第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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スノウの右手親指に突如現れた指輪の光が止むと、急に彼女は意識を失うが如くその身体を倒した。
それを慌てて抱き留め、声を掛けると精霊達が安心する様ジューダスへと告げる。
《俺との契約で力を使い果たしただけだ。暫くすれば目も覚めよう。》
『良かった…。急に倒れるから何事かと思いましたよ。』
「……良く頑張ったな。」
抱き留めた彼女の背中をポンポンと叩き、一度地面へと横たわらせ精霊達に話を聞くことにした。
……元より疑問は沢山ある。
その中でも知らないといけないことは沢山あるはずだ。
こいつに関しても、そしてこいつの元いた世界というのも。
「聞きたいことがある。」
《……答えられる範囲なら……》
《おう。俺もそんな感じだ。答えられる範疇なら何でも答えよう。》
『スノウが気絶している今がチャンスですね!坊ちゃん!』
「こんな機会でも無い限り聞けないだろうからな。遠慮なく質問させて貰う。」
《《どうぞ》》
まずは、こいつについて答えて貰おうか。
「こいつ……スノウを見て〈星詠み人〉だと言ったな?精霊は一目見ただけで〈星詠み人〉だと分かるものなのか?…それから、〈星詠み人〉と僕達との違いは何だ?」
《……質問多い……》
《まぁ、だが答えられる範疇だ。答える前に、主らの名を聞いておこうか。》
「今はジューダスと名乗っている」
『僕はピエール・ド・シャルティエです。』
《なるほど、ジューダスか。よく分かった。ジューダスよ、主の答えだが……、答えはイエスだ。我々精霊は一目見るだけで人のオーラを分別出来る。》
「オーラ?」
《……覚えてる?〈赤眼の蜘蛛〉の人達は皆、気配が全く無いのを……》
『はい!人の気配であんなに探知出来ないのは初めてです。人なのにあそこまで気配がないものかと……』
《それは、主らと〈星詠み人〉のオーラの差があるからだ。》
《……事実、スノウは貴方達に気配を気取られたくなくてオーラを元に戻した。だから貴方達は、スノウの気配を辿ることは出来ない。》
『「!!」』
何かを思い出したかのように言葉を失う二人。
それはこの世界に辿り着いてからモネではなく、スノウとして彼女に初めて出会った時の事。
始めはシャルティエがスノウの気配を探知出来ていたにも関わらず、急にその気配を辿れなくなり混乱していた。
それを思い出し2人は苦い顔をする。
「……何故、こいつは気配を態々消した?それにオーラを元に戻す、とは?」
《……スノウは貴方達に気配を気取られることを不都合だと思っていた。特にジューダス……、前世でリオンだった貴方はスノウにとって前世からの友人だった。それもあって正体が暴かれるのを危惧したスノウは〈赤眼の蜘蛛〉の一員である修羅にオーラを元に戻して貰った……。》
《幾ら異世界人だとしても、この世界にいる時間が長ければ長いほど誰しもその世界のオーラに侵蝕される。一時期主らが主人の気配を辿れていたのはその所為だ。》
確かにスノウは前世をずっとこの世界で過ごしていた。
それは前世一緒に居た僕が保証する。
そんな時シャルティエが恐る恐る言葉を発した。
『元に戻す方法はないんですか…?このままではスノウの気配が辿れなくて不便なんですけど…』
《主らの“元に戻す”というのは、主人のオーラをこの世界のオーラにしろ、という事か?》
《……残念だけど、それは出来ない……》
『何でですか!』
《オーラに干渉できるのは同じオーラを持つ者のみ。修羅とやらが主人のオーラを元に戻せたのは、そういう理由を知っていたからに過ぎん。》
《……こればっかりは、時間が解決してくれるとしか……》
『そう、ですか……』
残念そうな声音でぼんやりとコアクリスタルを映し出すシャルティエにジューダスが一度目を伏せたが、顔を上げたその顔は真剣な顔へと戻っていた。
「異世界人と言ったが、〈星詠み人〉がこの世界に来る理由はなんだ?」
《……それは……》
《すまんな。それについては我々も知らない。神のみぞ知る、とはよく言ったものだ。》
「……分かった。次だ。」
諦めずに次の疑問を口にするジューダス。
シャルティエも聞き逃さないようにと、耳を澄ませた。
「〈赤眼の蜘蛛〉の目的は僕達の抹消だった。〈赤眼の蜘蛛〉の奴ら……、〈星詠み人〉が僕達の未来を知っているのも理解しているつもりだ。こいつがその既存の未来のルートから僕達を外させないように悩んでいるのも分かっている。……だが、それはこの世界にとって、そんなに大事なものなのか…?」
《《大事なもの/大事なものだ》》
声を揃えて言う精霊達の顔は恐ろしいくらいに真剣だ。
しかしその視線を受けてもジューダスは身動ぎひとつしなかった。
前々から思っていた。
スノウが思い描いている未来……いや、知っている未来は碌なものではない。
その未来を僕達に忠実に辿らせようとするスノウ。だが、その未来を辿ることは果たしてスノウの為になるのだろうか、と。
その未来は、どれもスノウが破滅する未来なのではないか、と……。
ふと、スノウが消えていく映像が脳内に流れた気がして必然的に顔が歪む。
《その未来がなければこの世界は滅び多くの人間が消える。もしかするとこの世界そのものが消えるやもしれん。》
《……絶対に辿らなければならない未来……。過去を変えられないのも世界の理なら、その未来を辿らなければならないのもこの世界の理……。それ程までに、〈星詠み人〉が知っている未来は大事なものなの……》
『……その未来って……、スノウは……、スノウ自身はどんな未来を辿っているんですか?以前、スノウから“その未来には私が居ないんだ”って聞きました。……どういう事なんですか?』
「……シャル。」
声を震わせ恐れや悔しさを滲ませるシャルティエにジューダスも悔しそうに唇を噛んだが、答えを知りたいと真剣な顔で精霊達をひたと見据えた。
《〈星詠み人〉の間では、この世界はゲームとして知られている。ゲームを通してこの世界の未来を知っている。当然その中に、ゲームをしているプレイヤー自身が居るはずがないだろう?》
《……驚くかもしれないけど、スノウ達の世界はかなり科学が発達している世界で、こんな小さな機械を使って貴方達を操作してゲームのエンディングを目指すの。そのゲームがこの世界が辿るべき未来……》
『ま、待ってください…!それって、そのゲームの内容をスノウは全部覚えているってことですか?!僕達がどんな選択をして、どんな言葉を交わすか…!!』
「……それが本当ならかなり莫大な量の情報を覚えている事になるが……?」
《……そう。彼女は全ての未来を覚えている一人……。〈赤眼の蜘蛛〉でもそこまで覚えている人はいないと思われる……》
《まぁ、記憶力の良い奴は一人二人居るだろうが、果たしてそれがどれくらい組織内で共有出来ているか、それは定かではないな。》
ジューダスのふとした疑問が、まさかスノウが実は凄い人物だったというとんでもない事実が分かってしまい、改めて気絶している本人を驚嘆の眼差しで見遣った。
当の本人は絶対に否定するだろうが、その膨大な情報量は純粋な敬念に値する。
幾ら、ゲームとしてこの世界を見たからと言って誰だってそんな些末な事を一々覚えているだろうか?
「……スノウは……何故そこまでして……」
《……この世界が好きだから。》
セルシウスの言葉に恐らく同じ意見だと思われるブラドフランムがニッと笑う。
僕達はその言葉に目を丸くするしか無かった。
だって、そんな理由でここまで大変な目に遭って、苦労して、頑張るなんて馬鹿のすることだ。
いや、理由が抽象的すぎて……規模が大きすぎて実感が湧かないと言った方がいい。
《……他の理由もあるだろうけど、それは本人に直接聞いて……》
「分かった。次の質問だが……、〈ロストウイルス〉について知ってることがあれば教えてくれ。」
《あれは我々も想定外な出来事でな。力になれんな。》
《……〈赤眼の蜘蛛〉が一枚噛んでいるのは明白……》
『ですが、修羅は〈ロストウイルス〉のせいで〈赤眼の蜘蛛〉は壊滅状態だって……』
「もしかして、奴が嘘をついている可能性があるのか?」
〈赤眼の蜘蛛〉の壊滅状態が嘘だとして、嘘をついた事による向こう側のメリットはなんだ?
僕達をそれで欺いた所で何のメリットも無いはずだ。
『もしかして、内部分裂を起こしているんでしょうか…?修羅はアーサーや玄に対して、“奴らが勝手にやってる事だ”と言っていました。それが本当なら〈赤眼の蜘蛛〉の組織内は二つの派閥に別れていることになります。』
「……一理ある、か…。」
《……どちらにせよスノウは〈ロストウイルス〉に対して気をつけなければならない……。スノウは〈星詠み人〉だから〈ロストウイルス〉に弱い……》
《恐らく〈ロストウイルス〉が〈星詠み人〉だけに反応するという事を踏まえても、先程言ったオーラが関係しているんだろうな。主らが奴らに攻撃出来ないと言われるのはオーラの違いからもあるやも知れん。》
『じゃあ反対に言えば……坊ちゃんが〈星詠み人〉のオーラを武器に纏わせることが出来たら〈ロストウイルス〉に対抗する事が出来るって事ですよね?!』
「……だが、オーラは精霊でもどうしようもないと言っている。そう簡単にオーラを纏わせることなど……」
《それについても我々では力になれんな。》
『うぅ…。折角いい案だと思ったのに……』
《……一つだけ。……スノウや他の〈星詠み人〉は晶術と呼ばれるものは使えない……》
『え?だって今まで使ってたじゃないですか。』
《主らが勘違いしている様だから言うが、あれは晶術ではない。”魔法”という種類だ。この世界に散らばっているレンズを用いらない術だな。》
先程ブラドフランムと戦っていたスノウを思い浮かべる。
あの時シャルを使い、見事に晶術を完成させ発動していたはずだが…?
《……シャルティエ…いわゆるソーディアンがレンズで支援してくれていたからあれは完全に晶術と呼ばれる術……》
《元々主人の中にはマナと呼ばれる魔力の奔流が流れている。魔法はそれを使う事で発動させることが出来る。また、俺たち精霊の力の源と言ってもいい。》
《……だから私達はスノウには力を貸せても貴方達には力を貸すことが出来ない。……この世界の人間が精霊を知らないのは、この世界がレンズで構築されている世界だから……。》
「マナ、か……。また新たな単語が出てきたな。」
『でもスノウの情報量に比べたらきっと僕達はまだまだですよ!!頑張りましょう!坊ちゃん!』
「ああ。勿論だ。」
覚える事は沢山でも、こいつに追いつかないといけないんだ。取り返しのつかない事になる前に。
もう二度と友を……スノウを喪う訳にはいかない。
「マナについてだが、それはこの世界の人間は持っていないものなのか?」
《……そうね。持っていない、と思う……》
『じゃあ、〈星詠み人〉じゃないと…』
《そういうことだな。こればかりは出生の違いだからどうしようもない。》
新たな策を考え付いても潰されていく。
問題はまだまだ山済みだ。
まだ気絶しているスノウを見て嘆息しつつ、次の疑問を解消することにする。
「こいつは今後も精霊と契約していくつもりなのか?」
《……おそらくそう。力をつけたいと本人も言っていたし、なにより力をつけないと〈ロストウイルス〉には勝てないかも……》
『その〈ロストウイルス〉ってどんな敵なんですか?想像がつかないんですが…』
《主らには通常の魔物と同じに見える。俺らには確実に違うように見えるがな。》
《……黒と白の淀み、みたいなものだと思う。それが私たちには見えているの…》
『黒と白の淀み?』
《詳細を伝えるのは難しいな。奴らの見た目はかなり奇妙奇天烈だからな。》
「それはこいつにも見えているんだな?」
《…そういうこと。》
修羅が言っていた”お前たちには何もできないくせに”という言葉が耳に痛い。
それを見ることが出来なければスノウに逃げるよう伝えることもままならないだろうからな。
本人の表情で確認するしかないか…。
結局僕たちは朝まで疑問解消のための話し合いを行い、村へ戻った。
探し回っていたらしいカイル達にはかなり怒られてしまったが、スノウの様子を見るなりすぐに部屋へ通してくれたことに感謝する。
外へ出ていたことは何とかごまかしたが、過去への出発はまた遅れそうだった。