第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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昨日一日を勉強に費やし、今日も一応神殿へと確認に行くも彼らが来た痕跡は少しも無かった。
「うーん、近ければ瞬間移動で行けるんだけど……ここまで遠いとなぁ…。」
『主人は俺たちと契約した事で瞬間移動の距離が伸びたはずだが?』
「え?そうなのかい?精霊と契約するとそんな特典が……」
『……私達と契約するとその分、貴女のマナが増幅するの……。魔法の威力も前より増えているはず……』
「そうなのか。それは知らなかった。良い情報ありがとう。2人とも。」
『今の主人ならハイデルベルグまでは無理かもしれないが、ファンダリア地方なら跳べるんじゃないか?』
「へ?」
まさか、そんな事が出来るなんて…。
昨日知っていれば跳んでいたなぁ、と感慨深く遠い目をする。
「試しに跳んでみようか?」
『倒れない程度にな。』
『……倒れたら私が看病する……』
「はは、ありがとう、セルシウス。」
『それに、主人は前に使っていた武器を取りに行かないといけないのではないか?』
『……でも、この時間軸で完成しているとは思えない…』
「まぁ、ほぼ諦めてはいるよ。難しいと武器屋の店主も言ってたんだ。それに今はセルシウスがくれた銃杖があるし、今すぐ入り用という訳では無いさ。」
『残念だったな。折角のガンブレードなるもので俺も気に入っていたのに。』
「扱いやすいけどね……って、ブラドフランムに見せた事あったっけ?」
『精霊はある程度見透せるからな。主人の事を見ていたのは何もこいつだけではない。俺も、それから恐らくだがシアンディーム達も見ていると思うぞ。なんなら早く来ないかと待っているかもしれないな。』
「精霊って改めて凄いって思ったよ…。今はこんなにも身近な存在だけど、やっぱり人智を超える存在だね。」
『……ふふ……』
嬉しそうな声色でセルシウスが笑うので自然と私の口も弧を描く。
その瞬間、左手の契約指輪が少しだけ輝いた気がした。
「彼らはまだ神殿には来ないようだし、じゃあ今日は何処まで行けるか試してみようか?」
『おー、いいじゃないか。』
『……貴女の成長が楽しみ…』
「よし、そうと決まればまずは場所を決めよう。一応目的地をハイデルベルグにして跳んでみようか。」
『倒れるなよ、主人。』
「分かってるよ。でも、倒れたらごめん。先に謝っておくよ。」
苦笑いのような感情が指輪から伝わってきたのでブラドフランムと契約した指輪を一撫でする。
目を閉じ神経を集中させれば、見える情景は雪国……首都ハイデルベルグ。
人が行き交う街並み……、そして道に積もった雪……、雪かきをして精を出すファンダリア市民……。
「よし…!」
息を強く吐き、浮かんだ情景のまま瞬間移動をする。
無理ない程度にマナを込めたが、果たしてどこに着いただろうか…。
恐る恐る私が目を開けると、雪国ではあるがどちらかと言うとダリルシェイド跡地に近いファンダリア地方だ。
トーンの山小屋が近くにあるのがその証拠だ。
「ここは、トーンの山小屋か……。という事は…チェルシー・トーンもここに…。」
『……前世でいた人?』
「あぁ。あの海底洞窟内で私が一番最初に傷付けた人だ。お得意の気絶弾でね……。」
誰も彼も、あの時は私を見て襲いかかってこなかった。
彼らの仲間であったリオンの困惑した様子を見て戸惑ったのもあったのだろうが、それでは困ると私は手始めにチェルシーを撃ち抜いたのだ。
信じられないとばかりに愕然とするリオンの顔……、あの時はそれでも狂人を演じなければならなかった。
「さて、ここには用がないし、他の所も試してみますかね。」
「そこに居るのは誰ですか〜?」
間延びした可愛らしい声が遠くから響き渡る。
この声……、紛うことなき彼女だ。
『……どうするの?』
「彼女に会う訳にはいかない。直ぐに跳び立とう。」
『それが懸命だろうな。』
ずっと私を探しているような言葉を発しながらも確実にこちらに向かってきている新雪の音がする。
一瞬目を伏せ、次の目的地を思い描く。
ここからならもしかしたらハイデルベルグへ跳べるかもしれない。
一度行ってみて彼らの動向を伺ってみてもいいかもしれない。
会えるなら合流してもいいだろう。
「!!あ__」
一瞬見えたピンク色の彼女は昔よりもずっと大人びていて、あの声に反して大人になっていた。
きっと今でもウッドロウが大好きな、素敵な女性になっているのだろう。
思わず笑顔になった所で私は目的地であるハイデルベルグへ着いていた。
変わらぬ城の惨状に流石に笑顔も少し崩れる。
前世で見慣れた場所だからこそ、こんな光景を見て胸が痛かった。
仲の良かった兵士も傷を負っている。
城も悲惨な状態だ。
手助けしたい気持ちを必死に抑え、仲間の姿を探す。
まだハイデルベルグがこんな状態ならば、彼らはもしかしたらまだこの世界に到着していないのではないだろうか。
そんな不安を抱えつつ城を遠目で見ていると背後から誰かに声を掛けられる。
そう……、前世でとても聞き覚えのある声。
「君は__」
「……」
……一国の王が何故こんな所に。
しかも、護衛も付けていないじゃないか、と溜息を吐きそうになる。
ゆっくりと振り返ると息を呑む音がして、その顔は次第に驚きの顔になっていく。
「モネ…エルピスか…?」
「……モネ・エルピスさんは、男だと聞いていましたが…?」
考古学者のスノウとして、高めの声を出せばすぐに謝罪の言葉が掛かる。
それに首を横に振り、安心させるように笑顔を浮かべておいた。
「申し遅れました、陛下。私は考古学者のスノウ・ナイトメアと申します。以後お見知り置きを。」
「あ、あぁ……。考古学者なのか…。」
「よく、言われるのです。モネさんに似ていると。」
「そうだろうね。……あまりにも君は彼と似ている。瓜二つとはこの事だな…。」
どうしようか。
このまま話をしていてもいい物か、と躊躇しているとウッドロウは腹部を押さえ、痛みを顔に表した。
「っ!……キュア。」
「!!……ありがとう。君は回復術を使えるんだね。」
「私の術など、拙いものです。」
「卑下することは無い。現に、こうして痛みは全く無いのだから。もっと己を誇るといい。」
「……有り難きお言葉……。」
頭を下げるとすぐにウッドロウから顔を上げるよう言われる。
「一つ……お聞きしても?」
「なんだい?」
「一国の王が護衛もなしに何故こんな辺鄙な場所までおられるのでしょうか?」
「…そうだな。我ながら恥ずかしい話……言葉には出来ないんだが…、何故かここに来いと言われた気がしてね。誰のものかも分からない言葉を鵜呑みにしてここへ来てみれば君がいた。モネ・エルピス……彼に似た君がね。」
「……」
「私からも質問いいかな?」
「……なんなりと」
「君は、モネ・エルピスの親族か何かかね?」
「……いえ。違います。」
「そうか。……すまないな、こんなことを聞いて。」
「……もし、」
「うん?」
「もし、私がモネ・エルピスさんだったら、何か伝える事でもありましたか?…以前、お城の兵士さんにも同じ事を言われた物ですから…」
「…そうか。」
遠い目をしたウッドロウは私から視線を外すと街の外へと目を向けた。
「…もし、彼がまだこの世界に居るなら…私は彼に謝らないといけないんだ。」
「……謝る?」
「あぁ…。18年前……、彼に頼まれた事を私は成し遂げられなかった。それが今でも心残りでね…。後悔してると言ってもいい。」
「??」
彼に何かお願いをしていただろうか?
自分にとって、余りにも身に覚えがないことなので深い所まで聞いてみたくなってしまった。
そして私はもうその疑問を口に出していた。
「彼は、陛下に何をお願いされたのですか?」
「…“私の大切な友達をどうかよろしく頼むよ。彼を支えてやって欲しい。私の分以上に……彼に寄り添ってあげて欲しいんだ。”」
「!!」
その言葉に目を丸くした私は慌てて顔を伏せた。
いけない、顔に出してしまった。
彼が向こうを向いているから良かったものの、さっきの反応はまるで自分がモネと言っているようなものではないか。
「彼のあの言葉……今までに忘れたことは一度たりとも無い。王としてこの城に君臨している時も、床に着き寝る時でさえも……ずっと頭に残っているんだ。彼は……友の為にあんなにも頑張っていたというのに、私は……!」
「……」
…………私は、ここでも大切なものたちを苦しめているのか。
リオンを彼らに託したこと……、間違っていないと思っていただけに、ウッドロウの言葉が痛覚として自分に降り掛かってくる。
結局リオンは私が死んだ後、心が壊れ、自害をした。
でも、彼らはきっとそんなリオンを必死になって止めてくれていたはずだ。
だから私がとやかく言えることではない。
だが、それでも彼は18年経った今でもこうして苦しんでいる。
その苦しみを少しでも和らげてあげられないだろうか…?
「……君達はよくやってくれたよ。悪いのは全て私だ。」
「?!」
驚愕の色へ染め上げた顔で振り返ったウッドロウは怪我をしているはずなのにどこにそんな力があったのか、私の肩を強く掴んだ。
「やはり、君は……!」
「……彼なら、そういうと思うんです。ふふ、似てましたか?」
おどけたようにそう言えば彼は大きく瞳を揺らした。
しかし私の肩を掴んだ手を離すような事はしなかった。
逃がさないように、真実を確かめるまでは。
彼からはそういう意思さえ見える気がした。
「……陛下。誰しも出来ない事の一つや二つあるものです。それに、たかが敵のその場で言った言葉を鵜呑みにするのも宜しくはないと思いますよ?」
「…誰が、彼の事を敵だと言った…?」
余計に強く掴まれた肩は、彼の爪が食込みそうだった。
いや、実際には食いこんでいるのだが彼がそれに気付く様子はなさそうだ。
それ程この件に関して真剣になってくれているのだと思った。
「っ、すまない…!モネ君…!私はリオン君を助ける事が出来なかった…!!あんなに君に頼まれていたのにも関わらずだ!本当に…我ながら不甲斐ない……」
「……」
その場に崩れ落ちた彼の肩へ手を優しく置くと、彼はこちらを見た。
それに優しい笑顔で返すと、余計に悲しい顔をされてしまった。
あぁ、どうしたら君は笑ってくれるんだい?
「全てはモネ・エルピスが悪いんだ。彼を自害に追い込んだのは紛れもない、モネ・エルピスなのだから。」
「そんなことはない!!」
「!!」
それは今までにない激昂だった。
彼がこれほどまでに憤りを顕にした事があるだろうか。
いや、無いはずだ。
「……どうしてそう思うんだい?」
「君は、友の為に奔走していた!そしてあの時、簡単に死を受け入れてしまった!!他に幾らでも方法があったはずなのにだ!!」
「……あの時、ああするしか方法はなかった。君たちも分かってたからモネ・エルピスに託してくれたんじゃないのかい?」
「それは…!」
「あそこで死を選んだのは紛れもないモネ・エルピスだ。そして、死を選んでしまったことで彼を自害へと追い込んでしまったのも、モネ・エルピスだ。これはどうしたって変わらない事実だ。」
「違うっ!!」
「違わないさ。だから、もうそんなに苦しまないでくれないか?……私が苦しいんだ。」
ハッとした顔でこちらを見るウッドロウは、苦虫を噛み潰したような顔になり俯いてしまった。
君達は優しいから。
だからこんな大悪党の言葉一つで心を痛めてしまう。
逆に私が謝らないといけないんだよ。
「あの時の私は……それが最善だと信じてやまなかった。まさかリオンが自殺を図るなんて思わなかったんだ。だから謝るのは私の方だ。すまなかった。余計な気苦労をさせたね。」
「それは違う…。私達が頑張って止めていればリオン君はまだ生きていた。彼を気絶させてでもあの時は連れていくべきだった。」
「君達はよくやってくれたんだ。今でも感謝している。あの時、リオンを迷わずリフトの上へ連れて行ってくれてありがとう。結果が悪かろうが私にはそれが大事だったんだ。」
押し問答だとしても、私は君達に感謝こそすれど責めるつもりは毛頭ない。
「本当にありがとう。友を大切に思ってくれて。」
「っ」
しがみつく国王様に私はその場で苦笑しつつ嘆息をした。
だって、一国の王がこんな非力そうな女性相手に縋り付くなんて、見る人によっては気絶しかねない。
「さあ。笑顔を見せてくれないかい?悲しい事があった後は目一杯笑ってくれ。じゃないとモネ・エルピスが化けてでるかもね?」
「…フフ、君はモネ・エルピスじゃないと?」
少しだけ調子が戻った国王に笑顔を向ける。
国王も、ようやく前を向けそうだった。
そんな顔をしていた。
「…しかし、君はあの頃から変わらないな。本当にお化けのようだ。」
「ははっ、そうだね?」
「……もしかして、君と一緒に居た仮面の男……。まさか……!」
「私がカイル達と一緒にいたこと、覚えていたんだね?」
「あぁ、君を一目見てすぐにモネ君だと思ったよ。あの時はそれどころでは無かったけどね……」
「ふふ、違いない。」
「彼は元気かね?」
「あぁ、元気だよ。だから君もいつまでも気に留めることはない。これからを生きればいい。それに国王の仕事はそんなことにかまけている場合では無いだろう?」
「はは、手厳しいな。……君は、この城に……ファンダリアに戻ってきてくれないのかい?」
「やらなければならない事があるんだ。例え己の命が尽きようともね。……と言ったらリオンは怒るんだ。困ったものだよ。」
「私は彼の気持ちが分かるけどね。自分の愛する者が死ぬ話なんて縁起でもない。君はもう少し、彼の気持ちを考えた方がいい。」
「はは、愛する者なんて。彼の愛する者は別にいるよ。」
「……彼も大変だ。」
肩を竦める国王に今度は私が首を傾げる番だった。
何が大変なんだ?
「もう一つ聞いてもいいかい?」
「どうぞ?」
「カイル達はまだここへは来てないのかい?」
「?? カイル君達は光と共に消えてしまったが……一緒じゃなかったのかい?」
「……そうか。ありがとう。」
「君達が再び会えることを祈っているよ。」
ようやく笑顔を見せる国王に私も安堵のため息を吐いた。
「本当にありがとう。」
「いや、礼はこちらが言うべきだ。君のおかげで少しは前を向けそうだ。」
「……そうか。」
「出来るなら他の人達にも会って行って欲しい。君の事も、リオン君の事も皆後悔しているからね。」
「……私にはそう思ってもらう資格なんてないのに。君達は実にお人好しだ。」
「そう思わせる何かが君達にあるという事だ。それは誰が見ても誇れることだ。もっと自信を持っていいのではないかな?少なくとも私はそう思うよ。」
「……考えておきますよ、陛下。」
「君にそう呼ばれるのは感慨深いね。昔は父の背中を見ながら君の活躍を見ていたからね。」
「それはそれは、光栄ですね。」
「……正直な話だが、君にハイデルベルグへ戻ってきて欲しいと私は願っているよ。また考えておいてくれないかい?」
「!! 私なんかでよければですが。」
「フフ、待っているよ。」
頭を優しく叩かれるとすぐに城へ戻っていくウッドロウ。
それをじっと見つめて、彼が見えなくなるまで私はそこで胸に手を当て辞儀を入れていた。
……彼も立派になったな。
知人がこうして頑張っている姿はとても喜ばしいものだ。
あぁ、でも皆に出会うというのは難しいかな。
だって、心臓が幾つあっても持たないよ。
『良かったな、主人。ああやって誰かに思って貰えるというのは幸せなものだ。』
『……スノウの気持ちが、…彼を苦しみから解き放ちたいという貴女の気持ちが彼の苦しみを取り除いた……。貴女じゃないと出来ない事……』
「あぁ…。本当だね。まさか、ああやって思ってもらえているなんて、ね……。とてつもなく、感慨深いものだよ。」
今はもう見えなくなってしまった国王にもう一度辞儀を入れ、私は瞬間移動した。
ダリルシェイド跡地……、今は古都ダリルシェイドへとその身を跳ばした。
そして、アイグレッテへと跳ぶと指輪から拍手が聞こえてくる。
『鮮やかな手並みだな。これでかなり跳べることが立証された訳だが…、これからどうする?主人よ。』
「……彼らが未だにこの時代に到着していないのが腑に落ちないが、待とうと思う。彼らは…必ずこの時代に来るはずだから。」
『……それがいいと思う。』
アイグレッテに黄昏が落ちてきて、辺りは閑静な街並みへとなっていく。
こんな時間じゃ、もう家に戻る人が多いのだろう。
私は宿屋へ向けて足を動かす。
「……皆。」
一人だけ、移動する時間も場所も違うのが口惜しいが後は彼らを待つしかないのだから。
ただただ、彼らの到着を待った。