満ちていく。
そして、ゆっくりと蒼色のピアスへと触れた。
未だに鏡を見ている彼の肩に腕を置きニヤリと笑うと、私も自身の紫水晶のピアスに手を当て強調させる。
「お揃いだね?レディ?」
「……」
「嫌なら外すといい。まぁ私としては君に、その色のピアスを着けていてもらいたいけど強制は出来ないからね。君の好きにするといい。」
言うだけ言って私は彼の肩から腕を離し、部屋に戻りながら大きく伸びをした。
髪色を元に戻しただけだが、少しだけ疲れた。
病室のベッドに戻ろうとする私の手をジューダスが掴んだ。
何事かと私が振り向くと彼は私の手に口付けをしていた。
突然の事に目を白黒させていると、次第に彼の口元は可笑しそうに歪んでいく。いや、弧を描いて行くと言った方が正しいか。
上目遣いでニヤリと笑う彼に本当に不覚だが、顔が赤くなっていった。
「やられてばかりは性にあわないんでな?仕返しだ。」
「あ、えっと、」
『(おお…!あの…!あの!!スノウの顔が赤くなっていく…!流石坊ちゃんです…!!)』
そりゃあ、推しからの口付けなんてオタクの私からしたらとてつもない案件だ。
幸せ過ぎて、今死んでもいい。そう思えていた。
「嫌なら外せ?元より僕はお前と似たような理由で“それ”を着けたと言っても過言ではないのにか?」
「??」
どういう事だ?
彼が私に“似たような理由で着けた”…?
「???」
「はあ……。ここまで言って分からないのか、お前は…。」
『坊ちゃん…、ドンマイです…』
ゆっくりと手を下ろされたと思ったら肩を押され、私は思考の途中のままベッドへと沈み込むことになった。
慌てて反応したが、既にベッドへと身を預けていたので目をパチパチと瞬かせ苦笑いをした。
「お前、髪色を戻したのに疲労は大丈夫なのか?」
腕を組み既にベッド近くの椅子へと座っている彼にそう聞かれこくりと頷いた。
「私の中のマナが昔よりも多くなっているからね。少しの疲労で事足りたみたいだ。」
「そうか。それなら良かったな。」
『でも、ひとこと言ってからにして下さいよ!こっちは心臓に悪いんですからね!』
彼が優しい顔で私の髪に触れるものだから戻して良かったと思う。
彼の喜ぶ顔は私にとっても喜ばしい。
「まるで快晴の空の様なこの蒼色の髪色が好きだ。」
「…どうしたんだい?君がそんな素直な感想を言うなんて。明日は槍でも降るのかな?」
「馬鹿か。ただそう思っただけだ。」
すると髪に触れていた手を離したので、私は無意識にその手を掴んでいた。
彼は目を丸くしているが、私も無意識の行動だったので苦笑いしかない。
「…もう少し、触れていないか?」
「ふっ…!ははっ…!お前、それはどんな頼み方だ…!」
腹を押さえ笑う彼に今更恥ずかしくなり、私はベッドにしっかりと入り直し彼に背を向ける形で布団を頭から被った。
駄目だ、今日は。
なんかいつもの調子が出ない。
レディに恥ずかしいところを見られた。
目を閉じ恥ずかしさをやり過ごそうとしたが、何者かの手が私の頭を優しく撫でた。
“何者か”なんて__彼しかここには居ないというのに。
それでも私はその暖かく優しい手つきに自然と口元を緩ませていたのだった。
「……いつもそれくらい素直なら良いんだがな。」
「…君にそっくりそのままの台詞をお返しするよ。」
そう呟けばまた笑われていたので私は強引に目を閉じることにした。
__もう喋らない。
そう誓って。