第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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行方不明だったスノウを見つけ、村に戻った仲間達は急いでスノウを休ませようと寝床へと向かった。
しかしスノウはそれを断ろうとしたが、仲間達の勢いに負け大人しく寝床で横たわっていた。
「皆の優しさが身に染みるようだよ。」
《くすくす、良かったわね…》
「まさかそんなに皆を待たせているなんて誰が思う?」
《6日…いえ、7日と言っていたね…。そんなにあの砂漠にいた感覚はないけど…》
「それだ。私もそう思った。たかが2日程度だと思っていたのだけれど…、どうやら皆と違う時間軸に飛ばされたと思っても良いだろうね。」
横たわりながら中に居るセルシウスに話しかけていると、そこへジューダスがやって来て目の前に座ったのを視認したスノウは起き上がろうとしたが、ジューダスの手により遮られてしまう。
「寝ていろ、馬鹿。」
「心配性だね?君は。」
「そうもなるだろうな。何日経ったと思っている?」
「その事なんだけど…。今、セルシウスとも話していたんだが私達はあの砂漠にたかが2日しか居なかったんだ。」
「…なんだと?」
険しい顔になるジューダスの背後から嗚咽が聞こえてきて、その顔が余計に歪んでいく。
『うわーーーん!!スノウ無事でよかったです…!!!』
「ははっ!君も心配性だね、シャルティエ。」
『そりゃそうですよ!何日経ったと…』
「君たちは揃いも揃って同じことを言うね。」
はは、と苦笑いを浮かべたスノウはジューダスの顔を見て再び笑いを零す。
彼の顔は今まさにシャルティエへと制裁を加えようとしているからだ。
『僕達似た者同士って事ですか?って、ぎゃああああああ?!!!』
器用な事に、後ろに手をやるだけでコアクリスタルの場所が分かるらしく、態々出さなくとも制裁を加えられるようになっていたジューダスに声に出して笑う。
しかし先程の疑問は解消されず、それにはジューダスも同じことを思っていたのか制裁をやめ、スノウを見た。
「お前は僕達と同じ時間軸に飛ばされていない、ということか?」
「その可能性が高いだろうね。だから飢えずにここまで来られたんだ。でなければあそこで野垂れ死にしていただろう。」
体を起こし、ジューダスと対面する形で座り直したスノウだったが、ジューダスの顔が苦々しげな物になっていた事に気付き苦笑を浮かべた。
「あの時…、ちゃんと手を握っていたはずなんだが…」
「そこなんだよ。不思議なのは。レディにちゃんと握られていたのに私達は違う時間軸に飛ばされた…。…これは、困ったね…。」
「…レディじゃない…。」
苦々しげな顔から怒ったような顔になり、少しマシになった表情にスノウは少しだけ満足した。
やはり君に苦しげな表情はして欲しくはない。
彼の頬を優しく撫でれば、ムッとしてその手を振り払われる。
「女扱いするな。」
「おやおや…。お気に召さなかったかな?」
肩を竦めて両手を上げれば余計にその顔は難しい顔になって行き、スノウは反対に笑いを零す。
しかしそれもすぐに止み、真剣な顔へと戻った。
今後、リアラの力で時を超える事もあろう。その時に皆と毎回違う時間軸で飛ばされてばかりでは困るからだ。
「(私だけが違う時間軸に飛ばされたその理由……。一体なんだ…?何が原因だ…?私自身が異質な存在だからか…?)」
「スノウ」
「(いや、だとしてもそれだけの理由で時間軸が変わるなんて有り得るのか…?)」
「スノウ!」
「(あの時、レディにしっかり手を握られていた感覚はあった…。だが気がついた時にはもうその感覚はなくなっていた。一体いつからその手は離れていた…?)」
「スノウ!!!」
「は、」
大きな声で名前を呼ばれ、思わずと言った具合に我に返ると、目の前の彼が心配そうな顔でこちらを見ているではないか。
思考の淵に嵌りすぎていたか、と反省して謝っておく。
「……すまない。考え込み過ぎた。」
「はぁ…。急に黙り込むから驚いたぞ…。」
『何を考えていたんですか?』
「……何故私だけ違う場所に…、それも違う時間にこの世界に到着したのかと思ってね。今後それが無いとも限らないから困っているんだ。私達はまた戻らないといけないからね。」
「…10年前の世界か。」
「何だ、君達はもうそこまで聞いていたのか。なら話は早い。」
『あ、そうか。スノウは未来を知っているから坊ちゃん達が聞いた内容は把握済みなんですね!』
「そういう事だ。君達が聞いた内容と相違なければ、の話だけどね?」
違う話になっていれば、それはそれで困るが…。
多少不安な顔をしていたからか、ジューダスは今までの話を掻い摘んで話してくれた。
しかしその話はやはり原作と変わりなかった為、ジューダスに話してくれたお礼を伝える。
「問題は私自身か…。」
「…もう離れるのは懲り懲りだぞ。」
「私もそれだけは勘弁願いたい所なんだが…、何せ、何が要因で何がそれに起因しているのか皆目検討がつかないものでね…。」
『うーん、何でしょうか…?やはりスノウが〈星詠み人〉というので左右されているのでしょうか?』
「それしかないよな…。」
座ったまま天を仰げば、ジューダスも考え込む仕草をしていた為しばらく黙り込む。
「僕はてっきり奴ら…〈赤眼の蜘蛛〉の仕業かと思っていたが…」
「それも有り得る話だから怖い所だね。あの時、修羅は私にホープタウンでデートしようと言っていたから奴らがこちらに来れないわけではなさそうだ。それに一番驚いたのが、〈赤眼の蜘蛛〉がまさかエルレインの配下になっていたとは…。」
修羅の名前を聞き、途端に顔を歪ませるジューダス。
それを見て苦笑いしたが、思考は〈赤眼の蜘蛛〉についてだった。
〈赤眼の蜘蛛〉をあまり知らない私でもそれを聞いて厄介だと感じる。
それらから導かれる事実は、彼らが歴史改変を望んでいるという事だ。
つまり、彼等はどうしても我々の邪魔をしたいらしい。
仲間達を抹殺するという〈赤眼の蜘蛛〉の悲願をどうしても叶えたいと、そういうことらしかった。
「本当に同郷の者がすまない…。どうしても彼等は我々の旅の邪魔をしたいらしい…。」
「僕達を抹殺する、か…。ふん、そんな奴らに僕達が負けるとも思えないがな。」
鼻を鳴らしそう言い放つジューダスの顔を見たが、どうやら虚勢を張っている訳ではなさそうだ。
本当に彼ならやってのけてしまいそうだ、ということに思わず笑ってしまう。
「おい、ジューダス。」
そこへ困り顔のロニがやってきた事で話が中断する。
しかしロニはこちらを見て目を瞬かせたので、取り敢えず苦笑いをしておく。きっと、彼は私が休んでいると思っていたから、その行動に出たのだと思われた。
「眠れなくて…、彼に相手して貰っていたんです。」
先程と違い高めの声で言えば、なるほどと言う顔をされ彼は頷いた。
そして視線は再びジューダスへと向けられる。
「ナナリーを見なかったか?」
「いや、見ていないが…」
「おっかしいなぁ…。もう昼過ぎなのにあいつどこに行っちまったんだ?」
ぼやきの様なロニのそれに、スノウとジューダスは顔を見合せる。
確かに、彼女が子供達を置いて何処かに出掛けるなど珍しい。それに昼食の準備もしてないとなると余計に怪しく感じる。
しかしスノウはそれを聞いて僅かに焦りを滲ませていた。
「(まさか…〈赤眼の蜘蛛〉の仕業か…?リアラの時と同じく誘拐なんて…私の考え過ぎか?)」
「…分かった。僕も探しに行こう。」
「あぁ、すまねえな、話の腰を折って。じゃ、頼んだぜ」
そう言ってすぐに部屋を立ち去るロニに僅かに嘆息したジューダスを見遣る。
彼が立ち上がる際に頭を撫でられたので、思わず目を瞬かせる。
「お前は寝ていろ。色々考え込むのはお前の悪い癖だぞ。」
『そうですよ!しっかり休んで、早く元気になってくださいね!?』
「いや、元々元気なんだが…」
「寝ていろ。」
有無を言わさぬ物言いに苦笑を浮かべたが、折角の厚意だからと横になれば満足したように笑いをひとつ零された。
そして彼もまた部屋を立ち去った。
《……考えちゃうのね。》
「嫌な予感がするんだ…。もしかしたら罠なんじゃないかって、思えてね。」
目を閉じ頭に手をやり〈サーチ〉の魔法を使ってみる。
あの砂漠では使えなかったが、今はどうだろうか…?
「…駄目だ。〈サーチ〉が使えない…。今までこんな事無かったのに…。」
《……もしかしたら、暑さが苦手過ぎて頭が働かないんじゃない…?》
「まさか…」
《ありえない話ではない…。今は私の加護があるからまだ身体が言うことを聞くけど…貴女の暑さの苦手度は……他に類を見ないくらい……》
「はは、そんなにか…」
きっとそうなのだろう。そう思うことにした所で先程の心配が解消されることはない。
ただ横になっているのも何だか申し訳ないし、まずい気がしてきた所で、中のセルシウスが溜息をついた。
《……探しに行くのね…》
「レディには怒られそうだけど、もし〈赤眼の蜘蛛〉の仕業なら私が行かないと。皆が傷付く姿は見たくない。」
《皆も逆の事を思ってると思うけど……?》
「ふふ、それは有難いね。」
《……無茶だけはやめて》
「…分かっているよ。」
立ち上がり伸びをしたスノウは家を出て外の様子を伺う。
近くにジューダスの痕跡は無さそうだ。
〈サーチ〉が使えない今、下手に彼らと出会うと碌な事がない。
仲間達に遭遇するのを危惧しつつナナリーの捜索に時間を充てていると子供達が村の外に出ようとしているのが横目で見え、それを目で追いかける。
「…。」
《嫌な予感……的中かも、ね…》
「…弱ったね。」
あんなにナナリーから、意味もなく村の外に出てはいけないと言われているあの子供達が外に出るとは緊急事態の何物でもない。
慌ててそれを追いかけ話しかける事にした。
「どこに行かれるのですか?」
「「「「!!!」」」」
子供達がバツが悪そうな顔をしたが、スノウだと分かるとすぐに子供達はスノウへとしがみついた。
「お願い、ナナリーねぇちゃんをたすけて!!」
「っ!?」
「変な奴についてったんだけど、帰ってこないんだ!」
「なんかあやしい人だったから、しんぱいで…」
「赤い目でなんか不気味だった!」
《赤い目……まさか……》
「…詳しく教えてくれますか?」
やはり予感的中、〈赤眼の蜘蛛〉の仕業だ。
子供達の視線に合わせ屈むと大きく頷く子供達。
子供達の話を要約すると、私達が帰ったあと赤い目をした男に連れられどこかに行ったまま帰ってこない、ということらしい。
「(赤い目をした男…、修羅か海琉か、玄か…。はたまた私の知らない誰か、か。)」
《……どうする…?他の人は未だ村の中を捜索してるみたいだけど…》
「一人で行く。カイル達を〈赤眼の蜘蛛〉と対面させる訳には行かない。」
子供達にお礼を言い、村の外へと向かう。
ナナリー…、どうか、無事で…。
《……〈赤眼の蜘蛛〉の気配は何となくなら分かるけど…、これが本当かは自信が無い…。恐らくあの山の麓にいる…》
「!! それで十分さ!ありがとう、セルシウス。」
探知が出来ない私の代わりに探知をしてくれたセルシウスへとお礼を伝え、トラッシュマウンテンの方へと向かう。
あの山は所謂ゴミ山で、1000年前の天地戦争時代のゴミが空から降ってきた場所。そしてその粗大ゴミ達からは毒ガスが吹き出ているというとてつもなく危険な場所だ。
これからカイル達と原作通りならあそこを通る予定だったのだが…、まさか案内役のナナリーを連れ去って邪魔しているつもりか?
「何にせよ、ナナリーにいてもらわないと困るんでね…!」
《……危なくなったら引き返すのをオススメする…》
「逃げられたら、の話だけどね。」
やはり未だ慣れない砂に足を取られながらセルシウスが言っていた場所、トラッシュマウンテンの麓へと辿り着く。
粗大ゴミ達の影から警戒しつつ様子を見ていたが、やはり全身を黒いローブで覆っている黒づくめがいる。
〈赤眼の蜘蛛〉で間違いないだろう。
肝心のナナリーは気絶させられているのか地面に横たわっていて、このゴミ山の地面に横たわらせられて可哀想だ。
「……ふむ。あの男が来るかと思いきや、まさか別のお姫様が来るとは、ねぇ?」
「!!」
こちらの気配に勘づかれたか…!
喉奥で笑うようなそんな声に顔を歪ませたが、大人しくゴミ山の影からゆっくりと姿を見せる。
「会いたかったですよ…、スノウ・ナイトメア…!」
「私達は初対面だと思っていたんだけど、何時だったか会ったのかな?そんな反応をするということは。」
「クックック…!アッハッハ!…貴女が気絶している時に会っていますからね、覚えがないのも無理はないでしょう。」
「そうか、それなら私にとっては初対面という訳だ。…で、そこのお嬢さんを返してくれないかい?大事な人なんでね?」
「クックック…!目的の王子様が来るかと思いきや、まさか貴女が来るなんて…、今日は良い日だ!」
「目的の王子様…?」
一体誰の事だ…?
思考の深みへ入ろうとしたが、すぐに頭を切り替えなくてはならない事態に陥る。
「っやめろ!?」
「クックック…。ボクは目的を達成させる為なら何でもするんだよねぇ…?だから……分かるだろう?スノウ・ナイトメア。これは交渉じゃない。“命令”だ。」
“命令”と強く言い放つ黒づくめの男は喉奥で笑いながらナナリーの首に剣を押し当てて流血させていた。
それに僅かに動揺したスノウを見てほくそ笑むと、男は剣を押し当てたまま反対の手でこちらに手を伸ばした。
「我々〈赤眼の蜘蛛〉は、貴女が欲しい…。だからこちら側に来るんだ。スノウ・ナイトメア。」
「まさか、その為に…?」
「おっと!勘違いしないでもらいたい。ボクの目的はロニと言う男の抹殺だ。貴女なら知っているでしょう?ボク達〈赤眼の蜘蛛〉はそれぞれ担当の抹殺対象がいる…、と。」
「それでナナリーを人質に取ったわけか…!」
今はまだどちらもぎこちない物の、いずれお互いを信じ合いきっとお互いが好きだと思う二人だからこそ目を付けられたのだ。
〈星詠み人〉である〈赤眼の蜘蛛〉は共有し合いながらも未来を知っている。だからそういった作戦を取れたのだと今更ながら気付く。
「でも貴女が来てくれるとは、これは神の思し召し。だから貴女を連れ帰る事にしますよ。」
口調が統一しないこの男に顔を歪め動けないままでいると、僅かにナナリーが身動ぎをした。
ハッと息を呑むと徐々に彼女は覚醒してくる。
「……ん、ここは…?」
「クックック…、起きたようですね?」
「っ?!」
喉元に当てられている剣が見えたのか息を呑むナナリー。
そして、必死に現状把握しようとしているのかその視線は右往左往している。その中でスノウの存在に気付いたのかこちらに視線を固定させたナナリーは困った顔をする。
「……。」
「ナナリー、動かないで下さい…」
“考古学者のスノウ”の声でそう言えば押し黙るナナリー。
「君も二重人格だね。」
「…」
「さて、スノウ・ナイトメア。もう一度言いますが、これは交渉じゃない、“命令”だ。こちら側に来い。」
「…」
ナナリーのことを考えれば、こちら側に考える猶予がないのは百も承知。
だけど、この状況を打破出来る彼等が来てくれる気がしてならないのだ。
馬鹿だと思うだろう?
私もつくづくそう思う。でも、何故か彼等がやってくると思ったんだ、その時の私は。
「…ふふっ」
「?? 何故笑う。狂気の沙汰だね。」
「それは__」
「うおーーーー!!!!!」
相棒であるハルバードを振り回し、黒づくめの男の背後から現れたのはロニだった。
すぐさま反応しナナリーから離れた男にさらに追撃をかけるようにカイルとジューダスが交戦し始める。
リアラがナナリーに近付き回復させているのを見て、スノウも男へと攻撃を開始する。
「連なれ、氷柱!フリーズランサー!!」
男はカイル達の剣戟を軽々と避けながらこちらにも反応し、私の魔法をも避ける。
男がかなりの手練だと分かり、表情を引き締める。
「クックック、惜しかったですねぇ?もう少しで貴女を手に入れられたのに。」
「目的はスノウか!?」
「その答えは半々だねぇ?スノウ・ナイトメアが欲しい気持ち半分、とある奴を殺したい気持ちが半分…。大変残念だ。」
「残念ですが、私はそちら側には行きません!何故なら私は…、彼らと旅がしたいから!!」
「「「スノウ…!!」」」
感動した様にカイル達が声を上げる。
これは嘘偽りない、私の今の気持ち。
『カッコイイですー!!!スノウ!!』
「ふっ、よく言ったな。」
ジューダス達も嬉しそうに笑顔になり声を上げた。
それを聞いた男はその自前の赤い瞳をゆらりと揺らめかせた。
「貴女はそうでも、周りはそれを許さない。必ずや貴女は〈赤眼の蜘蛛〉に入る。それだけ言っておきますよ。……それに貴女のその行動は、我々〈赤眼の蜘蛛〉と大して変わらない。結局自らの手で原作を歪めているのだからねぇ?」
「例え、そうだとしても…!私は皆さんと一緒に在り続ける!それが私の今の願いです!!」
『スノウ!!最高!!!もっと言ってください!スノウ!!!』
「……いずれ後悔することになろうとも、その道を選ぶ、と?」
「私の意志は変わりません。」
「クックック…!突っつけば決意が揺らぐかと思っていたお姫様だったが、思い違いをしていたようですね。これは面白い。……因みにボクの……いや、〈赤眼の蜘蛛〉の意志も変わりません。スノウ・ナイトメア、貴女を手に入れる。いずれね?」
スノウへと手を伸ばし握り締める挙動をした男にスノウは首を横に振った。
「何故そこまで私にこだわるのです?」
「クックック…、ここで言っていいのかなぁ?」
「…。(その手の話か…)」
「言ってもいいなら言いますが?どうしますか?」
「…いえ、良いです。きっと碌な事でないのは目に見えていますから。」
途端に今までと違い体を仰け反らせ、狂気の笑いを出す男に全員が思わず後退りする。
これこそ、狂気の沙汰だ。
その男の笑いが急に止まると無言でスノウの方へと走り出す。
それに目を見張り銃杖を構えたスノウだったが、その前にジューダスが男とスノウの間に滑り込んだ。
「クックック…!!姫を護るナイトのつもりか?……まぁいい。スノウ・ナイトメア、覚えておけ。ボクの名前は【アーサー】。貴女を必ず手に入れる男の名ですよ。」
喉奥で笑う特徴的な男はそれだけ言うと、瞬時にスノウ達の目の前から消えた。
思わず緊張していたのか、大きく息を吐き出し俯いたスノウだったが、直ぐにその顔は人質に取られていたナナリーの方へと向けられた。
リアラの手を掴み立ち上がろうとしている彼女に怪我はなさそうで、それにも安堵の息を吐いた。
「全くお前は…。何で1人で立ち向かうんだ。お陰で変な奴に目を付けられてるじゃないか。」
『そうですよ!びっくりしたんですからね!!こっちは!!勝手に家の中から居なくなってるし!!先にこっちに向かってるって子供達から聞いてどれだけ肝を冷やしたか!!!』
呆れた声音の二人にから笑いをしながら謝っておく。
それでも来てくれた事に関してはお礼を述べた。
「…今度からは一言僕に相談しろ。命が幾つあっても足りやしない。」
「ははっ、可能な限り、ね?」
『ほんとに!また攫われたかと思ったんですよ!!反省してください!』
「ははっ、ごめんって。」
仲間達がこちらに集まってきてお互いの顔を見合わせる。怪我はないか、の確認だ。
「あの人、スノウにすごい執着してたね!」
「お前も変な奴にばっかり目をつけられてんなぁ。苦労性って奴か。」
「ナナリーも無事でよかったわ…。二人ともよく耐えたわね。」
「アタシは何がなんやら…。気付いたらここに寝かされて首に武器を当てられていたから驚いたよ。」
首の傷は大したことなさそうで、何ならリアラの回復で怪我が治っていたのを横目で確認して胸を撫で下ろすと、ナナリーがお礼を言ってくれたのでそれに首を横に振った。
「皆さんのおかげですから。私は何もしていませんよ。」
「そんな事ないさ!アンタがアイツの気を引き付けてくれたからこいつらが乗り込めたんじゃないか!本当にアンタは命の恩人だよ。」
「そんなこと…」
「ないって言わせないよ? さ、早く村に帰って飯にしよう!もうお腹ぺこぺこだよ!」
「食い意地の張ったやつだなー…。ってナナリーさん?何で指を鳴らしているんですかね?!!」
「どっかの誰かさんが余計な一言を言ってくれるから、それの準備運動ってことだよ!!」
ボキボキと小気味いい音がして、思わず声に出して笑ってしまう。
ナナリーの関節技が生で見れるなんて、個人的にとても感動する。
結局あのまま動けなくなったロニを置いて、皆で村に戻り楽しく食事にしたのだった。