第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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暫くしてからというもの、彼からの勧誘が酷かった。
彼がファンダリアへ任務がある時は必ず向こうからやって来てはセインガルドへと勧誘してくるので、その場に居た他の兵士達が悲鳴を上げ失神していく。
それをお構いなしに私を連れて行こうとするものだから、ファンダリア兵と彼が一時揉めた事もあったくらいだ。
「いい加減、君も諦めたらどうかな?リオン」
「お前こそ、いい加減諦めて僕についてきたらいいだろう?」
「…私にはやらなければならない事があるからね。何処にも行きはしないし、所属もしないよ」
「何度もその話は聞いた。それは一体なんだ?」
「…とある人を救いたいんだ」
「なら僕も手伝ってやる。それなら気兼ねなくセインガルドへと来れるだろう?」
「うーん、ちょっと違うな?今は手の届かない人を助けたいんだ。」
_未来の君を、ね?
「どんな奴だ、それは…」
「はは、まぁ、大事な人と言っておこうかな?」
「…意外だな。シャルから博愛主義者と聞いていたから、てっきりそういう奴はいないと思っていた。」
「うーん、片想いって奴だけどね?」
推しですから!
報われる事はない事は百も承知。それでも、生きてて欲しい。
「…そんなに大事な奴なのか?」
「そうだね。命を賭しても守りたい、かな。」
「ふん、そうか。」
何故か少しだけ悲しそうな顔をした彼を不思議に思い、首を傾げる。
彼が他人に対してこんな顔を見せるなんて。
もしかして寂しいと思ってくれているのか?
「モネ。坊ちゃんはモネと友達になりたいからこんなに必死に勧誘しているんですよ!」
「は、」
「シャル!!」
制裁を受けるシャルティエの声がいやに遠く感じる。
あの彼が…?
友達が欲しいと…?
酷く嬉しく思う。
だって他人を拒絶し、リメイク盤ではスタンとの友情が描かれていたもののそれは叶う事が無かったし、オリジナル盤での彼が漸く仲間を頼る場面と言えば、彼が死んでゾンビとして生き返らされていた時だった。
そんな彼が…私と友達になりたいなんて…。
オタクやってきて、良かったーー!!
「何言ってるのかな?!私達はもう友達だろう?それともそう思っていたのは私だけか?」
「い、いや……その…」
「良かったですね!坊ちゃん!」
赤面する彼の肩に手を回すと、戸惑いはしたものの何処か嬉しそうではあった。
しかしプライドの高い彼のことだから、自分を負かした奴とは絶対つるまないと思っていただけになんだか拍子抜けだ。
だからこそ、私は余計に君を助けたいんだ。
「じゃあ、モネ。セインガルドにきますよね?!」
「いや、それはお断りさせてもらうよ。」
「何故だ?」
「言っただろう?やらなければならないことがあるって。」
「だから手伝ってやると…」
「ううん、いいんだ。…今はまだ手が届かないから…」
「難しい奴だな、お前は」
「はは、褒め言葉として貰っておくよ。」
「モネ様!任務ですよー!」
「分かったよ!今行く!!」
「…いつも不思議だが、何処にも所属してないにも関わらず何故ファンダリアの国の任務なんてこなすんだ」
「まぁ、色々あってね?さて、私は行くよ。リオンも任務だろう?」
「…まぁ恐らく一緒の任務だろうがな?」
「へ、」
彼がそう言ってほくそ笑むと、手をヒラヒラさせ如何にも早く聞いてこいと言わんばかりだ。
分からないがとにかく聞いてくるか。
「モネ様、今回の任務はセインガルドと合同の任務でして。」
「あぁ、彼から何となく聞いてたけどどう言うことかな?」
「どうもカルバレイス大陸に棲息する魔物を一掃して欲しいと依頼があったみたいでして、兵を連れてそれの掃討へ行きます。各国が集まったのは…」
「…それほど被害が甚大の為、か?」
「そうです。被害者はカルバレイス大陸の者だけでなく、各国の要人や観光客など様々だそうで…」
「分かった、編成を行おう。兵士達を集めてくれないか?」
「了解であります!」
一度リオンの所へ戻ると彼は腕を組み、行き交う人を眺めていたがその顔は穏やかだ。
友達効果ってやつかな…?
私と友達になれて嬉しいとかだったら、今すぐ死ねる。うん、間違いない。
「聞いて来たか?」
「魔物の名前は聞きそびれたけどね」
「なんだ、まだ途中か?」
「いや、とにかく兵士の編成を行う。それで一旦戻って来たんだ。」
「…お前、権限ないのに兵士の編成なんてしてるのか?」
「…そう言われてみればおかしいね?」
リオンから指摘され、確かに…と納得した。
集まってきた兵士を見て苦笑いする。
「一つ聞きたいんだけど、いいかな?」
「はっ!何でありましょう!」
「私が兵士の編成を行うことについて皆、どう思ってるのかな?」
「「「「安心して任せられます!」」」」
「お、おう…。ありがとう」
「モネ、慕われてるんですね!」
「あぁ、あいつの人柄もあるんだろうがな…」
一人ひとりの兵士を見て肩を叩き、前に出させていくのをリオンが不思議そうに見遣る。
「さっきのがパターンAの兵士、次がパターンBだ。そうだ、君。魔物は何がいるか聞いているかい?」
「サンドワームやバジリスクが主軸となっていたはずです!」
「なるほど…、じゃあ君と君はAチームに入ってくれ」
「「はっ!!」」
「モネ、どうやって決めてるんでしょう?まさか一人ひとり個々の能力を把握しているとか?!」
「…まさか…」
「でも、合同演習の時のファンダリア兵士のバランスは確かに見事でした。もしかしたら彼はそういう能力に長けているのかもしれませんね!!」
「はは、お褒めに預かり光栄だな」
私が戻るとそう言う話をしていたものだから、恥ずかしくなる。
申し訳ないがそんな能力はない。
一人ひとりのステータスを確認させてもらっているのだ。
だからこそ細かいグループ分けが可能なのだ。
「さて、私たちも行こうか」
「あぁ、今回は大捕物になりそうだな。」
「バジリスク、か…。厄介だな…。回復は使えるが…どこまで支援出来るか…」
バジリスクやコカトリスの類いは石化の状態異常を喰らわせてくるから厄介だ。
「珍しく弱気だな?」
「石化は怖いからね。ましてや自分が編成した兵士達がそれに罹ってしまったと思ったら…、怖くて足が竦むよ。」
「それはまた意外だな?お前なら自分に任せろと言わんばかりだろうに」
「はは、これでもバジリスクは初めてなんだ。だから怖いって言うのもあるかな。」
そう言った私にリオンがそっと肩を叩いた。
まるで大丈夫だ、と言ってくれている様で、それにとてつもない元気が貰えた。
「モネは状態異常回復技を持っているんですか?」
「そうだね。リカバー、ディスペル、ディスペルキュア…様々な技を習得しているよ。」
「聞いた事がない技が沢山です!」
「お前、詠唱なしか?」
「無言で使用する事が多いかな?挙動を読まれたくはないしね。」
「…益々敵にしたくない奴だな。」
肩を竦める彼に声に出して笑った。
あぁ、彼とこうして友達としてお話出来るなんて幸せだ。
前世の自分に言ってやりたいよ。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.
「暑い……」
「我慢しろ。それにカルバレイスの暑さはこんなもんじゃないぞ。」
「え、まだ暑くなるとか?」
「まだ朝方の方だからな。日中の気温はこれ以上だ。」
「……もう帰る」
やはり暑いのはダメだ、慣れない。
前世で自身が使用していたパソコンが熱くなり、必然的に部屋の温度も暑くなったのを思い出す。
あぁ、私は暑さは苦手だ。
「帰るな。兵士を置いて逃げる気か」
「くっ……!それは出来ない…けど帰りたい!」
寒さはファンダリアで慣れている。だが暑さは論外だ!!
この暑さはファンダリア兵士には堪える!!
兵士たちを見るとその場に倒れていたり、項垂れていたりと案の定バテているのが見える。
これでは編成した意味が無い。
「皆、帰っていい。私が全てを引き受ける」
「いえ!そういう訳には!」
「いや、それよりこの暑さに耐えかねて死傷者が出るのは私が許せない。…分かってくれるね?」
「……」
兵士達はお互いの顔を見合わせる。
どうしたらいいか、という顔ぶりだが…。
「私が良いと言っているんだ。大丈夫だ。私の強さは知っているだろう?」
「…ですが」
「じゃあ君が上官だったとしよう。死傷者が出ると分かっている戦場に置いておけるかい?」
「それは…」
「なら決まりだ。今すぐ帰るんだ」
「モネ様だって辛い思いをしているのに」
「大丈夫だ、一時セインガルド兵士たちに紛れて暴れてくるさ」
それを聞いたファンダリア兵士達が一様に立ち上がり闘志を燃やした。
熱いのが伝わってくるほどに。
「セインガルド兵士たちにモネ様は任せられません!!」
「モネ様はファンダリアの大切な方です!」
「セインガルドにくれてやる人材ではありません!」
「「「「ご指示を!モネ様!!」」」」
「…弱ったなぁ」
火に油だったか。
それを複雑な顔で見ていたリオンが鼻を鳴らす。
すまないね、リオン。付き合わせてしまって。
心の中で謝りながらどうしたものかと思っていたが、ここで妙案を思いつく。
「皆、私についてきてくれるんだね?」
「「「「はっ!」」」」
「どんな事があっても…?」
「「「「もちろんであります!」」」」
「…ははっ。」
笑った私を狂ったと勘違いしたか、リオンが思いっきり顔を歪ませた。
「おい、何をする気だ」
「こうするんだよ?」
自身の得物を構え、一瞬で銃へと形を変える。
そしてその銃口をファンダリア兵士へと向けた。
それにはその場にいた全員が驚きの顔で私を見る。
「モネ様?!」
「どんなことでもついてくるんだろう?だったら少々の痛みは我慢出来るよね?」
「「「「は…、はっ!!もちろんであります!」」」」
「じゃあ、覚悟を決めるんだね!!」
私は思いっきりトリガーを引き寸分狂わず次々と兵士達を打っていく。
それをリオンやセインガルド兵士たちが唖然として見ていく。
全員打ち終わった後、仕事が終わったと言わんばかりに額の汗を拭う。
「ふぅ…」
「お前!味方を攻撃してどうする?!暑さで気が狂ったか?!!」
リオンに肩をガクガクと揺さぶられ、慌てて兵士の方へ指を差す。
「あ、あれ…?暑くない…?」
「あ、本当だ。暑くない」
次々と感想を口にする兵士たちにリオンも唖然として見遣り、私を見た。
「これで、暑さによるデメリットは減ったわけだ。後は兵士たちの腕次第だよ。」
「お前…、前もって説明してからやってやれ…」
疲弊した顔で言われてファンダリア兵士を見ると、一様に大きく頷かれた。
頭を掻きながら謝っておくと、セインガルド兵士たちからもやって欲しいと群がられてしまったので、一人一人に撃ち込んでやる。
「モネ、大丈夫ですか?晶術使いすぎでは?」
「まぁ、これくらいならまだまだ大丈夫だろう。」
「無理はするな」
「分かってるよ、レディ?」
「お前…ここで沈んでおくか…?バジリスク共が群がって石化させてくれるだろうな。」
「ごめんごめん!」
笑いながら謝ると、仕方ないと笑いながら溜め息を吐かれた。
リオンもやっとく?と銃を構えると彼に迷いが見え、遠慮なくその額へと銃口を突きつけた後トリガーを引いた。
僅かに後退した後、凄まじい勢いで睨みつけられた。
恐らくあれは“やるなら事前に言ってからにしろ”だ。
「やるなら事前に言ってからにしろ!!!」
「ほらね。」
「何がほらね、だ!!分かっているならやるな!」
怒られてしまったが、可愛いので良しとしよう。
和んでしまっていたが、次の瞬間兵士の悲鳴により強制的に意識はそちらに向かう。
もう出たのか、バジリスク軍団は。
「総員、迎え撃とう!チーム毎に別れ、各個撃破。絶対にチーム内で分裂しないように!」
「「「「はっ!」」」」
リオンの方も指示を出しているのが窺える。
さて、リオンより先に倒してしまいますかね。
「っ(サイクロン!)」
無言で魔法を使うと狙った場所へ大嵐が先陣を切る。空中に飛ばされた無惨な魔物達を狙い撃ち落としていくと地面までの所でレンズへと変わっていき嵐の後は何も残らない。
それに満足して笑うと、後ろから鼻で笑われた。
「満足するのが早いぞ。まだまだ魔物は多い」
「分かってるって。」
駆け出す彼の後ろ姿を見て一度自国の兵士達を見遣ると、上手く連携が行っているようで問題は無さそうだ。
全体的に見ながら適度に回復をかけて行かないと危なそうだ。
「おい!!ボーッとしてないで、手伝え!」
「モネ!坊ちゃんが手伝って欲しいそうです!!」
「僕はそんなこと言ってない!!」
ケンカが始まる向こう側に苦笑しながら駆け寄る。
相変わらず2人は仲が良い。
彼の援護に回るように攻撃すると漸く彼の口からお小言が消える。
互いに兵士達に気を配らないといけない分、足りない分は補う。
「っディスペル!」
範囲状態異常回復技、ディスペル。
石化や麻痺を見逃さず回復させなければ形成は一気に逆転されるだろう。
「ありがとうございます!モネ様!」
「モネが詠唱を唱えるなんて珍しいですね。」
「緊急時は声に出してしまうものさ。」
「モネ、集中しろ!!」
なんだかんだ初めて呼ばれた名前はアッサリしていたが、まぁ、呼ばれただけマシか。
辺りの敵を一掃し、すぐに次の敵へ。
暑さがない分は、やはりやりやすいのか着々と魔物の一斉掃除が終わっていく。
「ディスペルキュア」
「ありがとうございます!」
そちらに気を取られ背後にいる敵に一歩反応遅れるとリオンがすぐさま反応して剣を閃かせる。
「ありがとう、リオン!」
「ふん。貸し一つだ。」
「分かったよ。今度なにか奢るよ。」
「忘れるなよ?」
ほくそ笑みながら敵に向かうリオンに肩を竦め、自分も敵に向かう。
なんだかんだ彼といい連携が取れている気がした。
それがとても嬉しい。
あの手この手で敵を倒した私達は自然とハイタッチを交わしていた。
「相変わらず変な戦い方をするな、お前は。援護するこちらの身にもなって欲しいものだ。」
「そんなこと言うけど、いつも完璧なタイミングだったじゃないか。」
「ふん、当然だ。大体、一度お前に負けただけだ。戦略を知っていればお前など一捻りなんだぞ。」
「本当かなあ?私も負ける気はしないけどね?」
「…やってみるか?」
「ははっ、私が勝つと思うけど凹まないでくれよ?」
「言ってろ。その吠え面、泣き面に変えてやる。」
「2人共…元気ですね…、魔物討伐の後なのに…」
周りの兵士がやってきて、どちらが勝つか賭けを行っていたのを見て負ける訳にはいかない。
自身の得物の調子を確かめ、構えると向こうも準備は整っているようで律儀にも腕組みをして待っていた。
「ふん。やるぞ」
「私と勝負した事、後悔するんだね!」
先手必勝。
いつぞやの合同演習の時と一緒で、彼に剣で勝てる訳がない。
ならば先手を撃たせてもらおう。
彼の得意属性は地属性、闇属性。
ならば、風属性、光属性で迎え撃つのみ!
「…(ホーリーランス!!)」
「ふっ(やはり弱点をついてくるか……)」
魔法の挙動が無いにも関わらず軽々と避けられ、僅かに目を見張るがすぐに笑顔になる。
そうでなくては!
すぐに距離を詰めた彼から離れようとするが、彼の得意とする剣術での撃ち合いになり、確実にこちらの不利。
しかし笑顔を絶やさない私に、彼が舌打ちをする。
その瞬間風属性魔法を打ち込む。
「クロスブレイド!!」
「っ!!」
珍しく詠唱した私に対し、咄嗟にその場から大きく後退した彼は次の瞬間、しまったと顔を歪ませた。
銃口の位置良し。
狙うは身体!!!
パァン!!
形容し難い音が鳴り響く。
早い軌道のそれをなんとか避けられ、次々と容赦無く撃ち込んでいく。
「どうしたんだい?逃げるだけかな!?」
「チッ。ほざけっ!今にお前を斬ってくれるわ!!」
外野がとても盛り上がっているこの試合だが、一つ忘れていたことがある。
私の魔法はもちろん効果時間というものがある。
最初に暑くならないように、とかけてやった魔法が切れそうなことをすっかり忘れていた。
それなのにこんな暑い中砂漠地帯で撃ち合いをしていたら…。
バタ
私もだが例に漏れずファンダリア兵士達が倒れていく。
急なそれにリオンもセインガルド兵士も驚き、近寄る。
「お、おい?!どうした?!」
「…暑い………」
「はあ?」
「もうだめ…、先に帰る……」
折角の撃ち合いだが、これはとてもじゃないが暑くてやってられない。
匍匐前進よろしく、腕の力だけで先に進もうとしたがもう無理だ。
動かなくなった私を見て溜め息をついたあと、リオンが担ぎあげる。
「ぐぇ」
「これくらい我慢しろ。というよりお前、ちゃんと食べてるのか?僕も人の事は言えないが、男でこの体重は無いぞ。」
「……」
「物言わぬ屍になったか…」
「勝手に…殺すな……」
「なんだ、生きていたか。」
悠々と歩いていく彼に感謝しつつ、この暑さにやられ目の前がぼやける。
「リオン、ごめん。ちょ、もう…無理」
「はぁ…。寝てろ」
溜め息を吐かれ、船へと乗せられ船室の一室に寝かせられた。行き先が違う船なのにそのまま乗ってくれている彼に感謝する。
「リオン、もう、いいよ?……悪いよ」
「黙って水でも飲んでいろ。脱水だぞ、お前。」
「砂漠地帯は怖い……、もう行かないと今決めた」
「どの口がほざいてる?」
「この口」
投げ渡された水をなんとか飲みながら、悪態をついてみると思ったより元気そうだな、と安堵の顔を見せてくれた。
「続きは今度やろうか。」
「あのままじゃ、勝敗がつかないからな。」
お互いの口から次の約束を取り付ける。
恐らくだがリオンも嬉しいのだろう。口角が僅かに上がっているし、優しい顔つきをしている。
「次はファンダリアでやろうよ。」
「馬鹿言え。それではお前に有利だろう?」
「リオンは自分が負けると思ってるんだ?」
「くっ…!!」
一枚こちらが上手だった様で暫く黙り込んだのだが、しかしニヤリと笑われ嫌な予感がする。
「ファンダリアでやってもいいが、次はカルバレイスでやらないとな?あそこでの勝敗はまだついていないぞ?」
「げ…。あそこは勘弁してほしいな…」
「お前が負けるからな。」
「ぅぐ…。卑怯者め…」
「先に言い出したのはお前の方だぞ。」
「ぐ…、何も言い返せない…!」
やはり口では彼の方が何枚も上手のようだ。
ここは公平にセインガルドでしようと、話をつけた。
ずっと思い描いていた机上の空論。
この世界に転生出来て、それが現実となって。
こうしてリオンとも友達になれて。
一緒に任務に出かけたり、一緒に稽古をしたり、合同演習では共に真剣にやり合ったり…。
私からは何も言うことはない。
束の間の幸せな時間だった。
だからこそ…
友達になれたからこそ……
君を助けたかったんだ。
こんな友で…ごめんね、リオン。
彼がファンダリアへ任務がある時は必ず向こうからやって来てはセインガルドへと勧誘してくるので、その場に居た他の兵士達が悲鳴を上げ失神していく。
それをお構いなしに私を連れて行こうとするものだから、ファンダリア兵と彼が一時揉めた事もあったくらいだ。
「いい加減、君も諦めたらどうかな?リオン」
「お前こそ、いい加減諦めて僕についてきたらいいだろう?」
「…私にはやらなければならない事があるからね。何処にも行きはしないし、所属もしないよ」
「何度もその話は聞いた。それは一体なんだ?」
「…とある人を救いたいんだ」
「なら僕も手伝ってやる。それなら気兼ねなくセインガルドへと来れるだろう?」
「うーん、ちょっと違うな?今は手の届かない人を助けたいんだ。」
_未来の君を、ね?
「どんな奴だ、それは…」
「はは、まぁ、大事な人と言っておこうかな?」
「…意外だな。シャルから博愛主義者と聞いていたから、てっきりそういう奴はいないと思っていた。」
「うーん、片想いって奴だけどね?」
推しですから!
報われる事はない事は百も承知。それでも、生きてて欲しい。
「…そんなに大事な奴なのか?」
「そうだね。命を賭しても守りたい、かな。」
「ふん、そうか。」
何故か少しだけ悲しそうな顔をした彼を不思議に思い、首を傾げる。
彼が他人に対してこんな顔を見せるなんて。
もしかして寂しいと思ってくれているのか?
「モネ。坊ちゃんはモネと友達になりたいからこんなに必死に勧誘しているんですよ!」
「は、」
「シャル!!」
制裁を受けるシャルティエの声がいやに遠く感じる。
あの彼が…?
友達が欲しいと…?
酷く嬉しく思う。
だって他人を拒絶し、リメイク盤ではスタンとの友情が描かれていたもののそれは叶う事が無かったし、オリジナル盤での彼が漸く仲間を頼る場面と言えば、彼が死んでゾンビとして生き返らされていた時だった。
そんな彼が…私と友達になりたいなんて…。
オタクやってきて、良かったーー!!
「何言ってるのかな?!私達はもう友達だろう?それともそう思っていたのは私だけか?」
「い、いや……その…」
「良かったですね!坊ちゃん!」
赤面する彼の肩に手を回すと、戸惑いはしたものの何処か嬉しそうではあった。
しかしプライドの高い彼のことだから、自分を負かした奴とは絶対つるまないと思っていただけになんだか拍子抜けだ。
だからこそ、私は余計に君を助けたいんだ。
「じゃあ、モネ。セインガルドにきますよね?!」
「いや、それはお断りさせてもらうよ。」
「何故だ?」
「言っただろう?やらなければならないことがあるって。」
「だから手伝ってやると…」
「ううん、いいんだ。…今はまだ手が届かないから…」
「難しい奴だな、お前は」
「はは、褒め言葉として貰っておくよ。」
「モネ様!任務ですよー!」
「分かったよ!今行く!!」
「…いつも不思議だが、何処にも所属してないにも関わらず何故ファンダリアの国の任務なんてこなすんだ」
「まぁ、色々あってね?さて、私は行くよ。リオンも任務だろう?」
「…まぁ恐らく一緒の任務だろうがな?」
「へ、」
彼がそう言ってほくそ笑むと、手をヒラヒラさせ如何にも早く聞いてこいと言わんばかりだ。
分からないがとにかく聞いてくるか。
「モネ様、今回の任務はセインガルドと合同の任務でして。」
「あぁ、彼から何となく聞いてたけどどう言うことかな?」
「どうもカルバレイス大陸に棲息する魔物を一掃して欲しいと依頼があったみたいでして、兵を連れてそれの掃討へ行きます。各国が集まったのは…」
「…それほど被害が甚大の為、か?」
「そうです。被害者はカルバレイス大陸の者だけでなく、各国の要人や観光客など様々だそうで…」
「分かった、編成を行おう。兵士達を集めてくれないか?」
「了解であります!」
一度リオンの所へ戻ると彼は腕を組み、行き交う人を眺めていたがその顔は穏やかだ。
友達効果ってやつかな…?
私と友達になれて嬉しいとかだったら、今すぐ死ねる。うん、間違いない。
「聞いて来たか?」
「魔物の名前は聞きそびれたけどね」
「なんだ、まだ途中か?」
「いや、とにかく兵士の編成を行う。それで一旦戻って来たんだ。」
「…お前、権限ないのに兵士の編成なんてしてるのか?」
「…そう言われてみればおかしいね?」
リオンから指摘され、確かに…と納得した。
集まってきた兵士を見て苦笑いする。
「一つ聞きたいんだけど、いいかな?」
「はっ!何でありましょう!」
「私が兵士の編成を行うことについて皆、どう思ってるのかな?」
「「「「安心して任せられます!」」」」
「お、おう…。ありがとう」
「モネ、慕われてるんですね!」
「あぁ、あいつの人柄もあるんだろうがな…」
一人ひとりの兵士を見て肩を叩き、前に出させていくのをリオンが不思議そうに見遣る。
「さっきのがパターンAの兵士、次がパターンBだ。そうだ、君。魔物は何がいるか聞いているかい?」
「サンドワームやバジリスクが主軸となっていたはずです!」
「なるほど…、じゃあ君と君はAチームに入ってくれ」
「「はっ!!」」
「モネ、どうやって決めてるんでしょう?まさか一人ひとり個々の能力を把握しているとか?!」
「…まさか…」
「でも、合同演習の時のファンダリア兵士のバランスは確かに見事でした。もしかしたら彼はそういう能力に長けているのかもしれませんね!!」
「はは、お褒めに預かり光栄だな」
私が戻るとそう言う話をしていたものだから、恥ずかしくなる。
申し訳ないがそんな能力はない。
一人ひとりのステータスを確認させてもらっているのだ。
だからこそ細かいグループ分けが可能なのだ。
「さて、私たちも行こうか」
「あぁ、今回は大捕物になりそうだな。」
「バジリスク、か…。厄介だな…。回復は使えるが…どこまで支援出来るか…」
バジリスクやコカトリスの類いは石化の状態異常を喰らわせてくるから厄介だ。
「珍しく弱気だな?」
「石化は怖いからね。ましてや自分が編成した兵士達がそれに罹ってしまったと思ったら…、怖くて足が竦むよ。」
「それはまた意外だな?お前なら自分に任せろと言わんばかりだろうに」
「はは、これでもバジリスクは初めてなんだ。だから怖いって言うのもあるかな。」
そう言った私にリオンがそっと肩を叩いた。
まるで大丈夫だ、と言ってくれている様で、それにとてつもない元気が貰えた。
「モネは状態異常回復技を持っているんですか?」
「そうだね。リカバー、ディスペル、ディスペルキュア…様々な技を習得しているよ。」
「聞いた事がない技が沢山です!」
「お前、詠唱なしか?」
「無言で使用する事が多いかな?挙動を読まれたくはないしね。」
「…益々敵にしたくない奴だな。」
肩を竦める彼に声に出して笑った。
あぁ、彼とこうして友達としてお話出来るなんて幸せだ。
前世の自分に言ってやりたいよ。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.
「暑い……」
「我慢しろ。それにカルバレイスの暑さはこんなもんじゃないぞ。」
「え、まだ暑くなるとか?」
「まだ朝方の方だからな。日中の気温はこれ以上だ。」
「……もう帰る」
やはり暑いのはダメだ、慣れない。
前世で自身が使用していたパソコンが熱くなり、必然的に部屋の温度も暑くなったのを思い出す。
あぁ、私は暑さは苦手だ。
「帰るな。兵士を置いて逃げる気か」
「くっ……!それは出来ない…けど帰りたい!」
寒さはファンダリアで慣れている。だが暑さは論外だ!!
この暑さはファンダリア兵士には堪える!!
兵士たちを見るとその場に倒れていたり、項垂れていたりと案の定バテているのが見える。
これでは編成した意味が無い。
「皆、帰っていい。私が全てを引き受ける」
「いえ!そういう訳には!」
「いや、それよりこの暑さに耐えかねて死傷者が出るのは私が許せない。…分かってくれるね?」
「……」
兵士達はお互いの顔を見合わせる。
どうしたらいいか、という顔ぶりだが…。
「私が良いと言っているんだ。大丈夫だ。私の強さは知っているだろう?」
「…ですが」
「じゃあ君が上官だったとしよう。死傷者が出ると分かっている戦場に置いておけるかい?」
「それは…」
「なら決まりだ。今すぐ帰るんだ」
「モネ様だって辛い思いをしているのに」
「大丈夫だ、一時セインガルド兵士たちに紛れて暴れてくるさ」
それを聞いたファンダリア兵士達が一様に立ち上がり闘志を燃やした。
熱いのが伝わってくるほどに。
「セインガルド兵士たちにモネ様は任せられません!!」
「モネ様はファンダリアの大切な方です!」
「セインガルドにくれてやる人材ではありません!」
「「「「ご指示を!モネ様!!」」」」
「…弱ったなぁ」
火に油だったか。
それを複雑な顔で見ていたリオンが鼻を鳴らす。
すまないね、リオン。付き合わせてしまって。
心の中で謝りながらどうしたものかと思っていたが、ここで妙案を思いつく。
「皆、私についてきてくれるんだね?」
「「「「はっ!」」」」
「どんな事があっても…?」
「「「「もちろんであります!」」」」
「…ははっ。」
笑った私を狂ったと勘違いしたか、リオンが思いっきり顔を歪ませた。
「おい、何をする気だ」
「こうするんだよ?」
自身の得物を構え、一瞬で銃へと形を変える。
そしてその銃口をファンダリア兵士へと向けた。
それにはその場にいた全員が驚きの顔で私を見る。
「モネ様?!」
「どんなことでもついてくるんだろう?だったら少々の痛みは我慢出来るよね?」
「「「「は…、はっ!!もちろんであります!」」」」
「じゃあ、覚悟を決めるんだね!!」
私は思いっきりトリガーを引き寸分狂わず次々と兵士達を打っていく。
それをリオンやセインガルド兵士たちが唖然として見ていく。
全員打ち終わった後、仕事が終わったと言わんばかりに額の汗を拭う。
「ふぅ…」
「お前!味方を攻撃してどうする?!暑さで気が狂ったか?!!」
リオンに肩をガクガクと揺さぶられ、慌てて兵士の方へ指を差す。
「あ、あれ…?暑くない…?」
「あ、本当だ。暑くない」
次々と感想を口にする兵士たちにリオンも唖然として見遣り、私を見た。
「これで、暑さによるデメリットは減ったわけだ。後は兵士たちの腕次第だよ。」
「お前…、前もって説明してからやってやれ…」
疲弊した顔で言われてファンダリア兵士を見ると、一様に大きく頷かれた。
頭を掻きながら謝っておくと、セインガルド兵士たちからもやって欲しいと群がられてしまったので、一人一人に撃ち込んでやる。
「モネ、大丈夫ですか?晶術使いすぎでは?」
「まぁ、これくらいならまだまだ大丈夫だろう。」
「無理はするな」
「分かってるよ、レディ?」
「お前…ここで沈んでおくか…?バジリスク共が群がって石化させてくれるだろうな。」
「ごめんごめん!」
笑いながら謝ると、仕方ないと笑いながら溜め息を吐かれた。
リオンもやっとく?と銃を構えると彼に迷いが見え、遠慮なくその額へと銃口を突きつけた後トリガーを引いた。
僅かに後退した後、凄まじい勢いで睨みつけられた。
恐らくあれは“やるなら事前に言ってからにしろ”だ。
「やるなら事前に言ってからにしろ!!!」
「ほらね。」
「何がほらね、だ!!分かっているならやるな!」
怒られてしまったが、可愛いので良しとしよう。
和んでしまっていたが、次の瞬間兵士の悲鳴により強制的に意識はそちらに向かう。
もう出たのか、バジリスク軍団は。
「総員、迎え撃とう!チーム毎に別れ、各個撃破。絶対にチーム内で分裂しないように!」
「「「「はっ!」」」」
リオンの方も指示を出しているのが窺える。
さて、リオンより先に倒してしまいますかね。
「っ(サイクロン!)」
無言で魔法を使うと狙った場所へ大嵐が先陣を切る。空中に飛ばされた無惨な魔物達を狙い撃ち落としていくと地面までの所でレンズへと変わっていき嵐の後は何も残らない。
それに満足して笑うと、後ろから鼻で笑われた。
「満足するのが早いぞ。まだまだ魔物は多い」
「分かってるって。」
駆け出す彼の後ろ姿を見て一度自国の兵士達を見遣ると、上手く連携が行っているようで問題は無さそうだ。
全体的に見ながら適度に回復をかけて行かないと危なそうだ。
「おい!!ボーッとしてないで、手伝え!」
「モネ!坊ちゃんが手伝って欲しいそうです!!」
「僕はそんなこと言ってない!!」
ケンカが始まる向こう側に苦笑しながら駆け寄る。
相変わらず2人は仲が良い。
彼の援護に回るように攻撃すると漸く彼の口からお小言が消える。
互いに兵士達に気を配らないといけない分、足りない分は補う。
「っディスペル!」
範囲状態異常回復技、ディスペル。
石化や麻痺を見逃さず回復させなければ形成は一気に逆転されるだろう。
「ありがとうございます!モネ様!」
「モネが詠唱を唱えるなんて珍しいですね。」
「緊急時は声に出してしまうものさ。」
「モネ、集中しろ!!」
なんだかんだ初めて呼ばれた名前はアッサリしていたが、まぁ、呼ばれただけマシか。
辺りの敵を一掃し、すぐに次の敵へ。
暑さがない分は、やはりやりやすいのか着々と魔物の一斉掃除が終わっていく。
「ディスペルキュア」
「ありがとうございます!」
そちらに気を取られ背後にいる敵に一歩反応遅れるとリオンがすぐさま反応して剣を閃かせる。
「ありがとう、リオン!」
「ふん。貸し一つだ。」
「分かったよ。今度なにか奢るよ。」
「忘れるなよ?」
ほくそ笑みながら敵に向かうリオンに肩を竦め、自分も敵に向かう。
なんだかんだ彼といい連携が取れている気がした。
それがとても嬉しい。
あの手この手で敵を倒した私達は自然とハイタッチを交わしていた。
「相変わらず変な戦い方をするな、お前は。援護するこちらの身にもなって欲しいものだ。」
「そんなこと言うけど、いつも完璧なタイミングだったじゃないか。」
「ふん、当然だ。大体、一度お前に負けただけだ。戦略を知っていればお前など一捻りなんだぞ。」
「本当かなあ?私も負ける気はしないけどね?」
「…やってみるか?」
「ははっ、私が勝つと思うけど凹まないでくれよ?」
「言ってろ。その吠え面、泣き面に変えてやる。」
「2人共…元気ですね…、魔物討伐の後なのに…」
周りの兵士がやってきて、どちらが勝つか賭けを行っていたのを見て負ける訳にはいかない。
自身の得物の調子を確かめ、構えると向こうも準備は整っているようで律儀にも腕組みをして待っていた。
「ふん。やるぞ」
「私と勝負した事、後悔するんだね!」
先手必勝。
いつぞやの合同演習の時と一緒で、彼に剣で勝てる訳がない。
ならば先手を撃たせてもらおう。
彼の得意属性は地属性、闇属性。
ならば、風属性、光属性で迎え撃つのみ!
「…(ホーリーランス!!)」
「ふっ(やはり弱点をついてくるか……)」
魔法の挙動が無いにも関わらず軽々と避けられ、僅かに目を見張るがすぐに笑顔になる。
そうでなくては!
すぐに距離を詰めた彼から離れようとするが、彼の得意とする剣術での撃ち合いになり、確実にこちらの不利。
しかし笑顔を絶やさない私に、彼が舌打ちをする。
その瞬間風属性魔法を打ち込む。
「クロスブレイド!!」
「っ!!」
珍しく詠唱した私に対し、咄嗟にその場から大きく後退した彼は次の瞬間、しまったと顔を歪ませた。
銃口の位置良し。
狙うは身体!!!
パァン!!
形容し難い音が鳴り響く。
早い軌道のそれをなんとか避けられ、次々と容赦無く撃ち込んでいく。
「どうしたんだい?逃げるだけかな!?」
「チッ。ほざけっ!今にお前を斬ってくれるわ!!」
外野がとても盛り上がっているこの試合だが、一つ忘れていたことがある。
私の魔法はもちろん効果時間というものがある。
最初に暑くならないように、とかけてやった魔法が切れそうなことをすっかり忘れていた。
それなのにこんな暑い中砂漠地帯で撃ち合いをしていたら…。
バタ
私もだが例に漏れずファンダリア兵士達が倒れていく。
急なそれにリオンもセインガルド兵士も驚き、近寄る。
「お、おい?!どうした?!」
「…暑い………」
「はあ?」
「もうだめ…、先に帰る……」
折角の撃ち合いだが、これはとてもじゃないが暑くてやってられない。
匍匐前進よろしく、腕の力だけで先に進もうとしたがもう無理だ。
動かなくなった私を見て溜め息をついたあと、リオンが担ぎあげる。
「ぐぇ」
「これくらい我慢しろ。というよりお前、ちゃんと食べてるのか?僕も人の事は言えないが、男でこの体重は無いぞ。」
「……」
「物言わぬ屍になったか…」
「勝手に…殺すな……」
「なんだ、生きていたか。」
悠々と歩いていく彼に感謝しつつ、この暑さにやられ目の前がぼやける。
「リオン、ごめん。ちょ、もう…無理」
「はぁ…。寝てろ」
溜め息を吐かれ、船へと乗せられ船室の一室に寝かせられた。行き先が違う船なのにそのまま乗ってくれている彼に感謝する。
「リオン、もう、いいよ?……悪いよ」
「黙って水でも飲んでいろ。脱水だぞ、お前。」
「砂漠地帯は怖い……、もう行かないと今決めた」
「どの口がほざいてる?」
「この口」
投げ渡された水をなんとか飲みながら、悪態をついてみると思ったより元気そうだな、と安堵の顔を見せてくれた。
「続きは今度やろうか。」
「あのままじゃ、勝敗がつかないからな。」
お互いの口から次の約束を取り付ける。
恐らくだがリオンも嬉しいのだろう。口角が僅かに上がっているし、優しい顔つきをしている。
「次はファンダリアでやろうよ。」
「馬鹿言え。それではお前に有利だろう?」
「リオンは自分が負けると思ってるんだ?」
「くっ…!!」
一枚こちらが上手だった様で暫く黙り込んだのだが、しかしニヤリと笑われ嫌な予感がする。
「ファンダリアでやってもいいが、次はカルバレイスでやらないとな?あそこでの勝敗はまだついていないぞ?」
「げ…。あそこは勘弁してほしいな…」
「お前が負けるからな。」
「ぅぐ…。卑怯者め…」
「先に言い出したのはお前の方だぞ。」
「ぐ…、何も言い返せない…!」
やはり口では彼の方が何枚も上手のようだ。
ここは公平にセインガルドでしようと、話をつけた。
ずっと思い描いていた机上の空論。
この世界に転生出来て、それが現実となって。
こうしてリオンとも友達になれて。
一緒に任務に出かけたり、一緒に稽古をしたり、合同演習では共に真剣にやり合ったり…。
私からは何も言うことはない。
束の間の幸せな時間だった。
だからこそ…
友達になれたからこそ……
君を助けたかったんだ。
こんな友で…ごめんね、リオン。