第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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皆に私がモネ・エルピスだと…、そしてジューダスがリオン・マグナスだとバレたあの日。
当然だが、皆から色々な事を聞かれた。
私が彼の災難を肩代わりした事も、彼の自害の事も、それはそれは色々と聞かれた。
寧ろ彼らに遠慮が無くなったと言っていいほど色々聞かれて、話終わる頃には大分疲労も溜まっていた。
しかし病院の面会時間というのも限りがあるもので、病院の看護師から帰宅する様に言われた皆は渋々帰って行った。
……今思えば私はまだ病み上がりなのだったか。
どうりでいつもよりも疲労が溜まりやすいはずだ、とベッドに体を勢いよく倒した。
『……スノウ、嬉しそう』
「…そうだね。何だかああやって悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてくるよ。」
『……だから私は言った。スノウは考えすぎだって……』
『まぁ、今回ばかりは主人の気持ちも分からないでもないがな。』
『ふわぁ、ボク眠くなっちゃったよ。』
『よ、良かったです…。気持ちが晴れたようで……』
「ふふ、皆ありがとう。君たちが居てくれなかったらきっと逃げ出していただろうね。こうやって彼らと向き合うことは無かったと思うよ。」
『それは主人の頑張りだ。俺たちは何もしていない。』
「そんなことはないよ。本当、ありがとう」
目を閉じれば先程まで私に沢山見せてくれていた皆の笑顔が脳裏に浮かぶ。
それを思い浮かべるだけで私の心はこんなにも温かくなるんだ。
私はその温かい気持ちのまま眠る事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まだ微睡みの中、何かが私の耳を触る感覚がした。
それと同じくして、冷たい物体も耳に当たってそれが感覚として脳へ伝わってくる。
思わず顔を顰め、身を捩るとその手が離れていく。
しかし冷たい何かは依然耳に着いているようで、私が身を捩った所で落ちていかないのを考えると誰かが私の耳にピアスでも着けたのだろう。
そこまで思考がいった時、漸く私は薄ら目を開けその正体を見ようと視線を動かした。
「起きたか。」
「……ジューダス?」
『おはようございます!スノウ、身体はどうですか?』
「う、ん……。だい、じょうぶ……」
『まだ眠そうですね……。珍しいですね、スノウがこんなにも眠そうなのって。』
「いつもは早起きだからな、こいつは。精霊との契約の代償なんだろうが…、ここまで酷いと流石に心配になるな。」
何か二人が話しているが、まだまだ眠い私にその言葉たちは届かない。
身体を起こし起きようとしたが、肩を押えられ否応無くベッドへ逆戻りする。
「う、……何する、んだい……、レディ……」
「眠いなら病人らしく寝ていろ。」
「う、…ん。」
再び瞼が落ちそうになり、首を横に振り眠気を覚まそうとしたが失敗に終わる。
吸い付いた様に瞼が開くことはなく、私はまた夢の中に旅立とうとしていた。
微かに椅子を動かす音がしたので、ジューダスが近くに来て座ってくれているのかもしれない。
そんな思考と共に私は知らぬ間に再び寝ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
完全に寝た様子のスノウを見て人知れずジューダスは溜息を吐いた。
こんなにも契約の反動が大きいとスノウの体に何か起こっているのではと不安になったからだ。
それを見越してかスノウの指に着けられている指輪達がここぞとばかりに光り輝きだす。
「…こいつの身体はちゃんと無事なんだろうな?」
『当然だよ!ボクらとの契約でマナを使い切ってるだけだからそれの代償が今来てるだけって事!』
『……スノウのマナは私達と契約をしていくことで徐々に増えていってる……。でも、流石に精霊二人を一緒に契約するのはまずかった……』
『う…!す、すみません……』
『でもボクはスノウならちゃーんと出来ると思ってたよ?』
翠色の指輪がまるでソーディアンのコアクリスタルのように明滅を繰り返している。
恐らくおちゃらけていた言葉の精霊がこの翠色の指輪なのかもしれない。
『精霊ってどれくらい居るんですか?まだまだスノウは精霊と契約するってことですよね?』
『まぁ、そうだな。主人はなるべく契約していきたいと言っていたし、今後も俺らみたいな精霊と契約をするだろうな。』
『ボクたち精霊の数は、属性の数ほどあるからそんなにいる訳じゃないけどね。』
「火地風水、光闇……か?」
『元属性や氷、雷などの特殊な属性もいるね!セルシウスがその例さ!』
『……元属性は流石に契約しないと思う。』
『何故ですか?』
一度精霊達は言葉を噤むと、様子を伺うようなぼんやりとした光で指輪を光らせた。
『『『『歳だから』』』』
「は?」
『精霊にも歳とかあるんですね…。何か意外です…。』
その手の話題を避けたいのか誰もが口を噤んで黙り込んでしまったので、ジューダスは別の話題にしようと口を開くと風の精霊グリムシルフィがそれよりも早く喋り始める。
『そういえば、スノウが君にプレゼントしたピアス。スノウに着けて良かったの?君の為に買って着けたんだと思うけど?』
そう言われ彼女の耳に飾られた紫水晶のピアスを見遣る。
元々スノウがジューダスへ、デートをしてくれたお礼だとくれたものだった。
だが同時に彼女は、ジューダスの瞳であるそのピアスの色が気に入っているとも言っていた。それこそ、ジューダスの眼の近くに手を置き”抉り取る”などと物騒なことを言うほどには。
個人的な独占欲だとしてもジューダスは自分の瞳と一緒のそれをスノウへ着けて欲しいと思っていたのだった。
「本人も気に入っているようだしな。」
『(本当は自分の瞳の色と同じものを着けて欲しいと思ってる癖に…)』
『ふ~ん。ま、いいけど。』
何か言いたそうな緑色の宝石の指輪を一睨みしたが反応はないため視線を逸らせた。
そうだ、独占欲だ。
こいつは何だかんだ変なものに気に入られる傾向にあるので、そいつらに分からせてやる物でもある。
”こいつは僕のもの”だと。
『しっかし…起きないですね。スノウ。反動の波でもあるんですかね?』
『昨日あれだけ色々聞かれて主人も精神的にも疲れていたんだろう。波があるのは否定しないがな。』
『……かなりお疲れみたいだから深い眠りに入ってる…』
「…そうか」
今一度話題にされている本人を見れば無防備に寝ていることが分かる。
だが、安らかともいえるその様子に内心ホッとしたのは言うまでもない。
昨日のスノウの様子は今まで見たことがなかっただけに、心が締め付けられたのだ。
泣きながら話す彼女は本当に苦しそうで、「消えればいいのか」なんて口走るものだから堪らず外に出たんだったか…。
僕の災難の肩代わりしてくれているのが、本当に申し訳なかった。
だから僕はカイル達に自身の正体を明かす決意をしたのだ。
スノウが悩んでいるそのものが”自分の正体がばれた時に仲間として呼んでくれるか”だったからだ。
個人的に正体を曝け出すのは何時がいいか迷っていた部分もあった。最初の方こそ絶対に隠し通すつもりでいたが、仲間と呼んでくれるあいつらにいつの間にか絆されていたらしい。
『それより、これからどうしたらいいんでしょうか?エルレインの方も動きがないように思いますし、後ろに居る〈赤眼の蜘蛛〉も今のところ、動きがありません。』
「…スノウに聞く訳にもいかないだろうしな。」
『…というより今の段階ではスノウは役に立てないかもしれない。』
『主人の知っている未来を辿っている訳ではないからな。…このまま何事もなく、同じ未来へ進んでくれればいいが…。』
『確かにボクたちと契約した時には既に違う未来になっていたからね!スノウの苦悩もまだまだ続くわけだ。』
『で、でも…それは〈赤眼の蜘蛛〉が勝手にやったことだから、仕方がないっていうか………』
『だが、このままではいつかは異常が生じる。その時、この世界の人間が一人でも生き残れる未来ならいいがな。』
『なんか、物騒な話になってませんか?』
精霊たちの話し込む話題は僕達にとってあまりいい話ではないことは確実だ。
”人間が一人でも生き残れる未来ならいいが…。”
「(物騒過ぎて笑い話にもならないな。)」
すると深い眠りに入っていた筈のスノウが急に目を開き体を起こすと、その手に銃杖を手にし扉付近を睨みつけたではないか。
急なそれに驚いたのは僕達だけではなかったようで精霊たちも息を呑んでいた。
「……そこにいるのは誰だ」
威嚇するようにそう話すスノウ。
僕達は急いで扉の方へ警戒をすると、その扉は乱暴に開き小柄な黒づくめのものがスノウへと抱き着いた。
急だったため咄嗟に反応できなかったが、僕は慌ててそれを引きはがそうとした。しかし向こうも強く抵抗していてスノウから離れようとしない。
「っお願い!助けて!!!」
「っ、その声…!」
スノウが驚いたように声を上げ、僕を見た。
真剣な顔で頷くので僕は渋々手を離した。
「海琉、何があったんだ?」
「(カイル…?)」
「殺されちゃうっ!早く来て!!」
「!!」
スノウはそれだけで何か分かったようで海琉と呼んだその少年らしき黒づくめの肩へと手を置いた。
そして申し訳なさそうな顔で僕を見て何かを話そうとするも、中々言葉が思いつかないらしい。
「…ジューダス、ごめん。」
「はぁ、分かったからまずは何が起きてるのか話してくれ。」
「それじゃ遅いっ…!早くしないと、あの人が…!」
「道案内頼めるかい?海琉?」
「うん…!」
「ジューダス、一刻を争う状況なんだ。後でちゃんと話すから少しだけ行って来るよ。」
『え、一人で行くつもりですか?!まだ本調子じゃないのに?!だめですよスノウ!』
「僕達も行く。だから道中簡潔に言え。」
「!!…ありがとう、二人とも。」
すぐにベッドから降りたスノウだったがすぐにその場に膝をついてしまう。
本人は予想外だったのかその出来事に目を丸くして、顔を険しくした。
「(まだ、本調子じゃないか…。だが、こうしてる間にも…!)」
「僕がおぶる…!」
「え、」
そういうと小柄な黒づくめはスノウを軽々と持ち上げると外に向かって走り出した。
僕達はその後を追う様に走り出した。
「海琉…意外と力持ちだね…?」
「あんたは軽いから…」
「で、どういう事になってる?」
「恐らく修羅が〈ホロウ〉と戦っているんだ。それも彼が苦戦するほどということは、ラプラス級のものか…?」
『え、じゃあスノウが行ったら危ないじゃないですか!!』
「だけど、私でもないと攻撃出来るものが居ないんだろうね。海琉がこうして応援を私に頼んでくる位だから。…海琉、玄やアーサーは?」
「…あいつらなんかに…!頼みたくない…!!」
苦しそうな声でそう呟く黒づくめに僕達は自然と顔を見合わせていた。
その様子から、やはり〈赤眼の蜘蛛〉は内部分裂しているということで間違いなさそうだった。
街の外に出てしばらく走っていた海琉だが、急に立ち止まるとスノウを優しく下ろした。
何も言わない黒づくめの視線の先を辿ると修羅が一人、巨大な魔物を相手にしていた。
しかし余裕がなさそうな様子でそれをいなしている。
「修羅!!」
「っ!!?」
スノウの声を聴いて驚いた様子の修羅だったが、視線は魔物から離すことはなかった。
スノウは黒づくめにお礼を伝えると銃杖を構えた。
「…ジューダス、恐らく君の攻撃は奴に効かないけど…」
「それでも奴を助けたいんだろう?僕もいろいろ試してみる。お前は無理しない程度に頑張ってこい。」
「…うん。流石に接近戦は無理そうだから遠距離で援護させてもらうよ、修羅!」
いつの間にか海琉が魔物に向かって攻撃していたがその攻撃はどれも擦り抜けていて、徐々にその攻撃も焦りからか荒くなっていくのが目立つ。
「__連なれ氷柱、フリーズランサー!!」
スノウの声で咄嗟に大きく後退した修羅はようやくこちらを視認した。
僕を見て一瞬嫌そうな顔をしていたのでふんと鼻を鳴らしておく。
それにしてもあの黒づくめの攻撃でもあれほど擦り抜けるなら僕たちの攻撃も効果はなさそうだ。
何か出来ることはないかと、僕も晶術や攻撃を試してみる。しかし実際はその攻撃がまるでなかったかのように擦り抜けていくので思わず顔を歪ませた。
『やはりダメです…!どうして?!』
「…くっ。」
その間にもスノウや修羅は着実にダメージを叩きだしていく。
その巨体を唸らせながら逃げようとする魔物にスノウ達は更に追い打ちをかけていった。
「__インブレイスエンド!!」
「驟雨魔神剣!!」
前衛を修羅が、後ろから後衛としてスノウが魔法で援護をしていく。
高速な技の応酬…、確かに奴の実力はすごいが僕だって負けていないと少しだけ口を尖らせた。
「セルシウス!」
『…任せて』
指輪が光り、セルシウスが召喚されるとすぐさまセルシウスは敵に向かっていく。
その間にスノウは次の魔法の詠唱を唱えていた。
「__メイルシュトローム!!」
渦巻く水が敵を襲い、逃げ出そうとしていた敵の動きを止めた。
その隙に修羅とセルシウスが接近し攻撃を浴びせていく。
その攻撃達でついに魔物は悲鳴を上げ、消えていく。
しかし後に残ったのはレンズではなく、白と黒のよく分からない物質を辺りに散らし消えて行った。歪なその気持ち悪い物質に僕は思わず後退した。
あの黒と白のよく分からない物質に巻き込まれないように瞬間移動した修羅はスノウの近くによるとハイタッチした。
スノウも戦い終わって安堵したように息をついている。
「全く…心臓に悪い…。」
「まさかあんたが来てくれるなんてな。海琉が誰かを呼びに行ったのは気配で分かったが…。」
そういうとこちらを睨みつけてくる修羅に僕も負けじと睨み返した。
「…これで分かっただろ。あんたはスノウを守れやしない。何もできずにそこに居るだけだ。」
「まぁまぁ、いいじゃないか修羅。これから何か出来る事もあるかもしれないんだし。」
「スノウ。あんたってやつは…。」
「??」
「ともかく助かった。スノウ。まさかこんなに早くラプラス級に会うなんて思ってもみなかったな。」
「君が苦戦するほどだから、と思っていたけどやはり強かったね。〈ロストウイルス〉との初めての交戦が、まさかラプラス級なんて…。」
「クスクス…。これで少しは危機感が増すだろ?」
「おかげさまでね?」
やれやれと肩をすくめるスノウに笑う修羅。
その構図が気に入らなくてスノウと奴の間に入った。すぐさま奴に睨まれたが僕は決して視線を外さなかった。
しかしスノウが静かになったのを不思議に思った僕たちはスノウへと視線を向けた。
するとスノウは顔色悪くその場で尻もちをついた。
「「スノウ?!」」
「はぁ、はぁ…。大丈夫だ…。少し、疲れただけだ……。」
『…体の休息が十分じゃない状態で私を召喚して戦ったから…、それで疲労も重なってる。』
セルシウスが軽々とスノウをおぶると、スノウは気絶するように目を閉じ頭をセルシウスの肩へ落した。
取り敢えず気絶しただけだと自身に言い聞かせ、スノウを見た。
確かにあんなに眠りが深かったにも関わらず海琉が近づいたときに覚醒し、立つのが容易でないにもかかわらず先ほどの戦闘をこなした。
尋常じゃない疲労だっただろうに、本人はそれを歯牙にもかけない。むしろこうやって敵だろうが人のために頑張れる奴だ。
「__キュアコンディション」
回復術を使ったらしい奴がスノウへと手をかざし詠唱するとわずかに光源を帯び、収束する。
その頃にはスノウの顔色もだいぶ良くなっていた。
「今日はスノウに免じて消えてやる。だが次会ったときは絶対にお前を殺す。待ってろよ、俺の抹殺対象さん?」
挑発的にそう言うと海琉を連れどこかへ消えて行った。
精霊たちもあいつが消えたのが分かった途端に息をついていた。
なんだ、精霊でも苦手なものがあるらしい。
『ともかく主人をベッドへ休ませよう。何か言いたいこともあるだろうが、話はそれからだ。』
「そうだな」
セルシウスが先行し、アイグレッテへとまた戻っていく。
途中スノウの寝息が穏やかなものになっていて、それが奴の回復のおかげだというのが酷く悔しいがスノウのことを想ったら安心した。
そうして今日も一日が過ぎていく。