第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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目を閉じた私は思いの外早い段階で寝たらしく、次に目を開けた時には周りに誰も居なかった。
『おはよう、スノウ』
右手の小指から声が聞こえてきてそれを注視するとどうも風の精霊グリムシルフィが語りかけてきてくれているようだった。
「ん、おはよう。グリムシルフィ。」
『お、おはようございます…、ご主人様……』
「おはよう、ノーム」
ノームは左手の人差し指から声が聞こえる様で、声じゃないと分からなくなりそうだ。
改めて二つの契約指輪を見るとノームはオレンジ色の宝石が、グリムシルフィは翠色の宝石が埋め込まれているようだった。
……なんとなく想像通りの色だな、我ながらと思ってしまった。
無論、セルシウス達も挨拶してくれたので返答したが……、思えば大所帯になったな、と両手を翳して見ていれば扉の音が部屋に響いた。
「…ジューダス」
「起きたのか。…身体は?」
「もう何ともないよ。ありがとう、心配してくれて。」
「当然だ。全く……お前は無茶だけは一人前だな。」
『全くもって坊ちゃんの言う通りですよ!』
プンプンと聞こえてきそうな位不貞腐れているシャルティエに笑いながら謝ったが、まだ怒っているようだった。
しかし、私には色々聞きたいことがあるんだ。
「色々聞きたい事があるんだけど、どうかな?」
「まぁ、想像はつく。僕達が〈赤眼の蜘蛛〉に捕まった理由、それからお前が倒れた後の話だろう?」
「流石だ、友よ。」
「ふん。伊達にお前の友達をやっていないからな。」
何だかその言葉に不思議と胸が暖かくなる。
ジューダスから友達だと言って貰えると、本当嬉しくなるんだ。
「僕達が未来から戻ってきて、一番初めに辿り着いたのがハイデルベルグだった。復興途上の様子のハイデルベルグは活気があったが、周りを見ればやはりお前だけ居なかったんだ。その後ウッドロウと会ったんだが…元気そうにしていた。……何ならお前のことを言われたぞ。」
『そうですよ!モネ君に会ってね……って言われた時は焦りましたよ!!』
「……あぁ。そうだね。私は君だけじゃ飽き足らず、彼をも苦しめていたらしいからね。流石に正体を明かしたよ。」
『後…、えらく坊ちゃんのことを気にかけていました。謝罪の後、君も大変だなと笑っていましたが、スノウなんか言ったんですか?』
「?? 私は何も言っていないよ?ただ、彼と普通に話しただけだが…」
ジューダスは何か分かっているのか、鼻を鳴らし視線を外した。
しかし疑問が解消されないシャルティエとスノウの頭の上にはハテナがずっと浮かんだままだった。
「ウッドロウは僕の事をちゃんとリオン・マグナスとして認識していた。お前が話したのだろう?」
「まぁ勘づかれた、という方が大きいけどね。彼は君と同じで勘が鋭くて困るよ。」
「ふん。彼奴の場合、そうでもしないと国王などやっていけないだろう。」
「はは、違いない。」
このままウッドロウの話に花が咲きそうだったが、話を切り替えないと…。
「えっと、ウッドロウに会った後どうして君達は〈赤眼の蜘蛛〉に…?」
『カイルとリアラがギスギスしだしたんですよ。』
「……案の定、だね。」
『そっか、スノウは知ってるんですもんね。』
「その後、僕達は城で休む事になったんだが……、城で夕食を食べた後すぐに全員眠気が来て次々と倒れて行ったんだ。」
「で、気付いたらあそこにいた、ということか。」
黙り込む二人に私は体を起こし、頭を下げた。
同郷の者が何から何まで迷惑をかけていて申し訳なかったからだ。
しかも聞く限り、それは睡眠剤を盛られたと言ってもいい。
そこまでされて流石に謝らない訳にはいかない。
頭を下げた私を不思議そうに見ながらも何となくその行動の意味を察したジューダスは私の肩に手を置いた。
「お前のせいじゃないだろう?彼奴らは彼奴ら。お前はお前だ。同郷だからと責任を感じる必要などない。」
『そうですよ!!スノウのせいじゃありません!全部〈赤眼の蜘蛛〉の仕業なんですから!』
「そうかもしれない。けど、やっぱりこうせざるを得ない気がしてね…。本当、困ったものだよ……」
ジューダスは一度ため息をつくと真剣な面持ちで私の顔を覗き込んだ。
「お前は僕たちを助けに来てくれた。その行動でも違うと思うが?」
「ジューダス……」
「奴らは僕たちを殺そうとした。だが、お前は僕たちを救おうとした。こんなにも差異があって何故一緒だと思う?だからそんなに気にする事はない。彼奴らは敵、お前は仲間なんだから。」
“仲間”……。
その言葉に知らず知らず泣きそうになる。
「ありがとう、ジューダス。」
「当然の事を言ったまでだ。なのに、お前はいつまでも同じ事ばかり言う。全く…、手のかかる奴だ。」
『そう言いつつ坊ちゃん、心配してる癖にぃぎゃぁぁぁぁぁああああ!?』
ジューダスが静かに制裁し、部屋中に彼の悲鳴が轟く。
あまりの悲鳴に思わず声を出して笑ってしまい、暫く笑いが止まらなかった。
「ふふ、ふ…!」
「ふん…」
ジューダスは腕を組み鼻を鳴らしているものの、その顔は嬉しそうに緩んでいた。
一頻り笑った私は涙を拭いながらジューダスの顔を見た。
「君達は本当に面白いね…!全く…!涙が出てきたよ!」
「こいつが勝手に騒いでいるだけだろう?」
『え?!坊ちゃん酷いですよ!!僕をダシにしておきながらそんなこと言うなんて!?』
「煩いぞ、シャル。もう一度食らいたいのか?」
『嫌ですよ!!』
「ふふ…!」
また再び制裁を加えそうな雰囲気に私は最後に涙を拭うと、ジューダスを見た。
少しだけ顔を強ばらせていたからか、ジューダスが目を丸くし私を見つめ、そのまま私が話し始めるのを待っていた。
「……君は、私を仲間だと言ってくれる。きっと…カイル達も私の事をそう言ってくれるのだろうけど…」
「……不安か?」
「不安が無いわけじゃない…。これから…、私は……」
きっとストーリーが進めば、エルレインによって私の正体を暴かれるだろうし、その時に私はどんな顔をしていればいいんだろう。
得も言われぬ感情に、私はジューダスから視線を外した。
しかしその視線の先に移動してきたジューダスは私と目線を合わせるとデコピンをしてきた。
あまりの痛さに額に自身の手を宛てがい、痛みを堪える。
君…!本気でやったね…?!
「これから…、何だ?お前はこれから何をするつもりだ。僕達に顔向け出来ないような悪い事でもするつもりか?」
「……いや、何でもない。忘れてくれ。」
「言った方がスッキリすると思うが?それに、お前の悪い癖が出ているぞ。」
『“何でも独りで抱えるな”ですよね!後、一人で考え過ぎること!ですよ!…スノウ、僕達はスノウを疎んだり、軽蔑したりしません。何でも話して下さいよ!それこそ、僕達は“仲間”なんですから!』
「仲間…」
「困ったことがあるなら相談しろ。辛いなら辛いと言え。……何度も言っているだろう?お前ばかり苦しむのはおかしいと言っているんだ。早くそれが分かるようになれ。」
額に当てていた手をゆるゆると下ろし、ジューダスを見る。
その瞳はとても真剣で、その紫水晶の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。
そして私はそんな彼の真剣さに、思わず口を開いていた。
「未来で、私はスノウではなく、モネとして正体をバラされる時が来る。勿論、前世でやってきた事も、全て……。その時、私は皆の仲間として皆の横に立てるのだろうか、と思ったんだ。私は……大罪人だから……」
「……」
「君を殺した罪……、それにカイルの両親やその仲間たちを傷付けもした……。助けられるはずの命を見捨てた…。それも全て、私のエゴによってだ。そんな私が……皆とっ、 」
思わず言葉が出なくなる。いや、言葉が詰まったんだ。
次の言葉を言うのが憚られたからだ。
俯いてしまった顔は上げられなくて、布団をギュッと強く握り締めた。
「……馬鹿だろうっ…?自分でやっておきながら、なんて…身勝手な…!仲間と言われる資格などっ、私にはとうに、無いというのに…!いつまでも夢を見ていてっ、呆れてっ、反吐が出るっ…!!」
『……』
涙が止まらないんだ。
皆と最期の時まで旅がしたい。
そう望んだのは誰でもない、私自身なのに、ふとした瞬間、そう考えてしまうんだ。
初めから皆と立っている位置は違っているんだって分かっていても、私はそれを望んでしまう。
見えない壁が立ちはだかっているのに、それに気付かずに皆の横に立とうとする馬鹿なのだ、私は。
だから私を断罪してくれ、
詰ってくれ、
突き放してくれ。
いっそ、その方が気が楽だ。
止まない嗚咽と、止まない涙。
彼がどういう顔をして、どういう気持ちでいるか分からない。
「私はっ…、皆にバレたときにどんな顔をすればいいっ?!またあの時みたいに狂人を演じて皆を突き放せばいいっ…?!私がっ、……消えればいいの?」
「っ」
「“仲間”という言葉が私に痛みとして襲ってくるんだっ…!それは偽りの言葉だと言うのに…!仲間なら、何故こんなにも……私は、後ろめたい……?」
『……』
「ズルズルとここまで来ておきながら……、私は……何がしたいのだろうね……?いっそ、皆から後ろ指さされたら……、突き放してくれたら……楽なのかもしれないね…」
「……っ。スノウ……少し待っていろ」
そう言うと彼は私の返事を待たずに扉から出ていってしまった。
涙が止まらない私はその場でまだ泣いている。
___今、逃げてしまえばいいのに。
そんな言葉がチラチラ頭を過ぎる。
友も、私のこんな姿を見て呆れて外へ出たに違いない。
『……スノウ』
精霊達が心配そうにしているのが指輪を伝って、伝わってくる。
ありがとう、でも、自業自得なんだ。
今までやってきたことの代償が来ているだけなんだ。
だからそんなに心配しなくても___
バタン!!!
勢いよく扉が開き、恐る恐る視線を辿るとジューダスはツカツカとこちらに来て、その仮面を外し私へと渡してきた。
思わず受けとってしまったが、彼の後ろにはカイル達がいる。
何故外してしまったのか、私は慌てて彼に仮面を渡そうとしたがそれよりも早く彼が口を開いた。
「お前ら、よく聞け。僕はお前達が名付けてくれたジューダスという名がある。だが、本当の名前がちゃんとあるんだ。」
「っ!ジューダ____」
「僕はセインガルド王国客員剣士リオン・マグナス。その人だ。」
「「「!!!」」」
カイル達が目を見開き、ジューダスを見た。
仮面を外した彼を見て、そして吐露された名前を聞いて驚いていた。
私は顔を青ざめさせジューダスを見ていた。
「リオン・マグナスと言えば……確か、先の戦乱で戦死したはずの英雄の名前……」
ロニが呆然とそう口にするのを私は身体を震わせ見ていた。
どうして名乗ってしまった?
何が彼をそうさせたのだ?
私のあの話を聞いて可笑しくなったのか…?
「そうだ。僕は戦死し、既に他界している。エルレインによって生き返ってはいるがな。」
「エルレインに?!」
リアラが信じられないとばかりに口元に手をやった。
そして皆の視線は私の方へと向けられる。
もしかして、ジューダスは私に断罪の機会を与えてくれた、という事…?
突き放してくれ、とお願いした私の願望を聞き届けてくれて…?
「お前らはそれを知って、僕を軽蔑するか?」
「いや、軽蔑はしねえけどよ…。死んだ人間が生き返ってるっていうことが不思議っつぅか…。」
「リオンって、すっごい英雄でしょ?!凄いじゃん!俺たち、そんなすごい人を仲間にしてたんだよ?!ロニ、もっと喜ばないと!!」
「お前は能天気だなぁ…?ま、でもカイルの言葉も一理あるな。たまたまだったにしろ、そんな凄いやつと一緒にここまで来たんだ。なんか、そっちの方がワクワクはするよな。」
「じゃあ、もしかして……スノウも…?」
リアラが恐る恐るこちらを見る。
私は視線を外しそうになったが、己を叱咤して顔を上げた。
「こいつはスノウ・ナイトメアと名乗ってはいるが、本当の名前はモネ・エルピスだ。お前らも名前くらいなら知っているだろう?」
「そりゃあ有名人だからな。モネ・エルピスといやぁ、スタンさん達を先に行かせるために犠牲を払った男剣士……って、え?」
「ま、待って…!モネって男の人だったはずよね?!」
「え、そうなの?俺、名前しか知らねぇや。」
「おまっ、馬鹿!どんだけおツムが弱ぇんだよ!モネ・エルピスっつったら相当腕の立つファンダリアの英雄だろうが!!かなりのイケメンで向こうから勝手に女が寄ってくるって有名だろうがよ!」
「え、」
「……ふっ。自分の行いを振り返るんだな?モネ。」
『まぁ、相当女の人とかにも笑顔振りまいていましたからねぇ…?』
「……」
ある意味で有名だったことに目が点になる。
いや、違う。そうじゃない。
私が言いたいのは、皆が私を断罪してくれるという機会をくれたと言うことであって、そしてそれは違う史実だと言いたい。
いや、物凄く言いたい。
「えっと、それは違うって言うか……」
「いいか?カイル。モネ・エルピスはな?この世の全ての男の敵だ。そこら辺の女を全てかっさらっちまう大悪党だ…!許しちゃならねぇ…!」
「えー?それってロニが勝手にそう思ってるだけでしょー?だって、現にモネってスノウってことでしょ?見てみなよ。女の人じゃん。」
「そうよね?でもなんで、モネが男だって噂が立ったのかしら?こんなに可愛いのに。」
「うぇ?え?」
「ふ、ふふ…!」
『あーあ、モネが女たらしだから〜』
「ちょ、シャルティエ!語弊のある言い方しないでくれないか?!」
「え?!シャルティエって、ソーディアンだよね?!!え、どこ?!どこにあるの?!」
「あ、」
うっかりそう言ってしまった後に口を押えるが、後の祭りだった。
カイルが興味津々に辺りを見渡し、ロニは信じられないとブツブツ呟き、リアラは不思議そうにスノウを見ていた。
ナナリーが私の傍らに寄ると、私の目の下にある涙の跡へ指を置いて苦笑いをした。
「……もしかして、そんなんで悩んでたのかい?自分が死んだ人間だからって、そんな事で?」
「えっと……」
「お前ら、話はまだ終わってないぞ。」
必死に笑いを堪えている顔ではあるがそう話すと真剣な顔に戻った為、皆が静かにジューダスを見る。
「僕はとある人物を助ける為に仲間を裏切り、世界を裏切り、そして、仲間を傷つけた。」
「っ!!違う!!リオンはそんなことをしていない!!それは私が全てやった事だ!!彼は無関係だ!!」
「スノウ、黙っていろ。」
「っ、」
有無を言わさない彼のその声音に私は刹那言葉を詰まらせる。
しかしそれは私がやってきたことであって彼はそんな事していないのに、何故そんな事を…?
私は更に言い連ねようとしたが、その前に精霊達が私を止めた。
様子を見よう、とそう言っていた。
それにグッと堪え黙り込むとジューダスが再び話し始める。
「カイル。お前の両親とも戦ったものだ。無論、スタン達の勝利に終わったが、同時にスタン達をリフトに乗せ先に進ませる必要があった。だがそのリフトを動かす機械はリフトから遠い場所にあった。それを知っていた僕はスタン達をリフトに乗せリフトの機械を動かした。」
「……」
「……それで?」
リアラが恐る恐るジューダスに聞く。
ジューダスは目を伏せ、呟いた。
「僕は海底洞窟の崩落と濁流により死んだ。」
「っ、」
あの時の感覚が蘇ってくる。
手が冷たくなっていく感覚、息苦しい水の中……。
いつの間に手を握りしめていたのか、その手を握ってくれたのは近くにいたナナリーだった。
冷えきった手が、徐々に温かくなっていく。
「……さっきも言ったが、僕はとある人物を助けるために仲間も世界をも裏切った存在だ。また昔と同じく、お前らを裏切るかもしれない……それでもお前らはこの僕を仲間だと言うのか?カイル、お前に訊ねる。今ここで決めろ。僕をこのまま仲間に入れ先に進むのか、それともここで別れるか。」
「「「「……」」」」
誰もが皆一様にカイルを恐る恐る見るが、カイルの顔は実に晴れやかなものだった。
それにスノウが目を丸くし、カイルの言葉をひたすら待った。
「なんだよ、そんな事か!ジューダスが大事な話があるって言うからさー、すっごい緊張したじゃん!てっきりこの間夜中にこっそり食べたバナナのこと、バレたのかと思ったじゃん!」
「……いや、ちょっと待て?そういえば、この間からバナナが沢山消えていたんだが……まさか、お前……全部食ったのか…?」
「え?全部食べたよ?あ、ロニも食べたかった?」
「馬鹿やろー!!?あれ何日分のバナナだと思ってんだ!この馬鹿!!」
「えー?だって少なかったよ?!」
「うっせ!お前の少ないは通常家庭においての“沢山”なんだよ!!!」
取っ組み合いの喧嘩になる二人に今度は目を瞬かせた。
あれ、脱線してるけど……話はどうなったんだ?
苦笑いをする他三人はその光景を止めようとしない。
聞いたジューダスでさえ止めるような事はしなさそうに見えた。
ナナリーが私を見て耳元に口を寄せ私に小声で話しかけてくる。
「……さっきの話、本当はあんたがやった事なんだろ?」
「っ、」
「大丈夫だって。あそこ見なよ?まだ取っ組み合いの喧嘩してるんだよ?それほど、ジューダスが話した内容はアイツらにとってはどうでもいいってことだよ。」
「……でも、」
「全く……、じゃあ聞いてみようか?」
頭を優しく撫でるナナリーは私の耳元から口を離しカイル達を見て大声を出した。
「で?あんたたち!さっきのジューダスの話を聞いてどうするんだい?」
「え?!何言ってんのナナリー!!ジューダスがリオンだろうが、えっと……スノウがモネだろうが、オレは変わらないよ!だってさ!さっきの話聞いててもさ、ジューダスはその人を助けたくてやった事なんでしょ?それにもう大昔の事じゃん!」
「大昔……」
「リアラの英雄になってオレ、分かったんだ!!誰かの英雄になるってことは、その人やその大事にしてる人達全員を信じることだって!守ることなんだって!」
「!!」
「だからさ、ジューダスもそんなこと気にしないでさ!オレ達と旅を続けようよ!それにジューダスが居ないとオレ道わかんないし。」
「僕は案内人になった覚えはないぞ。」
「それにオレが何かを間違えたりやらかした時、ジューダスはちゃんと叱ってくれるだろ?だからこれからも遠慮なく叱って欲しいんだ。」
……彼は着実に成長している。
誰かが自分を叱ってくれるのを自身の成長だと分かっているんだ。
「だからさ!そんな事気にしないでさ、オレ達の側にいてよ!……もー、本当にビックリしたじゃん…。おかげでバナナのことバレたじゃん!」
「お前、後で説教だからな?」
「えー?ロニの説教怖くないからなー」
「……ふん。なら僕から説法を説いてやろうか?」
「あ、やっぱりオレ食べてないや!」
「おっせぇよ!!このやろう!!」
再び取っ組み合いの喧嘩に発展する二人。
そして事情が分かっているらしい他の三人はゆっくりと私を振り返った。
「どうだ?これでお前の苦悩も解消されたか?……あの阿呆に聞いただけ無駄な時間だったと思うが?」
「私、カイルならそう言うと思ってたわ。」
「短い付き合いのアタシでもそう思うんだからさ、アンタが信じてやんなくてどうすんのさ?」
優しい声音で皆がそう話すのを私はじっと聞いていた。
皆は初めから分かっていたんだ、私がそういう事で悩んでいるって。
だからそうやって聞き返してくれる。
私は目を伏せ、気まずそうに視線を横に流した。
「……馬鹿ですね…。私を仲間に入れても碌な事にならないのに……。私のせいで皆は危険な目にあったのに……?」
「あの黒い集団のことかい?あれはアンタのせいじゃないだろ?」
「そうよ。寧ろ一人になるのは危ないわ、スノウ。あの人達、執拗にスノウを狙ってるじゃない!私たちが守るから、離れていくなんてそんな寂しいこと言わないで?」
リアラも近付いて私の手を握ってくれたので必然的に視線はリアラの方へ向けてしまった。
しかしその気持ちとは反対に、その握られた手は途端に温かくなっていく。
二人のおかげで体も温かくなっていた。
「それに私、前に言ったわよね? “…私は、スノウが離れるなんて考えられない。私を救うという意味でも、私はスノウに一緒にいて欲しい”って。」
「!!」
あれは確か、セルシウスと契約した後皆と一緒に居てもいいか悩んでいた時にリアラから聞いた言葉だ。
「今はナナリーっていう女の子もいるけど、やっぱりそういうのって多い方がいいじゃない?私、今でもスノウがこのメンバーから離れるって考えられないの。カイルも言ってた通り、そんな事気にしないで?私は今のスノウしか知らないもの。過去のスノウ……、モネがどうであれ、私は今のスノウを信じるわ。」
「リアラ……」
「アタシもだよ。過去はどうであれ、アンタはアンタなんだからさ?それとも何?アタシ達に愛想を尽かした?」
「そんなことはない!」
「ならいいじゃないか!決まりだよ!」
この話は終わりだという風に手を叩くナナリー。
リアラはにこにこと笑っていて、ジューダスも穏やかな顔をしている。
何故か悩んでいた私が可笑しいんだ、と思えるその雰囲気に私は少しだけ口角を上げた。
「ありがとうございます……」
「「あと、それ!!」」
ナナリーとリアラが私を指さし、大きな声で何かを指摘してきたが、検討がつかないため目を瞬かせる。
一体彼女らは何を指摘してきたんだ?
「アンタさ、それ素じゃないだろ?」
「私もね?前から思ってたの。ハイデルベルグで黒い人と対峙するスノウを見て……、ううん、あの時のスノウの声や言葉を聞いてずっと心に残ってたの。何時だったか、口を噤んだ時があったでしょ?その時に言おうと思ったんだけど……」
10年後の時代からこちらに戻る前にリアラから何か言いかけて止められたのを思い出す。
“ねえ、スノウ……。スノウにも、助けてくれる仲間がいるよ?だからもう少し……、ううん、やっぱり何でもない!”
思えばあの時から既に彼女は私の事を気にしていたのかもしれない。
いや、もしかしたらあのハイデルベルグでの出来事で既に……。
「私、スノウの素の声が聞きたいな?それに話し方もあんな他人行儀じゃなくて、普通に話して欲しい!」
「アタシからも頼むよ。なんだか敬語って落ち着かないんだよね。」
「ふっ…、だそうだが?」
「……」
いきなりそう言われると正直戸惑ってしまうが、少しだけ笑って素の口調……、“考古学者のスノウ”としての高めの声ではなく、素の声で話してみる。
「……これで、いいかい?」
「うん!そうよね!スノウってやっぱりそんな言葉遣いなのよね!ハイデルベルグで黒い人にはそんな感じに話してたもの!」
「へぇ、いい声じゃないか。前のも可愛いけどこっちの方が落ち着いている声だね。」
「そんなに褒められると照れてしまうよ。」
『スノウでも照れるんですね。』
「言葉の綾だろう?」
シャルティエの言葉が聞こえていない二人はジューダスの言葉に目を丸くした。
「あ、でも……それならやっぱりモネって呼んだ方がいいのかしら?」
「それはスノウが決めることじゃないかい?」
「ふふ、どっちでも構わないよ。君達に呼ばれるならどんな言葉でも輝いて聞こえる。」
「……アンタ、そんな感じだから前世であの言われようなんじゃないのかい…?」
「ははっ…!」
『ですよねぇー?ナナリーもそう思います?』
「ははっ、今自覚したところだ。」
皆で一頻り笑っているとカイル達も入ってきて、なんだなんだと聞いてきたので指を口に当てた。
「二人には秘密だね。」
「「ええ?!」」
それでも彼らが執拗に聞いて来るものだから苦笑いをしているとジューダスの雷が二人へ落ちていた。
正座させられているカイル達を見て女性陣は笑っていた。
そしてスノウの指にある4つの指輪も嬉しそうに輝くのであった。