第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アーサーの件から翌日。
部屋で一人〈赤眼の蜘蛛〉について考え込んでいた私の元にジューダスがやってきて、腕を組んでは黙って私の横に座った。
それに目を丸くした私だったが、彼の優しさに徐々に口元が緩んでいく。
「どうしたんだい?ジューダス」
「あまりにもお前が深い思考に入っているようだったからな。何かの足しになるかと思って来ただけだ。」
『一人で悩まないで、ってことですよ!!一人で考えて息詰まることは沢山ありますから!たまには他の人の意見も取り入れて見たらどうですか?』
「二人とも…。ははっ、ありがとう。じゃあ、2人の知恵を借りようかな?」
勿論考えていたのは〈赤眼の蜘蛛〉についてだ。
彼らの行動の基準、それさえ分かれば対策が取りやすいのだが…。
「彼ら…〈赤眼の蜘蛛〉の事なんだ。彼等は私と同じく未来を知っている。だから今回ナナリーが狙われたんだ。昨日会った【アーサー】という男は……、特にそういうことに対して抵抗が無い。こっちでも何か対策が出来ればとも思ったんだが…これがお手上げ状態でね…。」
『それって、ナナリーが今後僕たちの旅において大事な役割を果たすから攫われた、という事ですか?』
「…まぁ……、そうだね。うーん、どこまで言ったものか…。」
今度はそっち方面で悩まされるとは思わず、自然と眉間に皺が寄り彼らから視線を外した。
それに一度目を伏せたジューダスだが、すぐに顔を上げ疑問を口にする。
「…お前の知っている未来をやはり辿っているのか?」
「ん? まぁそうだね。流石にそれは変わることがないと思うよ。それに……変わってもらっても困るからね…。ナナリーの場合は。」
『「??」』
ロニとナナリー。
2人が居なければ今後のシナリオもきっとおかしなものになるだろうから。
いや、誰一人欠けても絶対に駄目だ。
「ならこの情報はお前にとって、悲報になるだろうな。」
「??」
『僕達、今夜にはここを出る事になったんですが、ナナリーは村で見送ってくれることになっているんです。』
「なっ…!?」
《……まずいかも…》
思わず立ち上がるくらいには驚愕のその事実に動揺が隠せない。
「まさか……〈赤眼の蜘蛛〉の目的は…!!」
《……こういうこと…かも……》
「やられた…!!先手を打たれるなんて…!?」
額に手を当て苦々しげに顔を歪めたスノウを見て、ジューダス達は顔を見合わせる。
「(だが…どうやって説得する…?私の正体をばらす訳にもいかないし…。そもそもナナリーが付いてこない理由はなんだ…?アーサーに私の知らない所で何か言われたのか?)」
「スノウ」
「(ナナリーでないと難しい場面があったはずだ。必ず付いてきてもらわないと…)」
「……はあ、またか。…スノウ!!!」
「あ、」
突然の大声に我に返ったスノウは声を発した本人をぼんやりと見る。
静かに首を振り、スノウをひたと見据えるジューダス。
「前にも言っただろう。一人で考え込むのはお前の悪い癖だぞ。」
「あ…ごめん。何だったっけ?」
「はぁ…。お前の考えている事を聞かせてみろ。僕も一緒に考えてやるから。」
『そうですよ!夜まではまだまだありますし、3人で考えれば早く実行に移せますよ!』
「!! そうだね。分かった、君に話そう。掻い摘んで、ね。」
ナナリーとロニの事、そして今後カイル達にもナナリーの必要性は出てくる事を伝えた。
原作の事は話さず、ナナリーの重要性を分かるように掻い摘んで話していくとジューダスが考え込む仕草をする。
シャルティエも考え込んでいるのか、いつもすぐに疑問等を口にするのに黙ったままだった。
しかしその時間も意外と早い段階で終わりを告げ、ジューダスが徐ろに口を開いた。
「そういう事ならば、説得を奴に任せればいい。」
「奴…?」
『ロニ、ですね!スノウの話を聞いている限りだとあの人以外考えられそうにないですしね。』
「大丈夫だろうか…」
「お前が信じてやらなくてどうする。お前の知っている未来はそうなっていたんだろう?…正直、僕は未だにお前の知っている未来を信じたくはないが…そういう事ならば仕方あるまい。」
「ジューダス…、シャルティエ…!」
「ふん。簡単な事だったな。奴には僕から説得しておいてやる。他に悩んでいる事はないのか?」
「取り急いで悩む事ではないからね。今はともかくロニを説得してきて欲しい。」
「分かった。行ってくる。」
立ち上がり外へ向かうジューダスを見送ると、スノウの中にいるセルシウスが話しかけて来る。
《……これからどうする…?〈赤眼の蜘蛛〉は貴女よりも先に動いているけど…》
「そこだね…。困った事に。向こうは結構人数がいるから文殊の知恵だろうけど、対してこっちは私一人か…。ははっ、難しい。」
《でも貴女は、あの人達よりもカイル達に近い…。だったら出来る事も多いはず…。》
「そうだね…。そうでなくては困るよ。…でも反対に、カイル達に私が近過ぎて物事が見えなくなる。客観的に見えなくなる。アーサーの言った事がようやく分かる気がするよ。“貴女は〈赤眼の蜘蛛〉に入る”って言葉がさ。…結局は彼らをどうにかしないといけないからね…。」
《……行くの?〈赤眼の蜘蛛〉の所に…》
「行かないよ。」
はっきりと告げたその言葉にセルシウスがくすりと笑う。
心配していたが、思ったよりも大丈夫らしいことにセルシウスもひとまず安堵の息を吐いた。
「私の影響が……少しずつだとしても、カイル達を一番近くで守りたいんだ。そしてこの旅を成功させたい。一緒に物語を紡いで行きたいんだ。」
《…なら、私から言うことは何もない…》
「ふふっ、心配してくれてありがとう、セルシウス。」
《……うん》
後はジューダスの帰りを待とう。
きっと彼なら、吉報を持って帰ってきてくれるだろうから。
「〈赤眼の蜘蛛〉…か……。」
この世界において最悪の敵。
でもまだ出会ってはいないけどそれ以上に厄介な物もある。
それこそ、この世界において災厄で最悪の敵。
「……〈ロストウイルス〉の事も考えないといけないね…。考える事が多すぎて先が思いやられるよ。」
《……でも、前よりは活き活きしてる…》
「ふふっ、そうならいいんだけどね。」
目を伏せた私だったが、目の前に何かが動いた気がして顔を上げるとそこには驚きの人物が目の前に立っていた。
「おう、元気してたか?」
「しゅ_」
驚きで声を上げかけた私の口を塞ぎ、静かに、と人差し指を立てる修羅。
その顔はしたり顔で、悪戯が成功したからかいつもよりも口角が上がっていた。
「今他の奴らに気付かれるとまずい。悪いけど連れ去るぞ。」
「んー!?」
修羅の後ろに僅かに見えたリアラが驚愕の顔を表し、口元を手で押さえた。
それを見た次の瞬間、私と修羅は違う場所へと飛んでいた。
「よし、ここならいいか。」
「一言言ってくれれば彼女を説得したのに…」
「クスクス、残念だが時間が無い。デートをしたいところだが、ここで話させてもらう。」
隣にはいつの間に居たのか海琉が居て、こちらを見ては恥ずかしいのかモジモジしていた。
そして、私達の周りには何も無い、白い空間。
まるで隔離されているかのような白い部屋に見えたが、それにしてはとてつもなく広い部屋だ。
視認出来る部分でもざっと500mはあるのではないだろうか。それくらいに広いのだ、この部屋は。
「もう少しだけ待ってくれ。」
「一体何が始まるんだい?」
「まぁ、見れば分かる。」
そう言うが早いか、手元の操作盤のような物を操作し始める修羅。その横ではその操作を見ようとじっと見つめる海琉の姿があった。
《……何も無い部屋ね…》
「不気味なくらい、ね?天井も果てしなく遠いし、あの壁の様な物も本当にあるのか分からないくらい、果てしないね。」
「…? 誰と話している?」
「あぁ、セルシウスだよ。君は会った事が無かったね。」
「セルシウス?この世界に、精霊の存在など無かったはずだが…?」
「私も驚いたよ。でも現に今私の中に居て力を貸してくれているんだ。」
《…スノウの為なら頑張れる。それくらい、私は貴女に入れ込んでいるのかもね……》
「ははは、それは光栄だよ。」
「??」
スノウの中にいるセルシウスの声が分からないからか、会話に疑問を持つ修羅だったがその瞳は操作盤から離れない。
真剣に何かを打ち込んでいくと急に辺りが薄暗くなるため思わずスノウは身構えた。
「あんたが精霊に好かれるのは人柄もあるのかもしれないが、何だか他の何かに引き寄せられているようにも見えるな。」
「そんな怖い事を言わないで貰えるかな?」
「クスクス…、事実だ。それに怖い物ならもっと他に沢山ある。例えば……これとかな。」
そう言って操作の手を止めた修羅はとある空間を見つめる。
それに合わせてスノウと海琉はその視線を辿ると、そこには白と黒のテクスチャのような物が魔物の中から出て来ては消えたり、出現したりを繰り返している。
その魔物も苦しそうに呻いており、それは明らかに“異常”な光景だった。
「…あれは?」
「あんたには、“アレ”がどう見える?」
「どうって…、明らかに異常過ぎるし、何だか魔物も苦しそうだ。まるで漫画に出てくるコンピュータウイルスのような…、っ?!」
そこまで言ってスノウは気付いた。
彼…、修羅は以前私にこう言っていた。
“それはバグのような見た目をしている”と。
「まさか…、あれは〈ロストウイルス〉か?」
「ご名答。よく出来ました。」
頭を撫でられたが、それどころではないくらいスノウはそれに魅入られていた。
その白と黒のテクスチャは魔物の体から出ては、周りを漂い、出現と消失を繰り返している。
不可解で、決して近寄りたくはない筈のその見た目に反して、何故だかスノウは“触れたい”と思えていた。
無意識に手を伸ばすスノウを見て、修羅が顔を顰める。
「スノウ。」
「っ、」
呼び掛けに反応し、スノウが慌てて手を引っ込めると修羅がやれやれと首を振った。
「やはり“アレ”に魅入られるか?」
「…不思議な感覚だ。まるでそれに触れなければならないとさえ、思えてしまうよ。」
「だろうな。普通の奴ならそう思う。だからこそ我々〈赤眼の蜘蛛〉は“アレ”のお陰で絶滅の危機に瀕している。“アレ”に触れればもう誰もそいつを救えやしない。待つのは死のみ。」
「治療薬は無い、か。で、何で奴がこんな場所に現れたんだ?君が手元を弄っていたのを見ると〈赤眼の蜘蛛〉の技術力と言う奴かい?」
「クスクス……。もっと驚くかと思っていたが、そうでもないんだな。残念だ。」
心底残念そうに、しかしクスクスと可笑しそうに笑う修羅を見てスノウが目を細め、その後再び先程の〈ロストウイルス〉を見遣る。
「で、君は親切にも私に戦い方を教えてくれるのかい?」
「ま、そういう事だ。お前を失いたくはない。……という事で海琉、先にやってみろ。」
「……(こくり)」
モジモジしていた海琉が修羅に命令された途端、その可愛らしい顔を鋭くし双剣を持ったのにスノウが僅かに目を見張った。
彼がそういった顔をしたのにも驚いたが、それより驚いたのが〈ロストウイルス〉への攻撃を修羅ではなく、海琉にさせる事だった。
だって……、ここの世界の人間には〈ロストウイルス〉の攻撃は効かないと聞いていたのだから、この世界の人間であるはずの海琉に任せたのに驚かない方が無理がある。
「…いいのかい?」
「まぁ、見てなって。」
海琉が魔物に向かって攻撃するが、それは実態を持たないかのように剣が見事にすり抜けていった。
何度も何度も攻撃するもそれは全く効果がなく、所謂歯が立たないという状態だった。
「〈ロストウイルス〉はああやって魔物や動物に感染する。」
「人にも?」
「人間への感染は今の所、俺のところには報告がない。いやむしろ、人間に感染したが最期、と言うべきか?」
「…そうか。」
もし私の近くにいてカイルやロニ達が罹ってしまったらと思い聞いてみたが、それを聞いて安心した。
未だに攻撃し続ける海琉を見遣り、修羅へと目を向けた。
「海琉はやはりこの世界の人間だから…」
「あぁ、そうだ。よく覚えていたな。…海琉にはアレが通常の魔物に見えているから、自分の攻撃がすり抜ける事が不思議でたまらないらしい。」
「それはそうだろう。私だって自分の攻撃がすり抜けたら困惑する。」
「だが、俺達は〈星詠み人〉だ。あくまで攻撃出来る側の人間ってことだ。……海琉、もういい。下がれ」
「……(こくり)」
修羅の命令に従い、魔物から遠ざかる海琉を見遣る。
次にすぐ横で剣を構えた修羅を見遣るとニヤリと笑い、こちらを見た。
「ちゃんと見てろよ?」
「はいはい。」
「クスクス…!」
一頻り笑うと修羅は〈ロストウイルス〉に感染した魔物を見据えて駆け出す。
その速さたるや、恐るべき速さである。
瞬足とも呼べるそれに目を見張り、目で追っていくと自身の得物を振りかざし瞬時に倒していく。
それは目を瞬かせたら見逃してしまうであろう素早さで、次々と現れる〈ロストウイルス〉に感染した魔物を次々とその剣で倒していくでは無いか。
思わず感嘆してしまうほどの剣戟に拍手を贈ると彼は息一つ乱さず再び笑い、こちらへ視線を向けた。
「見てわかる通り、俺達の攻撃は擦り抜ける事無く攻撃可能だ。俺の技無しでもこうして倒せるんだからあんたにも出来るはずだ。……ただ、これはミドル級と呼ばれるクラスの〈ロストウイルス〉だから対応出来るが、他のクラスになるとそうはいかない。」
「そういえばクラス分けが出来るようになったと言っていたね。」
「…あぁ、あんたはあの時居なかったか。そうだな、詳細に話すとだな…。」
再び手元の操作盤に手をやり動かしていくと近くにホログラムのようなものが現れ、そこに〈ロストウイルス〉に感染した魔物がお目見えする。
小さな魔物に感染しているものから、巨大な魔物へ感染している〈ロストウイルス〉…、様々な魔物が現れ少しだけ身構えたが横から「大丈夫だ」と声が聞こえ警戒を解く。
「小さいものから順番にミドル級、ラージ級…ここら辺は問題ない。ただの雑魚だな。」
「通常の魔物に感染しているものは大したことが無い…という認識でいいのかな?」
「あぁ、それで相違ない。…で、人の大きさを超え、且つかなり強力な魔物に感染している物からラプラス級と呼ばれ、そして最凶最悪で我々〈赤眼の蜘蛛〉でもまだ確認出来ていない未知の存在…ロスト級…。」
「確認出来ていないのに存在が分かっているのか?」
「あぁ、これは報告上に上がっているだけで姿を視認した訳では無いからな。一応ロスト級と名付けている。」
ロスト級と呼ばれた空間にはハテナのホログラムが浮かび上がっている。
ラプラス級の物は果てしなく大きく、確かに強力そうな魔物ではある。…これを一人で対応するのは無理というものだろう。
それに肩を竦めて僅かに両手を上げれば、目の前のホログラムから映像へと切り替わる。
「…? 人がいるね?」
「これが〈ロストウイルス〉に殺される〈星詠み人〉の映像だ。よく見ておいた方がいいぞ。」
真剣な顔で操作盤を打ち込みながら言う修羅に頷きその映像を見る。
映像には恐らく〈星詠み人〉と思しき人物が何かを警戒するように腰を落とし、武器を構えて一点だけをずっと見ていた。
その視線の先の方から現れたのは、先程ホログラムで見せてもらったラプラス級の魔物でゆっくりとその人物に近付いている。
音声も流れている為、その人物が男の人でかなり焦燥と恐怖の声音をしていることが分かる。
ジリジリと後退していく男の人だったが、次第に壁際に追いやられその顔を恐怖の色に染めた。そして…。
「っ!!」
ラプラス級の魔物が男に少しでも触れると、その男の口からは例の黒と白のテクスチャが吐き出され、その行為は止むことがない。
そして先程まで鮮明だったその声色も変化しており、明らかに機械を通したような…ノイズが走ったような雑音だ。明らかに人の声ではないそれにスノウの顔が自然と歪む。
既にノイズ化しており何を話しているか分からないその男。次第に身体の至る所から例の黒白のテクスチャが出て来ては消失するのを繰り返していく。
男が倒れたその瞬間、身体中が黒白のテクスチャに蝕まれ男そのものが消失した。
映像はそこで途切れ、いつの間にか近くにいたラプラス級の魔物もどこかに消えていた。
「…」
言葉を失う私に修羅が心配そうに見てくる。
それを僅かに首を振る事で「大丈夫だ」と伝えたかったが、余計に心配させてしまっているようだ。
頭を撫でられた事で、顔を俯かせると頭にやっていた手を今度は私の手へと変え優しく握ってくれる。
「これを見て深刻にならなかったらどうしようかと思っていたけど、その顔を見て少し安心した。…スノウ、これで分かっただろ。俺達〈星詠み人〉の敵がどれ程の強敵か。悪い事は言わない、彼奴らとの旅は止めて〈赤眼の蜘蛛〉に入るんだ。〈赤眼の蜘蛛〉に入れば、俺も他の奴らもあんたを守る事が出来る。」
「…ふふっ。」
「??」
困惑している顔の修羅にスノウは笑いながら、でも真剣な顔で修羅を見た。
「私は……、ただ護られるだけのお姫様じゃない。」
「!! スノウ!!」
「君が私を心配してくれているのは十二分に分かっている。でも、それでも…、私にも譲れないものがある。」
「…そんなに……彼奴らと旅がしたいのか?自分の命を危険に晒してまで?」
「 If it can be imagined, it can be created. 」
「?? 英語か?」
「私の脳裏には、彼らと旅をして楽しそうに笑う私の姿が見えるんだ。この旅の最後……もし自身が消えると分かっている旅でも、今の私には大事なことなんだ。」
「何を言っている…?消える?何故あんたが消えなければならない?」
「…モネ・エルピスの軌跡を辿れ。……私から言えるのはそれだけだ。」
「モネ・エルピス?そんな人物、原作に…」
きっと彼ならその真実に辿り着けると信じて、困惑している修羅に笑顔で誤魔化しておく。
それを見て顔を険しくした修羅は、握っていた手を僅かに強めた。
「俺じゃ…、あんたの力になれないのか?」
「そうじゃないよ。今だって十分なくらい〈ロストウイルス〉について教えて貰ったし、いつぞやは助けてもくれた。私は君に大変感謝しているよ。」
「なら…!」
「ごめん、修羅。私からは本当にモネ・エルピスの軌跡を辿れとしか言えない。それが分かれば聡明な君の事だ。私の言葉もきっと分かるだろう。」
「……。分かった、絶対にそのモネって奴の軌跡を辿る。そしたらあんたの考えてる事も少しわかるだろうからな。」
「あぁ、そうだね。」
目を閉じ、微笑みを浮かべたスノウに僅かに顔を曇らせた修羅だったが、最後に一言助言を添える。
「俺からはもう一つ。〈ロストウイルス〉に感染した魔物……または感染したその個体の事を我々〈赤眼の蜘蛛〉は〈ホロウ〉と名付けた。〈ロストウイルス〉自体はあんたも見た、あの白と黒の未知数ウイルスの事だ。一々〈ロストウイルス〉に感染した魔物なんて長ったらしい名前を言うのも怠いからな。」
「〈ホロウ〉…。分かった。十分に気を付けるよ。会わないことを祈りたいけどね。」
「クスクス…。それは〈星詠み人〉なら誰しも思うことだ。」
苦笑いでスノウを見る修羅は一度悔しそうに目を伏せると顔を上げた。
「ほんと…、奴が憎いな…」
「奴…?」
「あんたは知らなくていい。…さて、俺の話は終わりだ。」
「…私からも1つ聞いていいかい?」
「?? なんだ?」
「昨日、アーサーという〈赤眼の蜘蛛〉の組織員に会った。ナナリーを攫ってロニを殺すつもりだったみたいなんだ。」
「……ふん、あいつらしいな…」
「ただ、私を組織員として仲間に入れたかったみたいで、中々勧誘がしつこいんだ。どうにかならないかな?君の所の組織員だろう?」
「あんたには悪いが、俺とあいつの相性は最悪なんだ。極力近寄りたくはない。…まぁ、あんたを仲間に入れたいという気持ちは俺も同じだが。」
「…聞いた私が悪かったよ。」
「クスクス!」
可笑しそうに笑う修羅にスノウも漸く笑顔を見せると、彼の頬を優しく撫でた。
「やはり君も笑顔が似合う。辛そうな顔じゃなくて、ずっと笑顔でいるといい。きっと周りの女性が黙っていないだろうね?」
「……あんた、それで何人の男を騙してきたんだ?」
「人聞きが悪い。騙すなんてするわけないだろう?…まぁ、とある方面では騙し騙ししているけども、ね?」
「カイル達か?クスクス。あいつらも大変だ。」
「彼らには別の人格で対応しているからある意味騙している。申し訳ないけどね。」
今度はこちらが苦笑いになる番のようだ。
だがしかし、彼らに自分の正体がバレてしまえば彼らはどう思うか…。
「……あんたもとことん面倒臭い性格してるな。」
「酷いな?」
「クスクス、本当のことだろう?……さて、話は終わったか?ホープタウンに送ろう。」
「ああ。ありがとう、修羅。お互い〈ロストウイルス〉から生き残ろう。」
「当然だ。…あんたもな。」
スノウの手を取り、修羅は指を鳴らすと視界は直ぐに変化し見慣れた砂漠地帯へと変化する。
それと同時に聞こえる怒号。
「修羅!!」
「おっと…、あいつのお出ましか…。」
思いの外近くに居たのかジューダスが修羅に斬り掛かる為、手を離し大きく後退しジューダスを睨みつける修羅。
「本当…、あんたが憎いよ。ジューダス。」
「ふん、勝手に言ってろ。僕は逆に、お前が邪魔で仕方がない。またスノウを攫いおって…!」
「あー、ごめんジューダス。リアラから聞いたのか?」
「あぁ。リアラが僕の所に慌ててとんできたから何事かと思えば…」
剣を収める事無く修羅を睨みつけるジューダスだったが、修羅の言葉に目を丸くさせた。
「……あんた、モネ・エルピスを知っているか?」
「?? モネなら__」
「ジューダス。」
静かに首を振りジューダスの言葉を止めるように名前を呼んだスノウは真剣な顔でジューダスを見ていた。
それに剣を収め、不思議そうに見つめ返したジューダス。
対して修羅は険しい顔でそれを見ていた。
「……直接聞くんじゃなく、調べてこいって事か。上等だ。必ずモネ・エルピスと言う奴を調べ上げてやる。あんたのあの言葉…、必ず暴いてやる…!」
__「私の脳裏には、彼らと旅をして楽しそうに笑う私の姿が見えるんだ。この旅の最後……もし自身が消えると分かっている旅でも、今の私には大事なことなんだ。」
__「何を言っている…?消える?何故あんたが消えなければならない?」
__「…モネ・エルピスの軌跡を辿れ。……私から言えるのはそれだけだ。」
__「モネ・エルピス?そんな人物、原作に…」
あの会話を忘れられない修羅は、一度スノウを見てからその場から消える。
修羅の言葉に疑問を持ったジューダスは、なんの事だとスノウを見たが、スノウは別の疑問をジューダスへとぶつける。
「ジューダス。ロニは?」
「お前から頼まれていた事はやった。後はあいつがどうするか決める。今はそれを待っている最中だ。」
『で、スノウの方は何があったんですか?ここへ戻ってきたってことはまた何かリーク情報があったんですか?』
「あぁ。私の最大の敵、〈ロストウイルス〉についてね。」
「!!」
『……結構込み入った話になりそうですね。中で話しませんか?』
「…その前にリアラに無事を知らせないとね?」
私を視認すると遠くの方から駆けつけてくれるリアラとカイルを笑顔で出迎え、抱き着いてきたリアラには抱き締め返した。
自身の無事を伝え、彼らにお礼を伝えると、彼らも喜んでそれに応えてくれた。
後は、ナナリーの問題だ。