第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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ウッドロウに会ってから2日が経とうとしていた。
未だに彼らの消息は掴めず、私はここアイグレッテで人知れず嘆息していた。
「流石に遅すぎやしないかい?」
『……何かに巻き込まれてるとか』
『まぁ、そう考えるのが妥当だろうな。恐らく〈赤眼の蜘蛛〉にでも捕まってるのではないか?』
「そう思いたくはないけど有り得なくはない、か……。」
頭を押さえ、徐々に出てきた頭痛をやり過ごす。
しかし、カイル達が〈赤眼の蜘蛛〉に捕まっていたとして、そこからどうやって助け出すかだが…。
「……〈赤眼の蜘蛛〉の拠点とか本拠地とか、一切知らないんだよなぁ…。」
『……流石に私達もそればっかりは分からない』
『役に立てなくてすまないな、主人。』
「いや、充分に役に立ってくれてるよ。こうして悩み相談を聞いてくれる相手がいるのは嬉しいよ。」
一人で悩んでいたらこんなにも落ち着いていなかっただろうし、彼らの存在に本当感謝だ。
「ここに修羅が居てくれたら聞くんだけど…」
流石にそれは高望みしすぎか。
姿を表さない彼に再び嘆息すると、ブラドフランムの鋭い声が耳に入ってくる。
『主人っ!避けろ!』
「っ!?」
慌てて後ろへ避けると目の前に何かが飛んできて、それは近くにあった街路樹に刺さった。
刺さった物を見ると、それはドラマや漫画とかでよくある矢文というやつだった。
すぐさま私は射った人物を探知しようとしたが、既にそこら辺に居る人に紛れて犯人は分からなくなっていた。
矢文を取り、ゆっくりと紙を広げていくとやはり思った通り、そこには文字が書かれていた。
「……“彼らは預かった。返して欲しければハーメンツヴァレーへ来い”……。ハーメンツヴァレー…?なんであそこに…?それにこの手紙…名前が書かれていない……」
『……罠の可能性もある』
『どうするのだ?主人よ』
「……行くしかない。本当に捕まっているなら早く助け出したい。こうしてる間にもエルレインが何をしているか分からないからね。」
瞬間移動の魔法でハーメンツヴァレーへと跳んだ私は崖下をそっと見る。
敵の姿は見えず、どこら辺にいるのか皆目検討がつかない。
「ん?…待てよ。確か……ここは隠し通路があったはずだ。ソーサラースコープで探すと見える隠し通路が。」
『……流石ね。スノウ……』
『記憶力がいいな、主人は。』
「ソーサラースコープが無いから勘で行くしかないね。」
『主人は探知に長けている。それで探せば早いと思うぞ。』
「それもそうだね。やってみるよ、ありがとうブラドフランム。」
早速頭に手を置き、探知を開始する。
一番崖下…そこに複数の反応がある。もしかしたらそこかもしれない。
私は探知を中断し、崖を軽々と飛んで降りていく。
踏み外しさえしなければ大丈夫だろうその地形を見つつ、下を特に注視する。
崖下へと辿り着くと再び探知を再開する。
すると割と近い場所……それもこの崖中に複数の反応があるため近くにあった崖に手を置き、入口を探す。
「!!」
見た目は崖だが、スルッと手が抜ける場所がありそこへ躊躇なく入っていく。
ポッカリとした穴かと思いきや、この空洞は狭い道のようになっており、更に奥まで続いていて何かあるのが見え見えだった。
『主人よ、警戒を怠るなよ。』
『……私たちも警戒するけどスノウも気をつけて……』
「……あぁ。」
銃杖を手にゆっくりと歩を進める。
きっとこの奥にはカイル達が……、そして〈赤眼の蜘蛛〉も居る。
私は何故かそう確信していた。
一際拓けた場所へと辿り着くと周辺には黒づくめの集団がいて、その中には捕まっている仲間たちの姿も見える。
「「「スノウ!!!」」」
「……」
苦虫を噛み潰したような顔でジューダスはスノウを見た。
この状況は誰が見ても最悪だ。
これでまたスノウが自分のせいだと言い出さなければいいが…。
「……彼らを解放して貰えませんか?」
“考古学者のスノウ”の声でそう話すスノウは奥にいる黒づくめを睨みつけた。
その黒づくめは喉奥で笑う様な笑い方をした後スノウへと手を伸ばした。
「ようこそ、スノウ・ナイトメア。我々〈赤眼の蜘蛛〉の拠点の一つへ。」
「御託はいいです。早く彼らを解放してください。」
「この状況が見えていない訳では無いでしょう?下手なことをすれば彼らを殺します。」
仲間たちを拘束している黒づくめの奴らは鋭いナイフを手にし仲間へ近付けた。
私は顔を歪め、目の前の黒づくめを睨みつけた。
この声といい、喋り方といい、やり口といい……この目の前の黒づくめは恐らく【アーサー】だ。
私を仲間に入れたいと言っていたし、もしかしたら強硬手段に出たのかもしれない。
「まぁ、一人はあのお方に任せますがね。」
「あのお方…?」
途端に視界の端に光が発せられ反射的に目を細める。
そこにはエルレインが立っており、彼女は黒づくめに捕まっているリアラをじっと見つめていた。
そうか、〈赤眼の蜘蛛〉はエルレインと結託していたから…!
しかもこの時代にエルレインとリアラが会えばあのイベントが始まってしまう。
ハッとしてエルレインを見たが時は既に遅く、エルレインはリアラへと話し掛けていた。
そう……あのイベントの通りに。
「哀れな、リアラよ。」
「……」
「私の救いこそが人々を幸せにする…。英雄が居ないお前には到底叶えられない事だ。」
台詞が変わってはいるが内容は似たような感じ……。
しかしこのままではカイルがリアラの英雄として発現しない…!
「君は…これを狙って…!」
「フフ…、最高のショーでしょう?」
こうしている間にも話が進んでいく。
私は…、どうしたらいい…?
「神の愛に満たされた世界……。苦痛や悩みなどとは無縁の完全なる世界。これこそが、救いのあるべき姿……。可笑しな話だ…。神の御使いであるお前が誰かに縋るとは…」
「っ!」
「お前が求めているのは共に歩み、助けてくれる英雄か…?それとも__」
エルレインはそこまで言うと一度私の方を見て悲しそうな顔になる。
どうして君はそんな顔をするんだ…?
いつぞやも私を見ては悲しそうな顔で見てきていた。その理由は…?
「しかし…まだ足りぬ…。まだ人々を救う為にはレンズが足りぬ…。」
「え?!」
この時点でレンズが足りないなんて…、そんなことなかったはずなのに…?
そんな疑問を考えているとふと、頬を撫でる風を感じた。
ここは空洞であって風が通るような穴はないはず…?
『___る?』
「!!」
この声……、聞き覚えがない。
ブラドフランムとセルシウスは分かっているかのように指輪をキラリと光らせた。
すると、地面が大きく揺れまるで地震かのように空間をも揺らされた。
突然の出来事に黒づくめ達も慌てふためき始める。
そして再び聞こえる声は先程と違う声。
『……ぼ、ぼくと……契約して…?』
「!!」
地面からハッキリと聞こえるその声…。
セルシウス達もさっきから反応しているということは…この声の主は地の精霊ノームだ…!
『ズルいよ!?ボクが先だったのに!!』
ノームの前に聞こえていた声の主……。
風を感じたこの声はきっと、風の精霊グリムシルフィだ。
一度に二人と契約なんて…、私に出来るのか…?
そんな不安を感じとったのか、セルシウスとブラドフランムが優しい声音で言う。
『『“想像出来るなら”?』』
「!! “創造出来る”…!!」
揺れが収まり、冷静さを取り戻した黒づくめ達。
変わらず仲間は拘束されているが…二人の精霊の力があれば突破出来る…!!
「ふふ…」
私の笑いに誰もが私に注目した。
アーサーは特に怪訝な顔でこちらを見ていた。
「皆…ごめん。後は頼みました…!!」
「「「「『!?』」」」」
「おやおや、何をする気ですか?この状況では何も出来ないでしょうに。」
「それはどうかな?……我が名はスノウ・ナイトメア。我と契約せよ、ノーム!グリムシルフィ!!」
『『契約完了!!!』』
指には新たに二つの契約指輪が現れる。
瞬間、私は二人の精霊の名前を唱えていた。
「仇なす敵に鉄槌を__ノーム!!」
『りょ、了解しました…!』
「仇なす敵に戒めを__グリムシルフィ!!」
『よっ!待ってました!!』
笑顔で風を起こし敵を切り刻んでいくグリムシルフィに、揺れを起こし仲間達と黒づくめを離していくノーム。
「ノーム!仲間達を守って!」
黒づくめから解放された仲間達の周りを岩石が守るように覆いかぶさる。
グリムシルフィはいたずらっ子のように暴れ回っていて、それに悪戦苦闘する黒づくめ達。
特にアーサーは焦燥を浮かべており、エルレインは既に何処かへ消えていた。
「くっ…!スノウ・ナイトメア…、まさかこんな時にまで精霊と契約するとは…!!」
「だから言っただろう?それはどうかなってね!」
銃杖を構え、百華を打ち出すと揺れに耐えながらもそれを避けるアーサー。
しかしその表情は辛そうで、すぐに地面の揺れに対抗する為に腰を落としていた。
するとそこに誰かの晶術が炸裂し、アーサーがそれをも咄嗟に避けていた。
誰が晶術を使ったのか、と目を見張っていると私の横に並ぶ人物がいた。
「お前だけに任せられないからな!」
『スノウが切り開いてくれた絶好の好機…!!坊ちゃん!!さっきまでの仕返し、してやりましょう!!やってやりますよー!』
『「エアプレッシャー!!」』
瞬時にアーサーへと晶術を放つジューダス。
あのノームの守りの岩石からよく抜け出せたなと感心していたが、次の瞬間、洞窟内は赤い光に染まっていく。
この赤い光に既視感があり、私はハッとした。
この光……、まさか……!
私が慌てて後ろを振り返るとしっかりと手を握り合って、敵を見据えるカイルとリアラの姿が見えた。
その二つの瞳には決意が宿っていて、リアラの胸元のペンダントにはこの洞窟内全体を照らす赤い光……。リアラの英雄がカイルだと証明された証だった。
「リアラは俺が守る!!そして…仲間も守るんだ!!!」
「スノウ!!私達を信じてくれてありがとう!!後は任せて!!」
「っ!じゃあ、お願い、します……!」
急に契約の後遺症である倦怠感が襲って来て、その場に膝を着くと、私の横を通り過ぎていく二つの影……、ロニとナナリーだ。
二人は私にウインクをすると何も言わず、敵に立ち向かって行った。
カイルもアーサーへと立ち向かっていき、リアラが私のそばに駆け寄ってくれる。
「大丈夫?……ヒール!」
「あり、がとう……。」
「少し休んでいろ。後は僕たちがやる!」
『スノウを困らせた罪、償ってもらいますからね!!』
「ええ!皆がいればきっとどんな困難も乗り越えられる!何だって出来る!スノウの言葉……私たちにちゃんと届いたから…!」
リアラが大きく頷き、笑顔を見せてくれた所で私は安心してしまってその場で気を失った。
二人の精霊と契約したからどれくらい気を失うことになるのやら…。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・
意識が浮上し、目を開けると真っ白い天井が見えていた。
腕に違和感を覚え、そっちを見ると点滴の針が腕に刺さっていた。
朧気な記憶の中、私が必死に頭を動かしていると扉を控えめにノックする音が聞こえてきた。
数秒後賑やかな声と共に扉が開けられ、私を視認した後余計にその声は賑やかさを増す。
「あ!!スノウ!起きたんだ?!」
「スノウ…!大丈夫?どこか痛くない?」
「良かったーー!お前……何日寝れば気が済むんだよ!!」
「それ程体が疲れてたってことだろ?ちょっとはものを考えていいなよ。」
「なんだと?このオトコ女……いえ、なんでもありません…!」
ボキボキと手を鳴らすナナリーを見てふと笑うと皆が笑顔になった。
ジューダスも何も言わなかったが安心したように顔を綻ばせていた。
『うぅ…!良かったです…!!もう目覚めないかと…!!』
「わたしは……」
いやに掠れた声に自分で驚いていると、再びノック音がして扉から医者が現れた。
「目が覚めたんですね。良かったです。少し触診しますね。」
医者がそう言うと皆が席を譲り、診察が始まる。医者からの簡単な質問にかすれ声で答えていくと何度か頷き聴診器を首に戻していた。
「これならすぐにでも回復しそうですね。かすれ声もしばらく声を出していないが為になったものですから、時間が経てば治ります。」
「本当ですか!?」
「はい。これなら早くて1週間すれば退院できますよ。」
そう言うと忙しいのか医者は笑顔とお辞儀ひとつをして部屋から出ていった。
残された仲間達は嬉しそうに話していたのでしばらくそれを見つめていた。
「お前が倒れてから今日で十日目。目を覚まさないからコイツらが酷く心配していた。」
『そう言いつつ、坊ちゃんなんてすごい心配していたんですよぉぉぉぉぉ?!!』
器用に後ろ手でシャルティエに制裁を加えた彼に笑いを零すと、彼も笑っていた。
しかし、流石に十日は長いなと苦笑すると今度は私を混じえて皆が談笑し始める。
あぁ、この時間がとても楽しい。
そして、仲間達を守れたことに酷く安堵していたのだった。
「あの時のスノウかっこよかったなぁ!!いきなり笑ったのには驚いたけどさ。」
「俺ぁ、とうとうスノウのやつ、頭がイカれたか?って思ったぜ。」
「そうかい?アタシは何か策でも見つけたのかと思ったよ。」
「ふふ!私もよ!」
「……ふん。」
『僕は信じてましたよ!スノウのこと!』
「ふふ、皆さん、ありがとうございます。」
「今はまだ休んでな?その声も暫くしないと治らないんだからさ!」
ナナリーが心配そうに布団をかけ直してくれたので無言で頷いておく。
しかし、考える事は山ずみだな。
リアラの英雄としてペンダントも赤く輝いた。なら次はすぐに飛行竜のイベントのはずなんだが、あの時エルレインはこう言っていた。
“しかし…まだ足りぬ…。まだ人々を救う為にはレンズが足りぬ…。”
あのイベントはレンズが足りていないなんて…そんなこと無かったのに…?
そうしたら新たに作りかえられた世界に辿り着けず、結局ストーリーは進まない。
「っ」
考え込み過ぎたのか急な頭痛に顔を顰める。
すると目敏くそれを見つけたジューダスの顔まで歪んでくる。
目の上に手を置き「寝ろ」と一言そう言われる。
苦笑しつつそれに従い目を閉じることにした。
次起きた時には声が戻っているといいな。