第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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サブノックを倒し玉座に急いだカイル達だったが時遅く、バルバトスにウッドロウが負傷させられていた。
それに動揺した様にジューダスがウッドロウに声をかけ近付いていくのを苦い顔でスノウは見ていた。
「(ごめん…、ジューダス。君が苦しむと分かっていながら私は…。)」
「「ヒール!!」」
回復班の二人が回復をしているのを遠目で見ていると背後から物哀しげな女性の声がする。
それも、まるで内緒話のように私にだけしか聞こえないほどの小声で。
私はその声を振り向かずに聞いていた。
「…モネ・エルピス。いえ、今世ではスノウ・ナイトメアでしたか?」
「…はは、分かっているのにちゃんと前世の呼び方をしてくれるなんて君も律儀だね?エルレイン。」
「……。今世はどうですか?楽しめていますか?」
「…そうだね…。だが、感情とはままならないものだね。」
「…そうですか。」
カイルと相対していたバルバトスが消えていくのを見ながらそう話すと、エルレインが再び物哀しげな声で返答した。
「っエルレイン?!」
リアラがスノウの背後に居たエルレインに気が付き、顔を青白くさせる。
その言葉にカイル達もこちらを見るが、特にジューダスだけはその相貌を細め、険しい顔になっていく。
しかし、エルレインはそれを気にした風もなくそのままの状態で私へと話し掛け続ける。
「哀しき運命の子…。死して尚、新たな運命に立ち向かうのですか?」
「私がそう決めたからさ。もう逃げない…。今世では彼と、…友と一緒に居ると誓った。その為にここに居る。」
「では問いましょう。こちらに来る気はありませんか?哀しき運命の子よ。」
「私は哀しき運命の子ではありません。スノウと呼ばれているのです!」
“考古学者のスノウ”としての声へと変えたスノウを見て、哀愁に満ちた表情をしたエルレインは目を伏せた。
スノウは近づいて来る仲間達に目を向けた後、エルレインを正面に見据え、ひたとその哀しげな目を見つめた。
「貴女の理想は…、私には高すぎる。勿論人の幸せを願う貴女の事を侮辱する訳じゃない。でも、それでも貴女には自身の幸せも願ってほしい。」
「私の…幸せ…」
追いついた仲間達は何が何だか分からないと表情を曇らせていた。
特にジューダスの顔は酷く歪んでいて、不安そうにスノウを見ていた。
「何でエルレインがここにいるの?!」
リアラが混乱したようにそう呟くと隣に居たカイルがまたも不思議そうな顔でリアラを見た。
反対にロニはエルレインを睨みつけながらカイルに言い放つ。
「一つだけわかったことがある…。それはコイツが黒幕だってことだ…!!」
スノウをジューダスの方へと押し戻し、エルレインに攻撃をしようとしたロニだったが別の人物によって遮られる。
「エルレイン様には何人たりとも触れさせませぬぞ。」
「くそっ!!」
「ならば…!」
ロニと同じくエルレインへと斬りかかるジューダスだったが、謎の光により遮られてしまう。
原作通りだと目を伏せたスノウを再びエルレインがしかと見た。
「〈赤眼の蜘蛛〉…。」
「っ?!」
「彼等は私に力を貸すと言っていました。ですが、貴女は私に力を貸してはくれないのですね。」
「彼等が…?!まさか…!」
聞き捨てならない言葉を聞き目を見張ったスノウはエルレインを見た。
しかしそれに驚いたのは何もスノウだけでは無い。
ジューダスもそれを聞いた瞬間駆け出し、スノウをエルレインから隠す様に自身の背中へと追いやった。
「…言え。奴らの目的は何だ?」
「…貴方には関係のないことでしょう?何故そこまで彼女を庇うのです?彼女は貴方をいつ裏切るとも分からないのに…。」
「違_」
「こいつは今後一切そんなことはしない。絶対に、だ。」
スノウへの信頼とも呼べるそれに、口元が自然と弧を描く。
「そういう事です。彼を裏切らない…、だから貴女の元へは行きません!」
「…愚かな」
苦しげに、そして哀しげに顔を歪めたエルレインは次にリアラを見て、元ある場所へと帰れと告げた。
するとリアラの身体が光り出す。
「いやっ…!?私にはまだここでやる事が…!」
「リアラーーー!!!」
光に包まれ姿が見えなくなったリアラに飛び込む勢いでカイルが駆け出す。
ロニが呆然とそれを見遣る中、ジューダスがロニを一喝した。
そしてスノウを見たジューダスは彼女の手を握ると、迷いなく光へと飛び込んだ。
その手は固く握られ、決して離されることはなかった。
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「…あー、何となく思ってたけど…、こうなるよねぇ?」
ポツンと一人砂漠の中央に立っているスノウは、項垂れながら必死に額の汗を拭っていた。
辺りには人の気配はなし。
魔物の気配もなし。
スノウただ1人がポツンと砂漠で佇んでいるだけだった。それ程までにここの環境は生物には厳しいらしい。
「なーんか、嫌な予感がしたんだよなぁ…?そうだよねぇ?こうなるよな…?」
暑さの苦手なスノウが砂漠にいるという事はすなわち……そういうことである。
バタン
暑さに耐えられなかったスノウはその場に倒れ込むと心底憎らしげに太陽を見た。
照りつける太陽はそんな事お構い無しに、容赦無い太陽光を放ってスノウへと降り注ぐ。
荒い息を吐きながら太陽へと悪態を吐いたスノウは再び額の汗を拭った。
しかしそれを上回るスピードで汗が噴き出し、流れ落ちていく。
このままでは完全に熱中症や脱水でお陀仏である。
分かってはいるが暑さに敵わないスノウは暫く倒れ込んだままぼんやりとしていた。
《…暑い》
スノウの中に潜んでいる彼女が呟く。
そう言えばセルシウスは氷属性で、暑さには耐性があるかと思っていたがそうでもないようだ。
「…流石のセルシウスもこの暑さには苦言を呈す、か…。」
《暑すぎる…。このままだと2人とも死んじゃう…》
「流石にそれは勘弁したい所だけど…、有り得そうなんだ。それ。」
寝転がったままそう言い放つ自身の主人に、セルシウスが嘆息した。
冗談抜きで本当にそうなりそうだからだ。
《冷やしてあげるから…ここから移動して欲しい…》
「そうしよう…」
セルシウスが詠唱を唱え終わるとスノウの体に異変が起きる。
途端に体全体が涼しくなり、動きやすくなったので勢いよく身体を起こし体の調子を見る。
《ここから早く出ましょう…?》
「出る、と言っても…ここが砂漠のどこら辺なのか…。」
辺りを見渡したスノウだったが指標になるような物は見当たらず、仕方なく魔法を使うことにした。
「〈サーチ〉」
目を閉じ魔法を唱えると、脳裏には砂漠の地図が…。
「…ん?」
もう一度魔法を使ってる見るも、脳裏にはやはり何も映し出されない。
それに僅かに冷や汗をかくスノウにセルシウスも言葉を失った。
この広大な砂漠の何処かで、どうやら私達は迷子らしい。
幸先悪い事態に嘆息したスノウは今一度天高く在る太陽を見て悪態をついたのだった。
《どうする…?》
「体力をここで削るのもよろしくないけれども、何もしないよりは何かを探した方が生存確率は上がる、か…。」
そうと決まれば、とばかりに適当に歩き出すスノウ。
セルシウスのおかげで汗が止まったとはいえ、水分補給は必要だ。
適当なサボテンを目印にしながら歩き、そのサボテンから水分を貰うということを何度も繰り返していると流石に夕刻時になり、遂には夜の帳が落ちる。
涼しい…、いや寒いのが得意なスノウは砂漠の夜の寒さを前に全く意に介していない様子だった。
その為か、日中よりも夜の方が足の進みは良好だ。
《スノウ、少し休まない…?》
「逆に今動いた方が個人的に楽な気がしてね?でも、セルシウスがそう言ってくれるならここら辺で少し休もうかな?」
何も無い砂漠地帯のど真ん中で座り込み、セルシウスに言われた通りに休憩をとる。
すると今まで気にならなかった満天の星空が、目の前に広がってくるような錯覚を起こさせ、それにスノウが思わず目を見張り、笑顔を零した。
空なんてファンダリアの飛行竜襲撃の時に見ていたが、あの時は生憎の雪雲だった。
だから、今のこの満天の星空に恍惚の溜息が出るのも無理も無い話だった。
「…原作でこの砂漠は、そんなに大きな場所のようには感じなかったんだ…。でもいざこの世界に来て、こうして体感すると余計にそう感じるね…。自分の浅見さをひしひしと感じてしまって、自分自身を恨んでしまいそうだよ。」
《そんな事ない…。スノウは誰よりも頑張ってるし、誰よりも博識……。その銃杖だって、知識がなければ使えない…。》
そう言われ取り出した銃杖を見遣ると、仄かにそれが輝いた気がして笑みを零す。
あの天才天然で破天荒なキャラクターが使う、この銃杖。初めはまさか自分が使えると思っていなかった。
それでもセルシウスに言われて、カイルやリアラやロニ、そしてジューダスも応援してくれた。すると不思議な事にあの時何故かは分からないが使えると思えたのだ。
だからあの強かった玄に勝てたのだろう。何より自分にとってあの勝利はとても大きいものだと感じていた。
「知識、か…。その知識もこの砂漠では当てにならなさそうだ…。」
肩を竦め、天を仰ぐ。
今頃ジューダス達はナナリーに拾われているだろうか?
そしてカイル達もちゃんとナナリーと出会えているだろうか?
尽きぬ疑問に首を振り、呆然と星空を見つめた。
《これからどうする…?この感じだと、夜中に休む気は無いんでしょ…?》
「なるべくなら動きやすい夜に動きたいね。日中はセルシウスのおかげで動けてはいるけど…、いつ何があってもおかしくない。」
《じゃあ、今のうちに休める場所を探さないと…》
「後はカイル達……、彼等の手がかりでもあれば文句はないんだけど…。」
トラッシュマウンテン然り、火山然り……。
目立つものさえあれば何となくの方角は覚えているので辿り着けると思っていた。だが、その考えを打ち消すかのように何の目印も未だ見つけられていない。
広大な砂漠にあるのは砂、砂、砂……時折サボテン、それくらいだ。
「あー…、方位磁石でもあれば…」
無い物強請りしても仕方ない。
とにかく今はカイルたちの手がかりと、日中休める場所とを探すしかない。
ファンダリアの歩き慣れた雪とは違い、慣れない砂に足を取られながら歩き進めていく。
しかし、その足もすぐに止まってしまう。
途方もなく果てしない地平線、使えない〈サーチ〉の魔法。
私の行き先は何処だ?
《……スノウ。》
「分かっているよ、セルシウス。皆が居る所へ行かないとね。」
あまりの途方もなさに自身へと問い質したが、すぐにセルシウスの声が中から聞こえ、気持ちを持ち直す。
「エルレインもちゃんと飛ばしてくれたら良かったんだけど、…愚痴っていても仕方ない。」
《皆はきっと無事よ…。だから今度はスノウが無事な姿を見せないとね…?》
「でないと、とあるレディに怒られそうだ。」
肩を竦め笑い飛ばすと、セルシウスも声に出して笑った。
それだけでこの場が和む気がして少しは心の持ち様も変わってくる。
私は広大な砂漠を前に見据え、笑った表情のまま歩き出す。
さっきよりも遥かに軽くなった足取り。
何も無いこの砂漠に少し弱気になっていた。それに気付いてきっとセルシウスは声を掛けてくれたんだ。
「ありがとう、セルシウス。」
《何もしていない…》
「充分にしてくれているよ。いつも、助けられている。私一人だったらきっとこの広大な砂漠の中、諦めていただろうから。」
《……そう。》
少し嬉しそうなセルシウスの声に再び笑いを零し、歩き出す。
途方もない砂漠でも歩き続けたらきっと何処かに辿り着くと信じて。
《……スノウ、一つ提案がある。》
「何だい?」
《銃杖を構えて…》
「?? こうかい?」
銃杖を前に構えてみるが、首を横に振られた気がして普通に銃杖を手に持っているとセルシウスが声を発する。
《銃杖の銃部分を上へ…》
「…こう?」
杖の下端部を上へ向けると彼女が頷いたのが分かった。
それに疑問を持ったまま次の言葉を待っていると、その言葉の意味をすぐに理解した。
《銃杖に魔法を込めて、上に放って…》
「…なるほど。向こうも私を探していると信じて閃光弾を打ち出し、ここにいると示す…という事か…。今は少しでも生存確率を上げるに越したことはないからね。やってみるよ。」
天高く上がるようにと、銃杖に力を込める。
目を閉じ一度息を吐き出したスノウは、満天の星空を見上げ銃杖に込めた魔法を空へと放った。
前前世で見た花火…。
折角だ。打ち出すならばと、それを思い描けば沢山の花火が空を彩り、花を咲かせる。
思わず、綺麗だと呟いてしまうくらいには我ながら良い出来だと思った。
昔聞いたあの花火特有の爆発音も顕在の様で、何も無い砂漠にあまり響かないかと思っていたが、夜だからかその音は良く響く。
そして思いの外先程の魔法にマナを込めてしまったのか、暫く空を彩る花火を呆然と見遣った。すると、遠くの空が明るくなった気がしてそちらへ目を凝らした。
《……あっちの空、明るい…》
「あれは…火…?」
《もしかしたら、あの子達の誰かがスノウの魔法を真似て空に放ったのかも…》
「ふふっ、それにしては可愛らしい出来だね?」
あまりにも粗末で、思わず笑ってしまうその花火の出来に、安堵のため息が自然と口から衝いて出ていく。
本当に遠くの空が赤く燃え上がり、まるでそれは夕日のような赤さだ。
「あれが火事じゃない事を祈るよ。」
《ふふっ…そうだね…。》
その夕日の様に赤いそれに向かい歩き出す。
その足取りは今日のどれよりも軽く、しっかりした足取りだ。
背後の花火を聴きながら一歩一歩確実に歩みを進めていく。そして、遠くにあるあの赤い火も試行錯誤を繰り返しているのか違う形になったり色が変わったりして、視界を楽しませてくれる。
それにどれだけ心強いと感じただろう。
そしてその火がスノウに向かって動いていると云う事も、スノウを勇気づける要因だった。
《もう少し…!》
「ふむ…。レディに怒られなきゃ良いけど…。」
《それは愛情の裏返しって奴じゃない…?》
「ははっ!それならレディの逆鱗にも甘んじて受けよう。」
徐々に遠くから賑やかな声が聞こえてくる。
「(あぁ、少し会っていないだけなのに、懐かしい喧騒だ…)」
その声を一身に受け、彼らの元へ。
夜が明けようとしているのにも関わらず、その火が衰える事は決してない。
まるで私が来るのが分かっていて、指標を示してくれているかの様に。
《見えた…》
「おーーーーい!!!!」
まだまだ遠くではあるがスノウが視認出来る距離まで入ったらしく、その人物たちは自分達を誇示するかの様にこちらへと大きく手を振ったり跳んで見せてくれたり…。
それに再び安堵の息を吐きその場に佇めば、次第にその声が大きくなり我先にと近付いてくる。
そして再会を喜ぶかのように泣きながら抱き着いてくる仲間達に自然と笑みが浮かんでいた。
「(あぁ…。なんて私は幸せ者だろう…。こんなに心配してくれる仲間が居る…。それはとても幸せな事だ…。)」
「ぐすっ!スノウ、良かったよー!!!」
「お前だけ居なかったから、ぐすっ、心配したんだぞっ!!?こんちくしょー!!!」
「本当に…良かったわ…!!」
「良かった…。本当に…!」
『うわーーーん!!スノウーーー!!!!』
それぞれに心の叫びを言い合う中、それでも抱きつく力が緩むことはない。
それを抱き締め返すので精一杯なスノウだったが、急に足の力が抜けその場に尻もちを着き、唖然とする。
皆も驚いてそれを見ていたが、スノウの表情に安堵の息を吐き微笑んだ。
「…ははっ、少し疲れたみたいです…」
“考古学者のスノウ”の声を出しながら唖然とそう呟くと一番背の高いロニが背中へとおぶってくれる。
「ぐすっ…!ちゃんと掴まってろよー!!!?」
「ロニ、落としたら明日のおやつ抜きだよ!!」
「ちょ、それはないだろー?!」
いつもそう言い合いながら先に先行する二人も今回ばかりは慎重に後ろの仲間達を確認しながら砂漠を進んでいく。
もう誰もはぐれないように。
その気遣いが今のスノウの身には染みて行く。
この広い背中に甘えて少しだけ休ませてもらう事にし、目を閉じ仲間達の賑やかす声を村に着くまでじっと聞いていた。