第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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カイル達がスノウの無事を知り、今度はロニ達を探しに行った後、スノウとジューダスはナナリーの家の中に入り、攫われていた間に知った情報を共有した。
勿論、そこには〈ロストウイルス〉や〈ホロウ〉、クラス分けされとりわけ危険なラプラス級やロスト級の話もした。
真剣に聞いていたジューダスとシャルティエは会話後暫く沈黙をしていたが、シャルティエの方が苦々しく声を発した。
『……それが本当なら結構まずいですね…。坊ちゃんもそれに触れられないし、攻撃も出来ないって事ですよね?』
「少なくとも〈赤眼の蜘蛛〉の海琉には出来なかった。私と君の差異と言えばこの世界の住人か、異世界人かというだけだが、それだけでここまで変わるらしい。」
「……」
目を閉じ暫く思案顔のジューダスを横目にシャルティエと目を合わせる。
『この事はカイル達には言うつもりなんですか?』
「…正直迷っているんだ。攻撃がすり抜ける敵がいるという認識を持たないとそれはそれでその場が大変な気がしてね。だからと言ってどう説明したものかと思って。シャルティエは何か良い案が浮かばないかい?」
『うーん、そうですね…。〈ロストウイルス〉や〈ホロウ〉の事は彼らに話してもいいんじゃないでしょうか?ただその場合、何故スノウにしか攻撃が効かないかの説明が要ります。問題はここですよね。』
「そうなんだよ。次から次へと問題ばかり起きて嫌気が差してくるよ…」
はあ、と大きな溜息をつき壁に背を預ける。
セルシウスは寝ているのか反応はないし、ジューダスも静かに且つ真剣に考えてくれている。
下手に声を掛けるのは気が引けて、暫く目を閉じようとしたその時、ナナリー達が帰ってきて声を掛けてくれた。
「アンタ達、こんな所にいたのかい?」
「ナナリー。どうも、お邪魔しています。」
「あぁ、そんなの構いやしないよ。というよりアンタは大丈夫なのかい?さらわれたって聞いたけど…」
「私は無事です。ジューダスが助けてくれたので。」
「そっか。流石、男は頼りになるね。アンタもこれから気を付けなよ?」
「ふふ、善処します。」
頭を撫でられ、笑顔を零すとナナリーの口元も緩んでいく。
「さて、夜ご飯にしようか。何だかんだ今日も色々あったし泊まっていきな!明日はあのゴミ山を越えなきゃ行けないんだしね!」
「明日はこいつが案内役をしてくれる。だから皆気を付けろよ…!このオトコ女のせいで迷子になるかもしれねぇからな…!!」
「へぇ、アタシはそんなに信用ないんだねぇ?」
ボキボキと関節を鳴らしに行くナナリーに、ロニがあわてて外へダッシュして逃げていく。
それを追いかけていくナナリーを見て、カイル達もスノウ達も声に出して笑った。
何だかんだ2人は仲が良い。
そしてスノウは皆に気づかれないように安堵の息を吐いていた。
「(ようやくこれで仲間が増えた…。後は〈ロストウイルス〉と〈赤眼の蜘蛛〉だ。)」
問題を抱えながら結局夜を過ごす羽目になったスノウは一睡も出来ず、夜更けに外を出歩いていた。
「〈ホロウ〉か…」
《……ずっと考えているのね…》
「ん?…まぁ、考えてしまう質なんだ。仕方ないというか…」
〈赤眼の蜘蛛〉でさえ見たことの無い未知数のロスト級の〈ロストウイルス〉。
しかしその存在だけは確定している。
ラプラス級でさえあの大きさだ。ロスト級とはどんな奴なのか……全く想像がつかない。
《……スノウ。》
「ん?どうかしたのか?」
《……私以外の精霊を従える気がある…?》
「え? 急な話だね?」
《この近くの火山からずっと合図が来てる……。でも、私はアレが嫌い……。だから声を遮断してた…》
「え、」
火山から…ということは火属性の精霊ということか。
それに声を遮断していたとは?
《……ずっと貴女を呼んでいる。…でも私は貴女を渡したくない…》
左手の薬指にはめられた指輪がキラリとその存在をアピールするかのように輝く。
セルシウスとの契約の指輪。
他の人に渡したくないという可愛らしい理由で薬指にはめられたのだけど、それは本当だったらしい。
「もしかして日中に喋らなかったのはその精霊の声を遮断しているのに力を使っていたから、とかかな?」
《…………》
どうも当たりらしい。
セルシウスが黙り込んでしまい、それに笑ってしまう。
「因みに。他の精霊を従えるとセルシウスは消えてしまう、とかなのか?」
《それはない。……でも他の精霊が貴女を気に入るのが、私は気に食わない。》
「ははっ、可愛らしい理由だ。」
《でも……今後のことを考えれば力を手に入れておくに越したことはないと思う……。だから、決断は……貴女に委ねる……》
渋々といった声音でそう語るセルシウスだったが、実に嫌そうだ。
暫し考えたスノウだったが、その答えは存外早い段階で決まっていた。
「セルシウスには悪いけど、行くよ。」
《……そう。なら一つアドバイス……。火山の中は私の力は及ばない……。だからあのとっても暑い中スノウ一人で進む必要がある。》
「やめようかな。」
それを聞いて嫌気が差したスノウは即座に嫌だと口にする。
暑さの不得手なスノウには相当厳しい条件だ。
それを理解していたからかセルシウスがそれを聞いてくすくすと笑い出す。
《貴女ならそう言うと思った…。》
「その条件は正直……私には厳しい…。」
《なら諦める…?》
「……」
気持ちがグラグラと揺れ悩んでいると後ろから聞きなれた声がした為、その後方を見遣る。
「君も眠れないのかい?ジューダス。」
「馬鹿言え。監視だ。」
「おお、怖い怖い…」
肩を竦めると、ジューダスは腕を組み険しい顔になる。
「で、どこに行くつもりだった?」
『何か、スノウの口から行くって単語が聞こえたから出て来たんですよ。』
「君達は地獄耳かな?」
『心配してるんですよ。何度も攫われるから。』
「返す言葉もない」
少しばかり笑うとジューダスの眉間の皺が余計に深くなっていく。
少し躊躇した後、仕方なく先程までの顛末を説明した。
火精霊の存在、そして火精霊と契約しに行く事を。
「お前、契約をしたらまた倒れるんじゃないのか?」
「あー…、そうかも。」
セルシウスの契約の時を思い返してみると、確かに体が凄くダルかった覚えがある。
そのまま気絶した記憶もあった為素直に頷いておいた。
「なら決定だな。」
『僕達も着いていきますよ!!それに、精霊がどんなのか見てみたいじゃないですか!』
「シャルティエの場合、そっちが本音じゃないかな?」
『まぁ、良いじゃないですか!さ、行くなら行きましょ!坊ちゃん!』
「お前は気楽だな。」
何も言わずにスノウの手を取り、火山へと向かうジューダスにお礼を伝えると鼻で笑われたので、笑顔でそれに応えておいた。
「全く…頼もしい仲間な事で。」
「何か言ったか。」
「いーえ、なーんにも。」
ジューダスの手を握り返し、今度はスノウが先頭へ行き彼の手を引っ張る。
急なスノウのその行動に幾らか慌てた様子のジューダスを微笑ましく見ると、最初はムッと顔を歪めたが負けず嫌いの彼は今度は自分が先頭に行くように走り出してしまった。
どうやら彼を笑ったのだと勘違いされているらしく、それにも笑ってしまう。
セルシウスか未だに嫌そうな声音でブツブツと呟いているのは取り敢えず置いておいた。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○。・.:
火山内に入ると急に暑さを覚える。
もうここはセルシウスの力が及ばない場所らしく、それにスノウが瞬時に反応しその場で倒れ込んだ。
「お、おい?!」
「あー……、やっぱり駄目だ……。暑すぎる……」
『日中あんなに暑かったのに倒れなかったじゃないですか!!』
「僕も妙に思っていた。あんなに暑さの不得手なお前が元気そうだったからな。」
「セルシウスが力を貸してくれてたんだ……。だけど、火山内は力が及ばないって……、あー、熱い……」
「お前…こんな所でくたばっていたら精霊との契約の時どうするんだ……」
「いっその事、ジューダスが契約してきて……。結構本気でそう思うよ……」
「馬鹿言ってないで行くぞ。早く済ませて帰らないとカイル達をまた心配させるぞ。」
「……」
ぐったりしながら立ち上がるスノウに微苦笑を浮かべるジューダスだったが、刹那警戒を強めた。
《よく来た。さあ、こっちまで辿り着けるか?》
「誰だ?」
『もしかして、火精霊ですかね?僕たちを試しているんじゃないですか?』
「……」
遂に喋らなくなったスノウに哀れな目をするジューダス達だったが、意外としっかりしたスノウの足取りに目を丸くし再び苦笑を滲ませた。
火山の中の様子はと言うと、とにかくマグマが近くまでありその熱気や熱風で呼吸がしづらい。
汗も流れ落ちていき、体力の消耗は明らかに激しかった。
スノウがもう話さないのは通常運転だったが、次第にジューダスの口数も少なくなっていく。
しかし、引き返すという気持ちは無い様子のスノウに感嘆し、ジューダスもその隣を歩いていく。
『もう少しで最奥ですかね?』
「だと…いいがな……」
汗を拭いながら隣のスノウを見る。
歩き方はもう倦怠感を体現していて心配にさせる格好だが、その瞳はちゃんと前を向いておりどうにか気力を振り絞っている。
負けていられないとジューダスも姿勢を正し、横を歩く。
『あ!!2人とも、広いところに着きましたよ!!よく頑張りましたね!!』
シャルティエの言葉通り、最奥であろう場所に辿り着き、漸くかとばかりにその場に膝を着くスノウ。
「(まぁ、こいつにしては頑張った方か……)」
「やっと……ついた……」
「ほら、出てきたぞ。」
目の前に精霊らしき者が現れ、ジューダスがスノウの背中を叩いた。
それに答えるように渋々と立ち上がり前を見据えるスノウは火精霊を見るなり、目を丸くした。
「……驚いた。イフリートかと思っていたけど、まさか君だとは……。」
《俺の事を知っているのか?〈星詠み人〉よ。》
「『!!!?』」
「精霊には〈星詠み人〉の区別が着くのか。」
それに驚くジューダスとは裏腹に、精霊に驚いている様子のスノウは一歩前へ出た。
「あぁ。貴方の事はよく知っているよ。以前居た世界で幾度となく見たからね。でも今は貴方の名を呼ぶ前に……、契約する前にすることがあるんだろう?」
《察しの良い〈星詠み人〉だ。では、〈星詠み人〉だけ前に来い。俺の主人として相応しいか、試させてもらう!!》
そういうや否や拳を前に出し構える火精霊。
すぐさま杖銃を取り出し構えたスノウ。
ジューダスも同じく構えようとしたが、スノウが静かに首を横に振った。
「ジューダス。これは1対1の勝負だから後ろで見ててくれないか?火精霊に勝利して認めてもらわないと仲間になってくれないものでね?」
「……分かった。頑張れよ、スノウ。」
その激励の言葉に、暑さに負けず笑顔を向けたスノウは火精霊を見つめ頷いた。
《では行くぞ!》
すぐに距離を詰め、その逞しい腕を惜しみなく奮ってくる火精霊。
それを避けつつ詠唱を開始する。
「荒れ狂え水柱!!スプラッシュ!!」
火属性には水属性で攻めるスノウに、愉快そうに笑う火精霊。
どうもこの世界の奴らは戦いを楽しむ傾向にあるようだ。
その証拠にスプラッシュを直接受けた火精霊だがビクともしていない様子で笑っていた。
《この程度、想定内だ!もっと、もっと来い!!》
『頑張ってくださーい!!!スノウ!!!』
シャルティエの声援に頷き、次の魔法の詠唱にかかる。
高位魔法や上位魔法の類はかなり詠唱が長くなる。その欠点をこの戦闘でどう活かすかが課題になってくるだろう。
あのスプラッシュでさえあの調子ならば、上位の魔法を打った方が確実にダメージは狙える。
「渦巻くは紺青の誘い、メイルシュトローム!!」
水属性魔法でも上位の方であるメイルシュトロームを打つが流石にそれは耐えられないのか、避けている火精霊を見て連続でメイルシュトロームを打ち逃げ場を無くしていく作戦に出た。
『スノウ!良い感じです!!』
「威力も範囲も申し分ない。この感じなら大丈夫そうだが……」
《まだまだっ!!》
逃げて防御一方に回っていた火精霊だったが、掛け声で自身を奮い立たせるとスノウへと猛突進を繰り出す。
それを間一髪で避け、再び詠唱に入ったスノウだったがそれも途中で突進やら、鋭い拳の突き出し等の攻撃で集中力が切られる羽目になる。
今度は先程とは逆になり、防戦一方になってしまったスノウは相手の攻撃を避けつつも顔を険しくした。
「(このままじゃ、私の体力が持たない…!ただでさえ苦手な暑い場所で体力が落ちているのに、これじゃ殺してくださいと言ってるようなものだ……!!何か…、何か手はないか…?)」
『ま、まずいです…!明らかにスノウのパフォーマンスが落ちています…!!不得意な環境だからでしょうか?』
「……だろうな。だが、何か策を講じずあのままにしておけばあいつに勝機はない。」
『ええっ?!ど、どうしたら…?!』
慌て出す相棒だったが、真剣勝負の為干渉が許されるのか分からない。思いついたとて口にするのは憚られるだろう。
祈る様に心の中でスノウの名前を呼んだジューダスだったが、その願い虚しく戦況はあっという間にかなり不利になっていた。
大きく後退し一度体制を立て直したスノウだったが、見るからに息が上がっており、動作も徐々に緩慢になってきている。
それも加味してか何処となく、彼女の晶術の威力も落ちている気がしていた。
『ど、どうしたらいいんですか?!幾らあの杖が媒介になってるとはいえ、晶術を使うのが厳しそうです!!』
シャルの言葉を今一度脳内で反復させると、ふと思いついた作戦があった。
杖のお陰で威力が上がっているにも関わらず、この環境のせいで集中力が途切れ威力も落ちている。
ならば、媒介する武器が補助してくれる存在なら威力が落ちずに勝てるのではないか、と。
一度シャルを見たジューダスは何も言わずにシャルを手に持ち投げる構えをとった。
『え?ぼ、坊ちゃん?一体何を……』
「スノウ!!受け取れ!!」
「っ!?」
スノウは襲ってきていた火精霊をその場で勢いよく押し退けると、彼から投げられた物をなんの躊躇も無く受け取り、それを見た瞬間驚愕を表した。
だってそれは彼が大切にしている相棒だったからだ。
『なるほど、そういう事ですか!! スノウ!!僕がお手伝いします!!』
「…ははっ!君は水属性が使えたのかい?それは初耳だけど?」
『いえ、水属性は使えませんが何かの足しにはなると思います!!』
銃杖を離し、かつて剣を構えていたモネの時のようにシャルティエを構えたスノウはシャルティエを一度見て大きく頷いた。
折角ジューダスが託してくれたのだ。使いこなしてみせる、と意気込んで火精霊の懐にすぐさま潜り込みシャルティエを一閃させた。
何を思ったのかすぐさま回避に努める火精霊を見て次の攻撃を間髪入れずに繰り出す。
『良いですよ!スノウ!!その調子です!!』
「くっ…!」
しかし正直な所、体力の限界も近い。
この厳しい環境で体力を消耗させる剣術は相当辛いものがある筈なのに、それがシャルティエだからか、それともレンズによる支援が可能なソーディアンだからか暫く攻撃が可能になっていた。
だがそれもいつまで続くか…。
一度火精霊との距離を取ったスノウは晶術の詠唱に入った。
同時にシャルティエもそれに集中をし、神経を研ぎ澄ませる。
『「__エアプレッシャー!!」』
特別2人が事前に打ち合わせをした訳でもないのにも関わらず、発動にそんなに時間は掛からず、しかし威力は申し分ないその様子に端で見ていたジューダスは少しだけ安堵の息を吐いた。
これなら、と期待する気持ちも高まっていくのは仕方がないと思う。
その証拠にスノウの瞳が先程よりも勝機を見出していたのをジューダスは視認していたからだ。
「スノウ!あと少しだ!!」
「っ、レディに応援されて負ける訳にはいかないよね!!シャルティエ!!」
『はいっ!!行きますよー!特大のヤツ!!!』
『「グランドダッシャー!!!」』
地属性上位晶術を放ち、広範囲且つ高威力で攻めていくスノウ。
その願い届いたか、火精霊が動きを止めスノウを静かに見た。
もう攻撃の意思はなさそうな様子にスノウもシャルティエを提げ呼吸を整えながらも火精霊を見つめ返した。
「はぁ、はぁ、合格……かな?」
《よくやったな、〈星詠み人〉よ。俺の負けだ。よもや、この世界の産物であるソーディアンを使いこなすとはな。》
「ははっ…!それについては正直、賭けに近かったよ。」
息を整えながらシャルティエを見ると、コアクリスタルがこれでもかと光り輝き、それは何処と無く嬉しさを滲ませている様な気がした。
ジューダスも近付いて来るのが分かり、シャルティエを彼に渡し、お礼を告げる。
「ありがとう。君の機転と、君の相棒のお陰で助かったよ。途中、諦め半分だったからね。」
「全く…。こっちは冷や冷やしたぞ。」
シャルティエを受け取りながら呆れた声でそう話すジューダスだったが、相棒の茶化しそうな雰囲気をすぐに察知するとコアクリスタルに制裁を加え、それにシャルティエは「まだ何も言ってないのに」と不貞腐れてしまった。
「さて…。契約を進めてもいいのかな?」
《その前に…。〈星詠み人〉よ、何故力を求める?お前は十二分に力を持っているが?》
「……足りないんだ。まだまだ足りない…。まだ見ぬ敵に殺られない為にも、私は努力を怠る訳にはいかないんだ。」
《強い力は身を滅ぼす。だとしても、俺を望むのか?》
「……身を、滅ぼす……」
「ははっ、大丈夫さ。」
不安そうなジューダスの声音とは別に、お気楽そうなその声音に全員がスノウを見た。
空元気でも、ヤケになっている訳でもなさそうでジューダスやシャルティエもそれには目を丸くした。
「言っただろう?殺られるわけにはいかないって。それに大事な友の隣を一緒に歩んでいきたいからこんな所で立ち止まれないさ。」
『うぅ…!カッコイイです!!スノウ!!』
「もう一つの理由としては……まぁ私の想像の範疇でしかないが、もし仮に貴方の力が私の身を滅ぶような力だとしたら始めから契約なんて話を貴方は持ち込まないだろう?違うかい?【ブラドフランム】?」
《……。》
一度沈黙した火精霊だったが、スノウの顔を見て本気だと知ると大きく笑いだした。
《アッハッハッハッハッ!!!よもや、そんな理由だとはな!!それに名まで当てられるとは!!》
豪快な笑い声にスノウの左手の薬指に付けられた指輪がキラリと光り、セルシウスが現れた。
《……スノウは私のだから……》
《相変わらず主人に対し固執しているな。セルシウス。》
久しぶりなのか2人は懐かしさを孕んだ声音で話し始める。
……片方はとても嫌そうな顔をしていたが。
「やっぱり精霊同士は知り合いみたいだね。」
『こうしてみると、精霊の存在って本当にあるんだなって思いますよね。』
「お前が居なかったら見られなかった光景だろうな。」
ジューダスの思いがけない言葉に嬉しくなり、笑顔になったスノウにシャルティエも釣られて笑っていた。
しかしこんな暑い所でじっとしていたくないスノウはブラドフランムに向き直り、早速契約に持ち込む事にした。
「早く帰りたいからブラドフランム、契約してくれないか?」
《新たな主人は暑いのが苦手なようだな。》
《私の主人だもの……。当然……》
《俺の主人でもあるがな?》
長い話になりそうな二人を止め、スノウはブラドフランムの前に立つ。
《主人よ。名を聞こう》
「……スノウ・ナイトメアだ。」
《スノウ。いい名だ。ではスノウ、利き手を出せ。》
言われた通り自身の利き手である右手を出すと、右手の親指が光りだし、その光が収束する頃には赤いルビーのような宝石のついた指輪がはめられていた。
《利き手の親指は力の象徴。火精霊ブラドフランムはスノウを主人と認める。》
その刹那体が鉛のように重くなり、私は意識を失った。