第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どれほど経ったか分からないが、未だに勝負がつかない彼らに愛想を尽かし一度武器屋を訪れた私は、店主から壊れた相棒の説明を受けていた。
「これはもう直らん。諦めるんだな。」
「……そうですか。」
「部品はもう手に入らないものばかりだ。それに、何とかして組み合わせたとしてもまたすぐに破損しちまう。そんなら諦めた方がいい。こいつら武器は使い手の命を預けるもんだ。そんな中途半端なものを持たせる訳にもいくまい。」
「……そうですね。ありがとうございます。」
やはり直らないか。
部品も確かにその当時に無理を言って作ってもらったものばかりで、今やその部品を作っている工場も高齢化の波に乗り引退してしまっている。
だからそれは無理な話だった。
一度そっと相棒に触れる。
冷たいその身をさらけだし、なんだか物寂しそうに感じた。
「お前さんがこれをどこで拾ったかは知らねぇが、この武器もたくさん使われて、沢山愛されて、満足の行く人生だっただろうよ……。」
「そうですかね。なら、良いのですが。」
「あぁ、武器屋兼鍛冶屋の俺がそう言ってるんだ。間違いねぇ…」
「……分かりました。ありがとうございます。」
なんだかそう言われるだけで少し気持ちが楽になる。簡単な自分で出来るメンテナンスはしていたとしても、大切にしてあげられなかったと少し後悔していたから。
店主がそんな私の様子を見てか、徐に話し出した。
「もし、お前さんがこれを儂に預けてくれるならよ。もしかしたら直せるかもしれねぇ。」
「え、だって直せないって……」
「あくまで可能性の話だ。直せない方がデカい。だけど、お前さんを見ていたら死んだあいつを思い浮かべちまって、どうしても直したくなっちまった。頑張ってくれたあいつへの……せめてもの手向けだ。」
「!!」
そういえば、この世界で私は英雄扱いなのだとジューダスは言っていた。
本当にそうなんだと分かるほど、店主の声音は優しかった。
「よろしくお願いします。」
「あぁ、任された。」
再び相棒を武器屋に預け、私は再び交戦しているだろう二人の元へと歩いていった。
そろそろ終わってくれていたらいいんだが…。
名残惜しくチラリともう一度武器屋を見てから再び足を動かした。
次相棒に会う時はどんな武器になっているんだろう。
少しだけ、武器屋の店主に期待をして柄にもなく天に願った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
修羅と呼ばれたこいつと戦闘になってどれほど経っただろう。
いつの間にかスノウが居なくなっていた事に気付かぬまま僕達は手を休めることなく剣を交えていた。
スノウにちょっかいをかけるこいつが、とことん気に食わない。
こいつも思っている事は同じなのか遠慮なしに武器を操り、こちらに攻撃をしてくる。
……そうだ、もう隠せはしないこの気持ちはスノウに対しての恋慕だ。
前世で死ぬ間際に思った事は間違いではなかった。
しかしこの旅の道中、何度その気持ちに蓋をしたことか。
「考え事とは随分と余裕だな。」
「ふん、それは貴様もだろう。」
「クスクス、本当、あんたのその態度が前世から気に食わなかったよ!!」
一際大きく剣を弾かせたこいつに、咄嗟にもう片方の剣で奴の横腹を狙う。
しかし見抜かれていたようで、体を翻しその攻撃も躱される。
「前世、だと?貴様と会った覚えなど…」
「そりゃそうだ。俺は直接的にあんたに会っていないんだからな。…言っただろ?俺やスノウは〈星詠み人〉だと。」
「チッ…、だからその〈星詠み人〉とはなんだ?!」
「…ふっ、スノウも居ないようだから教えてやるよ。俺たち〈星詠み人〉はお前達の未来を知っている特定の人物のことを指す。まぁ、例外は居るがな。」
「僕たちの……未来だと…?」
「それはスノウから聞いていただろ。何をそんなに驚く必要がある?」
僕だけではなく、“僕達”という言葉が気になる。
何故僕達なんだ?
「クスクス。悩め、悩め…!まぁ、お前らの頭では到底想像の付かないことが起きているけどな。」
「チッ、口を開けば煩いやつだ。」
「クスクス!!…しかし、まさか“ジューダス”がこんなに強いとは思ってもみなかったな。」
「……?」
何か違和感のある言葉だ。
まるで他の“ジューダス”という奴を知っているかのような言動。
それはたまに感じるスノウの行動や言動でも同じ。
やはり〈星詠み人〉というだけで似通ってくる物か、と奴に悔しくなる。
こいつは彼女と似通っている物がある。そして通づる物がある。それが酷く羨ましく憎らしい…。
「お前たちは何者なんだ。何故スノウを殺そうとする?」
「クスクス、別にスノウを殺したい訳じゃない。あいつは俺達と同じ貴重な〈星詠み人〉なんだからな。俺たちはお前らを殺すという目的があるだけだ。」
『え?スノウが目的じゃない?』
「僕達を殺す…?では、あの時何故スノウを……」
「それは【アーサー】と【玄】が勝手にやった事だ。俺は知らなかった。」
奴の瞳に嘘は、…ない、か…。
それにしても頭が痛い。新たな単語ばかりが奴の口から飛び出してくる。
「何も、〈赤眼の蜘蛛〉全員が同じ目的を持っている訳じゃない。勘違いしないで貰いたい。」
「〈赤眼の蜘蛛〉…?」
『……なんだか、真実に近づいている気がします!!坊ちゃん、奴から根こそぎ情報を聞き出してやりましょう!!?』
「ふん、やってやるさ!!」
僕は奴の剣に向けて一閃する。
それを軽々と受け止めた奴はニヤリと笑った。
その瞳は先程までのギラついた瞳に変わっていて、狂気の眼差しだ。
戦闘に対してのこの執着、そして玄と呼ばれたあの大斧の男の眼差しも同じだった。
「クスクス、丁度いい。俺の抹殺対象はあんただからな!!」
「ふん、返り討ちにしてやる!!」
抹殺対象…。今の言葉、かなり大事な気がする…!
今までの奴らの行動を思い浮かべると見えてくる気がするが、今集中力を乱す訳にはいかない。
認めたくはないが、こいつの戦闘技量は僕と同じだ。
だからこそ少しの油断が命取りになりかねない。
「クスクス!!どうした、どうした?!!まだまだそんなものじゃないだろ?!!」
「チッ、戦闘狂め…!」
止まない攻撃が見る見るうちに加速していく。こいつ、まだこんな力があったのか…!
一瞬身を引き、晶術を唱える。
「__エアプレッシャー!!」
「!!」
咄嗟の判断で身を引いた奴に隠すことなく舌打ちをする。
その顔は嬉しそうに歪められ、目を見開きこちらを見ている。
……狂っている。
「僕達を殺すことに何の意味がある?」
「さあな?俺は俺の目的を達成するだけだ!!他の奴らの事なんか知ったことじゃねぇ!!」
狂い過ぎて話にならない。
しかし、まだ何か聞き出せないか?
この正気を失っている此奴から何か情報を…!
『!!坊ちゃん、未来のことを聞いてみませんか?!未来を知っていれば多少スノウがやろうとしている事が分かるかもしれません!!』
「こんな狂ってる奴がそんなことを吐くとは思えないが…。」
「クスクス!!ほらよ!!?」
大きな突きを繰り出す奴に横に移動し、攻撃を避ける。
しかしそのまま体を軽々と翻しこちらに剣を一閃させてきたので、両手の剣でそれをカバーする。
「気に食わないな…!スノウに気に入られているあんたが、俺は気に食わないんだよ!!!」
「!!」
加速した剣戟を何度も双剣で凪いでいるが、防戦一方で攻撃に転じることが出来ない。
勝利への活撃を見いだせなければこの勝負に負けてしまうだろう。
それくらい速い剣戟で、憎悪の攻撃だった。
「あんたさえいなければ…!!スノウは〈赤眼の蜘蛛〉の仲間に入った!!!そしてその隣で俺がスノウを守る事が出来た!!!!何故…!!何故あんたなんだ!!!!」
「!!」
「あんたは別にスノウの事をなんとも思ってやしない!!!俺達はあんたがマリアン一筋なんだって知っているからな!!!?」
「っ!!」
こいつ、マリアンの事を……?!
前世で会ったこともないのに…?何故こいつが、こいつらがマリアンの事を…?
『未来を知っている人…〈星詠み人〉の共通点は、もしかしたら…同じ未来を知っていること…?だとしても、なんで坊ちゃんのことばかり…』
「あいつの事を守れもしない癖に!!!出しゃばるんじゃねぇよ!!!」
憎悪の剣戟が更に加速していくと、僕はとにかく防戦一方になった。
目の前の奴の剣から目が離せない!!
「……〈ロストウイルス〉は〈星詠み人〉を全滅させるまで消えやしない…!!所謂神が作った“システム”なんだよ!!!あんたは〈ロストウイルス〉に触れる事はおろか!!それを認識も出来やしねぇ!!!それであいつを守れるか!!!?」
「くっ、」
神が作った“システム”?
システムとはなんだ?〈ロストウイルス〉とは、一体……?!
『もう一押しです!!坊ちゃん!!』
「お前は気楽だな!!」
『だって坊ちゃんが僕を使わないから!!』
「余所見してる暇があんのかよ!!!?」
奴の蹴撃が来るのが分かり咄嗟に大きく後退し息を整えた。
雪国なのに暑く、体から汗が止まらない。
それほどこいつとずっと戦闘しているのだ。
「ラプラス級や、ロスト級の〈ロストウイルス〉が来れば、あいつに命は無い…。人の命なんて灯火みたいなものだ。ふっと息を吹きかければすぐに消えてしまう。俺もあいつも…、死ぬんだよ。」
「させない…。スノウを殺させはしない。」
「だから…、あんたに何が出来る…?〈ロストウイルス〉に触れられないあんたが、あいつにしてやれることなんて何一つない。ただ、指を銜えて見ているだけだ。」
俯いていて表情が分からないが、その声は明らかに震えていた。
しかし、次に顔を上げた時の顔は憎悪の顔だった。
「あんたはただ、あいつらと旅をして世界を救うだけでいい…!!なんならあんたの大好きなマリアンの所にでも行って抱き締めてやれよ?!!あいつと…関わらなくてもいいのに!!!俺らの事情に首を突っ込んで来るなよ!!!?」
「…教えてくれ、その〈ロストウイルス〉のことを、〈赤眼の蜘蛛〉の事を…。何も分からないままじゃあいつを……スノウを救えはしないんだ…!」
「……あくまで、あいつと一緒にいるつもりか?そんなにあいつを苦しめたいか?!!」
酷く歪んだ顔で唇を噛み締め、こちらを睨んでくる奴は今までにないほど感情を露わにしていた。
今まで会った中ではこれほどの激昂は初めてだと思う。
「……はぁ、もうやめだ。こうなったら本気でスノウを攫うしかない。あんたの傍になんか置いておけない。あいつは俺が守る。」
「っ!?させるか!!」
今度はこちらから攻撃する番だった。
こいつを野放しにすれば、スノウが危ない!
「何故だ!!?あんたは別に関係ないだろ?!スノウをなんとも思ってない癖に!!」
「…僕がいつ、あいつに気がないと言った…?」
「は?!あんた、何言ってるんだ?!あんたは母親がわりだったマリアンの事が好きで好きで仕方がないはずだろ?!前世でマリアンを救う為にあんたは世界を裏切ってまでヒューゴのやつに付き従い、海底洞窟で死んだのに!?それでも自分の気持ちに嘘をつくのか?!」
「…は?」
『ま、待ってください…さっきの話……、どういうことですか…?海底洞窟で死んだのは…モネで…、っ!?』
シャルが何かに気づいたように息を呑んで沈黙した。
先程の言葉で分からないほど僕も馬鹿じゃない。
僕は精一杯の力で奴の剣を受け止め、押し遣る。
「……言え。貴様が知っている未来とやらも……全て吐け…!!」
「くっ、何だ急に…!?全部、あんたがやってきた事だろう?!」
奴の言葉に徐々に頭の中の霧が晴れてくる。
確実に真実の核心へ近付いている…!!
あいつが、モネが……、前世でやってきたこと、そして生き返ってまでスノウが何をしたかったのかを…!!
ギリギリと剣での鍔迫り合いをしていると奴の顔が真剣になってくる。
そして僕の剣を押し遣ると呼吸を整え始めるかのように胸に手を置いた。
「はあ…、まだ君達はやってたのか…」
「「!!」」
二人して視線を声の主の方へと遣ると、呆れてはいるがその口は弧を描いているスノウの姿が見えた。
そして咄嗟に僕はスノウを庇うように前に立ち、剣を構えた。
それを疎んだ瞳で見遣る修羅。
「……?」
「スノウ、ひとつ聞いていいか?」
「??どうぞ?」
「前世で僕はヒューゴに付き従い、海底洞窟で死んだ。……それは本当の事か?」
「っ!?修羅?!!」
「??……どういう事だ?」
訝しげな顔の修羅に、息を呑んだスノウ。
なるほど、前世でのその出来事は〈星詠み人〉の中では有名らしい。
背後で庇っているスノウが動いたのか、雪を踏む音がした。
それが少しだけ遠ざかったのが聞こえ、彼女が後退しているのが分かった。
「どこまで言った?!修羅!!」
「??…こいつが前世でマリアンの為に世界を裏切り、ヒューゴに付き従い、海底洞窟で死んだ、と。……違うのか?」
酷く焦った様子の彼女で確信を得た。
なるほど、僕の災難はまさかそんな形で終わっていたのか…。だから彼女はそのままあの海底洞窟に残って死を受けいれた…!!
「っ、ジューダス、違うんだ!!それは……!」
「それは……、なんだ?スノウ。」
「っ」
言い淀む彼女は、酷く困惑しているのか呼吸が乱れている。
それを見て修羅が目を細めた。
「……スノウ、俺と来い。あんたのその様子からすると、もうこいつの近くには居られないだろ?」
「……その、ようだね……」
「っ!」
スノウのその言葉に僕は背後を振り返り、後退りしている彼女を抱きしめた。
逃げようとする彼女を腕の力だけで押さえ込む。
未だにじたばたしている彼女を容易に抑え込めた事に、こんな時だが、やはり女性なのだなと感じさせられた。
「っジューダス…!」
「離さない…!離すものか…!!僕はお前が…!」
「!?ジューダス、後ろだ!!」
彼女の焦燥の声音で片方の手だけで剣を取り、奴の剣を受け止め、そして睨んだ。
それは奴も同じでギリギリとこちらに力を入れながらもこちらを睨んでいる。
一歩も引かない両者だったが、奴の言葉で僕は抱き締めている腕の力を更に強めた。
「今の内に逃げろ、スノウ!!」
「!!」
「っ」
逃げられないように強くした片腕の力でも彼女の力は微々たるものだった。
それを見て奴が舌打ちをしてこちらを睨んだ。
「ジューダス。その手を離せ。」
「断る。僕は僕のしたいことをする。僕はこいつを離さない。絶対に。そして、こいつを何者からも守る。」
「っ!?」
目を見張った彼女の動きが止まった。
しかし納得のいかない修羅は、剣に力を込めていく。
「あんたがなんと言おうとスノウは守れない。俺ならそれが出来る。だから手を引け、ジューダス。」
「……前世で守れなかった分を…今世で挽回する!!彼女は渡さない!!」
「チッ!」
鍔迫り合いも僕の方が僅かに優勢で、奴が大きく後退した。
そっと離した彼女は逃げはしなかったが、その姿は何処か、弱々しく感じた。
その揺らぐ海色の瞳をしかと見て、肩に手を置く。
「逃げないでくれ…。お前を追い詰める様なことはしない。だから、僕の傍にいてくれないか。モネ」
「!!」
前世での彼女の名前を呼べば、彼女はその瞳を大きく見開き、少しだけ目を細めると微笑を湛えた。
「……その言葉……本当に信じるよ?リオン」
「あぁ、約束しよう。……それに僕らはまだデートの途中なんだろう?」
「!!……ふふっ、君がまさか私とのデートを楽しみにしていたなんて思わないじゃないか…。」
「ふん、勝手に言っていろ……」
照れ隠しでぶっきらぼうにそう言ってしまったが、彼女にはそれで伝わったようでその顔は次第に微笑から本物の笑顔へと変わっていく。
そして目を伏せるといつもの芯のある瞳で修羅を見た。
「ごめん、修羅。」
「何故…?俺なら…、〈赤眼の蜘蛛〉ならあんたを守ってやれる。でもそいつらではあんたを守る事なんて出来やしない。何故そいつらを選ぶ?」
「何故だろうね?私にも分からないんだ。」
「なら!」
「分からないけど、一つだけ思ったことがあるんだ。“彼らと一緒なら何でも出来そうなんだ”って。」
『「!!」』
その彼女の言葉に心が震えた。
漸く彼女が自分の心に素直になってきている。
そしてそれは僕らにとって、とても良い方だということ。
「……あんた、ゲームのし過ぎだよ…」
「ふふっ、自分でもそう思うよ。でも、不思議と彼らといて自然と思ったんだ。そして、“彼らと共に在りたい”。私の……今の素直な気持ちだ。」
『スノウーーー!!!!!』
「ふふっ、シャルティエ大歓喜だね?」
『あだりまえでずーーー!!!!漸く僕たちの願いが叶っだんだっでーーー!!』
「何を言っているのか分からないよ、シャルティエ。……そういう事だ、修羅。今度また〈ロストウイルス〉について教えてくれ。今はまだ彼とのデート中でね?」
「……今は物語がどこら辺か分からないが、今度はホープタウンでデートでもするか?あそこ、何も無いぞ?」
「いや、ホープタウンは勘弁してくれ…、私が耐えられない…。暑いのは苦手なんだ……」
途端に元気を無くすスノウを見て、目を瞬かせ笑った修羅。
……そうしていれば年相応に見えるものを。
しかし、デートとは聞き捨てならない。彼女を他のやつとデートさせる気など無い。
僕がムッとしたのを見て、ニヤリと笑った修羅がスノウを見て笑う。
「言っただろ?エスコートは得意だってな。俺に任せておけ、スノウ。」
「……あー、…分かった……」
「…スノウ、僕を置いて他の男とデートする気か」
「…?あ、なるほど、そういうことか。ジューダスも来たいのか?」
それを聞いて流石に僕達は呆れてしまう。
僕達と言ったが、それは奴も含まれている。
手を額に当て、マジか……と呟く修羅を見て、非常に遺憾ではあるが、僕も同じ気持ちだった。
『…これは、強敵ですね…坊ちゃん…』
「…あぁ、先が思いやられる…」
「???」
首を傾げた彼女に僕達は苦笑をした。
最後に奴がスノウを見て目を細めた。
「あんたがそう言うなら暫くは手を引く。……だが、もし無理だと思ったら俺を頼ってこい。いいな?スノウ」
「あぁ、そうさせてもらうよ、修羅。……またあの店に連れてってくれたら嬉しい。」
「勿論だ。また二人で行こう、スノウ」
嬉しそうに笑い、一瞬で去った奴を睨みつける。
何が二人で行こう、だ。そんなことさせはしない。
しかし彼女は僕のそんな気持ちを知る由もないので、修羅がいなくなった場所を嬉しそうに見ていたのに悔しくなる。
「さて、デートの続きと行こうか?レディ?」
「…僕の片腕でも逃げられなかった奴がよく言う…」
「ふふっ、耳が痛いね。まさか君があんなに力が強いなんて思わなかったよ。」
「ふん、お前みたいな細身の奴に負ける気は無い。」
「言ったね?よし、今日から頑張って膂力を上げていこう。」
「…やめとけ、その細腕が折れるぞ。」
「君と修羅だけだよ、この状態の私を女性扱いするのは。」
「…あいつの名前なんて出すな。」
「??…まぁ、分かった。」
その後僕の手を取ると街に戻る彼女は今までよりは晴れやかな顔をしていた。
それに気付いた僕は、人知れずほくそ笑んだのだった。