第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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街へ戻ってきた私達は人気のいない高台へと来ていた。
ここは見晴らしが良くて前世から大好きだった場所だ。それにデートならこういう場所も悪くないだろう?
外の良い見晴らしを見ながら私は話を切り出した。
「……修羅から概ね聞いたんだろう?私の事。」
「いや、要所要所でしか分からなかったからな。聞いていないに等しい。」
私が武器屋から戻ってきて質問されたあの時、ジューダスが言った言葉で喉がヒュっと鳴ったのを思い出す。
まさか、修羅がリオンの人生について話しているとは思わなかっただけにあの時の言葉の衝撃度は私の中でかなりのものだった。
「そうか。なら、前世での私の事は?」
「…推測でしかない。あの時、お前が海底洞窟に残っていたのは、未来を知っていたからだ、というくらいだ。」
「そうだ。以前、私が君の災難の肩代わりをしたと言っただろう?…本当は君はあそこで死んでいた。リフトを上げる役割を果たし、濁流と崩落に巻き込まれ…死ぬ。それが君の結末だった。」
『だとしてもですよ!?あそこでモネが死ぬ理由は無いはずです!!』
「私は君の肩代わりでしかない。だからあそこで私が死ぬのは運命だったんだ。決して揺るがない運命。…だが、物語を修正する様に君は私の後を追うように死んだ。…気付かなかった……、いや、気付けなかったんだ。君のその様子に…。確かに私と海底洞窟で戦った時の君は、注意力散漫で剣の軸がブレていたし、体も震えていた。いつもと様子が違うのは気付いていたさ。」
あの時の君は顔面蒼白で、いつもの調子なんて微塵も感じさせないほど攻撃に覇気がなかった。
そんな中、私は君の腕を掴み、額に銃を宛がったんだ。
……ふふっ、懐かしいね?
『ならなんで!?』
「友達だから、とだけしか思わなかった。でも君は、スタンやルーティなどの仲間を手に入れた…。正直それで私よりも良い関係を彼らと結べると……その時の私は信じてやまなかった。」
『…確かに坊ちゃんはスタン達と神の眼を巡る騒乱に巻き込まれた。そして、仲間を手に入れた。でも…!君と過ごした時間は彼らよりももっと、遥かに多かった!!唯一の友達と言っても過言じゃなかったのに!!』
「……」
「シャル、やめるんだ。」
『だって!?』
「…すまない、スノウ。」
「いや、良い。どうせこうなる事は分かっていた。全て私が招いた罪なのだからね…。どんなに足掻いても、それは償いきれないさ。」
君を殺してしまった罪…、マリアンになんて言えばいいか。
それを思うとフッと自嘲を零した。
ジューダスの方を見ずにずっと遠くの地平線を見ている私は…狡いな。
「…君達が修羅から何処まで聞いているのか、把握出来てはいない。だからこれから話す事は、君達にはよく分からないかもしれない。それならそれでいい。聞き流すでも何でもしてくれ。……私のただの独り言さ。」
丁度話し始めようとすると雪がフワフワと降ってくる。これなら今日はまた積もるかもしれないな、と他人事のように思う。
雪を一つだけ掴んでギュッと握り締めた。
無論、後に残ったのはただの液体だけだ。それを無表情で見遣り、また地平線へと視線を戻した。
「君達の事は、私を含めた〈星詠み人〉は物語として知っている。勿論それは君達の未来についてだ。」
「……」
「君達がどんな選択をし、どんな未来を奏でるのか。それは揺るぎない運命の物語として語られていた。そこで私は君達を知ったんだ。そして、私はその物語の登場人物達が大好きになっていったんだ。リオンやスタン、ルーティやマリー…色々な登場人物が居て、そして各々が集まって神の眼を巡る騒乱に巻き込まれていく。最後はミクトランを倒し、世界に平和が訪れそして、完全な物語となる。……ただし、リオン。君を除いてね?」
「…!!」
まだ地平線を見つめる私は彼が息を呑んで反応したのは分かったが、それがどんな表情かまでは伺い知れなかった。
本当に狡いな、私は。
君の顔を見るのが怖いんだ。
何ならこの外壁を越えて、逃げ出したいくらいだ。
「その物語の登場人物でね…、私が凄く好きだった登場人物が居たんだ。それがリオン…、君だ。」
「!!」
「でも君はヒューゴ…、まぁミクトランが扮していた訳だけど……、父親から英才教育を受けて立派に育った。…でも、通常芽生えるはずの感情が抜け落ちていたんだ。愛に飢えていたんだ、君は。……助けたいと思ったよ。物語として語り継がれるそれをどれ程憎んだことか。しかし、そのチャンスは私に巡って来た。君を助けることが出来ると知った時、どんなに喜んだか、君は知らないだろうね。……胸が張り裂けそうだったよ。例えその先が死という終焉でも……それでも君を助けると決意を抱いた。そして君と出会ったその時、君を見て余計にその決意は確固なものとなった。……かっこよかったよ、正直……、物語で見るのとは違って。後は君達も知っての通り、モネ・エルピスとして海底洞窟で君達の前に立ち塞がった。これが私の悲願……。あぁ、長かった。これでようやく死ねるんだって思ったよ…。君達をリフトに乗せ、リフトの操作盤を操作しなければならない、だからその時は死ぬ訳にはいかなかった。……正直難しかったよ、君達はとても強かったからね。あの人数を相手出来たのは今でも奇跡だと思ってる。……だからシャルティエ、あの時私があそこに残らなければならなかったんだ。あの操作盤を操作し、死ぬ役が一人、必要だったからね。そしてその海底洞窟で必ず死ななければならない理由もあった。それは…今君達が歩んでいるこの旅が原因さ。18年後の世界……ここで君はジューダスとしてカイル達と旅に出て世界を救う。…私は君の代替わりとしてカイル達にわざと近付いた。しかし、予想外だったのが君の存在だ。……てっきりマリアンと宜しくしていると思っていたから、その片鱗でも見れたらと思っていたんだ。友として、君の幸せを願っていたから。でも、君は死んでいた。どんなにそれで苦悩したか…。私が死んだ意味はなかった、君を守れなかった…。色々な感情が渦巻いたよ。」
長く細い、白い息が吐き出される。
寒くなってきたか…?
後ろの彼は風邪を引いていないだろうか、と違う事を考えてしまうのは…、逃げ出したいと思うからなのだろうね。
「……結果、君達は私を仲間に入れ、そして……危険な目に遭った。…ははっ、どうしようもないと思ったよ…!私の存在が…、君達に悪影響を及ぼしていたなんて、誰が思う?」
「…スノウ」
「前世で罪を犯してまで来たこの世界でも…私は……邪魔者でしかない。だからだね、死を簡単に受け入れられるのは……。もし、君達が助かる為に何かの代償が必要だと言うのなら、すぐにでもこの命を差し出そう。私にとってそれ程までに君達の生存が最優先なんだ。私は…その物語には登場していないからね。当然さ。何かを成し遂げるには、……代償が必要だ。それも別の物語で学んだよ。だから良いんだ、君達が無事に旅を終えられるなら、それで。」
『…っ』
「………」
「〈赤眼の蜘蛛〉の事は君が襲われた翌日に知った。勧誘されたよ。私が〈赤眼の蜘蛛〉の連中と同じ、〈星詠み人〉だったから。……でも、断った。連中の目的は君らの抹殺だったからね。許せなかった…、君達の存在を知っておきながら抹殺するなんて…、と思った。だから連中の仲間として一緒にされるのは…不愉快なんだ。」
そんな殺人集団と一緒にされて嬉しいなんて思えない。どうして彼らを殺そうと言う気になるのか、不思議で堪らない。
例え、故郷に帰れるとか、そんなこと言われても私には魅力に感じない。
「……私の目的は〈赤眼の蜘蛛〉の壊滅、そして君達の旅の監視だ。まぁ〈ロストウイルス〉の影響で〈赤眼の蜘蛛〉の組織は壊滅的ではある。だからあまり気にしないようにしている。君達との旅は……迷ってたんだ。私がいることで起こる影響、それらを考えると私はいない方がいいと言う結論に何度辿り着いたか。」
それでも、私は君達と旅をしてみたくなった。
旅をしてどうしようもなかったら、その時は諦める。でも、それまでは君達との旅を堪能させて欲しいんだ。
「〈ロストウイルス〉の件で君達にはかなり迷惑をかけてしまうと思うし、私がいる事で面倒な事に巻き込まれるかもしれない。それでも、私は…君達と在りたいと、そう思ってしまうんだ。…………さて、独り言は終わった訳だが…、どうだい?これでも私を仲間に誘ってくれるのかい?」
漸く彼の方へと向いた私はきっと困った顔をしているのだろう。
自分で分かる。だって、私の存在は皆にとって邪魔でしかないのだから。
「嫌だと言うのなら今すぐにでもこの外壁を越えて君達の前から姿を消そう。二度と現れないと誓う。さぁ、言ってくれ。君の望みを。」
右手を彼の方へとゆっくりと差し出す。
さぁ、答えは君の中にある。
君が吟味して考え出した答えならどんな結末でも受け入れられる。私の、大好きな友の言葉だから。
彼は私の手を見てから私の瞳をじっと見つめた。その瞳はもう答えが出ているような真剣な眼差しで、私はそれを見て微笑んだ。
さぁ、君の言葉で私を断罪してくれ。
私はいらないと、そう一言言ってくれたら全てが終わるんだ。
この外壁を越えてどこへでも消えよう。
君達の旅の無事を、成功を……、遠くから祈っているよ。
「……え?」
彼は私の伸ばした手を振り払うでもなく、それを掴むと自身の方へと引き、抱きしめたでは無いか。
強く、強く抱き締められ呼吸がしづらくなる。
「…僕が、お前を離すと思うか?お前を要らないと、そう言うと思うか?僕は……お前が居なければ死んでしまうような人間なのに。」
「……」
「消えるなんて言うな。お前の事だ……どうせ僕がお前を拒絶すると思っていたんだろう?そんな事有り得ないのに。」
「……」
「迷惑?お前は全然手が掛からない…いや、お前のことを何一つ知らなかった今までの方が目が離せなくて大変だったぞ。〈ロストウイルス〉だか、なんだか知らないがお前をみすみす殺させるつもりはない。お前は…もう少し周りを頼れ。」
「……」
「まだまだ言いたいことは沢山あるぞ?大体僕がマリアンと宜しくやっているだとか……、僕とマリアンはそんな関係じゃない!この際だから言わせてもらうが彼女と付き合ってるとかそんな事あるわけないだろう?彼女はメイドだぞ。僕とは主従関係でしかない。断じてそう言える。」
え、そうなの?君、結構前世でマリアン、マリアンって言ってたと思ってたけど…?
「それに僕の幸せを願うと言うなら、それはお前が居なければ始まらない。お前の存在が僕にどれだけ影響しているかお前は知らないだろうな。とにかくお前は僕の隣に立っていればいいんだ。」
君の隣に立つ…。
それがどれほど難しいか、君は知らないだろうね。
「逃げようとしても無駄だぞ。僕はお前を離さないからな。こんな細身、動きを止めることなんて僕には造作もない。前でも後ろでもない、横に立って笑っていればいい。」
笑っていればいいって…、難しいことを言うね。
君はどの笑いを希望しているんだい?
「それに……言っただろう…?僕を一人にするな、と。僕はお前を全てから守ってやる。だから生きる事を諦めるな、死を意識するな。……僕の隣で、生きて……笑顔を見せてくれ…」
徐々に小さくなる声。
でも抱き締められている私の耳にはしっかりと聞こえていた。
君の願い……、切実な願いはこういう事だったんだ。
時折見せる懇願の眼差しは、こういう意味を含んでいたんだね。
全く……、断罪されるとばかり思っていたから拍子抜けしてしまったよ。
私はそれらに応えるように、彼の背中に手を回し抱き締め返した。
「……もう、お小言は終わりかい?」
「…足りないならまだ言ってやるが…?」
「ははっ、それは勘弁だ。君の気持ち、充分に伝わったよ。……君は、私と共に…いてくれるんだね…。」
「当たり前だ。お前を置いてどこかに行くわけないだろう。逆にいつも置いていかれるのは僕の方だ。反省しろ、馬鹿。」
「ふふっ、反省してるよ。………………ありがとう。こんな私を受け入れてくれて。」
彼の肩へ顔を埋めると、抱き締める力が少しだけ弱まり背中をポンポンと叩いてくれる。
あぁ、心地好いリズムだ。
それに何より、彼の体温が暖かくてそれにも恍惚を浮かべてしまう。
今なら本当、死んでもいい。
推しに抱き締められ、背中を優しくあやす様に叩いてくれているし、彼の体温も感じる。
何だか離れるのが勿体ないと思えてしまうではないか。
「……私の苗字には、それぞれ意味があるんだ。」
「…エルピスとナイトメアか?」
「そう。エルピスは私の所の言葉で“希望”を表す言葉なんだ。」
「…??お前、ファンダリア出身だろう?ファンダリアにはそんな言葉が存在しているのか?」
「ふふっ、そうだった。それも話さないといけないね?私は…こことは違う世界からやってきた、云わば異世界人だ。君達から見ると宇宙人になるわけだけど。」
『え、ええええ?!!!スノウって宇宙人なんですか?!!』
先程まで黙っていたシャルが大声を上げたことでジューダスの顔に皺が刻まれる。
そして私を離すと背中に手をやり、…器用なことにその状態でシャルティエに制裁を加えていた。
彼の悲鳴がその証拠だ。
「……すまない、話の腰を折ったな。」
「ふふっ、大丈夫だ。しかし君ももっと驚くかと思っていたのに全然驚かないんだね?」
「お前はお前だ。例え宇宙人だろうが、何だろうが、お前はモネで、スノウでしかない。」
「!!……そうか。」
私自身を見てくれる彼に本当、惚れそうだよ。
嬉しさを隠さず、笑顔になった私を見てジューダスも嬉しそうに笑った。
「〈赤眼の蜘蛛〉の連中は、私と同郷なんだ。そしてその物語を知っている〈星詠み人〉という訳さ。……仲間ではないけど、同郷の者達がすまないね、君達に害をなす存在になっていて…本当、申し訳ないよ。」
「お前が謝ることは無い。それにお前だって〈赤眼の蜘蛛〉に狙われているんだ。人の事は言えまい?」
「ふふっ、それもそうか。」
君達のことばかり心配していて自分のことを忘れていたよ。なんて言えば彼は怒るだろうな。
「エルピスは、その私の故郷の言葉になる。」
「ナイトメアは?」
「ふふっ、君に言えば怒られそうだけど…。そうだね、ここまで言ったからには言っておこう。ナイトメアは、“悪夢”だ。」
「!!」
「私は、何度だってあの場所に立って君達に仇なす。それは…終わる事の無い悪夢だ。その悪夢をずっと見続ける、という意味さ。」
「……っ、」
途端に悲しそうになる彼に首を横に振る。
良いんだ、君が幸せなら。
「……ある意味、意図せず悪夢になってしまった訳だけどね。」
私が死して、君も死す。
それが悪夢でなくて、なんだと言うのだろう。
本当、困ったものだよ。
「何度でも、か?」
「ん?」
質問の意図を捉えきれなくて聞き返すと、彼は私の腕を掴んだ。
「お前は、何度でも僕の前に…敵として現れるということか?」
「そうだね。前世のあれは何度やろうとも、変わることは無いと思うよ。一つだけ変えられるなら、君と出会わなかったことにすれば、君は__」
「僕は嫌だ。」
私の言葉に被せるように語気を強くそう話す彼は、怒った顔をしていた。
だから怒ると言っただろう?
「僕はお前と出逢わなければ、他人に接する事もしなかった。お前と出逢えたから、強くなれた。この出逢いを無かったことになんて、僕には出来ない…!!」
『僕からも言ったじゃないですか!!!坊ちゃんはモネと出逢って変わったって!!』
「充分に承知しているよ。でもね、君を救う為なら何だってしたいんだ。私の大好きな君の為ならば。」
「っ!」
「私の死で君の死が回避出来るなら、幾らでも捧げよう。あの物悲しい海底洞窟で一人になるのは私だけで充分だ……。君は、これを聞いてどうせ怒るのだろう?」
「怒らないと思うか?」
彼の眉間の皺が大変な事になっているのを見てつい、笑ってしまう。
笑い話じゃないと怒り、私の額へと指を弾いた彼は未だに怒っているようで視線を合わせようとしない。
それに肩を竦め、謝っておくが……どうやら駄目らしい。
「これだけは…君のお願いでも聞けない。私はずっと、永遠に、あの光景を夢見るのさ。」
「……もしもう一度チャンスがあるなら、僕もその時は……」
「それだと意味が無いじゃないか。」
彼の好意に苦笑を滲ませる。
二人で死んだら私が苦労した意味が無いだろう?
しかし彼も引けないのか、更に言葉を重ねようとして私は彼の口に指を当てた。
「さあ、貴重なデートの時間を無駄にしないためにも、少し移動しよう。」
そのまま私は彼の手を取り、雪が降る街中を歩き出す。
しんしんと積もってくる雪を見ながら私は次の店を思い浮かべ笑顔を零した。
きっと、彼は喜んでくれると思うから。