第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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玄が起きようとしているのを見た瞬間、武器へ手にかけたがスノウが障害物を壊してくれたお陰で先にあいつらを行かせる事が出来た。
『先に行かせて良かったんですか?』
「あぁ、こいつには色々と聞きたい事があるからな。」
〈赤眼の蜘蛛〉のこと、洗いざらい吐いてもらおうか。
僕はゆっくりと武器を持ち、奴の首に押し当てる。
あいつのためなら何だってやってみせる。…こいつを殺すことになろうともだ。
「吐け。〈赤眼の蜘蛛〉の事、そしてお前ら〈星詠み人〉のこともな。」
「……それを聞いてどうするつもりだ?お主には関係のないことだろうに。」
「大いに関係があるから言っている。でなければお前を捨て置くに決まっているだろう。」
「ぐぅ…。スノウはちと力の付け過ぎじゃないか?まぁ、それでこそ我を愉しませてくれよう。」
「僕の質問に、別の事を話すとはずいぶんと余裕があるんだな?」
奴の首にある武器に少し力を入れるも相手は恐怖を滲ませることなくそれを見遣った。
「…仕方あるまい。何が知りたい?」
「お前ら〈赤眼の蜘蛛〉は僕達を殺す事を信条としている事は知っている。」
「そこまで知っておって何が知りたい?申し訳ないが我はあまり組織に詳しくはないぞ?」
「それは僕達が憎いからか?それとも未来を変えたいからか?」
「前者は全然違うわい。後者はそう言っている奴も居ると言っておこう。…じゃが大半は自分自身の腕試しよ。」
「腕試しだと…?」
「スノウから聞いておらぬか?我らの故郷はこうやって戦う事とは無縁な世界だ。我のように戦いに身を置き、それに興奮する奴らも少なからずおる。神が云々かんぬん言う奴もおるが、戦いに手応えが欲しい奴らがお主らの担当となっておる。我の様にな。」
『そんな事の為に坊ちゃんたちを…?!』
シャルティエの呟きが聞こえていない様子の玄に同じことを聞く。
「……そんな事の為に人を殺すのを厭わない、と?」
「無論、その根底には神からの約束もある。お主らを倒せば元の世界に戻してくれるという神との約束があるのでな。それに躍起になる奴らもおるということ、それだけよ。」
その瞬間スノウの顔が脳内にちらつく。
あいつは……元の世界に帰りたいとは思わなかったのか?
何故それを聞いてこちら側に手を貸してくれるのだろうか。
『神っているんですか?にわかに信じがたいんですけど…』
「……その神ってやつはどんな奴なんだ?」
「我は見たことはないが……、アーサーの奴は見た事があると言っていたな。元より、〈赤眼の蜘蛛〉という組織を立ち上げあそこまで大きな組織にしたのはあやつよ。」
『え?!』
「……詳しく聞こうか」
「それは知らなかったか。まぁ、無理もない。この話を知っているのは我も含め数人だからな。お主らの抹殺担当がついている者がそうだ。」
ということは修羅も知っていたのか。
あいつにもいつか問い質してやらないといけない事が出来たな。
「もう終わりか?なら帰らせてもらおうか。スノウを倒すために鍛錬しなければならないからの!」
至極嬉しそうに笑う玄に顔を歪ませる。
何故そんな顔が出来るのか…、僕にはそれに嫌悪しかない。
「あいつの抹殺対象はついているのか…?」
「ん?スノウのことか?いや、あやつは〈星詠み人〉じゃからな、それはない。我もアーサーにきつく言われておる。”殺すな”と。何でもアーサーはスノウを仲間にしたいと言っておったからの。」
「何故あいつを仲間に?同郷だからか?」
「あの力は異端じゃ。だからかの。」
同郷の者でもそう思うとなると、いよいよスノウの価値が高まってくる。
だから狙われるんだ、と内心嫌味を言ったところで仕方がないのだが…。
「次……、っ!」
突然目の前に何かが落ちてきて咄嗟に大きく後退した。
シャルも驚いた様子で声を上げている。
シャルでも気配を察知できない物……、他の〈赤眼の蜘蛛〉か。
「チッ…」
「舌打ちはこっちの台詞なんですけどねぇ?」
嫌味ったらしく嗤うのはアーサーと名乗っていた人物だ。
こいつが〈赤眼の蜘蛛〉の総本山か…。
「玄。勝手にペラペラ喋らないで貰えますかね?」
「仕方あるまい。捕まってしまったんだからな。」
「全く……貴方という人は……」
それでも、そう言った本人の顔はずっと嗤っており、口調のような全然呆れている様な雰囲気ではない。
ちらりとこちらを確認すると、何かを探すような仕草をする為先手を打つ。
「彼女ならここにはいないぞ。」
「そのようですね。まぁ、前回からそんなに経っていませんからいいですがね。」
それでもその瞳は何かを探しており、遂には一点を見つめるとニヤリと笑った。
「なるほど……。あそこですか。」
『「っ!!?」』
こいつも探知系の術に長けていたのか…!
咄嗟に言葉を失ってしまったが、ここで奴をスノウの元に行かせる訳には行かない。
僕は武器を持ち奴へと攻撃を仕掛ける。
「おっと…。大丈夫ですよ、まだ今は彼女の元へは行きません。今は、ね?」
「スノウは渡さない。」
「相変わらず騎士の真似事をしているのですね、貴方は。」
「何が言いたい?」
「いえ、なんでも。」
飄々とした声音でそう言い放つ奴だが、その顔は憎らしい位嗤っていて自然と眉間に皺が寄る。
「ただそうですね。マリアン一筋の貴方がまさか他の女性を好きになるなんて、と思っただけですよ。」
「お前らは揃いも揃って同じことを言うんだな。僕とマリアンはそんな関係じゃない。」
「あくまで主従関係だった、と?世界を裏切った貴方が言う言葉ではありませんね。」
『やはり、アーサーも坊ちゃんが海底洞窟で死んだと思っている様です。そのままそう思わせていた方がいいのでしょうか?』
「……」
奴にはシャルの言葉は聞こえない。だから下手に返事をすれば奴にバレて良からぬ事が起きる気がして、返事が躊躇われた。
「図星でしょう?だったらボクが何をしようが__」
「残念だが、関係はある。彼女は僕達の大切な仲間だ。」
「!! ……まさか、そんな…。今のゲームの進行度合いでここまでジューダスが仲間を大切にするなんて…?」
「……」
『〈星詠み人〉内で知られている坊ちゃんのイメージって悪いんですかね?あんな言い方をするなんて、そうだとしか思えません。』
「(確かに…。あの言い方だとそう思えるな…。)」
「ふっ、彼女の人柄かどうかは知りませんが…、原作を無視しているのはやはり彼女も同じ。ならボクたちが何をしようと文句は言えませんねぇ?」
「何をする気だ。」
「いいえ?今はまだ何も。さ、行きますよ。玄。」
「あいわかった。」
突然姿を消してしまった二人の行方を追えず、舌打ちしたがそこへ新たな足音がしそちらへ視線を向けた。
「はぁっ、はぁっ、大丈夫かい!」
「スノウか。」
『相変わらず気配が無いのでびっくりしちゃいますね。』
「あぁ、そうだったね。シャルティエは私の気配を辿れないんだった。……玄は?」
頭に手を置き何かを考える素振りをしたスノウだったがすぐに顔が曇っていく。
どうも彼らを探知をしている様子だ。
「あいつらなら逃げたぞ。」
「……ん?あいつら?」
『アーサーが居たんですよ。途中から。』
「っ!! 大丈夫なのかい?何処か怪我は?」
「大丈夫だ。それよりお前は何故帰ってきた?」
「中々戻ってこないし、探知しても君の反応はずっとここから動かなかった。…心配にもなるさ。」
苦い顔でそういったスノウは視線を別のところにやる。
それは奴らが去っていった場所だ。
特に何もないはずだが、いやにそこを気にしている様子のスノウに質問してみる。
「先程アーサーと話していて気になったんだが…」
『そうそう!僕も気になっていたんです!』
「お前の以前居た世界では僕は…愛想がなくイメージが悪いのか?」
「???」
目を瞬かせ僕を見つめるスノウは僕の質問の意図を探ろうとしていたが、本気と分かると考える仕草へと変わる。
暫く考えていたがその顔は徐々に苦笑へと変わっていく。
「なるほど。そういう事か。アーサーか玄が君に余計なことを言ったんだろう。気にすることはないさ。君は今も昔も可愛くてかっこいいよ。」
「………可愛いは余計だ。」
『アーサーがこんな事を言っていたんです。”……まさか、そんな…。今のゲームの進行度合いでここまでジューダスが仲間を大切にするなんて…?”』
「!!」
驚いた様子のスノウは少しだけ足を後退させた。
しかしその足をすぐに元に戻し、僕から視線を外した。
「…隠してもしょうがないか。そうだね、私が以前居た世界でこの時代の君はまだそんなに愛想はよくなかったものの、カイル達…仲間を想う気持ちは本当だったと思う。アーサーがそう言ったって事は彼はあまり原作を覚えていないタイプの人間かも知れないね。」
『僕からももう一ついいですか?』
「どうぞ?」
『アーサーも修羅と同じで坊ちゃんが海底洞窟で死んだ事になっているんです。本当はスノウが海底洞窟で死んでいるのにも関らず…。これは彼らに知られたらまずい情報ですか?』
「……そうか。彼もまた…」
難しい顔をしたスノウだったが、首を横に振った。
「いや、知られてまずいという事はないだろうけど…。知られたら益々私が彼らの仲間だと思われても仕方ないだろうね。私は……、禁忌を犯しているから。」
「……〈星詠み人〉だけが知っているという、その物語を改変させたという事か?」
「流石、ジューダスだ。その通りだよ。……私達の世界は沢山の物語に溢れている世界だったんだ。その中で、本の中のストーリーに自分が入ってしまったという物語もあるんだが…大体そういう物語は原作を変える事はご法度…、禁忌になっているんだ。暗黙の了解というやつだね。」
『でもスノウは前世でモネとして…』
「こう言っちゃなんだけど…、私のやっているそれ自体、本当は〈赤眼の蜘蛛〉と変わりない。だから心が痛いんだけど…それでも………私は……。」
真剣な顔で僕を見ながらスノウは手を伸ばすと僕の頬にそっと触れた。まるで繊細なガラス細工に触れているみたいにそっと。
「何度だって言おう。私は君を助ける事に事関しては誰に何を言われようとも変えるつもりはない。例え自己満足だとしても、例え後ろ指を指されようとも私の行動は変わらない。リオン…、君を何度だって助けるよ。」
「…もし、もう一度あの出来事に挑戦出来るなら?」
「ははっ、難しい質問だね。正直さっきも言ったように私の行動は誰に何と言われようが何一つ変わらない。…でも意識は変わるだろうね。」
『僕がもし記憶持ちであの時代に戻ったらモネである君も、坊ちゃんも生き残れるように頑張りますよ!!』
「僕もだ。シャルと同じというのが気に食わないが僕もそう思うだろうな。」
『坊ちゃん、さりげなく酷いです。』
シャルが不貞腐れたような声でそう言ったので鼻を鳴らし返事をする。
しかし、スノウの顔は晴れない。
寧ろ少し曇ったような気がして僕は少しだけ目を細めた。
「……君たちは歴史を、改変させたいと願うかい…?」
『う~ん、戻れたらの話ですけどね!』
「そうだな。もし出来るならの話だ。仮定の話はあまりしたくないが、僕はそう願う。」
「二人とも…真剣に聞いてくれ。そして、私と約束してくれ……。もし未来で、昔の出来事を見るようなことがあっても絶対に歴史を改変しないと、誓ってくれないか?」
『?? 分かりました。』
「お前がそう言うって事は今後そういう事が起きるという事か。分かった、約束しよう。」
「…ありがとう。」
ようやく笑顔を零したスノウ。
触れられていた頬が手を離されたことで急に冷たく感じる。
「僕からも一つ…いいか?」
「この際だ。何でも聞いてくれ。未来以外のことでね?」
「…お前、僕達を殺せば元の世界に戻れると知っていたか?」
「……玄か?」
顔を伏せ、感情を押し殺したような声でそう呟くスノウ。
珍しく怒っている彼女に僅かに驚きつつも頷いて見せる。
反応はないが、どうも感情を抑えるのに必死な様で顔を上げようとも、話そうともしない彼女にシャルと困った顔で見遣る。
「………あぁ、知っていたとも。修羅から聞いたよ。だが、それがなんだ。君達の命に代えられるもの等この世界にも、どの世界にも絶対にありはしない。なのに…奴らは…!」
『スノウ…』
「何故自分達の都合をいとも簡単に君達に押し付ける?私にはそれが…酷く腹が立って仕方がないよ。例え帰りたいと願ったとしても私なら絶対に別の方法を探す。これだけは言えるよ。」
「…悪かった。質問が悪かったな。」
「何かと思えば、その事か。優しい君のことだ。もしかして、私が元の世界に戻りたいのではないかとでも思ったのかい?」
「……」
思いっきり図星で思わず言葉を噤むと笑い声が聞こえる。
先程とは打って変わって苦笑ではあるが、笑っている。それに酷く安堵した。
『大体、神なんていませんよね!』
「神はいるよ。」
『「え?」』
彼女の口から衝撃的な発言が飛び交い、信じられないとばかりに本人を見ればそのまま頷かれてしまう。
呆然としているのか声を発しないシャルに代わって僕は口を開いた。
「会った事があるのか?」
「実はそうなんだ。でも私が知っている神は、今後君たちが知る神とは違う、と一言添えておこうかな。」
『えぇえええ??!スノウって、本当にすごいんですね?!!』
「否応なしに奴らのスノウに対しての価値観が高くなっていくわけだ。」
「??」
何のことだ、と顔で聞かれたが僕がそのまま黙っていると少しだけむくれたような顔をした。
…意外にそういう顔も出来るんだな。
「というか、早く行かないと皆を待たせてるんだ。何をしでかすか分からないよ?」
『え?!なんで先に言わないんですか?!は、早く行きましょう坊ちゃん!』
「そうだな。」
走り出すスノウの後を追いかけていく。
途中毒ガスに気を付けながら彼女の後を追っていくと仲間たちの姿が見え少しだけほっとしたのは言うまでもない。