第一章・第1幕【18年後の世界~未来から戻ってきた後の現代まで】
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シャルティエを手に、夕刻のハイデルベルグを駆けて行く。
もう既に夕刻で、シャルティエの話では昼頃から彼らは魔物を探しに出掛けたとの事だったから急がないと彼らが危ないかもしれない。
『坊ちゃん達大丈夫でしょうか?!』
「正直、分からない!…私の探知では全員分の反応が動いているから負傷者は居ないと信じたいけどね…!!」
駆けて行っているので必然的に声が大きくなるのは許して欲しい。
街の外へと出て真っ直ぐに彼らの居る場所へと向かう。
前世の記憶ではそこは雪が深く、あまり人の立ち入らない場所であったはず。
どうしてそんな所に彼らが向かったのかは定かではないけど、早い所行くに越したことはない。
「シャルティエ、もう少しスピードを上げるよ!!」
『はい!!』
雪国での走行は得意中の得意だ。前世であれだけ走ったのだからね。埋もれる前に次の足を出すのがコツだ。
耳に届くサクサクという新雪を踏む音が心地好い。
シャルティエも前世の記憶を辿っているのか、たまに話しかけてくるくらいで他は静かなものだった。
『!!…坊ちゃん!!』
「!?」
「ふふっ、お待たせ。君の相棒だよ?」
ジューダスがシャルティエの声に反応し目を見張り、シャルティエを遠慮なく投げた私にも目を見張っていた。
それはシャルティエも同じで、投げられた事を酷く怒っているようだった。
『ちょ、スノウ!!?大切に扱ってくださいよ!!…じゃなかった、僕を使うんじゃないんですかぁぁ!!?』
「ふふっ、遠慮しておくよ!!」
銃杖を構え、杖の下端部から虹色の円陣を出現させ無数のレーザーを打ち出すスノウに漸くカイル達が気付いて笑顔を零した。
「「「スノウ!!」」」
「ふふっ、少々景色を変えますよ?」
“考古学者のスノウ”としての少し高めの声を出し、皆に伝える。
銃杖を構え今度は魔法を行使する。
「雪を溶かし、景色を変えよ。イラプション!!」
複数の噴火口の様なものが現れ辺りの雪を溶かしていくと、みるみるうちにスノウの言った通り景色が変わっていく。
雪の所為で動けなかった足場も動けるようになり、みるみる仲間の動きが良くなっていく。
「ディスペルキュア」
範囲回復技でもあり、状態異常回復技でもある〈ディスペルキュア〉を放ち、味方の回復に専念する。
その間にもジューダスとシャルティエは感動の再会を果たしているようで、声がここまで聞こえてきてとても微笑ましい。
まぁ、シャルティエの独り言の方が大きいが…。
『坊ちゃん!!ごめんなさぁぁぁぁい!!』
「五月蝿い!!」
『ぎゃああああああ!!!』
相変わらず照れ隠しなのか、それとも本当に煩わしかったのか、制裁を加えている彼を笑いながら横目でそれを見遣る。
戦況はまぁまぁ良好そうだ。
だが、相対している敵はハイデルベルグを襲っていた魔物ほど大きくは無いもののそこそこ大きい。
高さ的に人の3倍、4倍近くだろうか?
ハイデルベルグを襲おうとしたやつはそれより大きかったからね。
「来たれ数多の英知、大地を辿り具現せよ!エイトセレスティアル!」
8つの光が四方八方へと地面を伝い、拡がり攻撃していく魔法。
敵へと向かっていく光を見ながら次の詠唱へと入る。
「バーンストライク」
火炎弾が空中より現れ敵を攻撃していく。
立て続けに複数回攻撃魔法を使った効果もあり、徐々に追い詰められる魔物に前線組が畳み掛けていくのが見える。
途中叱咤の声が聞こえた気がしたが、笑い飛ばしておいた。
「よし、ロニ!!スノウが頑張ってくれたからオレ達も行くぞ!!」
「ジューダス!お前も来いよ?!」
「分かっている!!スノウ、無理をするな、馬鹿!!」
「ふふっ。おやおや怒られてしまいましたね。では大人しくしておきます。後は皆さんにお任せしますよ?」
「私も頑張るからスノウは休んでて!病み上がりなんだもん!」
「ありがとうございます。休ませて頂きますね。」
敵の咆哮が徐々に大きくなっていく。
これなら皆に任せても良さそうだ。
銃杖を構えはしないが、一応手に持ちながら皆の勇姿をしかと見る。
元々大分弱っていたが、私がそこに拍車をかけたことにより敵も堪らなかったのだろう、その巨体を畝らせては難を逃れようとしていた。
終いには彼らから逃げようとする魔物に杖を少しだけ構え、援護する。
「彼の者を縛り、痛みを与えよ。アイヴィーラッシュ。」
荊が敵を拘束し、その動きを止めた。
すると皆が私の魔法だと気付いたのかこちらを向き礼を伝えてきたので、笑って手を振っておいた。
ジューダスの背中に仕舞われたシャルティエは相変わらず何か文句を言っているが涼しい顔で聞き流しておく。
あぁ、彼らも強くなった。私も強くなった。
そう思えるほど今の敵は最適な魔物であったと思う。
腕試しとまではいかないけど、どれくらいの実力かを推し量るには調度良い。
敵の最期の雄叫びを聞きながら、私は皆の喜ぶ顔を脳に焼付けるようにじっと見ていた。
そして目を伏せ、一瞬目を閉じた……だけだったのに、いつの間にか私は彼らに囲まれていて、体の具合だったり、お褒めの言葉を貰ったり…一気に賑やかになったことで、「あぁ、生きてる」と生を実感出来た。
目を細めそれを見ていると肩を組まれたり、抱き着かれたりと本当、困るくらいに賑やかになるものだから思わず笑顔になってしまったでは無いか。
「ふふっ」
「!!」
『スノウ、元気になって良かったですね、坊ちゃん。』
「あぁ…、本当に良かった。生きててくれて…本当に良かった」
賑やかなそれを見ながらジューダスが泣きそうな声でそう呟き、シャルティエもそれを聞いて泣きそうになった。
説得した甲斐があったな、とシャルティエがしみじみ思っているとスノウの視線が忙しなく動き始めたのが分かり、ジューダスとシャルティエも警戒を強めた。
カイル達はそれに気付いていない様子で未だにお祭り騒ぎだ。
「(この殺気……どこから…?)」
『…スノウ、また何かを感じているのでしょうか?』
「恐らくな…。シャルの探知では分からないか?」
『先程から試していますが、全く……。』
スノウが一点に集中にし始め、漸くカイル達もスノウのその様子に気付き、辺りを警戒する。
「……」
「スノウ、何が見えてるの?」
「……いや、気の所為ですね。ごめんなさい、紛らわしくて。」
「それよりよぉ!声が戻ったんだな!!起死回生っていうか、本当、良がっだなぁ!!!」
ロニが目を腕で覆い泣きそう…いや、泣いている。
それにリアラも貰い泣きしたのか泣きながらうんうんと頷いている。
カイルも嬉しそうに両手を握ってくれ、それにスノウは応えるように笑顔を向けた。
「皆さんのお陰です。皆さんの声援が無かったら、きっと諦めていたかもしれません…。本当にありがとうございます。」
「礼なんて良いって!!ぐすっ、お前さんが頑張ったんだろぉ!!!」
「そうだよ!!あの時頑張ったのはスノウの根性だよ!!」
「本当に良かったわ!!目も覚めて…!」
「皆さん…」
「よし!戻って祝杯をあげるぞ!!祭りだ祭り!!」
事情を知ってスノウの稽古に付き合ってくれていた事もあってか、一番ロニが喜んでいた。
こういう時いつもカイルの発言に呆れるか、乗るかだけなのに、こういうのも悪くないと思えてしまうのは……素敵なことだと感じる。
少しだけシャルティエの言葉が効いているのかもしれない。
「ふふっ、飲めるのはロニだけですよ?」
「それでもいいんだよ!!いぐぞーーー!!ぐすっ!」
鼻水を垂らしながら歩いていく姿にリアラとカイルも苦笑し、追いかけていく。
先程の殺気を放たれていた場所を一度見遣ってから皆の後をついていこうとすると後ろから腕を引かれる。
それに視線を合わせると泣きそうなジューダスの姿が見え、思わず苦笑してしまう。
「……どうしたんだい?そんな顔をして。」
「…生きてて、良かった…。」
「……。」
「もう駄目だと思った…。あの時、首を刎ねる絞首台にいるお前を見ているようで…、怖かったんだ。」
「…あの時、君が叫んでくれていたの、聞こえていたよ。…もうどうしようも無い、そう思ったんだ。だから、あの時無意識にごめんって口を動かしていた…。」
「聞こえた…。諦めてるんだって分かったから……、喉に当てられていたナイフで喉を切られてでもお前を助けに行こうと思った。だけど…お前があの大斧を指で押えているのが分かって…思わず体が止まったんだ。」
やはり君は、私にそこまでしてくれるのか。
それを聞いて少し怖くなりながらも苦笑いで続きを促す。
「お前を失うのが怖い…、お前が居なくなるのが……耐えられないんだ。僕の隣に居たはずなのに……いつの間にか居なくなっているお前が…、憎くて、怖くて仕方ないんだ。」
「…私が憎いのかい?」
「…あぁ、憎い……。すぐに居なくなるお前がな…。」
「それは困ったね?」
「……全然困ってないように聞こえるが?」
睨むように私を見る彼に肩を竦める。
これでも君の身を案じているのだけどね?
『ここに来るまでの所でスノウに坊ちゃんの死ぬ間際の話をしたんです。』
「……そうか。なら分かるだろう?僕より先に死ぬな。」
「ふふっ、難しい注文だね。君よりは死に近いと思っているんだけど?」
「訳を話してくれ。お前が何をしようとしているのか、何に狙われてるのかを…。」
「……そうだね、取り敢えずは彼らを追おう。街に戻ってから…少しだけ話そうか。」
「今の言葉、忘れるなよ?」
眉間に皺を寄せながら横を通り過ぎていく彼を見遣る。真剣で、懇願の瞳……。
一度大きく息を吐いた私は、今はもう何も感じないその場所をもう一度だけ見てから彼を追いかけるのであった。