第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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「スノウ達遅いけど…、オレたちも行った方がいいかな?」
「そうだよなぁ…。2人が負ける訳はないと思うけど、こんだけ遅かったら心配にもなるよな。」
「やっぱり一緒に行った方が良かったわよね…?」
「アンタたち!なーにシケた面してんだい!アイツらを信じてやんなくてどうすんのさ!」
ナナリーが皆を一喝すると、強張っていた皆の顔が徐々に晴れていく。
ナナリーのその一言で待つ事にしたカイル達。
元々スノウが、ジューダスを心配し、戻ると言った事が発端だった。
ここで待っててと言い去っていくスノウを追えず取り敢えず二人を待つ事にしたのだが、これが思ったよりも中々長い。
もうかれこれ30分か、下手したら1時間は経ったのではないだろうか。
流石に心配しないほうがおかしいと思える時間であった。
「皆さん!」
「「「!! スノウ!」」」
「ジューダスも無事でよかった!!」
カイルとリアラが嬉しそうにスノウ達へと駆け寄っていく様をナナリーとロニが見守る。
お互いに笑顔になるとどちらともなく視線を逸らした。
打って変わってカイル達はスノウやジューダスへと質問攻めにしていて、こちらもこちらで騒々しい。
それでも落ち着いて対応するジューダス達は経験の差か、カイル達の質問にも難なく答えていた。
二人に怪我もない事を確認できたカイルは満足して先頭を歩こうとする為、それをロニが必死に止めていた。
「さて、行くとしますかね。」
ナナリーの言葉に全員が頷き、最初と変わらぬ陣形で突き進んでいく。
シャルティエとスノウは探知であたりを警戒しながら進んでいき、万全の状態で聖地カルビオラへと一行は到着した。
「コソコソと隠れるのは性に合わないんだけどな。」
「じゃあ、アンタを囮にしてもいいんだよ?」
「さ!皆、隠れようぜ!!」
ロニの余計な一言にナナリーがすかさず入り、返答する。
ここ聖地カルビオラは神官たちが通行している道は通ることが出来ず…というより、誰か歩いてくる音がしたから慌てて一旦通路の端に隠れることになったといっても過言ではないのだが…。
「(ロニの台詞が変わっている…。通常ここでは「今がチャンスだ」とか言ってコソコソする気満々だったはずなんだが…)」
「(またこいつは…。何を考えている。)」
隣のスノウがいつもの癖で口元に手を当てていたため、何か考え込んでいることは明白。
ジューダスはそれを見てそっと溜息を吐き、肘で小突いてやった。
それに不思議そうにこちらを見るスノウだったが、すぐ思い当たったのか苦笑いで返されてしまった。
「……おい、行ったみたいだぞ?どうする?」
「早く中に入らないと続々と神官どもがやってくるよ。そしたら絶対に厄介なことになるだろうし、さっさと行ったほうがいいと、アタシは思うけどね?」
「……奴らが戻ってくる前に行くぞ。」
「「「了解。」」」
「……。」
唯一リアラだけが返事をせずに胸の前で手を組んで明らかに悩んでいる様子だったのをスノウが見つける。
「(リアラ…)」
そっと近付き、頭をなでると不安そうな顔で私を見つめるリアラ。
その彼女を優しく抱き寄せ背中をさすると少しだけ嗚咽が聞こえた気がした。
もう皆は先へ進んでいる。でも、彼女を一人にしておけないから。
「スノウは……神がいらないと、思う…?」
「私は、生憎神を信じる質です。ですからリアラがカイルの言った言葉に悩んでいるのも分かります。でも、自分を見失わないで。きっと貴女には最高の英雄が貴女の目の前で手を差し伸べてくれますから。」
「本当…?」
「はい。絶対です。」
「……ありがとう。スノウ。」
「これくらい、お安い御用です。リアラが泣く姿は見たくないですから。」
「ふふ、なんでだろう…。スノウがそう言うと、不思議と本当にそうなる気がしてくるの。」
「それは光栄です。お嬢さん?」
「ふふっ、スノウったら…!」
胸の前に手を当て、キザったらしい恰好をすれば彼女は笑ってくれた。
それに一安心してリアラの手を取りゆっくりと進む。
私の言葉だけではきっと足りない。まだ、心の中ではかなりの葛藤をしているんだと思う。でも、それを乗り越えた先には明るい未来も待っているから。
だから___
「リアラ。貴女は決して一人じゃないのです。周りを見てください。貴女に力を貸してくれている人たちがいる。それを忘れてはいけませんよ?」
「スノウ…。……ええ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
優しく微笑めば彼女も笑顔で返してくれる。
暫し歩けば、向こうの方から私たちを呼ぶ声が聞こえる。さあ、急ごう。
しかし急にリアラが立ち止まり必然的に私も立ち止まる事になる。どうしたのだろう。もうカイル達までは目と鼻の先なのに。
「ねえ、スノウ……。スノウにも、助けてくれる仲間がいるよ?だからもう少し……、ううん、やっぱり何でもない!」
リアラはそう言うと私の手を放し、先にカイル達の方へと走って行ってしまった。
彼女は最後、何を言おうとしたのだろう。もしかして私が素でない事を彼女には気取られているのだろうか。
一際大きな部屋にある大きなレンズを見上げて感嘆している仲間たちに対して、リアラは対照的にやはり俯いていた。
「遅かったな。何を話していた?」
「少し人生相談をね?」
「は?」
「いるのでしょう?…応えて、フォルトゥナ。」
ジューダスの疑問が解消される前にリアラは大きなレンズに向かってそう言い放つ。
大きなレンズが光り、反射的に目を細めると目の前にはフォルトゥナが下りてきている途中だった。
「よく来ましたね、我が聖女よ。」
「な、なんだ、こいつ!?」
「リアラ、確かフォルトゥナって言ってたよね?!」
「それじゃ、これが…」
「あぁ、フォルトゥナだ。現存する、神……」
「本物…なのか…?本物の神様…!」
皆が感想を言い合う中リアラは黙ってフォルトゥナを見ていたが、そのフォルトゥナの視線は一瞬スノウの方へと向けられた。
しかしほんの一瞬だったため、スノウも黙ってそれを見送る。
「ここに来た理由はわかっています。私の力であなたの願いを叶えましょう。ですが、その前にひとつ聞いておかなければなりません。」
「……はい」
「エルレインは既に己がすべきことを見定めています。そしてその為に動き、多くの人々の信頼を得ています。」
「…それはそうかもしれません。でも…!」
「分かっています。貴女がエルレインとは異なる道を歩んでいるということは。…二人の聖女、ふたつの道…。それはあなたとエルレインに私が与えた運命です。ですが道は違えど想いは同じの筈。リアラ、私たちの目的、ゆめゆめ忘れぬように。」
「…はい」
原作通りに進んでいくこの会話も、実際に生で聞くと余計に悲しくなってくる。
この先は…少しだけ悲しいすれ違いが起こるから。
「待ってよリアラ!!」
突然カイルが慌てて会話に参加する。
その表情は明らかに焦燥に駆られたような表情で、でもひたとリアラを見据えるその瞳は少しも動かなかった。
「二人の聖女だの、人々を導けだの…。一体、何のこと!?」
「それは…」
ようやくカイルの方へと向いたリアラだがその瞳は揺れ動いており、カイルにその事を気付かれない為か顔を伏せてしまった。
尻込みする言葉を最後に黙ってしまったリアラへ詰め寄ろうとするカイルにフォルトゥナが助け舟を出した。
「二人の聖女は私の代理者。人々を救いへと導く存在です。」
「神の…代理!?」
「人々の救いを求める想いが、私を…、そして二人の聖女を生み出したのです。一人はエルレイン。そしてもう一人はそこにいるリアラ。二人は違う道を歩み、それぞれ人々の救いの姿を探し求める旅に出たのです。」
「じゃあ、じゃあよ!エルレインがやろうとしていることは……人々を救おうってことなのか!?」
「そんな…ウソだ!!」
ロニとカイルが激昂したように声を張り上げるのを悲痛な面持ちで聞くリアラ。
私には彼女に手を差し伸べることは出来ない。
だってそれは……彼の役目だから。
グッと拳を作り顔を伏せた私を見てか、ジューダスがそっと手を包み込んでくれ、ハッとしてそれを見ると静かに大きく頷くジューダス。その彼の背中にいるシャルティエも元気を出してと云わんばかりにコアクリスタルが光り輝いた気がした。
次々と進むシナリオを聞きながら私は一度だけ深呼吸をし、少しだけ彼の手を握り返した。
「リアラだってそう思うだろ!?言ってやれよ!あんなのは全然幸せじゃないって!!」
しかしリアラは微動だにせず、ずっと黙り込んでいる。
それにたじろいだカイルは更にリアラへと言葉を連ねる。
「どうしちゃったんだよ、リアラ!!なんで黙ってるんだよ!?」
「私だって……」
「え?」
苦しそうな声音で、でも静かに怒りを感じさせる声音でリアラは言葉を紡ぐ。
「私だってエルレインは間違ってると思うわ。でも、エルレインには力がある!あの人のお陰で幸せだと感じている人達もいる!……けど私には何の力もない!英雄だっていない!!誰ひとり幸せにしていないし、どうやれば幸せに出来るのかも、分からないもの…」
「そんな…そんなことない!だってリアラはすごい力を…!」
「やめて!!何も分からないくせに、無責任なこと言わないでよ!!」
聞きたくないと頭を抱えるリアラにカイルが愕然とし、ついには少しばかり後退した。
だけどそんなカイルももう一度足を踏み出し、リアラに歩み寄る。
「分からないって…。オレは!」
「あなたには何も分からないわ!使命を負うことの重さも、本当の力がどんなものかも!!」
「そんなことない!」
「分からないわ!だってカイルは聖女でも……英雄でもないじゃない!!!」
「っ!」
カイルが悔しそうに言葉を失ったのを好機と捉え、リアラがフォルトゥナへと向き直る。
「フォルトゥナ!私たちを10年前の時代に送って!!」
「いいでしょう。お行きなさい、私の聖女よ。あなたに幸運があらんことを…。すべてが終わった後、また会いましょう、リアラ。」
私は無意識に彼の手を強く握った。
この後、時空転移をするからだ。以前私だけ時間軸が違う場所へと飛ばされていた。それに不安がないわけではない。
「…」
ジューダスも勘付いたのか私の手をしっかりと握りしめた。
その時は、お互いに握りしめたその手だけが暖かかった。
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そっと私が目を開けると、そこはやはり期待していたハイデルベルグなどではなく、全く違う場所だった。
無意識に溜息を吐くと中の精霊達が苦笑のようなものを零す。
……嗚呼、どうりで彼の手の温もりがなくなっていた訳だ。
『主人は特殊な存在であるが故に、こういう事象は特殊なケースが起こることが多い。諦めた方がいいぞ。』
『……でもスノウには私達がいる…。』
「ありがとう、セルシウス、ブラドフランム。大丈夫、ここから何とか彼らと合流するさ。」
2人のお陰で多少気持ちに余裕が出来たのを感じながら2人へ感謝をする。
昔は慣れていた独りだが…、やはり1人は心細いから、こうして誰かが近くに居てくれるというのはとても心強いものだ。
深く深呼吸をし、冷静に辺りを見渡して見る。
『賑やかな街だな。』
『……スノウは見覚えがあるかもしれない。』
「私もそんな気がしていたんだ。ここはきっとアイグレッテなんだろうね。この清廉された空気と言い、何となく近しいものを感じる。後はどの時間軸に飛ばされたか、だが……。」
ハイデルベルグからリアラが独りでここ、アイグレッテに到着するのは、原作で考えるとこの時代に戻ってきてからまだ少し時間に猶予があったはずだ。
確か……翌日の朝にはリアラが消えており、それをナナリーが慌ててカイル達に言いに行っていた気がする。
そうなると今、リアラがどこにいるかで今の時間軸が分かってくる……はずなのだが、肝心のリアラが何処にいるかも分からないし、かと言って今からハイデルベルグへ行っても彼らと行き違いになりそうだからお手上げ状態というか、八方塞がりだ。
……一か八か、ここの大神殿へ行ってみようか?
そうすればエルレインだけが居るのか、リアラが居るか分かるだろうし、それで何となく物語の時間軸に見当がつけられる。
「一か八か、ここの大神殿へ行くよ。」
『……私たちはスノウに従う…』
『主人よ、何かあったら気軽に呼んでくれ。まぁ、主人のマナと交換だがな?』
「勿論だよ。ありがとう2人とも。」
頷いたような、そんな感覚を感じつつ私は行き交う人の波に逆らって進んでいく。
目指すはここの大神殿だ。
きっとそこにリアラがいると信じて、私は無言のまま突き進んでいった。
しかし現実は甘くないようで大神殿の奥に進んでいくが、未だすれ違う参拝客が多い。
「……おかしい。リアラがいる時の大神殿は参拝客なんて一人も居なかったはずなのに…。むしろ侵入者を排除する警備隊のような人たちがうろついていたはず…。ということは、ハズレか…。」
落胆する私をよそに精霊たちも嘆息していた。
自分たちの主人の運の悪さというか、間の悪さというか。そんなものを感じて思わず嘆息したのだ。
『まぁ、主人よ。そう落胆するな。』
『……あの子たちがまだ来ていない証拠ね…』
「それだったらいいけどね。もしかしたら彼らはもうエルレインによって変えられた世界線に居たりして…。」
『…それはない』
『それだったら主人もその世界線に巻き込まれているはず。ここでこうしてまだ世界が切り替わっていないところを見るとそういう事なんだろう。だからそう落胆するなと言っただろう?』
「ははっ、二人ともありがとう。それもそうだね。きっとリアラ達もすぐにここへ来るさ。」
二人の言葉に勇気をもらい、結局私たちは収穫のなかった大神殿を後にした。
そして次に辿り着いたのは例の図書館。
そこは私がこの世界でジューダスと初めて会った場所で、カイル達が仲間に誘ってくれた場所…。大事な思い出の詰まった、大切な場所だ。
「さて、少しでも勉強しますかね。」
『主人は十分すぎるくらいに知識を持っていると思っていたが?』
『…私もそう思う』
「少しでも情報を集めておきたいんだ。何でもいい。〈ロストウイルス〉でも、精霊のことでも、何でも。」
『精霊のことか?なら俺らに聞けばいいものを。』
「…そうだね。じゃあ、一つ聞いてもいいかい?」
『主人の為だ、何でも応えよう。』
『……分かる範囲なら任せて。』
「ありがとう、二人とも。じゃあ、早速だけど…ブラドフランムがこの世界に居たという事は他の精霊…、例えばシアンディームやグリムシルフィも居るって考えてもいいのかな?」
『…ええ、居るわ。』
『まぁ、あの二人に関しては鳴りを潜めてはいるがな。』
「?? 何故?私はいつの間にか彼女らに嫌われるような事をしただろうか?」
『……いえ、通常私たち精霊はスノウのような召喚士が近付いてこない限りはその場所で鳴りを潜めるものなの…』
『俺が主人を呼んだ時はどっかの誰かに思いっきり妨害されたがな…。』
ジトリと視線を横にずらすブラドフランムだったが、その当の本人は素知らぬ顔でいる。
それに思わず笑いそうになったが先ほどの内容も気になるので先にそちらを聞くことにした。
「どうやったらその場所が分かるんだい?個人的には、出来れば早い段階で二人と契約しておきたいんだけどね。」
『焦ることはあるまい。これからまだまだ時間はあろう?』
『…〈星詠み人〉である貴女だから…、未来が分かっている貴女だからこそ、余計に焦燥に駆られるんだと思うけど、大丈夫…。他の精霊もきっと力を貸してくれる。その時が来るまで待って……』
『まぁ、正直なところ、先にグリムシルフィと契約したいものだがな。シアンディームは俺と相反的な属性だからな。戦うにしても分が悪い。』
『…シアンディームぐらい、私が凍てつくしてあげれるから大丈夫……』
『氷と水も相性はあまりよくないだろうよ…。』
呆れたような呟きに一瞬辺りの空気が冷えたような気がした。
……いや、気のせいだ。うん。
「えっと…、それじゃあもう一つ。セルシウスがこの世界に居るってことは、他の精霊…例えばノームやヴォルトやマクスウェルもいるのかい?」
『『あぁ…』』
「…?」
急に曖昧な返事になる二人。何か悪いことを口走っただろうか?
仮にそうだとすると、もしかして二人が口を噤む原因はマクスウェルではないだろうか。元属性の精霊は全属性の精霊をまとめているイメージがあるから。
そんな上下関係が精霊間で存在するとは思えないが一応聞いてみる。
「もしかして…マクスウェルかい?二人とも苦手なものがあったんだ。」
『あの爺さんに関しては誰もが苦手意識があるっていうか…』
『……説教が長い』
「あぁ…なるほど。どこに行っても年長者は敬うべきだね。」
急にしおらしくなった二人に苦笑いを零しつつ近くにあった精霊の本を手に取る。
題名だけ見て少し気になっただけの本なのでパラパラと中身を適当に見ていく……が、めぼしい情報はなさそうだ。
本を元の場所に戻しつつ、精霊たちに再び先ほどの質問を投げかける。
「で、結局は二人がそんな反応をするって事は、他の精霊は居るって事で良いんだね?」
『……居るには居るけど、マクスウェルは恐らく力を貸してくれない…』
『あぁ、俺もそう思う。』
「?? 理由を聞いても?」
『『歳だから。』』
「ふっ、ははっ…!」
予想通りの答えに、分かっていても笑ってしまう。
この二人がマクスウェルに対して、とても苦手意識を持っていることだけは分かった。
何だか子供と大人を見ているようで、思わず微笑んでしまう。
理由がなんとも可愛らしい。
この二人は私よりも年齢が遥かに上だろうに、その二人からそういったリアリティのある精霊事情を聞くから余計に可愛らしく感じてしまう。
「分かったよ。じゃあ、他の質問をしよう。」
『そうしよう。あの爺さんの話は心臓に悪い』
『……左に同じく』
急に元気になった二人の声を聴きながら次の質問について考える。
精霊のことは二人に聞いてもこれ以上の収穫はなさそうだ。
だとすれば、他に聞くことは…?
「……そうだね…、〈ロストウイルス〉について二人の見解を聞かせてほしいかな?」
『そんなことか。うむ、俺の個人的見解になるが?』
「構わない。むしろそれを期待してるよ。」
『期待されても面白いことは言えぬぞ、主人よ。』
『……私もよ』
「いやそれでいいんだ。二人の見解が聞きたいだけだからね。」
『ふむ、ならば俺から言おう。』
ブラドフランムが一度咳払いをすると自分の見解を話し始めた。
『〈ロストウイルス〉についてだが……正直俺ら精霊でも奴らの行動、存在は未知数だ。俺らの知らない間に急に出てきて存在を主張し始めたに過ぎない。だがその脅威は主人にとってはすさまじく、命の危険に晒されるほどだ。そしてもう一つ大事なのはその〈ロストウイルス〉はここ最近出てきた生物だということだ。』
『……スノウは覚えてる?スノウがモネだった時代……、あの時は〈ロストウイルス〉も〈赤眼の蜘蛛〉という組織も無かったという事。』
「…覚えてるよ。でも、あの時に奴らが居なかったという証拠が現状無い以上、私の中では彼らはひっそりと居たのではないかと思っていたんだが…どうやら違うようだね。」
『…彼らはここ最近になって現れた勢力。そして〈ロストウイルス〉も……』
『まぁ、要はこういう事だ。俺は奴ら…〈赤眼の蜘蛛〉が〈ロストウイルス〉を作り出したのではと思っている。』
『…私も同じよ……』
「でも彼らは……修羅は『ロストウイルス』について調べまわっている。もしかして自作自演だと?」
『恐らくだが、内部分裂があるか、それかその修羅という者が知らされていない内容なのかもしれんな。』
「……。」
私からするとブラドフランムのそれは、意外な見解であった。
まさか一番危惧しているはずの〈赤眼の蜘蛛〉が〈ロストウイルス〉を生産、また飼い慣らしているなんて誰が想像出来よう。
だが精霊たちが嘘を吐くとは到底思えないし、彼らを信用している身だからこそ衝撃的な発言だった。
修羅が知らないだけで、本当は〈赤眼の蜘蛛〉の誰かが作ったものだとしたら?
それでは、何の目的で奴らを作ったのか。
それに彼らにメリットがあるとは思えない。〈ロストウイルス〉は自分たちに脅威として降りかかって来ているのにただ作って「ハイ終わり」なんて事はないだろうし…。
もしかして何かの副産物で出来上がったもので、それが自分たちを苦しめているのだとしたら自業自得の何物でもないのだが、私としては笑えない冗談である。
「うーん…。困ったなぁ?」
『我ら精霊でも予測不可能なことだ。主人が悩むのも無理はない。』
『……出来れば何か役に立ちたかったんだけど、こればかりは…』
「いや、その気持ちだけでも嬉しいさ。ありがとう。セルシウス、ブラドフランム。」
『…どういたしまして。』
『俺らは主人と共に在るという事を努々忘れないようにな。』
「あぁ、肝に銘じておくよ。」
『…それにスノウにはあの言葉もあるから……』
「” If it can be imagined, it can be created. ”…だね。…そうだ。私は仲間たちと最後まで旅をする。それを夢で終わらせるつもりはない。”想像”して”創造”するんだ。」
『…その意気。』
『ふむ。いい言葉だ。』
私の中の彼らが頷くのが手に取るように分かる。
何となく彼らとは感覚で繋がっているからそうやって分かるんだ。
彼らの好意に私も大きく頷き、前を向いた。
俯いてばかりではだめだ。
前を向いて現実を見て、そして仲間たちと困難を乗り切るんだ。
私はその日結局、この図書館で一日情報収集をしていた。
少しでも彼らの役に立ちたいから。